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ハーレム100 作者:松宮星

幻想世界

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幻想世界から

「やあ、ジャン君。久しぶりだね。異世界からの無事な帰還、まずはおめでとうと言わせてもらうよ」

 幻想世界へ回れ右したくなっちまったぜ……

 もとの世界に戻って、一番最初に見るのがキザ男の笑顔とか……これどんな悪夢?

《おにーちゃん、おかえりー》
 実体化したオレに、白い幽霊ニーナが抱きついて来る。

 オレは辺りを見回した。
 ここは……
 ジョゼのバアさん、オランジュ伯爵アンヌの屋敷。オレ用に用意してもらった部屋だ、間違いない。

 なのに、何で……
 シャルルが居るんだよ!

 魔法陣を通って実体化してくる仲間達に、お貴族野郎がもったいぶった挨拶をする。
「ジョゼフィーヌ様……素適だ。異世界から舞い戻られたあなたは、より美しく、より神秘的におなりですね」
 あ、こいつ!
 ジョゼの手をとるな、手の甲に接吻するな、笑いかけるな!
 嫌がってるじゃないか!

 友人っぽいさりげなさを装いつつも強引に、オレはジョゼとキモ男の間に割って入った。
「シャルル様。何故、この部屋にいらっしゃるんです?」
「フフフ、知りたいかい?」
 知りたかないよ、出てってくれりゃいい。二度とオレとジョゼの前に現れなきゃ、それで充分。
「私はニーナ様のナイトとして、ここに居るのだよ」

 はあ?

《きんきらのおにーちゃんとねー おともだちになったのー》

 お友達……?

「早く君達が還ってこないかと、ニーナ様は連日この部屋に通い、日々の大半をここで過ごしていたのだよ。実に、いじらしい。そうは思わないかね?」

 おまえの口から言われなくたって、ニーナがかわいいのは知ってるよ。

「しかし、オランジュ伯爵アンヌ様は君と対面できない。留守とわかっていても、君の部屋には立ち入れない。そこで、この私が一肌脱いだのさ」
 シャルルがフッと笑う。爽やかな好青年を印象づけるような笑みを、ジョゼへと投げかけている。
「ジョゼフィーヌ様。祖母君アンヌ様に代わり、この部屋にニーナ様をエスコートしております。ああ、あなたの婚約者として当然の振る舞いをしたまでですので、お気になさらず」
 点数稼ぎかよ!
 やっぱ、シャルル、ムカつく!

 キザ男が呼び鈴を鳴らし、オレらの帰還を召使い達に伝える。

 間もなく、セリアがやって来た。
 メガネの学者はオレらに対しにっこりと微笑みかけ、貴族令嬢らしい所作で挨拶をする。
「おかえりなさいませ、賢者様、勇者様、みなさま。勇者としてのご使命を果たしての無事なご帰還、まずは、お喜び申し上げますわ」
 あ?
「みなさまお疲れでしょう。まずはごゆるりとなさいませ」
 あれ?
 セリア……だよね?
 何か、口調、おかしくない?
「幻想世界でのご活躍のお話、一刻も早くお伺いしたいところです。けれども、異世界での穢れを落とし、仮眠、軽食をとられてから(のち)、といたしましょう」
 唖然として、オレはセリアを見る。
 サラも、びっくりして目を丸めている。うん、やっぱ、おかしいよね、セリア。
「セリアさん、熱でもあるんじゃ……?」
「まあ、私の体調まで心配してくださるなんて、勇者様は本当にお優しい方ですわ。あなた様の仲間にしていただけて、私、本当に幸せ」
 セリアがコロコロと笑う。
 背筋に悪寒。
 キモ〜〜〜〜

 笑顔を絶やさないまま、セリアはオレに近づいて来て……
 笑顔のまま、オレの足を踏んづけた。
 痛っ〜
 セリアが、ボソボソっと小さい声を発する。
「これから勇者一行が入浴・仮眠ともなれば、あの図々しい馬鹿だって帰ります。話を合わせて」
 シャルルをチラリと見ての、囁き。
 あ、いつものセリアだ。
 良かったぁ、壊れたわけじゃなかったのか。

「お疲れのところを煩わせては、申し訳ありませんね。今日はこれにて失礼いたします」
 キザ男は又もやオレのジョゼに近づき、もったいつけた仕草で手の甲に接吻しやがった。
「いつも、心にはあなたの笑顔があります。モン・アムール……次にあなたに会える日を心待ちにしています」
 とっとと帰れ、スケベ貴族!


 シャルルが消えた途端、セリアの態度はコロッと変わった。ツンと澄ましてるけど、はきはきした、いつものセリアに戻ったんだ。
「あの馬鹿、一日おきに、この屋敷に顔を出してたんですよ、まったくもって、いい迷惑です」
 馬鹿か……激しく同意。
 セリアはシャルルのまたいとこだけど、仲が良いわけじゃないのか。
「セリアさん……さっき口調が全然、違いましたよね……?」
 どういう事? と、サラが横から尋ねる。
 うん、オレも理由、知りたい。
「あのキザ馬鹿男、母のお気に入りなので……あの男の前では、過剰に貴族令嬢らしくふるまっています。学者になってから私の品が悪くなった等、ろくでもない事を、母に告げ口されては困りますので」
 セリアはため息をついた。
「私の母はたいへん貴族らしい、保守的な女性で……学者という崇高な職業に理解がありません。女性の社会進出にも反対しています」
 あらま。
「学者は薄給です。実家からの援助が断たれたら、充分な研究ができなくなります。なので……母の機嫌を損ねぬようにしているのですよ」
 セリアも、たいへんなんだなあ。

「どうでもいい話は、これぐらいにして」
 セリアがメガネをかけなおす。
「幻想世界でのお話、新しい仲間のこと、ぜひ、教えてください。情報を分析し、最善の戦闘方法を検討いたしましょう」
 ああ、いつものセリアだ。ちょっとほっとするな。

 難しい話に興味のないニーナはオレらの横で、ジョゼとお絵かきを始めた。
 幻想世界でだいぶ人間慣れをしたパメラさんも、セリアは苦手なようだ。お絵かき組の方を覗いている。

 召使がお茶を運んできてくれた。
 けど、来訪者はそれだけ。
 セリア以外の仲間が姿を見せない。
「みんなは?」

「ルネさんは、ご自宅です。発明用の道具も機材も、ご自宅の方が充実しているとの事なので」
 なるほど。
「オランジュ伯爵家の家人を使いに出しました。ノリノリで発明中でない限り、空を飛んで勇者様に会いにいらっしゃるかと」
 なるほど……

「アナベラさんとリーズは、遺跡探索の旅から戻っていません」
 そっか……
 オレが幻想世界に行ってたの九日だしな。探索っつーか盗掘だし、ちょちょっとできるもんでも無さそうだ。しょうがないか……
 ぷるんぷるんの、ぷりんぷりん……会いたかったけど……

「カトリーヌさんはフラフラしてらっしゃいますので、今、お部屋にいらっしゃらないかも。使いは出したのですが、ね」
 使いを出す?
 セリアは苦々しい顔で、カップを口に運んだ。
「カトリーヌさんは、別館に暮らしてもらっています」
 別館……?
「あの方……仲間候補だなんだと、毎日のように女性を連れて来るんです」
 ああ、そういや言ってたっけな、仲間集めに協力するって。口だけじゃなくって、ちゃんとやってくれてるのか。
「ですが! 連れて来るのは、戦闘力ゼロっぽい方だけ! 顔立ちが整っているとか、スタイルがいいとか……魔王戦で何の役にも立ちそうもない方ばかり!」
 ありゃりゃ。
 かわいい女の子を口説いて、つれこんでるだけなのか。
「見た目だけの方に、この建物をうろつかれては危険です。勇者様は節操無しですからね、誰彼かまわず萌えまくって、仲間枠を無能者で埋めかねません。なので、複数の女性を招くカトリーヌさんは、別館で暮らしてもらってるんです」
 そんな……誰彼かまわずじゃないよ、オレ……

 あともう一人の名前をあげないんで、こっちから聞いてみた。
「イザベルさんは?」
「占い師は自宅です。ずっと怪しげな商売に精を出してるみたいです」
 ツーンとした顔で、セリアが答える。あいかわらず嫌ってるなあ。

《かわいい!》
 部屋に、ニーナの明るい声が響く。ニーナは、ニコニコ笑っている。ジョゼの描いた絵を見て、おおはしゃぎだ。
 お?
 人魚に、ネコに、白ウサギに、ぬいぐるみのクマさんを描いたのか、ジョゼ。
《これ、みーんな、おにーちゃんが仲間にしたの?》
「ええ……あと森の女神さまと……エルフさんと……小人さんと……ドワーフさんと……人馬さんと、狼さんと……ゴーレムと……ドラゴンさまを……」
《すごーい、すごーい》
 と、ニーナが手を叩く。

 セリアが感心したようにオレを見つめる。
「ドラゴンを仲間にできたのですか? 凄いですね」
 えっへん。
「若干、疑問な仲間も含まれている気がしますが、ドラゴンの参戦は心強いです。魔王への大ダメージを期待できますね」
 でしょー
「さすが勇者様。普段はいい加減でも、働くべき時にはきちんと働かれるのですね、見直しました」
 いや、まあね、オレも勇者だし! やる時はやりますよ!

「ところで勇者様。お願いがございます」
「何?」
 何でも言って! 任せて、オレに!

「『勇者の書』を拝見させてください」

 え?

「セリアさん……オレの『勇者の書』を見たいの?」
 セリアが頷く。
「『勇者の書』って……勇者が自分の冒険をつづったもので……ぶっちゃけて言うと、日記帳なんだけど……」
「存じています」
他人(ヒト)の日記、見たいなんて……言っちゃなんだけど、いい趣味じゃないよ、セリアさん」

「興味本位で拝見させてもらうのではありません」
 メガネのフレームを押し上げながら、セリアが言う。
「幻想世界で得た新たな仲間のデータが欲しいのです。情報を分析し、勝率を計算し、最善の計画を立て、我々は魔王戦に勝利しなければいけません」

「で、でも……」
 オレは抵抗した。
「日記帳なんだよ……?」
「該当ページの該当箇所しか、見ません。問題ないはずです」
「だけど……」

 セリアさんがキッ! と、オレを睨む。
「では、質問します! 勇者様は新たに加わった仲間の、どのような特殊能力・技能を用いて、どういった展開を、魔王戦でご計画なのですか?」
 う。
「勇者様の立案なさった計画が完璧なものでしたら、『勇者の書』を私が拝見する必要などないでしょう」
 ぐ。
「お聞かせ下さい、勇者様。新たな仲間を、どのような形で活用なさるおつもりなのですか?」
 ぐは。

 オレに計画など……
 あるはずがなかった……

 んで、『勇者の書』をセリアに見せたんだけど……

「何ですか、これは?」
『勇者の書』の裏表紙を右手でパチンと軽く叩き、セリアが詰め寄って来る。
「どの頁も、女の子の外見がどうの、年齢がどうの、くだらない情報しか書いてないじゃないですか!」
 く、くだらなくなんか……
「戦闘方法も推測だけ! どんな能力があるのか、何故、きちんと調査してこないんです。特に、この頁! 『戦闘方法 何だろうねえ』などと! ふざけています! あなた、やる気があるんですか!」
 あります……あるんです……一応……
「そもそも、幻想世界に到着した日からしておかしい! 何故、女性データしか無いんです!」
 え?
「あなた、幻想世界に渡る、貴重な呪文を賢者様から教わってるんですよ! 『勇者の書』に記すべきは、髪の毛がどうのだの胸がどうのではなく、転移魔法の呪文じゃないんですか?」

「あ……あのね……セリアさん、オレ、あっちに行ってすぐ、嵐の海に落っこちてね……」
「そのようですね」と、『勇者の書』を見ながらセリア。
「溺れて、死にかけて、それで…………ちゃったんだ」
「は? 何です? 聞こえません」
「だから…………ちゃったんだよ」
「聞こえません、もっと大きな声で言ってください」
 オレは覚悟を決めて、セリアのリクエストに応えた。
「だから、忘れちゃったんだよ、呪文! きれいさっぱり、ぜ〜んぶ、忘れた!」

「どこまで愚かな方なのです、あなたは!」
 セリアが畳みかけるように、罵詈雑言をオレに浴びせる。
 だが、それよりも何よりも……
 やれやれといった感じで溜息をつくお師匠様の姿の方が、オレ的にはつらかった。ごめんなさい、お師匠様……ダメな弟子で……
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