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ハーレム100 作者:松宮星

魔界

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かぐわしき愛    【ゾンビ】(※)

 尼僧さんがスライムを逃がした時には、空の色は黄色に変化していた。赤から赤紫になってピンクで黄色か。落ち着きのない空だ。

 そん時オレは、尼僧さんが張った結界の中で、お師匠様と大きな袋の中身をチェックしていた。
 オレがルネさんって人からもらった袋なのだそうだ。『ルネ でらっくすⅥ』って名前の袋だ。
 落っことしてたのを、お師匠様が拾ってくれたらしい。
「今のおまえには必要かもしれんな……」
 中から出したものをいろいろ、体にくっつけられた。どう使うのか、説明書を読んだ。

「賢者殿」
 結界外で遠くを見てた尼僧さん。呼ばれて、お師匠様が結界外へと出て行く。
「非常に不本意で、心ならずも 、やむを得ぬことだが、肉体の限界だ。マリーは睡眠を欲している」
 尼僧さんが首にかけていた聖なるペンダントを、お師匠様へと示す。
「俺の念をこめた。半日はこれを中心に結界が生まれる。俺の内なる霊魂の輝きが魔を呼ぶ誘蛾灯ともなろうが、綺麗さっぱり、まったく、完璧に、邪悪は退ける」
「承知した。ご協力感謝する」
「マリーを頼む」
 おっかない顔の尼僧さんが、フッとほほえむ。左手を開いては閉じ、閉じては開きしながら。

 その体から力が抜ける。
 お師匠様が、尼僧さんを支える。
 オレもかけ寄り、尼僧さんの体を支え、布の上に横たわらせるのを手伝った。

 尼僧さんは目を閉じ、寝息を漏らしている。眠ってるんだ。さっきまでとはまるで違う、優しい顔をして。
 よく眠れるなあと感心する。胸元のペンダントが、やたらペカペカと点めつしてるのに。
「目立ちたがりな御仁だ」
 お師匠様が口元をかすかにゆるめたような気がした。
「マリーを中心に聖なる結界が張られた。聖なる光に誘われ魔族が集って来るが、マリーの側に居れば大丈夫だ」
『ルネ でらっくすⅥ』の袋の口を閉じながら、お師匠様が言う。
「今は少しでもいいから眠っておけ。マリーが目覚めたら移動する」

「それまで、ジョゼたちをさがしに行かないんですか?」
 オレはくちびるをとがらせた。魔界のどっかに、ジョゼとサラと学者さんがいるそうだ。小さなジョゼが一人ぼっちなんて、心配でたまらないのに。

「おまえと私だけでは、何もできぬ。マリーの目覚めを待て」
 む。
「不満か? ならば、記憶を取り戻せ。再び精霊支配者となれれば、魔界で望むまま動けるようになろう」


 ピカピカ光る尼僧さんの横に座り、オレは『勇者の書 101――ジャン』を広げた。
 眠くなるまで自分の書を読んでよ。

「……読むのか?」
 お師匠様がマユをしかめる。
「記憶をとりもどしたいですから」
 と、答えると、お師匠様は『そうだな』と言ってだまった。

 十八才のオレが書いた『勇者の書』。
 最後のページからちょっと戻り、魔界に行くことになった理由のページを見る。
 強い女の人を見たら、オレはキュンキュン萌えればいいらしい。

 けど、出てくる名前が多すぎる。
 ルネさんは……発明袋をくれた人だ。けど、ニーナ? イザベル? シャルル?

 最初から、順に見た方がよさそう。
 魔王『カネコ アキノリ』の登場と、オレの勇者の使命の説明から始まった。
 でも、次のページは開けなかった。上端と下端がそれぞれ、ノリでとめられている。
「ここ、ノリをはがして読んでもいいですか?」
「糊?」
 お師匠様が『勇者の書 101――ジャン』を受け取り、中を見る。
「そうか……ジャンが糊でとめたのか……究極魔法についてのページだな。セリアがこの書を読む事もあったので、隠したのか」
 お師匠様が、オレに書を返す。
「剥がさずおけ。おまえが望んで秘めた事だ」

「なにが書いてあるんですか?」
 オレの問いに、お師匠様はますますマユをしかめる。

「……十才のおまえは知らんでいい事だ」
「だけど、知らないと思い出せません」
 オレは、ほおをふくらませた。
「十八のオレは知ってるんでしょ? なら、知っとかなきゃ」

 お師匠様は静かに目を閉じた。
「勇者には、一度だけ使える魔法がある。どのような敵であれ、4999万9999の大ダメージを与えられる」
「へー」
「だが、使用すれば、勇者は必ず死亡する」
 ありゃ。
「命と引き換えに使用できる魔法だ。究極魔法は最後の切り札。使用せずに、魔王戦に勝つ道を探すべきだ」

「はい」
 返事してから、オレは言った。
「けど、カッコいいですねー」
「は?」
 お師匠様が目を開く。
「きゅーきょく魔法! 最後の切り札! 大ダメージ! ヒーローっぽいじゃないですか!」
 お師匠様がマユをひそめる。
「格好よくなどない。わかっているのか、ジャン? 使えば、おまえは死ぬのだぞ?」

「使いませんよー」
 オレは笑った。
「そーいう切り札があるってのが、ヒーローらしくていいんです! 使うのは、もーダメってぐらいひどくなっちゃった時だけ。そーならないようにがんばるから、だいじょうぶです!」
「ジャン……」
「それに、それ使えば、どんなひどいことになってても、ジョゼたちは助けられるんでしょ? きゅーきょく魔法があれば、オレは勇者として世界を守れる。持ってるだけで安心だ」

 ふわっと、やわらかなものがオレを包み込んだ。

 お師匠様がオレを抱きしめてくれたんだ。

「使わせない……」
 耳のそばで、お師匠様の声がした。
「必ずおまえを正しい道に導いてやる……」

 髪の毛がくすぐったい。ほっぺたをお師匠様の白銀の髪がこする。

「おまえは生き延びろ……」
 ローブの下に隠れてるものの、お師匠様は胸が大きい。ベルナ母さんほどじゃないけど、抱きしめてもらうと気持ちいい。

「せめて、おまえだけは……生き延びてくれ」

「はい」と、オレは返事した。いつものように元気よく。


「もう寝ろ。明日は強行軍となる。休んでおかねば体がもたないぞ」
 空は黒くなっていた。が、尼僧さんがペカペカ光ってるから、オレらの周囲は明るい。
 ふとまわりを見ると、暗がりに動くものが居た。オレらを囲むように、魔界の生き物が集まっている。
「マリーの側にいれば安全だ。奴等は私達には近寄れない」
 と、言われても、暗闇の中で何かがガサガサ動いているんだ。落ち着かない。
 眠れないとうったえると、目かくしが手渡された。

 見えなくなると、よけい、音が気になる……
 鳴き声がする。何が鳴いてるんだろ? 犬のような、ネコのような……いや、猿か?
 人間のうめき声まで聞こえるような……
 金属音や何か乾いたものがカラカラとぶつかる音まで。
 突然、ズゴォン! と、岩がくだけたような音が響き渡る。
 雨音やベチャベチャベチャと粘りつくような音が、遠くから少しづつ近づいて来る……
 んで、ケケケケと笑う声、ヒィィィィと空気をふるわす悲鳴、『喰わせろ』とか『引き裂いてやる』だの聞こえて……

 眠れません、お師匠様!

 目かくしを外し、お師匠様に抱きついた。

 お師匠様は、しばらくオレの背をさすってくれた。
「目に見え、音は聞こえても、魔はおまえに手出しはできん。こわい事など何もない」
 こわくなんか……
 ちょっと驚いただけで……

「勇者ならば怯懦を恥じよ」
「きょうだ?」
「気遅れをするなという事だ。己の力を過信し、敵をあなどるのは愚かだ。しかし、敵を恐れるあまり、戦う前から逃げ腰になっていても勝てない」
 オレをぎゅっと抱きしめてくれてから、お師匠様がゆっくりと体を離す。
「おまえは立派な勇者だ。正義感が強く、仲間思いで、慈悲の心にあふれている。仲間を信頼し命を預けるおまえに、仲間達も応えてくれている。必ず魔王を倒せるだろう」
 お師匠様が静かに口元の力をぬく。ほほえむみたいに。
「魔王に勝てるのだ、小物魔族など敵ではなかろう?」
 う。
「……はい」
「今、おまえは精霊達を失っている。だが、マリーがそばにいる。私もついている。一人ではないのだ。私達を信じ、今は休め」

 うそのように、不安が消える。
 さっきまであんなにこわかったのに……
 お師匠様がついていてくれるんだ。こわいことなんか、あるはずがない。

 さしだしてくれた左手がうれしい。
 お師匠様と手をつないで、オレは寝た。

 寝たんだが……


 大きな音に驚いて目を覚ました。

 キョロキョロと辺りを見た。
 遠くに、黒い煙があがっている。今、空は濃い青色だ。
 オレらの周りにいた、気味の悪いモノたちはいなくなっていた。ごつごつした岩場がず〜と広がっていて、その先で煙があがってるんだ。

 オレのすぐそばに、お師匠様がいる。静かな寝息をもらして、眠っている。お師匠様の胸の上に、ピカピカ光るペンダントが置かれていた。
 もう一度、辺りを見た。
 お師匠様の横にいた尼僧さんがいなくなっている。

 さっきの煙……
 もしかして、尼僧さんが?
 おそわれた?

「お師匠様」
 ゆすってみたけど、起きない。お師匠様は寝てしばらくは、眠りが深い。ベッドのすぐそばでオレが花ビンをわっちゃった時も、目覚めなかったんだ。

 剣を拾い、オレは走った。

 オレは勇者だ。
 記憶を無くしちゃったけど、本物の勇者になったんだ。

 仲間は助けなきゃ。

 結界の外に出たら、生ぐささと焦げくささが混じったにおいがした。
 吸い込む息が、まずい。

 煙が次第に大きくなる。
 でも、まだ遠い。
 爆音と共に、大きな火柱があがる。黒煙がもっと広がった。

 尼僧さんはだいじょうぶなんだろうか?

 そう思って足を出した時……
 べちゃっと……
 なんかやわらかいものをふんだ。

 下を向くと、ツーンとにおいがした。

「うわ!」
 人間だ!
 ふんづけてるのは、うつぶせに倒れた人だ!

「ごめんなさい!」
 あわてて足をどけ、抱え起こした。
 すごいにおいがした。

 おねえさんだった。
 肩までのクリ色の髪で、けっこう美人。ローブ姿だから、魔法使いか僧侶かも。

 目が痛い。
 スゴイにおいのせいだ。
 おねえさんのにおい?

 抱え起こした時からおねえさんは、ずっと緑の目を大きく見開いている。まばたきすらしない。
 口は閉ざしたその顔に感情は浮かんでいない。人形みたいにかたい表情だ。
 肌が白い……というか、灰色。顔色が悪すぎる。
 病気かもしれない。

「だいじょうぶですか?」

 涙がでてきた。鼻もバカになってきた。
 口から息を吸っても苦しい。
 けど、くさくても、ガマンだ。
 くさいと言っちゃいけない。お客のオバさんにそー言って、父さんになぐられたことがある。頭から香水かけたんじゃねーのってぐらいプンプンでくさかったんだけど、『くさい』は女の人に絶対言っちゃいけない言葉。禁句というらしい。
 それに、オレは勇者だ。具合が悪そうな人をほっぽり出すなんて、やっちゃいけない。

 緑の目が動く。
 ゆっくりと。
 オレを見つめる。

 オレの声が聞こえたんだ。

「オレ、ジャンって言います。勇者です。おねえさんは?」

 おねえさんがオレを見つめながら、少しづつほおをゆるめ、口をひらいてゆく。
 無表情ではなくなってゆく。
 笑みを浮かべようとしているようだ。

 ひくひくと口元がひきつっている。
 ほっぺが、ぴくぴくふるえてる。
 マユ毛がビミョーに上下してる。

 ちょっとだけ、お師匠様に似てると思った。
 お師匠様も笑おうとしたら、きっとこうなる。いつも笑わないんだもん。笑おうとしたら、使いなれない筋肉がテーコーするに決まってる。

 そんな事を思っているうちに……おねえさんがほほえんだ。
 とてもやさしい顔で……
 オレを見つめている……

 キレイだ。

 ドキンとした。


 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……


 心の中でリンゴ〜ンとカネが鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少しうまっていくような感覚がした。

《あと四十五〜 おっけぇ?》
 と、内側からだれかの声がした。


 そして……
 おねえさんの顔は……
 くずれた。

 口を無理やり開けたせいなのか、ほお肉がごっそりと落ちて……
 べちゃべちゃっと……
 岩場まで落下して……

 んで、おねえさんは……
 口をくわっと大きく開き、オレにかみつこうとしたんだ。

 悲鳴をあげ、おねえさんを放り出し、走った……までは覚えている。

 パニックになって走って、走って、走りまくって……

 気がつくと……
 オレは変なものがいっぱいいるところに、迷い込んでいた。
 のろのろと動く灰色の肌の人間達。
 片目が無かったり、片腕が無かったり、体の一部が骨になってたり。体の中のものを落としながら歩いている奴もいる。

 思い出した。
『勇者の書』で読んだことがある。

 生きている死体……ゾンビって呼ばれるモンスターだ。
 いろんなゾンビがいる。
 魔法、呪い、ナゾの病原菌、ナゾの製薬会社の悪だくみ、ナゾの宇宙光線で、ゾンビは生まれる。
 けど、たいてい、動きは遅い。手足がくさってるんで。
 そして、だいたい、知脳が低い。脳までくさってるんで。
 んでもって、多くの場合、生きている者をおそう。相手を食い殺してゾンビ仲間にするんだ。

 走ってりゃ、のろいゾンビにつかまることはない。

 だけど……

 くさりきった肉体が完全に無くなれば、ゾンビは別の存在となる。
 人間の肉体の決まりごとから自由になった、別のモンスターへと進化する。

 カラカラカラと乾いた音がする。
 骨と骨がぶつかり合う音だ。

 右手に剣、左手に盾を持った骨だけの戦士たちが、オレへとせまってくる。
 動くガイコツの一団。
 スケルトンの武装団だ。

 スケルトンは、ゾンビとは違って素早い。生前のままか、それ以上のスピードで動ける。
 頭や腕を落としても拾ってくっつけちゃうし、体を真っ二つにしても合体しちゃう。
 倒しても、倒しても、復活する。
 バラバラにしても、決して死なない。
 不滅の存在なんだ。

 そんなスケルトンが、オレの周囲にいっぱい……


 魔王が目覚めるのは四十五日後らしいけど……オレ、もしかしたら、ここで……


* * * * *


『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き

●女性プロフィール(№055)

名前     ゾンビ
所属世界   魔界
種族     ゾンビ
職業     ゾンビ
特徴     くさってる。
戦闘方法   かみつき攻撃。
年齢     わからない。
容姿     美人のおねえさん。
       髪はクリ色、目は緑、
       肌は灰色。
       でも、くさってる。
       ローブの下の体がどうなってるか
       わからない。
口癖     しゃべれるの?
好きなもの  生きてる人間。
嫌いなもの  わからない。 
勇者に一言  しゃべらないと思う。
挿絵(By みてみん)
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