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ハーレム100 作者:松宮星

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ドラゴンの決意   【幻想世界】

 ダーツの矢は、幻想世界に当たりました!

※この章の各話は、それぞれ独立した話です。共通の設定がある場合もありますが、ストーリーには繋がりはありません。
 夢を見ている……

 そう思いながら、オレは夢を見ていた。

 周囲には何もない。
 真っ暗だ。

 闇の中に、黒衣の女王様が居た。
 アシュリン様はお顔を傾け、右の二の指でご自分の頬を撫でていた。
「勇者と魔王の戦いは、ゲーム……神魔が直接戦えば幾多の世界を滅ぼしてしまうゆえ、勇者と魔王を代わりに戦わせ、どのような戦いとなるかを賭ける。賭けの勝敗で、互いに主張を通していた……なるほどな」

 先の尖った長い爪が、まるで鋭い牙のように見えた。
 アシュリン様は穏やかなお顔をしていた。けれども、その金の瞳は決して笑ってはいなかった。
「召喚者は、勇者世界の基準に攻撃力を再設定される……それも、神魔の賭けのバランスを壊さぬ為に。300万のダメージしか出せなんだ(わらわ)は、S級の神扱いで召喚されたわけじゃな。フォーサイスは妾と同格か、それ以下に弱体化された……そういうことなのだな」

 昔、こんな会話をしたなあと思いだした。
 幻想世界に流されてすぐの時だ。
 オレは、荒野のアシュリン様のもとへ転移した。
 突然現れたオレに黒衣の女王様は、とても驚いていた。
 オレは全てをお話しした。魔王戦でのこと、女神様から教えてもらった勇者の戦いの意味。

「駒に駒である事を知らせぬまま弱体化し……神々は賭けに興じたのか。あらゆる事が賭けの対象……勇者が勝利するまでの時間、双方の最大ダメージ値、仲間の数や種族やジョブ、そして死亡する仲間の数……」
 アシュリン様の金の瞳に、激しい怒りの炎が宿る。
「さぞや面白い見世物であったろうな、我が息子とシルヴィの戦いは……」

 年若いドラゴンだったフォーサイス。戦いの経験が少ない上に、力が制限されたのであれば、思うように戦えなかったろう。
 自らの命を犠牲にしなければ、お師匠様を守れなかったのだ。

 むろん、幻想世界に転移したいきさつも話した。神様達が争ったせいで、自分の未来をルーレットダーツで決めなきゃいけなくなった事も含めて。
「小さきものを、慈しみもせず庇護もせず救いもせず、その運命をただ弄ぶ……そなたの世界の神は好かぬ。尊崇の念など抱けぬな」
 アシュリン様は静かにお怒りになった。


「勇者殿……そなたは、もはや故郷に還る事かなわぬ」
 ドラゴンの女王様から、そう教えられたのは数日経ってからだったか。
「それどころか、故郷の者に逢う事もできぬ……そなたはシルヴィ達とは異なる次元に存在しておるゆえ」
 小柄な黒衣の女王様が、両手をあげた。その手が何かに触れた……ように見えたが、何もない宙をつかんでいるだけだった。
「今、ここにシルヴィが来ておる」
 びっくりして目をこらしたが、何も見えなかった。
「『あちらの世界のことは案ずるな。ジャンよ、おまえならば、正しい光の道を進める。己の運命を受け入れ、自分らしく生きよ』などと言うておる」
 いくら耳を澄ませても、優しい声は聞こえなかった。
 何故、お師匠様の姿が見えないのか、アシュリン様は教えてくれた。
 次元が違うと。
 互いに異なる並行世界に居るのだ、と。
 ドラゴンのアシュリン様は、複数の世界に同時に存在できる。次元を渡る能力があるからだ。望みのままに時空を越え、アシュリン様は幻想世界のあらゆる場所に、異世界へと渡れる。
 けれども、他の生き物はドラゴンほど自由ではなく、各世界の創造神が定めた枠の中で暮らしている。神の許しが無ければ、枠を越えられない。
「そなたの姿も、シルヴィには見えておらぬ。二つの世界が交わる時には、各世界の神の意志が働く。どのような形で二つの世界を接触させるかは、神次第……。どちらかが、或いは両者が、そなた達の再会を望んでおらぬようだ」
 お師匠様がたたずんでいる所に触れても、むなしく宙をつかむだけだった。
「気にくわぬ……」
 アシュリン様の金の瞳は、激しく光っていた。
「……実に気にくわぬ、な」



 夢から覚めた目に、カーテン越しに漏れ入る朝の陽射しが見えた。
 やわらかな朝の光の中を、小さな色とりどりの光が泳いでいる。くるくると激しく動き回るもの、ぱたぱたと動くもの、びよんびょん飛び跳ねているもの。ほとんど動かないものもいるけれど、朝だから活発化したものが多い。
《おはようございます、ご主人様》
 体の内側からサブレの声がする。
 サブレを同化させたまま眠ったんだったと思いだす。

 幻想世界は、大気にまで魔法の力があふれている。
 魔力の無いオレも精霊達に同化してもらえば、空気中の魔力の源が見られる。
 朝の光の中で、赤、青、緑、黄、水色、紫、白、黒の魔力が乱舞するさまは美しい。

 たとえば、ティーナが炎の力を使おうとすると、空気中の赤い玉が魔法に吸い寄せられてゆく。
 大気中に無尽蔵にある魔力を利用すれば、一の力を百にも千にも万にも増幅できるのだそうだ。幻想世界にいる限り、精霊界に還らずとも永遠に力を振るい続けられそうだ……そんな事も言っていた。

 どれほどの源を吸収できるのかは、そのものの資質次第。
 昔、森の女神エレン様がサラに脅威を感じたのも無理ない。サラは炎の大魔術師だ。当人は小さな焚き火をつくるつもりでも、炎の源を吸い過ぎた状態で魔法をうてば、辺り一面を炎の海にしかねなかったのだ。

 オレには魔力が無いんで、幻想世界の魔法的な力に縁はない……そう思っていたんだが……

 水差しの水を洗面器にためて、顔を洗う。
 鏡に映る顔は、いつもの顔。
 幻想世界に流されて十年以上経つ。が、オレの外見はほとんど変わっていない。
 老化が遅くなったのだと、精霊達に言われた。魔法的な力に満ちた世界に居るせいで、五年ぐらいかけてようやく一歳年をとるようだ。
 つまり、肉体年齢が六十歳になるまで生きるんなら、オレはあと二百年も生きられるわけで……
 八十歳まで生きるんなら、余命三百年だ。

 長い長い余生があったら、いろんなことができる。
 セリアなら嬉々として研究に時を費やしそうだ。
 ルネさんも、大喜びで発明三昧だろう。

 下着の上に、アシュリン様の鱗付き鎖帷子を着る。
『鱗を持つものは、我が庇護下に入る。遠き地にあろうとも、そなたの声は聞こえ、妾の声はそなたに届く。助けが要る時は呼ぶが良い。ゾゾも好きに使え。そなたが生きている限り、あれは壊さず置いておく。鱗を通し命じれば、ゴーレムは即座にそなたのもとへ現れるぞ』
 ドラゴンの女王様が餞別にくださった鱗は、魔法鍛冶師のケリーさんによって鎖帷子に編み込まれた。鱗も魔法金属も非常に軽く、鎧なのに通気性も良い。ずっと着てても、蒸れない。
 左胸の辺りにある黒の鱗は、宝石みたいきらきらと光っていて美しい。オレの掌よりも大きく、とても薄いのに、硬くなめらかだ。
『シルヴィは妾にとって娘も同じ。シルヴィの弟子のそなたも、身内同然じゃ。この世界でそなたが生きがいを見つけ、そなたにふさわしい生を送れる事を祈る』

 そうおっしゃってくださったんだが……
 十年経っても、オレはまだ迷っていた。この世界でなすべき役目を見つけられないのだ。

 上衣を着て、精霊達との契約の証の宝石を身につけ、腰に勇者の剣を差し、オレは宿屋を後にした。



 爽やかな陽射しを浴びながら、歩いた。魔力の源は、港町に居るから水が多く、朝なので光が多い。
 朝市が開かれていたので、通りには活気があった。水揚げされたばかりの新鮮な魚や貝、魚の加工品、野菜や果物、焼き立てのパン、チーズ、菓子、釣り具、古着、花……露天を覗いてふらふらした。

 買った魚のフライを食べながら、南国果物店を覗いていると……
 いきなり押し倒された。

「やっぱ、おにーさんだ、にゃー 元気かにゃー?」

 オレのお腹の上にのっかってるのは、獣人だった。
 見た目は金髪おかっぱの美少女だが、かわいい大きな瞳には縦長の金の虹彩があるし、上唇はネコっぽく波打っていたりする。
 そして、何より、頭のてっぺんにはアレがある。
 先っぽがちょっととんがった、ひょこひょこ動く二つの耳……

 ネコ耳だ!

 にぱっと笑って、裸オーバーオールのネコ獣人が、にょ〜んって感じに体を倒してくる。
 オレの片手の魚のフライは、瞬く間に消え失せる。
 口をもぐもぐと動かしながら、ネコ獣人はフンフンフンと荒く鼻を動かした。

「魚のフライも、これには勝てないにゃー 荒野のエライお方の香りだにゃー こわいけど、ステキ……大人の魅力だにゃー」
 ネコ娘が何とも言えない色っぽい目つきでオレを見て、主にオレの胸の辺りをクンクンと嗅ぐ。上衣の下のドラゴンの鱗に惹かれているんだ。
 あいかわらず、すごい嗅覚だ。いろんな匂いが混ざっている市場で、オレの匂いをかぎわけるなんて。大混雑ってほどじゃないけど、そこそこ賑わっているのに。

 んでもって、さらに見知った方達が現れる。

「これは、兄さん……お久しぶりでござんす」
 ぴょ〜んと飛び出たのは、白ウサギだった。長い耳と、つぶらな赤い瞳、ヒクヒク動く鼻。後ろ足で立っている。
 ラブリーでちっちゃいのに、道中合羽を羽織り、腰に刀を差して、長い楊枝ならぬナズナをくわえている。
『渡世人』装束のヤクザな白ウサギだ! 

「こんにちはー」
 とててと歩いてやって来たのは、愛らしい子グマだった。
 というか、オレンジのぬいぐるみ。もこもこの毛皮、つぶらな黒い瞳、小さなお鼻、小さなお口、丸いかわいいクマ耳。頭がものすごく大きくて二頭身しかないのが、強烈なまでにかわいくって……

「ミー、シロさん、ピアさん……久しぶり」
 びっくりした。
 ここは、港町ビレウスだ。シロさんの縄張りや、ピアさんの森からかなり離れている。乗合馬車でも……十日はかかるよな。ちょっとショッピングにって距離じゃない。

 ミーを蹴っ飛ばしてどかしてくれたシロさんに、思わず聞いてしまった。
「どうして、ここに?」
 シロさんは、プフプフと鼻を鳴らした。
「ちょいと南に野暮用がありやして、どうせ遠出するんならと妹達を同行させやした次第で。用事も終わったんで、今は女三人の気軽な旅にござんすよ」

 へー じゃ、観光か……

 見れば、オレンジのクマさんはきょろきょろと朝市を見渡していた。大きく開けたお口から、だらだらとよだれをたらしながら。
 立ち上がったオレのすぐ横にしゃがんで、ミーはオレの右の掌をクンクンと嗅いでいた。さっきまで魚のフライを持ってた手だ。

 お腹がすいてるのか。
 本能のままに露天につっこまないのは、たぶんシロさんから『外じゃ、行儀よくしろ。勝手に喰ったらお仕置きするぜ』とでもきつく言われてるのだろう。

「何か食べる? 奢るよ」
 オレがそう言うや、ネコ娘とぬいぐまの顔はパーッと輝いた。
 しかし、シロさんがブブと鼻を鳴らす。
「お言葉だけありがたくいただきやす。あっしの妹分達の腹は、底なしだ。あっという間に兄さんの財布を空っぽにしますぜ」
 むぅ。

「んじゃ、一人、三つまで。あっちにハチミツ菓子店もあったし」
「ハチミツ!」
 オレが指さした方角に、クマさんがトテトテ駆けて行く。

 追いつくのは、簡単だった。ぬいぐま姿のピアさんは足が遅いから。
 人間形態になった方が足が速くなるのに、変身(メタモルフォーゼ)することさえ忘れている。ハチミツを目指してピアさんは、まっしぐらだ。

「おにーさん、ふとっぱら! 大好きだにゃー!」
 ネコ娘が、にゃんにゃんオレの腕をとる。口からヨダレをたらし、目はギラギラ輝いている。
「マグロと、クラーケンと、人魚の肉、ちょうだいにゃー!」
 おまえ、オレを破産させる気か……。特に人魚。幻想世界の三大珍味、超高級魚だ。一皿でオレの食費三カ月分だぞ……





 砂浜に出て、のんびりした。
 ネコ娘は、波打ち際でハンティング中だ。遠洋の魚やら魚の加工品を奢ってやったんだが、まだ食べ足りないらしい。小さい魚や貝を獲っては、生のままぺろりと食べている。

 オレは、シロさんとピアさんの間に座っていた。

 人間形態になったピアさんは、左腕にマイ蜂蜜瓶を抱えている。すっごく幸せそうだ。
 右手を瓶につっこんで、蜂蜜まみれにして、ペロリペロリと舐める姿は何というか……エッチ。
 童顔のクマ耳美少女が、指をつたい、掌をつたい、手首をつたう、蜂蜜を、愛しそうに舐めてるんだもん。赤い舌がぴちゃぴちゃと音をたてる度に、ドキドキしちゃう。

 強くなってきた陽射しを受け、青い海はキラキラと輝いている。
 波とたわむれるミーを見てたら、
「こちらにはお仕事で?」
 と、尋ねられた。
「オレも観光だよ」
「お連れさまは?」
「居ない。まあ、精霊達は一緒だけど。明後日には、エポナに帰る」


 幻想世界に流されてからオレは、ドラゴンの女王様から貰った地図を片手に、旅をした。荒野も山も平原も地下も川も海も遠くの島々すらも、行ける所には行ってみた。

 その経験を買われ、五年前からエポナ市で嘱託職員となっている。
 市民生活向上課に併設された交通局に所属し、公共交通機関の役についたのだ。
 ドラゴンは次元を渡って好きな所へ行けるんだが、それ以外の生き物は別所へ魔法で跳べない。この世界には移動魔法が無いのだ。
 なので、移動魔法を使えるオレ……というか精霊達はたいへん重宝されている。
 月に数回、交通局長モーリンちゃんが組んだスケジュール通りに物資やお客さんを運搬している。

 跳び先は、荒野や過疎エリアがほとんど。
 危険だったり、利用客が少なすぎたり、交易してもうまみが少なかったりで、既存の運搬サービスがあまり行かないエリアだ。

 このあいだ、人馬のクロエさんが教え子達を連れて職場に社会科見学にやって来た。
 見学申し込みがあった時に訪問の目的も聞いていたんで、小学生の夢を壊さないようには気をつけたものの……
 正直、顔から火をふきそうだった。
『ジャンさんは何処へでも、一瞬で跳べるんです。その力でご自分で運送業を始められたら、大成功間違いなしでした。けれども、エポナ市と協力して、移動サービスを始められたのです。とても安い運賃で、困っている人を遠くへ運んであげる為に』
 小人さん、獣人たち、エルフ、ドワーフ、人間のお子様がキラキラした目でオレを見つめ、拍手まで送ってくれたのだ。
 オレはそんな立派な人じゃないのに……

 運送業を開業しなかったのだって、モーリンちゃんから助言されたからだ。
 オレが手軽に大儲けすればするほど、既存の運送業者は仕事の口を失ってゆく事になる。
『ぜったい、運送業者さんを廃業させちゃダメ。勇者さんがおっ死んだら、精霊運送業はおしまい、流通がわやくちゃになっちゃうわ』
 精霊達の移動魔法は公共機関の福祉サービスとして細々と利用すべきだ、とモーリンちゃんは主張した。

 荒野に流行病がはやった時、南の薬があれば、キーラーちゃんの家族をはじめ多くの命は助かった。仲良くなってもらいたい……とは思っていた。が、オレに具体策はなかった。
 移動サービスは、モーリンちゃんのアイデアだ。
『大切なのは、交易を慣習化させること。互いの良さがわかれば、ほっといても行き来する者は現れると思うの』
 モーリンちゃんは、異文化と市民が交流する下地をつくりたい、本当に物資を必要としているエリア――荒野・島・過疎の村には充分な量を送りたい、と考えていた。
 体はちっちゃいけど、モーリンちゃんは視野が広い。オレと違って、いろんな事を考えている。
 だから、手伝ってるのだ。商人を危険な地に跳ばす時には商売が終わるまで護衛役も務めるなど、できる事はやっている。


 モーリンちゃんの仕事を手伝えて良かったと思っている。

 けれども、何というか……

 仕事自体にはやりがいがあるのに、心が満たされないというか……

 自分らしい人生を送れてない気がするのだ。



「兄さんがこちらに来て十年……あっしが地下迷宮の奴等を束ねて、十一年が経ちやした。そろそろ旅に出ようかと思っておりやす」
 びっくりして見ると、白ウサギはナズナをぶらぶらと揺らしていた。
「あっしは、もともと風来坊。風の向くまま気の向くまま、流れ落ちゆく木っ端のようなものにござんす。一つ所に留まれねえ、ヤクザな女なんでやんすよ」
 海からの風に、白ウサギの道中合羽とナズナが靡いた。
「かわいい子分どもも妹分達も、立派に育ちやした。流れ狼なんぞに、もう遅れはとらねえ。ドワーフさん一家の後ろ盾もござんすし……潮時かと」

 決心は固そうだ。
「まだ教えることもあるかもしれねえ……そう思って今度の旅にピア達を伴いやしたが、口出しすることなんざ何にもなかった。二人とも、もう一人前の女侠客だ。あっしの自慢の妹分にござんす」
 クマ耳美少女はうるうるした目で、白ウサギを見つめていた。ハチミツを食べる手も止まっている。
「……寂しくなるなあ」
 心の中の思いが口にのぼってしまった。
「良い旅を」
 差し出したオレの右の掌に、シロさんの小さな右前足がちょこんとのっかった。

「地下迷宮の野郎どももピア達も、大事な家族。今の暮らしに何の不満もござんせん。けど、どうにもこうにも……流れ行きたいって魂が叫ぶんでやんすよ。その声を殺したら、あっしは違うものになっちまう。自分らしく生きてぇから、旅立ちやす」

「魂の叫び……か」

 オレの魂も、そうなのかも。

 還りたいと、叫んでいるのか。

 だが、還れない事は、わかっている。
 触れる事すらできないお師匠様と遭ったその日から……
 オレの魂には、ぽっかりと穴が開いたような。
 大事なものが抜け落ちちまって、何をしても満たされないんじゃ……そんな気がした。


「旅に出たそうなお顔だ」
 くりっくりの赤い瞳が、オレを見ていた。
「一緒に来やすかい?」

 え?

「いや、でも、オレは」

「冗談です。兄さんは、エポナで大事な仕事をなさっている。あてもない流れ旅なんざしちゃあいけねえ方だ。けど、魂の叫びを聞き流してばっかでもいけませんぜ」
 くっしゃくっしゃくしゃと、シロさんがくわえていたナズナを食べ……ごっくんと飲み込む。
 か、かわいい……
「故郷で勇者の役目をきっちり果たされたんだ。少しぐらいご自分の為に生きても罰は当たらねえ……そう思いやすがね」

 自分の為に生きる……?

「嫁でももらってみては?」
 ふわふわの、愛らしい白ウサギが小首を傾げる。

「エルフなんぞ、どうです?」
 ぶっ!
「イーファさん?」
「エルフ、お好きでしたよね? あっちも、気があるって評判だ。兄さん()に通いづめだそうで」
「『移動魔法を提供して、偉大なる花エルフの受粉の旅を助けろ』って布教にな……」
「おや、色気のないこって」
 シロさんがブブっと鼻を鳴らす。

「なら、人間かドワーフか小人から探しなせえ。今の季節、獣人は異性に見向きもしやせんから」
「シロさんも?」
 白ウサギが、オレを見上げ、プフプフ鼻を鳴らした。
「あっしは女を捨てた極道でやんすから、恋の季節でも惑いません。女である事を思い出させてくれる、いい男が現れりゃ別ですけどね」

 鼻をヒクヒクさせたシロさんが、奥歯をカチカチと鳴らしている。
 ふっさふさで真っ白なのに、目だけが赤い宝石みたいだ。

「一緒に来やすかい?」
 からかうように、シロさんが同じ問いをした。

 何故だか、胸がドキドキした……

 その時……

 ズンと揺れた。

 地震? と思い、体を起こした。
 だが、体が沈み込むような揺れを感じたのは一瞬のこと。その後、まったく揺れが続かない。
 獣のお二人は警戒しているし、波打ち際に居たミーも駆け戻って来た。気のせいじゃなさそうだが……

《勇者殿》
 声がした。上衣の下からだ。
《手間取ったが、ようやくうまくいった》
 アシュリン様だ。朗らかな笑い声が続く。
《なすべき事をなし遂げたものには、ふさわしき褒美を。神が役目を怠るのであれば、力づくで奪い取るまで。わずかだが、溜飲が下がったわ》

 懐かしい声が聞こえた。

 振り返ったオレの目に、懐かしい美しい人の姿が映る。

《そなた達には、もはや何の使命もない。ただの男女だ。心のおもむくままに、生きるがよい》
 アシュリン様のお声を聞きながら、オレは茫然とその女性(ヒト)を見つめた。

 幻ではないと、同化している精霊が教えてくれる。おめでとうございます、と祝福する声も聞こえる……

 シロさんが、妹分達を連れて離れてゆく。会釈して去って行く彼女等に、挨拶をする余裕すらない。

 オレの目は、その女性に釘づけだった。

 優しい声が、オレの名前を呼ぶ。

 胸が熱くなった……

 欠けていたものが埋まっていく感覚がした。


 幻想世界に流されて十年。
 初めて、オレの心は満たされたのだ。
【ドラゴンの決意 完】

+ + + + + + + +

 ハーレム100は萌え成分が足りない!
 とのご意見を拝聴し、今回は萌えシーンにチャレンジしてみました! が、残念ながら小説中に入りきりませんでした。

●特別付録 割愛した萌えシーン。
1.毛づくろい
 シロさんがお顔を洗っている……
 かわいらしい前足で長いお耳をはさみ、こする。まるで長い髪を洗っているかのような仕草に、オレのハートは、キュンキュンと鳴った……

2.穴掘り
 浜辺に来てからずっと、シロさんはいつになくソワソワしていた。辺り一面、砂、砂、砂なんだから無理もない。
「ちょいと失礼しやす」そう言って駆けてった先で、夢中になって穴を掘っていた。尻尾をふりふりしている姿は何というか……ラブリーすぎ。

3.お昼寝
 オレの横で、シロさんがごろんと転がり、足をうにょーんと伸ばして寝る。すごくリラックスしてくれている……嬉しい。

4.元気を出して
 うずくまって、うつむいたオレ。
 情けないオレの背を、優しく触れてくれるものが。
 慰めようとしてくれてる気持ちが嬉しくって肩越しに振り返ったんだが……そのまま硬直してしまった。
 ま、前足でタッチかと思ったんですが……鼻先でツンツンでしたか、シロさん! そ、その姿を人にあてはめると、キ、キ、キス……オレのハートは、キュンキュンキュンキュンと鳴った! 鳴り響いた!

 あああ……
 萌える……


 アシュリン様が最後に連れて来た方は、言わずもがな。勇者世界の誰をあてはめてもおっけぇなんですが、ルネだったりしたら……。まあ、エクレールは大喜びでしょう……。

+ + + + + + + +

ハーレム100 第十九部 流されて《完》

十一の世界に流されたジャンのエンディング、いかがでしたか?

二十部は現在執筆中です。が、何話か書き上がっていますので、9月4日(水)頃から更新を開始できるかと思います。
二十部は隔日更新、偶数日にアップの予定です。
章名は『賢者ジャン』の予定でしたが、ネタバレすぎるので変更いたしました。『あなただけを……』といたします。

二十部の各話も、ダーツが何処に当たったかの未来。それぞれ、独立した話です。共通の設定がある場合もありますが、ストーリーには繋がりはありません。

ご感想、ご意見、ご指摘等いただけると嬉しいです。執筆の励みとなります。
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