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ハーレム100 作者:松宮星

エスエフ界

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改造人間の誘惑の巻 【ジリヤ】(※)

空想科学未来風恋愛章「エスエフ界」編!
 こんにちは、シャフィール。お元気ですか?

 送ってくださった映像、とても面白かったです。撮影がとてもお上手になりましたね。
 俯瞰視点は真上から撮影した映像に、若干ずれたアングルの映像を機械に演算させて付加すると、ぐっとバランスの良い映像となります。
 本来隠れて見えないはずの部分までいっぺんに見せることで、一度に得られる情報量が増えますし、なにより格好いいですもの!
 良い映像を撮るには、美を感じながら撮影する! それが一番です!

 私の一番上のおねえさまはとても頭が良いのですが、映像美への感性は最悪です。私のサイトを鼻で笑い『くだらない映像を撮ってる暇があったら有意義な研究でもなさい』と小言を言うのです。
 現在のテラでは、芸術的才能は評価してもらえません。つまらない世界です。 

 そうそう、私の家族の事でしたね。
 少し古いものですが、お送りします。
 中央の二人がおとうさまとおかあさま。
 おとうさまの専門は惑星改造。おかあさまは物理学。
 おとうさまの右隣がユーリアおねえさま、一番上のおねえさまです。専門はロボット工学。
 二番目のおねえさまは、タチアナおねえさま。おかあさまの左隣。専門は生物科学。
 三番目は、ジリヤおねえさま。ユーリアおねえさまのお隣。科学者ではありません。実験に協力する実験体です。
 それから、ラリサおねえさま。タチアナおねえさまのお隣。ラリサおねえさまも実験体です。
 私は、おかあさまの腕の中の赤ちゃんです。
 この映像は私の誕生を祝って家族が集まった時のものです。家族が一緒に映っている映像がなかなか見つからなくって……みんな、忙しいから。

 二十八年前の映像ですが、みんな変わっていません。不老処置が発達しているので、外見はずっと若いままなんです。
 ああ、もちろん私は大きくなっていますよ。もう赤ちゃんじゃありません。

 おとうさま以外、みんな同じ眼の色でしょ? おかあさまのご先祖様からの血の証です。
 医療班によると、虹彩異色症の先天性の遺伝子疾患なのだそうです。笑ってしまいますね。


               宇宙新世紀〇二八五年 ナターリヤ


* * * * * *


 誰かが泣いている……
 悲しそうに、シクシクと泣いている……

 姿が見たいのに、真っ黒で何も見えない……

 痛いと聞こえる……

 怖いと言っているような……

 ニーナなのだろうか?

 もう大丈夫だ、超能力ジャマーは止まった。
 みんなも側にいる。
 怖くないよと言った。

 言ったつもりだ。

 でも、泣き声はやまない。

 闇の中から泣き声が聞こえる。

 真っ暗な世界で、オレはニーナを探す。
 声を目指しているはずなのに、ちっとも声に近づけない。
 ニーナを呼びながら、オレは闇を彷徨った。





「マスター、おはようございまス、ゆっくリ、お休みになれましたカ?」
 寝ぼけ眼に、エメラルドグリーンのアンドロイドの顔が映る。瞼のない、仮面のような顔。メイドロイドのイヴだ。
「健康テストの結果ハ、本日一○時頃、出まス。その前ニ、お食事をすまセ、身だしなみヲ、整えましょウ」
 語尾がカタコトっぽいのは、オレがそう設定したからだ。メカっぽさが残ってた方がかわいいと思ったんだ。
 性格は、生真面目な優等生タイプにした。
 百八種類もあった性格の中には心惹かれるタイプもあった。
 ご主人様萌えタイプなんて、英雄世界のルナさんみたいだ。『瑠那、愛情をこめてご主人さまにご奉仕いたしますね』って言われた時にはキュンキュンキュンキュンきたもんな。あれは良かった……
 ツンデレにも若干、心が動いた。
 ロリロリ妹タイプなんてのもあった。
 けど……顔だちは可愛いし、ポニーテールな髪形も衣装も女の子っぽいけど、イヴには表情が無い。キャピキャピとかロリロリは似合わないと思う。
 しっかりもので優しい女の子。無表情なのは感情の表現の仕方が下手だからで、本当は感情が豊かなんだ……そんな風にイメージしてあれこれ設定した。

 オレはソファーから体を起こした。
 ジョゼとサラは『霊力ためる君』に話しかけ、お師匠様が見守っている。あいかわらずニーナから返事は無いようだ。
 ルネさんは、ラリサさんにドームの質問をしていた。元気だなあ、ルネさん。明け方近くまでイヴの設定につきあってくれたのに。徹夜だろうか? 今日もこちらの人間と同じ肌にフィットするスーツを着ている。

 昨晩は、皆、同じ『会話室』で休んだ。大きなテーブルやらゆったりしたソファーのある、団欒用の部屋だ。
 そこの壁面には窓のようなモニターがある。
 機械盤を操作すると、緑の森とか山とか湖やらの美しい景色や、海中や宇宙のような空間が映る。癒し目的のインテリアなのだそうだ。
 だが、その景色群の中に、灰色の荒野もあった。草木一本ない岩だけの世界だ。灰色の厚い雲が空を覆っており、光すら差してない。見ても、全然、癒されない。陰鬱な気分になるだけの景色だ。

 それが、現在のテラだと、エスパーのラリサさんは教えてくれた。

 三百年前に大きな戦争があって、その時使われた兵器のせいで、エスエフ界の母星は死の世界になった。だから、生き残った人間の多くはよその星や宇宙に浮かぶ機械都市(スペースコロニー)に住んでいる。

 だが、その死の星にバビロンはあるのだ。

 バビロンは、宇宙連邦という一番偉い組織から援助金を貰っている研究都市。
 メインの研究は、テラを生き返らせる研究。現在は、低予算で済む惑星再生をプラン中なのだそうだ。
 その他、惑星再生に繋がるいろんな研究をしている。

『ヤバイ研究もしたかったから、とうさん、汚染された母星に研究所を造ったんだ。ここなら、人権保護団体も気軽に来られないと思ったらしい』と、ラリサさんは皮肉な顔で笑った。
 バビロンの研究者の大半が親族なのだそうだ。父母も叔父も従兄弟もほとんどが科学者。エリート一族らしい。
『科学者になんなかった者も、だいたいここに居る。あたしもその口。外に出てもいい事なさそうなんで、ここで実験体になったんだよ』


 携帯食を食べ終えた頃、ユーリアさんから連絡があった。
 全員、健康検査異常なし。居住エリアに移動して欲しいと。

 今度は乗り物は使わず、転送装置を使う。
「超能力には、瞬間移動テレポーテーションがある。物体を離れた空間に送ったり、自分自身が離れた場所に瞬間的に跳んだりする力なんだが……これから利用する転送装置は、瞬間移動の機械版だ。空間を歪曲することで、出発地と目的地が繋がる」
 移動魔法みたいなものか。

 一晩泊まった会話室を後にし、メイドロイドのイヴの案内で長〜い通路を進む。向かう先は転送部屋だ。
 しかし、部屋に行きつくまでに五つの隔壁を開かなきゃいけなかったし、転送部屋の扉には何重にも機械(ロック)がかけられていた。
「使うのが面倒な機械なんですね」
 オレがそう言うと、ラリサさんがケラケラ笑った。
「当たり前だろ。隔離エリアに居るんだぜ? 感染被疑者を閉じ込めとく施設から、ホイホイ外に出られるもんか」

「瞬間移動でも駄目ですか?」
 ルネさんがそう尋ねると、ラリサさんはフフフと笑った。
「ドーム内は大半が、ESP禁止エリアなんだ。隔離エリアも、そう」
 ラリサさんの指が自分の額を指す。
「超能力を使おうとすると、ここに埋め込まれた機械が暴れるんだ。脳への直接攻撃だ。脳細胞が破壊され、死に至る恐れもある」
「え? それ、ひどくないですか?」
「ああ、ひどいよ」
 ラリサさんがおかしそうに笑う。
「けど、政府がそう決めてるんだ。エスパー適性のある人間全員にこの処置が義務づけられている。微弱な能力者も能力に目覚めてない者も、同じ処置を施される」
「なんでです?」オレも尋ねた。
「超能力者が怖いんだろ? やろうと思えば街をそっくり動かせるんだぜ。兵器並の破壊力があるし、他人のプライバシーも覗き放題だ。できない奴には脅威だろ?」
 む。
「宇宙連邦はエスパーを潜在的犯罪者とみなし、犯罪抑止の為に管轄下に置いている。Cランク以上のエスパーはここを含む軍属組織に送られ、エスパー研究の為の実験体とされる。出てくには軍人になるしかない」
 ここに居ても有事には軍属として兵役につくんだけど、ラリサさんが冷めた顔で笑う。
「人類がみな、エスパーになりゃ話は別だが……超能力者は百万人に一人の割合でしか誕生しない。超能力者は、少数の異端。自由に力を解き放てる日がくるとも思えないね」

 オレは幼馴染へと視線を向けた。
 サラも戸惑いの表情だ。
 エスエフ界では、超能力者は差別的な扱いを受けている。エスパーにも魔術師にも、住みにくそうな世界だ。
 科学技術が発達すれば世の中は良くなる……と、いうものでもないらしい。


 転送部屋は、英雄世界のエレベーターに似た小部屋だった。広さも同じくらいだ。機械板をイヴが操作する。
「みなさんヲ、ユーリア博士のオフィスにご案内しまス」
「この室内の物体を全てが、科学ラボの姉さんのオフィスまで転送される。距離にすると、三キロってとこかな」
「起動しまス。目を閉じてくださイ」

 天井、床、壁がカッ! と、光る。
 けど、まぶしかったのは一瞬だけで、照明はすぐに落ち着いた。

 扉が開く。
 白を基調とした部屋と、二人の女性が見えた。
 転送機械起動前とは、異なる場所に着いたようだ。移動魔法より、移動が速い。確かに、瞬間移動だ。

「あらためて……はじめまして、ようこそバビロンへ。直接会えて嬉しいわ。ユーリアです」
 丸く大きくふくらんだオレンジ色の髪、メガネに、白衣の研究者スタイル。立体映像で見た通りの女性だ。背はオレより、やや低い。
 お師匠様の次に、オレも握手を求められた。差し出された右手を握り、握手を交わした。
 全員と握手してから、ユーリアさんが掌で横に居る女性を指した。
「二番目の妹を紹介させて。私の自慢の妹よ」

「はじめまして、ジリヤです」
 よく通る、澄んだ低音声だった。

 背が高い。ユーリアさんと同じ白銀のスーツなんだが、印象がぜんぜん違う。何というか、ワイルド。
 白くてきめ細かい肌をしてるのに、タフそうだ。ガチムチじゃなくて、細身だけど。無駄な脂肪のない、力強くってしなやかな体をしている。
 銀の短髪をオールバックでまとめてるし、彫りの深い顔立ちなんで、少し冷たい印象。
 けど、かっこいい。きりりとした眉、高い鼻、浮き出た頬骨、厚い唇。凛々しい系美人だ。
 雰囲気的には、男装の麗人。王子様っぽい。

 しかし、何よりも心を惹くのは目だ……

 右が紫、左が金……
 オッドアイだ……

 綺麗だなあと思う。
 けど、キュンキュンはこなかった。
 オッドアイなのに萌えなかった。
 フェチじゃなかったようだ。

「ジリヤを、あなた達の仲間にどうかしら?」と、ユーリアさん。
「強いものから順に紹介してって事だから、ジリヤからにしたわ。この子は、私とタチアナの最高傑作なの」
 て、事は萌えた方が良かったのか。見ただけじゃキュンキュンこなかったが、戦闘力が高いんなら仲間にしたい。
 オレの視線を感じ、ジリヤさんが微かに微笑む。大人っぽい、年少者を包み込むような笑み。優しそうだ、ちょっぴりキュンときた。
「ジリヤは徹底的に肉体改造をした強化人間……全身サイボーグなの」

 ユーリアさんが誇らしそうに、ジリヤさんの基本性能を語る。
 握力、脚力、瞬発力、跳躍力、最大移動速度、最大馬力、頭部と掌腹部のセンサー、半分以上電子化された頭脳の性能、基本兵装などなど。
 いまいちピンとこないが、普通の人間よりも圧倒的に強く、水中や宇宙でも活動できる超人みたいだ。

「私は、姉たちの玩具なのだ」
 ジリヤさんが、言葉とは裏腹にやわらかな笑みを浮かべている。
「次々に新性能を付加される」

「あら、だって、かわいい妹ですもの! 常に最新型にしてあげるわよ!」
「私は姉達の試作サイボーグだが、最新技術が次々に投入されている。最新戦闘機ぐらいの働きができるぞ」

 はあ。

「こちらの世界ではサイボーグは一般的なんですか?」
 ルネさんの質問に、ユーリアさんが残念そうに答える。
「いいえ。肉体の欠損は、クローン技術で補えちゃうもの。義手や義眼ですら一般化してないわ。軍事・宇宙開発の一部の場ぐらいね、サイボーグの活躍が期待されるのは」
「軍事・宇宙開発方面でも、サイボーグは廃れてるじゃん。アンドロイドのが活躍してる」と、ラリサさん。

「そうなのよね……人権保護団体がうるさいから……」
 ユーリアさんが大きなため息をつく。
「サイボーグもエスパーもバイオロイドも、倫理上の問題があるとかガーガー……ほんと、嫌な時代だわ。どーして、大衆は改造人間のロマンを理解できないのかしら!」
 また知らない単語がでてきたぞ。

「ジリヤさんはどうして、サイボーグになったんですか?」と、ルネさん。
「病の為だ。十八の時、私の遺伝子の突然変異が発見された。筋肉の萎縮が進行する因子を抱えていたのだ。三十代には高確率で発症すると教えられたので、人工化した」
 ジリヤさんが淡々と自分の事を語る。
「脳の一部を除き、後は人工物にした」

「人工物?」と、オレ。
「中も外も造り物だ。表面の、髪の毛、皮膚、目、歯、爪、うぶげに至るまで人工物だ」
「骨、関節、筋肉、各種臓器、血管、体液まで私達の作品よ」

「じゃ、ロボットになったって事ですか?」
 ジリヤさんとユーリアさんが同時にかぶりを振る。
「サイボーグだ」

 えっと……

「サイボーグは人間で、ロボットは機械よ。体の一部或いは全身を強化した人間が、サイボーグよ」
「はあ。じゃ、ジリヤさんはサイボーグ、イヴはメイドロボット……あれ、アンドロイドでしたっけ?」
「イヴはアンドロイドよ。女性型だからガイノイドと呼ぶのが正しいけど、『万能メイドロイド』の名称で販売したの」
「ロボットとアンドロイドの違いがわからないんですが……」
「ロボットは単純作業用機械。人型機械でも、自律思考のできるものがアンドロイド、できないのがロボットになるわ」

 むぅぅ……

 もと人間がサイボーグ。
 機械はロボット。
 ロボットのうち、人間っぽいのがアンドロイドってことかな?

 ジリヤさんを改めて見つめる。
 ルネさんの発明品やイヴみたいにメカメカしくない。
 白い肌も滑らかで柔らかそうだ。綺麗な女性にしか見えない。
「人工化するにあたって、外見をそのまま再現してもらった」
「じゃ、目も?」
「生まれつきだ」

 オレはジリヤさん、ラリサさん、ユーリアさんと順に見つめた。今、変装用メガネをしてるから、ユーリアさんは両目ともに紫だが。
「この世界の人間は、左右で目の色が違うんですか?」

 三人は顔を合わせ、それから朗らかな声で笑った。
「ンなわけないだろ」ラリサさんは楽しそうに笑っている。
「先天性の遺伝子疾患よ。本来、出現率は非常に稀。外へ行けば、注目の(まと)よ。だから、私、これしてるんじゃない」
 メガネをとると、ユーリアさんの目は、左が金、右が紫のアッドアイになる
「親戚にオッドアイが多いのだ」と、ジリヤさん。

「虹彩異色症の発症率が異常に高いのは、正確には母系一族よ。母方の女性に虹彩異色症が多く、決まって右眼が紫で左眼は黄になるわ」
 へー。

「昔のジリヤのホログラフ見る? 外見は今とそっくり。眼の色もそのままコピーしたのよ」

 オレの前に等身大のジリヤさんが現れる。
 今のジリヤさんと異なり、やややつれた感じ。体にも力強さが無く、痩せている印象だけが強く伝わる。
 髪も腰まで伸ばしている。
 服装は一緒だが、病気療養中の美女といった感じだ。
 そして、その顔は……
 右が紫、左が金の、オッドアイだった……


 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……

 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。

《あと三十五〜 おっけぇ?》
 と、内側から神様の声がした。


 あああああああ!
 なんで、どーして?
 いや、萌えたのはいいんだけど! ジリヤさんを仲間にできたから!
 けど、今のジリヤさんを見ても平気なのに、昔の立体映像を見るとそれだけでドキドキする。
 オッドアイを見てると、たまらなく愛しくなってくる。キュンキュンくる。

 これって……
 まるで……

 魅了の魔法……?





 ユーリアさんはかなり忙しいようだった。
 会話の途中で、何度もよそから連絡が入った。ユーリアさん用秘書アンドロイドに『取りつがなくていい』と、怒鳴ってる場面も何度か。けど、通信相手によっては、別室に移動し応対していた。
「ほら、戦場だ」
 ユーリアさんがいない時にそう言って、ラリサさんは楽しそうに笑った。
「秘密にしていても、あんた方の到着はバビロン中に知れ渡っちゃうもんな。まあ、外部には漏らさないだろうけど」
 ジリヤさんも説明してくれる。
「未知の拾得・採集物を独占調査研究する際、調査権は発見者にある。調査・研究ができるのはユーリアねえさんと、ねえさんが選んだ共同研究者だけだ」
 ジリヤさんがオッドアイを細めて微笑む。
「バビロンの科学者達は皆、共同研究者となりたいのだよ」
「姉さんがイヴなんてごっつい護衛をつけたのも、その為だよ。共同研究を断られた奴、何すっかわかんないぞー 絶対、誘拐されんなよ。研究の為なら何をしても許されるって勘違いしてる奴、多いからー 解剖されかねない」
 ケラケラ笑うラリサさんを、ジリヤさんがたしなめる。
性質(たち)の悪い冗談はよせ。悪趣味だ。お客人が不安に思われるぞ」
 口調はぶっきらぼうだが、小さな子に『め』って怒るみたいに声は優しい。ラリサさんはへらへら笑いながら、ごめんなさいと謝る。仲が良さそうだ。


 その後、別行動となった。

 ラリサさんはエスパー部隊へ戻った。

 オレは仲間探し。
 ルネさんは、武器開発支援チームとの顔合わせ。
 お師匠様はユーリアさんと情報交換。互いの世界、人間、文化について話すようだ。
 ジョゼとサラは生体検査。

 ルネさんにはエクレールを、お師匠様にはマーイさんを護衛につけた。
 ドーム内は安全だと思うけど、一応。お師匠様達に何かあったら嫌だし。

 ジョゼとサラの検査をどこまで許すかは、雷の精霊レイに任せた。レイは機械文明に詳しいし、ジョゼを盲愛している。危険な検査を許すわけない。
 レイは紫の小鳥の姿で、二人の検査について行った。サラのアナムも一緒だ。

 オレの護衛はイヴに頼んだ。ジリヤさんも付き添ってくれる。

 科学部研究員に案内してもらって、オレはロボットとアンドロイドを見学した。
 戦闘用メカを中心に見せてもらった。
 ジョブ被りしなきゃ仲間にできるんで、メイドじゃないアンドロイドもけっこう見た。
 だけど、見れば見るほどロボットとアンドロイドの区別がつかなくなる。両方とも外見に違いは無い。人型ロボットも居るんだ。
「人から命令されねば動けないのがロボット、自分で判断して行動できるのがアンドロイドだ」
 ジリヤさんがそう教えてくれたが、ピンとこなかった。
「そして、メカそっくりでも、人としての魂があるものがサイボーグだ。バビロンでは一片でも脳細胞が残っていれば、人間扱いしてもらえる。ありがたいことに、な」
 ジリヤさんの口調は、淡々としていた。

 しかし……
 エスパーだけじゃなくサイボーグも、エスエフ界じゃ差別対象にされてるように思えた。


 半日かけて二十体以上のメカと対面したが、萌えは訪れず、残念ながら仲間は増やせなかった。





 その夜も、夢を見た。

 ニーナが泣いている……

 オレは真っ暗闇の中にいて、ニーナのもとへと向かっていた。

 前の夢と同じで、何にも見えない。だけど、今夜はニーナが何処にいるかわかった。

 闇が導いてくれるんだ。どちらに進めばいいと、オレの体に教えてくれる。
 オレは走った。
 何も見えない。
 足元すらも。
 だが、不安はなかった。
 闇が優しくオレを包み込んでくれているから。
……ソワのような気がした。
 精霊界の闇界では、精霊との交渉は夢の中で行った。全ての夢は闇界に通じており、闇の精霊は夢を見るものと魂で語りあえるのだ。
 あれは闇界だからできたのか、それとも全ての世界の夢が闇界に通じているのかはわからないが……
 苦しんでいるニーナを救いたい、オレを助けたいと思って、ソワが手伝ってくれているんだ。そんな気がした。

「つーかまえたー」
 オレはおどけて、ニーナを抱きしめた。
 小さな体を抱きしめている感触がした。

「もう痛くないだろ? おっかない機械を止まったんだ。ニーナちゃん、もう何も怖いものはない。オレと一緒に外に出よう」
 いやいやというように、腕の中の子がかぶりを振る。
「ジョゼもサラもルネさんもお師匠様も、みんな心配してるよ。出て来てくれよ」

《おにーちゃん……あたし、こわい……》

「大丈夫だって。あの機械はもう絶対に使わせないから」

《ちがう。そうじゃないの……そうじゃ……》
 腕の中の子供がしゃくりあげ、身を震わせる。

《あのこわい音が聞こえた時……あたし、消えたの》

「消えた?」
 ニーナがうなずく。
《パチパチ火がはぜる時みたいに、ほんのちょっとだけ……なんどもなんども、消えてもどってしてたの》
「ほんとに? ごめん、気づかなかった、それは怖かったろう。ニーナちゃんが戻ってこられて良かった……本当に良かったよ」

《消えたとき、なんにもなかった……》
 悲しそうな声が闇に響く。

《まっくらでなにも見えなかった……おにーちゃんもおねーちゃんも、だれもいなかった……だれの声も聞こえなかった……あたし、一人だった》
 ニーナが声をあげて泣く。

《死ぬって、そういうことなんでしょ……?》

《おにーちゃんともアンヌとも、おねーちゃんたちとも、だれとも会えなくなる……そういうこと、なんだよね?》

《おにーちゃんが魔王をたおしたら……あたし、消えるんだよね? ほんとーに死ぬんでしょ? おにーちゃんたちの世界にいる理由がなくなるから……消えてなくなっちゃうんだ……》

 魔王が目覚めるのは三十七日後だ……

 死にたくないと泣くニーナを、オレは抱きしめた。
 しっかりと抱きしめてあげた。


* * * * *


『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き

●女性プロフィール(№065)

名前     ジリヤ
所属世界   エスエフ界
種族     人間・サイボーグ
職業     サイボーグ試験体
特徴     ユーリアさんの妹。ラリサさんの姉。
       病気だった為、全身をサイボーグ化する。
       ユーリアさんとそのすぐ下の妹に、
       改造されたらしい。
       オッドアイになりやすい血筋。
戦闘方法   素手でも強いが、専用武器があるらしい。
年齢     86歳……外見年齢は18歳。
       ユーリアさんは179歳、
       ラリサさん42歳だそうで。
       人間は不老処置を受けて若さを保ち、
       サイボーグは人造物なので外見が若い。
容姿     白銀の短髪をオールバックにした、
       クール系美人。男装の麗人にも見える。
       右が紫、左が金のオッドアイ。
       細身だけどしなやかで力強い体をしている。
口癖    『私は、姉たちの玩具なのだ』
好きなもの  身内
嫌いなもの  偏見
勇者に一言 『サイボーグだ』
挿絵(By みてみん)
夢の中で語られる真実。涙を流すニーナに、心を痛める勇者ジャン。
魔王の目覚めは37日後だぞ……
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
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