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ハーレム100 作者:松宮星

ジパング界

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鬼を鎮めし巫女   【カガミ マサタカ】(※※)

 まずい登場の仕方をしてしまったようだ。

 ジパング界に転移して最初に目にしたのは、人々の背中だった。
 悲鳴をあげながら、皆、駆けてゆく。中には荷車やら籠やらを放り出して逃げている者もいる。
 他の路と交わっている大通りに、オレ達は現れてしまったようだ。通りのまん真ん中に、いきなり人間が六人もわいて出たんだ、そりゃ驚くよな。
 移動魔法が一般化してない世界なら、神魔の技と思うかも?

「驚かせて、すみません。怪しい者ではありません、異世界の勇者です」
 叫んでみたが、立ち止まる者はいない。通りに居たジパング人は、皆、一目散に逃げてゆく。
「ジャン、風の精霊に結界を張らせろ」
 お師匠様は、いつもと同じ無表情で周囲を見渡している。
「急げ。警備兵が来る前に移動する」

 ペンダントに宿る風の精霊アウラさんに、助力を願った。
《おっけー》
 出現したアウラさんは、いつもの格好。スレンダーな裸体に何重も薄緑色のベールを巻き、風をまとわりつかせている。大事なところは、見えそで見えない。
挿絵(By みてみん)
 アウラさんがベールを一枚サッと取り、投げる。風をはらむベールがオレらの周囲を囲み、ふくらんでゆく。巨大な半球状のドームを作るかのように。
 アウラさんの結界に包まれたんで、これでオレ達は外から見えないはず。透明になったのだ。
 この隙にと、オレ、お師匠様、ジョゼ、サラ、マリーちゃん、カトリーヌは走った。

 背に荷物、腕には『ルネ でらっくすⅣ』。
 走りづらかったんで、
「マーイさん、こっち持って」
 水の精霊に、荷物持ちを頼んだ。
《かしこまりました、ご主人様》
 水色の髪と衣服、黒い仮面のマーイさんが現れる。空気中の水分に潜み、護衛役として常にオレのそばに居るマーイさん。『ルネ でらっくすⅣ』を軽々と受け取り、滑るように動き出した。走っているようには見えないのに、移動速度はオレ達とほぼ同じだ。

 大通りから小路に入る。大通りもそうだったが小路も、道幅に変化のない真っ直ぐな道だ。左右の白壁も溝も、まっすぐ等間隔に並んでいる。区画ごとに計画的に建物が建てられているみたいだ。
 とりあえず出現箇所から離れようと走った。
 しばらくゆくと、又、真っ直ぐな道と交差した。
 川がある。
 橋を渡ってから、川沿いに道を進んでいった。

「馬だわ」
 カトリーヌの警告。
 前方から音が響いてくる。徐々に大きくなってゆくそれは、複数の蹄の音だった。
 先頭の葦毛の馬には、兜と大鎧も真っ赤な侍が騎乗していた。
 急いで路の端へとよけた。
 馬上の赤い侍が矢をつがえ、弓を構える。

 オレ達を狙っている……?
 そう気づいた時には、矢は放たれていた。

瓏ナル(ディフ)幽冥ヨリ(ェンス・)疾ク奉(ガード)リシ麗虹鎧・バリア
 マリーちゃんが妖しげな呪文を唱え終え、パーティ全体を光の防御壁で包んだんだ。赤い侍の放った矢は、目に見えない結界に阻まれ弾かれた。オレよかよっぽど、マリーちゃんのが反応がいい。

 にも関わらず……
 悲鳴が聞こえたんだ。

 オレらを包んでいた、アウラさんの薄緑のベールが空に溶けるように消える。
 透明化していた結界が消えたんだ。

 次々とひゅんひゅんと矢が飛んで来る。
 その全てが、マリーちゃんの結界に弾かれる。

 オレはキョロキョロと周囲を見渡した。
 何処にもいない。
 何処にも感じられないんだ。
「アウラさん!」
 オレは左手でペンダントを握った。
 オレ達を透明化してくれていた、風の精霊アウラさん。すぐそばに居た仲間の存在が、消えている。
 まさか……
 今の赤侍の矢で……?

 地を揺るがすような音をたて、馬がオレ達の前を走りぬける。
 と、同時に何かが宙を降って来た。

 オレは目を疑った。
 赤侍は、騎士の甲冑並に重たげな赤鎧と兜をまとっている。なのに、馬からひらりと飛び降り、太刀を抜いて斬りかかってきたのだ。

 刃が迫る。
 マリーちゃんの結界があるはずの場所をつきぬけ……
 水の攻撃魔法を使おうとしたマーイさんを、一刀のもとに斬り捨てる。『ルネ でらっくすⅣ』だけが地面に落ち、マーイさんは消滅する。
 刀を構えた侍が走る。

 狙いは……
 サラだ!

 サラの左腕のクマが変化する。炎の髪を持ち、裸体を白く輝かせる若い男へと。
 サラのしもべ炎の精霊アナムは炎そのものとなって、侍に襲いかかった。
 が、実体を捨てたアナムですら侍は一刀で斬り捨てたのだ。両断された炎は、火勢を失い空に消える。
 アナムは消滅した。
 ティーナは……? 共に居たオレの炎の精霊は?

 サラは動かない。アナムが飛び出した衝撃のせいか、数歩後ろによろけ、外れたフードから鮮やかなストロベリーブロンドの髪を宙に舞わせていたが、逃げる事すら忘れているようだ。

 オレは精霊達に助力を頼もうとした。
 したんだが……
 口がまったく動かなかった。頭の中で命令する事もできない。体も駄目だ、動かない。
 さっき横合いから何かが飛んできて、額にはりついたんだ。
 額から顎まで、細長い紙が垂れている。
 多分、封印の魔法道具(マジック・アイテム)だ。お札だろう。

 赤の大鎧の侍が、サラに斬りかかるのを見ているしかなかった。
「塵となれ」

 瞳を大きく見開いたサラ。
 その額めがけ、赤侍の太刀が迫る。

 サラが死ぬ……
 そう思った時……

 オレの中の何かが外れた。


 お師匠様が、サラを突き飛ばす。
 代わりに刃にさらされたのは、お師匠様だ。

 お師匠様が斬られる寸前に、ジョゼが赤侍に殴りかかる。
 赤侍は体をひねらせ軽やかに後方へと飛び退って、ジョゼの拳を避けた。跳躍力が半端ない。助走もなく、オレの身長よりも高く跳んだんだ。あんな重たそうな鎧をつけているのに。

 だが、その素早い動きも、今なら追える。
 オレは額に貼られていた札をはがし、腰の魔法剣を抜き、赤侍へと迫った。

 ジョゼが前に出て、お師匠様とサラを背に守る。

 オレの剣を、侍が見切る。
 体をわずかにそらすだけで、いともたやすくかわしてしまう。
 上段、中段、下段と、素早く攻撃を切り替えてみた。
 が、駄目だった。目がいいのだろう、侍はオレの攻撃を難なく避けてしまう。

 冗談じゃない。
 何って素早さなんだ。

 こちとら、『勇者の馬鹿(バカ)力』が発動してるってのに。
 攻撃力も防御力も瞬発力も幸運もすべてフィーバー状態だってのに、何で全部よけられるんだ?
 剣の達人のわりに、相手は若い。オレとあまり変わらない年だと思う。
 だが、落ち着き払ったその顔に隙はない。整った顔には、感情が浮かんでいない。まるでお面のようなのだ。

 逃げながら、侍は、時々、何もない空を斬る。
 わずかな火の粉を残し、生まれかけていた炎が散じる。
 サラが侍に炎の攻撃をしかけているようなのだが、その全てが発生前にふせがれてしまっている。

 マリーちゃんが変てこな呪文を唱え、結界を張り直す。
 後続の侍達が太刀を抜いて迫り来るも、目に見えぬ結界にぶつかり倒れる。
 侍達は結界に刃を突き立てるが、びくともしない。どうやら結界を斬れるのは赤侍だけのようだ。
 男達が結界外に群がる。内で戦う赤侍に何とか近づこうと、必死だ。結界を何とか破ろうと、むちゃくちゃに叩いたり蹴ったりし始めた。若侍の守り役なのだろうか、侍らしい髭を生やしたおっさんばっかりだ。

「寄るな、髭男どもッ!」
 結界外の宙にバラバラと大量の矢が、現れて広がる。カトリーヌだ。黄金弓を構えた彼女が、弓に願い、魔法矢を放ったのだ。
 伝説の黄金弓ならではの、特殊技の一つ。
 矢は放物線を描き、矢の雨となって結界外の侍達へと降り注ぐ。
 魔法矢に貫かれた侍達は、あっけなく次々に地に伏していった。

 赤侍の注意が、倒された仲間達へと向く。
 その瞬間を逃さず、剣を振るった。
 オレの剣は、ドワーフのケリーさんが鍛えた水の魔法剣。振ると剣身から、水が散るのだ。
 顔めがけ、目つぶしとして水を放つ。
 赤侍がひるんだ隙に体重をのせて、剣を振り下ろし、相手の刀を叩き落とした。

 嫌な衝撃が両腕に走った。
 が、今はそれどころじゃない。
 痛みをこらえ、赤侍へと斬りかかり、後方に下がらせた。刀は拾わせない。

「グラキエス様! サブレ!」
 現れた氷と土の精霊は、オレの思考を読み取ってくれた。
 グラキエス様の冷気で、赤侍の両腕が凍り始める。侍は、急ぎ跳躍して逃れようとした。が、足が地についた途端、その動きは止まった。
 大地と一体化した土の精霊サブレに、足を絡め取られたのだ。
 手と足の自由を奪ったのだ。もはや動けまい。

 勇者の馬鹿力状態がおさまりつつある事を、オレは感じていた。
 侍を拘束した事で、一気に燃え上がった怒りがおさまったからだ。
 徐々に、両前腕の痛みも強まってくる。筋を痛めたようだ。

「おのれ……」
 赤侍がキッ! と、オレを睨む。
「鬼めが!」
 鬼って……

「一応、言っとくけど……」
 オレは、結界外の侍達を見渡した。
「彼等は死んでないよ」

 さっきまでお面みたいな顔をしていたのに、赤侍の顔に感情が表れている。憎々しげにオレを睨んでいる。
 仲間がみんな倒されてピクリとも動かないんだ、信じがたいかもしれない。けど、
「よく見ろよ、矢が消えてるだろ? 矢傷もないぞ」

 カトリーヌの弓は、伝説級の魔法弓なのだ。
 その昔、二十三代目勇者の仲間が、六十五代目勇者その人が、九十八代目勇者の仲間も、魔王戦で黄金弓を使用し99万9999ダメージを出したらしい。
 この魔法弓は実に多芸で、直接ダメージ以外にも、聖なる矢が放てたり、眠り・麻痺・暗闇・スリップダメージなどの状態異常魔法矢が撃てるのだ。しかも、範囲技で。

 カトリーヌが肩をすくめる。
「むさい髭が迫って来たから眠らせただけよ」
 醜いオヤジなんか見たくないものと、女狩人はそっぽを向いた。

「あんたの仲間は無事だ。オレ達はこの世界の人間と戦う気はない」
 敵対する意志がない事を伝えた上で、尋ねた。
「何でオレ達を襲った?」
 いや、正しくはサラか。
 こいつは、サラだけを狙っていた。

 赤侍はまなじりをつりあげ、オレを睨むばかりだ。

「まずは名乗れ、ジャン」
 お師匠様が、オレの横に並び立つ。
 確かに。
「異世界から来た勇者ジャンだ」
「賢者シルヴィだ。我らは人を探しにこの世界へ渡って来た。無用の争いは避けたい。貴殿らが都よりの退去を望むのなら従おう。刀を収めてはいただけまいか?」

「異世界の勇者……?」
 赤侍の口元が薄い笑みをつくる。
「その言葉を信じろと?」
 赤鎧の侍は、オレやお師匠様の背後を見ていた。
 オレは肩越しにちょっとだけ背後を見た。
 ジョゼに支えられるように、魔術師の杖をつき、サラが立っている。
 サラは凄い形相だ。眉をしかめ、怒りを露わに赤侍を睨んでいる。炎の精霊アナムの仇を討ちたいと、その顔は声高に訴えていた。

「我らの身分は、カガミ マサタカ殿に尋ねられるが良い」
 え?
 カガミ マサタカ?
 精霊界で八大精霊を全て仲間にした、三十九代目勇者だ。ジパング界に転移して来るのに、オレらは『勇者の書 39――カガミ マサタカ』を用いたのだ。
 ずいぶん前の勇者だが……まだ存命なの?
 英雄世界みたいに、この世界も時の流れが違うのか?

 赤侍の口元の笑みが、あからさまな嘲笑へと変わる。
「マサタカは、貴様らなど知らぬと言うておるわ」

「では、賢者フェルナンは?」
 お師匠様は、いつもと同じ無表情で淡々と尋ねる。
「我らを知らずとも、賢者フェルナンの事はご存じのはずだ」
 赤侍の表情が変わる。眉をしかめ、探るようにお師匠様を見つめる。
「三十九代目勇者カガミ マサタカを導いたのは、我らの世界の賢者フェルナンだ。カガミ マサタカ殿ならばご存じのはずだ」
 赤侍は真一文字に口を結んでいる。

「我らは都にあだなす者ではない。後のことは、マサタカ殿に尋ねられるがいい」
 お師匠様がオレらを見渡す。
「行くぞ。急ぎ、この都より離れる」

「賢者様!」
 目に角をたて、サラが叫ぶ。
「このまま立ち去るんですか?」
 サラの緑の瞳は、怒りのままに赤侍を睨んでいる。
「アタシのアナムもジャンの精霊達も、こいつに殺されて……消えているのに」

「怒りを静めろ、サラ。アナムは死んではおらん。散じただけだ」
「え?」
 お師匠様が淡々と説明する。
「力を弱められ、この世界で形をなせなくなっているだけだ。この世界を構成する元素から力を吸収し直し、又、おまえのもとに戻る。数時間から数日もすれば力ももとに戻ろう」
「……本当に?」
「精霊は誕生した時から、恒常不変の存在。死などない。存在の消去は、精霊界でのみ行える。だが、それすらも真の消滅ではない。個を失い、世界に回帰するだけだ」

「生きてる……アナムは生きてる……」
 サラの顔から険が消える。
 アナムもティーナも、アウラさんもマーイさんも死んではいないのか。オレもホッとした。

「行くぞ」
 お師匠様に促され、オレらは動き始めた。
 が、

「お待ちを」
 すぐ側から、鈴を転がすような声がした。

「『三十九代目勇者カガミ マサタカ』、『賢者フェルナン』の名は伝え聞いております。お話を伺いとう存じます」
 サラのすぐそばに、ふいに女の子が現れる。
 長い黒髪、白い小袖に赤い袴。
 左手に白い細長い紙束……お札を何枚も持っている。

 ドキンとした。
 その格好、手に持つお札……
 間違いない、彼女のジョブは……巫女だ。

 巫女さんだ!

 神に仕えて神事を行う女性。神霊をその身に降ろして託宣をしたり、呪術を使ったり、お祓いをしたりするんだ。
 長い黒髪が神秘的な、理想的な大和撫子。黒髪命。お札や御幣や勾玉で戦うと『勇者の書』にはあった。

 赤侍の他にも巫女さんが、マリーちゃんの結界の内に入り込んでたなんて。
 何時の間に?
 姿を消す術を使ってたんだろうなあ、巫女だから。

「マサタカ!」
 赤侍のとがめる声に対し、巫女さんは静かに答えた。

「この者らは、カガミ一族の秘伝をご存じなのです。鬼ではありますまい。ヨリミツ様を(おとり)に、私が不意を打つ必要はなくなりました」
 しなやかな黒髪、白い肌、印象的な黒い瞳、小ぶりな口、少女らしいやわらかそうな頬。
 愛らしい顔なのに、少女らしからぬ大人びた口をきく。

「我が名はカガミ マサタカ。初代様から数えて十三代目にあたります。以後、お見知りおきを」
 巫女さんがにこやかな顔で、オレ達に微笑みかける。
 可愛らしい、微笑みだった……


 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……


 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。

《あと五十五〜 おっけぇ?》
 と、内側から神様の声がした。





 当代の『カガミ マサタカ』の登場によって、事態は急変した。
 赤い大鎧の侍はミナモト ヨリミツと名乗り、「客人として我が館にお招きしよう」と申し出てきた。まあ、怪しければ拘束してやろうって、腹積もりなんだろうけど。
 表面上、オレ達は和解した。
 グラキエス様とサブレに頼み、赤侍ヨリミツの拘束を解く。
 相手の態度が豹変したら、グラキエス様達に赤侍を封じてもらいたいが……
 落とした刀を拾う侍を見るにつけ、無茶は頼めないと思う。
 赤侍は精霊を倒せる。弓矢でアウラさんを、刀でティーナとマーイさんを散らしたんだ。これ以上、精霊達を危険に晒したくない。

「まずは治癒いたします、水の精霊を呼び出します」
 巫女さんが、ムニャムニャムニャと呪文を唱える。自動翻訳機能があるのに聞き取れない。多分、この世界の者にも理解不能な言語なのだろう。
 呪文を唱えて召喚とか、本物の精霊支配者っぽい。
 格好いいなあ。
 オレも何かやろうかな……
「我が命に従い、現れ出でよ、水なる存在(もの)ミツハ」
 彼女の精霊は、人の形をしていなかった。逆巻き天に向かう水の竜巻そのものだった。
 精霊は天へと向かい、上空ではじける。
 キラキラ光る霧雨となり、降り注ぐ。
 小雨に包まれた途端、楽になった。両腕から痛みがひいたんだ。
 彼女の水の精霊は、赤侍の凍傷を治し、眠らされていた侍達をも覚醒させた。
 治癒&状態異常回復魔法の範囲版だ。

 すごいものだ。

 さすが『三十九代目勇者』の『カガミ マサタカ』の子孫だ。
 三十九代目勇者は八大精霊を全て仲間とした人で、精霊界に行く時にもその書でお師匠様は道を開いた。
 だが、しかし……
 その書は、仲間の増やし方においては、まったく参考にならなかった。
 三十九代目勇者は、精霊にたいへん愛されやすい体質で……精霊達の方が一方的に勇者に惚れ込み、押しかけしもべになったのだ。
『勇者の書』によれば、各精霊を十体以上仲間としている。で、百体を超える精霊達を従え魔王戦に挑んだんだ。どうやって勝ったかは知らないが、超楽勝だったに違いない。うらやましい。

 この霧雨の治癒魔法、マーイさんも覚えられないかなあ。
 今は斬られて消えちゃってるけど、後で教えてもらえないものか。

「我が命に従い、我がもとに戻れ、水なる存在(もの)ミツハ」
 周囲の水滴が巫女さんのもとへと吸い寄せられ、空に飲まれ消える。

「つづいて、ヨッちゃ……ヨリミツ様の御屋敷に皆をお運びしたいのですが、よろしいでしょうか?」と、巫女さんがオレ達に許可を求める。
「我が名『カガミ マサタカ』にかけて、卑怯なる策を用いぬ事を誓います」
 移動魔法の跳び先は、術師次第。檻の中に運ばれるのなら、まだマシ。空中に放り出されたり、深海やら地面の中に跳ばされたらガードしてなきゃ即死する。
 けれども、三十九代目勇者の子孫が代々の名にかけて誓ってるんだ。全面的に信頼していいと思う。
「お願いします」

 巫女さんがオレへとにっこりと微笑みかけた。
「光の精霊を呼び出します」

 え? 光の精霊って移動魔法を使えたっけ?
《使えますわよ》
 グラキエス様があきれたように言う。
《光ならば光から光へ、闇ならば闇から闇へ跳べますわ》
 えっと……
 そうなの? と、オレはホワイトオパールのブローチに宿っている光の精霊に尋ねた。
 宝石から答えが返る。
《使えます。しもべとなる時に、光系攻撃魔法・浄化魔法・治癒魔法・移動魔法・弱体魔法・強化魔法など一通りの魔法が使えるとお伝えしたはずです》
 光の精霊ルーチェさんが、呆れたように答えた。
 移動魔法も治癒魔法も使えたのか〜
 治癒魔法ってマーイさんしか使えないと思い込んでたし、移動魔法のことなんかコロッと忘れていた。
《行った事のある場所か、知覚できる範囲しか跳べませんが》
 グラキエス様が付け加える。
《ちなみに、私も氷から氷への移動魔法でしたら使えますのよ。ティーナならば炎から炎、エクレールでしたら雷から雷へ渡れましてよ、よろしくって、ジャン?》
 氷から氷、炎から炎、雷から雷って……
 運んでもらったら、死にますよ人間は……


 魔王が目覚めるのは、五十六日後だ。


 移動前に赤侍ヨリミツに聞いた。
 何故、オレ達を襲ったのか? と。

「我がミナモト一族は、妖鬼討伐勅令をいただいておるのだ」
 赤侍はお面のような顔となって答えた。
「旅立つ支度のさなか、スザク大路に異形が現れたと、マサタカが告げたのだ。鬼ならば斬る。それが使命だ」
 確認も何もなく、赤侍はいきなり斬りつけてきやがった。
 ジパング人と外見が違いすぎるからか? 巫女さんも赤侍も髭面の侍達も、皆、黒髪黒眼で肌が黄色みがかっている。
「都一の陰陽師殿の占いによれば、妖鬼の大将は赤毛の童子。花の(かんばせ)でありながら、怪力無双、妖術を使うそうな」
 赤毛が鬼の大将……
 髪が赤みがかっているから、サラは狙われたのか。

 赤鎧の侍が静かに笑みを浮かべ、横目でサラを見る。信用してなさそうだな……こっちの態度次第ではすぐにも斬りかかってきそうだ。
 サラが緑の瞳で、赤侍を睨み返す。
 暴力魔術師ではあるが、怪力ってほどでもない。サラは鬼じゃねえよ。

「童子は妖術にて嵐や火事を起こし、病を運んだ。おびただしい死者が出たのだ。鬼めらの襲撃にて、さらわれた貴人や姫君も居られる。シュテン討つべし。我が一族に下された勅令だ」

「我が命に従い、現れ出でよ、輝ける存在(もの)カギロイ」
 巫女さんの求めに応じ、まばゆいばかりの光が空より生まれる。
 まぶしい光に皆が包まれてゆくのを、オレはおぼろげに感じていた。


* * * * *


『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き

●女性プロフィール(№045)

名前 カガミ マサタカ
所属世界   ジパング界
種族     人間
職業     巫女
特徴     初代から数えて十三代目の
       カガミ マサタカ。
       オレらの世界で勇者となった
       カガミ マサタカが初代。
       つまり、初代マサタカが
       オレ達の世界に転移して、
       三十九代目勇者となったのだ、
       ややこしい。
       ヨリミツの部下?
戦闘方法   お札
年齢     十五か六だと思う。
容姿     しなやかな黒髪。
       愛らしい顔。
       白い小袖と赤い袴の巫女装束が
       よく似合う。
口癖    『我が命に従い、現れ出でよ』
      『我が命に従い、我がもとに戻れ』
好きなもの  何だろ?
嫌いなもの  鬼?
勇者に一言 『以後、お見知りおきを』
挿絵(By みてみん)
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