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ハーレム100 作者:松宮星

ジパング界

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鬼を治めしひと   【ミナモト ハルナ】(※)

「勇者様こそ、鬼の首をとった勇士。天子様からお言葉をいただく栄誉はあなたのものにござりまするが、今はお国の大事の最中(さなか)。戦に赴く男子を長くひきとめる気はございませぬ」
 なれど、とヨリミツが言葉を続ける。
「帰国前に母に会っていただけませぬか?」

 横からマサタカさんが口をそえる。
「ヨリミツ様のご母堂ハルナ様は、先々代の『カガミ マサタカ』にございます。ミナモト家の祭事を司り、家事を指揮する家刀自(いえとじ)に就かれておられます」
 へー。
「お国に戻られるのは、ハルナ様にお会いした後の方がよろしいかと。鬼との戦の穢れを祓っていただけますよ」

 一晩ぐらいなら滞在が延びても構わないんで、承知した。
 てか、サラの精霊アナムがまだ戻ってない。還れないんだ。
 サラの呼びかけにも応えがないらしい。まだ復活してないのかも。

 移動前に、ヨリミツが侍大将の仕事をする。マサタカさんの精霊と忍者のカエデさんを使い、囮とした軍と連絡をとるようだ。鬼ケ城の探索、人質の保護、財宝の回収、鬼の首の運搬、シュテン残党の追撃などを命じる為に。

 オレらはサラの無事を喜んだ。
「ご迷惑をおかけしました」
 サラは深々と頭を下げてから、ジョゼ達に感謝の気持ちを伝えた。

 アナム探しを希望したティーナには、アウラさんとルーチェさんをつけた。アナムが斬られた場所を中心に、まずは都を探索するのだそうだ。

 サラもアナム探しに同行したがったが、マリーちゃんに止められた。
「お体の中が、あまり、よろしく、ありません〜 何度も大怪我をなさって、治癒された、跡があります〜 傷口を、糊で、仮止め、している、状態です〜 今日、安静に、なさらないと、数日寝込む事に、なりますよ〜」
 サラはこの六日、シュテン童子に監禁され、魔法の修行をつけられていたのだそうだ。
「あいつ、アタシのこと、仲間だって言ったのよ。仲間を育てるのが趣味だって言って、無茶苦茶な修行をつけてきたの」
 精神呪縛の魔法をかけられていた為、逃げようという気にはならなかったそうだ。
「ごめんなさい、ジャン。アタシのせいでこの世界から還れなかったのよね……」
 そんなことはいい。
 オレは気になっていた事を聞いてみた。
 気になって、気になって、このとこ熟睡できなかったんだ……
 だけど……
 サラに拳でぶん殴られてしまった。
 シュテンに何処までされたのか? って聞いただけなのに。
「えっちな想像はやめろっ! あいつ、女だったのよ! 何もないわよ!」
 いやいやいや。
 世の中にはカトリーヌみたいな女性も居るし。
 あいつの部下には野郎も居るし。
「朝昼晩ず〜〜〜〜と、あいつと修行よ! あいつ炎使いだから、アタシを気に入ったの! それだけよ!」
 真っ赤な鼻のサラ。
 その顔を見てるうちに、ようやくオレの体から緊張が解けた。

 良かったと、心から思えた。

 視線を感じた。
 カトリーヌが、ジーッとオレを見ている。又か、と思う。英雄世界に居た頃から、たまにこうだった。何も言わず、オレを見てるんだ。
 オレはカトリーヌに対し、軽く頭を下げた。
「弓攻撃、ありがとう。助かった。あそこでカトリーヌが黄金弓を使ってくれなきゃ、サラを助けられなかったよ」
「どういたしまして」
 カトリーヌは肩をすくめ、おどけて答えた。
 そのまま何か言いたそうにオレを見てるから、「何?」って聞いてみた。

「今夜、あなたの正体がわかるかなあと思っただけ」
 オレの正体?

「……私、かわいい女の子が好きなの」
 知ってる。
「男なんて、下品で無神経で身勝手な生き物だもの。存在自体がゴミよ。消滅してくれればいいと思ってるわ」
 はあ。
「百人ハーレムの為に協力してるけど……私、あなたも好きじゃないの」
 まあ、オレも男だし。
「……大嫌いな男にそっくりなんですもの」
 ん?
「あっちにふらふら、こっちにふらふら。みんなから好かれようと善人ぶって、女達に媚びまくったみっともない男。その気になった女をポイポイ捨てて、次々に相手を代えたのよ、あいつ。子供までつくって。本当、最低のクズだったわ」
 む。
「その男にオレが似てるって?」
「そっくりよ」
 断言するし。
 さすがにムッときた。
「オレは仲間を大事にしてるだけだ。フラフラなんかしてない」
「ふーん」
 カトリーヌがふふんと笑う。
「その台詞、明日も言えるかしらね」
 カトリーヌは意味ありげに微笑み、口を閉ざした。


 マサタカさんの精霊に移動魔法で運ばれる。都へではなく、都から少し離れたヨリミツの荘園の別邸へと。

 オレ達を迎えてくれたのは、ヨリミツのお母さん。白いものが少し混じった長い髪の、柔和で優しそうな年配の女性だった。
 凛々しい系のヨリミツとはあまり似ていない。が、マサタカさんの叔母と聞いて納得した。顔立ちがよく似ている。

 儀式があると、オレは仲間達から離され屋敷の奥へ連れて行かれた。
 しかし、お祓い的なことはされなかった。
 風呂に入った後、ジパング風メイドさんに手伝ってもらって白い衣装に着替え、ヨリミツ親子と食事をしただけだった。

 で、食事後、そこでしばらく待たされてから、布や屏風の間仕切りに囲まれた場所に案内された。
 板張りの床の上に、デンと置かれた畳。ジパング風ベッドだ。
 その上に小袖一枚となったヨリミツが正座して待っていて、
「ふつつかものにござりまするが、お仕えしとう存じます」
 と、挨拶した後、しなだれかかってくれば……

 さすがにわかるよ、オレだって!
 どういうシチュエーションなのか!

「勇者様……」
 ほんのりと赤く染まった顔で、ヨリミツが切れ長の瞳を細めてオレを見つめる。
 瞳はうるみ、漏らす息は熱い。
「お慕いしております……」

 紅をさした唇が震える。
 ためらうように、はじらうように、喜ぶように……

「一夜限りとなっても構いませぬ……どうぞ、この身を勇者様のものに……」

 そして……
 微笑んだんだ。

 武家の頭領としての顔ではなく、
 鬼と対峙した時の鋭い顔でもない。
 女性らしい表情だ。

 オレへの深い思いをこめた笑みだった。

 綺麗だった……

 オレのハートは、キュンキュンキュンキュンと鳴った……

 頭にカーッと血が上る。心臓はもうバクバクだ。

 目の前が赤くなる。

 勝手に手があがる。
 ヨリミツを抱きしめたい。

 ちょっと近寄れば、口を重ねることもできる。
 赤い唇がオレを誘っている。

 だが! だが! だが!

 やっちゃいけない!
 やったら終わりだ!

『魔王戦が終わるまで、最愛の方を選ぶのはお控えなさいませ』
 霊能者カンザキ ヤチヨさんの言葉が頭の中で何度も甦る。
『チュド〜ンなさりたくなければ……』
 なさりたくありません!

 オレは急いでヨリミツから離れた。
 くっついていたら、絶対、オレは負ける。
 誘惑に弱いから!

 床に土下座し、ヨリミツに謝った。
「ごめんなさい! できません!」
 女性が勇気をもって誘ってくれたのに、断るなんて失礼だ。
 わかってる。
 わかってるけど、何も考えず流される方がもっと失礼だ。

「ヨリミツさんが嫌いとか、そーいうんじゃないんです! 美人だし格好いいと思ってます! けど、駄目なんです!」

 ひたすら頭を下げた。

「魔王戦が終わるまで、大切な(ヒト)は選べません! 今は魔王を倒す事だけを考えたいんです!」

 ともかく土下座。
 ヨリミツは無言だ。
 沈黙が怖い……

 そいや、ヤチヨさん、こうも言ってたよな。  
『振ってもいけませんのよ。魔王戦まで伴侶を平等に扱いなさいませ』と。
 今のって振った事になるのかな?

「もしや……」
 ヨリミツの声。
「願かけにござりまするか?」
 ん?
「魔王戦必勝を祈願し、女色を断っておられるのか?」
 む?
 違うような……あぁ、でも、魔王戦のせいで本命を選べないんだから……
「そんな感じです」

「ならば、いた仕方ござりませぬな」
 ヨリミツがオレの前にやって来て正座をする。
「顔をおあげくだされ、勇者様」
 その言葉に甘えさせてもらった。
 ヨリミツと、向かい合って座る。
 ヨリミツは、静かな顔をしていた。怒ってないし、取り乱してもいない。

「勇者様がご本懐を遂げられますよう、今日より私も神仏に祈願いたします」
 そして、オレに対しお辞儀をする。
「魔王戦では、このヨリミツ、働かせていただきます。我らが共に戦えば、魔王など恐るるに足りません。必ずや勇者様が勝利なさいます」

 胸がジーンとした。
 ヨリミツの言葉には、何の根拠も無い。オレを買い被って、目が曇ってるんで。
 でも、絶対そうだって信じきってる人が『必ず勝つ』と言いきってくれるのはいいなあ。
 耳に心地良い……

 顔をあげたヨリミツが微笑む。
 敬慕の情を浮かべた顔で。
「我らの未来も共に願っておきましょうぞ。どうぞ後顧の憂い無く、戦いにご集中くだされ」





 朝、目覚めると、ヨリミツは屋敷に居なかった。
 マサタカさんの精霊の力を借りて軍に戻ったんだ、大将としての仕事を果たす為に。
 じきにオレが還るってわかってるのに、『さよなら』も言わない。実にあっさりしている。潔い。男前だ。
『オニキリ』をまだ返してないんだがなあ。

 いつもの服に着替えて、みんなが泊まった部屋に行った。
 サラもジョゼも、睨むような泣き出しそうな顔でオレを迎えた。二人とも目が赤かった。あんま眠ってなさそう。ジョゼの肩には紫の小鳥が居た。
 お師匠様はいつもの無表情、マリーちゃんはほんわかしてる。
 けど、部屋の中は妙な雰囲気だった。
「で? お侍さまと契っちゃったの?」
 直接聞いてきたのは、カトリーヌだった。
 オレだけが仲間から離された理由を、みんなはわかってたのか。
 わかってたんなら、教えてくれりゃいいのに……

「契ってない」
 女狩人を睨んだ。
「魔王戦が終わるまで大切な(ヒト)は選べない、魔王戦に集中したいって断った」
「ふーん」
「女色断ちと誤解して、納得してくれた。昨晩は、ヨリミツとは別々に寝たよ」
「ふーん」
 カチンときた。
「嘘じゃねえよ」
「わかってるわよ」
 女狩人は、おどけるようにおおげさに肩をすくめた。
「あなた、すぐに顔に出るもの。嘘つけば一発でわかるわ。天才的な嘘つきだったパパに比べれば、その欠点があるだけマシよね」
 パパ……?
「……もしかして、オレに似てる人って、カトリーヌのお父さん?」
 女狩人は不快そうに眉をしかめたが、その質問には答えなかった。ぷいっと横を向き、良かったわねえなどと言ってサラ達の方へ行ってしまった。


 ティーナに連れられてアナムが戻って来たんで、還れる事になった。

 還る前に『オニキリ』を返しに、ヨリミツのお母さんに会いに行った。帰国の挨拶もするんで、お師匠様も一緒に。

 だが、案内された部屋で、オレは信じられないものを目にした。
 ミナモトの家刀自ハルナさんの側に、異形が二体居たのだ。
『オニキリ』を抜刀し、構えた。
 けれども、
「刀をお収めください、勇者様。この者達は私の客人にございます」
 と、ハルナさんにやんわりと制されてしまう。

「よぉ」
 右手をあげてニヤリと笑ったのは、赤毛の大柄な美女だった。あぐらをかいたその体は逞しい筋肉に覆われながらも、出るところは充分すぎるほど出ていた。わずかな布で覆われた胸は、圧巻なほど大きい。
「悪ぃ。剣を返し忘れてたよな。今、返させるわ」
 オレの前の床に、鞘に収まった剣が現れる。ドワーフのケリーさんがくれた水の魔法剣だ。
 赤毛の女の斜め後ろに、白髪の男が居た。青紫の装束のこいつが、物質転送で運んだんだろう。

 シュテン童子とイバラギ童子だ。都を騒がせていた妖鬼の親分とその手下が、何故、侍大将の家に?

 未だに刀を握ったままのオレ。
 オレの右手にそっと手がそえられる。ハルナさんだ。座っていたはずなのに、いつの間にか側まで来ている。
「勇者様なればお気づきでしょう。シュテンは盗賊の首領ではありまするが、邪悪ではありませぬ」
 オレの手を握る女性。黒々とした髪、穏やかな笑みを浮かべた顔、なめらかな肌……ハルナさんは、十五、六の乙女としか見えない外見に変わっていた。
「なので、当代のマサタカに命じ、精霊の力で逃亡を幇助させました」

 へ?

「妖鬼討伐隊が都を離れる以前に、シュテンとは話がついていました。侍大将に討たれ死んだ振りをしてもらうと」
「その女とは古い知り合いなんでね」
 と、シュテンが笑う。
「討たれやすいように、鬼ケ城を離れ、岩屋に籠ってたんだ」
「勇者様が妖鬼の首を刎ねる幻を生み、鬼の生首をつくり、シュテンの配下の者を護衛して山より下がらせたのは、カガミ家の精霊にござります」
 乙女が悪戯っぽく笑い、口元の前に指を一本たってみせた。
「くれぐれも、ヨリミツには内密に。真面目なあの子は芝居ができませぬゆえ、幻を見せたのです。あの子がシュテン討伐の奏上を終えれば、妖鬼騒動もおさまりましょう」

 戸惑うオレに、乙女がにじり寄って来る。

「ね、お願い。この事は私達だけの秘密に」
 顔をうつむき加減にし、上目づかいに乙女がオレを見る。
 誘うように微笑みながら。

「ね?」
 あどけなく見える仕草なのに、その瞳は大人の女性のものだった。ぞくぞくするほど色っぽく、媚を含んでいた……


 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……


 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。

《あと五十〜 おっけぇ?》
 と、内側から神様の声がした。


「ジャン……」
 オレの横でお師匠様が、ため息を漏らす。

 あれ?
 今、オレ、萌えた?

 オレは目の前の女性を改めて見つめた。
 十五、六に見えるけど……この女性(ヒト)はヨリミツのお母さんだ。
 多分、四十代……

 血の気がさがっていった。

 硬直しているオレに代わり、お師匠様がヨリミツのお母さんに尋ねる。
「あなたの正体は? ただの人間ではありませんな?」

「私も鬼なのです」
 ハルナさんが可愛らしく微笑む。

「鬼の巫女なのです」


 部屋に誘われたオレ達は、シュテン達と向かい合って座った。
「この国には、何百年も前より鬼が居ります。私の実家カガミ家は代々、鬼を守護し人と鬼の和をとりもってまいりました。当主『カガミ マサタカ』の座を後人に譲った後も、鬼を護る役目からは退く事はありませぬ。というのも、」
 ハルナさんの笑みが、少し苦いものとなる。
「この国に鬼を生み出したのは、カガミ家。鬼を護るのは一族の義務なのです」

 へ?

「勇者様もご存じのように、初代カガミ マサタカは百体以上もの精霊を従えました。その全ての精霊を伴い、この世界に還って参りました。なれど、絶対的な力を有した初代に比べ、二代目以降のマサタカはあまりにも微弱な力しかなく、精霊を統べきれず勝手を許してしまいました」
 ハルナさんが溜息を漏らす。
「人間と交じわり、子をなすものまででました。その生まれた子の子孫が、今、鬼と呼ばれる者にございます。カガミ家当主も五代目より後、精霊の子孫……つまりは鬼なのです」

 精霊の子孫……?

「精霊を御す為、一族の中から最も強い鬼が当主『カガミ マサタカ』を継いでまいりました」
「……精霊に性別はないのに? 子供をつくれたんですか?」
「人間の子づくりとは違います。人間と精霊の気を交じり合わせ、新たな存在を産み出すのです」

 て、ことは……
「精霊が鬼を産んだんですか?」
「そうです。しかし、人間の女に赤子として産ませる事も多く、半々でした」

「何でそんな事を……」
 ハルナさんが穏やかに微笑む。
「愛しく思った者の分身を欲したのです。人が人に恋するのと同じです」

 恋……
 精霊は人に恋をするのか……?

 五代目マサタカ以後、精霊の恋の暴走は抑えてきたが、その時点で百体以上の鬼が生まれていたのだとハルナさんは言った。
「ほとんどの鬼は、人としての特徴の方が強い。私の子ゆえヨリミツも鬼ではありまするが、鬼の力には目覚めきっておりませぬ。跳躍力と闘気以外は凡庸、人に交じって暮らせます。世代が進めば更に人の血が濃くなり、精霊の特徴も消えてゆきましょう。しかし、ごく稀に」
 ハルナさんが苦笑を浮かべ、赤鬼とその配下の白髪鬼を見つめる。
「このシュテンやイバラギのように、人間と精霊の良きところだけが結びつき、精霊と同等以上の存在が生まれる事があるのです」

「俺が攫った美男美女は、み〜んな鬼なんだよ」
 と、赤毛の鬼がニヤニヤ笑って言う。
「精霊の血をひいてる者は、見りゃわかるからな。かっさらって、鬼の力に目覚めさせ仲間にしてきたんだ」
 派手に動くから朝敵とされるのですと、叱るハルナさん。
 それに対し、大人しくしてたって異形と蔑まれ狩られるさと、シュテンが赤い髪を掻き上げる。
「鬼は鬼だ。力を封印し人の振りして暮らすなんざ、御免だ。心の赴くままに生きられねえんなら、あんたの下を離れた意味がねえ」
 若い外見のハルナさんが、静かに頭を振る。
「時は流れ、人と鬼のありようも変わりました。そなたに人として生きよとは、もう願いません。都の力の及ばぬ遠き地で、自由にお生きなさい」

 頭が痛くなってきた。
 思考がまとまらない。

「どうかなさいましたか、勇者様?」
 ヨリミツの母親が、気遣わしげにオレを見つめる。
「いや、ちょっとびっくりして……」

 オレは精霊を誤解していた。
 性別が無いから、人間とは違う存在だと思っていた。

 彼らが人間に対し恋愛感情を抱くとは思っていなかったんだ。

 オレの精霊達の姿が次々に心に浮かび、そして……
 ジョゼの肩にいつもいる小鳥が思い浮かんだ。
 雷の精霊レイ。義妹の格闘の才に惚れ込み、押しかけしもべになったヤツ。
 ジョゼにべったりだけど、小鳥の姿だからまったく警戒されてない。ジョゼはあいつをお友達だと思って、何でもうちあけている……
 もしかすると、あいつは……
 スケベ貴族以上に、ヤバい存在なのでは?

 ああああ、胸がもやもやする!
 すっきりしない!

 更にシュテンが、衝撃の事実ってヤツをオレに伝えてきた。
「あの赤髪の女……サラも鬼だよ。何代か前の先祖に炎の精霊が居るんだ」
 シュテンが、赤毛の美女の顔で笑いかけてきた。
「仲間だから、手とり足とりかわいがってやったんだ。あの女、まだまだ強くなるぜ。最高位の炎の精霊と同等かそれ以上にな」
 何と。
「うまく育ちゃ、魔王戦の主戦力になる。大事に育ててやんな」

 それから、ハルナさんがいろいろ説明してくれた。家系図まで持ってきて、カガミ家の成り立ちやら、異世界との関わりについて。
 初代『カガミ マサタカ』以降当主がその名を継いできているが、マサタカ登場以前からカガミ家は神事を司ってきた一族らしい。
 古代から伝わる秘術も数多くある。
 その秘術によって、初代マサタカの父親は異世界から召喚された。霊力の強い男性だったらしい。当主の女性との間に子をなした後、もとの世界に還されたのだそうだ。
「異世界からの召喚及び転移の法が、一族に伝わっております。鬼達がこの世界でいよいよたちゆかなくなりましたら、異世界に転移させたいのですが」
 オレは家系図をぼんやり見つめた。初代の父親は、サクライ マサタカって異世界人らしい。どっかで聞いた名前のような。
「勇者様の世界の神様は、異世界人を受け入れてくださいましょうか?」
 そうなら候補地の一つとして考えたいというハルナさんに、お師匠様がオレらの世界の女神の説明をしていた。純血を気にする方ではない、今までも異世界人を受け入れてきた方だからおそらく大丈夫だろう、魔王戦までに確認をとっておく、と。

「まあ、当分は、こっちで楽しくやらあ。どっかの島に、鬼だけの国でもつくるさ……鬼ケ島って名がいいかな」と、シュテン。
……すぐに退治されて滅ぼされそうな名前の島だ。





 オレ達の帰国を、ハルナさんと二人の鬼が見送ってくれる。

 みんなが泊まった部屋の板の間に、お師匠様が『勇者の書 39――カガミ マサタカ』の表紙を置いた。
 オレらの背後には、アナムを抱きしめたサラと、紫の小鳥を肩にのせたジョゼと、マリーちゃんとカトリーヌが居る。あの小鳥野郎、さっき顔をあわせたら胸をそらせて嘴を天に向けたんだ。尊大に顎をしゃくっているように見えて、非常にムカついた。

「お元気でみなさま」
『オニキリ』を手に持ったハルナさんが手を振る。年相応の姿に戻っているが、こちらの姿の方が変化なのだそうだ。鬼の特性が強い彼女は、老化が遅いのだとか。

「しっかり鍛錬をつめよ、サラ。魔王なんざ黒焦げにしちまえ」
 赤毛の美女が豪快に笑う。牙の生えた恐ろしげな鬼の姿の方が変化で、こっちが本当の姿らしい。とりあえず、ホッとしている。

 イバラギは、シュテンの部下としてこの場にいますって態度だ。何も言わない。澄ました顔をつくってるが、とっとと還れと言いたそうだ。

 魔王が目覚めるのは、四十九日後だ。

 還るとなったら、気になった。
 魔王戦でヨリミツとシュテンは顔を合わせちゃうけど、大丈夫だろうか?
『オニキリ』はどうやって攻撃するんだろう? ヨリミツに持ってもらうのか? 伴侶二人でいっぺんに攻撃したら、攻撃カウントはどうなるんだ?
 人間と精霊の恋ってどうやって始まるんだ? 合意でなきゃ、子供はつくれないんだよな?

 聞いときゃ良かったと思いながら、オレは……

 魔法の光に包まれ、お師匠様達と共にもとの世界へと還っていった……


* * * * *


『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き

●女性プロフィール(№050)

名前 ミナモト ハルナ
所属世界   ジパング界
種族     人間(鬼)
職業     家刀自
特徴     ヨリミツの母で、
       マサタカさんの叔母。
       先々代のカガミ マサタカ。
       鬼(人間と精霊の血をひくもの)を
       守護する鬼の巫女。
       ご本人も鬼で老化が遅い。
       昔はシュテンを配下に置き、
       人として暮らさせようとした。
       が、今は独立を認めている。
戦闘方法   巫術?
年齢     四十代?
容姿     本当の姿は十五、六の乙女。
       マサタカさんによく似た
       愛らしい容姿。
       だけど、年配の女性らしい
       落ち着きにあふれている。
口癖    『ね、お願い』
好きなもの  鬼? ヨリミツ? ミナモト家?
嫌いなもの  鬼が滅びること。
勇者に一言 『この事は私達だけの秘密に』
挿絵(By みてみん)
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