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ハーレム100 作者:松宮星

エスエフ界

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リーズのひとりごと

 オレとアナベラの気楽な二人旅は、都まであと一日ってとこで終わった。

「一生のおねがい。ビキニちゃん、盗賊ちゃん」

 勇者仲間が、宿を訪ねて来たんだ。
 狩人のカトリーヌ。黄金弓ってな伝説級のお宝を持ってる、レズのねーちゃんだ。
 宿をよくつきとめられたもんだって感心したけど、すぐに気づいた。目と耳と並の頭がありゃ簡単なこった。
 オレは、ちょー目立つ連れと一緒だ。ほぼ素っ裸なアナベラは、何処でも注目の的。絡んでくる野郎どもをぶちのめしても来てる。
 噂を追ってくりゃ、どこの街に居るか当たりがつきやすい。行き先が都だってわかってるから、帰途コースもしぼりこみやすいしな。

「なぁに、なんでも言って?」
 人のいい相棒は、物事を深く考えられない。会いに来てくれてうれしーとか本気で言ってる……バカめ。
 親しくもねえこの女が、こっそり宿までやって来たんだ。どうせ、ろくでもない話だ。

「実はね……私、セリアさんを怒らせてしまった……と思うの」
「寝込みでも襲った?」と、オレ。
 狩人のねーちゃんは、ニッと笑った。
「残念ながら、そんな色っぽい話じゃないの。セリアさんに頼まれた仕事をやむをえない事情で果たせなくなってね……セリアさんの再従弟(またいとこ)の馬鹿貴族を代役にしといたから、問題は起きてないはずだけど……セリアさん、怒ってると思うのよね」
「仕事すっぽかしたんなら、怒ってんじゃねーの? あのおねーちゃん、クソ真面目だから」
 そうなのよねえと、狩人のねーちゃんがため息をつき、横目でオレらを見つめる。
 ンな流し目したって、無駄だっての。スケコマシの手口ぐらい知ってるよ。
 アナベラにやっても通じないぜ。頭ん中ガキだもん、性的なアプローチなんか理解できねーよ。

「とりなしてほしいの?」
 オレがそう聞くと、狩人のねーちゃんは大げさに肩をすくめた。
「そうじゃないのよ。仕事をさぼった分の埋め合わせは、他できちんとしようと思ったのよ。でも、ちょっと問題があってね……」

「あのさ、まわりくどい言い方やめてくれる? 単刀直入で頼むよ。難しすぎると、ついてけなくなるから」
 オレと狩人のねーちゃんが、チラッとアナベラを見る。アナベラは、いつものニコニコ顔だ。

「私……仲間探しをしてたのよ。勇者様の仲間にぴったりな、かわいくて強い子いないかなーって」
「また、女漁りしてたのかよ」
「スカウトと言って」
「ただのナンパだろ? あんた、顔かスタイルさえ良きゃ何でもOKだもん。戦闘力ゼロのケーキ屋とか踊り子とかひっかけても、どーにもならねーのに」

「出逢いの幅を広げていただけよ。同好の士の情報交換(ネットワーク)を強力にしたおかげで、彼女に出逢えたのよ」
 強い口調で、ねーちゃんが言う。
「凄い子なのよ。間違いなく、魔王に大ダメージを与えられるわ。しかも、勇者様好みのかわいい子。ボンキュッボンってほどじゃないけど、鳩胸でスタイルもいいわ。絶対、キュンキュンものよ」

「それはいいねー」と、バカは素直に信じる。
「へー」ぐらいで聞き流しゃいいのに。どうせレズ女のたわごとだ。

「なら、そいつをオランジュ邸に連れてきゃいいんじゃねえ? 本当の本当にそいつが拾い者なら、学者のおねーちゃんもあんたを許してくれるだろ?」

「ところが、そうもいかないのよ。彼女、素性に問題があって……」
 ん?
「北の荒れ地の村出身……そう言えば、わかってくれるかしら?」
「ああ……」
 オレは顔をしかめた。

 魔王の誕生と共に、北の荒れ地に魔王城が出現する。
 魔王が百日の眠りに入る城だ。
 歴代魔王の城はぜんぶ同じ位置に同じ形で現れてきたそうで、魔王城が立つ場所は『呪われた北』と呼ばれている。
 聖職者達がどんなに土地を清めようが、上に建築物を建てようが、何しようが、その場に魔王城が出現してしまう。
『呪われた北』は、王国の住人にしてみりゃ世界の果てだ。監視の為の城塞が近くにあるけど、基本、王国の者は『呪われた北』にゃ近づかない。

『呪われた北』から先はモンスターや野獣が跋扈する、神の恩恵が届かぬ地とされている。

 けど、実は人が住んでいる。
 村もある。

 昔っから北は、土地を捨てた農民、犯罪者、異端者、政治犯の逃げ場なんだ。
『呪われた北』に逃げ込んだら死んだものと見なされるから。

 しかし、モンスターは山ほどいるわ、土地は貧しいわで、生活はかなり過酷なものらしい。

 北から逃げて南へ戻れば、犯罪者や逃散者は再び追われる身となる。
 追っ手がいねー奴も、こっちじゃろくな人生を歩めない。戸籍がないからだ。まっとうな仕事につけず、日雇労働者となるか、モンスターを御す知識を生かして獣使い屋の下働きとなるか、奴隷として自分を売るか、闇世界に入るか……そんぐらいしか生きてく道はない。
 オヤジの手下にも、『呪われた北』出身の奴が多い。オレのメンドウをみてくれたサボエのばーちゃん、ばーちゃんも北の出だった。

「彼女は北の村生まれの北育ち、シャーマン戦士なの。双子のお姉さんが消えちゃったから、村を出て来たんですって」
「姉貴を追って南に来たの?」
「だと思うわ、お姉さんはシャーマン兼呪術医。シャーマンとしての能力はお姉さんの方が上みたい。二人揃って仲間にできたら最高だと思うんだけど……」
 狩人のねーちゃんがため息をつく。
「彼女、オランジュ邸に行くのは嫌だって。拘束されるんじゃないかって怯えてるの」
「北出身の奴を、問答無用でしょっぴく役人もいる。王国のお偉いさんは信用しろってのが無理なんじゃね?」
「アンヌ様はそんな事はなさらないわ」
 妙にはっきりと、狩人のねーちゃんがバアさんをかばう。
「でも、お立場上、北出身の者を見過ごせないかもね。大っぴらにあの子をオランジュ邸に連れてくのは得策じゃないと思うの……だけど、お姉さんを取り戻せるのなら何でもするって言ってるし……早いところ、セリアさんにお姉さんの捜索をお願いしたいのよ」

 話がみえてきた。
「オレたちになにさせたいわけ? 学者のおねーちゃんを、屋敷から連れ出せってか?」

「それが理想ね」
 狩人のねーちゃんが頷く。
「会えば、絶対納得してもらえるわ。彼女、超優秀よ。攻撃力は凄まじいし、呪術も強力。仲間にすべき人よ」
 言い切りやがったな、この女。

「でも、」
 物憂げに狩人がため息をつく。
「何故だか、私、セリアさんから信用されてなくって」
 何故だかもねーだろ。仲間集めのための金をデート代に使いこんで、戦闘力ゼロの女たちとよろしくやってたんだから。
「しかも、今、ご機嫌を損ねてるでしょ。会いに行ってもまともに話を聞いてもらえないと思うの。だから……」

「やだよ、オレ。自分のケツは自分で拭けよ」と、オレが言うのと、
「いいよー」と、アナベラが答えるのはほぼ同時だった。

「ただし、先にその子に会わせてー」
 えへへとアナベラが笑う。
「戦士の目は、相手がどれぐらい強いのかわかるもん。ほんとーにすごい人だったら、協力するよー」
「ありがとー ビキニちゃん!」
 狩人のねーちゃんが、アナベラの両手を握る。

 戦士の目つーか、アナベラの目は、だ。
 アナベラはバカのせいか、人間離れしたところがある。
 遠くにいるオレの気配を追ってこられるし、見ただけで相手の力量を見極められる。
 バカのアナベラには、並のオツムがない。普通の人間が考えて理解することを、直感的に理解する。足りねえ能力を、第六感的で補ってるわけだ。
 アナベラが強いっていう奴は、ほんとーに強い。
 それはわかってる。
 それに……
「いいよね、リーズ? ほんとーに強い子なら、勇者さまに会わせなきゃだもん」
 バカは強情だ。こうと決めたら、梃子でも動かない。

 めんどくせーけど、相棒にゃ逆らえない。
 魔王戦の後、オレの本当の相棒になってもらう予定だし、妥協できるとこは妥協しなきゃなあ。


 翌日、都の宿屋でシャーマンのねーちゃんと会った。
「はじめまして、ニノンです」
 黒髪、黒目。地味だけど、美人なんじゃねーの? って顔だった。北のシャーマンって聞いたからイカレた格好してるのかと思ったけど、わりと普通。傭兵風の衣装で剣を差していた。
「ヴェラねえさんを取り戻す為なら……私、何でもします。どうか……お願いします」

「ん〜 よくわかんない。けど、わりと強い。リーズよりは強いね、この子」
 アナベラは無自覚に、ひどいことを言った。
……いいんだよ、攻撃力が低くても。オレ、盗賊だから。


 メガネのおねーちゃんを呼び出しに、オレだけオランジュ伯邸に向かった。
 東の遺跡群で手に入れたお宝もアナベラも、北のねーちゃんの宿屋に置いて来た。レズのねーちゃんも宿屋だ。

 メガネのおねーちゃんは、いつも、ねーちゃん用の部屋か勇者の部屋に居る。
 しかめっつらで、書きものをしてるんだ。

 オレは貴族が嫌いだし、あの女は下々の者が嫌いだ。まったく合わねえ。

 けど、つきあってみりゃ、いいところはある。
 あのおねーちゃんは合理主義だ。
 好き嫌いで物事を決めない。
 魔王戦勝利の為なら、自分を曲げる。

 学者のおねーちゃんはオレの『盗掘の旅』を不快に思い、『遺跡探索の旅』とか言ってゴマかしてるが……
 そのわりにゃ、しっかりサポートしてくれる。
 何かあった時の用心だって、申請額より多く金をくれる。
 二度目の西、三度目の東に向かう前にゃ、資料もくれた。次に何処に盗掘に行くとは伝えといたけど、行き先&遺跡情報をまとめといてくれるたぁ思わなかった。しかも、メガネのおねーちゃんは、宗教考古学者だ。大昔のことに、やたら詳しい。情報屋が知らねーこと知ってたりする。『神の罰』として用意される遺跡のトラップのパターン情報とか、すげぇ役に立った。

 オレもアナベラも、魔王戦の戦力だ。
 だから、メガネのおねーちゃんは、オレらが旅先で困らねーよう援助を怠らないんだ。
 損得勘定(ビジネスライク)な付き合いに徹する事ができるあたり、オレはメガネのおねーちゃんに好感を持っていた。

 だが……このまえ、更に見直した。
 どっかの世界で、勇者は戦えねー女を十三人も仲間にしたらしい。百人中十三人も戦闘に不参加となりゃ、総ダメージ1億はかなり厳しくなる。どうするかって、みんなで知恵をしぼることになったわけだ。
 メガネのおねーちゃんは勇者に謝りまくってた。スカの世界に勇者を行かせたのは自分だ、申し訳ない……と悲壮な雰囲気だった。死んでわびをすると言いだしそうだった。
 それを、勇者は簡単に許した。てか、最初から怒ってなかったし、メガネのおねーちゃんが悪いとも思ってねーみたいだった。育ちのいいおひとよしとは思ってたけど、勇者はオレの想像以上のバカだった。バカもあそこまでいきゃ立派だ。
 メガネのおねーちゃんは、最後までオレらの前じゃ泣かなかった。居心地悪いだろうに、今後どうすれば良いかの話し合いが終わるまで『学者』としての顔をつくり意見を述べていた。

 しくじったんなら、発奮して失敗した分を取り返しゃいい。
 そんだけのことだ。
 けど、それができる女はあんまいねえ。
 女はすぐに逃げる。
 涙は女の武器だとか言う奴、バカじゃねーのと思う。泣いてごまかせるんならそれもアリだけどさ、泣いたところで事態が良くなんねーのにピーピー泣いてるだけの女は多い。
 あたしはこんなにかわいそうなの、同情して、後は誰かどーにかしてって……自分の尻ぬぐいを、他人に丸投げしてるだけじゃん。ンな甘ったれ、死ねと思う。てめえだけをかわいがる奴なんざ、オレは絶対信頼しない。

 プライドが高くて嫌な女だけど、『仲間』としてメガネのおねーちゃんは信用できる。

 北出身の女でも、きちんと会いに行くはずだ。
 勇者の為に。


 そんなわけで、オレはオランジュ邸にこっそりと忍び込んだ。
 メガネのおねーちゃんはもう天界から帰ってるはずだと、狩人のねーちゃんは言ってた。

 けど、メガネのおねーちゃんの部屋にゃ誰もいねーし、他の部屋も食堂も空だった。

 んでもって、屋根裏から見たら、勇者の部屋にゃ知らねー男が居た。

 アンヌばあさんには会いたくねえし、その召使い達にも余計な話はしたくない。

 ちょいと考えてから、オレは廊下に回り扉から勇者の部屋に入った。
 普通に旅から帰って来て偶然あんたに会ったんだよって、男に印象づけるために。

「あんた、だれ?」

 男はテーブルに紙の束を積み上げ、何かを書いていた。テーブルの上にゃ、クマのぬいぐるみが四つものっかってる。ニーナのか? 見覚えのあるピンクのクマがいる。
 男が顔をあげる。
 レースビラビラのシャツに、やたらと凝った刺繍付き上着。上衣も内着もズボンも上絹だ。
 衣装同様、他のところにも金をかけている。手入れがめんどうそうな金の巻き毛、肌のツヤや張りがよく見える化粧、眉の形ばかりかまつ毛までもが無駄にキレイに整えられている。
 どこからどー見ても、貴族。
 しかも、そうとう裕福。

 大きらいな人間だ。

「君は……リーズさんだね?」

『さん』?
 お貴族様が庶民を呼び捨てにしない時は、裏がある。
 庶民(バカ)をおだてたい時、油断させたい時、庶民の味方を装う時。
 なんにせよ、自分のためだ。自分を良く見せようって腹で、見下している相手を持ち上げるんだ。

「……アナベラさんは一緒ではないのかな?」
 オレの背後を見ながら、男が少し残念そうに言う。
 アナベラを知ってるのか? てことは、やっぱ、こいつ……
「あんた、だれ?」
 オレは同じ質問を繰り返した。

 金髪貴族が笑みを浮かべる。
 余裕たっぷりの態度で、意味(しん)な目つきで、歯を見せず品良く笑う。
 お大尽風スケこましの笑いだ。バカなねーちゃんなら、一発でモノにできそうだ。鏡を見て研究してるんだろーな。

 庶民相手だってのに、お貴族様はわざわざ席を立って挨拶をした。
「はじめまして。いと気高きお嬢さん。ジョゼフィーヌ様の婚約者、セリアの再従弟(またいとこ)、ポワエルデュー侯爵家嫡男、シャルルだ」

 うひ!
 鳥肌立った!
 なにが『いと気高きお嬢さん』だよ。
 バッカじゃねーの?
 こいつが、あのシャルルか……噂だけは聞いてたが、会うのは初めてだ。

 オレは室内を見渡した。
 ニーナのぬいぐるみはあるが、ニーナもメガネのおねーちゃんもいない。
 居るのは、このキモ男だけだ。

「にーちゃん、あんた以外の奴、だれかいない?」
 お貴族様は、フッとわざとらしく笑う。悲しみをこらえて微笑む、ってな感じで。スケコマシの媚態のバリエーションだ。
「明けゆく夜空の月のように、つれない方だ。初めて出逢ったというのに、名前すら教えてくれないのか……」
「あんた、オレがリーズだって知ってんじゃん。名乗る必要ないんじゃねーの?」
「確かに」
 お貴族様がハハハと笑う。
「大人びた目を持つ、孤高の少女か……セリアの日記から想像した通りの方のようだ」
 メガネのおねーちゃんの日記じゃ、ろくなこと書いてなかったろ。
「で、だれかいるの? 今、勇者の仲間はさ」

「現在、ジャン君は賢者様と共にエスエフ界だ。伴った仲間は、ジョゼフィーヌ様、ニーナ様、サラさん、ルネさん。セリアは賢者の館、マリー様は聖修道院、パメラさんは獣使い屋の師匠と共に旅行中、イザベルさんとカトリーヌさんは行方不明だ」

「へ? じゃ、だれもいないの? てか、行方不明? 占い女まで? なんかドジふんだわけ?」

「いいや。ただ行方が知れないだけだ。カトリーヌさんの姿は、都で何度か目撃されている。しかし、尾行をまくのがたいへんお上手で、現在の宿泊先は不明だ」
 レズのねーちゃんは、いいんだ、別に。けど……
「……占い女はどーしたんだよ?」
「旅行に行くと連絡はあったものの、都を出た形跡がない。そして、占いの館は無人だ」
「でも、それは」
「ああ。イザベルさんは精霊支配者だ。精霊に移動魔法を使わせたのならば、人間では追えない。今、何処で何をなさっているのかすらわからないのだ」

「あんたが雇った諜報員が無能なだけじゃねーの?」
「手厳しい」
 お貴族様が、又、ハハハと笑う。
「まあ、君ならば、連絡のとりようもあるのだろうけれどもね。お父上の力をお借りすれば……」
「………」

 オレがギデオンの娘だってのは、バラしてある。
 裏社会じゃ、大盗賊のオヤジはけっこうな顔だ。
 オヤジのツテを使えば、あっちの情報網やら、呪術とか非合法な捜索術を利用できたりする。

 けど、まあ……
 必要ねーだろう。
 あの女が居ないんなら、好きで姿を隠してるんだ。
 どっかで好き勝手やってやる事やって満足したら、帰って来る。そうに決まっている。放っておきゃいいんだ。

 心配するこたーない。

「さて……セリアが不在なので、再従弟の私が勇者一行の留守を預かっているのだが……」
 お貴族様が、しゃなりしゃなりって感じに歩いて来る。
 カマっぽ。キモいなあ。男なら、もっとシャキシャキ歩けよ……
「どこまで話してもらえるかな? 東国の遺跡群での成果やアナベラさんの事も伺いたいし、呪いの解呪が必要ならばマリー様と連絡をとらねばならない。しかし、今は……君から信頼を得るべきかな」
「信頼?」
 なに言ってやがる。

 お貴族様が目を細めて笑う。
「……カトリーヌさんのこと、話してもらえるかな?」

 ぎょっとした。
 なんで?
 バレてる?

 けど、動揺はみせない。ふつーの顔のまんま、お貴族様を見上げた。勇者より背が高いじゃん、こいつ。

「どーいう意味?」

「言葉通りだよ」
 金髪ヤサ男の笑みは、気障ったらしくて気持ち悪い。
「お美しい方が困っていらっしゃるのだ、男としてお助けしてさしあげねば」

「狩人のねーちゃん、行方不明なんだろ? 助けたきゃ、まず探しに行けよ」
「隠す必要は無い」
 お貴族様がフッと嫌みったらしく笑う。
「忘れたのかい? 私は無能な諜報員をいっぱい雇っているのだよ?」

 っくそ、知ってやがったのか。
 オレがさっきまで狩人のねーちゃんと一緒だったって。
 そのくせ、すっとぼけてやがって。
 やな奴……

「カトリーヌさんからの伝言があるのだろう? 承ろう」

「その前に聞きたい」
 オレはキモ男を睨みつけた。
「あんた、オレやオヤジのこと、どー思ってるわけ?」
「どうとは?」
「……あんたのまたいとこはさ、ささいな悪の芽でも見逃せば、巨大な悪を生み出す。犯罪者を見逃しちゃいけねえって信念を持ってたぜ……あんたは?」

「ああ、なるほど」
 お貴族様がクスリと笑う。
「安心したまえ。私はセリアほど、潔癖ではない。魔王が復活した今、窃盗罪程度でとやかく言う気は無い」
 んでもって、ふぁさっと髪をかきあげる。仕草が全部、気障ったらしい。
「侯爵家は犯罪者も配下に使っている。むろん、公にはしてないがね……。魔王討伐後も、君達が王家及びポワエルデュー侯爵家の名誉を傷つける行為に走らぬ限り、目をつむるよ」

「神にかけて誓える?」
「もちろん」

 オレはあらためてお貴族様を見た。
 キンキラの外見も偉そうな顔も、実に貴族っぽい。
 汚名を被るぐらいなら自分の胸に剣をつきたてるタイプだ。
 オレみたいな小娘相手でも、偽りの誓いはしないだろう。プライドが許さねーから。
 犯罪者を見逃すってんなら、北の女を拘束したりしねえな。

 オレは肩をすくめた。
「んじゃ、話す」

 オレは狩人のねーちゃんから聞いたことを、隠さず伝えた。

「ほう……北の荒れ地の村出身のシャーマン戦士ニノンさんか。ギルド未登録の優秀な人材とは……素晴らしい。是非、ジャン君の仲間に欲しいところだ」
 くるくる金髪の男は、『少し待っていてくれ』と書き物を始めた。
「なに書いてるの?」
「部下への命令書だ。シャーマン戦士の双子の姉君ヴェラさんの捜索をさせる」
「へー 親切だな。まだ仲間にするかどうかはっきりしてないのに」
「実力不足で仲間にできなくとも、構わんさ。お美しい方が困っていらっしゃると聞いては、男として放っておけない」
 ケッ!

「……ついでに、ニノンさんの身上調査もさせる。名乗った通りの者とも限らないからね」
 そーいうこと。
 馬鹿なスケコマシの振りして、けっこー抜け目ないわ。胸くそ悪い。

「さて」
 呼び鈴で呼び出したオランジュ家召使いに手紙を渡すと、お貴族様はオレへとお美しい笑みを向けてくださりやがった。
「セリアの代わりに、その女性と対面する。仲間にふさわしい人物であれば、仮の身分をさしあげよう。ポワエルデュー侯爵家の家人でいいかな?」
「いいんじゃない?」
「ならば、そうしよう」
 お貴族様がしゃなりしゃなりと歩きだす。
「リーズさん。案内を頼む。私は隣室で外出着に着替えて来る」
 そのまんまで帽子被って出りゃいいのに。着替えの無駄じゃん。洗濯係の苦労を考えろよ、搾取階級め。

「案内なんているの? 狩人のねーちゃんの居場所は知ってるんだろ?」

「いいや」
 お貴族様が朗らかな声で笑う。
「忘れたのかい? 私の部下は無能なんだ。カトリーヌさんが何処にいるかなど知っているわけないだろ?」

 は?

「け、けど、あんた、さっき……」
「先程は『隠す必要は無い。私は無能な諜報員をいっぱい雇っているのだ』と言っただけだ。そう聞いて君は、私がカトリーヌさんの居場所を知っているものと勘違いしたが、」
 クスリとヤサ男が笑う。
「間違いをあえて指摘しなかった」

「はめやがったな!」
 汚ねえ!
 バカの振りして!

「イザベルさんの失踪ばかりを気にするからだよ。君は、カトリーヌさんの行方に無関心すぎた。あれでは行方を知っていると言ってるも同然だ」

 少し待っていてくれたまえと手を振ったバカめがけて、ソファーのクッションを投げつけた。
 だが、野郎、届く前にきっちり扉を閉めやがった!


 魔王が目覚めるのは、三十五日後だ。


 むかつく! むかつく! むかつく!

 オレをコケにしやがって、あの貴族! いつか吠え面かかせてやる!
+注意+
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