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ハーレム100 作者:松宮星

幻想世界

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精霊界へ

「まったく情報収集になりませんでした。勇者様、もう少し思慮をもって行動する事をお勧めいたします」
 セリアがオレに『勇者の書』をつっかえす。
 お師匠様やマリーちゃん達に、後で幻想界の事を伺わせてくださいとか言ってるし。
 オレにはもう聞いてくれないの?

「勇者様、次の精霊界からは、きちんと調査すべき事はしてきてください。戦闘能力、得意戦法、可能な戦法、留意すべき特徴、種族特性、ジョブの説明は最低限欲しいところです」
「……はい」
 オレをしばらく睨みつけてから、セリアが大きく息を吐く。
「……私が同行すれば完璧な仲間データをつくれるのですが」
「おまえには、この世界に残り、働いてもらいたい。知識が豊富なおまえならば、的確に魔王戦への準備を進められるだろう」
 お師匠様にそう言われ、セリアは『心得ております』と、しょんぼりと頷きを返す。
 異世界に行きたいんだろうなあ。
 セリアは勇者おたくだ。過去の勇者達が赴いた世界に行けたら、大感激だろう。んで、立て板に水のごとくその世界やそこで活躍した勇者について語り続け……『聞いていらっしゃいます、勇者様? 勇者たる者、それ相応の知識がなければ恥かしいですよ』とオレにまとわりついて……
 うん……
 かわいそうだけど、留守番してもらう方がいい。オレ的に平和だ……

「では、賢者様〜 精霊界には、どなたを、伴う、おつもり、なのでしょ〜?」
 聖女の問いに、お師匠様はすかさず答えた。
「まずは、マリー、おまえだ。あの世界では、おまえの魔法が必要だ」
「はい〜」と、マリーちゃんがほんわかと答える。

「それから、サラ。勇者と共に旅をする事が、おまえの魔力を高めるだろう」
「はい!」と、サラが力強く答える。魔法が使えるようになったんで、前みたいな劣等感まるだしな表情じゃない。

「そして……」
 そこでお師匠様は言葉を区切り、オレの義妹を見つめる。
「ジョゼ。おまえにも、精霊界で働いてもらいたい」
 ジョゼの顔が、パァッと明るくなる。
「ありがとう、ございます、賢者さま……私、頑張ります……」

「あともう一人は……正直、誰でもいい。こちらの世界で用事のないものを伴おうかと思っている」

「いいえ、賢者さま。最後の一人は決まっています。私を伴ってください」
 突然、背後からかかった声に驚いて振り向く。

 オレの目に、たいへんつややかな、むっちりとした褐色の胸が飛び込んできた。
 オレの後ろに爆乳な方がたたずんでいる……
 あれ、いつの間に、そこに?

「私を伴わなければ、勇者さまの未来は閉ざされます。水晶が私にそう告げています」
 占い師イザベルさんが、にっこりとオレ達に微笑みかける。
「占いか……」
 お師匠様は思案するように首をかしげ、それから頷いた。
「わかった。精霊界には、おまえを伴おう」
「うふふ。賢明なご判断ですわ」

 オレは席から立ち上がり、背後に立っている女性に深々と頭を下げた。
 会ったらすぐ、お礼を言わなきゃって、思ってたんだ。
「イザベルさん、感謝してます。コーラル(珊瑚)のペンダント、ありがとうございました。おかげで、オレ、死の淵から舞い戻ってこられました。あなたは命の恩人です。本当の本当に、ありがとうございました」
 嵐の海で死ななかったのも、気絶してる間に人魚ちゃんに喰われずにすんだのも、み〜んなペンダントのおかげだ。
 ペンダントが、オレを守ってくれたんだ。
「いえいえ。お役に立てたのなら、何よりですわ」

「それから、すみません……オレ、その有難いペンダントを無くしてしまったんです」
「護符は役目を果たした後、消えるものよ。お気になさらないで、勇者さま」
 イザベルさんが笑う。セクシーな甘い声で。
「ご一緒するのですもの。精霊界では、あなたが運命の星と共に歩めるよう、お助けしますわ」
 おぉぉぉ、頼もしい!

「占い師風情が精霊界で何の役に立つのでしょう? はなはだ疑問ですが、現在、勇者仲間として何の仕事もしていない暇人である事は確かです。この世界からその女が消えても、痛手にはなりませんね」
 おもしろくなさそうに、セリアがイザベルさんを睨みつける。
「まあ、泥棒の知り合いだけあって、忍び足は上手なようですし……探せば、使い道もあるかもしれませんね」
 そうなんだよな……いつ、部屋に入って来たんだ、イザベルさん。全然、気づかなかったよ。

「精霊界に赴くにあたっては準備が必要だが」
 と、お師匠様が言いかけると、
「非常食糧でしたら買い置きがあります」
 すかさず、セリアが情報を伝達する。
「伯爵邸家人を含め勇者一行が半年は籠城できるよう、備蓄を準備いたしました。干し肉、乾燥パン、チーズ、乾燥果物など、携帯向きのモノも多数ございます。必要量をお持ちになって下さい」
「籠城?」
 ありえないだろうとオレは思ったんだが、
「災害等、思いがけないアクシデントが発生する場合もあります。決戦の日まで問題なく皆が過ごせるよう、備えておけば憂いはありません」
「さすがだな」と、お師匠様。
「ありがとうございます」
 セリアは得意そうに頬を染めた。

「非常食糧を持ってくのですか?」
 サラが首を傾げる。幻想世界じゃ、向こうの食物を調理して食べた。『異次元倉庫』内の非常食糧に手をつけた日の方が稀だったんだ。
「精霊界は我々の世界とはまったく違うつくりなのだ。人間が存在できる場所は限られている。現地での食料調達は、不可能なのだ」
 へーと、サラが目を丸める。
 お師匠様が全員を、見渡す。
「各自、半月分の食料を持って行ってもらう。私物は極力減らしてくれ」
「水は?」と、サラ。
「必要ない。マリーが魔法で生み出せる」
 ケリーさんから貰った魔法剣を振れば、オレも水を発生させられる。だけど、全員が飲む分つくるとなると、かなり運動しなきゃいけないだろう。あんまやりたくない……
「飲み水無しだとしても、半月分の食糧ともなれば相当な荷物になりますね……」
 と、サラは渋い顔。
「今回は天幕も無しだ。私は『異次元倉庫』に食糧を詰めてゆく。しかし、そちらはあくまでも非常用。長期滞在になった時の為の予備食と考えてほしい」

「あの……」
 ジョゼがためらいがちに口を開く。珍しい。ジョゼからお師匠様に話しかけるなんて。
「六人、必要なのですか……?」
 手をぎゅっと握りしめながら、ジョゼが言葉を続ける。
「伴う仲間が少ない方が……良いのでは? 携帯分しか食糧がないのなら……」
 たしかに、『異次元倉庫』の食糧は人数が少ない方が長持ちする。
 パーティから外せないのは、オレとお師匠様とマリーちゃん。サラも成長の為に同行した方がいい。
 減らすんなら、ジョゼかイザベルさんって事になる。
 ジョゼが泣きそうな顔で、お師匠様を見る。一緒に行きたいけれども重荷になるくらいならば残る、とその顔は言っていた。

「人数が多い方がいい」
 お師匠様が静かな眼差しで、ジョゼを見ながら言う。
「ジャンが仲間を得る為には、おまえを含む仲間達の協力が必要になる。共について来てくれ」
「……わかりました」
 安堵の息をホッと漏らしてから、ジョゼがオレへと、ほわっと微笑む。オレも笑みを返した。

「精霊界には明日、旅立つ。各自、今日は体を休めろ。セリア、旅立ちの準備を手伝ってくれ」
「了解です」
 お師匠様の呼びかけに、セリアが元気よく答える。

《あそばー おにーちゃん》
 話は終わったと見て、ニーナがオレに飛びついて来る。
《鬼ごっこしよー おにーちゃんが鬼ね》
 お師匠様が、ちょっと咎めるような視線をオレに向ける。休めと、目で言っている。
 けど、まあ……
 オレ達の還りを、ニーナはずーっと待ってたわけだし……
 少しは応えてあげなきゃ。
「いいよ。夕飯まで、遊ぼう」
《やったー うれしー おにーちゃん、大すき》

 ジョゼとマリーちゃんとパメラさんも、参加してくれた。ニーナはみんなとの鬼ごっこに、大喜びだった。

 サラも遊びに加わりたそうだったが、魔法鍛練をしなきゃいけないと断り、残念そうに部屋から出て行った。
 幻想世界では、大気まで魔力に満ちていた。周囲の魔力の源を利用すれば、簡単に魔法を発生させられたのだ。しかし、オレらの世界にそんなものはない。あっちのやり方のまんまじゃ、こっちじゃ魔法を使えないのだそうだ。
「魔法を使用する感覚は体が覚えてるから、コツさえつかめれば何とかなると思う」
 覚えた魔法をこっちで使いこなす練習をしなきゃいけないし、水や氷の魔法も会得しなきゃいけない。まだまだサラは、あれこれ忙しそうだった。





 翌朝、仲間達はオレの部屋に集まった。
 旅立つ者は、みんな、結構な大荷物だ。重いので、今は背負わず床におろしている。

「さっさと旅立ってしまってください。シャルルは朝が弱いんです。午前中は姿を見せません。ジョゼさんはとっくのとうに異世界に旅立ったと伝えて、あの馬鹿に、ほえづらをかかせてやります」
 オレとセリアは、ほんのちょっとだけ仲良くなった。共通の敵を持ったおかげだ。
 オレが情けない勇者なんで、まだまだ怒られてばかりだけどね。

「勇者様、困ったなーという時にはこれです!」
 ついさっき屋敷に現れたルネさんが、オレの手にかなりデカい革袋を押しつける。
「私の発明品を詰めた、その名も『ルネ でらっくすⅡ』! 行き先が精霊界である事を考慮した、改良版です! あらゆる危機に対処できる、発明品を詰めておきました! 旅のお伴にどうぞ!」
 ルネさんの目は赤い。瞼も重たそうだ。
 旅立つオレらの為に、徹夜で『ルネ でらっくすⅡ』を用意してくれたんだ。
 いい人なんだよな、ルネさん……これで、発明品がちゃんと役に立つのなら言う事ないんだが……

 ドラゴンのきぐるみのパメラさんが、べったりとお師匠様の背にくっついている。離れがたいみたいだ。
《おねーちゃん、なかないで。ニーナが、あそんであげるから》
 白い幽霊になぐさめられ、パメラさんはニーナと手をつないでお師匠様から離れる。
 ニーナは幽霊だから、人間だけど人間じゃない。パメラさんの対人恐怖症も、表に出ないようだ。

 そいや……カトリーヌ……昨晩、帰って来なかったけど……
 これから、パメラさん、カトリーヌと一緒に伯爵邸で暮らすのか……
 えっと……
 まずくないか、それ……
 あ〜 でも、部屋がある建物が違うし……
 大丈夫……
 だよね……?
 きっと……

 お師匠様が、『勇者の書 39――カガミ マサタカ』を物質転送で、呼び寄せる。
 三十九代目勇者は精霊界で修行をつみ、八大精霊を全て仲間とした人だ。
 その勇者の書を用い、精霊界に行くのだ。

「八大精霊を全て仲間としたいが、ジャンの頑張り次第だな。一人も仲間にできなかったとしても、二十日後には帰還する」

「遅くとも二十日後には帰還、了解です。お気をつけて」
《おにーちゃん、おねーちゃん、またねー》
「………」
「私の発明品はどれも最高です。使ってみてくださいねー」

 床に広がった魔法絹布の一番右端には、幻想世界とこの世を結ぶ魔法陣が刻まれて残っている。
 その魔法陣の左隣に、お師匠様は三十九代目勇者の書を置いた。

「いずれ、おまえは賢者として、次世の勇者を異界に導くのだ。今のうちにその法をしっかり覚えておけ。私の呪文の後に続け」
 と、言いつつ、お師匠様はオレにメモ用紙を渡してくれる。
 精霊界へ行く為と還る時の為の呪文だ。『勇者の書』に書き写した後、メモは焼却するようにとの添え書きもある。

 すみません、お師匠様、不肖の弟子で……


 魔王が目覚めるのは、八十三日後だ。


 そんなわけで、お師匠様が魔法で開いた魔法陣を通って、オレは仲間達と共に精霊界へと旅立って行った。
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