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ハーレム100 作者:松宮星

英雄世界

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おさな妻      【櫻井 まどか】(※)

 オレのハートは、キュンキュンキュンキュンと鳴った……


 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。

《あと六十八〜 おっけぇ?》
 と、内側から神様の声がした。


 女性がオレを見上げる。
 オレも彼女を見ている。目は、もう彼女に釘づけだ。

 大きな黒い目、ふっくらとした頬、小さなかわいらしい唇。幼く見えちゃうほど、愛らしい可愛い顔をしている。
 なのに、小柄なその体は『トランジスタグラマー』って体型なんだ。『勇者の書』で絶賛されてたんだ、ちっちゃいけど高性能な体だって。大きな胸を揺らし、彼女は小さく震えていた。
 彼女の素晴らしいふわふわの服も、揺れている。

 びっくりした。

 英雄世界は、『キングオブ勇者の地』だ。
 勇者になれる人間が、ゴロゴロしている世界だ。
 ここで仲間探しをすれば、優秀な伴侶が得られるとは思っていたけど……

 転移したら、いきなり目の前に伝説級の人物が居るなんて……思ってもみなかった。


* * * * * *


 目の前にいる奇妙な格好の男。
 その男から目が離せない。

「はじめまして、勇者ジャンです。お会いできて光栄です」
 差し出されてくる右手。
 握りたくも無いのに、アタシの右手があがる。
 男と握手を交わしてしまう。

「お名前は?」
 体がわなわなと震えている。
 怖くてたまらない。
 なのに、口が勝手に動くのだ。
「まどか……です」

 ごくりとツバを飲み込んだ。

 逆らえない……

 この男の言う事を聞かなきゃいけないんだ。

 アタシは……つかまったんだ。

 これから、アタシは……この男の為に生きなきゃいけないんだという事が直感的にわかったのだ。

 何で、どーして……
 こんな事になったの?

 催眠術でもかけられた?
 ありがちなところで、奴隷化?

 あああああ、アタシってば、不幸!

 ごめんなさい、神様……
 もう二度と、退屈で死にそうなんて言いません。
 何かおもしろい事ないかなあとも思いません。

 だから……
 目の前のこいつら消してください……

 ソファーの前の空気がゆらゆらって揺れたと思ったら、リビングに、突然、人間がわいて出たのよ。
 頭の中も真っ白になるわ。
 変な格好をした人が六人。

 最前列の男の人……
 目と髪の色こそ黒いけど、どー見ても日本人じゃない。欧米人っぽい。そこは百歩譲っていいとして……マントに腰に片手剣! アウト! アウトだわ!

 なんで、なんで、どーして!
 現代日本の新婚マンションに、勇者一行を迎えなきゃいけないの?

 逆異世界トリップ、逆異世界召喚……
 ンな言葉が頭の中をぐるぐるする。

 ラノベ好きだけど!
 異世界トリップ逆ハーもの読みふけったけど!
 先月も『逆ハーレム100』とかいう変なの読んだけど!
 でも! アタシ、卒業したの!
 正孝さんと結婚して、若奥様になったんだから!

 大恋愛だったのよ! ファミレスでバイトしてたアタシにダーリンがフォールインラブ!
 十五の歳の差を乗り越えて、結ばれたの!
 アタシの高校卒業を待って式を挙げたんだから!

 ああああ、出てって!
 今さら選ばれしものとか、定まりし運命とか、いらないから!
 ここは、アタシと正孝さんの愛の巣なの!
 3LDKの新築マンションなの!
 侵入者お断り!
 ピカピカの床の上に土足とか!
 足形つけるなッ!

 怒鳴ってやろうかと思ったんだけど……
 アタシの口から出たのは、

「ようこそおいでくださいました、勇者さま。アタシは勇者さまにお仕えする運命の者。何なりとおいいつけください」

 などという服従のセリフだった。
 なにこの定型文。
 ナニモノカノ意志ニ、アタシハ操ラレテイルノネ。

 あああああ、アタシってば、不幸!

 でも、だめだわ。
 せめて、これだけは……
 これだけは伝えなくっちゃ……

「履物はお脱ぎください。この国では、住居では素足となるのが普通なんです。建物によって脱いだり脱がなかったりしますから、その都度、説明しますね」
 あああああ、ずっとお側にいます宣言、勝手にしちゃうし!
 どーなってるのよ、アタシ!


 とりあえず、勇者一行をソファーに案内し、紅茶をごちそうした。
 全員、美形。外人だから三割増し、格好良く見えるってのもあるんだけど、ともかく綺麗。
 こん中に混じると、勇者が一番地味。外人クォリティからすると一般人ランクなのでは?

「賢者シルヴィだ」
 おにーさんかと思ったら、白銀の髪・白銀のローブの人は、おねーさんだった。この人が一番、美形ね。整いすぎていて、マネキンみたいだけど。

「魔術師サラです」
 魔法使いが、黒のローブのフードを外した。さらりと流れ出る赤みがかった金髪。目元がちょっときついけど、かわいいおねえさん。膝の上のクマさんがちょっと気になるわ。

「ジョゼです……格闘家として同道しています」
 そう言ったのは、裾の広がった白いドレスの女の子。おとなしそうで、お姫様みたい。なのに格闘家?

「カトリーヌ。狩人よ」
 ニッと目を細めて笑いかけてきたのは、セミショートの金髪の、猫っぽい雰囲気の美人。小さな羽根付き帽子が、確かに狩人っぽい。薄緑色のチュニックをワンピのように着ている。

 RPGは好きだから、だいたいジョブはわかる。
 けど、最後の一人は、なに?
 格闘家と魔法使いの間に座っている子供……真っ白……髪も、顔も、体も、全てが白く半透明。
《こんにちはー ニーナです。おにーちゃんの仲間でーす》

 もしかして……
 幽霊……?
 ヒュードロドロな、アレ?

 背筋がゾッとした。
 けど、すぐに怖くなくなった。三白眼で怨みがましく睨みつけられたらゾゾっとしちゃうけど、かわいい顔でニコニコ笑ってるだけなんだもん。アタシの出した紅茶も飲んでるし。
 遊園地にもあったわよね、陽気な幽霊の館のアトラクション。あそこの住人みたいな感じ。
「お菓子……食べる?」
 って聞いたら、
《たべるー》
 と、幽霊は答えた。
 クッキーの缶を開けると、子供はキャーッと歓声をあげ、クッキーにとびついた。手に持つと、それだけでクッキーがフッと消える。どーやって食べてるんだろ?

 紅茶のカップをテーブルに置き、賢者様が口を開く。
「伝説の英雄に説明は不要かと存じるが、我々の事情をお伝えする」
 伝説の英雄? アタシが? 
 なんで?
「六十一日後、我々の世界で勇者は魔王と対決する」
 やっぱ敵は魔王か。ステレオタイプな。
「当日に、あなたを勇者の仲間として、私達の世界に召喚する。魔王に対し一撃を加えていただきたい」
 は?
「101人の仲間と勇者がそれぞれ一回づつ攻撃し、魔王を倒す。魔王のHPは従来通り1億。魔王に対し、100万以上のダメージを与えられる攻撃をお願いしたい」
 は?

 あれ……?
 耳が浮いちゃって、賢者のおねーさんが言ってる事が理解できない。

 えっと……
 話を整理しよう。

 六十一日後に、勇者が魔王と戦う……これはいい。
 その時、アタシは勇者の仲間として、勇者の世界に召喚される……これはよくない。
 てか、異世界召喚? このアタシが?

 魔王には、勇者も仲間も一回しか攻撃できない。なので、アタシは魔王に100万以上のダメージを与えられる攻撃をしなきゃいけないらしい。

 アタシが?

 魔王に100万ダメージを出す?

「いやいやいやいや、それ、無理だから!」
 アタシは叫んだ。

「アタシ、高卒で、正孝さんと結婚した、平凡な主婦ですから! バトルしたことないし! リアル・ファイトの経験ゼロ! ンな人間が戦うなんて無理!」
 ゲームの魔王なら倒したことあるけど!
 でも、本物の魔王なんて、見たくもないし、会いたくないから! そばによるだけで、気絶しちゃう!
 お化け屋敷のお化けの何百倍も怖いんでしょ? 世界を滅ぼす力があるんなら、ものすごく強いんでしょ? 指の一振りで、大岩砕いちゃうとか。
 無理、無理、無理、無理!
 リアル・ホラー映画、ノー・サンキューよ! 選ばれし勇者さま達だけで戦って、アタシは平凡な人妻ですから!

「英雄世界の住人は、我々の世界ではすべからく英雄となる」

 は?

「『中学生』が一、『高校生』が四、『大学生』が三、『サラリーマン』が二、『OL』が一、『リストラ親父』が一、『主婦』が一、『教師』が一、『自宅警備員』が一、この世界から私達の世界に渡り勇者となった。皆、戦闘技術がなかったのだが、召喚によって『力に目覚め』、魔王を倒してきたのだ」
 賢者の顔には、確信が浮かんでいた。アタシ達の世界の人間は、勇者達の世界に転移するとすっごい能力を得るらしい。それは定型化したお約束なのだそうだ。
「あなたも私達の世界にやってくれば、伝説の英雄にふさわしい、真の力に目覚めるだろう」

「アタシが伝説の英雄……?」
 賢者がアタシを指差す。
「その衣装が何よりの証」

 衣装……?

 アタシは自分をまじまじと見つめた。
 普通の格好だと思うけど……

 勇者がアタシへと笑いかけてくる。
 何か……胸がキュンとした。
「花柄のワンピースにピンクのフリルエプロン。一目見てわかりました、マドカさん、あなたは伝説の幼妻なのでしょ?」

 伝説の……幼妻?

「33代目勇者は、伝説の若奥様だったんです。ヒラヒラのフリルのエプロンこそ主婦の最終装備。それひとつで、あらゆる男性をノックダウンさせるのだと『勇者の書』に書いてありました」

 は?

『勇者の書』というのは、勇者の日記帳みたいなもので、各勇者が一冊づつ書き残してきたものらしい。
 勇者ジャンの話を聞いたところ……
 どうも……
 三十三代目勇者となった女性は主婦で、花柄のワンピースにピンクのフリルエプロンな格好で異世界にトリップしたらしい。
 本人も『フリルのエプロンこそ主婦の最終装備』と嘘を書いたようなんだけど……
 その後の勇者達が、けっこうテキトーな事を書き残したみたいで……
『フリルエプロンこそ最強の萌えアイテム』だの、『十代の幼妻によく似合う』だの、『裸エプロン王道』とか……

 それで、『ピンクのフリルエプロンをしている童顔の主婦こそ、最強』みたいな間違った情報が定着しちゃったみたいなのだ、あっちの世界では!

 アタシ、そんなんじゃない!
 高卒で嫁いだからちょっぴり若いけど、普通よ!
 魔王戦なんかお断り!
 勇者よりも平和よりも、旦那様が大切なの!

 出てってって叫びたいのに……

「マドカさんが味方になってくれるのなら、心強いです。一緒にがんばりましょう」
 勇者が何か言うと、胸がキュンキュンしちゃうのよ……

 ああああ、駄目!
 胸がしめつけられるように苦しい。
 どーしてこんなに、ときめいちゃうの。

 見とれるほどのハンサムじゃないのに!
 足が長くてカッコ良くって、大人で優しい、包容力にあふれるダーリンに比べたら、そこらのあんちゃんよ!

 なのに!
 ときめいちゃうの!
 何でも言う事を聞いてあげたくなっちゃうのよ!

「わかりました、勇者さま。アタシじゃ、お役に立てないと思いますが、精一杯がんばりますね」
 何、言ってるのよ、アタシの口。

「ありがとう」
 ニッコリと笑うその顔が、キラキラと輝いて見える……
 このまま何でも言うことを聞いて……
 召使いどころか、女奴隷にまで堕ちて、この軽そうな男のオモチャになっちゃいそう……

 アタシは勇者から視線をそらし、リビングに飾ってあるダーリンとのラブラブ写真を見つめた。
 結婚式。
 新婚旅行。
 結婚前のデート写真や、あたしの卒業式の写真もある。二人の愛のメモリー……

 ああああ、正孝さん……
 NY出張、まだ一週間もあるのよね……
 早く帰って来て

 でないと、アタシ……
 あなたのお留守によろめいちゃうわ……



「魔王戦当日を除く残り六十日で、あと六十八人を仲間にしなきゃいけないんです。仲間探しに協力していただけませんか?」

 アタシの口が勝手にYesと答えている。

 魔王が目覚めるのは、六十一日後……
 その日まで、あたしはこの人のいいなりなのかしら……


 助けて……
 正孝さん……
 おねーちゃん……
 おかあさーん……


* * * * *


『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き

●女性プロフィール(№032)

名前 サクライ マドカ
所属世界   英雄世界
種族     人間
職業     主婦・幼妻・新妻
特徴     新婚さん。
       旦那さんは『にゅーよーく』出張、
       一週間、帰って来ない。
       感情の起伏が激しい。
       英雄世界滞在中、オレらの面倒を
       みてくれるらしい。親切。
戦闘方法   不明
年齢     18歳。
容姿     黒髪・黒眼。
       小柄だけど胸が大きい。
       顔は子供、体は大人。
       伝説のフリルエプロン。
口癖    『アタシって、不幸!』
好きなもの  マサタカさん(旦那さん)
       平凡な生活
嫌いなもの  非日常
勇者に一言 『ようこそおいでくださいました、
       勇者さま。何でもお言いつけください。
       アタシにできる事なら何でもいたします』
挿絵(By みてみん)
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