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ハーレム100 作者:松宮星

英雄世界

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放課後・廊下・体操服【大空 こずえ】(※)

「セイさん? メールしたこずえです」
 第二体育館わきの柳の前。
 そこが約束の場所だった。
 現れたのはショートカットの女の子らしい。ジョゼが囁いて教えてくれた。
「背が低いです。マドカさんより小さいかも……でも、日焼けしていて元気そう……運動用の白のTシャツに『大空 こずえ』と名札が縫い付けられています。お名前ですね。下は赤ジャージのズボンで、ジャージの上着は袖と袖を結んで腰に巻き付けていらっしゃいます」
 活発そうな子だ。

「セイです」
 女子大生アオイさんがそう名乗り、挨拶をする。
『セイ』というのはアオイさんの作家名で、ハンドル名もそれなのだそうだ。

 オレとジョゼも名前だけを告げた。
「金子と会ったのは……そっちの二人?」
 そっちというのは、オレとジョゼのことだろう。
 会った事はない。
 しかし、五十七日後には会う。
 勇者のオレが『カネコ アキノリ』を倒す……そう決まっている。

「あなたの知っている『カネコ アキノリ』さんと同一人物かはわかりませんが……『カネコ アキノリ』は知っています。最近、オレらの国に現れました」

 オレらの世界に落ちてきた魔王の名は『カネコ アキノリ』だ。
 しかし、同姓同名って可能性もある。
 そもそも、英雄世界出身とも限らない。
『カネコ アキノリ』の名前は英雄世界風ではあるが、違和感なく通じる所は他にもある。姓が先、名前が後なのはジパング界も一緒だ。八大精霊を支配した、三十九代目勇者『カガミ マサタカ』もジパング出身だったし。

 オレらの世界に魔王『カネコ アキノリ』が現れたのは、四十三日前。

 アオイさんが調べてくれた。この世界の『カネコ アキノリ』は、七十日前から行方不明。『家出』という扱いになってるらしい。

 時間的なズレがある。
 両世界の時間は同期してないんで、そのせいかもしれないが。

 コズエさんは人探しの掲示板に、
『探してます。金子アキノリ君。○月×日〜行方不明です。彼は親友の前から消えました。身長165センチ。痩せています。どんな情報でも構いません。心当たりがある方は下記メールまで。no【××××】こずえ』。
 のような書き込みをした。行方不明だと言った上で、同じような意味の『彼は親友の前から消えました』の一文を加えて。
 そして、カネコが別の場所に異常な現れ方をしたという、アオイさんからのメールに反応したんだ。
 最初のメールでカネコは『常識では考えられない出現を』したとだけ伝え、次にカネコは転移してきたのだと表現を変え、最終的には『まるでテレポートしたように』と伝えたのだそうだ。
 その表現でコズエさんは喰いついてきたんだ、この世界のカネコは移動魔法で消えるかのようにパッと消えたんだろう。

 正直……
 魔王となる前のカネコに、興味などない。
 というか、むしろ知りたくない。
 カネコの生い立ちや人なりを知ったって、未来は変わらない。
 五十七日後に、オレは必ずカネコを倒す。自爆魔法を使ってでも。奴を倒さなきゃ、オレらの世界は滅びちまうんだ。
 敵を知れば戦闘が有利になるかもしれない、弱点を探れるかもしれない、そう助言されたんでコズエさんに会いには来たが……

 この子の知り合いとオレの世界の魔王は、別人であってほしい。

 魔王だから、勇者として倒せるんだ。
 この子の知り合いを殺すのかと思うと……やるせない気分になってくる。
 魔王が魔王ではなく、人間のような気がして……

 こういう所が甘いんだろうな、オレ……

 オレらのそばを、はずむ息の集団が通り過ぎてゆく。
 ランニングしてるっぽい。
 体育館でも運動場でも球技をしている学生がいるらしい。ジョゼが教えてくれた。
 今は放課後なんで『部活動』中の生徒が多い。運動着のコズエさんも部活動を抜け出して来ているようだ。
「とりあえず教室へ……話はそこで」

 オレは、眼鏡のフレームをもちあげ、かけなおした。
 一見、眼鏡なそれは氷の精霊グラキエス様の変化だ。レンズのところが鏡のようになっているそれをすると、オレは何も見えなくなる。眼鏡風の目隠しなんだ。
 この学校に着くまでは、子供やバアさんへの萌え防止の為につけていた。
 今は、コズエさん達に萌えたくないからつけている。
 オレに萌えられたら、コズエさんは伴侶枠入り、魔王と戦わなきゃいけなくなる。
 コズエさんの友人と魔王が別人とわかるまでは、この学校の人間には萌えたくない。オレのせいで、友人同士を殺し合わせるなんて嫌だ。

『ならば行かねば良かろうに』と、お師匠様は言った。その通りだと思う。アオイさんや仲間達に面会を任せてしまえばいいんだ。
 だけど、今日、オレは『大きな出逢い』をするはずなんだ。
 霊能者のヤチヨさんが、そう告げてくれたのだ。出逢いを避けるべきじゃないとも。
 萌えないよう、注意してればいいことだし。

「……なんでそんな格好なの?」
 コズエさんからの質問。
 体の制御は、土の精霊サブレに頼んでいる。靴を脱ぎ、来客用のスリッパを履くのをサブレに任せたまま、オレはコズエさんに聞いてみた。
「変かな?」
「変」
 コーディネートしてくれたルナさんは、ばっちりだって言ってくれたんだけど。

「私だけなら卒業生で通るけど、そっちの二人、日本人には見えないでしょ? 学生に紛れた方がマシかなあと思って」
 アオイさんがそう言うと、
「遠目でなら……。でも、近くで見たら、バレるよ」
 と、コズエさんがはっきりと言う。
 黒髪・黒目+ルナさんのメイクじゃ、やっぱ隠しきれないか。顔立ちが異国風だから。
 オレとジョゼは、今、この学校の学生に変装している。オレは学ラン、ジョゼはセーラー服。衣装も小道具のバッグも靴もルナさんが用意してくれたものだ。

『カネコが消えた場所』は高校の教室。
 そこで話したいと、コズエさんが希望したんだ。

 だが、英雄世界じゃ、学校は第三者お断りの不可侵領域。
 学校に縁のない人間は、校内に入ること自体が犯罪で、見つかると『不審者』として警察につきだされてしまうと、アオイさんは説明した。
『見学許可が下りるまで時間がかかるの。しかも、勇者様達、身分証明書が無いし……忍び込む方が楽』
 忍び込むなんて言うから夜に行くのかと思ったんだが、夕方、生徒の下校時間に校門から堂々と中へ入った。チェックが厳しいって話だったのに門兵はおらず、出て行く学生達とは逆向きに校内に入った。拍子抜けするぐらい簡単だった。
『夜にこっそりは、無理なの。公立だって、機械警備が入ってるもの。忍び込むのなら放課後、卒業生や忘れ物をした学生の振りをするのがいいみたい。こそこそしない方がめだたないの』

 面倒な場所っぽかったので、しぼりこんだメンバーで来た。オレとジョゼと案内人のアオイさんと、お師匠様だ。
 と、いっても、お師匠様は白銀髪ですみれ色の瞳、その上、つくりもののような完璧な美貌。英雄世界の人間風の変装は無理だ。
 今、お師匠様は、風の精霊アウラさんの結界内だ。透明になっている。誰からも見えない。オレからも見えない。
 けど、アウラさんと一緒にオレらの後をついて来てくれてるはずだ。

 いざって時の為に、精霊は全員待機態勢にしている。
 いつもはアナムの首に居る、炎の精霊ティーナも今日は一緒だ。詰襟の下にペンダントとボウタイチョーカーをつけてるんで窮屈だ。
 戦闘にはならないとは思う。でも、魔王情報が手に入るかもしれないんで、オレよりずっと観察眼のある精霊達に現実を見聞きしてもらう事にしたんだ。
 一応、用心で、『ルネ でらっくすⅢ』から使えそうなアイテムを集めショルダーバッグに入れている。

「金子、今、ドコなの?」
 コズエさんの問いに、アオイさんがすかさず答える。
「ジャン君達の国に居るの。理由あって国名は明かせないけれど……」
「外国か〜 ケータイ通じないわけだ」

「金子君が転移した時、見てたの?」
「ううん。側に居たけど、見てない。金子の蒸発を見たのは、ボクの友達」
「お友達?」
「金子のこと心配してるのは、ボクじゃなくて、彼女。ボクは協力してるだけ」

「その子にも会えるかしら?」
「それは……セイさん達次第」
 オレの足が止まる。案内人のコズエさんが立ち止ったからのようだ。
「本当に金子の情報もってるのか、ボクらの話、まじめに聞いてくれるかわかんないもん」
「信用できるかどうか、まず、こずえさんが見極めるってことね?」
「うん。今日、ボクがセイさん達に会ってることも、あの子、知らない。内緒にしてる」
 おや。
「世にも奇妙なじゃあるまいし、ありえない事が起きて、本当のこと言えないんだよ? つらいに決まってるじゃん。これ以上、あの子に負担かけたくないんだ」

 オレの胸がキュンと鳴った。
 友達思いのいい子じゃないか、コズエさん。

「本当のこと言ったら、マズい?」と、オレは聞いた。
「あたりまえでしょ」
「……人が消えるのってありえない事? めったにない事なのかな?」
 英雄世界から、勇者や魔王がけっこう落ちて来てるんだが。
「はあ?」
 オレの質問に、コズエさんがあきれたように返事を返す。
「目の前で人間が消えたんだよ? マジックみたいに。教室で人間消失だよ? ふつーじゃないよ」
「そうなのか」
「そうだよ。センセーや親が信じると思う? 言えるわけないじゃん。詩織の頭がおかしくなったって思われるのが落ちだよ」

「シオリ……」

「あ」
 コズエさんが、すっとんきょうな声をあげる。

「いまの無し! 無しだから!」
「いや、あの、もう聞いちゃったので……」
 とりかえしつかないし。
 友人の為に、名を伏せておきたかったんだろうけど。

「無しだって言ってるでしょ!」
 ドンと体に衝撃が走る。
「忘れて!」
 突き飛ばされたんだと気づいた時には、尻もちをついていた。

「これ以上、詩織を困らせたくないんだ。忘れてよ!」

 赤いジャージのズボンの子がいる。
 背が低くて、痩せている。体操服はぺったん。ショートヘアーだし、男の子みたいだ。
 だけど……
 健康的に日焼けした顔は、カーッと赤くなっている。
 ちょっとうるんだような目で、オレを睨むように、泣きそうに見つめている。
 かわいい……
 リスとかネズミ系の愛らしい顔だ。

 オレのハートは……

 あ。

 やば!
 慌ててズレていた眼鏡をかけ直した。

 かけ直したんだが……


 オレのハートは、キュンキュンと鳴ってしまった……


 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。

《あと五十九〜 おっけぇ?》
 と、内側から神様の声がした。


 あぁぁぁぁ……

 やっちまった!

 何でこんなに簡単にキュンキュンするんだよ、オレ……

 両手で顔を塞いだが、後の祭り……もうどうしようもない。

「馬鹿め……」
 お師匠様の声が、何処からともなく聞こえる。
 はい、その通りです……『カネコ アキノリ』の友人を伴侶にしたくなかったのに……

「勇者……?」
 オレは眼鏡を外し、あらためてコズエさんを見つめた。
 オレらは薄暗い廊下に居た。
 コズエさんがきょとんとした目で、オレを見つめていた。そういう顔だと、ますますリスっぽい。かわいい。
「『五十七日後の魔王戦で、勇者に協力せよ』? キミが勇者で、金子が魔王……?」
 この世界の人間は、オレが萌えると頭の中に『コマンド』が見えるようになる。
 オレとどういう風につきあうべきか、それでわかるらしい。

「まいったな……」
 コズエさんは苦い物でも食べたような顔をした。

「人間消失なんてありえない! ってわたわたしてたのに、もっとありえないことになっちゃったなあ」

「すみません。萌えちゃって、けど、魔王がコズエさんの友人だって決まったわけじゃなくって」

「友人? 違うってば。ボクは金子の友人じゃない。同じ学校ってだけ。あんなキモ男、消えちまえってずっと思ってたし」
 え?
 コズエさんは、大きく息を吐いた。
「詩織にまとわりつくあいつが、うざかったんだよ。けど、戦うとか、殺すとか……そういうのは無理……できそうもない、あの金子でも……」

 心がズキンと痛んだ。
 逆の立場なら……オレだって嫌だ。知ってる人間を殺す手伝いをしてくれなんて、な。
 たとえば……
 シャルルなら……
 あぁ……
 バッサリいけそうだわ。
 まあ、殺すまではやりたくはないけど。
 そうだな……アンヌばあさんで考えりゃいいのか。バアさんに刃を向けるのは、嫌だ。意地悪ばあさんかと思ってたが、意外と良い人だったし。
 アンヌばあさんが傷つきゃ、ジョゼやニーナが悲しむ。そうと知っているだけに、よけい嫌だ。

 百人の伴侶達みんなに、100万ダメージを出してもらわなき、総ダメ1億には届かない。
 だけど……

「わかりました、コズエさん。コズエさんはカネコと戦闘しない形でいきましょう。戦闘補助みたいな、仲間パワーアップ系の技で魔王戦に協力していただきます」
「いいの?」

「ジャン」
 とがめるような声がした。姿を消しているお師匠様だ。駄目だ、と言っている。
 だけど……
「嫌がる人間を無理やり戦わせるなんて、勇者のする事じゃありません。ルネさんもいますし、魔王戦までに、コズエさん用に発明品を作ってもらいますよ」

 え〜と、これで……
 戦闘に参加しない人間は……
『先制攻撃の法』を唱えるセリアと、幽霊のニーナと、サッちゃんとコズエさん。あああ、そうだった、小人のモーリンちゃんも大ダメージは無理そうだったんだっけ。
 サラも100万ダメ出せるかどうか、まだ不確定だし……
 600万ダメージ……他の人に肩替りしてもらえるかなあ……?
 あ、でも、精霊達は強力だし! 森の女神様もいるし! ドラゴンの女王様まで、オレの伴侶!
 大丈夫!
 チュド〜ンしなくてもどうにかなる!
 そう信じよう!
 信じとこう!

「ありがと、勇者くん」
 コズエさんが右手をさしだしてくれる。
 握手。
 ニコッと笑ってから、コズエさんがオレを立たせてくれた。けっこう力持ち。

「もひとついいかな……」
 きまりわるそうにコズエさんが言う。
「金子は、絶対、殺すの? どうあっても、助けらんない?」
「オレが『カネコ アキノリ』を倒さないと、オレらの世界は滅びるんです。歴代勇者は歴代魔王を倒してきました。今回もそうです」
「例外なし?」
「はい」
「初めての例外にできない……かな?」

 初めての例外?

「いや、だって……ボク、金子のこと、嫌いだけど……殺人、見逃すのも、ちょっとさ……」

 殺人か……
 そうなるのかな、やっぱ。

「例外はない」
 姿はないけど、声はする。
 お師匠様の声に驚き、コズエさんがきょろきょろと周囲を見渡す。けど、アウラさんの結界内のお師匠様が見えるはずがない。

「神様より託宣を受け、託宣通りに魔王を倒すのが勇者の使命なのだ。それ以外の道では世界は救えないのだ」
 やっぱ、そうか。
 お師匠様がそう言っているんだ、カネコはオレが倒すしかないんだ。

 コズエさんはジョゼに目をとめる。ジョゼが言ったと思ったんだろう、ジョゼに対し頭を下げた。
「わかりました……」
「すまんな」
「ううん、謝るのはこっち。同じ学校の奴が異世界で魔王になってるんなら、学校を代表して謝るべきだよね……しかも、世界を滅ぼすとか、ありえない……」

「男を皆殺しにして、奴隷ハーレムをつくる気みたいですよ」
 と、オレが言うと、
 コズエさんは、はあ? という顔をして、頭を振りまくった。
「キモ! てか、あの金子なら言いそう! つーか、世界の滅ぼし方、それかよ!」
 それから、大きなため息をつく。
「その金子、ボクの知ってる金子のような気がするよ。前から困った奴でさ……1年の時、同じクラスだったんだ。言ってることキモいし、ナルだし、周りを見下してるって態度がありありでさ、クラス中から総スカンだったんだよね」
 だけど、と、コズエさんは続ける。
「詩織は違った。幼馴染だしね。それに、あの子、真面目な委員長だから、誰にでも親切なんだ」

「それで、カネコに一方的にリアカノ認定されたの?」
 ボーイッシュなコズエさんを見ながら、尋ねた。
「好きな子にガチ無理されたんで、カネコは魔王パワーに目覚めたって神様は言ってた」

「そんな事まで知ってるんだ」
 コズエさんがため息をつく。
「てか、その話だと、魔王になったの、詩織に振られたせいみたいじゃん。詩織が悪いわけ?」

「いいえ」
 そこは強く否定した。
「『ごめんなさい』をされた人間全員が、魔王になるわけじゃありませんから。本人の問題だと思います」
 コズエさんの口元がかわいらしくほころぶ。
「だよね! ボクもずーっと言ってたんだ、金子がいなくなったの、詩織のせいじゃないって。元気だせって。詩織は悪くないからって」
 嬉しそうだ。『詩織さんのせいじゃない』って言葉を、誰かからずっともらいたかったんだな。

「金子君が消えた時ってどういう状況だったの? 授業中?」と、アオイさん。
「ううん、放課後……教室には詩織と金子しか居なかった」
 アオイさんがケータイを持ち、ボタンをパパッと打ち始める。記録を取り始めたようだ。
「金子が『小うるさい奴等は消えた・・・来いよ、詩織。今日こそ、おまえが喜ぶ言葉をくれてやる・・・』て、いつものアレな感じで詩織を呼びつけたんだ」
 アレ……
「詩織は、あいつに甘いけど……あいつ、アレだから、ボク、心配で」
 アレか。
「隣の教室で様子みてたんだ。アレなあいつが馬鹿したら、止めてやろうと思って」
 アレねえ。
「あいつ、声、でかいから『この穢れた世界の中で俺様についてこれるのは、おまえだけだ』とか『一匹狼が俺のアイデンティティだが、おまえには負けたよ・・・』とか『俺の隣にはべらせてやる』とかアレな告白してるの聞こえてさ」
 ああ、わかった。
 アレって、痛い奴ってことか。

「で、どうなったの?」興味津々って顔でアオイさんが先を促す。
「詩織、笑ったんだ」
「あら」
「冗談かと思ったんだよ。まあ、金子、歩く冗談みたいな奴だけど」
 おいおい。
「プライド高くて屈折してて、ねちっこくって、偉そうなんだもん……振られて当然なんだけどさ」
 さんざんな言われようだな……

「それで金子君は?」
「イミフなこと叫び始めたんだ。キンキ声でさ。こりゃヤバいと思って駆けつけたら、詩織が悲鳴あげてて……」
 コズエさんが顔をしかめ、身を震わせた。
「教室に詩織しか居なかった……金子は闇に呑まれて消えたって、詩織はボクに抱きついて泣いたんだ」

「人間消失なんて信じられないけどさ……ボク、隣に居たんだもん。出てきゃわかる。あいつは、扉からは出て行っていない。窓からもありえない。四階だもん。それに……」
 コズエさんが静かに微笑む。
「詩織が、ボクに嘘つくはずないもん。金子はあの教室からどっかに飛んだんだ。それで、勇者くん達の世界で魔王になったのかもね」

「それからボクらは進級した。金子も認定が下りて三年にはなってる。一回も登校してないけどね。だけど……」
 コズエさんの顔が、暗くなる。
「あいつが消えた2−A、ひどい事になっちゃってさ。もともと学校の七不思議だったんだ、無人のおしゃべり教室ってさ。それが、ますます怪現象が増えたみたいでさ」
 どんどん表情が固くなってゆく。

「ラップ音や、人のうめき声がするんだって……ボク、クラス違うし、そーゆうのよくわかんないんだけど……そーいう噂」
 ラップ音?
《音のみの怪奇現象ですわ。騒霊の仕業の場合も、多々ありますわね》
 と、教えてくださったのは、氷の精霊グラキエス様。ありがとうございます。
 グラキエス様には目隠しの眼鏡になってもらってたけど、もう必要ないな。
 女子高生のコズエさんを仲間にしちゃったんだし。
 これから女子高生を目にしても、ジョブ被りで仲間にはできまい。

「後、黒板や机に落書きがあったり……壁にはったモノがバサバサ落ちたり……チョークがコロコロと勝手に床を転がったり……してるみたいだよ」
 幽霊の仕業ねえ……そんぐらいなら悪戯とも考えられるが。

 コズエさんが親指で廊下の先を指す。
「行こうか、2−A。金子が消えた教室。ちょっと不気味なとこなんだけど……見てみて」

 魔王が目覚めるのは、五十七日後だ。

 魔王の正体はそこへ行っても、はっきりとはわからないだろうが……
 オレらは2−A教室へと向かった。


* * * * *


『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き

●女性プロフィール(№041)

名前 オオゾラ コズエ
所属世界   英雄世界
種族     人間
職業     高校生
特徴     陸上部。
       明るいボクっ子。
       タチバナ シオリさんの親友。
       カネコ アキノリを快く思ってなかった。
       失踪現場のそばに居た。
戦闘方法   不明。
年齢     十七歳。
容姿     ショートヘアー。日焼けした肌。
       大きな目。ボーイッシュ。
       胸は小さい。とっても小柄。
口癖    『ありえない』『アレ』
好きなもの  体を動かすこと。
       親友のシオリさん。
嫌いなもの  カネコ。
勇者に一言 『ありがと、勇者くん』
挿絵(By みてみん)
+注意+
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