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ハーレム100 作者:松宮星

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閉ざされた世界で  【精霊界】

 ダーツの矢は、精霊界に当たりました!

※この章の各話は、それぞれ独立した話です。共通の設定がある場合もありますが、ストーリーには繋がりはありません。
 オレは、精霊界の炎界の神殿に転移した。

 炎の神殿は、何もかもが赤い。天井も床も、林立する円柱も。
 そして、壁が無いんで、屋根の下に居ても外が見える。神殿の外は、一層まばゆく赤かった。
 全てが炎。天も地もなく、上からも下からも炎が流れ、火焔が舞いあがっている。
 神殿の外に一歩でも踏み出したら、一瞬で黒こげになってしまうだろう。

 精霊界に流されたのだと、否が応でも実感してしまう。

 この世界で生きていかなきゃいけないのか……

 血の気が引き、めまいを感じた。

 契約の証から声が聞こえたので、望みに応じ全員を呼び出すと……
 全員が同情の眼差しでオレを見つめた。

 風のアウラさんが、ポンとオレの右肩を叩き……
 光のルーチェさんが、左肩をポンと叩き……
《ね、ね、ね。元気だしてー》と、雷のエクレールがバーン! とオレの背中を叩き……
《守ってあげるね、ジャン》と、闇のソワが抱きついてきて……
《私はご主人様の奴隷ですから……いかなる時もお側に……》と、土サブレがわざわざオレの足元にうずくまり……
《最期までちゃんと見届けてあげるから》と、炎のティーナが慰めてるんだか落ち込ませようとしてるんだかわかんない台詞を言い……
《本当、駄目な犬ですこと……》と、氷のグラキエス様がツーンとそっぽをお向きになった。


 神様達が争ったせいで、オレは自分の未来をルーレットダーツで決めなきゃいけなくなった。
 運命のルーレットダーツボードは、二十四分割されていた。
 どの未来になるのかは、二十四分の一の確率。
 ダーツの半分の目は勇者世界に残留だったし、オレの自由意思で未来を選べる目もあった。
 なのに、ダーツの矢はよりにもよって『精霊界』に当たってしまったのだ……


 精霊界では、八大精霊がその性質のままに、ふさわしい世界にそれぞれ暮らしている。

 炎界が炎の世界であるように、他のエリアも精霊達の為の世界だ。

 水界は水の世界。陸もなければ水底もなく、空気も太陽も月も星もなく、生き物も存在しない。ただ、水があるだけ。
 風界は風の世界。太陽も雲も大地も海も無く……空気があるだけの空間を、ゴーゴー、ピューピュー風が吹いている。
 土界は土の世界。全てが厚い岩と土に塞がれている。地面の中にいる感じだが、生き物は居ない。
 氷界は氷の世界。全てが氷に閉ざされている。濁りも泡もない透明な氷が、厚い岩壁のように存在しているだけだ。
 雷界は雷の世界。白くてほわほわした綿みたな雲に覆われている。が、その中を縦横無尽に電気的な光が走っている。触れたら感電だ。
 光界は光の世界。どこもかしこも光。やっぱり、太陽も雲も大地も海も無い。眩しいだけ。神々しすぎて、ひたすら目に悪い。
 闇界は闇の世界。どこもかしこも闇。そして、やっぱり、太陽も雲も大地も海も……

 ンな世界で人間が生きられるわけねーだろーが!

《人間ごとき下等な生物、我が世界では生きられぬだろう。だが、誇り高き精霊は何事にも退かぬ》とか言ってオレを欲しがった精霊界の神様には、怒りしか感じない……
 オレに死ね、と?

 各世界には、それぞれ神殿がある。
 異世界人滞在用に準備された場所だ。
 見た目は石づくりの建物。炎の神殿なら、天井も床も、林立する円柱も赤。水の神殿なら青と、特徴はある。
 だが、つくりは何処もだいたい一緒。大ホールみたいなだだっぴろい所で、床の一箇所に別の神殿に渡る為の白い魔法陣があるだけ。壁が無いんで、屋根から先はそのまま外へと通じている。
 神殿は透明な魔法障壁に覆われているので、中に居れば安全だ。神殿内は、暑くもなく寒くもなく、まぶしすぎることもなく、空気が絶える事もない。

 神殿内で、異世界人は精霊と交渉をし、しもべ契約を結ぶ。

 神殿に居れば安全ではあるんだが……

 なぁ〜んにも、ないのだ。
 寝具や風呂や調理器具はおろかトイレすら無くて、食料や水も用意されていない。
『精霊界に滞在したい奴は、必要な物は自力でどうにかしろ』ってな、上から目線。できない奴は還れって事だ。

 しかし、精霊界所属になっちまったオレには還れる世界などなく……
 自給自足不可能な世界から出られないのだ。

 やっぱ、オレに死ねって言ってるよな、精霊界の創造神……


 炎の神殿の片隅で、オレと精霊達は車座になって話し合った。
 炎の精霊達が神殿の外に群がってはいる。だが、オレが『しもべ契約を結ぶ価値のない人間』なんで、中には入って来ない。他エリアの精霊やオレが何をしているのか不思議に思って覗いているだけだ。アウラさんが風の結界を張ってくれたんで、オレらの会話は聞こえないんだが。

 水のマーイさんはここに居ない。マーイさんは、オレの髪の毛が入った守り袋と結びついて、勇者世界に居る。契約の証が仮面ごとマーイさんのもとに残ってるんで、オレには呼び寄せる(すべ)が無い。

「ルーチェさん、光界に還らなくていいの?」
 魔王戦が終わるまでって事で、しもべになってもらったのだ。オレの問いに、光の精霊は肩をすくめた。大きい紫のリボンを頭につけたブロンドの髪、青のバルーンミニドレス姿が、少女のようで可愛らしい。
《還りますよ。ですが、契約終了時間に関しては曖昧にしてありますから、『魔王戦当日』が終わるまでは粘る事もできます》
 オレと共にこの世界に送られた荷物入れから、ルーチェさんが『自動ネジまき 時計くん』を取り出す。
《あと七時間までなら帰還を遅らせられます。人間が精霊界所属になるなんて前代未聞です。これからどうするつもりなのか、見届けてから還ろうと思います》

 どうするも何も……
 今は頭が真っ白で、何も考えられない……

《ね、ね、ね、元気だしてー》
 そう言って抱きついて来たのは、隣に居たエクレールだ。紫水晶のツンツン頭。水着のような紫水晶のプロテクター。可愛くって色っぽいエクレールが、媚を含んだ顔でオレに微笑みかける。
《魔王戦が終わったら、ご褒美あげるって約束したよね? 今、あげるから……》
 そいやそんな事、言ってたっけ。
 そう思うオレの横で、雷の精霊はセクシーな笑みを浮かべたまま、オレへと背を向け、桃のようなかわいいお尻をクイッとつきだしてきた。
《ご褒美。触っていいよ……くすぐったくても、我慢するから。それ以上のことでも……キミがしたいなら何でも……。だから、元気になって》

 こんな事態だというのに……オレのハートは、キュンキュンと鳴ってしまった。

 いや、だって!
 見なれたとはいえ、そんな形でお尻をつきだされては! Tバックだし! 美尻だし!
 いやいやいや。そこだけではない! エクレールのけなげさに、オレはキュンキュンしたのであって!

《あたしだって、ジャンを慰められるよ》
 反対側から、ソワが抱きついてくる。黒い髪、黒い肌、黒い服。ソワの口元には微笑が浮かんでいた。少女の外見に似合わぬ、妙に大人びた笑みだ。
《ジャンのためなら、どんな姿にもなる。何でもやるよ……。胸をもっともっと大きくしようか? セクシーランジェリーにする?》
 いやいやいやいやいや! そのままでいい! ソワはそのまんまで、ものすごくかわいいから!

《刹那の快楽で、命の残り火を燃やし尽くすんですね……でしたら、是非、私を……。行き場のない怒りをこの私におぶつけください……》
 そこの精霊(ヒト)! オレの足元に蹲らないで! 踏む気はないから!

《ていうか、今はふざけてる場合じゃないでしょ》
 ティーナが、離れなさいとズバッと三人に言う。ふざけてなんかいないという反論を受け付けず、三人を叱る。
《対策を練らなきゃ。このまんまじゃ、ご主人様(マスター)、死んじゃうのよ。食料が無いんだもん。グラキエスさんとわたしで水はどうにかなるけど、食料は……》
 そこまで言って言葉を区切り、ティーナがオレを見る。燃える髪、白熱する体。まばゆく白く輝いているので、裸体は見えそで見えない。ティーナが、赤ともオレンジともつかぬ瞳を細める。
《チート技? 食事召喚?》
 オレの心を読んだのだろう、ティーナが眉をしかめる。

 ご褒美の二つ目で、オレは女神様からチート技を貰った。
『食事召喚』。頭の中でイメージした食事を、欲しい分だけ、出したい場所に出せる技だ。イメージすりゃ、フルコースだって出せる。朝、昼、晩、一日三回使用可能。
 精霊界にゃ、人間が飲み食いできるもんなんかない……そう思って貰っといたんだ。

《なーんだ……そんな技を手に入れたんなら、餓え死にはしないわね》
 拍子抜けした顔で、ティーナが言う。心配してくれて、サンキュウ。

《食事を確保できるのなら、このまま何年も何十年も生き続けられますね……》
 サブレは蹲ったまま、熱っぽい目でオレを見上げていた。ハアハアと息が乱れている。見た目は、金髪美少女なんだが……
《目に見えるようです……決して広くは無い神殿に閉じ込められ、生きる目的もなくただゴロゴロして、ブクブク肥え太っていくご主人様……目は死んだ魚のように濁っていくのですよね……》
 土の精霊は、うっとりとしている。
《あああ、ス・テ・キ。堕落しきってトホホになったご主人様が、はけ口をしもべに求め、それは濃厚に私を……》
 MでSの人の妄想は、聞き流す方向で……。オレの足元に居ても、ぜったい踏んでやんねーからな。

《病気になってもソワが治せるし、当面は生きてく上で困らなさそうね……。ま、それだけなんだけど》
 細く長いベールを何枚も体に巻き、薄手のベールの端を宙を舞わせているアウラさんが、腰をくいっくいっと突きだしてセクシーポーズをとる。
《これからの長い人生、暇でしょ? 遊んであげてもいいわよぉん、友達以上の関係に進んでくれるなら……。あたしを本当の伴侶にしてくれるんならね……》
 アウラさんがオレの顎をとり、微笑む。妖艶というか……らしくない顔で。
《前に言ったわよね……あたしだけを愛してくれる男になら、何でも応えちゃうって……。おにーさん、あたしの愛、欲しくない?》

 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……

 オレの左右から、エクレールとソワが抱きつき、足元のサブレがすりよって来る。

 もしかして、オレ……今、人生最大のモテ期?

 ケラケラとアウラさんが笑う。
《じょーだんよ、冗談。安心して。みんなのご主人様を一人占めにはしないから》
……冗談だったのか。そうか……そうだよな。あ〜 びっくりした……

「みんな、今日までありがとう。百人の伴侶を探す旅ができたのも、魔王を倒せたのも、みんなの助力があったからだ。感謝している」
 オレはあらためて、精霊達を見渡した。
「精霊界転移は不本意だけど、そうなっちまった以上、しょうがない。チート技貰ったから、一人でも何とかやっていけると思う。契約を破棄したかったら、遠慮なく言ってくれ」
 エクレールとサブレとソワが絶対離れない! と、言うようにベタッとくっついてくる。
《一人で何とかやっていける……ねえ》
 アウラさんは、ニヤニヤ笑っていた。

 精霊界の精霊は、生まれたエリアに縛られている。異世界はおろか、よそのエリアにも自力じゃ行けない。
 なので、異世界から来た人間の誘いに応じる。数年から数十年、精霊支配者のしもべとなる代わりに、外の世界で見聞を広めてくるのだ。物見遊山というかホームスティ感覚で。
 だが、オレはもう精霊界から出られない。くっついてても、メリットはないのだ。

(わたくし)、迷子の犬を見捨てるほど無慈悲ではありませんことよ。でも、》
 グラキエス様が、スッと立ち上がる。純白のドレスと、背へとたれる青みがかった見事な巻き毛が揺れる。
《あなたが無様(ぶざま)にこの世界でくすぶり続けるのでしたら、いずれは契約を考え直させていただくかもしれませんわ。私、品が無い方とは付き合いたくありませんの》
 いずれか……。お優しい。無価値な主人など、ソッコーで切り捨ててくれても構わないのに。
《氷界に還ります。今のあなたの側に居ても、時間の無駄ですもの。私は私の世界でふさわしい時を送ります。よろしくって、ジャン?》
「はい」
《頼みごとがある時は、私の名を呼びなさい。聞いてさしあげても、よろしくってよ》
 グラキエス様が微笑む。深みのある青い瞳、長いまつげ、誇り高そうな細い眉、ちょっとツンとした鼻、薄青のリップを塗ったような可憐な唇……綺麗だった。
 キラキラと新雪のような輝きを残し、氷の精霊はその姿を消した。氷界に戻ったのだ。

《まあ、確かに、ここで私達が顔をつき合わせていても無意味ですね。今は、打つ手がほぼありませんから》と、ルーチェさん。

《おにーさん、みんなに指示を出してもいい?》
 アウラさんの申し出に、お願いしますと答えた。

《全員、しもべを続けるってことでいいのね?》
 ティーナ達から、否の声はあがらなかった。

《んじゃ、指示出すわ。ティーナ。あんたは炎界にずっといなさい。あんたの大事なアナムが、里帰りしてくるかもしれないでしょ? アナムが来たら、おにーさんに即連絡。おっけぇ?》
《わかったわ》

《サブレ、エクレール、ソワ。あんた達は、おにーさんの護衛兼話相手。交代で自分の世界に還ってもいいけど、二人はおにーさんにくっついているように》

《あなたはどうするのです、アウラ?》
 ルーチェさんの問いに、風の精霊はニッと笑った。
《あたしは、いろいろと忙しいもの。とうぶん留守するわ。いいわよね、おにーさん?》
 構わないと答えた。
《ありがと。用事ができたら、呼んでね〜》
 アウラさんは風になって、消えた。周囲に張っていた風の結界も解ける。

 話し合いの時間は終了だ。

 ルーチェさんがオレへと微笑みかける。
《八つの神殿の何処に住んでも構わないと思いますが、一箇所に居たら多分気が滅入るでしょう。旅行気分で転々としてはいかがです?》
 たしかに……
 精霊支配者達が団体で押しかける、氷と雷の神殿は避けた方が良さげだが。
《私も光界に還ります。よろしければ、光の神殿にもいらして下さいね。導き手として、私は神殿で仕事をしてますから》

「そうするよ。ルーチェさん、今日までいろいろありがとう。ルーチェさんにしもべになってもらって、本当に良かった。楽しかったよ」
 オレの差し出した右手を、ルーチェさんが触れてくれる。細くて長い指。やわらかで、あたたかい掌。人間そっくりに変化した精霊の手を、オレも握り返した。
《勇者ジャン、私にとっても楽しい六十五日でした。仲間達と共にあなたの成長を見守れて、良かった。いい思い出ができました。ありがとう》
 オレはかぶりを振った。礼を言うのはオレの方だ。
《でも、》
 でも?
《あなたのファッション審美眼は、まだまだです。私の七色ファッションの素晴らしさを完全に理解できるようになるまで、修行を積んだ方がいいですよ》
 そのままでは女の子にモテないでしょうからと、クスクス笑いながら光となって消え果てた。
「……ファッション・センスが悪いのは、ルーチェさんの方だろ」
 思わず笑ってしまった。

 しもべではなくなったが、ルーチェさんは友達だ。みんなが居てくれるんだ、精霊界でもどうにか生きていけるんじゃないか……そんな気がした。





 そんなわけで、オレは精霊界で暮らし始めた。

 特にする事もない退屈な日々……と、思いきや、けっこう危険。油断したら命とりの生活だ。

 しもべ経験のない若い精霊が、たわむれてくるからだ。
 オレに対して敵意があるわけじゃない。だが、どれぐらいで人間の肉体が壊れるのかわかってない奴等が、遊び感覚でじゃれてくるんだ。
 何というか……ちっちゃな子供が、子犬を可愛がろうとして、叩いたり、落っことしたり、尻尾をひっぱったりするのによく似ている。
 サブレ達が護衛してくれなきゃ、何十回どころか何百回も死んでたろう。

 精霊達には『異世界人を傷つけてはいけない』ってルールがある。
 安全な場所でなきゃ、精霊支配者が来なくなってしまうからだ。異世界人に暴行・誘拐・監禁・殺人をしようものなら、存在を消去されてしまうのだとか。
 けれども、オレは精霊界所属の人間なわけで……オレに怪我をさせようが、殺してしまおうが、罪にはならないのだ。異世界人にはできない事を、オレで試してしまえ! な〜んてノリの奴もけっこう居たりする……
 常に二人はオレの護衛につけと、アウラさんが命じたのも納得だ。

 なので、なるたけ異世界人が来訪している神殿に滞在している。しもべ募集の人間がいれば、若い精霊達の関心はオレからそっちへと移るので。
 異世界人とは、拒絶されない限り交流(コミュニケーション)している。
 暇を潰せるし、生活必需品が手に入るかもしれないからだ。精霊を獲得(ゲット)するコツ・使役の仕方を伝授した報酬として、或いは『食事召喚』で出した温かな食事と物々交換して。

 食っちゃ寝じゃ太りそうなんで精霊達を相手に剣の鍛錬をしたり、エクレールに幻影をつくってもらって眺めたり、ソワと遊んだり、サブレの妄想独り言に付き合ってやったり……何のかんので時間を潰している。

 面白味の無い生活だと思うんだが、護衛役の精霊達はたいていご機嫌だ。
《だって、ここにはあたし達だけだから……ジャンにいつも見てもらえるもん》
 そう言って、ソワはオレに甘えてくる。

 けれども、時折、ソワやエクレールは寂しそうな顔で遠くを見る。
 ニーナやルネさんが居た世界に還りたいと思っているのだ。オレ同様、勇者世界が恋しいのだ。

 同じ寂しさを抱いている精霊達と慰め合い、無為に一カ月ほど過ごしたある日……オレに仕事ができた。


《ご存じのように、光界は慢性的な精霊不足。精霊支配者の需要に、光の精霊の供給が追いついていません。そんな状況にありながらも、生まれてから一度もしもべになった事のない精霊も居るのです》
 しゃべっているのは、光の神殿中央に浮かぶ光の球だ。でっかいボールなようなそれが、導き手。精霊支配者に、光界の精霊を紹介する役職のものだ。光の玉には、今はルーチェさんが宿っている。
《しもべに選ばれない事を悲観している方も居るんですが、俺は俺の世界を突っ走るぜ! でまったく気にしてない困った方も多くって……。勇者ジャン、よろしければカウンセラーをやっていただけませんか?》
 カウンセラー?
《あなたの人格・精霊との接し方等を、私の記憶を通して上司に報告したところ、あなたならば『ろくでもない』『不良在庫』の『売れ残り』な方々を説得して更生させられるかもしれないと……まあ、上司が夢を見たわけですよ》
 ルーチェさんがコロコロ笑う。何げにひどい事言いまくりだ。
 光は光でも紫外線しか制御できない精霊とか……
 光速に魅せられたスピード強とか……
 会話すら成り立たない、壊れちゃった奴とか……
 光の精霊のくせに時代の最先端だと言いはって、邪悪な死人使いを目指してる奴とか……
 確かに、そのまんまじゃ売れないよな。
《引き受けていただけませんか? 目に見える成果が現れなくても、いいんです。人間のあなたの価値観を伝えること、話を聞いてあげることが、彼等の未来に繋がると思うのです》

 なら、やれるかな?
 そう思った時、胸元のペンダントから声が聞こえた。

 求めに応じ呼び出すと、半透明な薄緑色のベールをふよふよと靡かせ、風の精霊が現れた。
《グラキエスは来た?》
 って聞かれたんで、ずっと会ってないと答えた。
《あらま》
 アウラさんは、口元に手をあて、首を傾げた。
《ん〜 じゃ、出直すわ。グラキエスが来たら、あたしも呼んでね》
 それだけ言って、還ってしまった。

 何だろ?
 ルーチェさんは、クスクスと笑った。
《グラキエスもアウラも、今、いろいろ頑張っているのですよ》
 え?
《何をしているかは、内緒です。私の口から話したら、二人に叱られてしまいますから》
 ルーチェさんは、楽しそうだった。





 そっから三カ月後……オレは精霊界から旅立つ事となった。

 グラキエス様とアウラさんが、自分の世界の古老の精霊を通し、創造神に働きかけてくれたおかげだ。
 精霊界の広報役としてオレを使え、と。

 創造神の力で、精霊支配者が居ない世界にオレは派遣される。そこで、精霊を使って派手に冒険をして、精霊の優秀さを宣伝しまくり、精霊界への転移の仕方を教えてくる……ようするに、精霊支配者の新規開拓係になったのだ。

《光界と闇界は精霊不足だけど、それ以外のエリアには暇をもて余す精霊がゴロゴロしてるもの。ご主人様候補は少しでも多い方が助かるわけ》と、アウラさん。
《精霊の優秀さを、この私が未開人達に教えてさしあげるのです。広報役としての成功は、決まったも同然ですわ》口元に手をそえて、グラキエス様がホホホと笑う。

 一定期間、異世界で冒険した後、精霊界に帰還。んで、成果次第では、又、別の世界に飛ばされる予定だ。
 ルーチェさんは、期間限定でオレのしもべに復帰した。創造神から、異世界には八大精霊全員を連れて行けとお達しがあったからだ。
《あなたとの会話を楽しみにしている精霊も少なくありません。還ったら、暇をみてカウンセラーの仕事もお願いします》
 今日のルーチェさんは、新天地に行くって事で海賊風だ。髑髏マーク付きのでっかい帽子に、超ミニのドレスにブーツ。むぅ……デザインは悪くないんだけど、配色がなあ……

 マーイさんの代わりには、水の精霊ウィスカちゃんを連れて行く事となった。初めて異世界へ行くウィスカちゃんは興奮ぎみだ。マーイさんを伴えないのは寂しいが、ウィスカちゃんが疎外感を感じないよう仲良くやっていこうと思う。


 グラキエス様もアウラさんもルーチェさんも、オレに仕事をあてがってくれた。
 精霊界の為に真面目に働き続ければ、創造神の覚えがめでたくなる。
 ご褒美って形で、オレはもとの世界に還してもらえるかもしれない……そう考えての事だ。

 還れなくとも、オレは幸せだ。オレの事を慕ってくれる精霊達と、これからもずっと一緒なんだから。

《がんばろうね、ジャン》
 ソワにオレは頷きを返した。

 転移の光に包まれてオレは……
 精霊界より離れ、しもべ達と共に、異世界へと渡っていった……
【閉ざされた世界で 完】

+ + + + + + + + 

 魔界と並ぶ不幸エリアに流されたわりに、それなりに幸せなジャン。
 精霊達に愛されているのが勝因ですね。
 アウラの誘惑も、半ば本気。
 グラキエス達も、ジャンを愛しているからこそ、閉ざされた世界で一生を終えさせては憐れだと思ったわけだし。

 時間が同期せずアナムに会えないティーナや、勇者世界に残っているマーイは気の毒ではあります。が、みなに支えられてジャンは精霊界広報の役目を無事に果たせそうだし、いずれは全員揃って勇者世界に還れるのではないかと。

+ + + + + + + + 

 次回は、幻想世界に流されての話。幻想世界で生きがいを探すジャンは、ある日、懐かしい仲間と再会します。
 8月29日(木)更新予定です。
+注意+
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