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ハーレム100 作者:松宮星

英雄世界

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萌えよペン     【遥 ランラン】(※)

「勇者様。お会いできて、嬉しいわぁ〜 遥ランランよ。よろしくねぇ〜」

 そう言って右手を差し出してきたのは、長い黒髪をうなじで束ねたメガネのおねえさんだ。綺麗というより可愛い系の顔だ。
 ややぽっちゃり。その分、胸は豪華な大きさ。下はズボンだけど、上は色っぽい。胸元の大きく開いた下着みたいな服『タンクトップ』を着てる。嫌でも目がそこにいってしまう……日焼けしてない胸がまぶしい……

 おねーさんが、オレの右手をぎゅっと握る。
「あああ、これが勇者の手なのねッ! 想像以上の固さだわッ!」
 でもって、さわさわと両手でオレの掌を触る。
「これ、剣ダコ? こっちは拳タコよね? 格闘もやるのぉ? ああん、それにしても……みずみずしいわぁ〜 現役の筋肉〜」
 おねーさんは頬を染め、うっとりとした顔で、オレの前腕、二の腕に指を這わせる。袖ごしにオレの腕に触れてゆく……
「ぽよぽよの腕とはぜぇんぜん違うぅ! いいわ、いいわぁ〜 ごっつすぎないのもステキっ! あぁぁん、この張り、この形ぃ!」

 おねーさんは、どんどん大胆になる。
 腕だけじゃなく、体まで触ってくる。

「いやぁん。筋肉ぅ。うふふ。気やせしてるのねぇ〜 あぁん、こーゆうタイプ、初めてぇ。マッチョにはもう飽きてたのよ、嬉しいッ!」

 あ。
 ちょ、ちょ、ちょ……
 そんな……
 気持ちいい……
 あ、あ、あ。
 そんな所まで。

「欲しい……欲しいわぁ……」
 執拗なまでにオレに触れながら、おねーさんが顔を近づけてくる。
「あなたの全てを見たいのぉ」
 顔が赤い。吐く息も荒い。おねーさんは、ハァハァと色っぽく息づきながら、オレへと媚びるように微笑んだ。
「お願い……あなたが欲しいのぉ」


 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……


 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。

《あと六十二〜 おっけぇ?》
 と、内側から神様の声がした。


 おねーさんが妖しく微笑む。
 愛しそうにオレの体を撫でて……

「脱いでぇ……」

 その言葉が魔法のようにオレの理性を痺れさせる。
 オレは服のボタンを外し始めた。


 オレのことをアオイさんから教えられた時から、ランランさんは熱烈にオレとの逢瀬を願っていた。
 けれども、おとといも昨日も、ランランさんは自宅におらねばならず……
 もどかしい時間を過ごしていたのだそうだ。
 今日も予定がつまっていたのだが、無理をして時間をつくったのだ。
 どうしてもオレに会いたいから……

 そう伝え聞いて……彼女の自宅までやって来たのだ。

 そして、オレは……

「勇者様……ステキよぉ……もっと腰をぐんとつきだして、あぁぁん、いいわぁ〜 もっとよ、もっと激しくぅ……」
「勇者さん、腰をひねって、胸は張って。おぉぉ。スバラシイ! 萌えるわ! 脱ぐと勇者さん、五割増しでカッコいい!」

 上半身裸なオレは、ランランさんとアオイさん、それにランランさんの助手二人に囲まれていた。
 彼女らは、カメラやケータイをパチパチさせる。
 リクエストに応え、いろいろポーズをとらされている。絵のモデルみたいに。

「勇者様、最高ぉ! 裸の男の写真ってムキムキばっかなんだものぉ〜 普通っぽくって筋肉もある子の資料って少ないのよぉ〜」
「どうせなら、絡みの絵が欲しいよね。男×男とまで欲張らないから」

 ランランさんは、女子大生アオイさんの友人。
 プロの漫画家なのだそうだ。

『月刊と週刊の連載抱えてるの。月刊の方がそろそろギリギリなの。担当さんが張り込む時期らしくって。あ〜 ようするに自宅での仕事がたてこんでるの……悪いけど、一緒に来てくれる? 二〜三時間ですむと思うから』
 アオイさんは昼前にマドカさん家に現れ、そう誘った。
 漫画家ってのは、情熱と萌えと霊感(インスピレーション)にあふれた芸術家。小説家兼画家みたいな存在。しかし、時にはペンで巨大な悪と戦い、不可能を可能にする奇跡のジョブなのだと『勇者の書』にはあった。仲間にできれば心強い。

 ちょうどその時、来客中だった。
 昨日の婦警のミサキさんが来てたんだ。ミニスカポリスな格好じゃなくって、私服だったけど。
 徹夜明けの、非番なのだそうだ。
 頭の中のコマンドのこと、勇者と魔王のこと、オレらの世界のこと、召喚のシステムのことなどの詳しい説明を求めて。
『申し訳ありませんが、正直に言えばお断りしたい気持ちでいっぱいです。私には警察官としての職務がありますので』
 そう言うミサキさんを、お師匠様と二人で説得していた。仲間枠に入ってしまったら、取り消しは不可能なんだ。ンな事できるんなら、サラはクビにしてる。

 お師匠様がミサキさんの説得を引き受けてくれたんで、オレは外出できる事になった。
 そのちょっと前に、カトリーヌはニーナとアウラさんと出かけていた。マンション付近で仲間探しをすると言って。

 だから、ジョゼやサラだけを伴おうと思ったんだが……
 結局、置いて来た。二人ともタクシーに酔ってしまったんだ。

 タクシーというのは、辻馬車の自動車版。その車中の臭いと揺れが、サラ達には我慢ならなかったもよう。
『なんで、あんたは平気なのよ?』と、サラは口元を押さえながら、苦しそうにオレを睨んだ。何でと言われても……体質?
『ご一緒します……』と、ジョゼはけなげにも言ってくれた。『私……お兄さまの護衛です……お兄さまを守る為に仲間になったんです……お一人にはしません』とまで言ってくれた。でも、真っ白な顔で脂汗を浮かべているんだ。義妹をこれ以上苦しませたくなかった。
『オレの心配ならいらないよ。水の精霊マーイさんが空気中の水分に潜んでついて来てくれてるから。ジョゼが休んでても、平気』。
 そう言ったら、義妹は目を大きく見開き、体を震わせた。
『私の護衛……いりませんか?』
 無理して欲しくないんで、はっきりと言った。
『そんな体じゃ、思うように動けないだろ? 休んでて。オレは大丈夫。精霊達が居るから』
 ジョゼは口元をハンカチで覆い、うつむいた。
 納得してくれたのか、それっきり口は開かなかった。
 いったんマドカさんのマンションに戻り、サラとジョゼは下車させた。

 あれからだいぶ時間が経ったし、二人とももう回復したかな?
 マリーちゃんがいりゃ、あやしげな魔法であっという間に治してもらえたんだが。
 サラは治癒魔法を習っちゃいるが、まだまともに使えない。
 水の精霊マーイさんは、オレ以外の人間を治せない。というか、任せられない。ぶきっちょだから、治そうとして、仲間を壊しかねないんで。
 安全な旅でも、やっぱ回復役は欲しいところだ。  

「じゃ、取材させてねぇ〜」
 写真撮影会の後、食事になった。シャツも着ていい事になった。
 寿司という出前を食べた。一口サイズの酸っぱいライス。あまりうまくなかった。
 ちゃんと食べてたのはオレだけ。
 漫画家はノートとペンを手に、女子大生はノートパソコンという機械を開いて、メモをとりながら寿司をつまんでた。
 ランランさんの二人の助手達はガーッと食べて、仕事を始めた。紙に黒インクを塗ったり、風景画を書き足したり。

 オレはいろんな事を語った。

 オレ達の世界の事。
 神様の事。
 オレの宿敵『カネコ アキノリ』の事。
 勇者と魔王の百度にわたる戦い。
 異世界から来た七十二人の勇者。
 異世界から来た八十五人の魔王。
『勇者の書』の事。
 英雄世界をどういう風にオレ達は理解してるかなどなど。

「『勇者の書』は、勇者の日記帳ぅ……魔王が目覚めるまでの百日の間に勇者が記すものぉ……どんな風に修行したか、どんな風に過ごしたか、どんな異世界へ行ったかの記録ぅ……」
 メモをとりながら、ランランさんが首をかしげる。
「な〜んで魔王戦直前までなのぉ〜?」
 クライマックスを書かないなんてありえないッ。打ち切り連載みたいッと、ランランさんは不満そうだ。
「魔王を倒した後、勇者が消えるからです」
「えぇ?」
 ランランさんは目を丸めた。
「相討ちぃ? 勇者みんな死んじゃうのぉ?」

「いいえ」
 オレは苦笑を浮かべた。
 ちゅど〜んした奴も居るだろう。でも、そればっかじゃない。
「魔王を倒すと、勇者は勇者じゃなくなるんです。よその世界に転移するか、不老不死の賢者になってしまうんで」
 賢者となってから『勇者の書』を書き足そうとしても、書が文字をはじくのだと聞いている。

「じゃあ、魔王戦がどんな感じだったかは謎なのぉ〜?」
「いいえ。魔王戦には賢者も立ち会いますので、歴代勇者の戦いは賢者の間で口伝され、その知識は勇者にも伝えられています。大まかな知識しかありませんが、歴代勇者の戦いはだいたいわかりますよ」

 オレもお師匠様から、歴代勇者の戦いは教わっている。
 だけど……
 どうやって勝ったか、勝った後、勇者がどうなったのかまでは教わらなかった。

 お師匠様は究極魔法の存在すら、オレに教えてくれなかった。
 教えると、やる気をそぐとでも思ったのか?

 最近まで、倒した後に『望みを何でもかなえてもらえる』ご褒美が貰える事ぐらいしか知らなかったんだ。

「んじゃ、次の質問……この世界出身の勇者達なんだけどぉ……」
 書いたメモを確認しながら、ランランさんがオレを見つめる。
「全部で十五人。男九人に女六人。一番最初が七代目で高校生。で、十五人目が九十七代目で女子中学生……これに間違いな〜いぃ?」
「はい」

「で、名前は……これで合ってるぅ?」
 ランランさんのノートを見て、オレは頷いた。
「はい」
 ランランさんが何とも言えない複雑な表情となる。
 アオイさんも苦笑いを浮かべている。
「異世界に行ったんでヒーローしてみたかったとか、本名を伏せておきたかったとか、七代目がアレだったから真似したとかじゃない?」

 む?

 ランランさんのノートには、オレが伝えた勇者達の記録が記されている。
 けっこうブランクが多い。
『勇者の書』を全部読んでいるものの、セリアと違って立て板に水みたいにスラスラとは勇者情報は出てこない。
 百人も居るんだ、うろ覚えの勇者も居る。名前すら思い出せない奴も。
 好きな勇者の冒険は、細かいとこまで覚えてるけど。

+ + + + +

7代目 ヤマダ ホーリーナイト(男) 高校生
 英雄世界から最初に転移。仲間……戦士・僧侶・魔術師・学者。学者の教育で宮廷作法を身につけた。

11代目 オーバードクター ケイ(男) 大学生
 治癒魔法で治せなかった病を治したという伝承あり。勇者ジャンの時代においても医療の神として祭られている。

16代目 ―― アリス(女)高校生?

28代目 エリート コース(男) サラリーマン
 知性派勇者。28代目魔王『タカトウ ヨシズミ』の魔王化前の情報を収集し、弱点攻撃をした。勇者となってから一度もとの世界に戻り、それから再び勇者世界に赴き魔王を倒す。仲間……戦士・騎士・格闘家・学者×5。学者と深い親交を結んだ。

29代目 キンニク バカ(男) 大学生
 28代目勇者の実弟。柔道家。世界大会? 出場経験あり。賢者となった兄の指導の下、魔王を倒す。仲間……戦士・僧侶×2・魔術師×3・学者×3。

33代目 フリフリ(女) 主婦
 ピンクのフリルのエプロンが似合っていた、伝説の新妻。若奥様。仲間……戦士×2・格闘家・暗黒騎士・獣使い・巫女・盗賊・僧侶×2・魔術師。全員女性。美人PT。

4?代目 ―― ――(男)自宅警備員
 二次元おたく。猫耳・妹・巫女・メイド好き。

51代目 バクレツ エイジ(男)高校生ボクサー。
 プロボクサー。喧嘩好き。拳で魔王に挑んだ炎の男。たいへん常識に欠ける異世界人だったが、学者に調教された。

5?代目 ―― ――(男)サラリーマン? 

6?代目 ―― ショーコ(女)高校生?

74代目 ソノミヤ マスミ(女)OL。
 ハイヒール+ストッキング。

84代目 ―― ――(男)教師。
 セリア(勇者ジャンの仲間の学者)のお気に入り。知的かつ好男子だったもよう。

89代目 ―― ――(男)リストラ親父。
 イメクラ常連(OL好き)。M。

91代目 ―― エリ(女)女子大生?

97代目 ヤザキ ユナ(女) 中学生
 現賢者シルヴィが導いた勇者の一人。言霊使い。仲間……戦士・格闘家・僧侶・魔術師・学者。 

+ + + + +

『?』はうろおぼえ、『――』は思い出せないところだ。

「ありえないッ! 悪ノリの偽名だとしても、自分に『エリート コース』とか『キンニク バカ』とか無いわぁ〜」
「ああ、それは……」
 オレはランランさんに説明した。
「『勇者の書』の勇者名の記入だけは、賢者の役目なんです。なので、賢者がうっかり、或いは意図的に、名前を間違えて記した事もあったんですよ」
 二十八代目とニ十九代目が、まさにそれ。
 ニ十八代目は間違った名前を書に記され、ず〜とそれを不満に思ってたんだ。で、自分が賢者になってから、ニ十九代目の弟の書にわざと変な名前を書いてやったという……
 ニ十八・ニ十九の兄弟勇者の書は、何度も読み直してる。エリート・サラリーマンだった意地悪な兄と、力自慢で真面目な弟。笑える兄弟愛ものなんだ。
 だもんで、魔王の名前まで覚えている。ニ十八代目魔王は『タカトウ ヨシズミ』、英雄世界出身。ニ十九代目魔王は幻想世界出身の『マーフィー』だ。

「なるほどねぇ……」
 ランランさんはノートを見直した。
「七代目からで十五人……」

 そして、シャーペンの先でコツコツとノートを叩く。
「明らかに……こっちとあなたの世界は同期してないわねぇ」
「同期してない?」

 ランランさんがメガネの縁を軽く持ち上げる。
「あなたのお師匠様……九十六代目勇者って百年ぐらい前の勇者なのよねぇ?」
「はい」
「あなたが百一代目だから、五代で百年経過したってことよねぇ。単純計算でいくと、七代目勇者から九十七代目までで……えっとぉ」
「千八百年」と、アオイさん。あいかわらず計算が早い。
「ところが、こっちは千八百年も経っていないのよぉ」
 ランランさんが肩をすくめる。
「七代目勇者は『高校生』。『高校生』が存在しだしたのは、最近なのぉ。旧制高校を含めたって百年ちょっと前の話なのぉ」
 はあ。
「う〜ん、こちらの一年があなたの世界の百年なのか、あなた方がタイムトラベル方式で好きな時間に干渉してるのか、あなた方の言う英雄世界は実は並行他世界であり常に違うパラレルワールドから勇者を招いているのかぁ……」
 ランランさんが、ああでもないこうでもないと独り言をぶつぶつとつぶやく。
 何か難しい話になってきたぞ。

「オレの世界とあなた方の世界と時の流れが違うと、問題なんですか?」

「問題大ありよぉ〜」
 ランランさんは、そんな事もわからないの? って顔となり頭を振った。
「仮にね、こちらの一日があなたの世界の一年だとするぅ」
「はい」
「……あなたがこっちの世界に来て、何日経ったぁ?」
「丸二日です」
「……てことは、あなたの世界では二年が経ったわけぇ。魔王復活はここに来た時で六十一日後よねぇ? 二年経っちゃったのよ、とっくに魔王が目覚めて、あなたの世界、魔王のものになったんじゃな〜いぃ?」

「………」

 えぇぇ〜〜〜〜?

「いや、だから、仮説よ、勇者様ぁ」
 よっぽどオレは取り乱したんだろう。
 気づいた時には、ランランさんとアオイさんや助手さん達にしがみつかれていた。パニックになって暴れるオレを全員で止めたんだろう。

「タイムトラベル方式かもしれないしぃ、あなたがこっちに居る間は向こうの時間が止まってるのかもしれないぃ。まあ、たぶん大丈夫よぉ」
「大丈夫……ですか?」
「ええ。あなたが前に行った幻想世界や精霊界では、時の流れが一緒だったのよねぇ? 勇者が赴いた世界と勇者世界は同期するのよ、きっとぉ」
……そうかなあ?
「それに、ほら二十八代目ッ! 彼、いったんこっちに戻ってそれから勇者世界にもう一回行って魔王を倒したのよねぇ? その話では、間違いなく両世界の時間は同期してるものぉ!」
 あ。
 確かに。

「そーそー、平気よ、勇者さん」
 アオイさんが、ポンポンとオレの背中を叩いた。
「あなたの尊敬する賢者さんが、平然としてるでしょ? こっちの一日は、あなたの世界の一日なの。絶対だわ」

 そっか……
 そうだよな……
 こっちに滞在してたら何年も経っちゃうんなら、お師匠様が先に注意してくれるよな。
 お師匠様が何も言ってないんだから、問題ないんだ……

「おとなしくなったわねぇ〜 勇者様ぁ」
「彼、お師匠コンらしいのよ。むしろ信者? 『お師匠様は正義で絶対』って固く信じてるんですって。魔術師さんが教えてくれたわ」
 あの……
 内緒の会話、丸聞こえなんですが……
 つーか、サラ、余計なこと言うなよ。

「私が心配してるのはぁ〜 勇者様がこの世界から消えたら、時間同期が無くなっちゃうんじゃないかってことぉ」
 と、ランランさん。オレから離れて、椅子に座り直す。
「五十九日後召喚って聞いてたのにぃ、時間の流れが違うせいで、三日後とか半日後とか数時間後とかになったら、困るものぉ」
 むぅ。

「その件も含め……調べてみてぇ」
 ランランさんが、ノートに書いた人名やジョブ名に記号や○をつけてゆく。

 七十四代目OLの『ソノミヤ マスミ』。
 九十七代目中学生の『ヤザキ ユナ』。

 二十九代目柔道家兼大学生『キンニク バカ』。
 五十一代目高校生ボクサー『バクレツ エイジ』。

 魔王。
 二十八代目の『タカトウ ヨシズミ』。
 そして、オレの宿敵『カネコ アキノリ』。

「七十四代目と九十七代目、それから魔王二人は本名の可能性が高いわぁ〜 この世界に実在してるか調べてみてくれる、セイちゃん? 居たら会ってみたいッ! 勇者世界からの帰還者よぉ! 取材したいッ! 話を聞けばいろいろ謎が解けるわッ!」
「葵って呼んで」
 苦笑しながら、アオイさんがパソコンをカチャカチャ操作する。

「調べればわかるんですか?」
「履歴が残ってれば、ね」
 履歴?
「ネット上で本名や住所を公開してる不用心な子、けっこう多いのよ。同姓同名の可能性もあるけど」
 ほう。
「後、人探し掲示板、オカルト板、未解決事件板、猟奇事件板にカキコあるかも」
 む?
「家出・失踪・行方不明になった人間を探すのに利用されるのが、人探し掲示板。捜索願い出したって、変死者等があった時に照会してもらえるぐらいだもん。積極的に情報提供を呼びかけないと、ラチがあかないのよ」
 むぅ?
「ま、当人が帰ってきて削除したかもだけど」
 むむ?
「トリップ時の様子が目撃されてれば、オカルト板に『人間消失事件』としてあがってる可能性もある」
 むむむ?

「あとは過去のスポーツ関係記事。五十一代目は、高校生プロボクサーだったんでしょ? 『バクレツ エイジ』ってリング名かも? 絞り込みやすそう」
 ふ〜ん?
「二十九代目の方が面倒ね。大学生の柔道家って、かなり居るのよ。しかも、姓名も大きな大会に出場した年度も階級も不明。行方不明になった柔道家で記事あるかしら? こっちはちょっと保留させて」
 はあ。

「おぉ、さすが最大級掲示板」
 アオイさんがパチンと指を鳴らす。
「居たわよ、あなたのライバル」
 え?
「『カネコ アキノリ』」

 オレはノートパソコンの画面を覗きこんだ。

『探してます。金子アキノリ君。○月×日〜行方不明です。彼は親友の前から消えました。身長165センチ。痩せています。どんな情報でも構いません。心当たりがある方は下記メールまで。no【××××】こずえ』。

「カネコアキノリ……○月×日から行方不明……」
「六十八日前ね」と、アオイさん。
「なら別人だ」
 魔王が目覚めるのは、五十九日後だ。
 カネコアキノリが魔王となったのは四十一日前なのだ。六十八日も経っていない。

 生まれ育った世界で不幸だった者が、心の闇に囚われ、オレらの世界に落ちて来て魔王となるらしい。
《彼女いない歴(イコール)年齢な奴なの〜 一方的にリアカノ認定してた子からガチ無理されて、魔王パワーに目覚めちゃったのねぇ 男を皆殺しにして、奴隷ハーレムをつくるんだって〜》
 神様は『カネコ アキノリ』の事をそう説明した。

「ま、でも、二つの世界で時間のズレがあるかもしれないし。一応、メールしとくわね、このこずえさんに」

「何でです?」
 オレは聞いた。
「何でその人に連絡をとるんですか?」
 ランランさんもアオイさんも、変な顔でオレを見た。

「自分の宿敵がどういう人間か興味ないのぉ〜?」
 正直に答えた。
「ありません」
 出現した魔王は倒す。勇者の役目はそれだけだ。
 相手がどんな魔王であろうが、その行動に変わりはない。
 魔王を倒せなきゃ、オレらの世界は滅んでしまうのだから。

「私は興味あるわ」と、アオイさん。
「それに二十八代目勇者は、宿敵の前身を調査して、弱点をさぐりあてて戦ったんでしょ? 敵を知り、己を知れば、百戦危うからず、よ。調査して損はないと思うわ」
 なるほど。弱点調査か。

『私の知り合いの前に現れた男性が『カネコ アキノリ』を名乗っています。常識では考えられない出現をしたそうです。四十一日前には、ゲーム世界の悪役が言うような暴言をしたそうです』
 メールにはそう書くよう、ランランさんが指示した。
「返信で様子みるのよぉ。もしも、その子がトリップを目撃してたら、『常識では考えられない出現』の一文に食いついてくると思うのぉ〜 普通の返信なら、この『カネコ』君、魔王説はちょっと後退ねぇ」
 アオイさんもランランさんも……何というか……知的で頼りになる。


 雑誌の編集さんが来て、ランランさんは仕事となった。

「勇者や魔王関連の情報、調べとくわ。何か進展あったら連絡する」
 アオイさんとは、マドカさんのマンションの前で別れた。





 魔王が目覚めるのは、五十九日後だ。

 ふってわいたみたいな話に、正直戸惑っている。

 オレはこの世界に仲間探しに来たんだ。
『カネコ アキノリ』が魔王になる前、どんな人間だったかなんて興味ない。

 わかったって、何も変わらないと思うんだが。


* * * * *


『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き

●女性プロフィール(№038)

名前 ハルカ ランラン(本名ではないようだ)
所属世界   英雄世界
種族     人間
職業     漫画家
特徴     アオイさんのお友達。
       資料から鋭い洞察をする。
       探偵みたいだ。
       常に締切がギリギリな忙しい人。
戦闘方法   不明
年齢     アオイさんより年上。
容姿     ややぽっちゃり。
       胸はイザベルさんといい勝負。
       長い黒髪をうなじで束ねた、
       メガネのおねえさん。
       美人というよりはかわいいタイプ。
口癖    『ありえないッ!』
好きなもの  漫画
嫌いなもの  締切
勇者に一言 『勇者様、最高ぉ!』
挿絵(By みてみん)
+注意+
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