挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ハーレム100 作者:松宮星

幻想世界

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

21/224

月下の湖畔にて   【エレン】(※※)

 踏まれて、目が覚めた。

 オレは天幕の出入口そばで、眠っている。
 いわゆる交通の要所。
 出たり入ったりする人間が上をまたぐわ、風を感じるわ、侵入者があったら真っ先に襲われるわな、しょぼんな場所だ。
 けど、女だらけのPTで、一緒に天幕で眠らせてもらえるだけ有難い。
 天幕は一個しかないし。

 幻想世界に来てすぐ、オレは嵐の海に落ちた。
 ジョゼに預けといた手荷物を除き、何もかんも流されてしまった。武器も着替えも一人用の天幕も、みんな、海の中だ。
 着替えはお師匠様が『異次元倉庫』から出してくれたが、予備の天幕はさすがに無かったんだ。

 森には、野生動物も多い。
 勇者なオレが死んだら、オレらの世界は終わり。
 だから、お年頃な女の子がいっぱいの天幕に迎え入れてもらえたのだ。

 この待遇に文句はなかったが……

 うつ伏せに寝てたら、背をぎゅっと踏まれたのだ。
『ごめんなさい』の一言ぐらい、欲しいよ。
 闇の中、オレは体を起こした。

 開ききらぬ目に、ぼんやりとした明かりを感じた。

 天幕の入口が、閉まる。
 誰かが、外へ出てったようだ。  

 眠い目をこすりながら、オレは外に出た。

「あれ?」
 月夜の下に、淡い明かりが見える。

 ちょっと先に、五〜六個の光の玉が宙に浮かんでいた。それぞれが、鈍く光っている。掌サイズなそれは、ふよふよと宙を漂いながら、一人の人間を囲んでいた。
 ストロベリーブロンドの髪に、魔術師のローブ。後ろ姿は、不確かな足取りで遠ざかってゆく。
 森の奥へ。

「サラ?」
 呼びかけた。
 が、答えはない。

 近づこうとした。
 が、走っても、距離が縮まらない。

 淡い光に包まれたサラが、どんどん遠ざかってゆく。
 ふらふらと歩きながら。

「招かれたみたいだ、にゃー」
 すぐ側の声。
 びっくりして振り返ると、闇の中に光る目が二つあった。

「ミー?」
 するっとした動きで、オレの左腕が取られる。ネコ獣人に、腕を組まれたのか。

 サラの後を追うオレ。ネコ獣人は、オレの左腕にもたれるようにべったりとくっついてついてくる。

「サラ、どうしちまったんだ?」
「だから、招かれたんだ、にゃー」
「誰に?」
「森、にゃー」

「森?」

 サラの背は、どんどん小さくなってゆく。
 距離は、開いていく一方だ。

「ミー、サラの後を追えるか?」
「ネコに、不可能は、ないにゃー」
挿絵(By みてみん)
 サラの姿が遠ざかるにつれ、辺りの暗さが際立って来る。木の間から漏れ入る月や星の明かりだけでは、暗すぎる。足元すら見えない。

「頼む。オレをサラの所まで、連れてってくれ」
 闇の中の、二つの目がキランと光る。
「ごほうび、くれるかにゃ?」
「ああ。何でもやる。オレ、夜目がきかないんだ。案内してくれ」
「まっかせるにゃー!」

 やがて、サラの姿は闇の中に消えた。

 ミーはクンクンと鼻を動かし、こっちだ、あっちだと、オレをひっぱった。
 そこには根があるだの、ぬかるみがあるだのも、教えてくれる。
 灯りが無いんだ、ミーがいなきゃ夜の森なんか歩けない。
 ミーが追いかけて来てくれた事に、オレは深く感謝した。

「あんな役立たず、ほっとけばいいのに。おにーさん、優しいにゃー」
 かわいい外見に似合わず、ミーはひどい事を言う。
 ミーはサラを、自分より下だと見下している。パーティの最下層の存在なのだと、決めつけているのだ。
 昨晩そして今晩も、サラは、魔術師修行をしていた。大気から炎の存在を感じ取り、具現化しようとしていた。必死に頑張っていた。
 しかし……何の成果もなかったのだ。
 マリーちゃんやジョゼが励まし慰めていたが、サラの落ち込み度は半端なかった。暗い顔のまま、眠りについていたのだ。

「サラは幼馴染だ」
 オレは、闇を見つめながら言った。
「オレが勇者見習になってからずっと、力になろうと頑張ってくれたんだ。感謝してるよ」
 本人の前じゃ決して言えない事を、オレは口にした。
「あの女、おにーさんには、大事なんだにゃー わかったにゃー」
 闇の中から、笑い声が聞こえた。ミーはご機嫌な感じに笑っていた。

 しばらく進むと、明かりが見えた。
 近づくにつれ、光は、どんどん明るくなっていった。

 木々の先は、小さな湖だった。
 湖の上に、光の玉が無数に浮かんでいる。水面に光が映り、湖の周囲だけが、昼間のように明るい。
 サラは湖のそばに、たたずみ、オレへと背を向けていた。
 サラの前には、すらりと背の高い女性が居た。
 地に届くほど長い、しなやかな緑の髪。身にまとうドレスも深い緑色だ。
《あなたは罪を犯しました》
 声ではない、声が聞こえた。
《あなたのせいで、多くの命が奪われかけたのです》
 緑の髪の女性が、責めるようにサラを見つめている。
《その罪は重い。私は森の守り神として、あなたに罰を与えねばなりません》

 風が吹き、ざわざわと木の葉がざわめく。

『死を』『死を』『死を』……

 どこからともなく声が、聞こえる。

《私の子供達は、あなたの死を願っています》
 女の人は悲しそうに、サラを見つめる。

《私は、森の守り神として、彼等に応えねばなりません》

 死?
 冗談だろ!
「待った!」
 ミーの手をふりほどき、オレは木の間から飛び出した。

 緑の髪の女の人が、驚いたようにオレを見つめる。
 湖の上の光の玉は、不規則に暴れ回る。怖がっているのだろうか?

《あら? 人間? 人の子が、ここまで辿りつけるなんて……》

「オレ、そいつの幼馴染です!」
 オレは、サラの元まで走り寄った。

 サラは……
 両目を閉ざしていた。スースーの息を漏らしていた。立ったまま、眠っているのだ。

「こいつ、乱暴者だけど、悪い奴じゃありません。殺さないでください。こいつが何かマズい事しちゃったんなら、オレが代わりに謝ります! どうか許して下さい!」

 緑の髪の女の人が、オレをジッと見つめる。
 肌の色は茶色い。日に焼けたというより、もともとその色なのだろう。目は髪や服と同じ、深い緑色だ。

《あなたの幼馴染みは、森を焼こうとしました》

 え?

《森全てを包み込む、巨大な紅蓮の炎を生み出そうとしたのです》

「サラが森を焼こうとした?」

 緑の髪の女の人が、頷きを返す。
《暖をとる為や調理の為の火なら、構いません。けれども、過ぎたる炎は、森の命を奪うのです。私が彼女の魔力の向上に気づき、炎の発生を封じなければ、今頃、森は炎に包まれていたでしょう。許すわけにはいきません》

「ちょっと待ってください!」
 オレは、ツバをごくっと飲み込んだ。
「サラが炎の魔法を使ったって事ですか? 森を焼くほどのデカい火を生み出すところだったんですか?」
 今夜の魔法修行で?

 緑の髪の女性は、頷いた。
《彼女は大魔法使いです》

 何ぃ?

《望めば、森どころか、この世界全てを燃やしつくす炎を生み出せるでしょう。私では彼女の魔力を完全には封じられません。人間にしては強大すぎます。存在するだけで、危険な人間です》 

 嘘ぉ〜ん!

 いやいやいや。今は、動揺している時じゃない。

「なら、導きを!」

《導き?》

「この馬鹿、力の加減を知らないだけです。自分がどんぐらいの力があるかわかんないから、力んじゃっただけなんです。森を害する気はゼロでした。どうやれば周囲に迷惑かけずに力が使えるか、教えてやってください」

《森を害する気がなかったと、何故、言いきれるのです?》

「こいつは森を愛していますから!」

《森を愛している?》

「そうです! こいつ、森のクマさんが好きなんです! クマさんの住処を奪うわけありません!」

 緑の髪の女性が、首をかしげながらオレを見ている。もう一押し!

「こいつ、イチゴが大好きなんです! リンゴも好きです! キノコのスープも大好物です! 食いしん坊だから、森の幸を愛しています!」

 えっと、それから、それから……

「ウサギも、鹿も、小鳥も、好きだし、スミレやレンゲが好きなんて意外と少女趣味なこと言ってたし、それから!」

 クスッと、女の人が笑った。
 厳かだった顔がやわらぎ、女性らしい優しい笑みを浮かべている。

《そんなに必死になって……幼馴染が大切なのですね》

「はい!」

《いいでしょう、あなたに免じ、一度だけ、見逃してあげます》
 え?
《けれども、次はありません。森に炎の海を生み出そうとしたら、容赦しません。あなたの幼馴染も、あなたも、死をもって罪を償ってもらいます》
 次やったら、オレも一緒に死刑か。
 でも、サラがわざと森を焼く事は、絶対にない。

「感謝します、森の守り神さま」
《私の名は、エレンです》

 森の守り神エレンはサラの額に軽く触れ、それからオレに近づいて来た。
《名を教えてください》
「ジャンです」
《ジャン……私は、愛あふれる生き物は大好きです》
 守り神様が微笑む。慈愛に満ちた、綺麗な顔で……
《幼馴染を愛し守ろうとした心、決して忘れないように……》

 愛?

「違います、オレとサラは幼馴染で、だから、その」

 森の守り神エレンは笑う。優しそうな綺麗な顔に、ちょっぴりからかうような笑みが浮かんだ。
《かわいいですね、あなた……》

 その色っぽい微笑みに、オレの胸はズッキュンした。


 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……


 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。

《あと八十四〜 おっけぇ?》
 と、内側から神様の声がした。


 萌えちゃった〜
 異世界の、神様に。

《あら?》

 森の神エレン様は、神様だけにいろいろと感じ取ってくれたようだ。
 説明する前から、勇者の『伴侶』システムを理解してくれた。有難い。

《私を伴侶にするなんて……面白い子ですね、あなたは》

 エレン様が微笑む。

《あなたの旅の無事を祈りましょう……ごきげんよう、私の旦那様、ジャン》

 ふっとエレン様の姿が消え、湖に浮かんでいた光の玉も消えうせた。

 周囲が闇となる。

 ふらっと倒れかけたサラを、どうにか支えた。

 段々、目が闇に慣れてくる。
 月明かりや星明かりに照らされてるから、湖の周囲は真っ暗闇じゃない。
 はっきりとは見えないけど、何となくはわかる。
 オレは幼馴染の額を軽くこづいた。

 ずっと寝てやがって……
 オレがいなきゃ、おまえ、殺されてたんだぞ。

「おにーさん」
 背後からミーの声。

 振り返ると、闇の中に目が二つ光っていた。

「ご褒美……ちょうだい、にゃ」

 ここまで案内してもらったんだ、お礼はしなきゃ。
 オレはサラを、そっと地面に横たわらせた。

「わかったよ。舐める?」

「それだけじゃ足りない、にゃ……」
 闇の中から声がする……

「左手、ちょうだい、にゃ」
 楽しそうに声が笑う……

「肘までで、いいにゃ……ご褒美に、左手もらう……にゃ」

 待て待て待て待て待て!

「嬉しいにゃ……ついに、おにーさんを食べられるにゃ……よだれが垂れるにゃ……」
 やめて、死んじゃう!

「左手一本だから、大丈夫にゃ……すぐに、又、生えてくるにゃ……」
 生えねえよ!

「いただきま〜す、にゃ〜」
 ぱ、ぱ、ぱ、パメラさ〜〜〜〜〜ん!
 助けてぇぇぇ〜〜〜〜〜!

 あ。
 あン。
 ダメ、舐めちゃ……

 頭がボーッとする……
 ミーの唾液には媚薬効果がある……

 逃げなきゃ喰われるのに……
 逃げる気力が……
 わかない……

 オレ、喰われちゃうのか……

 ま……

 いっか……

 死ぬ、わけ、じゃないし……

 左手、だけ、だし……


「ファイアァァー!」

 凄まじく力んだ声が、聞こえた……

 みぎゃ〜〜〜〜て、悲鳴がきこえた……

 ボッチャンと、何かが水に沈む音がした。

「ジャン! しっかりして、ジャン!」

 妙に明るい……
 光源用の光球が浮かんでいる……
 魔術師じゃなきゃ、こんなの作れないのに……

「駄目ね……正気を失ってる」
 サラだ。溜息をついている……
「ちょっと痛いわよ、覚悟なさい!」

 サラの右の拳が、オレの左頬にめりこんだ。





 シッポに軽い火傷を負ったミーを、マリーちゃんが癒してくれた。

 ミーは、頭の中の格付けを変えたようだ。
 大好きな人(イコール)パメラさんと同格に、逆らってはいけない強い人(イコール)サラと位置づけたようだ。
 やたら、にゃんにゃん、サラのご機嫌をとるようになった。

 あの時、サラが起きてくれなきゃ、オレは片腕の勇者となるところだった。
 その点は感謝してる。
 けど……
 おまえも、オレに感謝しろよ。
 オレいなかったら、おまえ、エレン様に殺されていたし、それに……

 エレン様の導きを受けられなかったから、未だに魔法は使えなかったろう。

 大気中の魔力が見えるようになった、と、サラは言った。
 何をどれぐらい用いればどれほどの事ができるのかは、まだわからない。
 けれども、魔力の源をとりすぎないようにすれば、周囲に迷惑をかけないはず。
 ちょっとづつ利用する魔力を増やしてゆき、加減は覚えていくそうだ。

 翌朝、食事前に、デカイ炎にならないよう細心の注意を払いながら、サラが焚き火サイズの炎を生み出した。
 その目は、感動で潤んでいた。

 ま、よかったな……サラ。おめでとう。


 魔王が目覚めるのは、九十一日後だ。

 森の女神エレン様……上品な方だったなあ。
 オレの世界のキャピキャピ神も、ちょっとは見習ってもらいたい。


* * * * *


『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き

●女性プロフィール(№016)

名前 エレン
所属世界   幻想世界
種族     神
職業     森の守り神
特徴     森を荒す者と決めつけ
       サラを殺そうとした。
       エレン様が防御しなきゃ、
       森は大火事だったらしい。
       光の玉を家来?として使う。
戦闘方法   不明。でも、強そう。
年齢     不明。
容姿     緑の髪、緑の目、緑のドレス。
       茶色の肌。
口癖    『あら』
好きなもの  森。愛あふれる者。
嫌いなもの  森の平和を乱す者。
勇者に一言 『私の旦那様、ジャン』
挿絵(By みてみん)
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ