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ハーレム100 作者:松宮星

幻想世界

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ドラゴンの女王   【アシュリン】(※)

 超乳魔法岩石(ゴーレム)ゾゾに運ばれ、オレらはドラゴンが棲む岩山に降り立った。

 ドラゴンといえば……
 幻想世界においても、最強の生き物だ。
 大トカゲに似た恐ろしげな外見。小山を思わせる体、鋭い口に、巨大な爪、ぎょろりと獲物をみすえる巨眼。
 雄大な外見でありながら動きは速く、背の二枚の翼で風のように空を駆けるのだ。
 そして、口からは強烈な火焔を吐き、何もかもを燃やし尽すといわれている。

 オレらの世界には、ドラゴンは居ない。古えの時代に滅びてしまったんだ。
 獣使いパメラさんにとって、ドラゴンは憧れの生き物。
 オレにとっても、何となく、恐れ多い存在だ。九十六代目勇者だったお師匠様が騎乗した、生き物だし。

 なのに……
 オレらが降り立った先に、巨大な生き物はいなかった。
 それほど背が高くない黒衣の女性が一人、たたずんでいるだけだった。

「ひさしぶりじゃな、シルヴィ、息災そうで何より」
「再びお目にかかれ、光栄に存じます、アシュリン様」

 お師匠様の挨拶に対し、黒衣の女性が鷹揚に頷く。

 美しい女性だった。
 背に垂れている髪も黒い。気品に満ちた顔立ち、意志の強そうな眉、高い鼻、薄い唇。
 毅然としているというべきか……
 たたずんでいるだけなのに、他を圧倒する存在感があった。
 ただの人間のはずがない。
 変化したドラゴンに、違いない。

「そなたが、今の勇者殿か」
「はい、百一代目勇者ジャンです」
 金色に輝く眼が、オレを見つめる。
 何もかもを見通す、観察者の眼だ。
 それでいて、慈愛のような感情もこもっている。小さきものを愛しく思う、大いなるものの眼だった。

 パメラさんや三人の獣達が、求められてもいないのに、黒衣の女性に対し膝をつく。
 敬意を表すべき存在と対したのだと、本能で感じたのだろう。
 マリーちゃんも、頭を下げる。ジョゼやサラも、聖女に倣い、黒衣の女性に礼をとった。

「五人目か……」
 オレを見つめるアシュリン様の顔に、笑みが浮かんだ。
 優しい笑みなんだが、何処か悲しそうな……
 心をざわつかせる、綺麗な笑みだった……

「そなたが勇者として、真の務めを果たすことを祈る……シルヴィの為にも、真の男となってくれ」

 お師匠様の為に、真の男になる……?

 アシュリン様が、滑るような動きでオレへ近寄って来る。
 オレのすぐ前に立ち、両手を広げた。長い爪の美しい指が、オレの頬をからめとる。オレの顔を自分のそばへと引き寄せる。
「祝福をやろう。受け取るがいい」


 黒衣の女性が、どんどん顔を近づけてくる。

 美しい顔……

 そして、赤い唇が……オレの口へと迫ってきたのだった……


 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……


 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。

《あと七十七〜 おっけぇ?》
 と、内側から神様の声がした。


 オレの心臓は、もうバクバクだ。

 初めてが、こんな……
 公開羞恥プレイというのも、ちょっとアレだけど……

 悲鳴のような声が、周囲からあがっているような……
 サラか? うるさいなあ。

 やわらかな息が、オレの唇にかかる。
 アシュリン様の綺麗な顔が、オレだけを見つめている……

 触れ合う息が……
 熱い……

 あと、もうちょい……
 もうちょいだ……

 だが、アシュリン様は、後一歩を踏み出してくれない。
 キスができそでできない距離で、誘うように息をかけてくるだけだ。

 心臓が痛い……
 鼓動が激しすぎて、もう、破れそう……

 これは……

 待っているんですよね、アシュリン様!
 オレからのキスを!

 こ、こ、ここは、応えるべき、ですよ、ね!
 男として!

 唇を、ちょ、ちょ、ちょっと、つきだせば……
 届く……

 勇気を出して、オレは踏み込んだ。

 しかし……

 やわらかな唇の感触はなかった。
 固いものに阻まれている。
 オレとアシュリン様の間に、白くて小さなものがある……?

 アシュリン様が滑るように、後ろに下がる。オレから身を引いてしまう。

「ドラゴンの祝福を与えた。(わらわ)の気が、志を果たす助けとなろう」
 気……?
 ドラゴンの気をオレに送った……だけ?
 それだけの為に、顔を近づけていらっしゃったんですか……?

 体から、がっくりと力がぬけた。

 アシュリン様は右手に持っていたモノを、オレの左の掌にのせた。
「体内にあった不純物は、取り除いておいた。我が気を得た以上、もはやこれは要らぬであろう?」

 掌にあるのは、白くて小さな塊。真珠だった。
 さっき、オレとアシュリン様の間に、突然、出現したヤツだ。

「みぎゃー!」
 ミーがオレにタックルしてくる。ハッハッハッと、荒い息を吐きながら。

「お、おにーさん……すき、すき、大好き……愛してるにゃー」
 ん?
 ミーはオレの左手を見つめながら、媚びるようにスリスリしまくる。
「人魚の涙、ちょーだい、にゃー!」
 人魚の涙?

「人魚の生態は謎に包まれている。しかし、その涙が真珠となり、肉食獣にとって魅惑的な匂いを発する事は知られている」
 お師匠様が、いつものように淡々と解説してくれる。
「人魚が泣く理由も推測の域を出ないが……自分の予備餌に印を与える行為という説が有力だ。仲間に奪われぬよう、泣いて餌に涙を与える。餌に自分の強烈な匂いをつけておく為だ」
 オレ、人魚の餌マークをつけて歩いてたのか……うまそうな匂いをまきちらしながら。

 ふらふらと歩み寄ろうとしたピアさんを、ミーは毛を逆立てて威嚇し追い払った。
 ドラゴン女王様の前だというのに、ミーは完全に理性を失っている。真珠を凝視し、ヨダレをたらしている。
「人魚の涙は、世界三大珍味の人魚の中でも、超レアな部位にゃー おにーさん、大好きにゃー 愛してるから、レア部位、ちょうだい、にゃー」
 涙なら、部位じゃないじゃん。
 そう思いながら、「やるよ」と、ミーの顔の前に差し出した。

 ネコ獣人は、鋭い牙で真珠を噛み砕き、口の中で嬉しそうに味わってから、ごっくんと飲み込んだ。食後も、ペロペロと舌なめずりをしている。

 そして、ミーの愛は……
 一気に冷めた。
 オレの側からぷいっと離れ、パメラさんの元へと向かう。
 ま……そんなもんだと思ってたよ。


 それから、お師匠様はアシュリン様に、オレの剣をドワーフに依頼している事を伝えた。
 アシュリン様の力で、完成品をオレらの世界に運んで欲しいのだと。
「造作もないこと。ドワーフの鍛冶師に、妾と直接話せる守りをやろう。完成次第、妾がその者の元へすぐに行けるように」

「よろしければ、その守り、あっしがお届けいたしやしょう」
 白ウサギのシロさんが、ぴょんと一歩、ドラゴンの女王様の前に進み出る。
「手前、生国は西の野原にござんす。縁もちまして、先日より、地下迷宮を束ねておりやす。シロと申す、しがないかけだしもんにござんす。アシュリン様におかれましては、行く末永く、ご別懇の程をお願い申し上げやす」
「さようか。丁寧な挨拶、いたみいる。ウサギ殿」
「ドワーフさん一家と、あっしらウサギ族は懇意にござんす。ドワーフさんへのご用命でしたら、あっしをお使いください」
「それはかたじけないな、ウサギ殿」
「とんでもねえ。勇者一行さんへの、ほんのご恩返しにござんす」

 シロさんがアシュリン様にペコリと頭を下げてから、オレへと視線を向ける。
「勇者の兄さんと姐さん方のおかげで、ちっぽけなこのあっしが、ドラゴンの大親分とまみえる事ができやした。兄さんや姐さんの為に働けるんなら、むしろ喜びでござんすよ」

 シロさん……

「あっしと兄さん達との旅は、ここまでだ。ありがとうございやした。もとの世界でも新たな世界でも、兄さん達がご活躍なさる事を陰ながらお祈りしておりやす」
 シロさんがひょこんと頭を下げる。耳がぺたりと垂れる。

 うぉぉぉ、シロさん!

「魔王戦では、あっしやミーやピアを、心おきなくお使いくだせえ。召喚の日を指折り数えて、待ってやすよ」

 あぁぁぁ、シロさんっっっ!

 たまらず、オレはかわいい白ウサギを抱きしめてしまった。
「おやめなせえ。あっしは、ヤクザな女。関わりすぎると、ケガしますぜ」
 と、シロさんは言ったけど、鼻はプフプフと鳴っていた。

 クマ族代表ということで、ピアさんも元気よくドラゴンの女王様に御挨拶をした。
「ピアでーす。はじめましてー」
 オレンジのぬいぐるみクマさんが、両手をあげ、
「がぉー」
 と、吠えた。
「がお〜」
 アシュリン様も、同じポーズで吠え返してくださった。しかも、笑顔で!
 えっと……
 このスタイルが、クマ族の正しい挨拶なのか?
 アシュリン様はやさしく微笑みながら、何か食べたいものがあるかとピアさんに聞いた。
「何でも食べるよー!」と、クマさんはお利口に答えを返していた。
 岩場の奥に花畑があり蜂の巣もあると教えられ、ピアさんはよだれをたらし始めた。良かったね、ピアさん、荒野でも蜂蜜を御馳走してもらえそうだね。

 オレはオレらの背後に控える魔法岩石巨人を見上げ、アシュリン様に尋ねた。
 オレが居なくなった後、『ゾゾ』はどうなるのか? って。
「客人が帰られた後、ゴーレムはただの土くれと岩に戻る」
 オレが造り出した、ゾゾは消えてしまうのか。ボンキュッボンな天使ゴーレムなのに。

「しかし、まあ」
 アシュリン様は面白しろそうに、オレと巨人を見つめ、静かに笑った。

「魔王戦が終わるまで崩さず、とっておいてやろう。勇者殿の仲間の一人となったようだし、の」
 おおお!
「ありがとうございます! アシュリン様!」
 思いをかけ過ぎてつくったせいか、ただの岩石って気がしない。
 セクシーで魅力的な、女の子に見えるんだよ、ゾゾは!
 崩しちゃ、かわいそうだ。

「すみません、アシュリン様」
 お師匠様が深々と、頭を下げる。
「猥褻な造形のものをジャンが創造してしまって……」
 む。
 猥褻じゃない。
 ゾゾは、芸術品だ。

「訪れるものなど、めったにおらぬわ。気にするでない」
 アシュリン様が快活な声で、笑う。
「裸の大女がいても、見るのは妾だけじゃ」

「お一人なんですか……?」
 オレの問いに、黒衣の女性は頷いた。
「ドラゴンは、群れをなさず生きるもの。集うのは、数十年に一度の繁殖期か、種族会議の時のみ。妾は個体として最強ゆえ女王ではあるが、誰も統べてはおらぬ。一体で暮らしておる」
 そういうものなのか……

 あまり踏み込んで聞くのも、ためらわれた。
 お師匠様が勇者の時代も、アシュリン様はドラゴンの女王だった。
 けど、その時、アシュリン様は自分の子供と一緒に暮らしていた。孤独じゃなかった。

 お師匠様の『勇者の書』には、当時の事が記されていた。
 アシュリン様の子供は、まだ若い、陽気なドラゴンだった。
 異界からやって来た白銀の髪の女性に一目ぼれをし……共に戦うと誓い、彼女の世界を救う戦いに赴いた男……
 フォーサイス。

 魔王戦でお師匠様は大切な相棒を失い……
 アシュリン様は愛する息子を失ったんだ……

 百年ぐらい前の事ではあるが。

「しかし、縁とは奇なものであるな。のぅ、シルヴィ」
 アシュリン様が楽しそうに笑う。
「勇者殿のおかげで、妾はおまえの世界の魔王と戦えるわ。決戦の日を楽しみにしておるぞ」
「心強いお言葉をいただけ、嬉しく思います」
 お師匠様が恭しく、黒衣の女性に頭を下げる。
 アシュリン様は、いたわるように、慈しむようにお師匠様を見る。

 仲間にしちゃったから、アシュリン様はオレの伴侶なわけで。
 恐れ多いが、一応、夫婦。

 で、亡くなった息子のフォーサイスはお師匠様にベタ惚れで、押しかけ相棒になってたわけだから……
 お師匠様はオレにとって……義理の息子の嫁……でもって、未亡人?

 いやいやいやいや!

 お師匠様とフォーサイスは、夫婦でも恋人でもなかった!
 フォーサイスは挨拶代わりに愛の告白をするような奴だったけど、お師匠様はフォーサイスの事を『愛していた』わけじゃない。

 少なくとも……
『勇者の書』には、そんな記述はなかった……





 三人の獣人達が帰途につく時は送って欲しいと、ゾゾに頼んでおいた。

 ミーもピアさんも名残惜しそうに、パメラさんにぎゅ〜とくっつき、なかなか離れなかった。

 サラ達も、シロさんをぎゅっしてた。
 次にシロさん達に会えるのは、魔王戦当日だ……

 お師匠様が、自分の書の表紙を地面に置き、呪文を詠唱する。
 オレにも唱えろって言うから、後には続いたけど……
 又しても、向かい合って、デコをくっつけての呪文詠唱だ。

 お師匠様は無表情だけど、とても綺麗だ。

 勇者として、昔、ここにやって来た時も、こんな風だったんだろうか……?
 それとも……フォーサイスが愛したお師匠様は、まったく違う表情をしていたんだろうか……?

 駄目だ。
 集中できない。
 無理です、お師匠様。
 お師匠様とキスができそうな距離で向かい合うと、やけに心が乱れます……


 魔王が目覚めるのは、八十四日後だ。


 アシュリン様を含め、オレは十二人の伴侶を幻想世界で得る事ができた。
 愛しくって、頼もしい仲間達だ……

 一人一人を心に浮かべながら、オレは……
 幻想世界に別れを告げ、お師匠様達と共に、もとの世界へと還っていった……


* * * * *


『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き

●女性プロフィール(№023)

名前 アシュリン
所属世界   幻想世界
種族     ドラゴン
職業     女王
特徴     ドラゴンの中で最も強い個体。
       お師匠様が勇者だった頃から女王だった。
       お師匠様の竜騎士時代の相棒の
       フォーサイスの母親。
       人に変身すると、黒髪、黒衣の美女となる。
       ピアさんに優しかった。
       子供好き?
戦闘方法   ドラゴンになって戦う
年齢     数百歳
容姿     ドラゴン時の姿は不明。
       人型の時は黒髪、黒衣の
       威厳あふれる美女。
       目は金色。
口癖    『造作もない』
好きなもの  不明
嫌いなもの  不明
勇者に一言 『真の男となってくれ』
挿絵(By みてみん)
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