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ハーレム100 作者:松宮星

天界

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天界から (※)

「やあ、ジャン君、セリア、久しぶりだね。異世界からの無事な帰還、まずはおめでとうと言わせてもらうよ」
挿絵(By みてみん)
 金髪のお貴族様が、にこやかに挨拶してきやがった……

 天界に回れ右したくなっちまったぜ。
 つーか来るなよ、おまえ。オレの部屋に。

《おにーちゃん、おかえりー》
 実体化したオレに、白い幽霊ニーナが抱きついて来る。お気に入りのピンクのクマを抱っこしたまま。
《早かったねー》
 昨日の朝に出かけて、滞在わずか一日半で帰還。
 粘っても仲間を増やせそうにないんで、あきらめて戻って来たんだ。
 天界で仲間をいっぱい増やせりゃ『チュド~ン』な運命から遠ざかれたんだが……まあ、仕方がない。
 オレはニコニコ笑顔のニーナの頭を撫でてやり、『ただいま』と挨拶をした。

「シャルル?」
 オレの背後のセリアが、部屋の中の男に対し迷惑そうな声をあげる。『来んじゃねえ、邪魔だ』と、思ってるんだよな、セリアも。
 家族に変な告げ口をされたくないんで、セリアは再従弟(またいとこ)のシャルルの前じゃ過剰なまでに貴族令嬢らしく振る舞う。本性を隠さなきゃいけないんで、オランジュ伯爵邸に顔を出されるのを嫌がっているのだ。

 魔法陣を通って次々に実体化してきた仲間達に、お貴族さまがご挨拶をなさる。
 気障ったらしい動きで片膝をつき、最初にお師匠様の右手の甲に接吻しやがったんだ。
 で、続いて、ジョゼの右手をとったんだが、
「レイちゃん!」
 ジョゼの肩にとまっていた紫の小鳥が羽ばたき、キザ男の頭や顔めがけてつっつき攻撃を始めたんだ。
「だめ。レイちゃん、やめて」
 ジョゼの命令を聞き、つっつくのはやめた。が、雷の精霊レイはジョゼの右手の甲の上にデンとのっかってしまう。何がなんでも、右手に接吻させない気だ。
「やれやれ、嫌われてしまいましたね」
 シャルルが乱れた髪を直しながら、ジョゼに笑いかける。顔はほぼカバーしたみたいで、ちょっとした擦り傷があるだけだった。
「シャルル様……ごめんなさい……私のレイちゃんが……」
 しょんぼりとうなだれるジョゼに対し、金の巻き毛野郎はお優しそうな声でおっしゃった。
「かわいらしい小鳥の悪戯に、腹を立てたりはしませんよ。それに愛しいあなたが私に与えてくださったものなのです、痛みや苦しみとて喜びとなります。モン・アムール……さあ、微笑んでください。あなたの笑顔が何よりの謝罪だ」

 ぐっ!

 ぐぉぉぉぉ!

 キモ! キモ! キモ!

 やっぱダメ、こいつ! 基本的に嫌! 生理的に受け付けない!
「まあ、たいへん。シャルル、血がでていてよ」
 セリアがお嬢様口調で言って、お貴族様の死角となっている後頭部を心配そうに見つめ、呼び鈴を振った。
「早く消毒をしないと、破傷風になってしまうわ。従僕を呼ぶわね。隣室で治療させるわ」
 そうか!
「義妹の鳥が粗相をして申し訳ありませんでした! さ! シャルル様、早く隣室に! シャルル様が重い病気となってしまっては、オレも義妹も申し訳がたちません!」
 早く出てけ、シャルル! と、セリアと二人で追い立てる。

 ハハハと笑い、シャルルが髪を掻き上げる。
「ジャン君もセリアも大げさな。治療といっても消毒程度だ。この部屋でもできるだろうに」
 いやいやいやいや。
「ポワエルデュー侯爵家嫡男のあなたに大事があってはいけないわ!」と、セリア。
「お医者さんを呼んで徹底的に治療してもらいましょう! その後は、ご自宅でごゆっくりご静養ください!」と、オレ。
「あ……あの……シャルル様。きちんと治療なさってください」と、ジョゼまで。よく言った、ジョゼ。さすがオレの義妹。

「ありがとう、ジョゼフィーヌ様、ジャン君、セリア。君達の優しさには感じいったよ」
 なら、出て行け!
「しかし、まだ帰れないよ、引き継ぎをしていないからね」
 引き継ぎ……?
「ニーナ様と遊びながら、こちらを記していたのだが」
 と、シャルルがテーブルに置いてあったぶ厚い本を持ちあげる。
『備忘録 101代目勇者ジャン様付き学者 記』?

「あ〜!」

 セリアがすっとんきょうな声をあげて、シャルルに近寄り、ぶ厚い本を奪い取る。

「何で、勇者一行の備忘録に勝手に書き込みしてるんですか!」

「実はね、セリア」
 お貴族様がもったいつけた仕草で、金髪のくるんくるんの髪を撫でつける。
「昨日の昼下がり、たいへんお困りのご様子の狩人のお嬢さんに、この部屋で出会ってね」
 カトリーヌか。
「慣れぬ事務仕事を君から頼まれたと、ほとほと困っておられたんだ。涙ぐんでいる姿がたいへん可憐だったので、」
 嘘泣きだろ。
「私が代わってさしあげたのだよ」

 はい?

「王宮や要所組織から連絡があった場合にお返事をさしあげ、勇者一行の円滑な生活の為の手配をし、魔王戦に備え物資を補充し、諜報員からあがってくる情報を魔王情報と仲間情報に分類し整理すれば良いだけの事だろう?」
 お貴族様がふぁさ〜と髪を揺らす。
「私にとっては造作もない事だからね」
「では、カトリーヌさんは……?」
「美しい笑顔を残し去って行かれた。気まぐれな春の風のような方だった」
 昨日の午後に留守番役をこのキザ男に押しつけたってことは……半日で逃げたのか、カトリーヌ!

 テーブルの上に広がる書類、本などを見渡し……セリアの顔がサーッと青くなる。
「そ……それは……」
 セリアが指差してるものに気づき、お貴族様が大げさに頭を振る。
「すまない、セリア。資料かと思い、他の書類と共に君の部屋から持って来てしまったのだよ」
「読んだのですか……?」

 シャルルが額に手を当てる。
「最初は書の正体がわからずにね、途中からは君のいじらしい恋心とその行く末が気になって、つい」
「読んだんですね!」
 セリアの顔がカーッと赤くなる。備忘録を投げ出し、テーブルの上の分厚い本を抱えあげ抱きしめる。
「最低! 人の日記を勝手に読むなんて、あなた、紳士ではありません!」

「懐かしいなあ、その台詞」
 シャルルがハハハと耳障りな声で笑う。
「子供の頃、君によくそう叱られたね。はきはきした君に叱ってもらうのは、とても気持ち良かったのだが……大学に進んでから、君はすっかり令嬢らしくなってしまった。寂しく思っていたのだよ」
「知りません!」
「日記を読んで、ここ数年の君の方が演技だとわかったよ。ねえ、セリア、君を不幸になるような流言を私がすると本気で思っていたのかい? だとしたら、私だとて傷つくよ。愛する再従姉(またいとこ)殿を私は決して貶めたりしない」
「日記を勝手に読んだ奴が、偉そうに説教するな!」
 すまない、とシャルルが嬉しそうに笑顔で頷く。

 なに、この親しげな雰囲気……

 お貴族様の視線が、オレへと向く。
「ジャン君、セリアは可愛いだろう?」
 はあ。
「なにを言ってるんですか、あなたは!」と、真っ赤な顔のセリア。
「セリアは私の初恋の女性なのだよ」
 へー
「綺麗で物知りでいつも毅然としていたからね。辛辣なことを言うかと思えば、慈母のように優しい時もあり、乙女のようにたわいもない事を信じていたりもして……実に魅力的だった」
 やめなさい! と、セリアが日記を抱えたまま再従弟を拳でボカボカ殴り始めた。
「どうだろう、セリアは?」
 どう?
「君は私と同い年だ。セリアは君よりも年上だが、十も違うわけではない。ほんのなな……」

 お貴族様はそれ以上言葉を続けられなかった。
 再従姉に、ぶ厚い日記帳で頭やら顔やら体を無茶苦茶に殴られだしたからだ。

 あっけにとられて見守るオレ達。
 イザベルさんはうふふと楽しそうに笑い、ニーナも遊びだと思ったのだろうクマを抱っこしてはしゃいでいたが。
 駆けつけた従僕達は、間に入っていいものか、おろおろと見ているばかりだ。

「すまない、セリア。降参だ。もう余計な事は言わない」
 再従姉の暴行を受けているというのに、シャルルは非常に楽しそうだった。
 セリアは子供のようにムキになっている。顔中を赤く染め、泣きだしそうな顔でシャルルを睨んでいる。初めて見る顔だ。

 もしかして……
 セリアの好きな男って……

 こいつなのか……?

 胸の奥がチクリと痛んだ。
 何故だか、理由はわからなかったが……


「お騒がせいたしました」
 頬を赤く染めたセリアが、席についた。
 オレらはいつものようにテーブルに向かい合って座った。
 が、何故かシャルルも当然のように残り、しかも、セリアの隣に座りやがった。
 ジョゼから離れてくれたのはありがたいが……

「マリーさんとルネさんとパメラさんには、勇者様ご帰還のこと連絡しました。カトリーヌさんは、昨日からずっと外出しているそうです」
 街に女狩りにでも出かけたのかねえ。

「次に勇者様が赴く世界ですが……実は候補が幾つかございまして」
 セリアがお師匠様と視線を交わし合う。お師匠様は、口を閉ざしたままセリアに頷きを返した。説明は任せるという事なのだろう。
「116万4706以上のダメージを出せる女性と出会える確率が50%以上の世界は、八つあります」
 オレが行かなきゃいけない世界はあと六つだから、その八つの中から選べばいいのか。
「その八世界でも良い仲間と出会う機会はあると思います。しかし、天界や精霊界に比べれば出逢いは困難となるでしょう」
 まあ、その二世界は出逢い確率80%だったしな。
「なので……魔王戦まで四十七日もあり、求める仲間が四十七人である現在……余裕こそありませんが、さしせまるほど切羽詰まった状況に陥っていないことを鑑みた上で、」
 ふむふむ。
「無茶を承知で多少の冒険をしてみても良いのではないかと思っています。まあ、マリーさんの協力が必須なので、次回ではなく、次の次になりそうですが」
 ん?

 お師匠様がテーブルに『勇者の書 24――フランソワ』を置く。天界とこの世界をつなぐ魔法陣は、この書で開いたのだ。
 その書を見ながら、セリアが言う。
「魔法陣反転の法をこの書に用い、新たな世界への扉を開きます」

「魔法陣反転の法……? 何ですか、それは?」
 サラがいぶかしそうに尋ねる。
 オレも聞きたい。

「魔法陣反転の法とは、裏世界へ行く為の古代技法です」
 む?
「光と闇、善と悪、高と低、硬と軟、強と弱、等々……この世には相反する性質のものが存在します」
 うん。
「その法則は世界にもあてはまります。聖なる天界に対し、邪悪なる魔界が存在しているのです。天界の裏こそが、魔界。天界の魔法陣を正しく反転させれば、裏世界の魔界へと通じるわけです」

「天界行きの魔法陣を反転させる……?」
 サラが首をかしげた。
「それは魔法陣を逆さまにして利用するという事ですか?」

「そうです。しかし、それだけでは足りません。古代信仰の技法に則って魔法陣反転の法を発動させた後、天界に赴く為の呪文を魔界用に置き換えて唱える必要があります」
「魔界用呪文ですか」
「言葉の置き換えです。『聖』を『邪』に、『光』を『闇』にというように、天界を示す箇所を全て魔界用に書き換えます」
 へー

「けど、何の為に魔界に行くの?」
 オレの当然の疑問に対し、セリアは責めるような視線で応えた。
「魔王に対し大ダメージを与えられる女性と出会う為です」
 え?

「魔界に仲間探しに行くの?」
「そうです」
「味方になってくれるの? 魔界って魔王の味方なんじゃないの?」

「何を愚かなことを」
 やれやれというようにセリアが頭を振る。
「魔族に仲間意識などありません」
 そうなの?
「己か己の仕える存在をナンバー1と信じ、闇の世界の覇権を巡り対立しているのです」
 へー
「天界の対極にある魔界は、Sランクの魔族のみが赴ける場所。多目的対立空間なのです。魔族の決闘場、処刑場、誹謗中傷サロン、拷問フロア、図書館、邪悪アイテム製造工房、魔族合体殿などがあるそうです」
 うわ。
「魔界の王も居るものの、全魔族の王というわけではありません。その空間の支配者程度の存在らしいです。魔族はそれぞれ自分の所属世界で好き勝手をし、魔界に来ては他の魔族と交流したり戦闘をしたりして楽しんでいるみたいです」

「魔界に詳しいんだね、セリアさん」
 書を読んで知識を得ていますから、とセリア。
「歴代勇者様の中に魔界に赴いた方はいらっしゃいません。しかし、魔法陣反転の法を修めた学者や魔術師が協力し、魔界に赴いた記録がよそに残っております」
 魔法陣反転の法は学者でなきゃできず、異世界への道は魔術師じゃなきゃ開けなかったから協力したのか。
「そのグループに、二十八代目勇者様の代の学者ランベールが居ります。彼の日記には魔界での旅の記録と共に転移・帰還の呪文や魔法陣までも記されておりまして……不道徳で悪魔的な記録として現在も彼の日記は聖教会に封印されています」
 二十八代目というと……英雄世界の兄弟勇者の兄の方、『エリートコース』だな。
「ですが……先日、ちょっとしたツテをたどりまして、その写本の写本の写本を手に入れる事に成功したのです」
 ちょっとしたツテって、何?
 つーか、写本の写本の写本? パチもんじゃないの?

「魔界から帰還後、悪魔の助けを借りたランベールは、富にも名誉にも女性にも恵まれた栄華の道を辿ったようです。世に伝わっている記録からすると、その末路は悲惨なものだったようですがね……」
 悪魔と契約を結ぶと、最後には魂を喰われるんだったよな、たしか。

「魔界でランベールが契約を結んだのは、超美人でボンキュッボンな万能悪魔でした」
 なに?
 オレをジーッと見つめながらセリアが言う。
「ランベールの日記によると、魔族はたいそう美しいのだそうですよ、勇者様」
 本当に?
「魅惑的な姿なのは、人間を誘惑し骨抜きにする為といわれています。上級の魔族ほどその美は完璧となり、人間が触れる事のできる肉体を持ち、男女の姿を望みのままにとれるのだそうです」
 なるほど!
「魔界には、Sランクの実力の美女がいっぱいいるのです。勇者様の場合、萌えさえすれば相手は強制仲間枠入りです。相手の意志に関わらず仲間にできるわけですから、魔界で強力な魔族を味方に引き込めば魔王戦勝利の道が近づくのではないでしょうか?」

 オレは両腕を組み、うつむいた。
 超美人で物凄く強い女の子がいっぱい居る世界なら行ってみたい。
 だが、魔界旅行など危険に決まっているし、オレは勇者だ。光の加護を受けるオレが、魔族を仲間として良いんだろうか?
 けど……
 オレはお師匠様をチラッと見た。いつも通りの無表情だ。お師匠様が平然としている以上、魔界での仲間探しは勇者的にNGな行動ではないらしい。

「魔界に行くにあたっての注意は……」
 セリアがメガネのフレームを押し上げる。
「魔族を仲間に加えても心を許さない、誘惑されても決してのらない、悪魔といかなる契約も結ばない、光の教えを常に守る……そんなところですね。勇者様はもちろん共に赴く者、皆がそうでなければいけません。悪魔の誘惑に屈すれば悲惨な末路が待っていますから」
 う。

「危険だとわかっていて、あえて行くのは……」
 ためらいがちに口を開いたのは、義妹のジョゼだった。
「そこで仲間を増やせば……1300万ダメージの借金を無くせるからなのですね?」

 セリアは大きく頷いた。
「魔族はたいへん強大です。攻撃力だけを比べれば、神族を凌駕するものも多いと聞きます。必要総ダメージは1億なのです。魔族の力を利用できれば心強いでしょう」

「お兄さまが魔界にいらっしゃるのでしたら……」
 ジョゼが声を震わせながら言い切った。
「私も行きます」

「アタシだって行くわよ」と、サラ。
「魔族に襲われたら、シュテンに叩き込まれた炎技をお見舞いしてやるわ。神魔や精霊すらも燃やせる炎だってあるのよ」
 げ。
 そんなに凄くなってたのか、サラ。

「私は遠慮させて」
 テーブルの上に置いた水晶珠を撫でながら、イザベルさんが言う。
「昔いろいろあったので、魔界で過去がバレるとたいへんなの。死よりもひどい目に合わされるかも」
「そうですか……」
 セリアは澄ました顔をちょっと崩した。残念そうにもみえる。魔界行きに、イザベルさんの精霊達を戦力として組み込んでいたのかもしれない。
「私が行くよりもずっと、セリアさんが同行なさる方がいいわ」

「え?」
 オレとセリアが同時に声をあげる。

「古代技法は強力ですもの。あなたの先制攻撃の法は、ドゥルガーさますら封じたのよ。魔族相手にも通用するわ」
「それは、そうですが……」
「それに……」
 水晶を撫でながら、イザベルさんが言葉を続ける。
「魔界に向かうと……勇者さまの不幸度合いが間違いなくパワーアップするの……女難の嵐……次から次へトラブルが舞い込んでくるわ……ああ、こんなことも、あんなことも、あああ、そこまでされるのね……ス・テ・キ……ボロボロだわ勇者さま……」
 う。
「セリアさん、共に行って、惚れっぽくって不幸になりやすい勇者さまを護ってあげてはいかが? サラちゃんやジョゼちゃんや賢者さまだけでは護りきれないと思うの……」
「私が勇者さまを護る?」
「ええ。旅の果てには……輝かしい大きな星と出会えるわ……他を制する強い光……苦労にみあうだけの星……そうね……魔界に赴くのは悪くない未来だわ……勝利への道を歩む為にも……無事に帰還できればだけれども」

「でも、私は……」
「留守番役ならば私が引き受けるよ、セリア」
 セリアの横のお貴族様が、気障ったらしいポーズで髪を撫でる。
「私にとって造作もないことだからね」
「……あなた、学校は?」
 へ? 学生だったのか、こいつ。
「卒業課程まで修了しているよ。魔術師学校には席を置かせてもらっているだけだ」
 魔術師学校在籍ってことは……サラと同じ学校か! まあ、サラは初等部だったが。
「私もシャルロットも魔術師学校始まって以来の天才でね……二人とも一般の学生が学ぶべき事は全て学んでしまったのだ。卒業後の進路は決定済みなので、学生のまま猶予期間(モラトリアム)を満喫しているだけなのさ」
 む。
 社会に出て働けよ、貴族。
「ニーナ様との遊戯の為に隔日でオランジュ邸に通うつもりだったしね……昨日もこちらに泊めていただいたが、このまましばらく滞在しても構わないよ」
 泊まったのかよ、おまえ!

「シャルル……」
「ジャン君の為に働いてきたまえ、セリア」
 お貴族様が爽やかな笑みをお浮かべになる。

「仕事を代行する間は、君の指定した資料しか見ない。秘密の日記はもう見ないし、君の部屋の物ももう勝手に持ち出したりしない。恋のおまじないアイテムとか」

 顔を真っ赤にしたセリアは隣の再従弟に肘鉄をお見舞いし、それからコホンと咳ばらいをした。
「まあ、魔界での仲間探しは、マリーさんの協力があって初めて可能となります。まだ聖修道院からお戻りになっておられませんし、次回は別の世界へ」

 と、そこで、コンコンとノックが響いた。

「勇者さま、賢者さま、みなさま〜 ご無事の、ご帰還、何より、です〜」
 入室して来たのは、ほんわか聖女様だった。
「今朝、院長さまは、お目ざめに、なられ、ました〜 みなさまの、おかげで、院長さまと、お話して、こられ、ました〜 本当に、ありがとう、ございました〜」
 まだいつ急変するかわからない危険な病状らしい。でも、マリーちゃんは院長様の勧めもあったので、勇者の仲間として魔王戦まで働きたいと言った。
「院長さまや、みなさまの、いらっしゃる、この世界を、守りたいですから〜 私にできる事でしたら、何でもいたします〜 何でもおっしゃってください〜」

「魔界には、サラ、ジョゼ、マリー、セリアを伴おう」と、お師匠様。

 明日から、魔界に赴く事になりそうだ。
+注意+
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