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ハーレム100 作者:松宮星

精霊界

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闇の中でひとりぼっち【ソワ】(※)

 オレは、闇の中をずっと歩いていた。 

 ニーナと初めて会った、デュラフォア園の領主の館のように真っ暗だ。
 それでも、あそこは木の床を踏みしめる感覚があった。
 ノワールが床面を砕く音も、聞こえた。

 けれども、ここは何もないのだ。
 靴底が踏みしめているものが何なのかすらわからない。やわらかいのか、かたいのかすらも。

 自分の体まで、不確かに感じる。
 まっすぐに歩いているつもりだけれどもよれてる気がするし、平らな所を歩いてるんだか昇っているんだか下ってるんだかもわかんない。

「ティーナ、マーイさん、アウラさん、サブレ、グラキエス様、エクレール ルーチェさん」
 しもべとなった精霊達に呼びかけたが、答えがない。
 手探りで自分に触れてみる。契約の証の宝石は身に付けてはいるようだが、精霊達はまったく反応しない。

 オレは周囲をきょろきょろと見渡した。
 人の気配はまったくない。
 オレはこの闇の中で、一人なのだろうか……?

 誰もいないんだろうか……?

「お師匠様」
 答えが返る事を期待したんじゃない。
 不安になってきたんで、その名にすがったんだ。
 八才の時に今世の勇者と見出されてから、オレの生活はお師匠様を中心に回ってきた。
 山奥の賢者の館で、オレはずっとお師匠様と二人っきりだったんだ。
 一年中、昼も夜も……
 オレにはお師匠様しか居なかった。

 ジャン……と、お師匠様の声がした気がした。
 闇の中にお師匠様の姿が、浮かび上がる。

 綺麗な白銀の髪、すみれ色の瞳の美貌、白銀のローブ。
 この奇妙な闇の世界で、そこだけが輝いている気がした。

「お師匠様!」
 安堵の息が漏れた。
 お師匠様が来てくれたんなら、大丈夫だ。
 助かったんだ、オレ。

 オレが抱きつこうとすると、お師匠様はオレに対し微笑みかけてきた。頬を染め、にっこりと目尻と頬を緩ませて。
 満面の笑顔をつくったのだ。

 オレの足は止まった。

「誰……?」

 お師匠様は笑わない。
 たまに微笑を口元に浮かべているような……そんな表情をしてくれる事がある。
 けど、どんな時も、ほとんど顔の筋肉を動かさない。
 悲しくても嬉しくても、無表情なんだ。

「君は……お師匠様じゃない」

 お師匠様にそっくりな子が、瞳を見開き、それから悲しそうに瞼を閉じた。

 再び周囲は、闇に閉ざされる。

「君は誰? 何でお師匠様の姿をとったの?」
 答えは返らない。

 お師匠様のそっくりさんが消えた方向に向かって、歩いてみた。
 真っ暗で何も見えない。人の気配もない。

 ふっと、闇の中から人が浮かび上がる。

 おにいさま……
 舌っ足らずな声がした。

 オレの前に、ちっちゃなジョゼがいた。
 お嬢様な今の外見とはまったく違う、昔のジョゼだ。
 オレを見あげるダークブラウンの瞳は、つぶらだ、涙でうるうるとうるんでいる。
 黒髪は男の子のように短いし、着ているのも男児用のシャツとズボンだ。オレと一緒に庭や野原を駆けまわっていた頃のジョゼだ。
『おおきくなったら、ジャンおにいさまの、およめさんになる……』が口癖の、甘えん坊だった。
 オレの後をチョコチョコついて歩き、オレのする事は何でもやりたがった。木登りも、泥遊びも、剣士ごっこも、格闘ごっこも……いつも一緒に、泥だらけになって遊んでいた。

 ジョゼがすがるように、オレを見上げる。
 子犬みたいなその表情は、ジョゼそのものだったけど……

「君は誰……?」
 目の前の子は、ジョゼじゃない。
 ジョゼは十六歳になったんだ。父さんとベルナ母さんが亡くなった後、アンヌばあさんにひきとられ伯爵令嬢として育てられたんだ。
「さっきお師匠様になってた子? それとも違う子? 何でジョゼに変化してるの?」
 ジョゼにそっくりな子が、くしゃっと顔を歪め、それから悲しそうに瞼を閉じた。

 そして、又、周囲は闇に包まれる。

「オレと話したいの? 変化しなくていいよ。姿を見せて」

 ジャン……
 よく知っている声がした。

 オレの目の前に、サラが現れる。
 ストロベリーブロンドの髪に、大きな緑の瞳、鼻はかわいらしく、頬はふっくらとし、可憐な唇はピンク色だ。
 サラは、やけにかわいらしい格好をしていた。薔薇の飾りのついた、ふわふわのレースのドレス。髪と同じ色だ。ジョゼやシャルロットちゃんが着そうなデザインだ。
 サラは黙っていれば、美少女なんだ。
 暴れなきゃ、可愛いんだ。
 オレはよく知っている。

「変化しなくていいって言ったのに……」
 オレの言葉を聞いて、サラのそっくりさんが、鼻のあたりを赤くする。本物と一緒だ。

《この格好をしては駄目?》
 サラのそっくりさんが、鼻のあたりを赤くしたまま尋ねる。
《あなたが喜ぶと思ったの。もっと装えばいいのにって思ってたでしょ?》

 そんな事、思ってたっけ?
 サラはいつも、黒の魔術師のローブ姿だ。魔術師として勇者仲間になったから。
 別に不満はなかったけど、たまに昔の姿を思い出した。三つ編みのおさげ髪で、裾の短いアンダードレスをはいていた。その格好で木登りもチャンバラごっこにも参加する男勝りな奴だった。

《もっと色っぽい方がいい? セクシーランジェリーにする?》
 いや、そういう事じゃなくて。

《それとも胸? もっともっと大きくする? あなたの想像通りペッタンコにしといたけど、巨乳にも》
 いやいやいやいや! その話題はやめて!
 ペッタンコとか巨乳とか! 本人に聞かれたら、オレが殴られるから!

《怒ったの……? あなたの大事な人の姿を勝手にとったから……》

 大事な人……
 お師匠様に、ジョゼに、サラ。
 うん、確かに大事な人だ。

《アタシ、何にでもなれる。あなたの大好きな美人達と同じ姿にもなれるし、いろんな人をかけあわせた姿にもなれる。望みを言って、望みを叶えるから、アタシと……》
「オレがなってほしいのは君だよ」
 オレはサラのそっくりさんに、笑いかけた。

「オレの知ってる誰かじゃなくって、君に会いたい。デフォルトの人型があったら、それで。なければ、動物でも植物でも球でも、好きな姿になって」

 サラのそっくりさんが、オレを悲しそうに見つめる。
《あなた、がっかりするわ》
 がっかりするかもしれない。その可能性は否定しない。
 水の精霊マーイさんとの事が、教訓となっている。
 心が読める精霊に嘘はつけない。
 素顔を見たらおかしく思うかもしれない、幻滅するかもしれない。
 でも、借り物じゃない君と話せる方が嬉しいんだ。

 オレがそう思うと、サラのそっくりさんは瞼を閉じた。

 じきに……
 闇の中から闇に溶け込むような色の少女が現れた。
 黒い髪、黒い肌、ジョゼによく似たちょっと涙をたたえたようなうるんだ瞳。ほっそりとしていて、小柄だ。
《がっかりした?》
 ンなことはない。かわいい顔してると思う。

《かわいい?》
 パァッと女の子の顔が明るくなる。
《本当?》
 本当。

《アタシ……闇の精霊だよ。それでも、かわいい……?》
 かわいいよ。

 女の子が、ますますニコーッと笑う。
 どんどんかわいい顔になる。

《うれしい……アタシね……ずっと夢見てたの……》
 クスンと女の子が鼻を鳴らす。

《優しい人のものになりたいって》
 ん?

《アタシ、闇の精霊だもん。闇の精霊を欲しがる異世界人って……暗黒神官とかネクロマンサーとか、こわい人ばっかで……精霊が強いか弱いかしか見てくれなくって……》
 女の子がオレを見つめる。
 期待のこもったような、それでいて何処か傷ついたような、不安そうな顔で。
《お願いがあるの》
 いいよ、オレにできる事なら。

《アタシに微笑みかけて……》
 え?

《頭を撫でて……》

 それだけ言って女の子は黙ってしまう。

 たったそれだけのことが願いなの?

 女の子は頷いた。
《この姿の時に、してもらった事がないの……》
 誰もしてくれなかった?
《うん。生まれてから三百年経つけど、誰も……》
 何で?

《異世界人はみんな、邪悪な闇を嫌うもん……見るのも嫌、触れるのなんて絶対に嫌だって……》 


 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……


 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。

《あと六十九〜 おっけぇ?》
 と、内側から神様の声がした。


 微笑みの方は、うまくいかなかった。涙がでてきちゃったから。
 けど、オレが泣き笑いを浮かべると、女の子はポッと頬を染めて喜んだ。

 頭も撫でた。触感は髪の毛じゃない。ねちゃっというかねばって感じだったけど、撫で撫でしたけだ。
 最初こそ違和感があったけど、泥遊びしてるようなもの。触り心地が悪いわけじゃない。むしろ、このさわり心地、面白いよ。
 女の子がえへへと笑い、頬を更に赤くする。

 何つーか、もう……
 いろんな事に腹が立った。
 こんだけの事、どーして誰もやったげなかったんだよ。
 こんなかわいい子なのに。

《アタシ、ソワ》
「オレ、ジャン」
《知ってる》
 あ、そうか、頭の中を読めるんだもんね。

 オレが笑いかける度、撫で撫でする度、女の子は頬を染めて喜んだ。
《守ってあげるね、ジャン……他の闇にあなたを呑みこませない。魔王なんか、アタシが倒したげる》 
「ありがとう」
 頼もしい味方を得たようだ。
 オレはソワの頭を撫で撫でしてあげた。





「目が覚めたな」
 覚めきらぬ目に、お師匠様の美貌がにじんで見えた。
 天井が黒い。全てが黒く染まった、闇の神殿にいるんだ。

 ぼんやりと思いだす。
 オレは夢を見ていたんだ、と。

 闇の精霊との交渉は、夢の中で行う。
 精霊支配者は、闇の神殿の導き手が見せる夢の中に沈み、黒闇の中を歩く。
 全ての夢は闇界に通じており、精霊支配者に惹かれた精霊が闇の中を訪れ魂で語り合う。
 そこで意気投合できてから初めて、現実世界で契約交渉に入るのだ。

 お師匠様のすぐ横には、涙ぐんだジョゼと、鼻の頭を赤くしたサラも居た。二人が心配するほどの時間、オレ、眠り続けてたのか。
 それに、闇の精霊ソワもいた。
 ソワが弱々しく微笑みかけたてきたんで、笑い返した。
 それだけで、ほっぺが赤く染まった。

 微笑みや撫で撫で以上のことも教えてあげたい……一緒にやってゆきたい……そう思った。


 三日眠ってたようで、予定を一日オーバーしていた。
「起こす直前に、おまえが闇の精霊と接触したと導き手が教えてくれたのでな、様子を見ていた。あと半日経っても起きぬようなら、強制的に起こして精霊界を去る予定だった」
 ぎりぎりのとこで、ソワを仲間にできたようだ。良かった……

 イザベルさんも闇の精霊を求め、オレ同様眠りについた。が、たった数時間で交渉がまとまって起きたそうだ。羨ましい……
 イザベルさんの右の二の指には、闇の精霊『ニュイ』を封じた黒真珠の指輪が輝いていた。
 左右の指に八種の指輪。イザベルさんは八大精霊全ての支配者となったのだ。

 イザベルさんから、オニキスのブローチを貰った。
「オニキスは、冷静さ・調和・目的意識・集中力を助けてくれるの。欲望に惑わされない意志の強さと、心の柔軟さを与えてくれるわ」
 調和の宝石だって、友達がいっぱいできるといいね。そう話しかけながら、オニキスのブローチをもってソワと契約を結んだ。

「言う必要ないだろうけど、一応、言っとく。ソワと仲良くしてね」
 独り言のようにオレがそう言うと、
《言われなくとも》と、炎の精霊ティーナがすかさず答えた。
《よろしくね、ソワさん……》と、水の精霊マーイさんがソワに挨拶をする。みんなから次々に挨拶をされ、ソワははにかんでいた。でも、とても嬉しそうだった。
《すごいじゃない、おにーさん、八大精霊全部を支配したのねー》無理だと思ってたのにと、風の精霊アウラさんがケラケラ笑う。
《さすがです、ご主人様》と、オレを褒めたのは土の精霊サブレ。もっともっとご主人様度をあげましょうね、乗馬鞭とか持ち歩いてみません? とか言いだすし。
(わたくし)が仕えてさしあげているのです、それぐらいできて当然ですわ》と、氷の精霊グラキエス様がホホホと高笑いをする。
《ね、ね、ね、次、何処行くの? キミの世界の後よ。あたし、機械文明がいいなー》と、雷の精霊エクレール。次行くところは、まだ未定。
《ファッション・ジャンルが発達した世界が良いですよ。綺麗な女の人が多ければ、萌えやすいです》と、光の精霊ルーチェさん。綺麗なだけじゃなくって、強くなくっちゃ駄目なんです。

 精霊達はオレのしもべでもあるんで、オレとばっかつきあいがちだ。
 けど、魔王を倒す仲間なんだし、サラ達とももっと仲良くやっていけるといいんだけどなあ。

《これから先、普段、あたし達は実体化しないわ。おにーさんの私生活を盗み見たりもしない。あたし達は居ないものとして扱って》と、アウラさん。
 連れ歩いちゃ駄目なの? って思うと、
《常に精霊を出したままになさる気? 精霊を見せびらかして歩くなんて、三流支配者の所業ですわ。下品でしてよ》
 グラキエス様に叱られてしまった。
《契約の証の石は、あなたと私達の絆です。私達は何処で何をしていてもあなたから呼びかけられれば、瞬く間に駆けつけますから》
 ルーチェさんが、にっこりと笑う。
 しもべ経験者の三人がそうしろって言うなら、従おう。

《あの……私はどうすれば、良いのでしょう?》黒い仮面をつけたマーイさんが、三人に尋ねる。彼女の契約の石は仮面にくっついてるんで、オレが持ってないんだ。
《あんたは特別待遇だもの。出っぱなしでいいわよ》と、アウラさんが短い髪をかき上げ、ニヤニヤ笑う。
《ただし、人の目に触れる形で存在するのはおよしなさい。品が無い方は、私、付き合いたくございませんの。今まで通り空気中の水分に潜んでいなさい》と、グラキエス様。
《そして、主人の危機には、いち早く動くのです。常に主人と共にあるあなたは、護衛に最適です。そうは思いませんか?》と、ルーチェさん。
 アウラさん、グラキエス様、ルーチェさんを順に見つめてから、マーイさんはオレへと顔を向けた。
「護衛してもらえるんなら、これからの旅は安心だよ」と、オレは言った。心の中でもそう思った。
《ありがとうございます……命に代えても必ずご主人様をお守りします》
 マーイさんは、オレへとお辞儀をした。
《プライバシーを守りたい時はおっしゃってください。その時は、何も見ず、聞かないようにします。それ以外の時は目に触れぬ形で常にお側にいて、ご主人様をお守りします……》


 ソワとの契約が完了したんで、帰還となった。

 お師匠様が、『勇者の書 39――カガミ マサタカ』の表紙を黒い床に置き、呪文を詠唱する。
 オレにも唱えろって言うから、後に続いた。
 前にアンチョコをもらってるから、呪文は覚えている。


 魔王が目覚めるのは、六十二日後だ。


 オレらは精霊界に二十一日滞在した。
 八人の仲間を得る為に、百日の期限の約五分の一を使ってしまったわけだ。

 でも、後悔はない。
 みんな、大切な仲間だ。
 しもべ契約を結んでくれた彼女達は、これから魔王戦までずっとオレと共に居てくれる。オレを支えてくれるんだ。

 一日一人みたいに、仲間探しをノルマ的にとらえる事はもうしない。
 だが、自覚だけはしとかなきゃな。魔王戦当日を除く残り六十一日で、オレは六十九人を仲間にしなきゃいけない。
 次の世界は女性との出逢いが多い所に行きたいものだ。
 そんな事を思いながら、オレは……
 精霊界に別れを告げ、お師匠様達と共に、もとの世界へと還っていった……


* * * * *


『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き

●女性プロフィール(№031)

名前 ソワ
所属世界   精霊界内の闇界
種族     闇の精霊
職業     闇の精霊
戦闘能力   高いに違いない。
戦法     闇で……まっくろくろ?
留意すべき点 光に弱い
職業の説明  闇を司る
特徴     自分に優しくしてくれる主人を求めていた。
       といっても、微笑みかけて欲しい、
       撫でて欲しいって、ささやかな願い。
       しもべは初体験。
年齢     三百歳。
容姿     本体は闇。いろんな姿に変化できる。
       人型になると、黒髪黒い肌の女の子。
       外見年齢は十四、五ぐらい。
口癖    『微笑みかけて』
      『頭を撫でて』
好きなもの  優しくしてもらうこと。
嫌いなもの  邪悪な闇と嫌われること。
勇者に一言 『守ってあげるね、ジャン』

挿絵(By みてみん)
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