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ハーレム100 作者:松宮星

魔界

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死霊王と道化    【ベティ】(※)

《武器を捨てて投降しなよ、おにーちゃん》
 剣と楯を持ったガイコツ戦士たち。
 すっかり囲まれてしまった。
 腰の剣に手をのばしかけて、やめた。スケルトンに対し、剣はあまり効かない。
 オレのは水の剣だって、お師匠様が教えてくれた。炎の剣なら清めの炎でダメージが出せるが、水の剣じゃ追加効果はショボい。聖水攻撃できりゃ話は別だけど、この剣はただの水しか出せないらしい。
《あんたに勝ち目なんざない》
 腰のベルトにはコン棒もある。記憶をなくしたオレのタメに、お師匠様が持たせてくれたものの一つだ。『ルネ でらっくすⅥ』から出したヤツ。それを抜き、かまえた。
《抵抗するのかい?》
 どこからか聞こえる声が、ヒヒヒと笑った。
《いいね。そうこなくっちゃ。ズタズタのボロボロにしてやるよ、勇者のおにーちゃん》

 え?
 オレはキョロキョロと辺りを見た。周りにいるのはスケルトンだけ。誰がしゃべってるんだ?
「なんで勇者だって知ってるんだよ?」

《あんたがさっき、そう名乗ったじゃないか。あたしのモノにね》

「おねえさんのモノ?」
《ゾンビだよ》
 うつぶせに倒れてた女の子ゾンビかな?
「あの子、おねえさんの部下なの? おねえさん、ゾンビのえらい人?」
 おねえさんはプッと吹き出してから、フヒヒと笑った。
《そうともエライよ。あたしは、死者を統べる死霊王なのさ》
「死者を……すべる?」
 死者がツルツルすべるのか?
「王様なの? じゃ、魔界の一番えらい人?」
《ちがうよ。魔界じゃ、あたしは貴族だよ。王なのは、あたしが支配する世界での話さ》
「う〜ん?」
《よその世界じゃ王さまだけど、魔界じゃ貴族ってことさ》
「……ややこしいね」

 おねえさんが、フヒヒと笑う。
《あんた変だねえ。警戒心ってもんがない。本当に勇者かい?》
 む。
「勇者だよ」
《純粋無垢タイプの勇者ってわけ? おツムが弱い子がなれるんだよねえ》
 むぅ。
「オレはバカじゃない! 記憶ソーシツなだけだ!」

 そう叫んだら、しばらくシーンとした後……
 おねえさんはゲヒヒヒヒヒと大笑いを始めた。

《記憶喪失ぅ!……嘘だろぉ!》
 おねえさんは大爆笑している。
 オレはあっちこっち見渡した。スケルトンたちは前進をやめている。カラカラと骨を鳴らしているけど、笑ってる奴はいない。
 おねえさんはどこにいるんだ?

《やめとくれよ……おかしくって腹がよじれちまう……》

「なんでそんなにおかしいんだよ?」
《ふつーバラさないだろ、そんな重要なこと。襲ってくださいって言ってるも同然じゃないか、馬鹿なお子様だ》
「本当のことだもん。しょーがないじゃないか」
《そうだね……しょうがないよね……》
 クヒヒとおねえさんが笑う。

《あのバケモノじみた僧侶の仲間にしちゃ弱すぎると思ったら、そーゆうこと。本当は強いんだけど、今は無能になっちまったんだね?》
「オレは今だって強いよ」
《はいはい、わかりまちたよ、ゆーちゃちゃま》
 む。
 バカにしてるな。

《腐っても勇者だ。勇者の首ならコレクションになる。殺してあげるよ、おにーちゃん》
 おねえさんの口調は、『遊ぼ』とさそうみたいに軽い。

《そんな警戒しなくても大丈夫。すぐには殺さないよ。まずは、人質としてたっぷり働いてもらうからね》
「人質?」
《あんたを人質に、あのバケモノ僧侶を殺すのさ》

 あのおっかない尼僧さんを……?

《勇者の命が惜しくばおとなしくしろと脅して、無抵抗になったあいつをじわじわと引き裂いてやるんだよ》
 おねえさんの声がコーフンする。
《あんな無茶苦茶で、強くって、見境なしの女をあたしの手でバラバラにできるんだ……うっとりしちまう……間違いなく、アレはいい死霊になる……ゴーレムかドラゴンとでもかけあわせようかねえ》

 カッとした。
「オレの仲間に変なことするな! 許さないぞ!」

《ふーん どう許さないって言うんだい?》

 動きを止めていたガイコツ戦士達がオレへと近寄り始める。片手の剣をカタカタと揺らしながら。

《許せないんなら、勝ってみせな》

 オレはコン棒を握りしめた。

《魔界ではねえ、強さが正義なんだよ。正しいから勝つんじゃない。勝つから、正しいのさ。負け犬の遠吠えなんざ、誰も耳を傾けないね》

 剣が振り下ろされてくる。
 何とかよけた。
 けど、前からも後ろからも剣はせまる。

《しばらく生きてりゃいいんだ。手足の骨を砕いて、口は縫っておくかねえ》
 フヒヒと笑いながら、おねえさんがおそろしいことを言う。

 ゾッとした。
 けど、オレだけじゃない。オレが負けたら、尼僧さんまでひどい目にあうんだ。
 負けるものか!
 オレは手の中のコン棒をぐっとにぎりしめた。

 時だった。
 コン棒の先端にライトが点いたのは。

 オレの前にいたスケルトンは、突然、苦しみ出し、地面をゴロゴロと転がっていった。
 コン棒の先端から広がる光。
 それを向けると光を浴びたガイコツ戦士はのたうちまわり、周りのヤツらは逃げだした。

《へえええ。おもしろいモノ持ってるじゃないか。聖なる光を生み出す杖かい?》

 夢中になっているうちに、スイッチを入れたらしい。
 えっと……
 たしか、このコン棒は『悪霊あっちいけ棒 改』だ。先っぽの飾りが聖教会で売ってる水晶で、スイッチを入れるとライトがついて光るんだ。聖なる水晶を通しての光だから、スケルトンにダメージになるのか。

 そいや、これ、腕輪とセットだった。
 左手にアメジストの腕輪と共につけた『悪霊から守るくん 改』。それのスイッチも入れてみた。
 讃美歌が流れ始めた。とってもキレイな歌声だ。スケルトンたちが逃げて行く。聖なる歌声も、スケルトンにはダメージなんだな!

 スゴイじゃん!
『悪霊あっちいけ棒 改』と『悪霊から守るくん 改』!
 作った人、天才だ!

《今度はいやらしい音で攻撃かい。さすが、勇者だよ、えげつないものを持っている》

 オレの前に、ハデな女の人が現れる。
 部分的に赤や緑や青に染めた金の巻き毛。すっごく大きな胸を黒レースのブラで隠し、ウエストは真っ赤なコルセットでぎゅっとしめている。その下はスリットの入ったミニの黒レースのスカート。スカートが短いから、太ももが出てる。網目もようの黒のタイツをつけて、カカトのものすごく細い黒のヒールをはいてる。
 顔もハデな美人。オシロイで顔は真っ白なのに、口は真っ赤で、目のまわりが黒い。マユがつりあがってるし、青い目も高い鼻も、ちょっとこわそう。

《おにーちゃんみたいなザコ相手に、あたしが出るまでもないと思ったんだけどねえ……部下どもがいなくなっちまっちゃあ、しょうがない。相手してやるよ》

『悪霊から守るくん 改』から讃美歌は流れっぱなしなんだけど、女の人はフフンって笑ってる。
『悪霊あっちいけ棒 改』のライトも当ててみた。が、女の人は平気だった。

 ダメじゃん! 『悪霊あっちいけ棒 改』と『悪霊から守るくん 改』!

《そんなチャチな攻撃がきくもんかい。このあたしを誰だと思ってるんだい?》

「死者がツルツルすべる王様」
 と、答えたら、おねえさんはプッとふき出し、おなかを抱えてゲヒヒヒヒと笑いだした。

《やだ、もう! あんた、おかしすぎ!》
 大口あけて、目から涙を流してる。あ〜あ……目のまわりを黒くぬってるのに。
「笑いすぎると、おケショウがくずれるよ。直すのたいへんなんだろ?」

 グヒヒヒと笑いながら、おねえさんがしゃきっと立った。
《決めた。おにーちゃんは殺さない》
「ほんと? ありがとう」
 いい人かもしれない。

《あんたみたいな馬鹿、大事にしなきゃね。脳みそを腐らせるなんて、もったいない》
 ん?

《あんたの脳みそは加工して、永遠に生かしてあげるよ》
 おねえさんがクヒヒと笑う。
《生きのいいオークのゾンビがいるんだ。とりあえず、そいつと頭をすげかえるか》
 ちょ!
《だーいじょーぶ。体は毎日、腐ってくけど、あんたの脳はへっちゃらだから。崩れてく体に宿って、毎日、あたしを楽しませておくれよ。そうだ、脊髄も残したげよう! 腐りゆく痛みが脳に伝わるように!》
 さっきのまちがい!
 いい人じゃない!

《お喜びよ、おにーちゃん。死霊王ベティ様の道化になれるんだからさ》

 おねえさんが近寄ってくる……
 なんか……
 なんかないだろうか、武器になるもの……
 お師匠様が体につけてくれたもの、ぜんぶにスイッチをいれてみよう。

《固くなんないでいいんだよ。今しばらくは、そのまんまにしたげるから。あのバケモノ僧侶をおびき出す(おとり)になってもらわなきゃね》

 おねえさんが両手をあげる。真っ赤な爪が長い。先がナイフみたいに鋭くとがっている。

《刻むのは服の下になるとこだけ……》

 いろんなモノのスイッチを入れた。
 ブルブルふるえる機械。
『ただ今、留守番メッセージはありません』とか言う機械。
 ピーピーピー、プープープー、チャラララ〜ン♪ いろんな音が鳴る。
 けど、武器はない!

《こわくないよ。痛いのはほんの一瞬……すぐに気持ち良くなるから》
 おねえさんがヒヒヒと笑う。
《子分たちは、み〜んな言うもの。あたしにバラバラにされるのは、快感だって……》

 水の魔法剣をぬいた。
 剣身から水が飛び散る。

 おねえさんの歩みはぜんぜんゆるまない。もう斬れるとこまで来てしまっている。

 人を斬るのは初めてだ……
 魔法デク人形としか対戦したことないんだ。
 だれかを傷つけるのはいやだ。
 でも、改造されるのは絶対にいやだ。尼僧さんも守らなきゃ。

 覚悟を決めてオレは斬りかかった。
 が……
 オレの剣をおねえさんは、左手の二の指と三の指の爪ではさんで止めてしまったのだ!

《まずは、お味見》
 イヒヒと笑いながらおねえさんが、ぐっと近づいてきて……
 真っ赤な口でニィィっと笑いながら……
 オレの左ほおを、真っ赤な舌でベロ〜ンとなめたんだ……

 びっくりした!
 なめられちゃった!


 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……


 心の中でリンゴ〜ンとカネが鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少しうまっていくような感覚がした。

《あと四十四〜 おっけぇ?》
 と、内側からだれかの声がした。


《む? 何だい、こりゃあ……》
 おねえさんの顔が苦しそうにゆがむ。

《いまいましい光が……あたしの中に……》

 オレが萌えちゃったから、この魔族のおねえさんは仲間ワク入りしている。勇者仲間ってことは、オレを勇者にした神様の力がおねえさんにもかかるってわけで。

 おねえさんが、ものすごくおっかない顔になった。
《なにをしやがった、この三下勇者!》
 真っ赤な口が、くわっと開かれる。牙がはえてる。狼みたいな歯だ。

 かまれる! って思った時だった。

 高笑いが聞こえたのは。

「良くやった、マリーの下僕。自ら囮となり、この俺様の為に獲物を用意しておくとはな! 見上げた、下僕根性! 誉めてやろう!」
 オレの後ろから、まばゆい光が広がっていた。
 尼僧さんが来たんだ!

「誘拐、誘惑、脅迫、殺人未遂、享楽改造未遂の現行犯だ。しかし、そんなものがなくとも有罪なのは、自ずと自明! 死者の眠りを妨げる、邪悪なる死霊使いよ! 内なる俺の霊魂が、マッハできさまが有罪だと言い渡している!」

 おねえさんがクヒヒと笑い、オレを腕に抱きしめた。
《動くな。勇者は、あたしの手の内だ。こいつが殺されたくなけりゃ大人しく》

「無駄だ。そいつに、人質の価値などない」

 は?

「殺したくば、殺せ。勇者ならば、正義の為、喜んで死ぬだろう」
 あの……
 喜んで死んだらマズイんじゃ……
 オレの世界、まだ救ってないんですけど……

《仲間のくせに、勇者を見捨てるのかい?》
「違うぞ、魔族」
 ククク・・・と尼僧さんが笑う。
「俺はマリーを救う為だけに降臨しているのだ。それ以外の者など、道端の石にも劣る。まったくもって眼中にない」

 えぇ――っ!

《降臨……? きさま、神か!》
「それも違うぞ、愚かな魔よ」
 首だけ、どうにか後ろをふりかえってみた。
「副業だ」
 尼僧姿の女の人から、大きな光がふくれあがっている。

「俺は『奇跡』代行アルバイターだ」

 はい?

 まばゆい光が、尼僧さんの全身からぐんぐん広がってゆく。

 魔族のおねえさんは、ものすごい早口で何かの呪文を唱えていた。が、最後まで唱えられなかった。おねえさんの顔が苦しそうにゆがむ。
《くそ……いまいましい光が……》
 体の中の神様の光がジャマをしたらしい。

「おしゃべりの時間は終わりだ・・・その死をもって、己が大罪を償え・・・真・終焉ノ(グッバイ・)滅ビヲ(イービル・)迎エシ神覇ノ(ファイナル・)贖焔(バーン)!」
 尼僧さんの周囲から生み出された、どデカい白光の玉。それが、オレや魔族のおねえさんを飲み込み、どこまでも広がっていった……





「俺は邪悪を粛清する為、輝かしき光の道を進んでいる」
 そう言ってから、尼僧さんは右足をぐりぐりと動かした。
「しかし、悔い改めたものには慈悲を示す。寛大なる俺様に感謝してひれ伏し、有り難く神の愛を受け取るがいい」
 尼僧さんが、更に足をぐりぐりと動かす。

《いたたた……痛いつってんだろーが! このクサレ僧侶!》
 足の下の魔族のおねえさんが怒鳴ると、尼僧さんはニヤリと笑い……さらに体重をかけて、おねえさんのおでこをふんづけたんだ。

 今、魔族のおねえさんは首から上しか無い。
 さっきの尼僧さんの光の玉攻撃で、体は浄化されてしまったんだ。
 完全に浄化されず頭と髪の毛だけが残ったのは、オレのせいらしい。
 オレが萌えて仲間にした者は、勇者の守り神の神様印がつく。光の性質がプラスされる。
 魔族のおねえさんは、神聖魔法では殺しきれないモノになったみたいだ。

《無抵抗の首になにすんのさ!》
 首だけになったけど、おねえさんは元気だ。

 神様のつけた印のせいで、おねえさんは力を制限された。
『人に悪さをすること』が全くできなくなったのだそうだ。殺すことはもちろん、改造も、怪我を負わせることも無理。やろうとすると、硬直するみたいだ。
 人間からつくった不死者も手放さなければいけなくなったらしい。
 モンスターや魔族とは戦えるし、不死者に改造して支配できる。無力になったわけじゃない。でも、体を失い、人間への影響力を失った今、ものすごく弱くなったようだ。

「大人しくしていろ。聖痕をくれてやっているのだ」

 尼僧さんが足を離した時に、魔族のおねえさんのおでこにくっきりとクツのアトが残っていた。
「この聖痕は、俺の所有物である証。俺の内なる霊魂の輝きが、正当防衛の場合のみ、あらゆる魔からきさまを守る」
《なんだい、その正当防衛ってのは?》
「魔から攻撃された場合、その聖痕が反撃するということだ。その印、四十五日は消えん」

 四十五日後が、魔王戦だってお師匠様が言っていた。
 それまでオレの仲間が無事にいられるように、足形をつけてくれたのか……
 じゃ、スライムの時も?

「……オレ、さっき、ゾンビにも萌えちゃったんだけど……」
 そう言うと、尼僧さんはチッと舌うちをした。
『節操無しめ』とか悪口っぽい事を言ったものの、首のおねえさんに『きさまの部下か? 呼び寄せろ。それにも聖痕をつける』と命令し、オレが萌えたゾンビが生前は人間だってわかると特別な保護魔法をかけると言ってくれた。魔王戦まで、くさりすぎて消えたりしないようにしてくれるみたいだ。
「クッ・・・いっせいに、こぞって、景気よく、ゾンビを全て昇天させたかったのだが・・・馬鹿のせいで仕事が増える」
 口が悪くて、キョーアクな顔をしてるけど……
 いい人だ、尼僧さん……

 尼僧さんの足元に転がっていた首が、ふわっと宙に浮く。空中浮遊魔法だ。
《強い部下がつくれると思ったのに、とんだ目にあったよ。こ〜んなに力を失っちまったら、もとに戻るまで何年かかるやら》
 ぶつぶつつぶやくおねえさん。
 その髪を、尼僧さんがにぎる。
「喜べ、首。きさまに俺様の助手(アシスタント)となる栄誉をくれてやろう」
 尼僧さんが、ククク・・・と笑う。
「マリーの下僕どもが行方不明で消えてしまったのだ。集めるのを手伝え、首」

《はあ? なんで、あんたなんかを手伝わなきゃいけないのさ。御免だね。てか、首ってなんだい? あたしは死霊王ベティ様だよ。そんじょそこらの奴とは格が違うんだ。馬鹿におしでないよ》
「首から上しかないのだ。なにかと問われれば、万人が首と答えるだろう。きさまは首だ。そうだろ、首? 首以外ありえん」
 うわ!
 ひど!
 髪の毛つかんで、ぶんぶんぐるぐる振りまわした!

 止めようとしたら、もう片っ方の手でぶん殴られた。
 ベティさんが助手を引き受けるまで、尼僧さんはベティさんの首をぶん回していた。

 尼僧さんがベティさんの首をもちあげ、目を合わせる。
「先程、火柱があがった。睡眠中であったマリーは、それを炎の魔法使いのものと感じ取り目覚め、現地に向かった」

 炎の魔法使いって……サラか?
 サラは魔法使いになったって、お師匠様が教えてくれたんだ。

「だが、駆けつけた時には、既に、まったく、手遅れに、人影はなかった。黒焦げとなった虫やサソリやらの節足動物の死骸が転がっていただけなのだ。敵は何者だ? わかるなら、マッハで答えろ、首」

《……ここらで虫を使うのは、エドナとノーラだ……けど、蠍も使ったんならエドナだろうよ》
 目を回しながら、ベティさんが答える。

《……蛇やら蠍やらクモやら虫やら……気持ち悪いモノを支配するイカレた奴さ》
 そいつの所に案内しろという尼僧さんに、首だけになっちゃったベティさんが仕方なさそうにうなずいた。

 サラはエドナって奴のところ……?
 捕まっているのか?

「ジャン」
 背から声がかかった。
 ふり返ると、お師匠様がいた。
 息が乱れている。
 荷物を背負い、オレや尼僧さんのリュックに加え『ルネ でらっくすⅥ』まで持ってる。この大荷物を抱えて来たの? 一人で?
 ウソぉ〜ん!
 すげえ、力持ち!
 さすが、もと竜騎士!

「この馬鹿が……」
 荷物をその場に置き、お師匠様がオレへと近よってくる。
 息が苦しそうだし、汗を流してる。けど、いつも通りの無表情だ。

「きさまがここに居ると、賢者殿に心話で知らせたのだ」と、尼僧さん。

 お師匠様の目がまっすぐに、オレを見てる。
 何か、おっかない。

 怒られるかと思って、身をすくませたら……
 抱きしめらてしまった。
 ぎゅっと強く。

「おまえが死んだら、私達の世界は終わりなんだぞ、ジャン」
 お師匠様の体は、ふるえている。
「……勝手に一人で歩くな」

 お師匠様の口からもれる息があらい。
 走って来たのだろうか……?
 大荷物を抱えて……?

 心配かけちゃったんだ……

 ごめんなさいと、オレはあやまった。
 もう二度と勝手にお師匠様のそばをはなれないとも約束した。


 魔王が目覚めるのは四十五日後みたいだ……


* * * * *


『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き

●女性プロフィール(№056)

名前     ベティ
所属世界   魔界
       どっかの世界で王さまらしい。
       何って世界なのかは知らない。
種族     不死族
職業     死霊王・魔界貴族
特徴     今は首だけになって、
       人間に悪さができなくなった。
       おでこに尼僧さんの聖痕(足形)を
       つけられている
戦闘方法   爪だったけど……
年齢     わからない。
容姿     首。
       金の巻き毛。部分的に赤や緑や青。
       お化粧が濃い。オシロイで顔は真っ白、
       目のまわりが黒い。青い目。高い鼻。
口癖    『ヒヒヒ』『フヒヒ』『グヒヒ』『イヒヒ』
好きなもの  強い奴を部下にする事。
       不死者にして、改造する事。
嫌いなもの  負けること。
勇者に一言 『あんたの脳みそは加工して、
       永遠に生かしてあげるよ』
挿絵(By みてみん)
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