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ハーレム100 作者:松宮星

ジパング界

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鬼を討ちし武者   【ミナモト ヨリミツ】(※)

 オレ達勇者一行は、赤い大鎧の侍ヨリミツの屋敷に閉じ込められている。
 豪華な膳が用意され、一応、客扱いをされてはいる。が、主のヨリミツは姿を見せないし、間仕切りの向こうや庭には武装した侍が居る。軟禁状態だ。
「ご不快を覚えられたら、すみません。ただいま、ヨッちゃ……ヨリミツ様は難しいお役目に就いておられるのです」
 十三代目マサタカさんこと巫女さんが、接待役兼説明役として一所懸命便宜を図ってくれている。今のところ何とかキレずに済んでるのは、彼女のお陰といっていい。
 食事の膳を囲みながら、オレ達は巫女さんの話を聞いた。

 オレらの居るキョウの都の東北や北方の山々には、鬼が棲むのだそうだ。
 赤やら青やら黄色やらの鬼達……異形の者がたくさん集まって、徒党を組んでいるらしい。で、山の中の鬼ケ城には鬼の大将と副将が住んでいるのだそうだ。
 大将のシュテン童子と副将のイバラギ童子は妖術使いで、神出鬼没。嵐や火事を起こし、疫病を運び、貴族の屋敷を襲っては金銀財宝と見目麗しい男女をさらうのだそうだ。

 赤鎧の侍は、都のお偉いさんからシュテン討伐を命じられ、旅立ちの準備をしていたようだ。
 その超忙しい中、妖しげな一団……ようするにオレ達が出現したという報告を受け、いそぎ討伐にやって来たらしい。
 現在の都は、警戒態勢中。陰陽師や巫女部隊によって蟻をも逃さぬ巫術監視システムができているらしい。
「あなた方の出現を感じ、ヨリミツ様にご報告したのは私です。異形の者六人。被り物で頭髪の色を確認できぬ者が二名……そちらの魔術師さんと僧侶さんの事ですが……シュテン童子の変化かと疑ったのです」

 マサタカさんは巫術で姿を消して潜み、オレらを一網打尽にできる機会を窺っていたのだそうだ。『勇者の馬鹿力』発動前のオレにお札を貼ったのも、彼女のようだ。

「ひとつ聞きたいんです……アタシ、フードを被っていましたが」
 サラがむっつりした顔で、巫女さんに尋ねる。
「あの赤侍さん……アタシだけを狙ってましたよね?」
 サラはマリーちゃんをちらっと見た。のほほん聖女さまは、ほんわかしたお顔でオレンジ色の果物を食べていた。修道尼のマリーちゃんは、頭をすっぽり黒頭巾で覆っている。髪の毛一本漏らしていない。
「どうしてでしょう?」
「そりゃ、顔だろ」
 とてもとても愛らしいマリーちゃんを狙う理由は無いもんな。
「どっちが乱暴そうかは、一目瞭然……」
 そこまで言いかけてオレはぶっ飛んだ。サラに杖でぶん殴られたんだ。そーいうところが鬼だってのが、わからないのか、おまえは!

 巫女さんはクスクス笑いながら、
「シュテン童子は、神鉄製の棍で戦うって噂ですので……杖をお持ちでしたので、シュテンかと疑われたのではないかと」
 サラは杖頭に大きなダイヤモンドのついた魔術師の杖を持っている。打棍じゃないんだが……打棍棒として使ってるよな、こいつ。

「そちらの事情は察する。鬼騒動で揺れている現在、見るからに異形の我々が街中を闊歩しては迷惑であろう」
 お師匠様がいつも通りの無表情で、淡々と言葉を続ける。
「だが、我々はこの世界に百一代目勇者ジャンの仲間を探しに来たのだ。五十六日後に魔王が目覚める。それまでに勇者は、あと五十五人の女性を仲間としなければいけない」
「それが、当代勇者様の試練なのですね?」と、巫女さん。先祖に三十九代目勇者が居るから、勇者と魔王の戦いの定石を理解してくれているようだ。
 お師匠様は頷いた。
「回らねばならない世界はあと七つ。このまま拘束されていては、勇者の命運が尽きてしまう」
 巫女さんはお察ししますと頭を下げ、五十六日後の参戦を約束してくれた。

 お師匠様がオレらを見渡す。
「この世界を可能な限り早く離れ、次なる世界に渡ろうと思う。意見はあるか?」
 え?
 もう?
「賛成です。戦間近の国にいてもいい事ありませんもの。とっととよそへ行きましょ」
 と、カトリーヌ。髭面の侍達が庭やら間仕切りの向こうやらにいっぱい居るんで、女狩人のご機嫌は悪い。
 まだ一人しか仲間にしてないんだけどなあ。
「十二の世界から〜 百人を、お集めになれば、託宣通りに、なります〜 この世界では、巫女の、マサタカさんを、仲間として、いるので、移動しても、問題は、ありません〜」
 マリーちゃんも移動に賛成のようだ。
「あと五十五日しかありません……お兄さまは一日も無駄になさらない方が良いと思います……」
 義妹がうるんだ瞳で、オレをジッと見つめる。ジョゼはナーバスになっている。『チュド〜ン』技がオレにあるって知っちゃったからだ。自爆魔法だってはっきりとはわかってなさそうだが……仲間をちゃんと集められないと、オレがたいへんな事になるのだと察しているようだ。

「待ってください。アナムやジャンの精霊は? まだ復活してないのに、移動しちゃっていいんですか?」と、サラ。
 サラのアナムとオレのアウラさんとティーナとマーイさんが、赤侍に倒されている。数時間から数日で元の姿で戻って来ると、お師匠様は言っているが……
「移動は、精霊の復活を待ってからだ」
 お師匠様がそう言うと、サラの顔からほんの少し険がなくなる。
 サラは昔っから変わってない。身内とした者には、とことん優しい。愛し、守ろうとする。
「この世界に置いていけば、精霊と主人との契約が切れかねんからな。殊に、ティーナとマーイとの契約の証はジャンの手元にない。復活を待つべきだろう」

 そこでお師匠様が巫女さんへと顔を向けた。
「我々をこの館にとどめおくご所存ならば、こちらの事情を察し、お力添えをいただけまいか? 勇者ジャンの仲間となり、魔王と戦える優秀な女性をご紹介いただきたい」
 お師匠様が説明する。ジョブが被らないよう、魔王に100万以上のダメージを出せる女性を探しているのだと。
 巫女さんは首をかしげた。
「どのような職業の者をお探しですか?」

「侍!」
 オレはすかさず答えた。
「くノ一! 陰陽師! 用心棒! 剣豪! 同心! 渡世人はシロさんがいるから……えっと、変身忍者! メカ侍! 仕事人!」
 ジパング風なものをあげてみた。が、知らないジョブがあると巫女さんは言う。違う世界のジョブと混同してるのかな、オレ?


 夜になると、辺りは暗くなった。
 この世界の照明は、オレらの世界のよりも暗い。昨日まで照明が発達した英雄世界に居たんで、暗い夜が心もとなく感じる。
 遠くから侍達の声やら馬のいななきが聞こえる。篝火をたいて、まだ戦支度を続けているようだ。
 仕切りの向こうや外への通路に監視の侍達が居る。ヒゲ侍ばっかじゃない。ハゲとか痩せとかクマ男とかいろいろ居るんだが、みんな同じ。いかめしい顔で控えているだけで、話しかけても答えてくれない。
 召使いも来ない。
 巫女さんも居なくなった。オレの仲間になれそうな人間に声かけに出かけたんだ。

 カトリーヌは早々に就寝した。ムサ苦しい男達に囲まれてるわ、女の子はやって来ないわ、ナンパに出かけられないわで、不満たらたらなのだ。
 眠くなった者は、布や板の仕切りに囲まれたスペースに移動する。そこにジャポネ風の寝具が置かれているんだ。
 マリーちゃんやジョゼやサラも、眠りに行った。

 薄暗い灯りの下で、オレはお師匠様に手伝ってもらって『ルネ でらっくすⅣ』をチェックしていた。袋の中から出したものが何かを解説書と照らし合わせているんだ。
 ティーナ達の復活を待って、オレらはこの世界から立ち去る。その前にルネさんの発明品をよく調べ、使える物は使っておいて、次の世界で有効そうな物の目星をつけておきたかったんだ。
 次にどの世界へ行くかも考えなくては。

 ふと視線に気づく。
 解説書を持ったお師匠様が、オレを見ているんだ。
 どこを見られているのかわかり、慌てて左手を開いた。いつの間にか、掌がペンダントトップのエメラルドを握っていたんだ。アウラさんとの契約の石を無意識にいじっていたようだ。
「『萌え萌え注意報くん』は、オレの心拍数やら血圧から注意報を出してくれるのかあ。不用意に萌えちゃいけない時に持つといいかも」
 照れ隠しにオレは、右手に持っていたモノをポケットにつっこんだ。

 気ままで悪戯好きなアウラさん、明るくて一途なティーナ、オレを慕ってくれていたマーイさん。
 今、三体とも消えているのだと思うと、つらい。
 精霊だから三体は死なずに済んだ。けど、人間だったら? と、思うとぞっとする。
 勇者なくせにオレは、伴侶を守れなかったのだ。

 もっと強くならなくては……

「発明品の調べはあらかた終わった。今日はもう寝ろ」
 お師匠様が淡々と言う。
「昨日もあまり眠っておらんのだ。体がもたんぞ」
 又、ガキ扱いだ。いつもの事だけど。
「どうせ眠れませんよ」
 オレは溜息をついた。
「お師匠様こそ寝たらどうです? 不老不死ったって、眠くもなるし、疲れもする。昨日、お師匠様のが後に寝たんだから、先に寝てください」
「私の事はいいのだ」
 お師匠様は首をやや傾げた。

「『勇者の使命』を果たす事こそ大事。人探しの中、あまりおまえを煩わせたくはなかったが……軟禁され、思いもかけず時もできた。良い機会かもしれん」
 ん?
「ジャン、おまえに考えてもらいたい事がある」
「はい」

「おまえは素直だ。何の疑問も抱かず、私の言葉をそのまま受け入れてくれる。私はおまえを一人前の勇者に育て、いずれは賢者を継いでもらいたいと願ってきた。しかし……」
 お師匠様が静かに瞼を閉じる。

「おまえの未来は一つではない」

 へ?

「魔王に勝利した後、賢者にならずともよい」

 は?

「困難を乗り越え、魔王を倒すのだ。おまえは自分の意志で未来を選ぶ資格がある。賢者とならず、他世界に転移してもいい。神様からご褒美をいただき、ただ人として豊かな人生を送っても良いのだぞ」

「何で……そんなこと言うんです?」
「英雄世界で霊能者のヤチヨに助言されたのだ。言葉の呪で勇者を縛るな、未来は本人に委ねよ、と」
 お師匠様が静かに瞼を開く。すみれ色の瞳が、オレを映す。
「ジパング界に赴く前に、イザベルからも同じ助言をされた。私の星が勇者の星をも支配しようとしているとな。最悪、私の星に呑まれおまえの星は輝きを失うのだそうだ」
 胸がどんどん痛くなる。体から血の気が引いてゆく。

「賢者となり後人を導きたいと望むのなら構わん。しかし、よく考えろ。本当に不老不死の賢者となりたいのか? 賢者となる事が、本当に正しい未来なのか?」

 魔王を倒す事しか考えてこなかった。

 その先の未来なんか、おまけだった。
 チュド~ンなしで倒せるかどうかもわかんないんだ。1300万ダメの借金もあるし。
 運よく生き延びられたら、賢者になる。そうとしか思ってこなかった。
 だけど……

「オレが賢者を継がなかったら……」
 声が震えてきた。
「お師匠様、賢者のままじゃないですか……」
 お師匠様の口癖は『おまえは、私の跡を継いで賢者となるのだ』。
 今までオレは脳天気に『お師匠様の期待に応えたい!』とだけ思ってきたけど……

 お師匠様と九十七代目勇者ユナ先輩の会話が心に甦る。
『私は賢者だ。勇者を勝利に導く為に、存在しているのだ。私的な感情など不要だ』
『まだそんなこと言ってるの? 死んだ恋人だって浮かばれないよ』

『そなたが勇者として、真の務めを果たすことを祈る……シルヴィの為にも、真の男となってくれ』
 ドラゴンの女王アシュリン様の言葉やら、
『死なぬのではない……死ねぬだけなのに、な』
 お師匠様の言葉まで頭の中でグルグルする。

 お師匠様は……何を望んでいるんだ?

「オレに賢者を継いでもらいたいんでしょ……?」
 お師匠様はいつも通りの無表情だ。
「私の事は気にかけるな。おまえはおまえの人生を選べ」

「できません。オレだけ幸せになるなんて、駄目です」
 オレの選択がお師匠様の未来を左右するんだ。
「お師匠様も幸せになれなきゃ嫌です」
 お師匠様が瞳を細め、口元をかすかに開く。微笑んでいるかのようなその顔は、寂しそうにも見えたし、何もかもをあきらめきった人のようでもあった。
「教えてください、賢者を辞めたいんでしょ? 辞めた後、お師匠様は」

 ガタンと物がずれる音がする。
 室内の間仕切りがずれたんだ。細い柱と横木に布がくっついた几帳ってヤツ。そこからひょいと顔を覗かせたサラが、ばつが悪そうに頭を下げる。
「すみません……盗み聞きするつもりはなかったんですが……」

「いや、こちらこそ、すまなかった。夜に騒いだ我々が悪い」
 お師匠様が淡々とサラに謝る。

 サラが顔を歪める。せつなそうな顔でオレを見つめ、らしくないほど弱々しい声で謝罪の言葉を口にする。
「ごめんなさい……」
 お師匠様の言う通りだ。布の間仕切りしかない所で、大事な話をした方も悪い。
 お師匠様との話の続きは、また今度だ。
 オレは拳を突き出し殴る振りをしてみせてから、サラに笑顔を向けた。『今ので盗み聞きは帳消しだ』ってつもりで。
 サラはほんのちょっぴり鼻の頭を赤く染め、なにバカやってのよと言いたそうに笑みを返した。

 その時。
 フッと灯りが消えた。
 室内のも(ひさし)の灯籠まで、いっぺんに。

 真の闇となる。

 光の精霊ルーチェさんに明かりを頼もう……そう思ったんだが、思考はまとまらなかった。

 オレの意識は深いところに沈んでいった……


宵ヲ彷徨フ(クレセント・)月将ノ(シェイド・)菩蓮掌ディスアピア!」
 マリーちゃんのナニな呪文を聞こえた。状態異常回復魔法だ。
 金属と金属が触れ合う音、何かが床を蹴る音、風の音を感じながら、オレは目を開けた。

 光球が浮かんでいるのが見えた。魔力による明かりに、室内が照らされている。庭までの間仕切りは倒れ、視界が開けている。
 月夜の庭で、ぴょんぴょん何かが飛び跳ねている。バッタのような動きから誰かわかった。赤侍だ。武具は外し、白い小袖姿になっている。髪は束ねていない。肩を過ぎるくらいの黒髪が靡いている。
 赤侍ことヨリミツは、何者かと剣を交わしていた。
 動いている者は二人だけだ。警備の侍達もそこらに転がっている。皆、意識を失っているようだ。

 庭の空中に人が浮かんでいた。大地を踏むかのように足が下、頭が上だった。が、その者の足裏から地は遠い。庭で戦う二人よりも、尚、高い所に浮遊している。
 黒のローブ姿だ。
 フードは被っていない。
 ぐったりと力なく頭を垂れている。綺麗なストロベリーブロンドの長髪が揺れている。

 あ?

「サラ!」
 オレは体を起こした。
 すぐ側に座っていたマリーちゃんが、彼女にしては速いテンポのしゃべりで状況を教えてくれた。
「賊が、侵入、したんです〜 眠りの魔法で、みな、眠らされ、サラさんが、さらわれ、ました〜」
 オレの横にお師匠様も倒れている。

「ルーチェさん、治癒」
 魔法で眠らされた人間を起してくれ、光の精霊にそう願ってからオレは剣を拾い、走った。

「グラキエス様、サブレ、エクレール、ソワ」
 オレの呼びかけに応え、氷、土、雷、闇の精霊が現れる。オレの心を読み取った精霊達が、サラを取り戻す為に動く。

 ヨリミツの対戦相手は、青紫のジパング風装束の若い男だ。だが、長い乱れ髪が老人のように白い。
 ジパングの人々から見れば異形……鬼と呼ばれる者だ。
 髪が赤くないから、シュテンじゃない。副将の方か? 二人とも、妖術使いって話だが。

 鬼はヨリミツと戦いながら、オレと精霊達へと顔を向けてきやがった。目鼻立ちの整った、二枚目(ヅラ)だ。
「邪魔が入ったな……貴様との遊びはここまでだ、ヨリミツ」

 鬼は右手のみで刀を持ち、左手で胸元の合わせから何かを取り出し、不敵に笑う。
「待て、イバラギ!」
 鬼は後方に飛び退りつつ、左手のものをヨリミツへと投げつけた。
 丸い塊だ。
 侍が一刀のもとに、それを斬り捨てる。
 氷と土の精霊が鬼へと襲いかかり、雷と闇の精霊がサラを救出しようと空へと向かう。
 オレも水の魔法剣を抜き、鬼へと斬りかかった。

 が……

 何の手ごたえもない。
 オレの剣は、むなしく宙を切った。
 鬼は消えた。

 見上げれば、宙に浮かんでいたはずのサラの姿もない。

 移動魔法で運ばれたのか?

 グラキエス様達が人の姿を捨て、空へと消える。賊の後を追ったのだ。賊を倒し、サラを取り返す。その命令を果たすべく。

 オレは残っている精霊に尋ねた。
「敵はどっちだ? サラは何処にいる?」
《私の知覚できる範囲に、先程の賊はいません》
 仲間の治療をしていた光の精霊が、申し訳なさそうに答えを返す。
《異空間に渡ったか、遠所に移動魔法で渡ったのでしょう。グラキエス達も、後を追えているわけではありません。手分けしてサラさんの気を探しているだけです》
 オレは唇を噛みしめた。皆の働きを期待し、今は待つしかない。

「きゃあ!」
 すぐそばから、すっとんきょうな声があがる。

 ヨリミツだ。その場でステップを踏み、回転するように踊っている。太刀を右手に持ち、左手で体を大きくこすっている。

 何やってるんだろ?
 そう思ったのは、ほんの数秒のこと。
 すぐにオレは、侍が奇妙な踊りを始めた理由がわかった。

 体中が猛烈にかゆくなってきたんだ。
 剣を鞘に戻して、両手で体中をボリボリと掻き始めた。掻いても掻いても、かゆみがおさまらない。

「おのれ、イバラギ!」
 剣戟はするわ、暴れまわるわで、腰紐がゆるみ、着物の合わせは完全に乱れていた。
「ノミ入りの仕掛け玉を投げつけおって……」
 そういえば、去り際にあの白髪の鬼、侍めがけて何かを投げつけていた。懐から取り出した、掌サイズの玉を。その中身が大量のノミだったのか?

 体を掻きながら、オレの目は侍にくぎづけとなった。大きく開いた胸元から、二つのふくらみがチラリと覗いている。
 はだけた裾からは、日焼けしていない足や、やわらかそうな太ももまでが見え隠れしているのだ。

「ああん、かゆい!」
 太刀を離さないところは実に侍らしいが……
 せっぱつまったその声も、熱を帯びてうるんだその瞳も、せつなそうな息を漏らすその唇も、かゆさを堪え体をくねらせる仕草も、まぎれもなく……

 着物から露出した、愛らい胸の谷間、しなやかな太もも……

「いやん、もう!」
 かわいらしい、あえぎ声が響いた。
 冴え冴えとした、刃のような美貌はなくなっていた。
 上気した頬が悩ましい、たまらなく色っぽい女性がそこには居た。


 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……


 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。

《あと五十四〜 おっけぇ?》
 と、内側から神様の声がした。





《治癒します》
 七色ファッション十二単版ルーチェさんが、皮膚を治療してくれる。髪が紫だけど、つっこむ気力がわかなかった。
 全身の痒みが、嘘のようにやわらいだ。
 ヨリミツにも同じ魔法をと、頼んだ。

 戻って来たエクレールが電磁波でノミを駆除してくれたが……
《ごめんねぇ、後を追えなかったのぉ。まだ、グラキエス達ががんばってるけど、たぶん、無理ぃ。異次元渡りしたんだと思う》
「異次元渡り?」
 雷の精霊が頷く。
《そうとう強いよ、あいつ。人間離れしてる。あたし達を出しぬけるんだもん。もうアジトに戻ったんじゃないかなー》

 オレは『ルネ でらっくすⅣ』から、『つながーる輪くん』を取り出した。勇者仲間の現在地がわかるレーダーだそうだ。サラの現在地を調べたんだが……モニターには『圏外』としか表示されない。
 ならば『もしもし 電話くん』だ! 遠くに居る仲間と会話する機械なんだが……二個でセットだった。事前に相手に同じものを渡しておかないといけない。当然、サラには渡していないわけで……
 くぅぅぅ!
 発明品、役に立たないよ、ルネさん! 

 魔王が目覚めるのは五十六日後だってのに……

「鬼どもは、貴族の若君や姫君を好んでさらう。側に侍らせ仕えさせるとも、生のまま喰らうのだとも噂されておる」
 ハーレム入りか、食料か、かよ。どっちも、冗談じゃない。
「明日にも、鬼ケ城討伐隊が出立する。ついでに、おまえの女も解放してやろう」
 侍大将の顔となった美女が、着物を正し、静かに言葉を続ける。
「生きていたらだが」

 同行を望んだのだが、
「鬼と同じ異形の者など伴えるか。我らは天子様の勅命をいただいた軍勢なのだぞ」
 ヨリミツは、にべもなかった。

 オレは怒りをおさえながら、心の中で精霊達に命令を与えた。
 鬼ケ城の情報収集と、ヨリミツの屋敷からの脱出方法を探して欲しいと。

 怒りっぽくって、手が早くって、つっけんどんで……だけど、情が深くて、正義感が強くって、どんな事にも真剣にとりくむサラ。
 オレの為に、魔術師になってくれたサラ。
 照れると鼻のてっぺんが赤くなるかわいい奴。
 大切な幼馴染だ。

 必ず取り戻す。


* * * * *


『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き

●女性プロフィール(№046)

名前 ミナモト ヨリミツ
所属世界   ジパング界
種族     人間
職業     侍大将
特徴     赤い大鎧をまとう侍。
       ぴょんぴょん飛び跳ねる姿はバッタのよう。
       偉い人から命じられた
       シュテン討伐に命を賭けているようだ。
       情の通じない冷血漢。
       着物を乱し、えっちな声あげてたから
       つい萌えちゃったけど、
       仲良くなれそうもない。
戦闘方法   太刀(弓も使える)
年齢     二十代?
容姿     黒髪。
       涼しげな目元の美人。      
       すらりとしていて、胸もそれなり。
口癖    『塵となれ』
好きなもの  天子様
嫌いなもの  鬼
勇者に一言 『ついでに、おまえの女も解放してやろう』
挿絵(By みてみん)
+注意+
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