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ハーレム100 作者:松宮星

幻想世界

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花を護るエルフ   【イーファ】(※)

 あともうちょっとで森が終わるってところまで来た時、クマのピアさんが言った。

「森のねー 北のはずれからねー 西に行くと、エルフのおうちがあるんだって。いこーよ」

 エルフ?

 エルフといえば、アレだ。
 とんがり耳の、美形。
 ほっそりとした、美形。
 強力な魔法が使える、美形。
 ちょっぴりお高くとまってるけど、美形。
 年をとっても、美形。

 ともかく美形なエルフは、『勇者の書』でも超人気。
 幻想世界他、五つの世界に存在が確認されているエルフは、どこでも勇者PTにひっぱりだこ。
 仲間にした勇者は『千年の幸福を得た』と書き残し、
 仲間にできなかった勇者は、己の不運を呪いながら、仲間にしたかった異種族ナンバー1にエルフをあげている。そんな勇者が片手じゃ数え切れないほどいるんだ。

 エルフ娘かぁ……

「馬鹿野郎、ピア。兄さん方は北東のドワーフの洞窟を目指してらっしゃるんだ。逆方向じゃねえか」
 わがまま言うなと、シロさんがピアさんを叱る。

「あ、待って。エルフなら、オレ、会ってみたい」

 そう言うと……
 急速に冷たい空気が広がった。

「ふぅ〜〜〜〜〜ん、会いたいんだ……ま、エルフだものね」
 と、サラはトゲだらけな口調で言う。
 いいじゃん、会うぐらい〜
 エルフだぞ、エルフ!

 そんでもって、ミーは露骨に顔をしかめた。
「エルフを嫁にする気か、にゃ? おにーさん、悪趣味だにゃー!」

「種族でひとくくりにするのは愚かなこってす。あっしもわかっちゃあいるんですがね」
 レンゲを口にくわえたシロさんが、不快そうにブブと鼻を鳴らす。
「正直、あいつらとは、あまり関わりたくありやせん。どうあっても仲間にしたいってんなら、止めませんがね」

 エルフ、同性には嫌われとるなー
 ピアさんだけか、好意的なのは。

「距離次第だな」
 と、お師匠様。
「近いのか、エルフの住居は?」

 今は人型になっているピアさんが、元気よく答える。
「すぐ近く〜 クマ(にい)が言ってた、森を出てすぐの、西の丘の上だって」

 丘の上?
 エルフなのに森に住んでないの?

「森にも()りやすが、野原や泉や山なんかにも住んでますね」と、シロさん。
 へー
「草木がありゃ、エルフはどこにでも、わきますから」
 なに、その油虫的な比喩。

 木々の切れ目から飛び出す時、ピアさんは大はしゃぎだった。
 初めて出た森の外。
 草が風に揺れる野原を、ピアさんが走りまわる。
 不安がる様子は、まったくない。
 ピアさんは、オレの手をひっぱり、西へ西へと進んで行った。

 エルフが住むと言う丘には、色とりどりの花が咲き乱れていた。
 オレは、花咲く丘を見上げた。
 通り道用に縄を張り、石を敷いたところを除けば、花、花、花の、花の楽園だ。
 てっぺんにあるログハウスが、エルフの家だろう。

 丘の上へと通じる道の脇に、立て看板があった。
 異世界の文字だ。
 けど、オレ達勇者一行は、神様からパーティー特典として自動翻訳機能がプレゼントされている。
 読む事はできる。

『花エルフの家 御用の方はここでお待ち下さい』

 花エルフ……?
 待つのは構わない。でも、呼び鈴があるわけでなし……
 ログハウスの住人が来訪者を発見するまで、待機してろって事?

 なら、よく見てもらわなきゃ。
 オレは看板より更に前に出て、ログハウスに向けて、両手を大きく振った。

「兄さん! 危ねえ!」
 シロさんの叫び声。

 どこからともなく、音が聞こえる。
 うなってるような、耳障りな音だ。
 音は、どんどん大きくなる。

「下がってくだせい! 死にやすぜ!」

 死ぬ?

 ログハウスから、黒い雲のような塊が飛び出している。うごうごと蠢くそれが、徐々に近づいて来る。
 いや、それ以外にも……
 そこらの花から離れたモノが、オレへと近寄って来きている。
 小さな、小さな、蜜蜂だ。
 だが、その数は、十や二十じゃない。
 そこらの空気を黒く染めるほど、大量の蜜蜂が押し寄せて来た……

 びっくりして尻もちをついたのが、幸いした。
 攻撃対象を失った蜂が、下がってゆく。
 でも、丘の上へと通じる道にとどまったままだ。宙に黒いカーテンができたようだ。

 番犬ならぬ、番蜂かよ……
 蜂どもに囲まれて、全身を刺されてたら……確かに命は危うかった。

 オレは後ずさりしてから、慎重に立ち上がった。

「幻想世界のエルフは、蜂を使役する」
 お師匠様が、淡々と教えてくれる。
「花の(まも)り手を自称する彼等は、授粉、新種の花作り、農耕の手助けの為、蜂を操るのだ」
 そうだった……忘れてたよ、この世界のエルフは、園芸家で養蜂家だったんだ。

「エルフのねー ハチミツ、おいしいのー」
 ピアさんはわくわく顔で、ログハウスを見つめている。
「エルフねー たまに、ピアの村に来るのー ハチミツを、いっぱい、くれるのー 大好きなのー」
 そうか……
 ピアさんは、エルフではなく、エルフがくれる蜂蜜が好きなのか。

 ログハウスから、人が現れる。

 蜂のカーテンがサーッと開き、その人の為の道ができる。

 美しい女性が、ゆっくりと歩んで来る……

 ほっそりとしていて、しなやかな体。
 体の線がはっきりと出ている、シンプルな白いドレス。

 プラチナブロンドの髪はさらさらで、腰を過ぎる長さだ。
 そして、先がピンと尖った、エルフらしい耳……

 肌は透けるように白く、眉は細く、鼻はすらりとし、唇は薄い。
 顔立ちも、たたずまいも、何から何まで、気品にあふれている……

 オレの前でエルフは歩みを止め、静かな眼差しでオレを見下ろす。

「お待ちしておりました……」

 鈴を転がすような声だ。

 エルフさんの緑の瞳は、涙に濡れていた。

「どうか……お助けください、勇者様……」

 勇者? 何故、それを知ってるの?

 そう問う前に、彼女は……

 オレにしなだれかかったのだ……

 甘い香り……
 やわらかな体……


 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……


 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。

《あと八十三〜 おっけぇ?》
 と、内側から神様の声がした。


 オレは彼女の背をぎゅっと抱きしめた。
「お任せ下さい、お嬢さん。この私、百一代目勇者ジャンが、あなたのお力になりましょう」
 と、決めゼリフを格好良く言った。
 しかし……

「え?」
 腕の中のエルフさんが、調子はずれな声を出す。
「あなた、本当に、勇者なの?」

 へ?

 オレは、少しだけ体を離した。
「異世界から来た、勇者ジャンですが……」

「異世界の勇者様……」
 エルフさんは、オレを見つめた。
 長いまつげをしばたたかせ、澄んだ緑の瞳が探るようにオレを見つめる。
 綺麗だなあ……
 て、思ったんだけど……
「貧弱な体つきねえ……見るからに意志が弱そう……」
 エルフさんは、ぶつぶつ言った。
「でも、悪だくみをするほどの、知恵はなさそう。騙すより、騙されるタイプよね。少なくとも、邪悪ではないわね」
 独り言のつもりなんだろうけど、丸聞こえ。
「いいわ、コレにしよう。より好みしている時間もないし。どんなんでも一応『本物の勇者』だもの」
 コレ扱い……

 エルフさんが、しなをつくりオレを見つめる。
「どうか……お救いください、勇者様……あなただけが頼りなのです……」

 いいです、もう……
 本音丸出しの後で芝居されても、興醒めです……
 腹を割って話しましょうよ……


 雲みたいに集まっていた蜜蜂達は、彼女の口が不思議な音をつむぐと散って行った。

「私はイーファ。栄えある花エルフ一族の末の娘です。今、父も母も兄も姉も旅に出ていて、本当に困っていたんです」

 イーファーさんの左手があがる。丘より更に西にある野原と街道を指差して。
「この先に、エポナって、大きな街があります。人馬がつくった街で、獣人や小人や人間、さまざまな種族が仲良く暮らしています」
 へー
「しかし、今、エポナはたいへんな危機に瀕しています。住人達はバリケートを築き、家に籠もっています。旅人もエポナに近寄れません」
 ふーん?
「街の周囲に、ワーウルフが出没しているのです」

「何だって?」と、声をあげたのは、パメラさんに抱っこされてるシロさんだった。
「あの野郎ども、あっしらの縄張りばかりか、エポナにまで足を延ばしやがったのか」
 シロさんの耳が、ピーンと立っている。警戒しているんだ。

「ワーウルフは、荒野に住む獣人だ」
 お師匠様が解説をする。オレの為というよりは、サラ達の為だ。
「大型の肉食獣人だ。その爪で岩をも砕き、鋭い牙と頑健な顎でどんな獲物も噛み砕く。争い好きの彼等は、野原や森に住む者達に忌み嫌われている。めったな事では荒野から出ない。群れを追われた者が、山を越え、たまに流れて来る事はあるそうだが」

「流れ狼ではありません」
 イーファーさんが、強張った顔つきで言う。
「奴等は、群れをなしています。その数、少なくとも百。リーダーに統率されています」
 お師匠様が、微かに眉をしかめる。意外だというように。

「ワーウルフはワーベアーに次ぐ強力な獣人、群れともなれば、尚更です。獰猛な奴等に襲われればエポナは、数日ともたず、滅びるでしょう」
 思いつめた表情でイーファさんが言う。
「エボナの人々は、偉大なる我が一族に助けを求め、使いを寄越しました。蜂を従える我が一族ならば、野獣どもを難なく追い払えるであろうと……正しく評価してくれたようです」
 無数の蜂が雲のように押し寄せれば、確かに脅威だ。
「誇り高きエルフは、決して隣人を見捨てません。すぐにも駆けつけてさしあげたいのです。しかし……」
 イーファさんが、丘を見渡す。色とりどりの花が風になびく美しい丘を。
「今、私はここを離れられません。私が去れば、花の楽園は荒れてしまいます。家族が戻るその日まで、私は、たった一人で、この丘を守らねばならないのです」

 イーファさんが胸の前で手を組む、祈りのポーズをとって、ジーッとオレを見つめる。
「異世界の勇者様……私に代わり、どうかエポナの街をお救いください……悪いワーウルフを追い払ってください……」

 え?

「お願いします。異世界の方とはいえ、勇者様は勇者様……不安におののく、あわれな者達を、お見捨てにはなりませんよね?」
 イーファさんがうるんだ目で、オレを見上げている。

 オレは仲間達を見渡した。
 オレは勇者だ。
 困っている人を見捨てるのは、勇者道に反する。
 けど、オレには自分の世界を救うという使命がある。その上、今は武器もない。それに、オレ一人でどうこうできる相手じゃないだろ、群れをなした狼族なんて。
「みんなの意見を聞きたい」

「魔王の目覚めは、九十日後だ。あと八十三人を仲間にし、ドワーフのもとへ武器の依頼に行かねばならない。異世界に深く関わる時間はない」
 お師匠様は、いつもと同じ無表情。エルフさんを見つめ、質問する。
「ここから、エポナまでどれぐらいだ?」
 エルフさんは、言いにくそうに答える。
「徒歩でしたら、三日かかると思います……」
「三日……往復で六日を、少なくとも費やす事になるのだな」
 お師匠様が思案げに、うつむく。

「関わりあいになるこたぁござんせんよ、兄さん、姐さん」
 そう言ったのは、白ウサギのシロさんだ。パメラさんの腕から、ぴょんと跳び下りる。
「兄さんは、異世界の勇者だ。この世界の争いに巻き込まれて、ご自分の世界を救えなくなったら馬鹿ですぜ。気にせず、旅をお続けください」
 しかし……
「こちらの世界のことは、こちらの者がカタをつけやす。ここでお別れといたしやしょう。兄さんの分も、あっしらが、きっちり働いてまいりやす。ミー、ピア、そうだよな?」

 えぇぇ! シロさん達と、ここでお別れ?

 ネコ獣人は毛を逆立て、シッポをピーンと立てた。狼獣人と戦うなんて嫌だ! と、目と体で訴えている。
 クマ獣人は首を傾げていた。多分、話がわかっていない。
「エポナには同族もおりやす。あっしらにも無縁な戦いじゃござんせん」

「駄目! 戦うなんて、絶対、駄目よ!」
 ぶるぶると震えながら、声を荒げたのはパメラさんだった。

「街の仔も、ミーちゃんも、シロちゃんも、ピアちゃんも……誰も、戦っちゃ駄目……怪我しちゃ、駄目……死んじゃ、駄目よ」
 ドラゴンのきぐるみから覗かせる、美しい顔は、今にも泣きだしそうだった。

「それに、狼ちゃんだって……わざわざ荒野から出て来たのだもの……何か理由がある……話し合えば、戦いは避けられる……わかりあえるはずよ……」

 パメラさんがオレの方に向き直る。
「お、お、お、おね……」
 何度も何度も、喉をつまらせながら、パメラさんが必死に訴える。

「おねが……い……あたし……」
 パメラさんの顔色は真っ白だ。歯もガチガチと鳴っている。
 体を震えさせ、ひどく怯えながら、それでも……
 パメラさんは、話そうとしている。
 きぐるみも着てなきゃ、獣の腕人形も無いオレに対して。

 あの、パメラさんが!

 オレはジョゼから渡されたものを、すかさず右手に装着し、パメラさんの顔の前に右手をつきだした。

 ぷしゅ〜〜〜って感じに、パメラさんの顔から緊張が解ける。
 体の震えも止まった。
 オレの右手を見つめながら、パメラさんが願いを口にした。
「獣使いとして……この世界の争いを止めたいの……エポナに行かせて……お願い、『スネちゃん』」

 オレは右手の紫の腕人形『スネちゃん』の口をぱくぱくとさせた。

「パメラさんなら、争いをとめられる?」
 ドラゴンのきぐるみが、頷きを返す。

「獣人だもの……絶対、わかりあえるわ……」
 必ず獣に好かれるパメラさんが、そう言ってるんだ。
 なら、オレらは行くべきだろう。

「この辺に、足の速い大型獣いない?」
 オレは、パメラさんに尋ねた。パメラさんは獣を呼び寄せる事ができる。海に落ちたオレを救うために、クラーケンを呼んでいたし。
「オレらをエポナまであっという間に運んでくれそうな、デッカイ奴」

 パメラさんの顔に、明るい笑みが浮かぶ。
「さがしてみる……必ず、誰か、見つける……運んでくれるよう、頼むわ……」

 それから、パメラさんは、又、体を震わせて、お師匠様を、サラを、ジョゼを、マリーちゃんを、見渡す。

 おどおどとした彼女に、仲間達は……
 優しく微笑みかけ、頷きを返した。
 まあ、お師匠様は無表情だけど、頷いたよ。「エポナで仲間を増やせばいい事だし、な」と、もっともらしい理由もつけて。

 パメラさんの顔が、赤くなり、本当に嬉しそうな笑みが浮かぶ。
 目尻には、ちょっぴり涙が浮かんでいた。


「良かった〜 ありがとうございます、勇者様」
 オレの左手をとって、エルフのイーファさんがぶんぶんと振りまわす。
「今、家に、エポナの街の使いを待たせているんです。さ、さ、さ、どうぞ、おあがりください。詳しい事情はその者から伺ってください」

 イーファさんは鼻歌まじりに、ログハウスへと向かう。
「ぶっちゃけ誰でも良かったのよね、代理は。誰か来たら『勇者』っておだてようと思ってたら、まさか本物がのこのこやって来るなんてねえ」
 小声でつぶやいたつもりなんだろうけど、全部だだ漏れですよ、イーファさん……

「ハチミツや蜂蜜菓子、果実やお茶をふるまいますね♪」
 ハチミツと聞いて、ピアさんの目の色が変わる。
 良かったね、ピアさん。





 魔王が目覚めるのは、九十日後だ。
 これから、オレは、仲間達と共にエポナの街を救いに行く。


* * * * *


『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き

●女性プロフィール(№017)

名前 イーファ
所属世界   幻想世界
種族     エルフ
職業     養蜂家・園芸家
特徴     とんがり耳のエルフ。
       けっこう身勝手。
       本音と建前の差が激しい。
       わりと大きな声で、独り言を言う。
戦闘方法   蜂?
年齢     花エルフ一族の末っ子
容姿     とんがり耳なエルフ。
       ほっそりとした美人。
       プラチナブロンド・緑の瞳・白い肌。
       肌にぴったりしたドレスを着ている。
口癖     エルフを称える言葉
      『栄えある花エルフ一族』
      『偉大なる我が一族』『誇り高きエルフ』
好きなもの  お花
嫌いなもの  花が枯れること
勇者に一言 『あなた、本当に、勇者なの?』
挿絵(By みてみん)
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