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ハーレム100 作者:松宮星

魔界

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サキュバスと勇者  【ラモーナ】(※)

 自覚はある。
 オレは、馬鹿だ。

 だが、しかし、十才のオレはオレを上まわる馬鹿だった。

『勇者の書 101――ジャン』に、下手くそな字のページが増えていた。
 記憶喪失のオレが書いたものだ。

 それによると、十才になってたオレは……

 スライムとゾンビにキュンキュンしたらしい。

 初心者向けモンスターじゃん!
 スライムなんて、HP10のガキでも倒すぞ! ゾンビは毒持ちが多いから、HP10じゃきびしいけど、毒消しがあれば20で倒せちゃう世界もある。
 そりゃ、中には、ちょ~強いラスボス級のスライムやゾンビが居る世界もあるけど……
 魔界のは雑魚だ。
 魔王に100万以上のダメなんて、絶対、無理!

 二人分で、だいたい236万ダメージ借金増加……
 オレの馬鹿!


 しかも、ガキだからこわいもの知らずだ。
『マッハな方』やお師匠様にインタビューしてるし。

『マッハな方』は、多分、人間の男性。十二の世界で奇跡代行をするアルバイター。
 雇い主はキャピリン女神じゃなく、別の神様。
 だいたい、そんなことが書いてある。

 よく聞き出せたものだ。
 憑依されている間も、マリーちゃんは意識がある。
 つまり、会話を聞けたわけで……
 マリーちゃんが『マッハな方』のことをちょっとでも知れたんだ。それは良かったと思う。

 とはいえ、無神経なお子様は……
 お師匠様にフォーサイスのこと、ズバリ聞きやがったんだ。

 知りたかったよ、すっごく!
 けど、聞き方ってもんがあるだろ!
『死んだ恋人ってだれ?』とか、デリカシーなさすぎだよ!
 だから、ガキは嫌なんだよ!

『フォーサイスは恋人ではなかった、死んだ恋人などいない、ユナの勘違いだ』ってお師匠様は答えた。

……ちょっぴり気持ちが楽になった。
 けど、モヤモヤは晴れない。
 お師匠様の勇者の書を読んでるから、知ってる。
 フォーサイスは、挨拶代わりにお師匠様にプロポーズするような奴だった。
 恋人ではなかった(イコール)好きではなかった、じゃない。
 その上、フォーサイスはお師匠様をかばって死んだみたいだし……

 二人の絆は深いんだ……


 十才のオレのページを見ると、イライラする……

 馬鹿のくせに、かなりおいしい目に遭ってるし!

 ベティさん……今は生首の死霊王。失った肉体は、おそらくボンキュッボン。そんなベティさんに頬を舐められた〜?

 エドナ……下半身は蛇、上半身は人間の女性、しかも裸。そんなエドナに蛇身でギュムギュムされ、大接近した〜?

 ノーラ……裸マントな吸血鬼。凹凸はささやかだが、中性的な美形らしい。そんな吸血鬼がマントを乱して戦う姿を目撃し、足を開いて転倒したところを見た〜?

 ラッキーすぎ!

 そして、お師匠様に聞いた話によると……
 サリーに操られたサラとセリアとジョゼに抱きつかれ、チュッチュされたみたいだ……全員、下着丸見えのスケスケドレス姿だったそうで。

 あああああ……

 気まずい。

 十才のオレ、セクハラしてるし……
 サラに『ぺったんこ』、ジョゼには『胸が大きいね』のようなセリフを言ったらしい。
 オレの好感度は、ぐ〜〜〜〜〜んとマイナス。
 なぜか、セリアまで怒ってる。大小のコメントすらしなかったからか?

 だが、しかし……
『ぺったんこ』『大きい』の記憶自体、オレにはない。

 見たのも、その台詞言ったのも、オレじゃねーんだよ!

 チクショー!
 なんで嫌われなきゃいけないんだ!
 うふふな体験したのはオレじゃないのに!

 二度と、記憶喪失になんかなるもんかっ!





 オレらは、死神サリーの城にお邪魔した。
 サラ達を取り返したけど、オレらを守って四散したティーナ達がまだ復活してない。しばらく魔界に居なきゃいけない。

 おとぎの城は、中もすごかった。綺麗なシャンデリア、透かし彫り、彫刻、メルヘンチックな家具……女の子が喜びそうな、かわいくてゴージャスな内装だ。
 で、城の中には死神サリーの人形……サリーお気に入りの生き物がいっぱい居た。
 美形魔族、美形モンスター、美犬、美猫、美兎……みんな、頭に輪っか飾り、背中に白い翼。
 天使のコスプレをしている。

 天使の装いをさせた生き物を可愛がるのが、死神サリーの趣味らしい。分身の魔法を使って、一体一体を可愛がる寵愛っぷりだ。
 人間に対する支配力を失ったんで、人間の美男美女はもとの世界に還さないといけなくなった。が、それでもまだお人形は百体以上いるそうで……
……元気な堕天使だ。

「サリーさま〜 スライム食べたい、狩ってぇ〜」
「サリー、剣の稽古を頼む」
「サリーちゃん、ねむれないの。ご本読んで」
「昨日、脱皮して体がかゆいのぉ〜 さすってぇん〜」

 わがまま言う魔族やモンスターの世話を、サリーは嬉々としてこなしている。犬や猫や兎を抱っこして、うっとり顔でブラッシングしてるサリーも居る。

《アレが死神さまの本性なのさ》
 オレの頭の上で、生首のベティさんがヒヒヒと笑う。オレの頭の上にのるのが気に入ったとか言ってるし。十才のオレとそれなりに仲良くやってたみたいだ。
《サリーは堕天する前、天界のおエライ天使様の右腕だったんだ。そいつに何千年もアゴで使われてもんだから……このありさまだよ! おエライ天使様の支配下から離れたってのに、奴隷根性が抜けないんだ。美しい存在に命令されるのが、快感なんだとさ!》
 ベティさんの笑いが、ゲヒヒと下品なものになる。
《ご主人様がいなきゃ生きてけないんだよ! このかいがいしい召使い姿、こいつの所属世界の奴等に見せてやりたいもんだ!》
 所属世界じゃ、サリーは冷酷な死神王としてふるまっているらしい。
 ニヤケ顔で美しいものに奉仕する堕天使が、所属世界じゃ最高位の暗黒神なのか……

「命令してって頼まれたから、あたしは魔法の先生になってもらったわ」と、サラ。
「格闘の相手をしてもらいました……」と、ジョゼ。
「魔界の歴史と現状を教えていただきました」と、セリア。
 みんな天使コスプレじゃなくって、いつもの格好だ。もともと着てた服をサリーに命じて出させたらしい。
 誘拐され愛玩人形にされたって話だけど……無事すぎるくらい無事だったみたいだな、三人とも。

 まっ先にセリアが吸血鬼王に捕まり、『こいつの命が惜しくば言うことをきけ』ってお約束の脅迫をされてジョゼもサラも投降したようだ。
 その時、軽い精神暗示をかけられ反抗心を奪われていた。
 オプションって事で炎の精霊アナムも雷の精霊レイも、四散されず残されたようだ。
 でもって、サリーに売られてからは、主人はむろんぬいグマ&鳥も天使コスプレをさせられサリーにかわいがられていたらしい。『吾輩』口調のレイも天使だったのか。ちょっと見たかったかも。

「提案があります」
 メガネのフレームを押し上げながら、セリアが言う。
「余人を交えぬ部屋で、魔界の伴侶の方々と共に相談したいのです」


 サリーが案内してくれたのは、テーブルクロスからしてレースひらひらの乙女チックな内装の部屋だった。
 オレら勇者一行+死霊王ベティさん+吸血鬼王ノーラ+死神王サリーがテーブルにつく。
 サラの炎の精霊アナムはクマのぬいぐるみで、ジョゼの雷の精霊レイは紫の小鳥の姿で、主人と共に席に着いている。

 そこで、セリアの提案を聞いた。

「魔界の王を仲間にする……?」

 学者はうなずいた。
「現在、魔界には三十六の魔界貴族がいます。ですが、死神王から話を伺ったところ、貴族にまでなりあがる実力者は限られています。種族でいえば悪魔・鬼・堕天・吸血鬼等の不死生物が多い為、所属世界で名乗っているジョブにも偏りがでています。現在、死神王が七人、死霊王が六人、吸血鬼王が四人いるようで……他貴族の領地を巡ってもジョブ被りする恐れが強いのです」
 あらま。
「更に言えば、魔界には人間を安全に運ぶ移動魔法がありません。魔界の乗り物を使用すれば、移動速度はあがります。しかし、何十日もかけねば遠方までは行けません。そして、」
 セリアがチラリとマリーちゃんを見る。『マッハな方』憑きのマリーちゃんは両腕を組んでふんぞりかえって座ってるんだが……顔色が良くない。目の下にも隈がある。
『勇者の書』にも書かれているけど、神降ろしってのは半端なく疲れるらしい。神をほんの短い時間降ろすだけで二〜三日倒れちゃう巫女さんも居た。
 むろん、降りて来るものとの相性や器となる人間の体質にもよるが……マリーちゃんが優秀な器なんだとしても、ここ数日ずっと体をのっとられぱなしだし、神聖魔法をバンバン使ってる……相当、疲労が蓄積しているはず。
「それほど長い滞在はできません。ならば、大物を狙うべきでしょう」

 だから、魔界の王なのか……

 魔界の王は、全魔族の王ではない。魔界と呼ばれる世界のみの王だ。
 けど、一癖も二癖もある魔界貴族達が従ってるんだ、『王』と認められる実力があるのだろう。

《魔界の王にも足形をつけるのか、面白い》
 ネズミになってテーブルにのっかっている吸血鬼王が、くつくつ笑う。裸マント姿には、もうならないのかなあ……
《あたしのお(うち)からー 王さまのとこまで、マホウの馬車で三日かなー》
 幼い子供の姿の死神王が、イスをガタガタゆらしながら言う。右目にハート型の眼帯をつけてるせいか、悪戯っ子姿が実にラブリー。子供だと受けがいいんで、基本、この姿らしい。
《魔界の王はちょー忙しい方だ。めったなこっちゃ面会できないけど、会おうと思やすぐに会える。挑戦なら必ず受けるからね。何してよーが、時間をつくって戦ってくれる》
 首から上しかないベティさんも、テーブルの上にのっている。手がないから自分じゃ化粧を直せないだろうに、白粉べったりだし黒のアイラインも口紅も濃い。魔法で顔を作ってるんだろうか。

 王に挑戦するのなら道案内しようと、三体ともご機嫌だ。他人の不幸は己の愉しみ。魔族には仲間意識が無いんだ。

「魔界の王への挑戦、了解した。お膳立ては、メガネに任せる。俺の内なる霊魂が休息せよと俺に求めている・・・俺は眠る。眼帯、俺の体を運べ」
 言うだけ言って、『マッハな方』は胸のペンダントを握りしめストンと眠ってしまった。椅子で寝てるよ。よっぽど疲れてるんだろうなあ、マリーちゃん……

「魔界の王への挑戦は早くて三日後。その前には、勇者様の精霊も復活するでしょう。ジパング界では六日で復活したことですし」
 ティーナ達がオレらをかばって散ってから、今日で四日。魔界の王との対決前に帰って来てくれるだろう……たぶん。
「魔界の王を仲間とした後、帰還。その方向でいきましょう、勇者様」


 死神王の空飛ぶ馬車で、魔界の王の支配地域に向かった。天使の白い翼と輪っかつきの馬車だ。十二人がけのビックサイズだから、マリーちゃんは横になって眠ることができた。
 飛行馬車なんで、窓から見える景色は雲ばかりだった。たまに下を覗くと、針の山、炎の河、氷の谷、骨の森、血の池、ゼリーみたいにぶよぶよな海、腐敗しきった街等々……陰気になる景色ばかり広がっていた。

 移動時間を、オレらはそれぞれ自分の為に使った。

 サラは、子供姿の死神王から炎以外の魔法を操るコツを教わっていた。
 ジョゼは雷の精霊レイとイメージトレーニングをしていた。『雷神なんちゃら拳』を習得する為だ。
 セリアは、ベティさんと吸血鬼王からいろいろ話を聞き、メモをとっていた。

 お師匠様は、時折、サラに魔法のアドバイスをしていた。が、基本、無口だ。
 次に向かう世界について相談すれば、一緒にあれこれ考えてくれ、どの世界でどんなジョブを仲間にできるか教えてくれる。
 けど、ああしろこうしろみたいな事は言わないし、自分からはオレに話しかけない。
 天界でも、そうだった。
 英雄世界の霊能者のヤチヨさんから『言葉の呪で勇者を縛るな、未来は本人に委ねよ』と助言され、イザベルさんからも同じような助言をされたと言っていた。
 そのせいで、賢者にならなくていいと言うようになったんだが……
 百一代目勇者の人生は本人の自主性に任せる。あくまで主体はオレ、求められた時にのみ助言を与える。でも、基本は放置……そう考るようになったんだろうか?
『二度と誤らない。必ずおまえを正しい道に導いてやる』って言ったくせに……
 十才のオレには、いっぱい助言をして、抱きしめたりしてたみたいなのに……
 なんか……すっきりしない。モヤモヤする。

 オレはお師匠様にいろいろ質問した。
 異世界への転移・帰還魔法の呪文やその原理。
 魔王戦前に勇者がしておくべき事。
 魔王戦当日の流れ。
 魔王城への行き方。
 異世界に居る伴侶達を召喚・帰還させる魔法の呪文やその原理、等々。

 今までも質問してはきたが、仲間探しの忙しさの合間をぬってのこと。
 次にいつゆっくり時間がとれるかわからない。もう二度とないかもしれない。そう思って聞いておくべきことは、思いつく限り聞いてみた。
 魔王戦まであと四十日。
 その日を嫌でも意識するようになってきた。


 魔王の支配領域に入る前日、オレの精霊達は戻った。呼びかけに応え、オレのもとへと駆けつけてくれたんだ……光の精霊ルーチェさんを除いてだが。
《魔界には光系物質は、ほぼございませんもの。再構築する為に必要なモノを吸収しきれず、復活に手間取っているのでしょう》と、氷の精霊グラキエス様。
《ま、たぶん大丈夫。あいつ、しもべ経験豊富だし、いろいろ工夫して頑張ってるはず。効率悪いけど、闇物質を反転させるって手もあるしね》と、風の精霊アウラさん。
 う〜む。
 魔界の王を仲間にしても、ルーチェさんが戻らないことにはもとの世界には還れないぞ。


《魔界の王への挑戦の仕方は、いっぱいあるよ。軍勢を激突させ、最後に大将戦ってのが一番華があるんだけどさ》
 ベティさんが、イヒヒと笑う。
《楽ちんなので、いこう。側近をぶっ倒しゃ、魔界の王の自室につながるルートがぶんどれる》

 てなわけで飛行馬車は、魔界の王の側近ラモーナの屋敷へと乗り込んだ。
 魔界の王の秘書だそうだ。

 戦闘前、上空から屋敷の様子をうかがった。人間界とよく似た庭木のある庭に、オークや狼男などのモンスターがうろうろしていた。皆、武装していた。ラモーナの手下のようだ。
《魔界の王の居城に比べれば、警備の者は千分の一も居るまい。紙の城を落とすも同然だ》
 ノーラは銀狼に変化した。警護を倒す気まんまんだ。さすが魔族、戦闘マニア。だけど、戦いでも人型にならないのか……がっかり。

 魔界貴族のくせに戦ってもいいの? ってオレが聞くと、デッカイ鎌を持ったチビッ子サリーはにっこりと笑った。
《へーき、へーき。まけてもころされるの、タイショーだけ。あたしたち、ユーシャくんのしもべだしー いくらあばれても、おとがめなしなんだ♪》
 あ、そ。

 セリアが先制攻撃の法を唱え、死神王と吸血鬼王が戦い、ジョゼも参戦したんだ。警備の奴等は、バッタバッタとやられてゆく。
 精霊達には防御を頼んだ。けど、ヤバくなるまで頑張らなくていいって命じてもある。ここで四散されたら、帰りがますます遅くなる。
 眠ってるマリーちゃんの体は、空中浮遊の魔法を使ってサラが運んでいる。空中浮遊は風系の魔法だ。制御するのが難しいらしく、サラは必死の形相だ。アウラさんからの助言を聞きつつ、アナムを自分に同化させて魔力強化をしながらではあった。が、何とか運んでいた。
 ベティさんを頭にのっけたオレは、仲間が切り開いてくれた道を通って屋敷の奥へと向かい……

 魔界の王の側近と対面した。

 魔界の王の側近は八人居る。
 その中から、ベティさん達は悪魔ラモーナを選んだ。
 ラモーナの屋敷に、オレを連れてったのには理由がある。
 会った途端、オレは理解した。
 オレ向きの敵なんだ。

《あたくしの庭でおいたをなさったのは、あなた達?》

 天蓋つきの大きなベッドから、その方が現れた途端……
 オレは素直に反応していた。


 オレのハートは、キュンキュンキュンキュンと鳴った……

 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。

《あと四十〜 おっけぇ?》
 と、内側から神様の声がした。


《はや! もう萌えたのかよ! イカスわ、勇者のおにーちゃん! 記憶が戻っても、あんた最高ー!》
 オレの頭の上で、ベティさんがゲヒヒヒヒと笑いだした。

 いや、だって、萌えるでしょ!

 きゅっとウエストを締めあげる黒のコルセットは、胸元が大胆にカッティングされている。豊満な胸は紐で縛りつけられても、尚、たぷんたぷんで……
 その下は何も隠せないんじゃないかってぐらい小さい黒下着! まぶしい白い太もも! 艶っぽい黒のガーターストッキング! 黒のピンヒール!
 S級のボンキュッボン!

 ゆらゆらと揺れるオレンジがかった赤い髪からはヤギのような角がのぞいているし、背には尖った爪つきのコウモリの翼がある。尻尾もあるみたい。
 悪魔だ。
 だけど、美人!
 超セクシー!

 やや目尻の下がった紫の瞳、色っぽい泣きぼくろ、肉厚の真っ赤な唇。お色気いっぱいの、見るからに好きそうな……いやいやいやいや!
 すっごい魅力的だ!

《エロくてあたりまえだ、淫魔なんだから》
 そっか、淫魔なのか……
 だから、男の夢みたいな姿なのか……
《ラモーナも、ノーラと一緒。偏食なんだよ。男の精気しか吸わない。野郎に化けりゃ女も堕とせるのにさ》
 インキュバスにはならず、常時、サキュバスなのか……
 常にこの素晴らしいお姿なのか……萌えるぞ。

「交替だ」
 オレの横をズンズンズンとマリーちゃんが通り過ぎる。
 起きたのか……と、思った時には、アレな方に憑依されたマリーちゃんが決めポースをとっていた。

「誘惑の現行犯だ。サキュバスよ・・・以下、マッハで省略」
 体調が悪いせいか、かなり投げやり。
 聖女様は、だるそうに悪魔を蹴り飛ばし、ゲシゲシと踏んづけ始めた。

 絹を裂いたような悲鳴が響き渡る。

 ああああ……サキュバス様が……

 オレの頭の上のベティさんも銀狼もチビッ子堕天使も大喜びで、聖痕を刻まれているサキュバスを見学してる。
 十才のオレが『勇者の書』に書いてた通りだ。本当、仲が悪い……


 魔王が目覚めるのは三十九日後だ。


 額をおさえ、サキュバスのラモーナはシクシクと泣いている。
 誘惑が仕事みたいな種族だ、顔に足形つーか靴形があっちゃマズイよな。ちょっと同情……

 寝室の奥には、白い扉があった。
《直通の魔法通路よ。王に挑みたければ、通りなさい》
 ぷいっと顔をそむけたサキュバスの背中を、マリーちゃんが蹴っ飛ばす。そんなに足をあげたら中が見えて……
「きさまも入るのだ」
《え?》
「きさまとて、もはや勇者のしもべ。共に戦え」
《冗談はおよしになって! あたくしは、偉大な王に忠誠を捧げているのよ! 暴漢ごときに屈するわけ》

 ラモーナは最後まで言えなかった。
 マリーちゃんに蹴り飛ばされ、ゲシゲシと踏んづけたられたからだ。
 あは〜ん、いや〜ん、と色っぽい声でラモーナが悲鳴をあげる。
……わりとあっさり屈しそうだ。


 セリアがぶつぶつと呪文を唱えながら、さまざまなポーズをとっている。古代技法の仕込みをしてるんだ。
 サラはアナムをとりこんだ上で魔術師の杖を持ち、精神集中をしていた。
 ジョゼもレイを体にとりこんで、気を高めている。

 これから魔界の王と対決するんだ。
 オレが萌えりゃ、相手は人間に悪さができなくなる。戦闘は終わる。
 だが、萌えられなかった場合……恐ろしい展開となる。
 相手はオレらの世界の魔王より強い……絶対だ。

《ギブアップはできてよ。でも、負けを認めたら、大将は偉大なる王の裁きを受けるの。奴隷に堕とすか、処刑するか、氷結地獄に閉じ込めるかは、王のご気分次第ね。覚悟はよろしくって?》
 負けても、部下達はおとがめなしらしい。
 けど、負けたら、オレの勇者人生は終わりだ。
 頑張って、萌えねば!

 マリーちゃんが、自分にアレな回復魔法を唱える。でも、顔色は青白いままだ。相当バテてるっぽい。
 すごくつらそうなんで……
 手をさしのべた。
 が、スネを蹴り飛ばされただけだった。

「気色悪い真似をするな、マリーの下僕。内なる俺の霊魂は、マッハできさまに嫌悪を感じている・・・」
 いや、オレだって男の手を引く趣味は無いよ。
 けど、オレらを守る為……いや、オレらを守りたいって願ったマリーちゃんの為に、無理してくれてるわけだし。
 何にも返せない自分が情けない。

 とっとと萌えよう。
 これ以上無理をさせても悪いし。

《さ。扉を開けとくれ、大将》と、ベティさん。

 オレは白い扉の取っ手に手をかけた……


* * * * *


『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き

●女性プロフィール(№060)

名前     ラモーナ
所属世界   魔界
種族     サキュバス(悪魔・淫魔)
職業     魔界の王の秘書
特徴     超色っぽい、エッチな格好のおねえ様。
       夢で男を誘惑し、精気を吸い取るらしい。
       魔界の王の側近だから強いはず。でも、
       オレが即萌えしちゃったんで実力不明。
       おでこにマリーちゃんの聖痕(足形)を
       つけられている。
       魔界の王を慕っているが、暴力に弱い。
戦闘方法   精気吸収。
年齢     不明。
容姿     超美人で、S級ボンキュッボン。
       ヤギのような角。尻尾もある。
       背には尖った爪の付いたコウモリの翼。
口癖     不明。
好きなもの  男の精気を吸う。
嫌いなもの  女の精気を吸う。
勇者に一言 『あたくしの庭でおいたをなさったのは、
       あなた達?』
挿絵(By みてみん)
+注意+
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