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ハーレム100 作者:松宮星

精霊界

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精霊界から英雄世界へ

「勇者様、賢者様、みなさん!」
 精霊界から戻ったオレの目に、セリアが映る。泣き笑いのような……見たこともない表情をしている。

《おにーちゃん、おかえりー》
 実体化したオレに、白い幽霊ニーナが抱きついて来る。

 精霊界と通じている魔法陣を通って、オレに続き、お師匠様、ジョゼ、サラ、マリーちゃん、イザベルさんが実体化する。
 ここはオランジュ伯爵家に用意してもらったオレの部屋……
 もとの世界に還ってこられたんだ。

 オレは、キョロキョロと周囲を見渡した。
 部屋の隅々まで何度も何度も見直し……それからようやく安堵の息をついた。
 部屋に居るのは、ニーナとセリアだけだ。
 スケベ貴族はいない。
 帰国早々に、アレを見ないですんだ。
 良かった〜

《かわいいー!》
 ニーナがオレから離れ、サラのもとへとすっとんでゆく。魔術師の杖にローブ姿のサラは、左腕にぬいぐまを抱えてるんだ。
 抱っこさせて! と、ニーナはニコニコ笑顔でサラに頼んだ。

「ご無事で何よりです、みなさん」
「予定より帰還が遅れた。心配をかけたな」
 と、お師匠様が言うと、セリアは静かにかぶりを振った。
「いえ、必ず戻っていらっしゃると信じておりました。帰還が遅れたのも理由があってのことと、理解しております」
 セリアは、ツンと澄ましたいつもの顔に戻っている。心配……かけちゃったんだろうな、やっぱ。

「遅くなってごめんね、セリアさん。オレが闇界でちょっととまどってたんだ」
「そんな事だろうと思っておりました」
 む。
「勇者様お一人での旅でしたら、帰宅日を間違える等のうっかりミスに加え、大怪我・死亡等の最悪の事態を想定する必要がありました。しかし、賢者様がご一緒でしたので、何も案じておりませんでした」
 むぅ。
 そんなに頼りないのかよ、オレ。

「でも、頑張ったおかげで、ほら」
 オレは体を飾る宝石を見せた。
 胸元には、エメラルドのペンダントがある。風の精霊アウラさんとの契約の証だ。
 左右の胸にはブローチ。オニキスとホワイト・オパールで、闇の精霊ソワと光の精霊ルーチェさんとの契約の証。
 腰のイエロージェードの飾り付きのベルトには、土の精霊サブレが宿っている。
 袖をめくって左右の手首も見せた。左手首には雷の精霊エクレールのアメジストのブレスレットが、右手首には氷の精霊グラキエス様のラピスラズリのブレスレットがある。

 セリアは何故か不機嫌そうに眉をひそめ、オレから目をそむけた。
「六色の宝石ですか? 八大精霊の内の六精霊を仲間兼しもべにしたのですね?」

「いや、全部だよ。炎の精霊はサラのぬいぐるみの首のとこにいて」
 オレとセリアの視線がサラへと向く。
 ぬいぐるみは、サラからニーナへと移っていた。茶色いぬいぐるみを抱きしめてるニーナは、とろけそうな笑顔だ。
 サラは鼻の頭をちょっと赤くして、
「あのぬいぐるみ、炎の精霊なのよ。アナムって名前なの」
 と、慌てて説明した。かわいいもの好きとはいえ、サラも十七歳。ぬいぐま抱っこな魔術師という自分が、恥ずかしくなったようだ。
 アナムのボウタイのルビーに、オレの精霊ティーナが居る。

「マーイさん、出てきて」
 オレの命令を聞いて、すぐ側に水色のドレスの女性が現れる。
 セリアはぎょっとし、ニーナも驚いたように女性を見上げる。
 出現の仕方が唐突だし、髪の色も水色だ、人間じゃないのは一目瞭然。
 その上、黒い仮面をしてるのだもの。額に水色の宝石アクアマリンがはめこまれた黒の仮面は、穏やかな女性らしい顔だが。
「水の精霊マーイさん。普段はオレのそばの空気の水分に潜んでついてきてくれてる」

《すごい、すごい、すごーい!》
 ニーナがクマを抱っこしたまま、マーイさんへと走って行く。
《あたし、ニーナ。よろしくね》
 マーイさんは戸惑ったように、オレへと顔を向けてくる。オレが頷きを返すと、
《よろしく……水の精霊マーイです》
 と、小さな声で名乗っていた。
《なんで水色なの? あたしね、気がついたら白くなってたの。おねーさんは? ねーねー どーして仮面なの? 黒くてかっこいい。あたしね、前にカーニバルの仮面もってたの。ピエロの仮面でね……》
 ころころと話題が変わるニーナに、マーイさんはついていけなさそうだった。

「何故、あの二体の精霊との契約の証は、ご自分につけてらっしゃらないのです?」と、セリア。
 何故って、それは……
 なりゆき……?
 あ。
 いやいやいや。
 ンなこと言ったら、『ご自分の頭で思考し自ら行動を決める素地を培ってください』と怒られる。
「えっと……全部、身につけてたら、スリにあった時、困るだろ? 幻想世界の時みたいに溺れて、荷物を流しちゃうかもしれないし……だから、装飾品以外の子もいるんだ……」
 セリアが、ジーッとオレを見る。
 真実を見極めようとする、学者的なまなざしだ。
 その鋭い視線を浴びているうちに……どんどん居心地が悪くなっていった。
「すみません……嘘です。なりゆきで、そうなりました」
「そんなところでしょう」
 セリアは嘆息し、テーブルへと向かい、呼び鈴を鳴らした。従僕達が駆けて来る。

「伺いたいことは山ほどありますが、まずはご休憩なさいますよね? 湯あみの準備をさせましょうか?」
「大丈夫よ、セリアさん」
 うふふと笑いながらイザベルさんが、両手の指をセリアに見せた。
「私達、疲れてないし、旅の汚れもないわ。炎、水、風の精霊のおかげでお風呂は入り放題だったし、洗濯もしてもらえたの」
 セリアが目を見開いて、イザベルさんの八本の指を飾る八色の宝石を見つめる。
「それは……精霊との契約の証ですか?」
「ええ。風の精霊って透明になれるから便利なのよ。ヴァンに周囲を囲ってもらうと、外からは全く見えなくなるの。勇者様の目を気にせず、お風呂に入れたわ」
 覗きませんでしたよ、オレ……サラも居るのに、女性陣のお風呂なんて……
 もの凄くドキンドキンした時間で、覗きに行くなら手伝おうか? ってアウラさんにさんざんからかわれたけど。

「そうですか……あなたも八大精霊の主人となったのですか」
 セリアは、おもしろくなさそうに顔をしかめた。
「おめでとうございます。これで、一応の戦力になりますね。無能な占い師ではなく、精霊支配者が参戦してくださるのなら心強いです」
 それだけ言ってセリアはイザベルさんからツーンと顔をそむけ、従僕達に指示を出し始めた。

 召使がお茶を運んできてくれた。
 けど、来訪者はそれだけ。
 又、他の仲間達は屋敷に居ないようだ。

「みんなは?」

「ルネさんは、ご自宅です」
 そうだと思った。
「使いを出しましたから、多分、じきにいらっしゃると思います」
 来るのは空を飛んでひとっとびだけど、ノリノリで発明中だったら来ないんじゃないかな。

「アナベラさんとリーズは、遺跡探索の旅です」
 そうだよね。
「一度、伯爵邸に戻ったのですが」
 なにぃぃぃ?
「すぐに別の遺跡へと向かいました」
 何とぉぉぉ。
 くっ。
 すれ違いか……
 ぷるんぷるんの、ぷりんぷりん……会いたかったのに……
「古代文明の魔法剣と装飾品を持ち帰っています。ですが、どれも呪いがかかっているようで、装備できませんでした。マリーさん、呪が外せるか、後で見ていただけますか?」
「はい〜」
「ありがとうございます。アナベラさんの部屋に置いてありますので、後ほどお願いします」

「あら?」
 茶器を置き、サラがテーブルをさわさわと触る。
「テーブル、変わった……?」
 セリアがギクッて感じに、肩をすくませる。
「……わかります?」
「椅子も変えたのね。あれ? 部屋の壁紙も?」
 サラが、キョロキョロと辺りを見渡す。
 模様替えしたのか? オレには全然わかんないけど、サラの観察眼は商売人のオジさん譲りでなかなか鋭い。

《お部屋にねー ハトがいっぱい来たの》 
 ニーナがニコニコ笑って言う。クマを抱っこし、ジョゼの小鳥というか雷の精霊を左肩にとまらせ、右手で水の精霊マーイの服の袖を握ってる。
《ドラゴンのおねーちゃんが、呼んだんだよ。狩人のおねーちゃんに抱きつかれた時に》
 昨日も今日もドラゴンのおねーちゃん来ないんだ、また鳩をいっぱい呼びよせて欲しいのに、と。

「つまり……そういうことです」
 セリアが頭痛をこらえるかのように、額に手を当てた。
「カトリーヌさんの過剰な愛情表現のせいでパニックになったのでしょう、パメラさんが、鳩を数百羽、この部屋に呼び寄せたんです」
 襲われちゃったの……パメラさん……?
 セリアの視線が、部屋の隅の魔法絹布へと向く。真っ白なそれに汚れた形跡はないが。
「賢者様が魔法防御をかけておいてくださったんで、魔法絹布は無事でした。しかし、それ以外の物はすべて駄目になったので取り替えておきました」

「パメラさんは?」
「獣使い屋に籠っています。ですが、カトリーヌさんとの攻防戦になっているようで……多分、今日も。かなりな騒動になっています。このままでは……」
「パメラさんの貞操が危ない?」
「そうではなくて! いや、それもそうなのですが、このままではいずれ、お二人は騒乱罪で捕縛されてしまうと思うのです。二人は引き離すべきです」

 セリアがメガネをかけ直し、真面目な顔でお師匠様と向き直った。
「パメラさんかカトリーヌさん、どちらかを次の世界へ伴っていただけませんか?」

 お師匠様が無表情のまま、セリアへと視線を返す。
「魔王が目覚めるのは、六十二日後だ。魔王戦当日を除く残り六十一日で、ジャンは六十九人を仲間としなければならない」
 真剣に仲間探しをしなければいけない、異世界にはふさわしい仲間を伴いたいと、お師匠様は続けて言う。
「存じております。そこで、提案がございます。現在の全ての事情を鑑み千慮いたしました。次に勇者様の赴く世界は『英雄世界』で、いかがでしょう?」

 英雄世界か……なるほど……

「英雄世界は、私も候補の一つとして考えていた」
 と、お師匠様が言うと、我が意を得たり!とばかりにセリアが顔を輝かせる。
「英雄世界は、キングオブ勇者の地です! 優秀な人材の宝庫です! 魔王に100万以上のダメージを与えられる方もゴロゴロしている事でしょう!」
 お師匠様が思案するように、うつむく。

「あの……セリアさん、英雄世界って、どんな所なんでしょう?」
 サラがためらいがちに質問する。幻想世界や精霊界に比べると、英雄世界はイメージがわきづらい。ピンとこないんだろう。
「文字通りの世界です!」
 両手を握りしめ、セリアがうっとりと虚空を見上げる。
「異世界から来た勇者様は七十二人。その約二割にあたる十五人もの勇者様の出身世界なのです」
「十五人も……」
「みなさん、個性的で、とてもお強かったんですよ。七代目勇者様をはじめ、五十一代目勇者様、六十六代目勇者様とか。個人的には、英雄世界で教師をなさっていた八十四代目勇者様を高く評価しておりまして……」
 サラの馬鹿……
 勇者おたくの萌えツボを刺激しちゃって。セリア、止まらないじゃないか。
 どの勇者のどんな所が素晴らしかったか、英雄世界のどんな所が素晴らしいのか延々と語り続ける。
「英雄世界には、魔族もモンスターも盗賊も存在しません。法が発達した、治安の良い理想郷なのです。科学技術が発達した文明世界でもあり、人口がたいへん多いのも特徴です。女性との出会いにも困らないでしょう」

「そうだな……」
 お師匠様が顔をあげる。
「精霊界で長い時間を費やしてしまった今、仲間を増やしやすい世界に赴くべきだ。英雄世界に行こう」
「それが正しい選択だと思います!」
 セリアが、キラキラと目を輝かせる。
「英雄世界……勇者様達の生まれ故郷……そこに赴けるなんて、百一代目勇者様はお幸せですね……」

 お師匠様が淡々と言う。
「英雄世界に赴くメンバーは、ジャンと私とサラ……それ以外は誰でもいい。あそこならば、誰を伴っても構わない。どうにかなる」
 私が! と、手をあげたそうにうずうずしているセリア。
 不安そうなジョゼ。
 ほんわかした顔で、紅茶を飲んでいるマリーちゃん。
 イザベルさんはうふふと笑って、指を組み合わせた。八本の指に、炎、水、風、土、氷、雷、光、闇の精霊を封じた指輪が輝いている。
「私はこちらでしたい事がございます。メンバーから外してください」
「わかった」と、お師匠様は頷いた。

「英雄世界は賑やかな地だ。カトリーヌを伴おう」
 カトリーヌか……嬉しくないなあ。
 けど、パメラさんは人間が苦手だし、しょうがないか。

「……わ、私、伴っていただけませんか?」
 声を震わせながら、ジョゼが言う。
「私、まだまだ未熟ですが……お兄さまやみなさんのお役に立ちたいんです……あちらの世界が平和でも護衛役がいた方が……」
 いつになく積極的なジョゼに対し、お師匠様が静かに頷きを返した。
「そうだな。あの世界は格闘も盛んだ。向こうで学べる機会があるかもしれん。共に来るか?」
 義妹の顔が、パーッと輝く。
「はい! 是非!」

「残る一人は……」
 スッと手が上がる。
 セリアではない。
 全員の注目を浴びながら、手をあげた者は元気よく言った。
《だれでもいいんでしょ? なら、あたし!》

 お師匠様は微かに眉をしかめ、白い幽霊ニーナを見つめた。
「しかし、おまえは……」
《あたしだって、おにーちゃんの仲間だよ。つれてってもらう、ケンリあるもん》
 権利なんて難しい言葉、よく知ってたなあ。セリアの言葉でも聞きかじったか?
《あたしも、旅したい》
 ぷ〜とニーナが頬をふくらませる。
《アンヌのおうちに来られて、あたし、幸せだけど……お外に行きたいの。いろんな所を見たい。ずっと同じ所にいるの、つまんない》
 胸がズキンと痛んだ。
 ニーナは、友達のアンヌを五十年以上も待っていたのだ。廃墟となった館で、たった一人で。
 あんな寂しい思いは、二度とさせたくない。
 だけど、ニーナは幽霊だ。死者を異世界に連れて行けるのだろうか?

「大丈夫、ですよ〜」
 のんびりとした声で、マリーちゃんが言う。
「ニーナちゃんは、勇者様の、仲間枠へ、強制加入、させられて、いますから〜 勇者様に、縛りつけ、られて、いるので、異世界にも、共に、赴けます〜」

「ジャンと共に英雄世界へ行くか、ニーナ?」
《行く!》
 お師匠様が、目を少し細める。口元が笑っているような、そんな感じが少しだけする。
「では、説得だ。オランジュ伯爵アンヌ様に安全な旅である事を伝え、旅の許可をもらって来い」
《わかった》
 ニーナの姿が、空気に溶け込むようにスーッと消えた。茶色のクマのぬいぐるみと紫の小鳥だけが、椅子に残った。ニーナの姿はどこにもない。
 瞬間移動?
 移動魔法?
 幽霊だからか?
 わかんないけど、すごい!

「セリア、すまないが、ひき続き魔王戦への準備を進めてくれるか?」
「承知いたしました……」
 セリアはしょんぼりとした顔だ。声も、しくしくと泣き出しそうな感じ。ちょっとかわいそうかも。

「勇者様……お願いがございます」
「なに?」
 英雄世界で何か買って来てほしい? それとも、誰かのサインが欲しいの?

「……『勇者の書』を拝見させてください」
 う!
 きた!

「私の仕事は、情報を分析し、勝率を計算し、魔王戦までに最善の計画を立てる事です。物見遊山気分で旅などしている暇はありません。キッチリなすべき事をなします」
 セリアが、メガネのフレームを押し上げながら言う。
「精霊界で得た新たな仲間の事を、勇者様がどのように記されたのか興味がございます」

 ふふふ。
『きちんと調査すべき事はしてきてください』ってセリアのリクエスト通りにしたよ!
 戦闘能力とか、戦法とか、留意すべき特徴、種族特性、ジョブの説明とか、きっちり書いたんだから!

 しかし……
 セリアはオレの『勇者の書』を閉じると、大きなため息を漏らした。
「予想通りの結果です……怒る気力もわきませんね」
 セリアのこみかめには、青筋が浮かんでいた。
「勇者様……八大精霊を全て呼び出していただけますか? 彼女達と直接話がしたいのです」
 いいけど……
「オレの書いたデータじゃ、役に立たない?」

 セリアがキッ! と、オレを睨む。
「役に立つわけないでしょ!」
『勇者の書』の裏表紙を右手でパチンと軽く叩き、セリアが怒鳴る。
「『戦法 土でスゴズゴドドドーン』とか! ふざけてます!」
 別にふざけてなんか。
「真面目にやってるのでしたら、もっと性質(たち)が悪い! あなた幾つです? 十八歳だと思ってましたが、私の記憶違いでしたか? 十歳? いいえ、五歳ですね、あなたの頭の中は! だいたいですね、あなた……」

 遠雷が轟いた。
 と、思った瞬間には、鼓膜が破れそうな音になっていた。
 窓ガラスがビリビリと揺れる。
 オレも仲間達も、両耳を両手で覆った。

 ルネさんが来たんだ。
 ロボットアーマーのロケットエンジン音は、あいかわらずやかましい。
 ごぉおんごぉおんという騒々しい音が、少し遠のき、徐々に小さくなってゆく。
 庭の芝生に着地したんだろう。
「いらっしゃるだろうと思ってました」
 両耳を塞ぎながら、セリアが叫ぶ。
「勇者様達が次に赴く地を早く知りたい、『ルネ でらっくすⅢ』の準備をしなくてはとおっしゃってたので」
 次の世界にもアレ、持たせてくれる気なのか。今度のは爆発しないといいけど。

 ルネさんの登場のおかげで、セリアのお説教は途中で終わった。助かった……

 オレがルネさんに『ルネ でらっくすⅡ』の感想を伝えている間、セリアはオレの呼びだした精霊達に質問をしてはメモをとっていた。





 翌朝、仲間達はオレの部屋に集まった。
 旅立つ者はみんな、精霊界の時よりもう〜んと荷物が少ない。
 英雄界では、食料が現地調達できるんだ。非常食はお師匠様の異次元倉庫にちょっぴりあるだけだ。

「しばらくお別れになるのに、パメラったら、お見送りにも来てくれないなんて」
 絶対領域持ちの狩人が、涙を拭くような仕草をする。
「内気な照れ屋さんで、ほぉ〜んと困っちゃうわ。もっと素直になれるよう、あの無粋なきぐるみ、早く剥いじゃいましょ。裸な気持ちが表現できるよう、体から裸にしてあげなくっちゃ」
 そういう事を考えて口に出して実行しようとするから、パメラさんから引き離されるんだよ、カトリーヌ。

 ニーナはご機嫌だ。ぴょんぴょん飛び跳ね、早く行こうとオレにしがみつく。
 そんな白い幽霊を、マリーちゃんとイザベルさんがニコニコ笑って見つめている。笑顔の似合う二人とも、しばらくお別れか。

 ジョゼから話を聞いた。ニーナに押し切られ異世界行きを許可したものの、アンヌばあさんは心配のあまりめまいを起こしてぶっ倒れたらしい。
『おばあ様が……ニーナちゃんのことを……守ってあげてって、私に……それから、私のことも……いつも……無事な旅を祈ってくださってるみたいで……』
 はにかむように、ジョゼは笑った。
『お兄さまと旅を始めてから……おばあ様といろいろお話ができるようになったんです……レイちゃんのことも、おばあ様、お友達ができて良かったって……』

 ジョゼは今日も、肩に紫の小鳥をとまらせている。
 サラも、左腕に茶色のぬいぐるみを抱えている。

 何か……すっきりしないんだよな。
 何でだろ?

「勇者様、困ったなーという時にはこれです!」
 ルネさんが、オレの手にかなりデカい革袋を押しつける。
「私の発明品を詰めた、その名も『ルネ でらっくすⅢ』! 行き先が英雄世界である事を考慮した、改良版です! あらゆる危機に対処できる、発明品を詰めておきました! 旅のお伴にどうぞ!」
 ついでに小冊子も渡される。使用感想を書くページが、全アイテム分ある。
「アンケートです! 今後の発明に生かします! 要望とか気づいた事があったら、遠慮は無用です! じゃんじゃん書いちゃってください!」
 要望……暴走や爆発はしないでほしい。とかかな?

「それでは、みなさん、くれぐれもよろしくお願いします。勇者様に代わって、データをしっかり収集してきてくださいね」
 セリアが、オレの身を飾る宝石達に話しかける。
『過剰な期待をかけて申しわけありませんでした。もう二度と、能力に欠ける事をせよとは要求いたしません』
 と、セリアはオレに言った。情報収集は、オレの精霊達に依頼したのだそうだ。
 めんどくさい事をしなくても良くなったのは嬉しいんだけど……ちょっと寂しい。


 お師匠様が、七代目勇者の書を物質転送で、呼び寄せる。
 英雄世界から最初にオレらの世界にやって来た勇者が、七代目勇者なんだ。
 その勇者の書を用い、英雄界に行くのだ。

「それほど長い滞在にはならないはずだ。一週間を目安と考えてくれ」と、お師匠様。

「一週間が目安ですね、了解です。お気をつけて」
「みなさまに、神の、ご加護が、あります、ように〜」
「うふふ。よりよい良い星がみなさんの頭上に輝くよう、お祈りしておりますわ」
「私の発明品はどれも最高です。使ってみてくださいねー」

 床に広がった魔法絹布の一番右端には幻想世界への魔法陣があり、その隣には精霊界への魔法陣が刻まれている。
 その左隣に、お師匠様は七代目勇者の書を置いた。

「いずれ、おまえは賢者として、次世の勇者を異界に導くのだ。今のうちにその法をしっかり覚えておけ。私の呪文の後に続け」
 と、言いつつ、お師匠様はオレにメモ用紙を渡してくれる。
 英雄世界へ行く為と還る時の為の呪文だ。『勇者の書』に書き写した後、メモは焼却するようにとの添え書きもある。

 いつも、いろいろ、すみません、お師匠様……
 頼りない勇者は卒業したいなあ……


 魔王が目覚めるのは、六十一日後だ。


 そんなわけで、お師匠様が魔法で開いた魔法陣を通って、オレは仲間達と共に英雄世界へと旅立って行った。
+注意+
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