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ハーレム100 作者:松宮星

精霊界

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恋の炎はメラメラに 【ティーナ】(※)

 精霊界に行くにあたって『ただ萌えて仲間にするだけでもいい。だが、できれば精霊支配者(マスター)となれ』と、お師匠様は言った。

 精霊ってのは半端なく強い。たったの一体で、山をも崩し、湖を干上がらせ、軍の大隊を一瞬で壊滅させる……なんて事もできちゃう。

 そんな精霊が、精霊界には八種類居る。
 炎、水、風、土、氷、雷、光、闇。
 八体全部と契約を結べれば、オレは大魔術師並に強くなる。
 精霊の力を剣にこめて攻撃! なんて勇者的な活躍もできるようになる。
 これから先、過酷な世界を旅する際も精霊の加護があれば心強い。仲間探しも格段に楽になるだろう。

 けど、しもべ探しは、萌えて仲間枠に入れちゃう『勇者の仲間』探しとは全くの別物だ。
 精霊から主人(あるじ)と認められなければ、契約そのものができないからだ。


 オレは炎の精霊に囲まれていた。
 前も後も右も左も頭上すらも、精霊だらけ。
 炎の神殿は、百人ぐらいが寝泊まりできる広さ。なのに、どこを見ても精霊、精霊、精霊。精霊で埋め尽くされている。

《精霊支配者様、どうぞ私めを、しもべに……》
《ああ、愛しい方……私の目にはもはやあなたしか映りません……あなたなしには生きられないのです……》
《どのような務めも果たします……お望みでしたら夜のお相手も……》

 精霊界の精霊は、精霊支配者に対し、たいへんフレンドリーだ。
 よそじゃ精霊たちと精霊支配者が支配をかけて命がけのバトルをしてるってのに。

《私、三度のしもべ経験がございます。絶妙な火加減の料理が得意にございます。王侯貴族の食卓でも、香辛料たっぷりの南国料理でも、あなたのお望みのままですよ》
《私は五度の経験がございます。お望みとあらば、あなた様の為に堅固な城を築いてごらんにいれましょう》
《私は未経験です。手垢のついていな初心(うぶ)な精霊の方が、あなた様の色に染めやすいはず》

 精霊界の精霊は、生まれたエリアに縛られている。異世界はおろか、精霊界のよそのエリアにも自力じゃ行けないんだ。
 外に行くには、契約を結び、誰かの所有物になるしか手はない。
 なので、ここの精霊は積極的に異世界から来た精霊支配者の誘いに応じる。
 殊に四元素精霊と呼ばれる炎水風土の精霊は、ご主人さま選出条件がものすご〜くゆるい。
 ぶっちゃけ、自分達の世界に来られる者なら誰でもいいらしい。
 で、たいてい年期契約を結ぶ。数年から数十年、精霊支配者のしもべとなる代わりに、外で見聞を広めてくる。
 物見遊山というか、ホームスティ感覚なんだ。

《精霊支配者様、見て、見て〜 綺麗?》
《こ〜いうのが、好きなの? ふふ、意外〜 カ・ワ・イ・イ》

 炎の精霊は、人間の考えている事を読みとれる。
 本来の姿じゃ異世界人とは触れあえないんで、火力も熱もおさえ、オレらの前に現れているんだが……
 その姿は誘惑の為のもの。何とか相手の関心を得ようとしてるんだ。

《ね、触って……》
《食べてもいいよ……キミになら、何をされてもいい……》

 炎の精霊がおおはしゃぎしてるんで、周囲は妙に暑苦しい。

「ちょ! ちょっと、待って!」

 美味しそうな姿となったもの、魅惑的な姿となったもの。
 そんな精霊達が殺到し、あなたのしもべにして〜 と、媚びまくってくるんだ。
 人生最大のモテ期、到来……

「いらないって言ってんのに! もう、しつこい!」
 誘惑者達が、後から後から押し寄せて来る。
 オレのそばを素通りし、自分の支配者として認めた者に殺到する。

「だ〜か〜ら! この世界に来たのは、アタシの為じゃないの! 彼の仲間を探しに来たの! アタシは一体を仲間にできたから、もう充分なの! ね、誰でもいいから、女性化して、彼に萌えてもらってくれない?」

 そう言われ、さまざまな姿に変化した炎の精霊達がオレへと振り返る。
 もふもふなぬいぐるみ達は、クマと白ウサギが多い。美味しそうなイチゴやケーキ。あでやかな薔薇の花も一本。少女趣味なレースのリボン。きらきら光る宝石……
 支配者様の気を惹こうと変化した連中が、嫌そうにオレを見る。目なんか無い奴も多いけど、わかるよ。全身で『嫌』って訴えてるもん。

 こいつら、大魔術師サラ様のしもべにしかなりたくないんだ。

 オレだって、ファンシーグッズ相手じゃ萌えやしねえよ。





 精霊界に転移したのは、昨日だ。
 出現したのは、この炎の神殿。
 天井も床も、林立する円柱も赤い、大ホールみたいなだだっぴろい所だ。床の一箇所に白い魔法陣が刻まれているが、色が違うのはそこだけで、あとはどこも赤いんだ。
 壁が無いんで、屋根から先はそのまま外へと通じていた。
 この建物の周囲は、一層まばゆく赤かった。
 全てが炎。天も地もなく、上からも下からも炎が流れ、火焔が舞いあがっている。

 炎の神殿は、精霊界の炎界の中にある。

 周囲は凄まじい炎の世界だが、この神殿の中は安全だ。透明な魔法障壁に覆われているんで、熱くもなく、まぶしすぎることもなく、空気が絶える事もない。
 客人滞在用に準備された場所……精霊と異世界人との出逢い場所(スポット)だ。
 毎年、精霊界には何百人もの異世界人が訪れる。しもべを得やすい精霊界は、精霊支配者に人気の世界なんだ。

 そのわりには宿泊場所は、実にそっけない。神殿には、寝具や風呂や調理器具はおろか、トイレすら無い。宿泊するなら、必要な物は自力でどうにかしろ、できない奴は還れって事だ。
 オレらは、食料は持参、水はマリーちゃんの魔法で作ってもらう。ルネさんの発明品『どこでもトイレ』もあるし、ゴミは魔法で燃やせばいい。しばらくの滞在なら、困らない。

 精霊世界は、八大精霊がそれぞれ暮らす八エリアに分かれている。
 全ての精霊を仲間としたいと思っていたオレは、最初に炎界へと導かれた。精霊界の意思だと、お師匠様は言った。

 来てすぐに、サラの背後をとるように一体の精霊が現れた。移動魔法を使ったんだろう。
 オレは最初から見てた。そいつは燃える髪を持った若い男の姿をしていた。だが、サラに声をかける前に変化した。サラの心を読んだのだろう。
 ぬいぐまピアさんよりちょっと大きい、茶色いふわふわのもこもこに……愛らしいクマのぬいぐるみになりやがったんだ。
 で、サラはデレデレになって、そいつを抱きしめ、頬ずりをして……
《俺をあなたのものとしてください》の契約のもちかけにも、何も考えずにOKしてしまったんだ。

 精霊は『アナム』という名前だった。

 オレをさしおいて炎の精霊と契約しちゃったって気づいたサラは、舞い上がってた自分を恥じるかのようにオレに謝った。

 お師匠様は『炎界に精霊は何万といる。その内の一体がおまえと契約を結ぼうとも、ジャンは困らん。おまえが精霊支配者ともなり強力な力を得る事が、むしろジャンの助けとなるだろう』って言った。
 だけど、オレは……
 ちょっとムカついていた。
 ぬいぐるみを抱っこしてるサラを、見たくもなかった。

 そっから今まで、多分、千体以上の炎の精霊が神殿を訪れている。
 けど、オレの『魔王戦用の精霊を求む』って呼びかけに応えてくれたわけじゃない。
 奴等の目標(ターゲット)は、ほぼ、サラ。他のメンバーにすり寄る炎の精霊もいることはいるんだが、ほんのちょっと。
 ものすごい数の精霊がサラの元に、しもべ希望で押しかけているんだ。

 まだ発展途上だが、サラには大魔術師になれる素質がある、らしい。しかも得意魔法は炎。炎の精霊には、まさに理想のご主人様なのだろう。
 昨日も今日も、サラはクマのアナムを抱っこしたまま、ぬいぐるみやらお菓子やら薔薇やらファンシーなものに囲まれている。
 魔王戦で精霊に攻撃させるにしても、一体に命令しただけでサラの攻撃ターンは終わる。精霊は一体居ればいいんだ。
 サラは、しもべを増やす気はない。なのに、後から後から精霊がサラの元へ押しかけるんだ。

 そんな光景を見ながら、イラついていた。
 サラにも精霊達にも……

 オレが(すさ)んでいるのは、周囲にはバレバレだった。
 ジョゼが慰めてくれるし、マリーちゃんも『あせらなくても、大丈夫ですよ〜 絶対、仲間は、見つかります〜』と、励ましてくれる。
 炎の精霊に囲まれたサラも、すまなそうにオレを遠くから見てる。

 お師匠様は渋い顔をし、『精霊界の最長滞在日数は二十日だ。炎界ばかりに時間をかけるわけにもいかん。明日の正午には、次のエリアに移動しよう』と、言った。
 しもべどころか仲間も得てないのに、明日の昼には炎界を出て行くんだ。
 随分情けない状態なのに、明日の昼が待ち遠しかった。炎界になんか、もう居たくなかった。


 炎界には夜も昼もない。一日中、外の炎に照らされ、昼間のように明るい。
 でも、『ルネ でらっくすⅡ』に入っていた『自動ネジまき 時計くん』のおかげで時間はわかる。

 夜の時間帯なんで、オレらは毛布にくるまり床に寝っ転がった。
 就寝を理由にサラが精霊達を追い出したんで、辺りは静かになった。しかし、しもべだからって理由でクマ野郎は残りやがった。で、今はサラの腕の中だ。サラはクマ野郎を抱っこして眠りに就いている。

 目をつぶってもイライラする。ちっとも眠れない。
 昨日もほとんど眠ってない。うとうとしても、すぐ目が覚めてしまうんだ。

「眠れないみたいね」
 体を起こした途端、声がかかってドキっとした。
 みんなが寝たと思ったから動いたんだが。

「うふふ。こっちにいらっしゃいな。少しお話しましょ、勇者さま」

 イザベルさんが、少しオレらから離れたところで真っ赤なソファーに座っていた。絹張りっぽい外見だ。
 ダークブルネットの癖のある髪が、ソファーへとかかっている。いつも大きく開いた胸元ばっか見ちゃうけど、流浪の民風のドレスはイザベルさんの美貌によく合っている。色っぽい。膝の上に水晶をのせ、イザベルさんはそれを愛しげに撫でていた。
 オレは近寄りはしたものの、勧められてもソファーに腰かけなかった。ソファーは、イザベルさんのしもべとなった炎の精霊『フラム』の変化だ。完璧にソファーになりきっちゃいるが、精霊の上に座るなんてオレ的には気持ちが悪い。
 人型になれるものをソファーにしたり、ぬいぐるみにしたりとか、理解できない。

「フラム、結界を張って」
 赤く厚い唇で、イザベルさんが左の小指の指輪に接吻する。血のように赤いルビーの指輪。『フラム』との契約の証で、指輪を通してイザベルさんは『フラム』に命令する。外界へ連れてゆく時も、この指輪に封じるのだそうだ。
 イザベルさんの命令を聞いて、炎の精霊がオレとイザベルさんを包み込む形で結界を張る。
「これで何を話をしても大丈夫よ。二人の会話は、外には漏れないわ」
「すっかり精霊支配者ですね」
 感心しちゃうよ。たった一日ちょっとで、イザベルさんは完璧に精霊を使いこなしている。

「私とフラムは相性がいいもの。仲良くなれて当然だわ」
 うふふと、イザベルさんが笑う。
「出逢ってすぐにわかったわ。この子は、私の所有物になる運命だって。水晶が私にそう告げたの」
 占いか……
 オレは、国一番の占い師に尋ねてみた。
「オレのものになる炎の精霊って……いるんでしょうか?」

「いるわよ」
 イザベルさんが、こともなげに答える。
「でも、今のあなたでは無理ね。運命の星を見いだせないわ」
 え?
「どういうことですか?」
 イザベルさんは妖しく微笑み、膝の上の水晶を撫でた。

「あなた……サラちゃんのこと、怒ってるでしょ?」
 む?
「……『アナム』が嫌いよね?」
 嫌いっつーか、ムカつく。かわいいぬいぐるみの振りしてるけど、あいつ人型の時、若い男だった……ぬいぐまじゃねえじゃん。
 むろん、あいつの本体は炎だ。なろうと思えば男女両方の人型になれるんだろう。外見なんか意味はない。
 だけど、サラと一緒にいる時のあいつの口調は男そのものだ。
 男としか思えない。
「……サラちゃんの周囲の炎の精霊達にも、腹を立ててるわね?」
 サラに媚びるあいつら、見てると気分悪い。

「勇者さま、その怒りが目を曇らせてるのよ。あなたは精霊達をきちんと見ていない。炎の精霊をいっしょくたに、気に喰わない存在と思ってるのよ」
「そんなことは……」
「ない? そうかしら? あなた、サラちゃんのとりまき、一体一体の個性の違いを見極めてる?」
「とりまきはとりまきでしょ? 個性なんて……」
「あら。同じ『勇者仲間』でも、私とサラちゃんじゃ全然個性が違うと思うけど?」
 それは……
「ジョゼちゃんもマリーさんも、全く違う魅力を持っているわ。この世に同じものなどいない。みんな、それぞれ違うのよ」
 そうだけど……
「萌える仲間を探しに来たのに、出会った精霊達を知ろうともしないなんて、失礼じゃないかしら?」
 う。
「誰でもいいから女、なんて……最低よ」
 ぐ。
「そんな男に、女が(なび)くわけない」
 ぐは。

 もっともだ。
 オレの仲間になりたいって子が来ないわけだ……

 がっくりと落ち込んだオレに、イザベルさんが優しい声をかけてくれる。
「大丈夫よ、勇者さま。まだ遅くはないわ……私があなたの運命を良い方向に導いてあげる」
「本当ですか……?」
「本当よ」
 イザベルさんは優しく微笑みながら、爆乳な胸元から赤い物を取り出した。

「あなたの開運グッズはズバリこれ! ルビーの飾りつきボウタイチョーカー! 古来より強力な護符とされてきたルビーは、勝利と栄光、愛と活力を授けてくれます。そして、何より」
「何より?」
「炎の精霊は、情熱的な赤い宝石を好みます。この宝石つきボウタイチョーカーが、あなたと新たな仲間を結びつけるでしょう」
「おおおお!」
 イザベルさんが、うふふと笑う。
「……今すぐ西に……こちらの方角よ……西にそのボウタイチョーカーを持って行きなさい。この建物の周囲には精霊がいっぱいいるわ。でも、誰が運命の星か、あなたならわかるはず。穏やかな心で精霊を見つめてみて」

 建物の端まで寄って、オレは外を見つめた。
 何重もの炎のカーテンが果てなく続いてるようだった。炎はゆらめき、はじけ、まじりあい、猛々しく踊り狂っていた。
 神殿の外に一歩でも踏み出したら、一瞬で黒こげになってしまうだろう。

 そこに精霊達も居た。
 サラに追い出されたものの、離れがたくて建物の側にたむろっているんだ。
 今はみんな、サラに気に入られる為の格好はしていない。思い思いの姿になっている。炎の馬やら鳥やら巨人みたいのやら……

 そんな中に……
 その子は居た。
 長い髪は天へと向かい、炎に溶け込んでいる。
 すべすべの陶器のような肌は真っ白だ。しかし、それは熱を帯びた白さだった。まばゆく白く輝いていて全体がよく見えない。
 けれども……
 ほのかにふくらんだ胸と、せつなそうな顔は見えた。
 赤ともオレンジともつかぬ瞳を細め、眉をひそめ、その子はサラを見ていた。泣きそうな顔だと思った。
 胸が、ちょっぴりキュンとした。

「こんばんは」

 オレが声をかけると、炎の精霊達のうちの何体かがオレを見る。女の子もオレへと視線を向けてくる。
 全体を見渡し、もう一度、女の子へと目をとめた。
 気になるのは、やっぱ、この子だ。
 悲しそうな表情は、陽気な炎の精霊には似合わない。

「サラは、しもべを増やす気はないよ」
 精霊は人の心が読める。
 だけど、あえて、オレは口に出して言った。

「サラについて行きたいんなら、オレのしもべにならない?」
 女の子が眉をしかめ、オレを見つめる。
「オレ、かなり嫌な奴だったろ? ごめん。さっき考えを改めた。くだらない理由で君らを一方的に嫌うような事は、もうしないよ」

《でも、あなた、アナムを嫌っている……》

 オレは、背後を振りかえった。
 サラは眠っている。炎の精霊が変化した、茶色いぬいぐるみを抱きしめて。
「うん。好きじゃない」
 正直にオレは言った。
「幼馴染が野郎と仲良くしてるみたいで、ムカつく」

《わたしも……ムカついている》
 少女の視線も、同じ所へ向かっていた。

《アナムったら、あの女に夢中なんだもの》
 あの女か……
 しもべ希望だけど、サラ本人に心酔してるわけじゃないのか。

《わたし達、ずっと一緒だったの》
 せつなそうな表情のまま、少女が唇を尖らせる

《同じ炎から、生まれたの。何をするのも一緒だった、いつもわたしの隣にはアナムがいたのに……》
 兄妹? 幼馴染み? 半身?
 わからないけど、あのぬいぐるみになってるヤツは、この子にとって大事な存在なんだ。

《アナムと離れ離れになるなんて、耐えられない……何十年も会えなくなるなんて……》
 ぶすくれた顔で、少女がオレを睨む。

 既視感を覚えた。

 昔、おんなじような顔で、オレを睨んだ奴がいた。
 オレがお師匠様にひきとられる前……さよならの挨拶に行った時だ。
『魔王が現れるまで、山ン中にこもるの? へぇ〜 ま、あんたみたいなバカのお守り、あきてたし。せいせいするわ。期待してないけど、勇者なんだから、せいぜいがんばってみたら?』
 そう憎まれ口をききながら、目に涙をためていた。

 目の前の精霊は、あの時のサラと同じ顔をしている……


 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……


 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。

《あと七十六〜 おっけぇ?》
 と、内側から神様の声がした。


 この子はもう仲間だ。魔王戦では呼び出せる。
 でも、できればしもべにしたい。魔王戦の時だけじゃなく、ずっと幼馴染みの側に居させてやりたい。
 オレはボウタイを女の子に見せて頼んだ。オレと契約を結んでくれって。
「期間は君が望む間、で構わない。嫌になったら、いつでも契約を反故(ほご)にして炎界に帰っていいよ」
 ボウタイを飾る宝石に宿ってくれって頼んだ。
 女の子はしばらく無言でオレを見つめ、それから名前を教えてくれた。
 オレを主人と認めてくれたんだ。

 その子の名は『ティーナ』と言った。





 翌日、サラは大はしゃぎだった。
「すごいじゃない、ジャン。アタシが寝てる間に炎の精霊を仲間にして、契約まで結んじゃうなんて」
 前日、前々日と、サラはオレに対し委縮していた。仲間探しの邪魔をしている事を申し訳ないと思ってたんだ。ティーナがオレの仲間になった事を、自分の事のように喜んでくれた。
 しかし……
《なんで、そんなバカそうな男と契約すんだよ!》
 サラの腕の中のぬいぐるみが、オレが右手に持っているボウタイに対し怒鳴る。
《どう見てもスケベじゃん! おまえをろくでもない事に使う気だ!》
 失敬な。
 ボウタイのルビーから、ティーナが上半身だけむくっと現わす。
《わたしがどーしよーが、わたしの勝手でしょ。あんたこそ、その女にデレデレしてるくせに》
《馬鹿! 俺は純粋にこのお方を精霊支配者として慕っているんだ! なあ、契約破棄しろよ。まだ、間に合う》
《わたしは、あんたと居たいの!》
 ティーナがキッ! と、ぬいぐるみを睨む。
《あんたが何と言おうが、ずっと、ついてく! わたしはあんたと一緒の世界に居るんだから!》

 ぬいぐまは絶句した。
 けど、嫌がらないところを見ると、まんざらでもないらしい。

 オレは、右手のボウタイチョーカーを改めて見直した。
 何の為に、このデザインのものをイザベルさんが渡したのか、ようやく理解できた。
「サラ、これ預かってくれない?」
「え?」
「オレ、すぐモノを無くすしさ。ほら、こないだも溺れて荷物ぜんぶ流しちゃったじゃん? これからも何あるかわかんないし」
「でも……」
「それに、おまえん所にあれば、オレがこそこそとティーナにちょっかい出せないから。そのぬいぐまも安心するだろ?」
 サラが、自分で抱えているぬいぐるみに目をやる。
「……しょうがないなあ、もう」
 クスリと笑い、オレの手からボウタイを受け取った。

 そんなわけで、サラのぬいぐるみは、ボウタイチョーカーを首に巻くこととなった。

 魔王が目覚めるのは、八十一日後だ。

 オレらは炎の神殿で唯一赤くない場所……床の白い魔法陣の上に立ち、次の場所への移動を願った。
 次のエリアに行ったら……最初から、ちゃんと精霊と向かい合おう。そう思った。


* * * * *


『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き
(セリアさんの要望を受け、一部項目を変更)

●女性プロフィール(№024)

名前 ティーナ
所属世界   精霊界内の炎界
種族     炎の精霊
職業     炎の精霊
戦闘能力   きっと高い
戦法     炎でドッカーン
留意すべき点 水に弱い
職業の説明  炎を司る
特徴     アナムと一緒に居たくてオレの
       しもべとなった。
       普段はボウタイチョーカーの
       飾りのルビーに宿って、
       サラの精霊のアナムにくっついている。
年齢     アナムと同い年
容姿     本体は炎。いろんな姿に変化できる。
       人型になると、炎の髪の少女。
       目はオレンジというか赤。
       体は発光してたけど、胸はふくらんでた。
口癖     不明
好きなもの  アナム
嫌いなもの  アナムと離れ離れになること
勇者に一言 『ご主人様(マスター)ありがとう』

挿絵(By みてみん)
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