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ハーレム100 作者:松宮星

あなただけを……

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もこもこキュンキュン【パメラ】

 ダーツの矢は、【パメラ】に当たりました!

※この章の各話は、それぞれ独立した話です。共通の設定もありますが、ストーリーに繋がりはありません。
 目の前にいるのは、オレの腰までの大きさの生き物。
 二足立ちをし、両前足をもじもじとこすり合わせている。
 耳が長いから、たぶん……ウサギなんだと思う。だが、左右で長さが合ってないし……
 全体的にいびつ。ぐにょんぐにょんしている。
 致命的な欠陥として、顔がちょっというか、かなり……
 ぎょろっとしたでっかい眼は、死んだ魚のように濁っていて、左右で好き勝手な方向を向いている。
 鼻穴は小さく、鼻息が荒い。
 だらしなくあんぐりと開いた口からのぞく歯もふぞろい。舌は無意味に長い。

 なのに……

「かわいい! かわいい! かわいい!」
 白ビキニの人は、満面の笑顔でそれをギュッ! と抱っこした。

《か、かわいいですか?》
 抱きつかれてる方が戸惑っている。
「ええ! とっても!」
 ウサギもどきに、白ビキニの人が愛しそうに頬ずりをする。
「そのおめめも、おみみも、お口も、素敵。愛らしいわ」

 ウサギもどきの顔がパーッと輝く。嘘偽りなく、白ビキニの人がそう思っているとわかるからだ。

《これ……何処をどう直せば、普通のウサギっぽくなりますか?》

「作り直すの? もったいないわ……ウサちゃんは、そのままでとってもラブリーよ」

 え?

……そう思うのは、たぶんあなただけです。

《私、普通のウサギになりたいんです》
「そうね……」
 白ビキニの人が、首をかしげる。
「……毛づやが悪いわね。栄養状態の良い子は、もっとふさふさの毛になるの。それから爪も長すぎ、折れたら怪我をしちゃうわ。もっと短くして。お耳もピンとしてみましょう。左右で同じ長さにできる?」



 白ビキニの人……獣使いのパメラさんがあれこれ助言をしたおかげで、だいぶマシになった。
 そこに居るものは、本物のウサギとはかなり違うけれどもウサギに化けたんじゃないかなーとたいていの人がわかってくれる生き物となった。

《つ、次は、クマに変身してみます》
 ウサギもどきが消え、クマもどきが現れる。
 これも、かなりナニ。
 ぬいぐるみと本物と凶悪犯を足して三で割って百を掛けた感じ。それぞれの個性を不必要に強調し過ぎというか……んでもって、歪んでいる。

 けれども……

「かわいい! かわいい! かわいい!」
 パメラさんは、満面の笑顔でそれをギュッ! と抱っこした。体にドラちゃんを巻きつけてるが、獣を愛する時にはうっかり忘れるのか、とても力強く抱きしめている。

 抱きつかれているクマもどき……水の精霊マーイさんが嬉しそうに微笑む。
 変身が下手すぎて、千二百年もの間、誰のしもべにもなれなかったマーイさん。
 外見にすごいコンプレックスを抱いているんだが、ここまで手放しで絶賛されれば変化(へんげ)を見てもらうのも嫌じゃないだろう。

 精霊は人の心が読める。
 パメラさんがお世辞でも同情でもなく心から自分を誉めてるんだって、マーイさんにはわかる。パメラさんと一緒に居て、変化をみてもらえば、変身も上達するんじゃないかな。
 動物限定だけど。





 運命のダーツによって、オレの本当の伴侶はパメラさんと決まった。

 そのせいだろう、パメラさんに対し持っていた好意がものすごくふくれ上がってしまった。
 女神様に操られてるのだと思うとムカついたものの、気持ちはおさえようもなかった。

 オレはパメラさんのことを、本気で好きになってしまったのだ。

 運命のダーツのことは、隠さず仲間達に話した。
 パメラさんを真の伴侶にする事を条件に、オレは勇者世界に残留できたのだと。

 だが、それはあくまでオレの事情。
 獣にしか興味のないパメラさんにとっちゃいい迷惑だろう。
 ドラちゃんという相棒を得て、対人恐怖症が治り、これからようやく獣使いとして活躍できるって時期なんだし。
 オレはパメラさんを選ぶ。でも、嫌だろうから遠慮なく振ってくれと。

「ふざけんじゃないわよ! そう言われて、はい、そーですねって振ったら、パメラが悪人みたいじゃない!」
 カトリーヌは怒り、ドラちゃんは主人を守ろうとしたのだろうオレに飛びかかってきた。オレはドラちゃんにグルグル巻にされ、ぎゅむぎゅむされた。が……

「いいわ。(つが)いになる」
 皆が拍子抜けするぐらいあっさりと、パメラさんは真の伴侶をおっけぇしてくれたのだ。

「おやめなさい、パメラ! 同情で結婚したら後悔するわよ!」
 と詰め寄る幼馴染に、パメラさんは静かにかぶりを振った。
「勇者さまは嫌いじゃないわ……」
 そう言ってからちょっと左右に首を傾げ、
「たぶん、好き。賢者さまと同じ匂いがするもの……」
 たぶん、か……

「他の誰でも、きっと駄目……。勇者さまとなら大丈夫だと思うの。勇者さまの子どもなら産めそうな気がする……」

 う。

 オレのハートはキュンキュンキュンキュンと鳴った!
 鳴り響いてしまった!

 パメラさんは綺麗だ。
 澄みきったグレーの瞳。眉も鼻も唇も頬も完璧で、神像のように美しい。人間の理想美のような顔だ。
 スタイルも抜群。胸がぷるんぷるんで、ウエストがしまっていて、お尻がぷりんぷりん。でもって、美脚。アナベラ並のボンキュッボンだ。

 この世の誰よりも美しい女性に、結婚をおっけぇしてもらえたのだ。
 天にも昇りそうな心地だった。

 だが、しかし、いきなり、そういう関係になるのにも抵抗があった。
 カトリーヌやジョゼやサラ……みんなが見ている所での告白だったし……
 正直、周囲の視線が痛い……
 つーか、本当に痛い。ドラちゃんがオレを締めつける……

「巣は賢者の館?」
 と聞かれたので、別々に暮らしましょうと答えた。
「なぜ?」
 パメラさんが不思議そうに首をかしげる。
「人間の番いは、聖教会で誓いを立てて、同じ家で添いとげるものでしょ?」
「結婚うんぬんの段階じゃないと思うんです。オレ達は、一緒に暮らす必要はない」
 勇者システム改革するったって、賢者の館に伴侶を連れ込む気はない。
 それに、獣使い屋で愛する獣たちに囲まれて暮らした方が、パメラさんは絶対に幸せだ。パメラさんらしく生きられると思う。

 穢れを知らない子供か動物のような眼が、ジーッとオレを見る。
「そう……わかったわ。あなたは、あたしを生涯の伴侶にはしないのね。季節ごとにパートナーを変えるんでしょ? あたしとは一回だけの交尾?」
 いやいやいやいやいや!
「そうじゃなくって!」
 その獣的思考やめてください!
 てか、苦しい! 少し緩めて、ドラちゃん!

「まだ結婚は早いと思うんです! ドラちゃんを得てせっかく超一流の獣使いになったんです。お師さまの下で、是非その力を発揮してください」
 獣使いは、モンスターを使役して、警備・宅配・工事・ショーなどの外の仕事もする。今のパメラさんなら王宮の警備役だってできそうだ。
「けど、オレの方はどうしたって賢者の館中心の生活になる。互いにやりたい事が違うんです。無理に同居する必要はありません。別々に暮らして、たまにデートをしましょう」

 パメラさんは、首をかしげるばかりだ。
 人間の結婚(イコール)同居と理解していたので、それ以外の交際形態が納得できないんだろう。

 モンスターや獣達と暮らしてきたから、パメラさんの頭の中は獣的だ。人間社会の多様さも人間の複雑な心理も理解できないのだ。

「オレはパメラさんが好きです。初めて会った時から、すっごく綺麗な人だなあと思ってきました」
 ドラゴンのきぐるみを着てて残念だなあ〜と思ってたけど。
「だけど、オレ、パメラさんのことをほとんど知らない。話をする機会があんまなかったし」
 パメラさんが人間と会話できなかったからだが。
「一緒に行動する事も少なかった」
 共に旅をしたのは幻想世界と裏ジパング界だけだ。
「本当の夫婦になるのはもうちょっと先にしませんか? オレはパメラさんのことをもっと知りたいし、オレのことを知ってもらいたいんです。結婚はそれからにしましょう」

 パメラさんにとって、オレはずーっとお師匠様のおまけだった。
 こんな綺麗な女性を、オレの妻にできるんだ。
 どうせなら、オレをちゃんと見てもらいたい。オレ自身を、少しでも好きになってもらいたい。

「なんとなく、わかったわ……」
 パメラさんが、にっこりと微笑む。
「繁殖のシーズンまで、エサ場を別にするのね? あなたのさかりは、春と秋? 秋になったら同居?」

 てな感じに、とことんズレてはいたが……賢者になったオレは、パメラさんと結婚を前提としたお付き合いを開始した。


 じきに、パメラさんは、売れっ子獣使いとなった。
 絶滅種ドラゴンを操る美人獣使いなのだ、人気がでないわけがない。厳密に言うと、おかみの神に産み直してもらったドラちゃんは龍で、この世界のドラゴンとは同族亜種らしいが。
 ショーに出ればいつも満員御礼、パメラさんを一目見ようと獣使い屋に野次馬がおしかけ、王侯貴族からは山のように招待状が届き……

 周囲の熱狂に、パメラさんは戸惑った。
 対人恐怖症が治ったとはいえ、人と接するのは不慣れ。複雑な話は理解できないし、文字の読み書きも苦手なのだ。
 ファンと称する人々とどう接していいかわからないパメラさんを見かね、幼馴染のカトリーヌがマネージャー役となった。
 積み上がった手紙をパパッと整理し、獣使い屋のお師さまや先輩達と相談してパメラさんの予定(スケジュール)をたて、リーズにボディガード役を紹介してもらったのだとか。
 事務仕事が大嫌いな女狩人も、パメラさんの為ならやれるらしい。さすが、愛の狩人。
 ボディガードは、北の荒れ地の村出身の女性達だ。剣技の腕も重視したが、それよりもモンスターの扱いに慣れてるところを評価してカトリーヌは採用したらしい。
 パメラさんが安心して接する事ができるのは、獣か人外、獣使い、獣の匂いがする者。四六時中側に居るボディガード相手にパメラさんが緊張しないように、配慮したようだ。


 オレの方が時間に融通がきくんで、パメラさんの休みの日を事前に聞いといて、その日に来訪するようにした。


 会いにいくと、たいていカトリーヌに捉まる。愚痴を聞かされまくる。
「理不尽だわ! 男ってだけであなたが恋人で、私は永遠に幼馴染……。私の方が深〜く細やかに優しく包み込むようにパメラを愛しているのに!」

『ドラちゃんは……ショーはあまり好きではないみたい』
 そう漏らしたパメラさんの為に、カトリーヌは水不足の土地への慰問旅の計画も立てた。
『今は無理だけれども、いずれはショーではなく、こちらをメインの仕事にしましょ。ドラちゃんが水龍としてみんなの役に立てる方が、あなたも嬉しいでしょ?』
 幼馴染のカトリーヌは、パメラさんが言葉にしない思いを察する事ができる。あれこれと気も配ってくれる。

 スターとなったパメラさんにはカトリーヌはなくてはならぬ存在となった。二人の結びつきは一層深くなった。
 パメラさんはあの美しい顔に笑顔を浮かべ、カトリーヌに甘え、抱きついたりする。だが、性的な意味は皆無。子猫が親猫に甘えているようもの。
 パメラさんにとって、カトリーヌはあくまで幼馴染なのだ。
 気の毒だが、仕方が無い。パメラさんの獣的な単純な頭では、女同士の愛は理解できないのだ。

「つらいわ……手が出せないんですもの。生殺しよ。プラトニックこそ至高の愛だなんて、絶対嘘だわ……」
 カトリーヌは、英雄世界で霊能者のカンザキ ヤチヨさんに助言された。
 一方的な愛を押しつけていては悲しい結末となる、愛しているのなら大事にしてあげなさい、てな意味のことを言われたらしい。
 カトリーヌは自分の愛に押しつぶされて、パメラさんが病んだり、死を選ぶことを恐れ、プラトニックに愛し方を切り替えたみたいだ。
「……怯えられて逃げられてた時期よりは、今の方がマシだけど……ああああ、手を握りたい! キスしたい! ××を××して×××したい!」

 カトリーヌの愚痴には、なるべく付き合ってあげている。フラストレーションをためながらも、パメラさんの為に頑張って働いてくれてるんだ。有り難い。カトリーヌには報いてあげなきゃ。


 カトリーヌの相手が終わった後は、パメラさんとの時間だ。
 余暇でも、パメラさんは獣使い屋に居る。
 旅行とも買い物ともお洒落とも、無縁な人なのだ。
 ドラちゃんや獣たちとたわむれ、お世話をし、無邪気におしゃべりをする。獣たちと一緒にいるのが、パメラさんの至福の時なのだ。

 オレはそんなパメラさんを見つめてのほほんとし、別れていた間のことを互いに語り合い、いっしょに夕食をとってから帰る……そんな健全なお付き合いをしている。





 で、今日はマーイさんの変化を見てもらっている。

 マーイさんは人前で変化する事をかなり渋った。
 しかし、パメラさんは裏冒険世界のかなりアレな外見の御使いをかわいい! と絶賛した女性。
 幻想世界では、クラーケンやら大ミミズやら大ムカデやらを可愛がっていたし。
 獣なら何でもかわいい! って言うんじゃないかなあと思ってた。

 予想通りだった。


《つ、次は、ドラゴンに……》
 マーイさんが変化をする。
 ドラちゃんを参考にして、がんばって変化したのだろうが……一言で言うなら巨大な白いソーセージだった。しかも、モコモコと毛深いし。白カビの生えたソーセージのようにも見える……

 だが、やはり、パメラさんは……

「かわいい! かわいい! かわいい!」
 と、満面の笑顔でマーイさんをギュッ! と抱きしめた。

「あなた、(オス)? (メス)?」
 美の女神のような人が、うっとりとマーイさんを見つめる。
《精霊には性別がありません。メスのつもりで変化しましたが、オスにもなれます》

「素敵だわ……」
 ドキンとした。パメラさんが見る者をとろけさせてしまいそうな甘い笑顔を浮かべて、オレを見たのだ。
「あたし、賢者さまの番いになってよかった……こんなかわいい子と仲良くなれたし……この子、ドラゴンにもなれるのだもの」

 いや、あの……
……今の段階では、ドラゴンと言い切ってはいけないかと。
 マーイさんの変身能力向上の為に、いろいろ助言してあげてください。

 マーイさんを抱きしめながら、パメラさんは片手で自分の体に巻きついているものを撫でていた。
「良かったわ……この世界にあなたは一人だけだと思っていたけど……この子はあなたのお友達になれる……あなたがもう少し大きくなったら、番いの相手にもなれる。あなたは一人ではないのよ……」


 精霊は人間と子づくりができる。互いの気を交じり合わせ、新たな存在を産み出すのだとか。精霊が産むことも、人間に産ませることもできるらしい。

 龍相手にもできる? と、心の中でマーイさんに聞いてみた。
《それは可能です……でも、》
 マーイさんが言いづらそうに、オレだけに思念を伝えてくる。

《あの白龍……私など相手にしないでしょう。愛を捧げる相手を決めていますから》
 ん?
《主人を熱愛しているのです……恋愛的な意味で……》


 ドラちゃんってメスだったよな……

 龍版カトリーヌだったのか……

 愛しそうにドラちゃんを撫でるパメラさんに、ドラちゃんは頭をこすりつけ返している。 

 ドラちゃんがチロッとオレを見る。
 敵意にあふれた、実に挑戦的な瞳だった。
 なんとなく……ジョゼの肩にいた紫の小鳥を思い出した。

 パメラさんと真の夫婦になるのは、まだまだ当分先だろう……そんな予感がした。
【もこもこキュンキュン 完】

+ + + + + + + +

 次回は、ルネとの話。あいもかわらず発明三昧の生活を送るルネ。果たして、ジャンとルネの間に愛はあるのか?
 9月12日(木)更新予定です。
+注意+
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