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ハーレム100 作者:松宮星

精霊界

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あなたしかいない  【マーイ】(※)

 目覚めたら、周囲は真っ暗だった。

 あれ? と、思う。
 オレは昨日の朝、仲間と共に水界に転移したはずだ。
 いや、寝て起きたのならもう一昨日の朝かも、と思いなおす。

 転移先の水の神殿は、全てが青かった。移動用に配された白い魔法陣を除き、天井も床も林立する円柱も全てが青だった。
 造りは炎の神殿とほぼ一緒。だけど、炎の神殿とは異なり、水の神殿は淡く光っていた。全ての柱が、水色に発光していたんだ。
 異世界人用に水の精霊が作った灯りで、それは一日中、消えることはなかった。

「お師匠様? サラ? ジョゼ? マリーちゃん? イザベルさん? ティーナ?」
 仲間達に呼びかけてみた。が、答えはない。
 上体を起こすと、体の下がぶよぶよ動いた。安定感のない、やわらかな所で寝っ転がってたみたいだ。

 目を凝らしても何も見えない。ほんとの真っ暗だ。
 触るとぶるんぶるん波打つ床に掌を置き、少しづつ這わせてみる。
 辺りは真の闇だから、慎重に。
 何も潜んでいませんようにと祈りながら。

 しばらく調べて……

 かなり狭い場所に、一人でいるんだとわかった。
 高さは、猫背にならなきゃ天井に頭がつくぐらい低い。
 で、横幅はよくわかんない。オレが動くと床面も天井もぶよぶよ波打って動くからだ。オレの動きに合わせて、周囲がぐるぐる回転していく感じ。なんかボールの内側に居るようなイメージ。

 床面を強く押してみる。オレの力が分散しちゃうみたいで、へこみもしない。ぶるぶると震えるだけだ。

 どうして、オレはこんな所に居るんだろう?
 どこもかしこも真っ暗だ。

 水界にまだ居るんだろうか……?

 精霊界では、八大精霊がその性質のままに、ふさわしい世界にそれぞれ暮らしている。
 つまり、水界には水しか無い。
 陸もなければ水底もなく、空気も太陽も月も星もなく、生き物も存在しない。ただ、水があるだけなんだ。

 水の神殿の端から水界を覗きこんだら、寂しい気分になった。
 異世界人滞在用の神殿は、魔法防御壁に覆われている。内部は、空気があり、過ごしやすい温度であり、そして水色の淡い灯りがあった。
 けれども、神殿の外は闇に覆われていた。
 光の射さない水だけの世界は、どこまでも真っ暗だった。
 澄んだ水が流れもせず、生命を育むことなく、ただ存在しているだけだった。

 寝てる間に、何があったんだろう……?

「誰か居ませんか?」
 呼びかけてみた。
 答えを期待したわけじゃない。
 真っ暗な空間には、生き物の気配はまるでなかったから。

 だが、呼応するように、頭をハンマーで叩かれたような衝撃が走った。
 耳元で何十人もの人間に大声で叫ばれてるようだ。
 乱暴な音がガンガン響いてくる。
 たまらず、頭を押さえうずくまった。

 しばらくしたら、暴力的な音はやんだ。

《ごめんなさい……》
 蚊の鳴くような声がした。女性の声だった。
《ごめんなさい……聞こえますか……?》
 おどおどしたような声が、何処からともなく聞こえた。

《ごめんなさい……びっくりさせて……異世界人と話すの……初めてなんです……それで……》
 加減がわからなかったんです、ごめんなさいと、何度も何度も声が謝る。
 気弱そうな声だ。

「大丈夫です、もうちょっと大きな声でも平気です」
 と、言ったら、又、頭をかち割るような大声になってしまった。『ちょっと』とか『こころもち』の匙加減がわかんないようだ。

《本当にごめんなさい》
 小さな小さな声が、何度も謝る。
 気にしないでくださいと言っても謝り続ける。まじめな子みたいだ。

「オレはジャンと言います」
 と、名乗ったら、知っていますと、小さな声は言った。
《私……水の精霊マーイです……》

 水の精霊!
 そう聞いて、心が躍った。
 水界に来てから二日……になるのかな?
 初めて、水の精霊に会った。

 異世界人が神殿に来訪した事は、その世界の精霊にはたちどころに伝わる。
 炎界の炎の神殿は、あっという間にサラのしもべ希望者で埋まったんだ。

 しかし、水の神殿には一体の精霊も現れなかったんだ。

 水の神殿には先客が居た、人間の子供ほどデカい甲虫達だ。異世界の精霊支配者達だ。自動翻訳機能で話をした。水界滞在は四日目だが全く精霊と出会わないと、甲虫達はぼやいていた。
 オレ達も同様になった。魔王を倒す仲間が欲しいんだと訴えても、水界の静かな沈黙は乱れなかった。

 しもべ希望の精霊は水界には居ないのかもしれない。
 そう思ったんだが……

《水の精霊は、お高くとまるのが好きなんだよ。すぐに飛びつくのは下品だ、がっついたら自分の価値が下がるって思うような奴等らしいから》
 と言ったのは、サラの腕の中の、ふわふわもこもこの茶色のクマ。サラのしもべ『アナム』だ。歩くぬいぐるみだったピアさんとは違って、こいつは必要がない限りは動かない。ぬいぐるみになりきってるんだ。

《無関心な振りして、こっそりデータ集めをしてるのよ。それでご主人様(マスター)がこの世界から旅立つ頃になって、ようやく姿を見せるんだわ。仲間になってさしあげてもよろしくってよ、って上から目線でね》
 と言ったのは、『アナム』の首のボウタイ。正しくは、ボウタイの飾りのルビーに宿った精霊だ。オレのしもべになってくれた『ティーナ』。

 アナムもティーナも、しもべは初体験で、炎界から出るのも初。
 異世界どころか精霊界の他のエリアにも行った事がなく、水界も初めてだと言っていた。
 けど、仲間からさんざん悪口を吹きこまれてたらしく、会った事もない水の精霊を嫌いぬいていた。

 二人の影響で、水の精霊(イコール)高慢なイメージだったけど……
 マーイさんは大人しくって気が弱そうだ。

 きょろきょろと見回したけど、闇ばかりで何も見えやしない。
 マーイさんが何処にいるのか、さっぱりわからない。

《あなたが水界に来た時から……ずっと……見てたの……》
 闇の中からの声に、ドキッとした。
《とっても、素敵なんですもの……》
 え?

『しもべ希望』の申し込みに違いない。そうとわかってるのに、オレはドキドキした。
 愛の告白みたいなんだもの……
 しかし……

《あなたが欲しい……だから、(さら)って閉じ込めたの》
 攫って閉じ込めた……?

《誰にも渡さない……》
 闇の中に座っていたオレの上にのしかかるように、何かが現れた。

 ビチャッとした。
 冷たいものが、顔にかかった。
 髪の毛……か。かなり長いみたいだ。オレの顔ばかりか、肩から胸、腰の先まで、濡れた重たい髪の毛がかかっている。
 けど、かかったのは髪の毛だけ。
 近くに誰かがいるのに、肌は合っていない。触れ合いそうで触れない位置から、オレの体の上に覆いかぶさり、オレを見ている……ような気がする。
 清水のそばにいるかのような爽やかな香りがした……

 オレ、攫われたのか……?
 もしかして、監禁されてる……?

《そうよ、水の神殿で眠っていたあなたを連れだして、私の内側に閉じ込めたの……あなたが欲しかったから……》
 オレの心を読んで、マーイさんが答える。
 オレの頬に何かが触れた……
 冷たいけれども、とても柔らかな何かが……

《私に萌えて……私をあなたの伴侶にして……》
 オレの頭の中が読めるから、どういった仕組みでオレが仲間を増やしているのか理解しているんだ。
 それで、誘惑する為に攫ったのか……

 女の子と狭い空間で二人っきり……積極的に迫られるなんて……
 ドキドキものだ……
 精霊に性別はない。でも、姿形もしゃべり方も女の子そのものなら……オレにとっては、女の子だ。

「……顔を見せてくれませんか?」
 オレはツバを飲み込んだ。
「……光が欲しいんです。水の神殿にあった淡い水色の光、あれ、作ってくれませんか?」

《だめ……》
 マーイさんがかぶりを振る。長い髪の毛がオレの体の上を揺れる……
《光は……だめ……》
「あなたの顔が見たいんです……あなたに萌えたい……」
《だめよ……私……》
 マーイさんが悲しそうに言う。
《綺麗じゃないから……》

 え?

《変化が下手なの……》
 声は震えていた。
《そのせいで……生まれてから千二百年経つのに……一度もしもべになった事がないの……私があまりにもみっともないから……いつも、相手にしてもらえないの……精霊支配者様に笑われてしまって……》
 女の人の容姿を笑うなんて、それはひどい……
《……ありがとう……わかってくれるのね》
 オレの心を読んだマーイさんが、抱きついてくる。
《あなたは思った通りの人だわ……》

 おぉ。

 冷たいけど、やわらかい。
 胸もそれなりにある。
 裸じゃないな。べたったとした布の感触がある。衣服は濡れて肌にくっついてるんだ。これだと体のライン、丸見えになるよな……
 何かドキドキが激しくなってきた。

《私、ずっと誰かに仕えたかったの……あなたに愛されたい……》
 ひしっとマーイさんがオレにすがりついてくる。
《犬猫どころか、クマでもウサギでも馬でもOK。髭でも岩石でもトカゲでも伴侶にしちゃいますなんて守備範囲の広い人……あなただけ。あなたを逃したら、二度と出会えない……絶対、離さない》

 あの……
 激しく誤解してません……?
 女性ならオールOKというわけでも……
 いや、まあ……ドワーフもゴーレムもドラゴンも伴侶にはしましたが……

「顔を……見せてくれますか?」
《どうしても……?》
「見ないと萌えられませんから」
 マーイさんの体のやわらかさにもかなり興奮してるけど、最後の最後でやっぱ駄目なんだ。
 相手がどんな人かわかんなきゃ、萌えられない。

《笑わない……?》
 絶対、笑わない! そんな失礼な事はしない!
 オレはそう誓った。
 本気でそう思ってもいた。

 しかし……

 周囲が青白い明るさに包まれた時、
 オレの心はオレの意志に反したんだ。

 声は出さなかった。
 表面上はオレは普通の顔をしていた。

 だけど、精霊は人の心が読める。
 オレが心の中でどう思ってるか感じ取ってしまったんだ。

 気がついたら、オレは水の中にいた。
 慌てて、手足をバタつかせた。

 周囲が再び真っ暗になっている。
 何も見えない。

 ぶよぶよの天井に体が押し付けられる。
 球の中は水で満たされていた。

 口からも鼻からも耳からも、水が入ってしまった。
 息が苦しい。
 胸が痛む。

 苦しい……

 オレが動くことで、水が揺れる。

 心の中でマーイさんに謝った、約束を破ってごめん、と。

 けれども、マーイさんから答えは返らず……
 目の前は真っ赤になっていき、意識は遠くなっていった。


 それからオレは、闇の世界で、夢と現実の間を彷徨っている。

 溺れては意識を失い、目覚めては再び溺れているのではないかと思う。
 だが、何処までが夢で何処からが本当の事なのかがはっきりしない。

 時々、すぐ側にマーイさんの気配を感じた。
 両手で顔を覆いシクシクと泣いている姿が、心に浮かんだ。

 最後の希望とすがったオレに裏切られ、マーイさんは深く嘆いていた。

 あなたを殺して私も死ぬ……と聞いた気がする。

 だが、オレは生きている。
 彼女は、オレを殺せずにいる。
 殺しきれないんだ。オレを信じたいって気持を、まだ微かに残しているのではないか?

「ごめん……」
 オレにできる事は、嘘偽りのない心で謝罪する事だけだった。

 軽々しく約束をしたオレが悪い。
 ひどい事をした、どうか許してほしい。

《なら、死んで、私と一緒に……》
 すまなく思いながら、正直に考えを伝えた。
「魔王を倒さなくては、オレ達の世界は終わってしまうんだ。ごめん、マーイさん。オレは、ここで、君の為には死ねない」

 オレは、又、水の中に沈んだ。

 今までにないほどの激しい怒りが伝わってきた。
 今度こそ、オレは駄目かもしれない……

 溺れながらオレは、光を見たような気がした。
 水色の淡い光を……


暁ヲ統ベル(エターナル・)女王(マリー・)ノ聖慈掌(セインツ)漆式(ゼロセブン)!」
 こ、この意味不明な呪文は……

「うふふ。素敵よ、勇者さま。その姿、どー見ても溺死体だわ。ぞくぞくしちゃう」
 こ、この楽しそうな笑い声は……

 目を開ける前から、助かったんだとわかっていた。

 淡い水色の光を感じた。
 修道尼姿のマリーちゃんだ。水色の光に照らされて、寝転がっているオレのすぐそばに座っている。
「もう、大丈夫、です〜 勇者さま〜」
 マリーちゃんが、ほわほわな声で言う。
「止まっていた、心臓も、動き出し、ましたし〜 氷水みたいに、冷えた、体にも、熱が、戻り、ました〜 肺に入った、水も、取り除き、ましたから〜」
 ううう……オレ、又、かなりヤバい状態だったわけ……?

「ほ〜んと、あなたの星って最悪ね。いくらでも不幸を呼び寄せちゃうんだから」
 二つの褐色の山がオレに迫る……膝立ちのイザベルさんが身をかがめてオレを見下ろしてるから、爆乳な胸が左右からぎゅっと寄せられて更に大きく魅惑的に……
「迎えに来るのが遅くなってごめんなさいね。さっきようやく『ラルム』をしもべに出来たのよ」

 オレは今……
 ベッドの上に居る。
 天蓋のついた、王侯貴族が寝るような豪華なベッドだ。
 シーツも枕も掛け布団も天蓋も、ぜ〜んぶ水色で、淡く発光しているんだ。でもって、ベッドのマットは妙にぐにょんぐにょんしている。ちょっとでも動くと波打つ感じだ。
「ウォーター・ベッドよ。ラルムに変化してもらってるの」
 うふふと笑い、イザベルさんがオレに左手を見せる。薬指に新しい指輪があった。青く輝くサファイアだ。水の精霊との契約の証だろう。

 ベッドから先は、真っ暗な水界だ。ベッドそのものが、水精霊ラルムがつくった結界なのだろう。
 ベッドの上に居るのは、オレとマリーちゃんとイザベルさん。他の仲間は居ない。居るのは、あともう一人。

 水色の紐に全身を絡め取られた、水色のドレスの女性が仰向けに倒れている……
 胸の辺りから足首まで、何重にも紐がかけられている。両腕も紐に縛られている。
 水色の不可思議な色の髪。綺麗だが、濡れたように輝いていて重たそうだ。
 前髪が長い。顔を隠したいからだろう。額で二つに分かれた髪の毛が、両目や頬を隠し、胸から腰、足、そしてベッドの上へと散らばり、どこまでも続いている。
 マーイさんだ。

「ごめんなさい、マーイさん」
 体を起こしオレが謝ると、彼女は意外そうな顔をした。
《怒ってないの……?》
「怒ってますよ。けど、先にひどい事をしたのはオレの方だ。約束を破って、すみませんでした」

 マーイさんがオレの方に首をかしげ……
 淡く微笑んだ。
 髪の下から現れた目も鼻も口も、子供の落書きみたいにデタラメなつくりの顔だ。けれども、表情はとても女性らしい。
《ごめんなさい……最後にあなたに会えて良かった……私、泡になってもあなたを忘れないわ……》

 え?

「異世界人を監禁するのは、精霊界では重罪なのよ。むろん、殺人未遂もね」
 左手のサファイアの指輪を撫でながら、イザベルさんが言う。
「精霊界が安全な場所でなきゃ、精霊支配者が来なくなってしまうもの。ラルムが教えてくれたわ。誘拐・監禁の罰は、存在の消去だそうよ」
 そんな……

「でも……」
 イザベルさんが、うふふと笑う。
「精霊支配者が合意の上なら、神殿の外で二人っきりになってても問題ないわ。相性を試していただけだもの」

「もちろん、合意の上です!」
 オレは拳を握り締めた。
「マーイさんを離してあげてください! オレは殺されかけてないし、誘拐も監禁もされてませんから!」

 マーイさんのありえないほど大きな目から、ボロボロと涙が落ちる。
《どうして……そこまで……》
 顔を歪めて泣き始めたせいで、狂ったパースの顔がますますひどい事になる。
 けれども……
《ありがとう……ごめんなさい……本当に、ごめんなさい……》
 泣きながら笑い、恥ずかしそうに顔をそむける彼女が……

 とても、いじらしく思えた。


 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……


 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。

《あと七十五〜 おっけぇ?》
 と、内側から神様の声がした。


「本当、あなたって素敵よ、勇者さま」
 イザベルさんがうふふと笑う。褐色の美貌が迫って来て、額にあたたかでやわらかな感触がほんの一瞬……
 て……
 ちょ!
 今の、早すぎてよくわかりませんでした!
 もっかい! プリーズ!

「勇者さま、これをさしあげるわ」
 イザベルさんがオレに手渡してくれたのは、女性の顔の黒い仮面だった。額に水色の宝石がはめこまれている。
「アクアマリン……水の中の静寂をもって、愛や友情をはぐくみ、安らぎ、忍耐、信頼、自信を与えてくれる石よ」
 どうして、これを……?
「仮面が必要になるのはわかっていたわ。水晶が私にそう告げたから……石はさっき埋め込んだばかりだけれど」
 すご〜い! さすがイザベルさん! 国一番の占い師!

「オレ、君の為には死ねない」
 拘束を解かれたマーイさんは、ベッドに座っている。オレは彼女へと頭を下げた。
「けど、一緒に生きることならできる。マーイさん、オレのしもべになってくれませんか?」
 人前に出るのがつらい時は仮面をつければいい、仮面のアクアマリンを契約の証としませんか? と問うと、マーイさんは困惑した。
《契約の石は精霊支配者様が持つものです》
 そうなの?
 イザベルさんが肩をすくめる。
「契約の証は存在すればいいの。どちらが持ってもいいのよ。ほとんどの場合、精霊支配者が持つけれどもね」
 イザベルさんが左手の小指と薬指の指輪をオレに見せる。
「宝石を用いた契約の場合、精霊支配者は宝石を通して精霊を支配しているのよ。精霊が宝石を持ってフラフラどっかへ行っちゃったら、主人は命令ができなくなる。なす術がなくなるの」
 なるほど。精霊の逃亡を防止する為に、精霊支配者が持つのか。
《……しもべにしていただけるだけで、夢のようです……契約の証はご主人様がお持ちください》
 オレは手の黒い仮面を見つめた。とても美しいつくりだけど、額の水色の宝石を外してしまうと明るさが無くなってしまう。寂しい顔立ちになる……そんな気がした。

「やっぱ、いいよ。宝石は仮面につけたままで。額に宝石があった方が綺麗だし」
《でも……》
「ずっと誰かに仕えたかったって、言ってたよね。ずっとオレの側にいてくれるんでしょ? なら、どっちが持ってても同じだ」
 マーイさんは大きな目を更に大きく見開き、それから静かに瞼を閉じた。
《ありがとうございます……ご主人様の信頼に応えられるよう、良きしもべとなれるよう励みます……》





 イザベルさんのしもべに運ばれて、水の神殿に戻ると……
 やつれたジョゼに抱きつかれてしまった。
 お師匠様も『無事で良かった』と声をかけてくれた。
 オレは二日と半日ぐらい誘拐されていたらしい。

 つまり……魔王が目覚めるのは、七十六日後になってしまったんだ。

 マーイさんは、人型になって仮面をつけてついて来た。
 新たな仲間だと紹介すると、サラは激怒した。
『誘拐犯を仲間にするな、馬鹿っ!』と。
 けど、二日以上の監禁になったのはオレのせいなわけだ。責めずに仲良くしてあげてと言ったら、『おひとよし!』と頬をはたかれてしまった。
『しかも、契約の証を精霊に渡しちゃうなんて、どこまで馬鹿なの? 手元に宝石を置いて、二度と危害を加えられないよう完璧に支配すべきだわ!』
 マーイさんを支配する気はないよ、とオレははっきりと言った。しもべにはなってもらったけど、本当の主従関係があるわけじゃない。マーイさんは、魔王戦で共に戦ってもらう仲間なんだ。
『あんたみたいな馬鹿なんか、もう知らない!』
 サラはすごい形相でオレを睨んだ。鼻のあたりは真っ赤だった。眠れてなかったんだろう、目元の隈がひどかった。

 ごめんと、ひたすらサラとジョゼに謝った。
 謝りながら、食事をとった。誘拐されてた間、何も食べてなかったんだ。


 精霊界の最長滞在は、二十日。
 まだ風土氷雷光闇の六エリアもあるのに、残り日数は十三日しかない。

 けど、これもオレがマヌケだったせいだ。
 腹をくくって、これから頑張らなければ。


* * * * *


『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き

●女性プロフィール(№025)

名前 マーイ
所属世界   精霊界内の水界
種族     水の精霊
職業     水の精霊
戦闘能力   たぶん高い
戦法     水がザブザブ
留意すべき点 雷に弱い
職業の説明  水を司る
特徴     変化が苦手。部位毎におおまかな作りしか
       できない。そのせいで、今まで一度も
       しもべになった事がない。
年齢     千二百歳
容姿     本体は水。いろんな姿に変化できる(はず)。
       人型時は水色のドレス姿。
       髪は水色で、ものすごく長い。
       顔立ちについて述べる気はない。
口癖    『ごめんなさい』
好きなもの  不明。
嫌いなもの  外見を笑われること
勇者に一言 『ありがとう……ごめんなさい』

挿絵(By みてみん)
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