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ハーレム100 作者:松宮星

英雄世界

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ラスボスは女教師? 【榊原 奈津江】(※)

 詳しい話は、この危機をのりきってから! って事で、シオリさんや仲間達と共に2−Aを目指した。

 氷の中から飛び出して来るモノを、的確にシオリさんは闘気をこめたモップで落とす。モップの毛で前方の敵を突き、後方の敵は柄の底で後ろ突きに突く。ダメージ自体は600ぐらい。あまり強くはない。が、実体のない敵を散らすにはそれで充分だった。
 目に見えぬ敵を気配で察し倒す。実に武闘家っぽい。
 だが、槍使いではなく、合気道という格闘を習っているのだそうだ。
「おじい様から武器術も教わっているんです。合気杖はつたなくて、お恥ずかしいのですけれども……」
 おじいさんが合気道の道場の先生らしい。シオリさんは、旋回し、モップで敵を打ち払い叩き、突く。なかなか素早い。ジョゼには及ばないものの、オレよりも反応がいい。

「私、音楽室に忘れ物をして、それで……」
 妖しい気の広がりを察知し精神統一したので、憑依されずに済んだのだそうだ。
 精神統一が結界代わりになるわ、見えない敵の気配を察知し戦えるわ、闘気で精神体を四散させられるわ……見かけによらず一流の格闘家のようだ。英雄世界にも、高い技量のアタッカーは存在するのだと感心した。
 戦いながら後退し、無事な生徒はいないか探していたとのこと。『いいんちょ』らしい、正義感の強い博愛主義者なのだろう。モップは廊下の掃除用具入れから拝借したのだそうだ。

 奇声をあげながら、教室から、廊下の先から、生徒が現れる。
 異界から来たものに憑依され、理性を失っているのだ。
 ジョゼがふわりと彼等の間を駆け、触れるだけで意識を奪ってゆく。軽い電気ショックを与え、気絶させているのだ。
「四階では、吹奏楽部と演劇部が部活中でした」
 その全員が悪霊に憑かれたかもな。


 カネコの席のそばに、次元穴がある。
 そこまで行き着き、勇者のオレがそこを斬れば、騒動はおさまるらしい。

 次元のほころびをオレが斬れるのか? 斬ったらよけい穴が広がって、被害が拡大するんじゃないか?
 疑問はあった。が、それでいいらしい。
 作戦タイムの時、精霊達もお師匠様も『神の過ち』を正せるのは神魔か勇者だけ、勇者が神に訴えかける時には剣を用いるのが伝統なのだと教えてくれた。

《神に愛されて選ばれた勇者は、存在そのものが奇異。世界のパランスを崩す生き物なのです》と、ルーチェさん。
《あなたが一の事をするだけで、この世界は激しく揺れ動きますの。殊に次元穴は神の不手際で生まれたほつれ。痛快なほど世界を驚かせるに決まっていますわ》と、グラキエス様は高笑いをする。
《つまりね、おにーさんが『ここ、裂けてますよー』って綻びをちょちょいと刺激すると、それだけで最大レベルの緊急通達がこの世界の神様のもとへ飛んでくわけ。『異世界の勇者から間違いを指摘されてますよー』って。神様としては『ヤバー』てなもんでメンツをかけてすぐにも次元穴を塞いでくれるわよ》と、アウラさん。
 なんで? と、頭をひねると、
《おにーさんは神様に選ばれた勇者、つまりそっちの世界の神様の部下でしょ? おにーさんを通じて情報がよその神様にも伝わっちゃうわけよ。人間で言えば『シャツのボタン、かけまちがえてますよー』レベルのハズい失敗だもん、ここの神様も急いで過ちを正すわよ》

「おまえの今の剣は、鋼の剣とさほど威力は変わらん。次元のほころびを斬る力などない。穴を破壊する事などできんから、安心して斬りかかれ」と、お師匠様もすぱっと言いきってくれた。
 オレの剣によってではなく、きゃぴりん神様の御威光で次元穴はふさがるらしい。
 まあ、丸くおさまるなら何でもいいけど。
 気をつけるべき点は、ただ一つ。
 斬る前に中に落ちない事。
 吸引されそうになったら、サブレが大地と一体化して重量を増すし、精霊達もオレを守ってくれる。
 何とかなるだろう。


 氷の中から飛び出してくる奴等を四散させ、憑依された生徒達を気絶させて進み……
 ようやく2−A教室の前までたどりつく。
「窓側の一番後ろが、アキノリ君の席でした」

 勢いよく扉を開け、中に飛び込むと、そこには……

 美人女教師が居た。
 窓側の一番後ろの席の机に腰を軽くのせ、すらりとした長い脚を組んでいる。ストッキングが魅力的な美脚だ。
 紺色のスーツと白いブラウスに身を包み、眼鏡をかけた禁欲的な美貌。結いあげた髪、前髪はセンター分けで広い額が見えている。
 綺麗なんだが、威圧的な雰囲気を漂わせている。

「榊原先生?」
 いぶかしそうに、シオリさんがつぶやく。

 女教師がゆらりと体を動かす。
 そして、オレを見つめ、微笑んだのだ。赤い妖艶な唇で。

 何かが後方に、ひっぱられてゆく感覚がした。

 ピシャン! と、音を立てて背後で扉が閉まる。

 勝手に扉が閉まった?

 教室に居るのはオレ一人だ。ジョゼもシオリさんも、まだ廊下だ。
 肩越しに振りかえり、愕然とする。
 扉がない。
 壁もない。
 廊下へと続くものが何一つ無くなっている。

 オレは同じような机や椅子が並ぶ、薄暗い教室に居た。女教師と二人っきりだ。
 だが、周囲に窓も壁も扉も黒板も無い。
 四方は闇。
 四角い教室が暗闇の中に浮かんでいるのだ。

 何がどうなったんだ?
 心の中で問いかけた。が、誰も答えてくれない。
 オレの体内にはサブレが、周囲にはアウラさんやティーナが居るはずなのに。

 学生服の下の宝石を通し、仲間に声をかけてみた。
「サブレ、アウラさん、ティーナ、ルーチェさん、ソワ、グラキエス様、マーイさん、エクレール!」

 しかし、答えは返らない。

 体内にも周囲にも精霊の気配がない。
 精霊達との繋がりが感じられない。
 オレの内に、サブレはいない。

 ハッとした。
 さっき感じた、後方に体がひっぱられるような感覚。
 あの時、サブレを体からはがされたのか?

《助けはない》
 女教師がなまめかしく微笑む。

《きさまの負けだ、勇者よ》
 お色気たっぷりの微笑だ。

《我はこの女の内だ》
 女教師がゆっくりと歩み来る。豊満な胸と魅力的な臀部を揺らして。

《精霊の助力なくば、(われ)がこの身の何処に宿っているかわかるまい?》
 うなじから、結いあげた髪までを撫でる。セクシーなポーズだ。

《斬りたいのなら斬ってもいいぞ。この女が死ぬだけだ……きさまに我は斬れぬ》 
 オレの前に女教師が立ち止る。
 手を伸ばせば触れられる距離だ。
 艶やかな美貌。
 はちきれんばかりの肉体美。
 匂い立つような色気に、目まいがしそうだった。

 オレのハートは、キュンと鳴った。

 だが、かろうじて踏みとどまる。
 萌えちゃいけない。
 理屈じゃない。が、そう直感した。

《我を見よ、女好きの勇者。魅惑的であろう?》
 目をそむけようとしても、勝手に吸い寄せられている。
 魅了の魔法をかけられているのか?

《見よ、この体を……》
 パサリとスーツの上が、続いて下が床に落ちる。
 ブラウスとそこから漏れるスリップの白さが目に痛かった。

 オレのハートは、キュンキュ……

 いやいやいやいや!

 目の前の女性はおかしい!
 何かに憑かれている!
 精霊を引き剥がしたのもこの人の仕業!
 萌えたらヤバい!
 きっと、ヤバい!

 女教師がブラウスに手をかける。
 上からゆっくりとボタンを外してゆく……

 オレのハートは、キュンキュ……

 いやいやいやいや!
 萌えたら伴侶入りだ!
 この場合……伴侶になるのは、どっちだ?
 肉体の女教師か?
 中身か?

 色っぽく微笑みながら、女教師が襟を大きく開く。
 大きな胸と、その谷間、そしてレースのブラジャーがバーンと……

 オレのハートは、キュンキュ……

 うわぁぁぁ!
 堕ちる! 
 と、思った瞬間だった。

儚キ夢幻(ミラージュ・)ヨリ舞イ堕リシ(レクイエム・)天獄陣(ジェイル)!」

 巨大な光の矢が出現し、女教師の体を貫く。
 一本ではない。何十本も彼女の体を床までをドスドスと突き通す。
 女教師が悲鳴をあげ、苦悶の表情を浮かべる。
 だが、光り輝く矢は現実のものではない。彼女の体から一滴の血も流れていないし、光の矢はありえない角度で重なっている。

 オレは女教師の背後を見つめた。
 まぶしいほどの光が広がり始めている。

 さっきの呪文を、オレは知っている。
 あの意味不明な魔法は、間違いようもない。
 聖女様の呪文だ。

 まばゆい光の奥に、人影がある。
 目をこらしたが、よく見えない。
「マリーちゃん……?」

「洗脳、騒乱、誘拐、監禁、誘惑の現行犯だ。内なる俺の霊魂が、マッハで、きさまの罪を言い渡す」

 おおおおお! やっぱ、マリーちゃん!

 光の中から女性が進み出る。
「有罪! だが、寛大なる俺様が、一度だけ慈悲をくれてやろう! 消えたくなくば、悔い改め回帰せよ!」

 オレは目を見開いた。

 輝かしい光に包まれている女性は、髪を綺麗に結い上げた長身の女性だった。上品な薄桃色の着物を着ながら、大きく両足を開き、裾を乱れさせている。
 童顔で小柄な聖女様ではない。
「ヤチヨさん……?」
 霊能者のカンザキ ヤチヨさんだ。看護婦のタマキさんの知り合いで、オレの伴侶となった、もと巫女の未亡人……

 あ?

 あれ?

 えぇぇ?

 ヤチヨさんがジロリとオレを睨む。ふんぞりかえって顎をつきだした、いかにも偉そうな態度で。
「邪悪を伴侶にするなよ、マリーの下僕。俺の敵には回るな」
 えっと……
 マリーちゃんもオレも知ってる? てことは、中身は……?

《きさま、何故、我が結界の内に入れた?》
 女教師は首すらも動かせないようだ。目だけで背後にたたずむヤチヨさんを見ようとする。

《精霊も人も我が内に入れぬはず》

 ヤチヨさんは肩をすくめ、大げさに頭を振った。
「フッ。しょせんは小物。器に拘泥し、内なる存在を見誤るとは・・・」

 光り輝くヤチヨさんが、右の親指をビシッと突き立てる。
「生きる価値なし! 浄霊する!」
 ヤチヨさんが、手首をゆっくりひねって親指を下に向ける。

「その死をもって、己が罪業を償え・・・終焉ノ(グッバイ・)滅ビヲ(イービル・)迎エシ神覇ノ(ブレイク・)贖焔(バーン)!」

 着物姿の未亡人から光が一気にふくれ上がり、どデカい白光の玉と化してゆく。
「ククク・・・あばよ」
 ヤチヨさんが呟くと同時に、強大な浄化魔法の奔流が迫ってきた。
 その光は女教師をのみこみ、オレをも包みこんでいった……

 目も開けられぬ光の中、気配を感じ、オレは手を伸ばした。
 腕の中に柔らかい感触が飛び込んでくる。
 女教師だ。
 憑かれていたモノが離れた為、体の支配が解けたのだろう。

 倒れてきた女性を抱える。
 完全に意識を失ったのだろう、ぐったりとしている。
 柑橘系の香水の香り、そして豊かな胸の感触。
 オレの心は素直に反応した。


 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……


 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。

《あと五十七〜 おっけぇ?》
 と、内側から神様の声がした。


 やがて、光が消える。
 オレは女教師を抱きながら、前方を見つめた。
 ヤチヨさんが着物の乱れをサッと直している。彼女に降りていたモノも、去ったようだ。
 オレと目が合うと、霊能者は頬に手をそえ恥じらうように視線を外した。
「……はしたないところをお見せいたしまして……」
 いや、まあ……
「もう若くもないのに、祓い師の真似ごとだなんて……恥ずかしいとは思っておりますのよ」
 若くても『マッハな方』に憑依されて暴れるのはイタイと思いますが……

「さっきヤチヨさんに降りてたのは、神様ですか?」
「はい。時折、降りていらっしゃる神様のお一人ですわ」
 ヤチヨさんが嫣然と微笑む。

『マッハな方』はマリーちゃんの多重人格ではなく、神様だった?
 マリーちゃんとヤチヨさんは同じ神様を信仰しているのか?
 いや、違う。修道女のマリーちゃんが信仰してるのは、きゃぴりん女神様だ。
 敬虔深いマリーちゃんが他宗教の神を信仰するはずはなく、加護を受けるはずもない。
………
 よくわからない。
 もとの世界に還ったら、マリーちゃんに話を聞いてみよう。


 扉が開いた後、ちょっとした騒動になった。
 仲間が部屋に飛び込んで来た時、オレが女教師を抱きしめていたからだ。ほぼ下着姿で胸元を露わとした、気を失っている女性を……
 客観的に見て、暴行現場だ。

「そちらの女性は、邪悪なものに憑かれていたのです。勇者様は、介抱なさっているだけですわ」
 ヤチヨさんが全て見ていました発言をしてくれなきゃ、オレ、犯罪者扱いされるところだった。

「榊原先生!」
 シオリさんが駆け寄って来た。

「お兄さま!」
《おにーさん、生きてる?》
《ご主人様! あああ……よくぞご無事で!》
《良かった……》
 ジョゼやアウラさん、サブレやティーナがオレの元へと走り来る。

「扉が開かなくて……」
 ジョゼがオレにひしっと抱きついてくる。

《歪みは綺麗さっぱりなくなってるわね》
 ベールをふよふよと舞わせながら、風の精霊アウラさんが周囲を見渡している。
《おにーさんの目じゃ、次元穴、見えないでしょうに。よく斬れたわねー》
《さすが、ご主人様》と、サブレ。
 いや、オレは何もしてない。
「祓ったのは、ヤチヨさんだよ」

 オレの思考と記憶を読み取った精霊達が、ヤチヨさんへと視線を向ける。
 和装の美人霊能者は優雅な仕草で、窓側の一番後ろの席の机を撫でていた。
「私、いろいろ視えますの。今日ここで勇者様が邪悪と対峙なさる事は存じておりましたので、視ておりましたの」
 視てた……?
 何処から……?
 やっぱ、霊能力で……?
「勇者様が邪悪の結界の内に封じられ、あまりよろしくない事になりかけておりましたので、出すぎた真似とは承知しておりましたが、神を降ろし駆けつけました。失礼いたしました、勇者様」
「いえいえいえ。来てくだすって、助かりました」
 ヤチヨさんが来てくれなきゃ、オレ、あの時の女教師に萌えていたし。
 中身の邪悪ごと伴侶にするところだった。
「先生に憑依していたモノは一体……?」
「まあ」
 口元に手をそえて、ヤチヨさんがホホホと上品に笑う。
「みなさまが『次元穴』と呼んでいたモノですわ」
 え?
「長い年月、世界から分離した存在でしたので、さかしい知恵を持ったようですわ。勇者様を誘惑し、伴侶となる事で消滅を免れるもくろみだったのです」
 ヤチヨさんが深々とオレへと頭を下げる。
「私ごときが、勇者様のなすべき役目を妨げて申し訳ございませんでした」」





 次元穴の消滅を感じ取ったのだろう、お師匠様達とルーチェさんもオレらに合流した。異界の生き物は全て処分し、校舎に残っていた生徒達は全て眠らせたそうだ。
 しかし、まだ氷の結界は解かないとグラキエス様は言う。
《結界を解けば、この世界の人間が雪崩こんで来ますわ》
 今、外は凄い騒ぎなのだそうだ。
「ま、当然よね。校舎の上層が突然凍りついて、一切、出入りが出来なくなっちゃったんだから。今、校庭すごいわよー 生徒やヤジ馬でいっぱい。警察が来るのも時間の問題」
 女子大生のアオイさんはそう言って、ため息をついた。
「その上、校舎の中は扉ひしゃげてるわ、照明が壊されてるわ、失神した生徒達がゴロゴロ転がってるわでしょ? どーすんの?」 

「私にお任せいただけますか?」
 ヤチヨさんが上品に微笑む。
「長年、祓い師の真似ごとをしておりましたので、政治に携わる方にも警察や学校関係の方にも、それなりに、知り合いがおりますの。事を荒立てず、収拾できるかと存じます」
 それはありがたい。
「勇者様は大きな出逢いをなさらねばなりませんし、ここは早く立ち去るべきです」
 え?
 大きな出逢い……?
 それって、シオリさん達に出逢うことじゃなかったのか?
「他の世界へ旅立つ時がきているのです。時を逸すれば、勇者様には破滅しかありえなくなりますわ。後の事は全てお引き受けいたします」

 そう言って、ヤチヨさんは周囲を見渡す。
 床の上にそっと横たえ、スーツをかけてあげた女教師。不安そうなコズエさんとシオリさん。
 全員に、ヤチヨさんが優しく微笑みかける。
「みなさまへのご説明もお悩み相談も全て私が」
「全部、お願いしちゃっていいんですか?」
「気がねなんて、嫌ですわ。私、今は勇者様の伴侶ですのよ。気軽に頼ってくださいましな」
 ヤチヨさんは、口元に手をそえてホホホと笑った。

 シオリさんの視線を感じた。
 立ち去る前に、できる限りの事はしておきたい。
 オレはざっとではあるが、勇者と魔王の関係を話した。シオリさんが強制的に勇者の仲間枠入りさせられたのだという事も伝えた上で、萌えて仲間にしてしまった事を謝罪した。
 心配そうに、親友を見守るコズエさん。
 取り乱す事なく話を聞いていたシオリさんは、オレが口を閉ざすのを待ってから、こう尋ねてきた。
「一つだけ教えてください、勇者様……」

「……勇者様に倒された魔王ってどうなるのですか?」

「HPがゼロになったら、死ぬんですか?」

「魔王化が解けて人間に戻ることって……ありえませんか?」

 シオリさんがすがるようにオレを見つめる。
「アキノリ君が助かる道は……無いんでしょうか?」

 オレらの世界の『カネコ アキノリ』がこの世界の人間と同一人物かどうかは不明なんだが……
 かなりの確率で、同一人物だと思う。

 幼馴染を思いやる優しい女の子を慰めてあげたい。
 しかし……無理なんだ。

 オレは正直に伝えた。
 申し訳ないが、わからないと。
『勇者の書』に魔王戦は記されていない。歴代勇者の戦いの大まかな流れは教わっているが、クライマックスは知らない。魔王をどうやって倒したか、勇者がその後どうなったのかは知らない。むろん、倒された魔王がどうなったのかも。

 オレに代わってお師匠様が、シオリさんに答えた。
「賢者は、伝えられぬ事は語らない。今、おまえの質問に答える事はできない」
 いつもと同じ無表情で、お師匠様は淡々と語る。
「伝えられる事は一つ。勇者に滅ぼされた魔王は、我々の世界からは消滅する。それだけだ」

「わかりました……」
 悲しそうに、シオリさんが瞳を伏せる。
 深く傷ついている彼女を、コズエさんが慰め、さまざまなものが視えるヤチヨさんが救いの道へと導いてくれるだろう。

 オレは、オレができる事をした。

 一度、仲間枠に入った者を外す事はできない。
 魔王戦では、どうあってもシオリさんは魔王『カネコ アキノリ』の前に召喚される。
 勇者側の人間……敵として。
 幼馴染の転移に胸を痛め、自分のせいではないか? と、気に病んでいる女の子に、あまりにもひどい仕打ちだ。

 だから……
 彼女のコマンドを上書きする事にした。

 オレが『こちらの生活を大事にしてください。手伝いは、できる時だけで』と言ったら、カガリさんのコマンドは『リアル優先。勇者の手伝いは余暇で』に変更になった。
 婦警のミサキさんのコマンドも、願うだけで他のものに書き換える事ができた。
 同じようにシオリさんのコマンドを変える。

『魔王戦では心のままに行動せよ。望まぬ戦闘はしなくてよい』と。


 魔王が目覚めるのは、五十七日後だ。


 アオイさんとヤチヨさんは連絡先を交換しあっていた。
 オレらがこの世界から消えた後も、この二人やマドカさん達が助け合い、魔王戦に備えてくれるだろう。

 校庭にはパトカーが停まり、人だかりができていた。が、アウラさんの結界に包まれたオレ達は、他人との接触を避け、安全に校外へと出る事ができた。

 だが、校門を出てすぐ、オレは立ち止ってしまった。

 ブレザー服の女子高生が、ガードレールに寄りかかっている。人待ちをするかのように。
 茶髪のセミロング、太ももが露わなミニスカート、ぺったんこのカバンを抱え、ケータイをいじっている。
 その子を見た途端……
 何とも言えぬ狂おしいほどの感情が訪れたのだ。
 何と言えばいいのか……
 ジョゼと再会した時に感じた喜び……
 それを何倍にも強めたような思いなんだ。
 オレの目はその娘に釘付け。

 そして、その娘も……
 透明になってるから見えるはずはないのに……
 オレへと顔を向けてきたのだ。
 そして、白い歯を見せて、ニッと笑いかけてきたのだ……


* * * * *


『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き

●女性プロフィール(№043)

名前 サカキバラ ナツエ
所属世界   英雄世界
種族     人間
職業     高校の音楽教師
特徴     吹奏楽部顧問。
       ちょっとおっかなそうな美人。 
       憑依されていた時しか知らないので、
       本当はどんな女性なのか不明。
戦闘方法   不明。
年齢     教職員となれる年齢。
容姿     髪をゆいあげた、眼鏡美人。
       紺色のスーツと白いブラウスが似合っていた。
       ボンキュッボンで肉感的だった。
口癖    (会話してないから、わかんない)
好きなもの  不明
嫌いなもの  不明
勇者に一言  ―――
挿絵(By みてみん)
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