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ハーレム100 作者:松宮星

精霊界

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跪きなさい!    【グラキエス】(※)

 土界が土だらけの世界だったように、氷界は氷の世界だ。
 濁りも泡もない透明な氷しか、存在していない。

 氷の神殿とその周囲は、氷壁に囲まれている。大きな氷塊の中を直方体に切り取りって、埋め込こんだ感じだ。
 その氷の神殿は、全面が闘技場だ。
 屋根も柱もなく、あるのは水色に淡く発光している床だけなのだ。

 オレと仲間達は、氷の精霊に囲まれていた。
 氷のゴーレムや氷の鳥に変化しているモノもいる。
 しかし、そうでないモノも多い。巨大な氷の結晶、つらら、雪雲などもおり、合体・分裂・増殖を繰り返す彼等の数は正確にはわからなかった。

《ハジメ》

 何処からともなく声が響く。

 それを合図に四方から雪嵐が生まれ、つららの雨がオレらへと降り注ぐ。

瓏ナル(ディフ)幽冥ヨリ(ェンス・)疾ク奉(ガード)リシ麗虹鎧・バリア
 パーティ全体が、光の防御壁に守られる。生き物を凍てつかせる冷風も鋭いつららも、全てが目に見えない結界に阻まれ四散してゆく。
 マリーちゃんの呪文はあいかわらずナニだけど、完璧に攻撃を防いでいる。

「ファイアァァー!」
 魔術師の杖で勇ましく空を切り、サラが気合をこめて炎を生み出す。何もない空より生まれた猛火が炎の蛇のようにはねまわり、遠方の氷の精霊達を呑みこんでゆく。
 敵や味方の攻撃力がわかる勇者(アイ)が、4~6万ダメージと、けっこう豪快な数字を拾う。普通の魔術師なみに強い。まあ、氷の精霊に炎は弱点ではあるが。
 今、サラの体内には、しもべ『アナム』が宿っている。魔術師としてはまだまだ半人前なサラも、アナムを魔力そのものとして使えるので、かなり威力の高い攻撃ができるのだ。

「『フラム』、ジョゼちゃんの守護を」
 左の小指に接吻し、イザベルさんが妖しく笑う。イザベルさんのしもべが、冷風から守るべくジョゼの全身を包み込む。
 イザベルさんの左の四指には、炎水風土の精霊を封じた指輪がある。指輪を通してしもべに命令ができるのだ。

 ジョゼが、マリーちゃんの結界外に飛び出す。
 すぐ側に迫ってきたモノを、見上げながら。
 氷塊がよせ集まって生まれた、ゴーレム。各部位の先端がつららのように尖った、恐ろしげな外見だ。目も鼻も口もない。
 高さも幅も人間の倍はありそうな氷のゴーレムがジョゼを狙い、巨大な両手を振り下ろす。
 だが、ジョゼの方が圧倒的に早かった。叩きつけようとする拳を見切って避け、側面にふわりと跳躍したのだ。
 ジョゼの回し蹴りをくらい、ゴーレムの巨体が沈む。その右膝から下は、粉々に砕けていた。
 オレの勇者(アイ)が捉えた数字は、9万8374ダメージ。

 強ぇぇ。

 オレは仲間達の戦いっぷりを見ながら……
 にわか精霊支配者として、しもべ達に命令をしていた。

「ティーナ、炎になって暴れて。……指示しろ? んじゃ、西。え? そっちはアナムの炎が焼いてる? んじゃ、東。マーイさんは……え? 相性が良くない? あれ、苦手なの炎じゃなかった? 凍らされて、砕かれる? あ、そっか。じゃ、休み。アウラさんも雪で風が乱されるんだよね……サブレは……う〜ん、地割れや地震じゃ宙に浮いてる精霊にはきかないし……」

 しもべ達に何をさせればいいのか、わからない。
 氷には炎が有効。『勇者の書 39――カガミ マサタカ』に、そう書いてあった。それはわかってるんだが……ティーナに指示を出して、後はボーッと見てるだけってのも変だ。

 お師匠さまはオレのすぐ側にたたずんでいた。賢者は勇者の助言者って立場なんで、戦闘はしない。見守っているだけだ。

《ソコマデ》

 オレと仲間達、対戦相手、そしておそらく観客にまで、審判の声が響き渡る。

 勇者一行と氷の精霊の戦いの初戦は、オレ達の判定勝ちとなった。





 精霊界の八大精霊は、大きく分けると二つに分かれる。
 一つは、四元素精霊。炎水風土がそれにあたり、万物の根源を支配する存在だ。 
 もう一つは、四事象精霊。氷雷光闇がそれにあたる。四元素精霊を含有する、より超自然的な存在だ。

 四元素精霊を下位、四事象精霊を上位と分類する世界もある。
 八大精霊を全て仲間とした三十九代目勇者に言わせると、『司るものが異なるのみ。同位である』だそうだが。

 ただ、両者は、ご主人様選びのスタンスが、大きく違う。
 四元素精霊は、選出基準が非常にゆるい。ぶっちゃけ、誰でもいいに近い。異世界にホームスティしに行きたいもんだから、自分らの世界に来た奴らから適当に選んでしまう。
 しかし、四事象精霊は、自分を安売りしない。自分が認めた相手でなければ、主人に仰がないのだ。

 氷の精霊をしもべとしたかったら、氷の神殿に戦闘申し込みをするしかない。
 んで、氷の神殿がマッチメイクした対戦相手と格好良く戦う。絶対、負けちゃいけないし、無様な姿を見せてもいけない。
 戦闘終了後に、対戦相手や観客の中からしもべ希望者を募るからだ。


 戦闘終了後、十数体の精霊がしもべ希望としてオレらの前に現れた。
 しかし、オレめあての精霊は居らず、キュンキュンできる外見の者も居なかった……


 希望する限り、氷の精霊と何度でも戦える。
 現状、連戦はできないけど。
 再戦を願ったオレ達は、闘技場の階下に転移させられた。宿泊場所兼控室に戻されたんだ。人間、獣人、鳥人、リザードマンが転移して来たオレらを見る。包帯を巻いている奴らも多い
 地下は天井も床も柱も壁も全てが白みがかった水色で、全てが淡く発光していた。他の神殿と造りは似ていたが、端に水色の壁があり字が浮かんでいるのが今までと違う。

 東西南北、どの壁にも同じ文字列が記されている。
 横書きのPT名だ。
 縦にずらりと並んだその一番上にオレらのPT名『勇者ジャン一行』があった。
 が、パッと消え、一番下へと移動する。それにつれ、文字列が一つづつ繰りあがってゆく。
 四方の壁に刻まれてるのは、対戦順番表なんだ。

 闘技場が一つしかないんで、他の奴等の番の間は地下で待たなきゃいけない。
 氷界に来てすぐに戦闘申し込みをしたのに、初戦まで半日以上待たされた。
 二戦目も同じくらいかかるだろう。九組の対戦&しもべ交渉の後だし。又、半日ぐらい地下でくすぶってなきゃいけない。

 異世界人達は仲間同士で固まっている。他のPTは、氷の精霊を巡るライバルだし、多ければ多いほど自分らの再戦間隔が開くのだ。和気あいあいは難しい。
 その上、オレらは、人間型のPTから変な注目を浴びていた。美女や美少女ばっかだからだろう。
 口笛やら下品な冗談を飛ばしてくる奴らが多いもんで、ジョゼはひどく怖がっているし、サラはプリプリしている。こういう時、異世界人と会話できちゃう自動翻訳機能は考えものだ。

「氷の精霊を仲間にできたのかい、おねーちゃん達」
 黒いローブをまとった髭の男達が、八人近寄って来た。全員、魔術師だ。杖を持っている。
「ええ、一体、手に入れたわ」イザベルさんが顔の前で両手を組み合わせ、妖しく微笑んだ。指輪は五色となっている。先ほどの戦闘で、イザベルさんは新たなしもべ『グラス』を得ていた。
 男達は、一瞬ひるんだ。けど、すぐに下卑た表情に戻る。男はオレしか居ないし、魔術師なのもサラだけなんで、舐めているんだ。
「魔力もないくせに、そんなに精霊を陥落してるのか、すごいな、ねーちゃん」
「精霊相手に、お色気が通じるとはな」
「俺達も脱いでみるか」
 男達がゲラゲラ笑う。
 さすがにムッとした。
 待ち時間が長いんでイライラしてるんだろうけど、だからって女性をからかって暇を潰すなんて悪趣味だ。

「何かご用でしょうか?」
 オレは前に進み出た。八人の男が相手だろうが、仲間は守る。それが勇者ってもんだ。

「おまえに用はないんだよ、坊主」
「すっこんでな」
「俺達は、おねーちゃん達とおハナシしてんだよ」
 奴らがそう言った時だった。
「話すことなんか無い!」
 オレが何か言うより早く、サラが怒鳴っていた。
「あたし達に構う暇があったら、次の戦闘の作戦でも練ったら? あんたらみたいな下品な人間を、氷の精霊が主人と認めるか疑問だけどね!」
 ああああ、そんな喧嘩腰な……

「鼻っ柱の強い女だ」
 男達が、また勘に触る声で笑った。
「遊んでやるよ、こっちに来な。美味い酒もあるぜ」
「結構よ!」
「そう言わずに来いよ。なあ、あんたもどうだい?」
 と、言って男達の一人が、すぐ側のマリーちゃんになれなれしく触る。抱き寄せようとして。
 やりすぎだろ。
 男の手をマリーちゃんからひきはがそうとした。が、オレが触れる前に、そいつは水色の床に転がっていた。

「死臭臭いな・・・」
 倒れた男の体を、白い靴がドカッと踏みつける。
「きさま、死人使いだな?」
 男を右足で踏みつける、修道尼姿のマリーちゃん。ゆっくりと男達を見渡してる。
「全員、死人使いか! こいつはいい! 神よ、感謝します!」 
 ククク・・・とマリーちゃんが笑う。とっても楽しそうに。
「死者の眠りを妨げる、邪悪な魔術師達よ。内なる俺の霊魂が、マッハで、きさまらの罪を言い渡す」
 う!
 人間相手でも、マリーちゃんのアレは反応するのか!
 聖女様の全身から、まばゆい光が広がり始める。
「有罪! 三秒やる。とっとと俺の視界から失せろ。失せねば、その穢れ、全て祓い落す」
 いや、踏んづけてて、失せろも何もないんじゃ。
 いきなりな展開に、踏まれてる奴もその仲間達も茫然としている。
「三、二、一・・・零」
 光り輝く聖女が、右の親指をビシッと突き立てる。
「ブッブー! 時間切れ(タイム・アップ)! 浄霊する!」
 マリーちゃんが、手首をゆっくりひねって親指を下に向ける。
 尼僧姿の聖女から光が一気にふくれ上がり、どデカい白光の玉と化していった……

「己が罪を噛みしめ、悔い改めるがいい・・・終焉ノ(グッバイ・)滅ビヲ(イービル・)迎エシ神覇ノ(ブレイク・)贖焔(バーン)!」

 まばゆい光が消えた後、男達は茫然としていた。

「すみません〜 私〜 邪悪なものに、出逢うと〜 人格が、変わって、しまって〜」
 ニコニコと微笑みながら、マリーちゃんが男達に頭を下げる。ほんわかしたマリーちゃんに戻っている。
「『マッハな方』は、邪悪を、許せないんです〜 あなた方が使役していた、邪霊・悪霊の類は、全部、浄化してしまいました〜 死人使いとしての技、そのものが、無くなったわけでは、ありませんが、これを機会に、使用魔法を、見直されては、いかがでしょうか〜?」

「ふざけんな、このアマ!」
 死人を奪われたと知って、男達は怒り狂い、襲いかかってきた。が、「ごめんなさい!」とか「少し痛いです!」とか叫ぶジョゼに次々に叩き伏せられていった。
 サラも杖で戦っていた。魔術師となる前に剣や格闘を習ってたんで、魔法無しでも強い。

「異世界人の争いに、精霊界は介入しない。トラブルは、当人同士で解決するものだ」
 お師匠様は無表情のまま、倒れた男達を見渡した。
「自衛の戦闘も認められている。今回は、明らかにやり過ぎではあるが……」
 精霊界の住人は精霊だけ。現地調達しようにも、この世界に死者は居ない。死人使い達は、しもべ探しを断念し自分の世界に戻らにゃならないだろう。

 マリーちゃん達の活躍に度肝をぬかれた異世界人達が、オレらの周囲を囲んでいる。派手なPTだなとか、氷の精霊の注目を浴びたのも当然だとか、感心している。

 何事も注目されてこそ。
 オレ自身が目立たなきゃ始まらない……そんな気がした。

 対戦中の精霊は人外の格好だったし、氷壁の中から勝負を観戦している精霊は人間の目には見えなかった。
 氷の精霊とまともに顔を合わせられるのは、交渉タイムだけなんだ。

 仕えたい相手の頭の中を読み、その者にとって好ましい姿をとって、精霊は契約交渉に臨む。
 他の仲間めあての精霊は、オレ好みの格好にはなってくれまい。
 萌えられる相手は、オレのしもべ希望者にしか現れないだろう。


 二戦目からはオレは、ジョゼと共に前に出る事とした。
「お兄さまと一緒だなんて……夢見たい……」
 ジョゼが、ほわっと微笑む。その幸せそうな笑みに、オレも笑みで応えた。
「命に代えても、お兄さまをお守りしますね……」

 二戦目でも、サラは周縁の敵を焼くことに専念し、マリーちゃんは防御壁を張るのに徹していた。イザベルさんはサポート。
 オレとジョゼは、みんなの籠る結界そばの敵と対戦した。

 氷の精霊の間を駆けるオレの後を、ジョゼが追いかける。義妹は飛ぶような素早さで駆けつけ、オレの背後や側面を狙う敵を叩き潰す。
 護衛つきなんてみっともない。けど、慣れるまでは仕方無い。
 オレは剣ではなく、拳を使っていた。

 水の魔法剣は、氷の精霊向きじゃない。無理に使っても折られるだけだ。
 なら、格闘の方がマシ。基礎はベルナ母さんから教わったし、勇者修行中も魔法木偶人形相手に修行を積んだ。それなりには戦える。あくまで、それなりだけど。

 冷気で凍らぬよう炎の精霊ティーナに全身をガードさせ、土の精霊サブレを両拳に宿らせ拳を岩のごとく硬くする。
 素手で、氷の結晶体のような精霊すら殴れる。殴っても痛くないし、拳も傷めない。
 1800ダメージとか出る。
 凄いものだと感心すると、サブレが嬉しそうにオレの手から答えを返す。
《もっともっと硬く……逞しくいたしましょう……》
 段階を追ってサブレが、オレの手をどんどん硬化させてゆく。
 だが、硬化すればそれだけ重量が増す。腕が重くて持ちあがりづらくなっていった。

《素早く動きたかったら、あたしと同化すりゃいいのよ》と、風の精霊アウラさん。
《風はそよ風にも、疾風にもなれる。敏捷性を上げてあ・げ・る》
 拳にはサブレ、手首から腕にかけてアウラを宿らせると、動き自体は速くなった。しかし、腕の筋肉が強張って、つりそうになる。

《あの……血液の循環を良くし、体内の疲労物質を除去しましょうか?》と、水の精霊マーイさん。
 繊細な作業っぽいけど大丈夫だろうか? マーイさんは変化がうまくできないし、声のボリューム調整も苦手だった。
《大丈夫です。何かを作り出すのは下手ですが、ご主人様の血液に入り込み不快な状態を無くすだけですから》

 段々、精霊の使い方がわかってきた。
 直接戦闘に使えなくても、アウラさんもマーイさんも戦闘支援には使える。敵にぶつける以外にも、精霊の有効な使い方があるんだ。

 そう思った時、オレの前に巨大なモノが現れた。
 氷塊ができたゴーレム……各部位の先端がつららのように尖ったアイツだ。
 振り下ろされてきた拳は、どうにか横に避けた。しかし、拳が激突した衝撃に床が揺れ、オレは転倒してしまった。
 ゴーレムの右膝はもう元通りになっている。ジョゼに砕かれたはずなのに。違う個体なのか、それとも再生したのか。
「お兄さま!」
 ジョゼが風のように駆けてきて、ゴーレムの背面から拳をたたきこむ。
「お兄さまへの狼藉、許しません!」
 胴周りも人間の倍はあるってのに、ジョゼの拳がゴーレムの腹を貫き通しデカい穴をあける。
 16万7491ダメージ!
 腹のところで砕けて上下にわかれたゴーレムが、轟音と共に床に沈む……
「お兄さま、お怪我は?」
 白いドレス姿の可憐な妹が、オレへと走り寄って来る。

 強ェェェ〜
 さすが、ジョゼ、本職の格闘家。


 結局、二戦目は精霊を使う練習で終わってしまった。
 たいした活躍もできなかったんで、オレのしもべ希望の子は現れなかった。


 そして、日付が変わっての三戦目……
 オレはジョゼに頼んで、互いの背後を守る形で背中合わせに構えてもらう事とした。
 守ってもらうのは背後だけと決めて。

 そして、そんなオレの前に……
 又、アレが現れた。
 氷のゴーレム。
「お兄さま!」
「手を出すなよ、ジョゼ」
 男として、いつまでも義妹に守られてるわけにはいかない。
 オレが倒す。
 精霊支配者として、精霊の力を借りて……
……あれ?
 力を借りるってことは、頼る相手をジョゼから精霊に変えるだけ……?
 結局、他人頼み……?

 ゴーレムが巨体に似合わぬ素早い拳を、オレへと振り下ろす。
 オレは迫り来る拳を、突き出した拳で受け止めた。
 巨大な拳とオレの拳。
 ぴたりと重なったまま、互いの動きが止まる。
 腕力は伯仲。
 サブレのおかげだ。
 けど、長引くと、マーイさんの疲労回復が間に合わなくなる。
 ゴーレムが左足で、地を這うように蹴りを回してくる。
 オレは一端、後方へと飛び退り、バランスを崩した相手と一気に距離をつめた。アウラさんに下半身の敏捷性をあげてもらってるんで、今のオレはジョゼのように素早く走れる。
 マーイさんに頼み前方に水流を発生させ、ゴーレムにぶつける。周囲の気温が低いんで、彼女の水はたちまち氷と化してしまう。氷の精霊に氷などききはしない。だが、充分だ。足元を凍らせてやったんで、巨体の動きが鈍る。
 氷の枷からゴーレムはすぐに抜けだすだろう。が、一瞬でも、拘束しちまえばこちらのもの。
 腕に宿らせるのを、サブレからティーナに変更。
 炎の拳を、ゴーレムの腹にお見舞いした。

 腹部を燃やしながら、ゴーレムの巨体が床へと沈んでいった。

《ソコマデ》

 審判の声が響き渡る。

 勇者一行と氷の精霊の戦い第三戦も、オレ達の判定勝ちとなった。

「すごい、さすがお兄さま」
 ジョゼがオレに飛びついて来る。
 あぁぁぁ……
 痛ぇ。
 いろいろ無茶したから、体にガタが……
 あっちこっち筋肉痛なんだ。今、マーイさんに治してもらってる最中……
 けど、まあ、自分のことのように喜んでくれてるんだし、ちょっとぐらい痛くてもいっか。

《及第点をさしあげますわ》
 知らぬ声が聞こえた。

《戦士としては、まだまだお話にならないレベルですわね。けれども、初戦のお荷物ぶりから比べれば遙かにマシ。短い間に、よくもまあ形になったこと。褒めてさしあげますわ》
 半ば炎に包まれていた氷の巨人が体を起こす。
 白みがかった水色の閃光が広がり、ゴーレムの巨体は消えた、炎も伴って。

 代わりに現れたのは、小柄なドレス姿の女性だった。
 背へとたれる青みがかった白い髪は、見事な巻き毛だ。
 深みのある青い瞳、長いまつげ、誇り高そうな細い眉、ちょっとツンとした鼻、薄青のリップを塗ったような可憐な唇……

(わたくし)の名前はグラキエス。あなたのしもべになってあげても、よろしくてよ》
 内容にそぐわぬ偉そうな口調が……
 彼女の美貌に、実によく合っていた……


 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……


 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。

《あと七十二〜 おっけぇ?》
 と、内側から神様の声がした。


 オレは氷の精霊を手に入れたようだ。





「ゴーレムに萌えちゃったわけ?」
 呆れ顔でサラが言う。
 違うっての。オレが萌えたのはグラキエスちゃん。グラキエスちゃんは優秀だから、ゴーレムにも変化できるの。

《私、完成したものには興味はございませんの》
 マリーちゃんやイザベルさんを見ながら、グラキエスちゃんが言う。
《未熟なものを導いてさしあげるのが、好きなの。しもべ遊びの醍醐味というものですわ》
 口元に手をそえて、グラキエスちゃんがホホホと笑う。
 しもべ遊びか……何万年も生きる精霊にとっては、しもべになるのは娯楽なんだな。
《ジャン、よろしくって?》
 ん?
《私はしもべになってさしあげたのよ? この私が、あなたごとき三流精霊支配者の、よ》
 はい……
慈善事業(ボランティア)でしもべとなったのです。私を奴隷扱いしたら、お仕置きしますわよ》
 そんな事は、決してしません。
 精霊達は魔王戦で共に戦ってくれる仲間だし、勇者なオレの有難い助力者だと思っています。
 再びグラキエスちゃんが、ホホホと笑う。
《よろしくてよ、ジャン。立場をわきまえている犬は、私、大好き》
 犬……
《私がしもべとなったのです、これからのあなたの人生、勝ったも同然ですわ。私を崇め、称えなさい……私のことをグラキエス様と呼ぶ事を許してさしあげるわ》

 オレのが、しもべになったみたいだ……


 魔王が目覚めるのは、七十二日後だ。


 精霊界の最長滞在は二十日の予定。
 残り九日で、雷光闇の三エリアを回るんだ。

 ラピスラズリのブレスレットを契約の証とし、グラキエス様と契約を結んだ。
《心身を清め、洞察力・判断力・知力を高めるとされる宝石ですわね。よろしくてよ、ジャン、契約方法も合格にしてさしあげますわ》
 グラキエス様は、イザベルさんなみに宝石に詳しそうだ。

 新たな仲間グラキエス様と共に、オレは次のエリアへと向かった。


* * * * *


『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き

●女性プロフィール(№028)

名前 グラキエス
所属世界   精霊界内の氷界
種族     氷の精霊
職業     氷の精霊
戦闘能力   ジョゼに二度負けてるから、
       そんなに強くないんじゃないかと……
       あ、いえ! 今のなし!
       グラキエス様は最強です!
       けしからんことを想像してすみません!
       お仕置きはお許しください!
戦法     氷でカチンコチン
       氷のゴーレムに変化する。
留意すべき点 炎に弱い
職業の説明  氷を司る
特徴     お嬢様 高ビー。
       オレを下僕扱いしている。
       未熟な主人を成長させるのが好き。
年齢     しもべ経験ありな年齢。
容姿     本体は氷。いろんな姿に変化できる。
       人型になると、青みががった白の巻き毛。
       白いドレスの、気品あふれる美少女。
口癖    『この私』『よろしくてよ』
好きなもの  未熟な主人を導くこと。
嫌いなもの  奴隷扱いされること。
勇者に一言 『しもべになってあげても、よろしくてよ』

挿絵(By みてみん)
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