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ハーレム100 作者:松宮星

魔界

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魔界から

「やあ、ジャン君、ジョゼフィーヌ様、セリア、久しぶりだね。異世界からの無事な帰還、まずはおめでとうと言わせてもらうよ」

 やっぱ、おまえかよ、最初に出迎えるのは……
 魔界に回れ右したくなるぜ……
 留守番役を自ら買って出たお貴族様は、オレの部屋で書き物をしていたらしい。書類やら分厚い本やらがテーブルに積み上がっている。

《おにーちゃん、おかえりー》
 部屋に一緒に居た白い幽霊のニーナが、オレへと近寄ってこようとする。しかし、

「シャルル、従僕を」
 魔法陣を通し実体化してすぐ、セリアが頼む。
 何故とも聞かず再従姉(またいとこ)の指示に従い、お貴族様が呼び鈴を鳴らし、オレらのもとへ駆け寄る。

 ぐったりとしているマリーちゃんを、ジョゼとセリアが支えている。魔界に居る間中、『マッハな方』の憑依体になっていたせいで、消耗しきっているんだ。
 サラも顔色が悪い。杖をついてどうにか立っている感じだ。魔界の王との戦いで、魔力と体力を使い果たしたんだ。

 オレは魔法陣から離れ、背の荷物と腕の『ルネでらっくす Ⅵ』を床に置いて振りかえったんだが……
 時既に遅かった。

 シャルルの野郎がマリーちゃんをお姫様抱っこで抱え、医者はどうする? などとセリアと話しながら廊下へ向かうのを、オレは見送るしかなかった。ニーナも一緒について行ったようだ。

 マリーちゃんを抱えようと広げてしまった両手がマヌケだ……

 ならば、と疲労の色を隠せない幼馴染へと向き直る。

「ちょっ!」
 横からお姫様抱っこで抱きかかえる。
「何すんのよ!」
「立ってるのもやっとだろ、部屋まで運ぶよ」
 いつも暴れてるからごっついイメージだったけど、予想よりも軽い。やっぱ女の娘なんだな……

「な、なに言ってるのよ、下ろして」
 サラの鼻のあたりが赤くなる。
「べ、べつに病気じゃないし……は、恥ずかしいじゃない……」
「恥ずかしくねえよ、お前に何かあったらその方が困る」
「え…………」
 オレと目を合わせて、鼻の周囲が更にカーッと赤くなった。
「で、でも寝込むほどひどくない! だだだだいじょぶ、下ろして!」
 ったく、意地っぱりだな。
「わかった。じゃ、そこの椅子までにする」

 サラは俺の胸の方に顔を寄せ、小声で囁いた。
「ジャン……」
「ん?」
「……ありがと」

 テーブルの前の椅子に静かにそっと下ろして座らせた時、サラは頬から耳の先までぜんぶ真っ赤だった。

 部屋にやって来た従僕に、軽食とお茶を頼む。バテてる時は、食えるんなら食うのが一番だもんな。





「私の診たてでは、マリーさんは肉体疲労。病いではないと思います。しかし、大事をとって魔法医を呼びました。お体に異常が無いか調べてもらいます」
 シャルルと共に部屋に戻って来たセリアは、固い表情のままテーブルについた。
 従僕がセリアとシャルルにも紅茶を出す。
「今、マリーさんは治癒魔法がたいへんかかりづらい状態になっています。魔界でご自分に治癒魔法を多用し、無理に体を動かしていた為です……本当に申し訳なく思います」
 マリーちゃんは、魔界行きには乗り気ではなかった。説得して同行させ、魔法を多用させ、魔界の王との戦いの場を準備した事などに、セリアは責任を感じてるんだろう。最初に魔族の虜囚となっていた事も、負い目だろうし。
「大丈夫だ、セリア。私の診たてでも、マリー様は過労だ。充分な休息と睡眠と栄養のある食事をとっていただけば、お元気になるだろう」
 む。
 セリアの肩に手を置くなよ、スケベ貴族。
「それに、ニーナ様がつきそわれた」
 え?
「あの方は、心霊治療ができるのだ。魔法や古代技法とは別種の癒しだ。必ず良い効果があるだろう」
 心霊治療?
 ニーナは『英雄世界』で幽霊の子供の怪我を治していたが……そのことか?

「でも、しばらく安静ってことは……マリーさんは次の世界行きは無理ですね」
 と、サラ。こちらも顔色が悪い。体力と魔力を使い果たしたせいか、腹が空いてるみたいだ。果物やら菓子をパクパク食べている。
「そうだな」と、お師匠様が淡々と言う。
「マリーの神聖魔法に頼らずともどうにかなる世界へ向かうべきだな。次に赴く世界について、魔界でジャンとも話した。候補として、『冒険世界』を……」
「お待ちください、賢者様」
 セリアがお師匠様の言葉を遮る。
「次に向かう世界については、少々、ご決断をお待ちください。マリーさんの治癒をしながら、シャルルから聞きました。こちらに残っていた者達から提案があるそうです」

「提案ですか……シャルル様?」
 オレは尋ねた。相手は貴族。『様』付けを抜くわけにもいかん。

 お貴族様はフッと笑われた。
「待ちたまえ、ジャン君。今、主役がいらっしゃる。私とて語れぬことはないが、ご本人から説明いただこう」

 なにをだよ? と、思ってたら、扉がノックされた。

「失礼します!」
 入って来たのは、ワインレッドのドレスの女性だった。左手に黒い四角い箱を持っている。書簡入れぐらい?
 ドレスの大人っぽいデザインと色合いのせいか、引き締まった体に見える。けど、ウエストがあんまり細くない、ややぽっちゃりな体。

「おかえりなさい、勇者様、皆さま! 魔界から無事のご帰還、さすがです! 向こうで『ルネ でらっくすⅥ』はお役に立ったでしょうか?」

 ルネ……さん?

 オレは扉の前の女性に注目した。
 おかっぱの黒髪には葡萄を模した髪飾り、アンバー(琥珀色)の大きな瞳、ふっくらとした頬。
 幼く見える顔には、うっすらと品のいい化粧がほどこされていた。

 すっごくかわいい!
 かわいいけど……

「ロボットアーマーはどうしたの?」
 ルネさんは、いつもフル・ロボットアーマー姿だった。売れない発明家だから、自分の作品を着て、作品の優秀さをPRしていたんだ。
 オレはハッ! と、気づいた。
「もしかして、売れた? 買い手がついたの、『迷子くん』?」

「いいえ! 売れてません!」
 明るくルネさんが答えた。
「『迷子くん』は、魔王戦に使える発明品なので、現在、非売品としています! 魔王戦が終わるまでは、どなたにも販売しない事にしました!」
「んじゃ、メンテ中?」
「いいえー 別室に置いてあります。着替えて来ただけでーす」

「着替えて来た……?」
 なんで、わざわざ。
 ルネさんは照れたように笑った。
「いろいろありまして……シャルル様の前では、可能な限りドレス着用が義務となりました!」

 へ?

「素敵な女性には美しい装いを……。スポンサーからのささやかなリクエストだよ、ジャン君」

 スポンサー……?

 何時の間にやら席を立ったお貴族様は、エスコートするかのようにルネさんの手をとった。

「よくお似合いだ」
「すみません、ドレスやアクセサリーをいただいてしまって、こんな豪華なモノを……」
「支給品です。貴族サロンで発明品の発表をなさる折には、それ相応の衣裳が必要でしょう?」
「なるほど! さすがシャルル様! あ〜 でも、その時には今日みたいに着付けとメイクができる方を貸してください。化粧品って、何をどこにどれぐらい塗ったらいいのかさっぱりわかりませんので!」
「ハハハ。かわいらしい方だ。あなたづきのメイドも必要ですね、手配しましょう」

 なに?
 なんなの?
 なんで、こんなに親しげなの!

「スポンサーって……?」
 ルネさんを席へと案内してから、お貴族様が気障ったらしい仕草で髪を掻き上げる。
「ちょっとした縁があってね……私が個人的に、ルネさんの発明活動を援助する事となったのだよ。ゆくゆくは、ポワエルデュー侯爵家で後ろ盾(パトロン)となるつもりだ」

 なんだってー!

「むろん、魔王戦までは武器開発に専念してもらう。ああ、ジャン君、気にしなくていい。資金や機材や人手などでの、ほんのささやかな援助だ。勇者やその仲間に協力するのは、臣民の義務。私は当然のことをなすだけだ」
 なら、恩着せがましい言い方すんなよ。

 ルネさんは、資金難の発明家だ。スポンサーがついたのは良かったけど……
 なんで、こいつなんだよ……

 ワインレッドのドレスを着たルネさんが、オレ達を見渡す。
『迷子くん』装備時は、半透明なシールドガード付きフルフェイスのヘルメットで頭部を覆っている。素顔を見るのは、久しぶりだ。
「シャルル様からのご援助のおかげで、発明環境は飛躍的に改善されました! 開発に少し多めにお金を使えるようになりましたし、大学や工房の方が助手に来てくださったんです! 今まで勘で作ってた箇所を専門家にお任せできるし、ネジ作りとかの単純根気作業を代わってもらっています! しかも! 決まった時間に三食も食事が出てくるんですよ! もー 最高です! 夢のような環境です!」
 一番重要なのは食事か。

「専門家の方々から適切な意見をいただけましたので、現在開発中の武器も八割がた開発のめどがたちました。しかし、この世界の技術では解決できない問題がありまして……」
 ルネさんがすごく真面目な顔となる。
「安全かつ破壊力のある武器を作ろうとすると、どうしても大型化してしまうのです。しかし、英雄世界の方々は一般人。重たい武器など扱えるはずもありません」
 ルネさんが、ぐっと拳を握りしめる。
「軽量な金属、伝導率のいい回路、エネルギー変換効率のいいエネルギー媒体……何らかの技術進歩があれば解決できる問題なのです。しかし、時間が足りません。あと三十九日で魔王戦となる今、悠長に素材や回路を開発をしている暇がないのです。こうとなったら手は一つ!」
 強い口調でルネさんが言う。

「この世界より科学技術が進歩した世界に行き、必要なものを持ち帰る! これしかありません!」

 はあ。

「よその世界から? 何を持ってくるの?」
 あっけにとられながらオレが聞くと、ルネさんはハキハキと答えた。
「わかりません。でも、行けば必ず見つかるはず! 知識でも技術でも素材でも何でもいいんです!『あ、これは使えそう!』というのをかたっぱしから持って帰ればいいんですから!」
 むぅ。
 ルネさんらしい。

「116万4706以上のダメージを出せる女性との遭遇率が50%以上の世界は、八つ。私の記憶が正しければその中で最も科学技術の高い世界は、『エスエフ界』のはずだが」
 シャルルにセリアが同意する。
「その通りです。エスエフ界出身の七十八代目勇者様の書によると、あちらでは生活の全てが機械化されているとのこと。人間そっくりな機械が存在し、移動魔法に酷似した空間移動技術があり、科学技術で人工生物すら誕生させているとか……」

 エスエフ界の人間は、科学技術を通して、神にも等しい所業をしているのだ。
 その技術を応用できれば……いや、いっそあの世界の武器をオレらの世界に持ち込めれば……魔王への大ダメージも可能そうだ。
 あの世界なら、戦闘能力の高い女性に出会いやすそうだし……

「エスエフ界行きが希望なのだな?」
 お師匠様の問いに、ルネさんが頷く。
「はい! 私とニーナさんを一緒に連れて行ってくださいませんか?」

 ニーナ?

「何故だ?」
 お師匠様が無表情のまま、微かに眉をしかめる。
「おまえを伴う理由はわかる。だが、何故、ニーナを連れてゆかねばならん?」

「幽体であるニーナさんには、魔法とは似て非なる能力があります。シャルル様は心霊能力とおっしゃってましたが、凄い能力です。それを新エネルギーとして利用できないものかと思いまして!」
 ルネさんが持って来た黒い四角い箱を、じゃじゃーんとばかりにオレらに見せる。
「蓄霊器『霊力ためる君』です! まだ試作機なんですが、すごいんです! ニーナさんにほんの三十秒持ってもらうだけで、石を蒸発させちゃうほどのエネルギーを貯められるんです!」
 はあ。
 ルネさんが唇をとがらせる。
「もっとびっくりしくてださいよ、勇者様。同じ事を同サイズの魔法機関にさせたら、五分以上かかるんですよ。画期的な発明品なんですよ、これ」
 はあ。
「心霊能力は、エネルギー変換効率に優れたエネルギーです。残念ながら、現在、霊力を蓄霊しようとするとどーしても機械が大型化しちゃうんですが……エスエフ界の技術をもってすれば、小型化も可能となるでしょう!」
 なるほど、向こうで蓄霊器開発をする為に、ニーナを同行させたいのか。

 お師匠様は顎の下に手をあて、瞳を細めた。
「ルネ。聖教会の者に、その機械のシステムについて相談したのか?」
 ルネさんが、きょとんと目を丸める。
「え? いえ、してませんが……」
「ならば、ニーナの心霊能力をエネルギーとして使用する事は認められん」
 お師匠様が淡々と言う。
「本来、昇天しているべき存在の能力なのだ。魂の一部の可能性もある。それを削れば、幽体がどうなるのかは……説明せずともわかるな?」
「魂の一部? いや、そうとは限りませんよ。協力していただいても、ニーナさんけろっとしてますし。きっと、髪の毛とか爪の先程度の」

「だから、相談しろと言っているのだ」
 お師匠様が珍しく強く言う。
「私の杞憂かもしれん。だが、仲間の命に関わる事なのだ。確認してくれ」
「はい……」
 ルネさんがちょっとうつむく。
 ニーナの力を使うつもりで、既にいろいろ発明のアイデアを練っていたんだろう。
 けど、お師匠様の言葉ももっともだ。ニーナの身に何かあってから後悔しても遅い。

「そうですね……発明は生活をより豊かにし、みんなに笑顔を運ぶ為にあるんです。誰かを不幸にしたり、犠牲にしたりする発明品なんて、あっちゃいけないですよね……わかりました、聖教会に相談に行ってきます」
 でも、答えはすぐにもらえるでしょうか? と、ルネさんが首をひねる。
「もちろん、ニーナさんに危険とわかったなら、開発は即中止し、別のエネルギーを探します。けれども、聖教会の方は機械にうといでしょうし、幽霊の能力は解明しきれぬ点がまだまだ多いです。調べるからしばらく待ってね、後日に来て〜 と、言われるかもしれません」
 まあ、その可能性もあるか。
「蓄霊器開発は、はっきりするまで保留とします。けれども、次に赴く世界は是非、エスエフ界で! 後日に蓄霊器開発がGOとなるかもしれませんので、やはりニーナさんにも同行してもらいたいのですが」

「ニーナの同行には、本人とオランジュ伯爵アンヌ様の許可が必要だ」と、お師匠様。
「それならだいじょーぶです、許可はもらってありまーす」
 と、ルネさんが明るく言う。
「実は、霊力のエネルギー化にはニーナさんが一番乗り気でして」
 ニーナが?
「魔王戦で何をすればいいのか悩んでいたみたいですよ。セリア様やサラさん達が喧嘩にならないよう、みんなが喜ぶ形で役に立つことはできないかって」

 セリアがちょっと顔を曇らせる。
 仲間は誰であれ戦闘に参加させる、ニーナもアタッカー枠に入れると言ったのは、セリアだ。
『アタッカーが一人減れば、それだけ総ダメージ1億が遠のくのですよ! 勇者様の勝利への道が厳しくなります!』と、心配してのことだが。
 けど、オレもサラも子供を戦闘に参加させるのは反対だ。ニーナは、ずっと子供のままこの世界に留まっている。心は子供のままなんだ。戦わせたくなんかない。

「蓄霊器に霊力を貯めるだけなら戦闘には参加しない。でも、攻撃の役には立つ。だからやりたいと、ニーナさんがアンヌ様を説得したんです」

「わかった、エスエフ界にはおまえとニーナを伴おう」
 お師匠様が息を吐く。お師匠様って、何のかんの言うけど、ニーナには甘いというか優しいよな。

「ありがとうございます! 賢者様!」
 ルネさんが両手をあわせ、感激してお師匠様を見る。

「それから……」
 お師匠様はサラへと視線を向けた。甘いもので活力補給をしているものの、サラは魔界の王戦で体力も魔力も使い果たしてるんだ。
「次回は残るか、サラ?」

「いいえ、大丈夫です! 食べて寝て起きれば、元通りです! 私、体だけは丈夫ですから!」
 絶対、ついて行く! サラの顔はそう叫んでいた。

「よろしければ、サラさん、今夜ポワエルデュー侯爵家にいらっしゃいませんか?」
「え?」
「は?」
 オレらの視線が一斉に、お貴族様に向く。
 デートの誘い……?
「当家は、代々魔法騎士を輩出してきました。魔力回復及び魔力増強用の食事も秘伝として伝わっています。決して美味なものではないのですがね……ご希望でしたら、今宵、秘伝のメニューを用意いたしましょう」

「でも……」
 ためらうサラに、お貴族様が爽やかな笑みをおみせになる。
「実は、妹のシャルロットがあなたに会いたがっているのですよ。魔術師学校代表となったあなたを誇りと思っているのでしょうね。今宵、三人で食卓を囲みませんか?」

「シャルロットさん……」
 サラが急に真面目な顔となる。
「お会いしたいです……シャルロットさんにはちゃんとお礼を言いたかったんです……素晴らしい杖とローブをいただいてますから……」

「では、決まりですね」
 お貴族様はジョゼに対し『申し訳ありません。サラさんは妹の客人として招きます。次の機会には、ジョゼフィーヌ様をお招きします』と許婚としてのフォローをしてから、お師匠様に断った。
「サラさんはポワエルデュー侯爵家が責任をもってお預かりします。今日よりも良い体調とし、明日の朝にはオランジュ伯爵邸にお戻ししましょう」
 お師匠様が頷きを返し、サラに旅の支度もしておくようにと言う。エスエフ界にサラを伴う気のようだ。

「あと一人は……」
 お師匠様が思案するように、うつむく。

「アナベラさんとリーズ嬢は遺跡探索中、パメラ嬢は獣使いの師と旅行中、カトリーヌ嬢とイザベル嬢は行方不明です」
 仲間の動向をシャルルがお師匠様に伝える。
 けど……
 行方不明……? カトリーヌは雲隠れしてるんだろうけど……
「イザベルさんは旅行でしょ?」と、オレ。
「そうだな。誰も行き先を知らないご旅行中だ。精霊を使っての旅なのだろう。今、何処で何をなさっているのかまったくわからない。諜報組織ではつきとめられないのだ」

 イザベルさんが行方不明……
 オレは胸のポケットに手をあてた。
 そこに、イザベルさんから貰ったお守りがあるんだ。
 親指ぐらいの小箱だ。『魔界を旅する間、お守りとなります。私と思って、肌身離さず身につけてください。中を覗いては嫌よ』と書かれた手紙と共に届いたんだ。
 魔界では、ドカ〜ンな攻撃をくらったり、ラミアにギュムギュムされたり、サラにぶちのめされたりした。けど、小箱は壊れていない。

 無事に還ってこられたのは、イザベルさんの守護の力もあってなのかも。

 オレは、服越しに小箱をぎゅっと握りしめた。

「最後の一人は……ジョゼとしよう」
 義妹がホッと息をつき、セリアが眉をひそめる。

「よろしいのですか、マリーさんも私も無しで。強化補助及び回復の使い手がいなくては、旅が困難となりませんか?」
「わかっている。おまえが居た方が、安心だ。だが、ジャンの精霊が居り、ニーナも強化補助及び回復の能力がある。どうにか手は足りる……セリア、おまえにはこの世界に残ってもらいたい。仕事を頼みたいのだ」
「何でしょう?」

「天界の魔法陣を反転させる事で魔界への道が開けた。それと同じ方法で他の魔法陣も反転できぬか研究してもらいたいのだ……可能ならば、精霊界の裏世界へ行きたい」
「精霊界の裏世界……」
 歴代勇者の書を用いて赴ける世界で、大ダメージを出せる女性とオレが出会える確率が80%以上の世界は二つしかなかった。天界と精霊界だ。
 天界の魔法陣を反転させて行った魔界には、むちゃくちゃ強い魔界貴族がいて、超強い魔界の王が居た。
 それと同じように、精霊界行きの魔法陣を反転させた世界は、精霊並の存在がゴロゴロしているかもしれないんだ。

 セリアが、きりっと表情をひきしめる。
「了解です。すぐにも研究を始めましょう」
「頼む。賢者の館には、勇者の書以外にもさまざまな特殊な書がある。書庫を開放する。おまえの知識と知性をもって、異世界への道を探してくれ」

 精霊界の裏世界は、もしかしたらショボンな世界かもしれない。
 博打みたいなもんだけど、当たりゃ大きいし、成果無しでも余所の世界に行けばいいだけの事、損をするわけじゃない。
 魔王が目覚めるのは三十九日後だし、それまでにやれる事はぜんぶやって可能な限りよさげな未来を選ぶべきだ。
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