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ハーレム100 作者:松宮星

あなただけを……

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義兄でも義妹でもなく【ジョゼ】

 ダーツの矢は、【ジョゼ】に当たりました!

※この章の各話は、それぞれ独立した話です。共通の設定もありますが、ストーリーに繋がりはありません。
 その柔らかな唇が、おもむろに動く。
 優しく微笑みながら、呼びかけてくださる。

 私の名を……

 鈴の音のように、心地よい声。
 しかし、儚げでかぼそい声は、今にも消えそうだ。空に溶けて消えてしまい、二度と聞けぬのではないかと……聞く度に不安となる。
 永久にお側にお仕えし、お守りしたいのに。


 微笑んでいらっしゃる。

 お美しい……

 ほのかに青みがかった白い肌、神秘的な金の瞳、濡れたような睫毛、静かに微笑む薔薇色の唇、月光を思わせる白銀の髪……
 何もかもが透き通って見え、そして私は不安となる。
 全てを愛おしむ優しい方は、永久には生きられぬのだ。
 いずれ、露のように儚く消えてしまうのだ。

 そのお美しい笑みは、私にとって不可思議。
 とらえどころがない。
 波にたゆたう小舟と言おうか……夜の(とばり)に消えゆく夕日と言うべきか。
 せつないまでに美しい、うたかたの夢なのだ。

 お守りしなければ……

 この方が消えぬように……
 孤独な星の女王であるこのお方に……
 私が未来を差しあげねば……

 そして、微笑んで頂きたい。
 儚げに微笑むそのお顔は、幻想のごとく美しい。
 けれども、私が真に見たいのは、幸福となったあなた。
 あなたの心からの笑みが見たい。
 満ち足りた笑みは、きっと……輝かんばかりにお美しいでしょう。

 シャフィア様……
 私は、あなたに幸せになっていただきたいのです……



 その可憐な口が、再び私の名前を呼ぶ。

 お答えしなければ……

 優しく微笑む方が、涙で潤んだ瞳で私をご覧になる。
 泣いていらっしゃるのか……?
 あなたに涙は似合わない。微笑んでいただきたいのに。
 あなたの嘆きを払うのが、しもべたる私の役目……

 申し訳ありません、シャフィア様……

 すぐにも、その憂い、この私がとりはらってみせましょう。
 私は雷の精霊……
 主人(あるじ)のあなたさまにふさわしいものとなれるよう……常に進化を続ける存在なのです……


* * * * * *


「レイちゃん!」

 昂った感情のままにジョゼは、人の形をとったものに抱きついた。
 紫の長髪に紫の瞳。いかにも異世界っぽい、ビラビラと装飾のついた変わった服。シャフィロス星人を模した為だろう、肌は青白い。
 目鼻立ちが、やたら整っている。中性美ってヤツ。派手さには欠けるが、シャルルよりも美形。

「良かった……レイちゃん……」
 ジョゼに抱きつかれたそいつは、やや目を細め、不思議そうにジョゼを見ていた。
 開口一発『シャフィア様』とかつぶやいてたし。蘇ったばっかだから、意識が朦朧としているんだろう。

 オレの横のエクレールが、えへへと笑い、嬉しそうに目元をぬぐう。
「あれから、約一年半だ。エクレールに感謝しろよ、レイ。おまえのことを知っている同族が、毎日、雷の力を契約の石に注入したから、これだけ早く復活できたんだ」
 本当なら、復活まで三年から五十年かかったわけで。一年半は決して短い時じゃなかったが……
 蘇って良かった。
 ジョゼが再びおまえに会えて……本当に良かった。

 ベッドの上に横たわっているレイが、じっとジョゼを見つめる。
 その顔に笑みが浮かぶ。父親が幼子に対し見せる笑みといおうか……とても優しい笑みだ。
主人(あるじ)よ。ただ今戻りました》
 姿にふさわしい男の声で、レイがジョゼに声をかける。
 ジョゼがこくんこくんと頷く。伝えたい事はいっぱいあるのだけれども、胸がいっぱいで何も言えないって感じ。
 涙を流しながら、ジョゼが嬉しそうにほわっと微笑む。
 その笑みに、レイが応える。
 見つめ合い、微笑み合う。
 実に微笑ましい。

 しばらくするとレイは、周囲を見渡した。
 オランジュ邸のジョゼの部屋に居て、オレとジョゼとエクレールに囲まれているのだとわかったようだ。
 レイの紫の瞳が、オレにとまる。
《意外である。あの状況で生き延びるとは、な。悪運の強い男である》
 む。
「何だよ、その言い方は。おまえ、オレを死なせないように、ピッカリ拳に全てを注いでくれたんだろう?」

《甚だしい勘違いである》
 レイが笑う。高慢なレイにふさわしい、非常に偉そうなムカつく顔で。
《吾輩の望みは愛する方の幸福である。貴様は万に一つも助からぬと判断したゆえ、四散しただけのこと。吾輩が散れば、貴様が逝っても、お優しい主人は吾輩が復活するまで自殺なぞ》
 レイはそれ以上、言えなくなった。
 泣きながら、ジョゼがレイの頬をピタピタとはたき始めたからだ。
 隠しごとはやめて、内緒で私を守らないで、もう何処へも行かないで……つっかえつっかえ思いを伝えながら軽く平手うちをするジョゼ。
 頷くレイは笑っていた。とろけそうな、幸福そうな笑顔で。


 ベッドから起き上ったレイは、エクレールに尊大に感謝の言葉を伝えた後、紫の鳥となった。
 肩へと飛んできたレイに、ジョゼはかぶりを振った。
「いいのよ、レイちゃん、人の姿でいて……私、もう怖がらないから……どんな姿でもレイちゃんはレイちゃんだから」
《主人よ。お望みとあらば、人形(ひとがた)となりましょう。なれど、さきほどの姿はご容赦ねがいたい》
 幼女声の鳥が、ジョゼとは反対を向き、頭を下げる。
《あの姿は最初の主人専用のもの……あの方とお別れした後、二度とならぬつもりで封印しておりました。さきほどは、主人を最初の主人と混同し……いや、意識が朦朧としていたゆえでありますが、吾輩は、つい、うっかり……》
 もじもじと体を動かし、せわしなく頭を振る紫の鳥。

 もしかして……
 照れてる?
 レイが?

 プッと吹き出した瞬間、つっつき攻撃がとんできた。
 けど、愉快な気分は消えず、オレは紫の小鳥にしばらくつっつかれまくった。


* * * * * *


 復活したレイは、たいてい小鳥でいるー
 ジャンの義妹からやめていいよって、言われてたのに。
《淑女の側に男がいるなど外聞が悪い。鳥の姿の方が、あなたに気楽に接する事ができる》とか何とか言っちゃってー
 格闘の練習相手をつとめる時は、男の姿になったりもするけど。二番目の主人に仕えた時の姿らしい。でも、そんぐらいだ。

 小鳥になって、義妹の肩にいるのは一緒。
 熱っぽい目で義妹を見つめるのも。

 けど、前と違う。

 何というか……
 一緒にいるけど、べったりじゃない?
 ジャンを小馬鹿にはするけど、張り合おうとしない?
 一歩ひいている?

 そんな感じー

《吾輩の望みは愛する方の幸福である》
 そう言い続けていたレイは、今の状況に満足したのかな?


 魔王戦の後、ジャンは義妹に告白した。
『魔王を倒せたんで、ようやく自分の気持ちに向き合えたよ……待たせてごめんな、ジョゼ。やっぱ、オレ……シャルルにもレイにもおまえをやりたくない。オレのものにしたい……。好きだ。義妹としてだけでなく、一人の女の子として好きなんだ。愛しているよ、ジョゼ。オレの妻になってくれ』
 義妹は幸せそうに微笑み、ジャンの腕に飛び込んだ。『嬉しい。……愛しています、お兄さま……』って。

 いきなりな盛り上がりは、この世界の女神の後押しのせい。

 でも、それが無くても、二人が結ばれるのは、ありえた未来の一つだった。
 レイ達に抱いていた感情は、男としての嫉妬だったもん。ジャンは、だいぶ前から兄としてではなく、妹を愛していた。
……教えなかったけど。

 だって、氷のグラキエスさんに教えられたのだ。
《精霊支配者から命令されない限り、人が知り得ぬ知識を与えてはいけませんのよ。その人間の人生をねじ曲げてしまいますもの》って。

 前に、光のルーチェさんも言っていた。
《じれったい時も、怒りを感じる時も、悲しく思える時も、我慢してください。精霊支配者の人生を、精霊が支配してしまってはいけません。自分で道を切り開いていくさまを見守り、求められた時にだけ力を貸す。それが精霊の正しい姿です》

 風のアウラさんも言っていた。
《精霊ができるのは、あくまで助力。ご主人様が破滅に向かってつっぱしってても、強引に止めちゃ駄目。忠義なしもべとしての助言はアリだけど、それだって『それやったら死ぬから、止めなさい』とはっきり伝えるのは禁忌(タブー)よ》


 精霊支配者は、永久には生きられない。いずれは、露のように儚く消えてしまう……レイはそんな事、考えてたっけ。
 だから、幸せにしたい。満ち足りた笑みを浮かべる姿が見たいって。
 最初の主人で失敗したレイは、似たタイプの異世界人を探してはしもべになっている。ジャンの義妹で四人目なのだ。

 短命の異世界人に深く関わると、精霊は理性的ではない行動をとるようになる……アウラさんはそう言っていた。
 亡くした主人の面影を他人に求めるレイが、そう。主人との子供を欲しがる精霊()達も、そう。
《でも、あれはあれで、むなしいわよ。ご主人様の特徴の方を強く引くから、子供にも寿命があるもの。一族と契約して、子孫の行く末を見守る精霊もいるけど……最初のご主人様とは似ても似つかぬ、ダメダメ子孫ばっかになったら、悲惨だし》
《それでも、ご主人様の子孫です……許されるのなら、私は……ご主人様の子孫を見守っていきたい。私とご主人様の子供がいいなんて、欲張りません。ご主人様の血を引いた人間が存在している……それだけで嬉しいです……生き続けられます……》
 黒い仮面をつけた水のマーイに、アウラさんは肩をすくめてみせた。
《そうしたいんなら、頼んでみれば? 熱心にお願いすれば、聞いてもらえるかもよ? ま、あたしは、ご免だけど。主人を亡くす度に、新しい主人を探してきたわ。同じタイプなんか探さない。同じ人間なんて、いないもの。常に新しい出逢いを求めてきたわ》

 どんな形で異世界人と関わってゆくかは、精霊(それぞれ)の自由。

 ティーナやサブレは、今が楽しければいいみたい。

 闇のソワは、《あたしは、平気。ジャンが思い出だけの人になっちゃっても》と言っていた。
《ジャンからは、いっぱい大事なものをもらったから……それに、ニーナとも会えた》
 ソワの手は、ピンクローズの髪飾りを撫でていた。華やかなバラの飾りを愛しそうに……。
《明日、ジャンが死んじゃって、闇界で一人になっても、幸せ。胸をはって言えるよ》

 ジャンは賢者になった。
 しばらくは、死なない。
 明日も明後日も、あたしは、この世界で、みんなと一緒にジャンに仕える事ができる。


 でも、やっぱり考えてしまう。
 楽しい時間(いま)は、いつかは終わっちゃうんだって。

 ジャンやルネが、あたし達みたいに何千年も何万年も生きられればいいのに。

 二人が、いつか消えちゃうなんてイヤだ。
 寂しすぎる。

 レイみたいに最初の主人に似た人間を探すとか、子孫に仕えるのも、ちょっと……

 だって、どんなに似てても、ジャンやルネじゃない。

 あたしは、ジャンとルネがいい。

 ルネが発明してくれないかなー 『永久に生きるくん』とか。

……今度、相談してみよう。


* * * * * *


 お兄さまと共に並んで、絵を見つめた。

 お義父さまとお母さまの結婚一周年の記念に描かれた……家族の肖像画。
 椅子に座るお母さま、その横に立つお義父さま。小さなお兄さまと私が、無邪気に笑っている。

 けれども、あの頃の私は、本当はこんな顔をできなかった。
 ひどい人見知りで、画家の方からも逃げ回ったと……昔、お母さまが教えてくださった。私が眠っている時か、遊んでいる姿をこっそり遠くから眺めて、素描するしかなかったって。

「父さん、ベルナ母さん……」
 お兄さまは寂しそうな笑顔……
 静かに絵を、ご覧になっている。

 処分されたとばかり思っていた絵が、オランジュ伯爵邸にあった。
 おばあ様はとても厳しい方で、あちらの家の物を持って来ることを許してくださらなかったのに……
 私に内緒で、家族の絵を……。『息子を惑わせた下賤な女』と、お母さまのことを嫌っていらっしゃったのに……

『あなたは、もう立派な大人。昔を懐かしがってめそめそする事もないでしょう。部屋の片隅にでも、飾っておきなさい』
 そうおっしゃって、昨日、贈ってくださったのだ。


『貴族には、その地位に伴う義務があります。領地を豊かとし、領民を保護し、治安を良くし、ひいては国を富ませる。義務を果たさぬ者には、富を享受する資格はありません。けれども、あなたの実の父親……私の息子レイナルドは無責任にも全ての義務を放棄し、あなたの母親と駆け落ちしたのです』

『レイナルドには聡明な領主となって欲しかった。その為の教育もほどこしました。あの子は決して暗愚ではなかった。しかし、実務能力に欠け、役にも立たぬ事にばかりかまけていました。音楽や絵画……。才はあったようです。あの子の遺した習作を評価してくださった方もいましたから。ですが、貴族の当主が、それではいけないのです。無能な領主がいては、領民を苦しめるだけです』

『ジョゼフィーヌ。社交界にすら顔を出せない内気なあなたに、貴族の義務が務まるはずがない。シャルル様とのお話を進めたのは、あなたの為です。あの方はポワエルデュー侯爵家嫡男。お若いけれど、貴族の義務を心得ていらっしゃいます。婚姻がなれば、紳士として、オランジュ伯爵家相続人のあなたを庇護し、爵位と領地を子孫に遺してくださるでしょう』

『婚約を白紙にするのは構いませんよ。けれども、その道を選ぶのなら、あなたは相続人としての義務を自ら負わねばなりません。あなたに務まるのか疑問ですが……教師が必要ならば手配してあげましょう』

『一年待ちます。当主にふさわしい人物になりつつある……そう認められるところまで成長してみせなさい。けれども、力量が足りないのなら、私の選んだお相手とオランジュ家を守るのです。領民の安寧の為です。よろしいですね?』


 一年後、かろうじて合格をいただけた。

 でも、私一人の力ではない。
 婚約破棄を望んでいるとご承知だったのに、社交界にエスコートしてくださったシャルル様。オランジュ家の相続人として、どなたとどんなお付き合いをしていけばいいのか……信頼に足る方はどなたか……全て教えていただいた……
 セリアさんも、時間を割いてくださって……教師役を。シルヴィ様も、読むべき書を教えてくださったし……。
 サラさんやマリーさんの励ましにも、とても力づけられた。

 お兄さまも会う度に応援してくださった……。

 心細くなる度に、ペンダントに手をあて、そこには居ないレイちゃんに話しかけた。
『強くなる』とレイちゃんと約束したのですもの。幸せになった私を、レイちゃんに見てもらいたい……
 そう思うことで、気力を保ち……
 私なりに頑張れた……

 おばあ様に認めていただけたのは、みなさんのおかげ……。


 おばあ様について王都と領地を行き来して、実地でお仕事を学ぶようになって、あっという間に半年が過ぎて……

 レイちゃんが復活して……
 それだけでも、幸せだったのに……

 昨日、おばあ様から、この絵と……あと、お手紙をいただいたのだ。

「なにもかも、ジョゼのおかげだ。ありがとう。何の助けにもなれなくて……ほんと、ごめん。すまなかった」
「いいえ。賢者としてのお仕事をなさっていたのですもの……。私は、私で、自分のやれる事をしてきただけです……それに、」
 苦い笑みが浮かんだ。
「ご褒美をいただくような事は、まだ何もできていません……。見ているだけで……おばあ様のお役に立てていませんから……」
 おばあ様のお仕事をお手伝いするようになって、よくわかった。
 自分の甘さが……。
 優しさだけでは……人の上には立てない。
 領主には、時には非情な判断も必要。領地全体を考え、常に冷静に、大多数の幸福を探していかなければいけない。
……領民全ての願いを聞き届ける事などできないのだから。

 私は……
 おばあ様のご苦労を知ろうともせず、夢ばかりを見ていた。

 お兄さまのお力となりたい……その一心で格闘の鍛錬をつんでばかりで……
 社交界にも、領地にも、オランジュ家が負うべき責任にも守るべき人間にも、無関心だった。

 心を病んでいた幼い頃と同じ……
 安全な場所で、目を閉じ、耳を塞いで、逃げていただけ……。

 けれども、もう逃げない……

 自分の意志で未来を選んだのだから……

 なすべき義務を果たし……
 私を育ててくださったおばあ様にご恩をお返しし……
 庇護を求める方を一人でも多くお助けしなければ……。

「これからです……良い領主になれるよう、頑張ります」


 視線を感じた。
「ほんとに……どんどん似てくるなあ、ベルナ母さんに……。ジョゼは優しくて、強くて……」
 お兄さまが優しいお顔で、私に微笑みかけてくださっている。
「とても綺麗だ」

 頬が熱い……

 うつむいた。
 けれども、すぐに顔はあがってしまった。

 お兄さまが私の顎を手にとって……

 ジッと私を……

「駄目だ、よく見せて」
「でも……」
 恥ずかしい……

「好きだよ、ジョゼ。愛している……」

 お兄さまの言葉に胸がふるえる……

 思いを伝えてもらえる度に、めまいすら感じる……
 幸せすぎて……
 夢の中に居るみたい……。

「私も……愛しています。お兄さま……」

 お兄さまが、小さく笑う。
「直らないなあ」
 おかしそうに笑いながら、私を抱き寄せる……

「お兄さまは、やめてくれよ。オレ達、義兄妹じゃなく、夫婦になるんだ」

 お顔が近づいて来る……
 高鳴る心臓の音を感じながら、目を閉じ、お兄さまからの思いを受け入れた……


 現賢者とオランジュ家次期当主の婚約披露宴の日取りを決めたと、おばあ様からのお手紙には記されていた……。


 生きていて良かった…… 
 お兄さまとこの世界で……


 夕方には帰ると手を振ってお出かけになった、お母さまとお義父さま……
 お二人が帰らぬ人となった日を、私は忘れる事ができない……。


 でも……
 いつか、この幸福に終わりがくるのだとしても……

 お兄さまに選ばれて、おばあ様やレイちゃん、サラさんやみなさんと共にあれて……
 幸せだった日々は、私の中で輝き続ける……。

 私は……
 生きていける……。


「愛しています……ずっとお慕いしていました……ジャンおにい……えっと……ジャンさま……」
 駄目。
 どうしても、お兄さまと言ってしまう。

 お兄さまが楽しそうに笑って、頬にやさしく……

「ま、いいや。気長にいこう」

 ついばむような接吻を……

「そのうち、自然に言えるようになるよ。義兄でも義妹でもなくなるんだからさ」

 胸がいっぱいで……

『はい』とお答えするまで、長い間、お兄さまをお待たせしてしまった……。








【義兄でも義妹でもなく 完】

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 次回は、ダーツの矢が【自由選択】に当たった話。ジャンが自らの意志で選ぶ女性は……
 9月28日(土)更新予定です。
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