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ハーレム100 作者:松宮星

エスエフ界

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人造人間のハートの巻【イヴ】(※)

謎が謎を呼ぶ研究都市バビロン……

「ハーレム100」エスエフ界編を読めるのは、小説家になろうだけ!
 こんにちは、シャフィール。お元気ですか?

 300年ほど前の世界大戦で、テラが荒廃した死の星となった事は前にお話ししましたね?

 私が住んでいるバビロンは、おとうさまが宇宙連邦の援助を受けてテラに築いた研究都市ドームです。
 メインの研究は、人の住めない星の環境を造りかえる惑星改造研究。つまり、テラを生き返らせる研究です。

 バビロンが誕生してから既に五十年……四十五年前に『テラ復活プロジェクト』は理論上は完成したのだそうです。
 けれども、バビロンの外は未だに死の世界です。
 惑星改造をするには、膨大な資金と豊富な物資とエネルギーが必要な為、実行できないみたいです。
 テラを復活させるぐらいなら、ドームを50とか、スペースコロニーを100造った方が安上がりなのだそうです。

 でも、おとうさまやおねえさま達も、あきらめたわけではありません。
 宇宙連邦からの依頼を受けてさまざまな研究をしつつ、低予算で済む惑星再生プランを立てています。
 いずれサブ研究の成果を評価され、テラ再生は始まるでしょう。


               宇宙新世紀〇二八四年 ナターリヤ

* * * * * *


 ユーリアさんの話は難しい。
 理解できてるのは、たぶんルネさんだけだ。レイもわかってるんだろうが、基本、あいつは表に出てこない。

 なので、ルネさんに通訳をやってもらった。

 ルネさんから聞いたところによると……
 エスエフ界では昔、大きな戦争があった。
 彼等の(ほし)のテラは、未だに毒まみれ。
 ドームとかスペースコロニーとかいう科学技術によって造られた空間でなければ、人間は暮らせないのだそうだ。

「えっとですね……私達が今居る場所は、ドーム型『研究都市バビロン』。街ぐるみが研究所になっていて、いろんな研究をしています。この世界で一番偉い組織――宇宙連邦がスポンサーだそうです」
 住んでるのは、研究者と協力者である実験体が百人ほど、あとロボット等人造物。
「ユーリアさんのお父様がドーム所有者で……ようするに研究所所長ですね、住んでる方の半分ぐらいがお身内みたいです」
 研究者を多く輩出している家系。エリートなのか。

「私達、バビロンのはじっこにいるみたいです。武器開発や仲間探しは街の中央でしかできないから、移動して欲しいとのことです」
 道路がパカッと開き、地下から大型の車がせりあがってくる。英雄世界で見たバスって乗り物に似てるが、鋭角さがなくって丸っこいデザインだ。

――居住エリア移動前に、悪いけどいろいろテストを受けてもらうわ。病を持ちこまない為の健康検査なの――
 立体映像のユーリアさんがそう言うと、すかさずジョゼが口をはさんだ。
《健康検査と称して、興味本位の実験をするでないぞ。我が主人の心身を傷つければ相応の報復をする》
 又、レイの野郎、表に出たのか。
 ユーリアさんが眉をしかめ、ジョゼを見つめる。
――そんなことしないわよ。私、あなた方の世界に行きたいのよ。目的達成前に、信頼関係を壊さないわ――
《もっともである。監視は怠らぬが、その言葉は信じよう》
 皮肉な笑みを浮かべていたジョゼが、いつもの気弱そうな表情に戻る。
 きつい眼差しで見られてるのに慌て、ジョゼは急いで頭を下げた。
「すみません……レイちゃんが失礼な事を……あの、でも、悪い子じゃなくて……」

「さっきのは雷の精霊レイ。義妹のしもべです」
 ちょっとフォロー。ジョゼが責められたらかわいそうだ。
「義妹を守ろうと必死な奴なんで、たまに言葉に刺があります。が、義妹に危険が迫らない限り、暴れませんから」
 ジョゼが嬉しそうにオレを見て、コクンと頷く。

――つまり、その女の子、二重人格ではなく、セイレーと体を共有しているのね?――
「精霊はオレ達と同化できます。人型になって別行動する事もありますが」
 興味深いわ! と、ユーリアさんが叫ぶ。
――精神生命体が宿った状態の心身も調べさせて!――
 あれもこれも何でも調べたいみたいだ。


 車には、英雄世界でも乗っている。
 けれども、エスエフ界のエアカーには車輪がなく、まったく揺れないんだ。実に快適。窓から見える景色が流れて行かなきゃ、乗ってることすら忘れそうだ。

 ルネさんとユーリアさんは意気投合し、車内であれこれ科学的な事を話していた。
――ええ、『テラ復活プロジェクト』は理論的には完成したわ。でも、実行できないの。バビロンの外は死の世界のまま――
 ユーリアさんは、残念そうにため息をつく。
――惑星改造には膨大な資金と豊富な物資とエネルギーが必要で……頓挫しているの――
「ああああ、お金と物資のせいで頓挫! 理論は完成しているのに! 貧乏は辛いですよね! わかります!」
――ありがと。今は低予算で済む惑星再生プランを立てつつ、サブ研究で成果をあげてスポンサーに応えているの――
「どんな研究です?」
――テラ復活プロジェクトに付随する研究よ。新エネルギー開発、植物の品種改良、新金属の開発、新薬開発、思考型機械の最適化、超能力研究、新兵器開発、死なない兵士の発明とか――
 ん?
 なんか、よけいなの交じってたような……?
「素晴らしい! さすが、エスエフ界! 役に立ちそうな研究ばかりです!」
 ユーリアさんが満面の笑顔となる。
――ありがとう。あなたの発明品も映像で拝見したわ。スプレーは発想が独特で面白いし、ロボットアーマーは武骨で素敵。そのカクカク感が郷愁を誘うわ――
「おおお! ありがとうございます! エスエフ界の科学者様に誉めていただいて、光栄です!」
 ルネさんが、立体映像の両手の辺りに手をつっこむ。握手してぶんぶん振り回してるつもりなんだろ。実体が無いんで、何もつかめていないが。
……よかったね、ルネさん。お友達ができて。

 二人の話は半分以上わからない。ユーリアさんの話はあとでかみくだいて教えてもらうとして……
 オレは『霊力ためる君』を取り出し、話しかけてみた。横に座るジョゼやサラも一緒になって声をかける。
 しかし、中のニーナは無反応だ。
 大丈夫なのか……?

「……中から精神波を感じる。怯えてるだけだ。消えてはいないよ」
 エスパーのラリサさんの声。
 運転手席のラリサさんはシートに体を預け、くつろいでいた。座っているだけだ。装置には、全然、触ってない。
 運転してない?
 馬車は御者が、英雄世界の自動車は運転手が御すもんだったが。
「コンピューター制御車なんだ。人間用の運転装置も付いてるけど、ふつー、誰も使わない。緊急時の保険みたいなもん」
 オレが口にしなかった疑問を、ラリサさんが答える。心を読んだのか。

「ニーナちゃんは……どうしたんでしょう?」
 おどおどとしながら、ジョゼがラリサさんに問う。ジョゼは良く知らない人間と話すのが苦手だ。けど、他人への恐れより、ニーナへの心配が勝ったんだろう。
「……いろんな事を怖がってる」
 いろんな事?
 ラリサさんが軽くかぶりを振る。
「言いたくない。他人の悩みをペラペラしゃべるの、好きじゃないんだ」
 それは、そうか。
「ただ、あんたらの声は聞こえている。一人じゃないんだって、伝えてあげるといいよ」
 ジョゼの顔が、少し明るいものとなる。
「はい……そうします」

「ありがとうございます、ラリサさん」
 ジョゼとサラが『霊力ためる君』に話しかけている横で、オレは紫の髪のエスパーに感謝の気持ちを伝えた。
 ラリサさんがオレをチラッと見る。
 右が紫、左が金。左右で色の異なる瞳に見つめられると、ドキドキする。うっとりとみとれちゃう。
「あんた……変だ」
 う。
 いや、まあ、変なフェチかもしれませんが……
「あたし、気持ち悪くない?」
「気持ち悪い? 何でです?」
 左右の眼の色が違って、妖精みたいに綺麗なのに。
 それに、ラリサさんはいい人だ。ニーナを心配するジョゼに優しくしてくれた。
 ラリサさんが肩をすくめる。

「この廃ビルの街さ……部下達と造ったんだ」
 ラリサさんが、突然話題を変える。
 エアカーの走る道路の脇には、壊れた高層ビル群が続いている。窓ガラスが割れていたり、上階が欠けていたり、大穴が開いていたり……まともな形の建物は見当たらない。
 ドームのはじっこの、模擬戦闘用エリアだそうだけど……
「ここは、バビロンに六つある演習場の一つ、第六演習場だ。ESP訓練で、ゴーストタウンをまるごと運んだわけ」
 へー
 七十二代目勇者の書を読んだから知っている。
 ESPってのは、テレパシー、予知、透視、千里眼 念力、念動力、瞬間移動等々。魔法に良く似た力だが、呪文は必要ない。使用できるのは、エスパーというジョブ。

「どう思う?」
 どうって……
「う〜ん……何人で街を運んだんです?」
「十六人」
「何日かかりました?」
「一日」
「たった一日、すごい! 優秀だ!」
「え?」
「ああ、それに、バビロンって大きいんですね。街を丸ごと運んでも、外側の六エリアの一つが埋まっただけなんて。たぶん、オレらの世界の都よりも大きいな」

 ラリサさんは、まじまじとオレを見た。
 そんな眼で見られると、ドキドキしちゃう……
 しばらくすると、その綺麗な顔が、くしゃみをするみたいにゆがむ。
 それから、大笑いだ。
 ラリサさんは、おなかを抱え、口を大きく開き、目に涙まで浮かべて笑っている。

 むぅ。
 何がそんなにおかしかったんだろ?

「デカいよ! バビロンは! テラの地表は土地が余ってるもん! 地表にドームを創りたがる馬鹿は、酔狂な金持ちか、科学者ぐらいだ! 土地余りなんだ!」
 ケラケラと笑ってから、ラリサさんは悩ましいオッド・アイで、オレへと微笑みかけた。
「あんたの星、あんたみたいな人間ばっか? なら、行ってみたいな。エスパーに理解がありそうだ」

「オレの幼馴染は、魔術師だし」
 と、オレはサラを指差した。サラがペコリと頭を下げる。
「魔法医、魔法技師、魔法騎士、魔法剣士と、魔術師専門職があります。それに、オレらの世界じゃ、魔法機関で機械を動かすんです。魔法を使える者は、なくてはならない存在なんです」
「ふーん」
 オレらに対し、ラリサさんが笑みをみせる。どこか冷めたような、哀しげにも見える顔で。
「夢みたいな世界だね」





 居住エリアに入る為には、それなりの手順が必要なのだそうだ。

 何処までも続いているデカくて高い壁。
 その一部の隔壁が開き、通路へと進む。

 強風によるエアシャワーと機械の探査の光を浴びる。

 まず、車に乗車した状態で。
 通路奥の隔壁が開いた先で、荷物を持って車から降りるように言われる。で、壁面からの強風と、天井からの光を浴びる。
「外から帰ったら、まず塵埃の除去。それからスキャン。放射能測定、有害物質の検出、健康チェック、もろもろ。異常がないか調べるんだ」
 オレらと一緒に強風と光を浴びているラリサさんが、説明してくれる。
「第六演習場はゴーストタウンの土まで運びこんだんで、汚染レベルが4まで上がっている。人体に有害なレベルは8からだから大丈夫っちゃ大丈夫なんだが、演習後は徹底的に綺麗にするのが義務づけられているんだ」
「異常があったらどうなるんですか?」
「汚染者は居住エリアに入れない。この隔離エリアにとどめおかれ治療されるか、強制退去だ」

『異常ナシ』って事でスキャンは終わった。
 だが、まだ健康検査があるのだという。
 ロボットアーマーのルネさんだけは、機械の洗浄とメンテナンス及び搭乗者への処置が必要なんで別行動となった。
 雷の精霊エクレールに、ルネさんの護衛を頼んだ。オレとエクレールは左手首のアメジストの腕輪を通じて繋がっている。ピンチの時にはルネさんを守り、オレのもとへ戻るようにと命じておいた。

 通されたのは、四角くて白い何もない部屋だ……と、思ったら左右の壁際にベッドが五つわいて出て、壁面も裏がわりベッドの側面に機械面が現れた。
「集団検診用の部屋だよ。ここで、簡易健康検査を受ける。通常は、採血、尿検査、検便、視力、聴力、血圧、放射能・細菌・ウィルス・寄生虫検査、体力測定、運動時身体機能テスト、知能テスト……こんなもんだけど、あんたら部外者だし、テストが増えるかも」
 うへ……

 人体へのテストと聞き、マーイさんに同化を解いてもらう。水色の髪とドレス、黒い仮面の女性が姿を現す。
 ユーリアさんは水の精霊も調べたそうだったが、超能力ジャマーの件があるんでそこは譲らなかった。この世界の機械は、精霊に悪影響を及ぼすかもしれないんだ。不用意なことはしてもらいたくない。
《ありがとうございます、ご主人様》
 マーイさんに、ニーナが宿る『霊力ためる君』と精霊達の宝石を預けた。

「賢者様、ペンダントお預かりしましょうか?」
 サラがお師匠様に声をかける。武器や貴金属類は全部外すんで、サラは杖はもちろん指輪も相棒のぬいぐるみのクマもどきに預けていた。
「……そうだな、頼む」
 お師匠様は首のものを外し、サラに手渡した。
 幾層にもファントムが重なったファントムクリスタル(山入り水晶・幻想水晶)付きペンダント。ずいぶん前に、イザベルさんに貰った物だ。そいや、サラのガーネットの指輪もそうか。あの時にオレが貰ったコーラルのペンダントは、幻想世界で無くなっちゃったが。
 胸ポケットから、親指サイズの小箱を取り出した。
 魔界を旅する間のお守りにと、イザベルさんからもらった小箱だ。無事に還れたのは、この小箱のおかげもあると思う。
 エスエフ界でも大事にしよう……オレは小箱もマーイさんに預けた。

 半日ぐらいテストされてたと思う。
 壁面から延びる検査用の管を体につけられ、壁面から聞こえる指示通りにテストを受けた。
 ベッドから降りて管をつけたまんま運動もしたし、髪の毛や爪や皮膚を採取された。
 頭のてっぺんから手足の爪の先まで徹底的に調べられた感じ。
 解放された時には、へとへとになっていた。

 ルネさんも合流した。びっくりしたことに、ラリサさん達と同じフィットしたスーツを着ていた。首から下の手足の指の先まで、白銀の薄手の布で覆われいてる。ややぽっちゃりで胸の大きいルネさんの体形がくっきりと表れている。
「ロボットアーマーは細部まで洗浄となりました! なので! せっかくなので、こちらの服を借りてみました! なぁんと、この服、スプレーで0・2秒で蒸着するんですよ! 脱ぐのもスプレーかライトで一発! 便利です! 軽いし通気性いいし、着心地はなかなかです!」
 馴染んでるなあ。
 エクレールがオレの内に戻る。

――明日には、臨床検査の結果が出るわ。申し訳ないけれど、今日一日は隔離エリアで過ごして――
 明日までは食事も水も持参のものでと頼まれた。この世界の飲食物がオレらの体に及ぼす影響をシミュレートしてからでなきゃ食事は出せないと、ユーリアさんが謝る。貴重なオレらを毒殺したくないんだそうだ。

――個室と会話室を提供します。みなさん固まって休まれたいのでしたら、会話室にどうぞ――
 短期滞在用の部屋なせいか、個室は狭く、無機質なベッドと機械モニターがあるだけだった。
 会話室は広々としていて、サロンみたいだった。長机やソファーがあり、観賞植物の鉢植えもある。窓を模した巨大なスクリーンがあり、そこに好きな風景を映せる機械があった。
「今宵は、皆で休むか」
 お師匠様の言葉に、みんな同意した。

――そちらの代表はケンジャさんとユーシャさんでしたね? 明日からの打ち合わせと護衛の設定登録、どちらかをそれぞれにお願いしたいのですが――
 機械文明に不慣れなオレ達に、メイド兼ナース兼ガードマンとなる人型アンドロイドを付けたいというのだ。
――万能型メイドロイド、イヴをお貸しします――
 メイドさんか……

「イヴ?」
 ラリサさんがあきれたように言う。
「ずいぶん、ごっつい護衛をつけるんだね」
――ええ。明日から、戦場だもの。今夜のうちにしっかりしておかなきゃ――
 げ。
 戦場?
「エスエフ界は、戦争状態にあるんですか?」
「ものの例えだよ」
 ラリサさんが苦笑を浮かべる。
 安心した。
 けど、その後、『でも、ある意味、本当に戦場だよな』とつぶやきが聞こえたような……

「そのアンドロイド、戦闘力が高いのだな?」
 お師匠様の問いに、ユーリアさんは頷いた。
――10万馬力と時速600キロを誇る超強力アンドロイドよ。兵装次第では、最新鋭軍事ロボットに匹敵するわ――
「わかった。話し合いは私と発明担当のルネがする。メイド機械の設定はジャンに受け持たせよう」
――オーケー。イヴを入室させるわ――

 会話室の扉が開き、左の掌に小さな機械を持った女性ロボが入って来る。

 びっくりした。
 機械だとはわかっていたが、オレの予想とは全く違う姿をしていたんだ。

 ただ、ただ、見とれる。
 美しいと思った。
 やわらかなラインを描く体。胸元もきわどいミニのワンピースは、腰から下がボリュームをもって傘のように広がっている。のびやかな手や足も魅力的だ。
 あどけない少女のような顔。後頭部の高い位置で髪を一つにまとめた総髪(ポニーテール)は、肩をすぎるほどの長さだ。
 そして、全てが……
 エメラルドグリーンに光っている。
 髪も肌も目も衣装もブーツまでもが同じ色。
 まつげやまぶたがない開いたままの眼までもが、エメラルドグリーン。光沢のある不思議な色に輝いていた。

――戦闘から子守りまで。何でもできるメイドロイド、イヴよ。私の傑作の一つよ――
「綺麗ですね……」
――ええ。外見も好評よ。でも、イヴの醍醐味は教育にあるの!――

 不可思議な色の機械少女が側に寄って来て、左手に持ったモノをオレに差し出した。
 それは……
 ハートの形をしたピンクの機械だった。

――それがイヴの心臓。その心臓を通じてイヴに命をふきこむの――
「命をふきこむ……?」
――その子には百科事典並の知識があり、家事全般がプログラミングされており、アンドロイドの戦闘パターンも何万通りも覚えているわ。でもね……まだ個性がないのよ。その子に『心』をあげて――

『心』をあげる……

 機械少女が小首をかしげる。受け取ってくれないオレをいぶかしむかのように。
 仮面そっくりな顔が、ちょっと悲しそうだった。角度によって微妙に表情が変化するような。

 せつなそうにオレを見ている……

 かっ、……かわいいぞ、イヴ!


 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……


 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。

《あと三十六〜 おっけぇ?》
 と、内側から神様の声がした。


 オレはアンドロイド少女から、ドキドキしながらハートの機械を受け取った。
 少女が正面からオレを見つめる。目がチカチカと輝く。
「記憶シマシタ。アナタヲ、マスタートシテ、認識シマス。ハジメマシテ。マスター。イヴデス」
 機械っぽい、抑揚の無い声だ。
「調教可能デス。ゴ希望ノ箇所ハゴザイマスカ?」
 へ?
 調教?
「ゴザイマセンカ? デハ、通常初期設定ニ入リマス。イヴハ、イツデモ、マスターノ、オ望ミ通リニ変更可能デス。ゴ不満ノ時ハ、ゴ不満箇所ヲ、オッシャッテクダサイ」

「最初ニ、ナビゲート音声ヲ変更シマショウ。七十二種ノ声質カラ、オ選ビイタダケマス」
『ハジメマシテ。マスター。イヴデス』を、次々にまったく違う声でしゃべる。
 ちょっといいなと思う声を仮設定し、そこからやや高音・低音へと微調整も可能なのだそうだ。

――所有者の好みのままに、声から設定できるメイドさんよ。性格も、ドジっこ、母親、おねえさま、教師、妹、ツンデレ、ヤンデレ、百八種類から選べるわ――
 カスタム・メイドかっ!

 バビロンの発明品のうち幾つかは、連邦政府公認の会員制通信ショップ『バビロン・ドリーム』で販売されている。イヴはVIP会員のみが購入できる超高級品なのだと、ユーリアさんが教えてくれた。

「ツヅイテ、イントネーションノ変更デス」

「ツヅイテ、口調ノ変更デス」

「つづいテ、思考パターンの設定に入りまス。性格設定でス。百八種類からお選びいただけまス」

「つづいテ、口癖の登録でス。ご希望がございましたラ、おっしゃってくださイ。サンプルもございまス」

 あああああ、終わらない!

 夜も更けた。
 ルネさんを除き、仲間達はソファーで眠っている。立体映像のユーリアさんも、とっくに消えている。

「適当に選んで仮設定しときゃいいじゃない。後で直せるんでしょ?」と、寝る前にサラは言った。
 再設定はできる。
 不具合があったら、すぐにも変更可能らしい。

 だが、しかし!
 イヴはどう見ても女の子だ。
 無個性な機械音しか発せられなかった彼女が、徐々に人間らしい可愛い声になった。優しいやわらかな雰囲気も漂い始めている。
 何というか……すっごく充実感がある。
 本当に、魂をふきこんでいるみたいなんだ。

 いい加減なやっつけ仕事ですませちゃかわいそうだろ?

 それに、一度設定したものを無しにするのは嫌だ。
 上書きするのも、かわいそうだ。せっかくあげた『心』を奪うみたいだもの。

「さすが、勇者様! 愛情深い! 人間と違ってメカは、かけた分だけ必ず愛を返してくれます! 頑張って愛情を注ぎましょう!」
 だよね! ルネさん!

 日付が変わったらしい。
 魔王が目覚めるのは三十七日後だ。

 武装パーツ変更はさっぱりわかんないんで、ルネさんに任せた。
 ユーリアさんの命令を最優先する等、変更不可な部分もある。装甲の変更もできないようだ。
 しかし、主人や周囲の者との接し方、仕草、趣味嗜好等々……設定できるところは、まだまだあるのだ。

 待ってろ、イヴ、もっともっとかわいくしてやるからな!

 眠れないかもしれないが、がんばるぞ!


* * * * *


『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き

●女性プロフィール(№064)

名前     イヴ
所属世界   エスエフ界
種族     アンドロイド
職業     万能型メイドロイド
特徴     子守りから戦闘までこなすアンドロイド。
       ハートの端末を持った者を主人として認識する。
       ハートは左胸に収めるのだそうだ。
       一度主人を設定すると、初期化しない限り、
       主人変更はできないらしい。
戦闘方法   ルネさんが設定してくれた。
年齢     生まれたばっかり。
容姿     全身(髪や服も含む)が
       メタリック・エメラルドグリーン。
       ポニーテールで、仮面みたいな顔。
       裾が広がったミニドレスを着ている。
口癖    『マスター、がんばっテ!』に設定した!
好きなもの 『オレ』に設定した。
嫌いなもの 『オレの敵』に設定した。
勇者に一言 『アナタヲ、マスタートシテ、認識シマス』
挿絵(By みてみん)
キャラメイキングは命! しかし、少しは寝ておけ、勇者ジャン!
魔王の目覚めは37日後だぞ!
+注意+
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