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ハーレム100 作者:松宮星

あなただけを……

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女狩人は死なず   【カトリーヌ】

 ダーツの矢は、【カトリーヌ】に当たりました!

※この章の各話は、それぞれ独立した話です。共通の設定もありますが、ストーリーに繋がりはありません。
「この人がカトリーヌのお父さん……?」
「ええ、そうよ」

 意外だった。

 カトリーヌのお父さんだし、非常に浮気性の人だって聞いてたから、絶世の美男子を想像していた。

 けれども、カトリーヌの実家に飾られた肖像画の男性は……
 下がり眉だし、目尻の下がった目は温和、笑みが似合う口元も優しそうで……
 まるで、聖職者か人のいい教師のようだ。
 顔の造作は悪くないものの、もっさりしていてあかぬけない。
 誠実で実直な好人物って感じ。

 カトリーヌがフンと荒い息を吐く。
「こういう人畜無害っぽい男の方が危険なのよ、女性に警戒されないもの。誰に対しても人あたりが良くって、浅く広くあっちこっちに媚びを売って、聞き上手で、服装もセンスも地味なのに悪くは無くって、誉める時は心からの賛辞を送る。ま、その場限りの一時的な感情なんだけれど」
 カトリーヌが横目でオレを見る。
「ほ〜んと、そっくりよね」
 む。
「天然タラシで、本能に忠実。あっちにふらふら、こっちにふらふら。かわいい子がいれば、後先考えずに手を出して……その気になった女をポイポイ捨てて次々に相手を代えてったのよ。最低のクズだったわ」

「似てねえよ」
 カトリーヌのお父さんの絵から、視線をそらした。
「オレは浮気なんかしない」
「ふーん」
「今までは託宣を叶える為に、百人の伴侶を探してきた。けど、もう他の娘にキュンキュンしなくてもいいんだ。これからは好きな子だけを見つめてゆく」

「好きっていっても、神様から押しつけられた感情じゃない」
 冷たい眼差しで、カトリーヌがオレを見る。
「今日から私を一番に思えって命じられて、ホイホイその気になったわけでしょ? 全知全能の神様に感情を操られちゃったんでしょうけど……だからって、いい加減だわ。あなた、流されすぎよ」 
 鋭利な刃物を思わせる瞳には侮蔑の色さえ浮かんでいる。
「本当に好きな子は、私じゃなかったはずよ」
 カトリーヌは綺麗だ。アッシュ(灰色)ブロンドのセミショートの髪も、猫っぽい雰囲気にぴったり。
 細くて形のいい眉、目尻のあがったライトブラウンの瞳、高い鼻、薄い唇……一流の弓使いらしいソリッドな美貌だ。
「愛で戦う勇者だったんでしょ? 愛を貫いたらどうなのよ? 愛に生き、愛に死ねば?」
 ややハイトーンで、ぞくぞくするようなセクシーな声。辛辣な言葉すら耳に心地いい。
「私があなただったら、絶対、流されない。最愛のパメラを愛し続けるわ。神罰が下ったって構うものですか。偽りの愛に踊らされて悪夢に沈むぐらいなら、刹那の快楽に生きるわ。今までの生き方を変えたりするものですか。地獄に落ちてもいい。それが、運命。それが私の人生ですもの」

 ん?

「何よ?」
 ジロリとカトリーヌがオレを睨む。

 オレは首をかしげた。
「いや……今の台詞、どっかで聞いたような気がして……」

 カトリーヌが、おどけたように肩をすくめる。
「私は信念をもって生きる愛の狩人ですもの。あなたとは違うわ」

「格好いいなあ」
 カトリーヌが、更に不機嫌そうな顔となる。
「皮肉?」
「いいや、心からそう思ってる」
 オレは頭を掻いた。

「言う通りだよ。魔王戦までカトリーヌが一番じゃなかった」
「そうでしょ」
 フフンと女狩人が笑う。
「オレが一番好きな人は誰か……何となくはわかっていた。でも、魔王戦でちゅど〜んして死ぬかもしれなかったんで、その気持ちに向き合おうって気がなかった。真の伴侶を決めるのは、魔王戦の後。そう思ってた」

「だから、操られちゃうわけ? 押しつけられた感情のままに、好きでもなかった私を伴侶にするとか……ぞっとするわ」

 え?

「それは、誤解だよ。オレはカトリーヌが好きだったよ」
 ギン! と睨まれたので訂正した。
「カトリーヌ()好きだった。一番好きな子じゃなかったけど、わりと好きだった」

「わりと……ねえ」
 言葉使いを間違えたようだ。カトリーヌの顔に冷笑が浮かぶ。

「言ってみなさいよ、私のどこが好きだったの?」

「それは……」

 カトリーヌの視線が下に向く。
 つられてオレも下を向いた。

 カトリーヌは自分の下半身を見ていた。
 森に紛れやすい薄緑色のチュニックと栗色の皮靴の間に、ズボンなんて無粋なものは履いていない。
 履いているのは、ニーハイの深緑色のソックス。
 チュニックの裾から先には、なめらかそうで、弾力のありそうな、すらりとした太ももが露になっていて、たいへん魅力的だが……

 オレはかぶりを振った。
「『絶対領域』は素敵だ! けど、それだけで惹かれたわけじゃない!」

「ふーん」

 短い髪を掻きあげ、カトリーヌが微笑みかけてくる。なんともなまめかしい。

「私の顔や体も好き?」
「綺麗だと思うよ」
「ボンキュッボンじゃないわよ?」
 わかってるよ。体形からして、豊かとは思えない。サラといい勝負……いや、違うな。たぶん、カトリーヌの勝ちだ。
「大きい方が好きだけど、そこだけにこだわってるわけじゃない」

「ふーん」
 カトリーヌの手がオレの頬をとらえる。
「知ってるわよね、私のこと……」
 コケティッシュな仕草、色っぽい微笑み……
「私がどんな女か」
 だが、目は笑っていなかった。

「かわいくって綺麗な子を次々に落とす、愛の狩人。世界中の女の子が恋人……私は女の子が好きなのよ」
「知ってる……」

「男なんて、下品で無神経で身勝手な生き物だもの。存在自体がゴミよ。消滅してくれればいいと思ってるわ」
「そう思ってることも、知ってる……」

「ハーレム男は、特に大嫌い。女性をモノとしてしか扱わないなんて、最低。愛しいと思うから、愛でるのよ。互いに惹かれ合うから、共に生きるの。私、いろんな子を愛してきたけど、いつだって合意の上よ。アフター・フォローだって、ばっちり。使い捨てなんかしない。一人一人大切にしてきたわ」
……何十人、いや、もしかすると何百人も彼女が居そうだ。
 マルティーヌ先生もカトリーヌにメロメロだった。命じられるままにエッチな格好してたし……
 たくさんの女の子達から熱烈に慕われてそう。
「ま、私一人だけを見て欲しいって子とは、残念ながら長続きしないし……間違いなく、あっちこっちで怨みを買ってるわ。威張れるような人生は送ってない。でも、私は私なりに誠実に生きてきたわ。あの浮気男とは私は違うのよ」

 オレは部屋に飾られた肖像画を見た。
 大嫌いって言ってるけれど、たぶん……
 実の父親だから割り切れない感情があるんだろう……カトリーヌが愛の狩人となったのも、この人の影響が大きいんじゃないか……そんな気がした。

「じゃ、こっちから聞くけど……カトリーヌから見てどうだったんだ、オレの伴侶探しは? 不快だった?」
 猫のような眼を細め、カトリーヌがオレを上から下まで見つめる。
「『すべての伴侶に平等に』……あなた、英雄世界のヤチヨ奥様の助言に従ったしね……ま、不合格ってことはないわね。綺麗でかわいい子がいっぱい見られて、私も楽しかったわ」

「これからは、平等にしない。カトリーヌを特別にする」
 オレはカトリーヌを見つめた。
 カトリーヌの方がやや背が低い。お師匠様ほどにはぴったりと視線は重ならないが……視線を合わせるのは難しくない。
「成り行きなのは認める。けど、好きになった以上、男としてきっちり責任はとる。絶対、浮気はしない。カトリーヌだけを大事にする」

 カトリーヌの顔に朱が差す。
「まったくもう……あなたは」
 顔を赤くして、カトリーヌが視線をそらす。
「ほ〜んと、天然タラシ……パパそっくりだわ」
「いや、違うぞ。オレは浮気はしないって言ってるだろ?」

 カトリーヌが横目でオレを見る。
「……あなた、まだ言ってないわよ、私のどこが好きだったの?」

「真面目で優しいところ」
 答えたら、はあ? って顔をされた。

「真面目で優しいじゃん。オレの伴侶を探してギリギリまで走り回ってくれたろう?」
 それだけじゃない。百人目を増やせないオレの為に『ナンパ極意書』を書いてくれ、マルティーヌ先生にキュンキュンもののエッチな格好をさせ……
 カトリーヌは、オレを救おうと必死だった。
「それは当然でしょ。私があなたにニノンを紹介したんですもの。私のせいで賢者様は石化してしまった。裏世界に行かざるをえなくなったのも、仲間探しが困難になったのも、全部私のせい。私が浅はかだったせいだもの」

「カトリーヌのせいじゃない。言っただろ、カトリーヌも巻き込まれただけだ。気にするなって」
「違うわ。私のせいよ」
 むぅ。
 あいかわらず、強情。

「賢者様が石化された時にあなたがあげた叫びが、忘れられなかった。ずっと耳にこびりついていた。絶望のあまり人はあそこまで暗く痛々しくなるんだ、って……」
 カトリーヌが微笑む。彼女らしくない、弱々しい笑みで。

「あなたが、魔王戦で死ななくて良かった……賢者様、じゃなかった、シルヴィ様と再会できて本当に良かったと思っているわ」

 目尻のあがったきつい瞳までが、頼りなげで……
 何というか……
 可愛かった……


 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……


 心のままに動いてしまった。

「ちょっ! 何すんのよ!」
 オレはカトリーヌを抱きしめた。
「可愛いよ、カトリーヌ! すっごく可愛い!」
「可愛い? あなた、目がおかしいんじゃない? この私が可愛いですって?」
「可愛いよ……すごく愛しい……」

 カトリーヌの抵抗は、どんどん弱くなっていって……

 最後にはオレの腕の中で大人しくしてくれた。

「バッカじゃないの、あなた……」
 毒を吐く事はやめてくれなかったけど……それすらも可愛らしく思えた。





「わかったわよ。これも成り行き、というか運命なのよね。あなたと結婚してあげる」

 え?

「本気?」
「本気」

「オレ、男だぞ」
「知ってるわよ」

「大嫌いな男と結婚してくれるわけ?」
 カトリーヌが肩をすくめる。
「あなたが男って点には目をつむってあげる。あなたのこと、嫌いじゃないもの」
 おぉ!
「どーしよーもないスケベで、馬鹿で、考えなしで、いきあたりばったりだけど……誠実に生きようと頑張ってた。あなたは、パパそっくりだけど、パパとは違うわ」
 もっかいカトリーヌを抱きしめた。

 オレの腕の中で、恋人がクスクスと笑う。
「あなたとこうなる未来もあるって……私、知ってたの。ヤチヨ奥様から教えられていたのよ」
「へ?」

「今まで通りに生きていけば、最愛の女性を失い、あっちこっちから深い怨みを買って早世する。最愛の女性に愛を押しつけるのは控えなさい、嫌いではない男性からプロポーズされた時には素直にお受けなさい、それが幸福へと繋がるのだ、……ってね」
 英雄世界の霊能者カンザキヤチヨさんから助言をもらったのは、オレとお師匠様、それにカトリーヌだった。
 何ごとかを囁かれた後、カトリーヌは聞き入れたくないって言ってたっけ。
「あなたと結婚だなんて、ぞっとしたわ。悪夢そのもの。あの時は、絶対、嫌だと思ったけれど……」
 カトリーヌが、ニッとネコのように笑う。
「今はそれもアリかな? って気分。あなたと結婚したら、賢者の妻ですものね」

 更に口を歪め、カトリーヌがニィーッと笑う。
「人妻って、けっこうアピールポイント高いのよ。人生の先輩と慕われて頼られるし、女の子のガードを緩めやすいの」

 は?

「しかも、賢者の妻ですもの。社会的地位は高い。今までは私に見向きもしなかった上流階級の女性も、私をしっかり見つめ、その魅力に気づいてくれるはず」
 フフフと不敵な笑いを漏らす恋人……
「さ。結婚しましょ、賢者様!」
 美しい顔に凄みのある色気が浮かんでいる……
「私がどんな女か承知の上でプロポーズしたんですものね? 貞節なんか期待してないでしょ? 妻になっても、世界中の女の子を愛する事をやめないわ。いいえ、やめる事ができないのよ。私はカトリーヌ……女狩人なんですもの!」


 その迫力に、オレは圧倒されるばかりだった。

「けど、狩るのは女の子だけだよな?」
 一応、聞いてみた。
「男はオレだけだろ?」

「男なんか、あなた一人でたくさんよ」
 喜んでいいのか微妙な台詞だ……

「いいわよ、賢者様。嫌なら結婚してくださらなくとも。離婚だって、いつでもおっけぇしてあげる。賢者に捨てられた(もと)妻になったら、それはそれで女の子達の同情を誘えるし。結婚しても、離婚しても、私にはメリットがあるもの」

 多情で身勝手で、男を嫌いぬいているけれど……

 それも、あの人のせいなんじゃないか?
 オレは肖像画の男性をチラッと見てから、カトリーヌを正面から見つめた。

「カトリーヌがそうしたいんなら、止めない。嬉しくないけど、諦める。女狩人を続ければいい」
「あら。寛大ね、賢者様。惚れちゃいそうだわ」
 カトリーヌが揶揄するように笑う。

「でも、オレの方は浮気はしない。カトリーヌ一筋だ。カトリーヌだけを大事にする。誓うよ」

 カトリーヌは目を丸め……
 それから、顔をカーッと赤く染めた。
 上目づかいにオレを睨んでくる顔が……何とも可愛い。

「そんな事、軽々しく言って、後悔するわよ」
「しないよ」
「楽しみだわ。結婚すれば、あなたの正体がわかるわよね。口先だけの浮気男なんか、私、許さないわよ。即離婚してやる」

「いいよ」
 笑みが漏れた。
「そんな事にはならないから。オレの方から離婚を言いだす気はないし……ずっと夫婦でいられそうだな」

「バッカじゃないの!」
 カトリーヌが顔をどんどん赤くして、オレを睨みつける。

 カトリーヌは色っぽい大人の女性だ。が、時々、幼く見える。
 心の中が、少女のように潔癖でかたくなだからだろう。

 とても愛らしい女性(ヒト)だ。
【女狩人は死なず 完】

+ + + + + + + +

 次回は、パメラとの話。振られるのを覚悟の上で、獣使いに告白したジャン。それに対し、パメラの答えは……
 9月10日(火)更新予定です。
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