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ハーレム100 作者:松宮星

あなただけを……

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不死を捨てた者   【イザベル】

 ダーツの矢は、【イザベル】に当たりました!

※この章の各話は、それぞれ独立した話です。共通の設定もありますが、ストーリーに繋がりはありません。
 死の淵から舞い戻った勇者は、逝く白い幽霊を笑顔で見送った。無理に笑おうとしてつくった、歪んだ笑みではあったが。

 涙を堪え、天を見上げる勇者はまだ気づいていない。

 自分が助けた女の存在(こと)に。

 勇者が息をふきかえすと同時に、勇者からさほど離れぬ地の上に一糸まとわぬ女が現れた。
 魔王の一部になっていた女だ。
 力なく倒れている女を見るなり、聖女は治癒魔法を唱え、貴族の男は上着を脱いでかけてやった。勇者の無事を確認すると、幼馴染の女もその女の面倒をみる為に駆け寄っていた。
 誰も何も言わぬが、わかっていた。
 女を助けたのは、勇者であると。
 それゆえ、仲間たちも女を助けて守る。勇者の意志を尊重して。

 おかしかった。

 気がつけば、私の顔には笑みが浮かんでいた。
 処世術として身につけた笑みではない。勝手に頬がゆるんでいたのだ。

 人のいい勇者は、仇敵の魔王までも救った。

 輪廻世界もろともデーヴァを滅ぼそうとした私とは、何たる違いか。
 勇者が私の立場であったなら……
 決して、世界を滅ぼす道は選ばなかったろう。己が命も顧みず、アスラの助命をひたすら乞うたのではないか……そんな気がする。

 王が膝を屈したぐらいで、傲岸なデーヴァがアスラの殲滅をやめるはずなどない。
 しかし、その王が私でなく、この男であれば……アスラの運命はまったく違ったものとなったのでは?
 和平の道とて、見出せたやもしれぬ。

 不思議な男だ。
 容姿は平凡。人物的魅力(カリスマ)は低い。魔法力はなく、戦士としての技量もさほど高くなく、運気は最低最悪。頭も悪い。
 であるのに、己の正義を貫く事で、周囲を動かす。

 勇者とは……誰にも成せぬであろう偉業を成し遂げた者。

 武勇に優れているか否かではない。

 この男こそ、真の勇者なのだ。 
 おひとよしで、鈍感で、騙されやすくって、浅慮で、いきあたりばったりで、その上スケベだが。





 勇者が魔王を倒すと共に、魔王も魔王城も消えた。
 辺りは、草木一本生えぬ荒涼とした大地へと変貌した。

 けれども、魔王が果てた地が何処であるかはわかる。
 私の為に散ったものたちの思いが強く残っているから……

 そこに、壇があり、巨大な玉座があった。
 魔王の腰かけた玉座だ。
 悪魔を思わせる、角と背の翼。
 鋭い爪のある手、蹄のある足。
 全身は、尖った黒い毛に覆われていた。顔すらも毛で覆われ、松明のように燃える双眸だけが黒い魔王から浮き上がっていた。
 醜い姿だった。

 獣のような魔王と同化せよと、私は八人の精霊(おとこ)たちに命令した。
 魔王戦の間、魔王と同化し続け、各々が司る四元素及び四事象の耐性を低下させよと命じたのだ。
「フラム、ラルム、ヴァン、ソル、グラス、トネール、マタン、ニュイ……」
 炎、水、風、土、氷、雷、光、闇。
 彼等の働きにより、魔王の物理・魔法耐性をも下げられた。

 1億ものHPがあった魔王は、なかなか討伐されなかった。
 私の命令に忠実であった精霊たちは、魔王と共に、燃やされ、斬られ、刻まれ、凍らされ、浄化され……何度となく死の苦痛を味わい、何度も魔王と共に復活し……

 死ぬ為に、生き続けていた。

 私のしもべとなったが為に。


 しかし、総ダメージで1億を出す為には、この方法しかなかった。

 他の未来では、勇者の道はどうあっても閉ざされていた。魔王戦より先の未来がなかったのだ。

 それゆえ、私から学者に願ったのだ、魔王を弱体化する役をやりたいと。八大精霊を用いての弱体方法の利点を強く訴えて。
 裏英雄世界に向かう前のことだ。

 私の精霊たちが、魔王を弱体化したことで、全アタッカーの与ダメージが増加した。
 精霊たちの助力がなければ、10〜20%ほど総合ダメージは減ったろう。
 殊に、魔王の一部であった女の攻撃……あの女が大ダメージを出せたのは、自身の能力に加え、魔王そして魔王と同化していた精霊の力を利用できたからだ。

 精霊たちは、よくやってくれた。
 私の予想以上に……

 勇者を正しい未来へと導けたのは、彼等のおかげだ。

 勇者は、険しい茨の道にあった。
 枝分かれする未来の先は、ほとんどが閉ざされていた。魔王に勝利し幸福な未来を手にできる道は、まがりくねっており、とても細かった。
 光がさすその道へと、導けてやれたのだ。

 満足だ……


 魔王と共に精霊たちが散った地を見つめ、ぼんやりしていた。

 これから、どうしようか?

『勇者の仲間』としての役目は、果たせた。

 私の為に四散してくれた精霊たちの復活を待ち、彼等の忠義を称える。
 それが、主人の務めだ。

 だが……その後は……

 なすべきことも、望みもない。
 死ぬまでの間、どうやって時を費やそうか?

 この大地のように荒涼な未来が、延々と続いているように思えた。

 ナーガは……今はドロテアと名乗っているあの子は、私を王に戴き、輪廻世界に進軍し、デーヴァを滅ぼすなどと夢を見ていたが……
 ありえぬ夢だ。

 今のアスラでは、デーヴァに勝てぬ。
 唯一、勝てる方法であった散華を、天界で私が捨てたのだ。勝利の道などない。

 同朋を破滅に追いやるだけの戦など起こせぬ。

 子をなせる年齢のうちに子をなし、その子供の誕生と共に古い体を捨て……一子相伝で過去からの記憶を代々受け継いできた。
 しかし、もう転生を繰り返す必要もない。
 子をなさず、この肉体のまま年老い、土に還るべきだ。

 ナーガは私の死を嘆くだろうが……『未来のことは、未来の私と話してその時に決めればいい』と言っておいたのだ。あきらめの悪いあの子のことだ、私の復活を千年でも万年でも待つだろう。生き続けてくれるはずだ。



「イザベルさん!」
 背後からの声に振り返れば、勇者が居た。
 緊張した顔をしている。

「オレ、これから王宮に行きます。新賢者として、魔王戦のことを王様に報告に行かなきゃいけないんで」

 ああ、そうか。
 魔王を討伐したのだ、もう『勇者』ではないのだ。
 口元に柔和な笑みをつくり、目を細めた。
「晴れ舞台ですわね。おめでとうございます。いってらっしゃいませ、賢者さま」

「そのまえに、お礼を。魔王を倒せたのは、みんなのおかげです。特にイザベルさんにはお世話になりました……いっぱい助言をしてもらいましたし、精霊達との契約の証のアクセサリーをいただいた。裏冒険世界へ行けたのも、イザベルさんのおかげだ」

 うふふと笑った。
「仲間として当然のことをしただけですわ」

「それに……」
 賢者の視線が下に向く。

「精霊達と占いの力まで、捧げてもらったんです……感謝しても、感謝しきれない」
 私の視線も下へと向いた。賢者が見ているものを、見た。
「あら、やだ」
 また、水晶をなでるかのように、重ねた手を動かしていたらしい。長年の癖は、なかなか抜けないようだ。占いの水晶は、呪具に用いて割ってしまったのに。
「お気になさっては、いけませんわ。私が自分の意志でやると決めたことですもの」

「オレ、しばらくあれこれ忙しいんですけど……お手伝いさせてください」
「え?」
 何を?

 賢者が真剣な目で、私を見る。
「とりあえず精霊達に助力を頼みますね。時間ができたらオレも参加しますんで、イザベルさんの占い道具探しを手伝わせてください。移動魔法が使えるようになりましたから、多少はお役に立てるかと思います」
「賢者さま……」
「失った水晶珠と同じか、それ以上に相性のいいモノを探しましょう。絶対、何処かにありますよ」
 賢者が笑う。子供っぽい、人のよさそうな、楽天的な顔で。
「イザベルさんは、たくさんの迷える人々を救った凄い占い師なんだ。早く復活できるよう、力になりたいんです」

 見れば……
 賢者だけではなく……賢者の幼馴染、戦士、発明家、獣使い……私の顧客であった者達も私を見ていた。さんざん稼がせてもらった相手。
 そして、ひっつめメガネの色気の無い女までも。
「上質の水晶でしたら、心当たりがございます。ポーヴォワール伯爵家は鉱山を所有しており、職人も抱えていますから。まあ、占い道具などといういかがわしいアイテムは作らせていませんが……ご希望とあらば、原石でも研磨石でもお譲りいたしましょう」
 ツーンと澄ました顔で、学者が言う。占い師を嫌いぬいているくせに。

 ほんとうに、面白い……
 人間は見ていて、あきない存在だ。

 迷い悩める者たちはみな、愛しい。

 占いは生計(たつき)の技に過ぎなかったが……
 人間を眺め、交わるのは楽しい。
 短い生を懸命に生きる人間たちと共に生きていれば、無聊を慰められよう。

「ありがとうございます、みなさま。占いの館を早く再開できるよう、頑張りますわね」
 私の言葉を無邪気に喜ぶ女たち。無関心を装う学者。
 みな、かわいらしい。

「賢者さま……お言葉に甘えさせていただきますわ。私の占い道具探し、手伝ってくださいな」
「もちろんです!」
 賢者が拳を握りしめる。嬉しそうだ。
「万分の一でも恩を返させてください!」

「ほんと、お気になさらないで。こちらこそ、世を救っていただきましたのに。私が、今、生きているのは賢者ジャンさまのおかげですわ」
 うふふと笑って、そっと賢者に触れた。
「さ、この話は、また今度。どうぞ、王宮へ」


「あ、あと、もう一つ……」
 賢者が、ごくっと喉を鳴らした。

「道具、さがし、だけじゃなく……こ、これから、た、たまに、オレと、会って、いただけませんか……?」
 賢者が、しどろもどろに説明する。
 よその世界の神々がどうの、ダーツがどうの。
 要領を得ないが……
 どうも……
 賢者の人生に、この世界の女神が介入をしたらしい。

「イザベルさんが真の伴侶になったんで、オレはこの世界にとどまれました。ダーツの目の半分は、他世界への強制転移だったんです。この世界に残れて良かった……」

 己の意思を奪われ、傀儡(くぐつ)とされたのに……?

 女神の魅了であれば、最高位の呪いも同じ。
 決して解けることのない、呪縛をかけられたのだ。

 死すまで、この男は私への愛という幻影の中に生きる。

 真の思いを忘れ、偽りの愛を真実と信じて。

 憐れだ。
 魔王を倒しても、尚、女神の掌の上。
 人間など、死ぬまで神に弄ばれ続けるだけの卑小な存在だ。


「すみません。いきなり変なことを言って……。でも、伝えておかなきゃ、イザベルさんが消えてしまうような気がして……」
 そこまで言って、賢者は『馬鹿な事を言いました』と謝った。
 この男は鈍感だが、時々、妙に勘が鋭くなる。
 私の無気力さを感じとったのかもしれない。

「友人として、で構いません。時々でいいから、会ってください」

「ドロテア……あなたがそう呼んでいた魔女に頼まれたから?」

「それもあります。でも、それだけじゃない。オレがそうしたいんです」
 賢者がきりりと表情をひきしめた。

「イザベルさんは、恩人だし、素晴らしい女性だから……幸せになってもらいたい。幸せになる姿を見届けたいんです」

 吹き出してしまった。

 賢者が目を丸めて、私を見る。
「……ごめんなさい」
 止めようとしても、笑いが止まらない。

 おかしかった。

 今の気持ちを、勇者流に言えば、きっと、こうだ。

 私のハートは、キュンキュンと鳴った……


 ほんとうに愚かな男……
 真実を見抜く目はなく、神に弄ばれ、流されても尚……『勇者』の生を貫こうとする……

 どこまで人がいいのだ……

「かわいそうすぎて、うっとりしちゃう……」
「へ?」
 思わず漏らしてしまったつぶやきに、賢者が目を白黒させる。
 うふふと笑って、秋波を送ってやった。

「賢者さまが素敵すぎて、嬉しくなってしまいましたわ……これは、ほんのお礼です」
 にこやかに微笑みながら、賢者を手招きした。
 近づいて来た男にもっと近くへと促し、顔を寄せ、その耳元でそっと囁いた。

 賢者の望み通りの答えを。

 賢者が目を見開き、顔を赤く染める。
 体が硬直している。
 触れてもいないが、高鳴る胸の鼓動が聞こえてくるようだ。


 どうせ、余生なのだ。
 この男にくれてやろう。
 私かこの男……どちらかの短い生が終わるまで。

 それに……少しだが、期待もある。

 真の勇者だったこの男ならば、あるいは……
 生きる意味を与えてくれるかもしれぬ。

 不死を捨て、ただの女になった私に……
【不死を捨てた者 完】

+ + + + + + + +

 次回は、セリアとの話。ジャンからの告白に、セリアは戸惑い……
 9月18日(水)更新予定です。
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