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ハーレム100 作者:松宮星

幻想世界

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小ちゃくても元気! 【モーリン】(※)

 木のテーブルの上には、女の子が喜びそうなモノがいっぱい並んでいた。
 果物や野菜の蜂蜜漬け入りのビンがずらっと置かれ、乾燥果物入りのケーキが切られている。他にも、山盛りのクッキー、野苺や蜂蜜、蜂の巣の一部など甘そうなものだらけ。

 ティーセットの側に、かわいらしい女の子が眠っていた。

 ナプキンを枕に、仰向けに、すぴすぴ眠っている。
 とんがり帽子をつけたまま、だ。
 すっごく小さい。帽子をとったら、紅茶用スプーンより小さそう。
 小人さんだ。
 帽子と同じピンク色のチュニックで、 白いタイツな、小人装束。
 薄桃色の髪、ふっくらとした頬、いい夢を見てるのか顔には幸福そうな笑みが浮かんでいた。
 そして彼女の口のまわりや、眠っている周囲には……クッキーの粉や破片が散らばっていた。

 きっと……
 テーブルの上を大はしゃぎで走りまわって……
 ニコニコ笑いながらお菓子を頬張って……
 幸せな気分のまま眠っちゃったんだ……

 かわいいなあ…… 


 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……


 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。

《あと八十二〜 おっけぇ?》
 と、内側から神様の声がした。


 あ……

 お師匠様が、ため息をつく。

 小人さんは、決して弱い種族ではない。
 子だくさんで、仲間の数が多いからだ。
 リーダーの統率の下、小人さんは、わらわらと動く。時には千人、なんて数にもなる。自分達より遙かにデカいクマ獣人を、瞬殺だってできちゃう。

 でも、小人さんの良さは、団体行動にあるわけで……
 単体としてみれば、小人さんは、幻想世界の中では最弱クラス。
 魔王に百万ダメージは……無理だろう。掌サイズなんだもん。
 あぁぁぁぁ……やっちゃった、オレ……

 今、テーブルの上には、ピンクな小人さんが一人だけ。単独行動をしているのか?

「ハチミツ! ハチミツ! ハチミツ!」
 ピアさんが口をくわっと開き、テーブルの上の蜂蜜瓶を凝視している。『よそ様ん家じゃ、行儀よくしろ。勝手に喰ったらお仕置きするぜ』と、姉貴分から強く命じられてるから、跳びつくのは我慢してるようだ。
 けど、人型でも恥じらいはないみたいで、口から派手によだれを垂らしている。ハッハッハッハッと荒い息も吐いている。
「どうぞ、召し上がれ……」
 ピアさんの迫力に押され、エルフのイーファさんがそう言うや……
 ピアさんはテーブルに突進。一瓶を左腕に抱え、マイ蜂蜜瓶とした。
 右手を瓶につっこんで、蜂蜜まみれにして、ペロリペロリと舐め始める。
 指をつたい、掌をつたい、手首をつたう、蜂蜜を、ピアさんが愛しそうに舐める。
 赤い舌がぴちゃぴちゃと、自分の指を舐め回す……
 人型だもんだから……
 何かちょっと、エッチ……

 ピアさんがテーブルを揺らしたんで、小人さんが目を覚ました。
 眠たそうな目で、オレを、お師匠様を、仲間達を見渡している。
 しばらく、ボーッとしていた。が、このログハウスの住人……花エルフのイーファさんが目に入った途端、完全に目が覚めたようだ。
 小人さんはけたたましい声をあげて、立ち上がった。

「さ、イーファ、行くわよ、エポナに!」
「待って、モーリン、あのね」
「ダメ! ダメ! ダメ! あたし、もう、誘惑にはのらない! トロトロの蜂蜜をたらした、ふわふわのケーキだって我慢する! どんなお菓子を出したって、もう食べないわよ! ひきずってでも、あんたをエポナまで連れてくんだから!」
 掌サイズの小人さんが、オレよりも背の高いエルフに向かって吠える。こ〜んな小さいのに、ひきずってくとか無茶な。

 イーファさんが言ってた、エポナの街の使いって……このちっちゃな小人さんなのか……意外。
 人間の足でも三日かかるって街から、こんなちっちゃな子がテクテク歩いて来たわけ?

「話を聞いて、モーリン」
 エルフのイーファさんが、満面の笑顔でオレを掌で示す。

「私の代理に、この方にエポナに行っていただくわ。彼は、何と! 異世界の勇者様なのよ!」
「はぁ?」
 小さな小人さんはテーブルの端までやって来て、オレを上から下までじろじろと眺める。遠慮のない、目つきで。
 そして、オレを指さして、叫んだんだ。
「コレのどこが勇者なの? 見るからに、弱っちそうじゃない! 嘘をつくなら、もっとうまい嘘をつけば!」

 コレ……
 弱っちそう……

「私も貧弱な勇者だと思うわ! でも、本当の本当の本当に、勇者みたいなの!」

 貧弱な勇者……
 勇者……みたい?

「そんな、『とりあえず勇者になりました』なんて男には用はないの! あたしは、エポナの街を救える者を連れて帰るの! ンな狼の爪の一撃で沈むような男はいらない!」

『とりあえず勇者になりました』……
 狼の爪の一撃で沈むような男はいらない……

「そこまで言う事ないじゃない! 彼、異世界を救う旅の最中なのよ! わざわざ、エポナの為に、寄り道してくれるのよ! 感謝して、連れ帰りなさいよ!」
「連れ帰ったところで、死体が一つ増えるだけよ! あたしは、町の救世主が欲しいの! 死骸が欲しいんじゃないわ!」

 うぅぅぅ……
 しょぼんと落ち込んだオレ。
 ジョゼが、そっとオレの背に手をそえ、慰めてくれる。

「さっさと来なさいよ、イーファ。あんたが、ちょちょいと蜂どもで狼を追い払ってくれれば済む話なんだから」と、小人さん。
「いやよ! 狼の群れを追い払うなんて、嫌! 私のかわいいハニー・ビーちゃん達の数が、ものすごく減っちゃうじゃない!」と、エルフさん。

 エルフさんが、バンとテーブルを叩く。
 テーブルの上の小人さんが、よろけて尻もちをつく。

「だいたいね、何回も何十回も言ってるでしょ! 私はここを離れられないの! ハニー・ビーちゃん達にお花達の手入れを頼むのも、雨が足りない時に雨雲を呼ぶのも、病気になったお花を癒すのも、肥料を撒くのも、繊細なハニー・ビーちゃんのお世話をするのも、み〜んな私。み〜んな私一人がやっているのよ。私、すっごく忙しいの。何日も家を空けてる暇なんかないの!」

 ちっちゃな小人さんが立ち上がり、ジロッとエルフを睨みつける。んでもって、悔しそうに左足でバン! と、テーブルを蹴った。

「こっちだって、何回も何十回も言ってるわよ! 一週間やそこら家を開けたって、野の花が枯れるわけないじゃない! エルフなんかいなくたってね、野に花は咲き、緑はあふれるのよ!」

「栄光ある花エルフを侮辱する気?」
「真実を言ってるだけよ、馬鹿エルフ。あんたの家族も街のエルフも、『自然の呼び声が聞こえる』だの、『花が私を呼んでいる』だのぬかして、しょっちゅう旅に出やがって!」
「大自然の求めに応えているだけよ。私達がハニー・ビーちゃん達に授粉を命じて旅をしているからこそ、この世界は緑に満ちているのよ。偉大なるエルフがいなければ、次世代の植物は育たないわ!」
「だ〜か〜ら! それがバカげた思い込みだって言ってるの! 馬鹿エルフが来なくたってね、その土地ごとに蝶や蜂がいるわよ! 風にのって受粉ってこともあるわよ! あんたらが旅しなくても、緑は絶えないわよ! エルフの授粉の旅は、自己満足にすぎないの!」
「エルフの尊い使命を辱める者は許さないわよ!」
「こっちこそ許さないわよ! 街の巡回警備は月ごとの持ち回りよ! 今月はエルフの担当! 『花の声のままに』ってサボって旅に出た馬鹿いとこ達の分、一族で責任とれ! いとこの代わりに、狼おっぱらってよ! 責任を放棄するなんて恥知らずな行為、誇り高いエルフ様なんだから、絶対にしないわよね!」

 あぁ……
 なんか、いろいろ真実が見えてきた……
 イーファさん、いとこの尻ぬぐいを、オレらに押しつけようとしてるのか……

 イーファさんはぐっと喉をつまらせ、それから、にこやかな笑顔をつくって、背後からオレの肩を抱いた。で、ぐっと小人さんの前に押し出した。
「だから、責任をとって、異世界の勇者様を紹介してるのよ。彼が行けば、争いは鎮まる。エポナに平和が戻るのよ」

 小人さんが、オレとエルフさんをおっかない顔で睨む。
「その弱っちそうな男が、どうやって、狼獣人を追っ払うって言うの?」

「大丈夫!」
 イーファさんが、強い口調で言いきった。
「この勇者様の仲間には、あらゆる獣を従わせる『獣使い』様がいらっしゃるのよ!」
「え?」
「狼どもも、その方にかかれば、従順なワンコちゃんになるわ。戦わずして、あいつらを荒野に追い返せるのよ」

 小人さんが、オレとエルフさん、それからオレの仲間達を見渡す。
 オレの背後に立つ、お師匠様に、ジョゼに、サラに、マリーちゃん、シロさんと、ミー。
 ピアさんだけは、テーブルで、蜂蜜まみれの自分の右手を舐めている。うっとりとした、エッチっぽい姿で。
 コレじゃないわね! って感じで、小人さんがピアさんからプイと顔をそむける。
「どなたが、獣使い様なのです?」
 小人さんが敬語を使って、オレらに尋ねる。

 オレ達は、一斉に窓を指さした。

 小人さんも、そちらを見る。

 窓の外には……
 ログハウスには入らず、外に残った仲間が居る。
 天へと顔を向け、精神を集中し、大型獣に『呼びかけ』をしているのだ。
 獣使いの心の声は、遙か遠方にいる獣にも伝わるのだそうだ。従うべき主人からの求めとあらば、どんな困難があろうとも、獣は主人のもとへ馳せ参じるのだそうだ。

 パメラさんは、今、真剣に獣達に呼びかけているのだ。

 たとえ、その姿が……
 バンザイするかのように上げた両手をゆらゆら揺らし、腰も左右にふらふら振って、のほほんと、お遊戯しているようでも……
 全身が、もこもこの緑のきぐるみで覆われていようとも……
 真剣なんですよ……

「あれの、どこが獣使いなのよ!」
 ああ、やっぱり、わかってくれない……
「嘘つくんなら、せめて他人をだませる嘘をつけー!」

 口でいくら説明しても、小人のモーリンちゃんはオレらを嘘つき呼ばわりした。

 しかし……
 エルフの丘の下は、蠢く中大型の獣でいっぱいになった。巨大なヘビやらトカゲやらイノシシやら鳥やら、もう、わんさか。
 パメラさんが呼び寄せた、『人間を十人ぐらい運べる、素早く移動できるもの』達を見て、モーリンちゃんどころかオレまであっけにとられていた。

 パメラさんが丘下にパタパタと駆け降り、オレらも後を追った。蜂蜜に夢中なピアさんは動かなかったけど。

 パメラさんは、獣達に向かって『集まってくれたお礼』を言い、『エポナまですぐに行きたい』とお願いをした。
 潮が引くように数が減った。エポナへの行き方がわからない者、小さめの獣、それほど足が速くないものが、残念そうに引き返してゆく。そして……
 巨大な翼を持ったロック鳥、地面をもこもこに隆起させながら移動する大ミミズ、もじゃもじゃの足で地を這う大ムカデが残った。

「三匹とも……今日中に、私達をエポナまで運べるって言ってる……」
 スネちゃんを装備したオレに、パメラさんは得意そうに微笑んでみせた。

 しかし……

「鳥! 鳥にしてもらって! 鳥以外は、絶対、嫌! 乗らないからね!」
 と、サラが涙声で叫ぶ。ジョゼと震えながら、抱き合っている。その足元でミーも縮こまっている。
 サラ、相変わらずムカデ嫌いなのかあ。ミミズも、女の子的には駄目だろう。

「どいつもこいつも、肉食じゃござんせんか」
 マリーちゃんに抱っこされてる、シロさんもブブっと不快そうに鼻を鳴らした。

「平気だよ、パメラさんの言う事、みんな、聞いてくれるから」

 鳥とミミズとムカデ。
 三頭の巨大獣は……
 オレを取り囲んでいた。
 オレをガン見してる。
 今にも跳びかかってきそうな気配。

 パメラさんから『食べちゃ駄目』と禁じられてるから、我慢しているんだ。

 人魚の残り香……まだ、消えないのかよ……
 肉食の獣にとって、オレはまだご馳走なわけだ……
 とほほ……

「偉大な獣使い様!」
 イーファさんの掌にのっていた小人のモーリーンちゃんが、ぴょ〜んと跳躍し、パメラさんの胸に飛び込む。
「私、エポナの市民生活向上課のモーリンです! どうかその素晴らしい御力で、狼獣人を追い払ってください!」
 公務員だったのか、小人さん……





 エポナへは、巨大鳥で向かう事になった。
 ミミズとムカデは、名残惜しそうにパメラさんにすりすりをし、それから猛スピードで何処かへ行ってしまった。

 オレらは荷物を取りに、いったんログハウスに戻った。荷物には、蜂蜜まみれのクマさんも含まれている。

「街は、今、ちょうど人が少ないんです。馬鹿エルフの他にも、恋の季節だって旅に出てる獣人が多いんですよ……春だから」
 モーリンちゃんは鳩に乗って、エポナから花エルフの家にやって来たのだそうだ。
 オレらがロック鳥に乗ってくとなったら、同乗すると言った。鳩のスピードじゃ、さすがについてゆけないからだ。
「先月の警備担当だった人馬さん達が、ひきつづき街を守ってくれています。でも、人馬さんの中からもサカる……あ、いえ、旅に出ちゃう子もでて……もうダメダメな感じなんです」

 ちょっぴり興味がわいたんで、マリーちゃんの腕の中のシロさんに聞いてみた。
「獣人って、恋の季節があるの?」
 白ウサギのシロさんは、耳をぴくぴくと動かした。
「種族差や個体差はござんすが、春と秋に相方を欲しがる獣人は多いでやんすね」
 やっぱ、サカるのか。
「まあ、ミーやピアみたいな子供には縁のない話でござんすよ」
「シロさんは?」

「あっしは女を捨てた極道でやんすから」
 シロさんが、オレを見上げ、プフプフ鼻を鳴らす。
「女である事を思い出させてくれる、いい男が現れない限り、恋には惑いませんぜ」

 シロさんから見た『いい男』か……
 そりゃあ、ハードルが高そうだ。


 イーファさんは、花エルフの家に残る。エポナに行かずにすんだので、とってもご機嫌だ。
『九十日後に召喚しますよ』って言ったら、『日帰りならいいわよ』って返された。
『魔王と戦ってもらいます。魔王に百万ダメージ以上、出せる攻撃あります?』って聞いたら、『百万でいいの?』って返された。

 イーファさん、サボリたがりなだけで、かなり強いのかな?
 最大の攻撃技を頼んで、イーファさんとは別れた。


 魔王が目覚めるのは、九十日後だ。
 オレらはこれから、新たな仲間モーリンちゃんと共に、エポナへ向かう。


* * * * *


『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き

●女性プロフィール(№018)

名前 モーリン
所属世界   幻想世界
種族     小人
職業     エポナの街の公務員。
       市民生活向上課 所属。
特徴     掌サイズな小人さん。
       エルフのイーファさんとは
       本音で話せる、友達っぽい。
       気が強くって、怒りっぽい。
戦闘方法   なんだろうねえ。
年齢     公務員試験受験可能な年齢
容姿     とんがり帽子で、チュニックで白タイツ。
       薄桃色のふんわりした髪で、
       見た目はかわいい、小人さん。
口癖    『馬鹿エルフ』
好きなもの  お菓子。ちっちゃいけど、
       甘いものは別腹らしい。女の子だなあ。
嫌いなもの  自分勝手な者。
勇者に一言 『コレのどこが勇者なの?』
挿絵(By みてみん)
+注意+
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