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ハーレム100 作者:松宮星

魔界

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ラミアの歌声    【エドナ】(※)

 ベティさんが、箱馬車を魔法で呼び寄せた。丸くてオレンジで穴が開いてて……カボチャのランタンそっくり。御者はスケルトンで、馬も骨だった。魔族と魔界の馬のガイコツらしい。

「移動魔法ぐらい使えんのか?」
 尼僧さんは文句を言ったけど、首だけになったベティさんは涼しい顔だ。
《あたしや眷族だけならね、自分の領地内の移動は思いのままさ。けど、人間を無事に目的地まで運ぶ魔法なんざ知らないよ。ぺっちゃんこに潰れてもよければ運んだげるけど》
 尼僧さんは舌打ちをしてからカボチャ馬車に乗り込んでどっかりと座り、ベティさんの首を横に置いた。
 オレとお師匠様は荷物を置き、尼僧さんと反対のシートに座った。

「首。わかりやすく、明快に、簡潔に、魔界について語れ」
 尼僧さんに命令され、ベティさんが魔界について教えてくれた。

 魔界には、今、魔界の王と三十六の魔界貴族がいる。
 けど、魔界の王が貴族たちよりエライってわけでもないと、ベティさんは言った。魔界の王は魔界という魔族交流空間の責任者みたいなもんで、土地を切り取って魔族に貸し出しているらしい。
 魔界に領土を持つ(イコール)貴族になるって事。ある程度の実力者じゃなきゃ土地が持てないんで、貴族になること自体が魔族の中じゃステータスになっているようだ。
 といっても、貴族たちの活動の中心はそれぞれの所属世界。魔界は他の魔族との交流の場で、そこに持つ土地も城も別荘みたいなものらしい。
 で、争い好きの魔族たちは、貴族の称号や土地を景品に戦ってるようだ。戦争や部下の反乱も、しょっちゅうなのだそうだ。

 勇者一行が、最初に出現したのは吸血鬼ノーラの支配地『銀狼の森』。
 その森の西はベティさんの荒野に、北は死神サリーの谷に、南がラミアのエドナの湿地につながってるのだそうだ。

《魔界での出来事は所属世界にいても伝わってくる。お隣さんがトラブルに巻き込まれた日にゃ、必ず覗きに行くし、場合によっては加勢する。隣の馬鹿を助けるか、攻め手の方につくかは、その時の気分次第だけどね》
 ベティさんはグヒヒと笑った。
《遠眼鏡の魔法で、あんたらがノーラとやり合うとこ見てたよ。魔法がぶつかりあって、空間が歪んだろ? あん時、おもしろそうなんで、介入したんだ》
「何をした?」と、尼僧さん。
《たいしたこっちゃないよ。ノーラの領地じゃあたしの力も制限されるからね》
 イヒヒと楽しそうに笑うベティさん。
《あんたとノーラが自分の術で手いっぱいになっていたあの時にさ、ほんの短い間だけ扉を置かせてもらったのさ。出口が、あたしの庭に通じる扉をね。そいつを通って、あんたらはあたしの荒野までやって来たってわけさ》
 ベティさんの笑いがゲヒヒと下品なものになる。
《あん時のノーラのマヌケ(ヅラ)ときたら! 獲物を横取りされてあの澄まし屋、ヒスおこしてさ! おかしいたら、ありゃしない!》

「なるほど・・・わかった」
 尼僧さんはフッと笑みをつくると、
《ぎゃあっ!》
 ベティさんの頭のてっぺんにヒジ鉄をたたきこんだ。
「俺達をバラバラにしたのは、きさまの変な術だったのだな」

《待った、待った、待った〜! あたしのせいだけじゃないよ! あん時は、エドナも魔法を使ってた!》
 む?
「エドナとは南の湿地のラミアだったな?」
《ああ。エドナもノーラのお隣さんだからね。ちょっかい出せる機会は見逃さないよ。獲物をかすめとって鼻をあかしてやるんでも、ノーラが弱体化したのをみはからって攻めるんでも楽しいからね》
 仲悪いなあ。
《扉の行き先、本当はあたしの城の地下牢だったんだ。エドナが術を使いやがったせいで、あたしの扉の術も曲がっちまったんだよ》
「俺達が荒野に移動したのは、想定外で偶然な不可抗力の事故なのか?」
《ったりまえだろ。こ〜んな辺鄙な荒野にあんたらをバラバラに転移させたって意味ないじゃないか》

「次なる質問だ。さっき、きさま、人間を無事に運ぶ移動魔法は使えんと言ったが・・・その扉とやらは例外なのか?」
《いいや》
 ベティさんがグヒヒと笑った。
《あたしゃ、死霊王だ。欲しいのは死骸だ。あんたらが虫の息でもミンチでも構わないんで、扉を使ったのさ》
「ほほお」
《あんたらが扉を通っても無事だったのは、身代わりがいたからだよ。精霊たちがあんたらをかばって、代わりに四散したのさ》

 え?
 精霊って……
 オレの精霊?

 尼僧さんがベティさんを足元におろし、『良い魔法で運んでくれた礼だ』と、ゲシゲシとふんづけ始めた。

 頭が真っ白だ。
 オレは精霊支配者になったって、お師匠様は教えてくれた。
 だけど、その精霊たちは散っていたんだ。
 オレのせい……? オレをかばって……?

「大丈夫だ、ジャン。精霊は恒常不変の存在。決して死なぬ」
 お師匠様がオレの手を握ってくれる。
「大きな衝撃を受け、形が保てなくなる事はある。だが、散んじても、数時間から数日で復活できるのだ」
 お師匠様の手がぎゅっとしてくれる。
「必ずおまえのもとへ戻って来る」
 オレはうなずきを返した。

 ベティさんのおでこを靴置きにしながら、尼僧さんが質問する。
「一行全員が、おまえの領地に転移したのか?」
《そのつもりだったけど、扉に入り損ねて、ノーラん所に残った奴も居たかも。扉の魔法、変な形で発動しちゃったからねえ、最後まで見届けてないんだよ》
 ジョゼたちは、ラミアか吸血鬼に捕まったかもしれないのか……

《エドナが手下を連れてあたしの領地に来てたんなら、女魔術師はエドナの所だろうね。もう腹の中かもしれないけど》

 ゲヒヒと笑うベティさんをオレはにらんだ。
《エドナは悪食だもの。あいつ、何でも食べるんだよ。しもべたちも、モンスターも、さらった人間もね》
 サラが殺されただなんて……
 そんなことあるものか!

 カボチャ馬車はエドナって奴の領地へと向かっている。広大な湿地だそうだ。


「首、着いたら起こせ」
 尼僧さんが、ベティさんの額から足をどける。
「俺が寝てる間に、逃げたくば逃げろ。だが、その瞬間、聖痕がマッハできさまに罪を言い渡す」
 ベティさんのおでこには、くっきりとクツのアトが残っている。尼僧さんの所有物である印だそうだ。
「きさまが俺の命令に逆えば、聖痕は灼熱の炎となってきさまを焦がすだろう」
《ちきしょー 脅迫かよ! 聖職者のくせに!》
「魂が引き裂かれる痛みが好きなら抵抗してみろ。俺は構わん」
 それだけ言って尼僧さんは、胸のペンダントをにぎりしめ、眠りについた。
 キョーアクそうな顔から一変、すごくかわいい顔になって。

 尼僧さんが眠った後、馬車の中は静かになった。
 ベティさんは座席に戻った。が、むっつりしてる。ごキゲンななめだ。

『勇者の書 101――ジャン』を開いたら、眠れとお師匠様に注意された。
 けど、サラたちが心配で眠れそうもない。眠くなるまで読ませてくださいと頼んでから、オレは自分の書をめくった。

 尼僧さんのことが書いてあるページを読んだ。
 のほほんとした性格で、スローモーなしゃべり。すっごくかわいいと、十八のオレは喜んでいた。『マリーちゃん』とか同い年の女の子を『ちゃん』付けまでしている。ちょっとキモいぞ、オレ。
 パラパラ先をめくると、『邪悪にあうと性格が一変する』と書いてあるページがあった。
 えらそうで乱暴でムチャクチャなその性格を、尼僧さん本人は『マッハな方』と呼んでいるようだ。
 更に進むと、『神様らしい』と記されていた。きゃぴきゃぴ女神の下の神様なのか? とも。
 けど、尼僧さんは『神じゃない』『アルバイターだ』と言ってた。
 どういうことなんだろう?

 オレは向かいに座る尼僧さんを見た。
 背は高くない。尼僧服で、頭部は頭巾ですっぽりおおっている。
 まつげが長い。ほっぺがふっくらしていて、口がちっちゃい。すぴすぴと、寝息までかわいい。
 寝てる今が、ほんとーの尼僧さんなのかな?

 オレの書によると、尼僧さんは『マッハな方』と会いたがっている。神様を降ろしている間、何があったかは覚えているものの、自分からは話しかけられないって書いてある。
 何で自分を守護してくれるのか知りたいみたいだ。

 あとで、おっかない尼僧さんに聞いてみるかな。


 しかし、どのページも……
 女、女、女だ。

 うんざりしてきた。

 十八才のオレは、美人で胸とお尻が大きい子が好きみたいだ。でも、そーでなくてもいいんだ。小さいのをはじらう姿もかわいいとか……意味不明。
 メガネ、人魚、ネコ耳、エルフ……好きなものもバラバラだ。
 んでもって、やたら専門用語を使うから、スムーズに読めない。異世界の単語、多すぎ。
 お師匠様に質問しても、『説明しづらい』とか『おまえは知らなくていい』としか言ってくれないし。
『絶対領域』『幼児体型』『イケナイものに目覚めそう』『媚薬』『ストリップ』……
 意味わかんねーよ。

 ちがうタイプの勇者なら良かったのに。
 女の子を百人仲間にしなきゃいけない勇者なんて……ヒーローっぽくない。つまらない。
 自分の『勇者の書』を読んでも、ぜんぜん燃えないや。





 荒野は終わり、丈の低い木や草が増えていった。
《あたしの国とエドナの国の境界さ》
 カボチャ馬車は境界に残し、荷物を背負い、みんなで徒歩で進むことになった。

《ちょいとお邪魔するよ、坊や》
 ベティさんが、オレの頭の上にのっかってきた。金髪の巻き毛でオレの頭にからまりつき、落っこちないよう器用にくっつく。重い。頭のてっぺんに荷物をのっけてるみたいだ。
《クソ僧侶が、いざとなったらあんたを守れってさ》
 頭の上で、ベティさんがイヒヒと笑う。笑いのゆれがモロに伝わってくる。首が痛くなりそう。

 ズンズンと進んで行く尼僧さんの後を、お師匠様と一緒に追いかける。
『アルバイター』ってどういうこと? って尼僧さんに聞いてみた。けど、答えが返らない。他のことを話しかけても同じ。完全(ガン)無視された。
 尼僧さんはまったく振り返らない。後ろにいるオレたちなんか気にもかけず、おっかない顔で前だけを見ている。

 霧がでてきた。
 ヒザぐらいまでの草を分けて進む。
 足元がやわらかい。
 足場はぬれたドロになった。水たまりもいっぱいある。
 霧が出ているわりに、空気はなまあたたかく、くさい。ジメジメしている。

 しばらく進むと……カサカサと草を鳴らす音が大きくなった。風も無いのに、辺りの草がざわめいている。
瓏ナル(ディフ)幽冥ヨリ(ェンス・)疾ク奉(ガード)リシ麗虹鎧・バリア!」
 尼僧さんは突然そう叫んで防御結界を張ると、
儚キ夢幻(ミラージュ・)ヨリ舞イ堕リシ(レクイエム・)天獄陣(ジェイル)!」
 周囲に光の矢を大量に放った。

 光の輝きに照らされ、何となく見えた。
「げ」
 魔だけを貫く矢が、オレらの周囲の地面にいっぱい突きささっている。クモやらゴキやらムカデやらサソリやら……生き物達がいっぱい矢にささってそこらに転がっていた。足をわしゃわしゃ動かしてるから、まだ死んでないみたいだけど。

《エドナの使い魔。侵入者除けの番人どもさ。数百から数千の生き物が一気に襲いかかってくるんだよ。招かれざる者を骨をも残さず喰っちまう為にね》
 うへぇ……

「穢れし呪縛より、解き放たれるがいい・・・終焉ノ(グッバイ・)滅ビヲ(イービル・)迎エシ神覇ノ(ブレイク・)贖焔(バーン)!」
 尼僧さんから広がる光の玉が、周囲の虫たちをのみこんでゆく。いっぱいいた生き物は魔物化してたみたいだ。みんなあとかたもなく消え去ってしまった。

 それから、尼僧さんは進んでは浄化を繰り返し、霧の奥へ奥へと進んで行った。
《獲物が来たってアピールして、エドナを呼び寄せようって腹だろ? エドナも強い者が好きだからねえ。あたしとは違う意味で、さ》
 クヒヒヒとベティさんが笑う。

 何か聞こえる……
 ベティさんの笑い声以外の何かが。
 と、気づいた瞬間、ゾクゾクと背すじがしびれた……

 歌が聞こえた。
 歌詞は聞き取れないけど、キレイなメロディだ。
 声がすごくいい。女の人らしい、高音で、やわらかな歌声だ。ずっと聞いていたくなる。

 心臓の音が早くなる。

 体がカッカッしてきた。

 目の前が白くなる。霧がこくなったみたいだ。

 頭の上でベティさんが何かを言っている。
 両耳をおさえたお師匠様も、何か言ってるような。
 でも、聞き取れない。

 霧の向こうから、女の人の歌声が聞こえる。
 さそうようにやさしく。
 かわいらしい声で。

 もっと聞きたい……

 その思いのままに、体は動き始めた。

 霧の先に、人が見える。

 長い髪の毛は緑色だ。不思議な色に輝いている。
 肌が真っ白だ。
 霧のせいで見えるのは腰から上だけだけど、何も着ていないみたいだ。
 胸の前で手をあわせ、赤い口を動かし、ノドをふるわせ、歌を歌っている。
 キレイだ。
 金の目がキラキラと輝いている。歌うのが楽しくってたまらないって顔。

 手足が動かなくなった……
 頭の上のベティさんが、すごい大声を出してるみたいだ……だけど、何って言ってるのかわからない。
 オレの耳は、もう緑の髪のおねえさんの声しか聞こえない。
 オレの目は、もう緑の髪のおねえさんしか見たくない。
 オレの体が勝手に動く。歩いてもいないのに。
 緑の髪のおねえさんへと、どんどん近づいていく。

 近づいてわかった。
 オレは……
 おねえさんの下半身に縛られ、運ばれているんだ。
 頭から腰までは普通の女の人なのに、腰から下は蛇なんだ。蛇の胴体だ。髪の毛と同じ色の、綺麗なウロコに覆われている。
 おねえさんの蛇身にからまれるのは、気持ちいい。
 ウロコは冷たくて、さらっとしている。それが『大好きだ』って言うみたいにキュウキュウしめてくれるんだ。うれしくなってくる……

 おねえさんは、歌いながらほほえんでいる。
 オレは、おねえさんの前へと運ばれた。胸から下に蛇身がからまってるんで、体がまったく動かせない。
 おねえさんのツヤツヤした赤い唇が、近づいてくる。
 とてもキレイだ。
 白い歯も見える。どの歯も、とがってる。咬まれたら穴が開いちゃいそうなその歯までも、オレにはたまらなくステキに思えた。

 赤い口に飲み込まれる……
 そう思った時、とても幸せな気持ちになった……


 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……

 心の中でリンゴ〜ンとカネが鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少しうまっていくような感覚がした。

《あと四十三〜 おっけぇ?》
 と、内側からだれかの声がした。


 ズシン! と、全身に痛みが走った。

 何かが頭から足までを通りぬけたような気がした。

 その痛みは一瞬で消え、
「あれ?」
 急に、頭がはっきりした。

「うわ!」
 オレは、デカい蛇に体をぐるぐる巻きにされていた。
 その蛇身には光の矢がいっぱい刺さっていた。蛇に絡まれてるオレにも矢は刺さってる。けど、痛くない。邪悪のみを貫く矢だからだ。
《あんたのせいで、あたしまで矢に刺されたじゃないか、この馬鹿!》
 オレの頭上のベティさんが毒づく。
《ラミアの歌声をまともに聞くとか、あんた、本気でバカだろ? 歌声に魅了された奴は、エドナの下僕になりさがるんだ。エドナの口の中に、自ら頭をつっこむフヌケになるのさ》

 緑の髪のおねえさん。その下半身にオレは縛られ、上半身のすぐそばまで運ばれていた。
 ちょっと手を伸ばせば、ほっぺに触れられそうな距離。
 人間そっくりな上半身も、光の矢に貫かれている。苦しそうだ。
 赤い口からのぞく白い牙にゾッとする。はく息が、すごくクサイ。生肉がちょっといたんだ時のにおいに似てる……

「誘拐、誘惑、洗脳、殺人未遂、享楽食人未遂の現行犯だ。生者を魔に堕とし餌食とする、邪悪なるラミアよ! 内なる俺の霊魂が、マッハできさまが有罪だと言い渡している!」
 尼僧さんがオレのすぐそばまで来ている。決めポーズをとっている。

「俺は邪悪を粛清する為、輝かしき光の道を進んでいる」
 尼僧さんが右手を一振りすると、緑の髪のおねえさんの上半身の矢だけが消えた。

「しかし、悔い改めたものには慈悲を示す。寛大なる俺様に感謝してひれ伏し、有り難く神の愛を受け取るがいい」
 んで、尼僧さんはラミアの上半身をドカン! と、けっ飛ばして倒した。

「勇者に萌えられ仲間枠強制加入させられた、きさまは、もはや生粋の邪悪ではない。人を喰う事はおろか、人を魅了する事すらできぬ無害な魔となったのだ」
 そして、右の足裏をラミアの額にドン! と……
 ラミアがギャーっと悲鳴をあげる。
「俺の所有物の証、聖痕をくれてやる。きさまを我が助手(アシスタント)とし、守り、使ってやろう」
 わはははと高笑いしながら、ラミアをふんづける尼僧さん。
《あれ、無茶苦茶痛いんだよ》
 オレの頭の上で、ベティさんがイヒヒと笑う。
《人間でいえば、剣で刺されるぐらいの痛みだ。ほら、エドナの奴、大泣きしてるだろ? みじめったらしい、いい顔だ♪》
 ベティさん、楽しそうだ……





 ラミアに印をつけ終え光の矢を消した後、尼僧さんは耳から(せん)を取り出した。
 耳栓!
 だから、ラミアに誘惑されなかったのか! 自分ばっかズルイ! オレにも耳栓くれればいいのに!
 そう文句を言ったら、にらまれてしまった。
「俺を怒らせるな、マリーの下僕よ。魔族を皆殺しにしたい衝動を、マリーときさまの為にかろうじて、ようやく、すれすれに、堪えているのだ。感謝されこそすれ、責められる覚えは無い。きさまは餌になってフラフラし、そこらで女どもに萌えていればいいのだ」
 む。
「きさまが萌えた魔族は、人間に対し無力化する・・・首のことで、そうとわかったから妥協したのだ。そうでなければ・・・邪悪を味方にした勇者なぞ、魔王戦の後、粛清し、八百万那由他の世界を彷徨わせてやったろう」
 う……意味わかんないけど……尼僧さんの顔がキョーアクすぎてこわい……

「昨日、死霊王ベティの領地で、魔術師と戦闘をしたのか?」
 お師匠様が、おでこをおさえてるラミアにたずねる。
「その者の消息を知りたい。おまえの元に居るのか?」

《ん〜 たたかったよ〜 たたかったけろぉ〜》
 ラミアが変な発音で答える。
《にげちゃった》

「逃げた?」

《おいちちょーな子らからぁ、わたち、食べたかったんらけろぉ〜 たたかってたら、ひめいあげて、そこら中、もやちて〜 にげちゃった〜》
 おいしそうな子だったのに……と、ラミアがヨダレをたらす。
……オレも、あのままだったら、食われてたのか、やっぱ。

「悲鳴をあげて逃げたのか? サラが?」と、お師匠様。
《わたちの一の子分を呼んらら、きゅーに、キャーキャー言ったの〜》
 ラミアが左手をあげる。
 少し離れた草地の向こうに大ハシゴがかかった……かのように見えた。が、ちがう。
 デカイ生き物が、体を持ち上げたんだ。
 二階建ての建物ぐらいありそうだ。
 触角の生えた頭、おそろしげな口。胴体はとても細長くてぬらぬらテカテカしている。でもって、左右に短い足がいっぱい生えていて、ワキワキワシャワシャしていた。
 大ムカデだ……
《あの子のおにーちゃん、一の子分らったけろぉ、黒こげになっちゃった〜 目からお水らちて、わめいて、なんもかももやちて、あの人間、ろっか行っちゃったの〜》

 一の子分ってあの弟そっくりなんだろ?
 あんなデカいのにせまられたら、パニックになって逃げるよな……
 ムカデ、大きらいだったもんな、サラ……

「どの方向に向かった?」
 お師匠様の問いに、ラミアが首をかしげる。
《ノーラの森らとおもう〜》

 吸血鬼の森に向かったのか……
 無事なんだろうか?

 サラもジョゼも……
 あと学者さんも……

 魔王が目覚めるのは四十四日後だと、お師匠様が教えてくれた。
 早く仲間を助けださなきゃ。


* * * * *


『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き

●女性プロフィール(№057)

名前     エドナ
所属世界   魔界
       多分どっかの世界の王さま。
種族     ラミア
職業     蛇身王・魔界貴族
特徴     歌声で生き物を魅了(チャーム)する。
       魅了されると言いなりになっちゃう。
       耳栓とかで歌をまともに聞かなきゃ、
       誘惑されずにすむらしい。
       何でも食べる悪食だけど、
       人間は食べられなくなった。
       おでこに尼僧さんの聖痕(足形)を
       つけられている。
       頭はあんま良くなさそう。舌ったらず。
戦闘方法   声?
年齢     わからない。
容姿     上半身は人間でヌード、下半身は蛇。
       髪の毛は緑、色は白い。
口癖    『おいちちょー』
好きなもの  強い奴を食べること。
嫌いなもの  食べられないこと。
勇者に一言 『おいちちょー』
挿絵(By みてみん)
+注意+
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