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ハーレム100 作者:松宮星

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鬼を平らげし勇者  【ジパング界】

 ダーツの矢は、ジパング界に当たりました!

※この章の各話は、それぞれ独立した話です。共通の設定がある場合もありますが、ストーリーには繋がりはありません。
聖女マリー様

突然お手紙を差し上げる失礼をお許し下さい。

二十四日午後、プレンヌ村南の森より異界人と思われる者が現れました。村長の私が保護しております。
黒髪、黒目。七〜八才の子供。言葉が通じず、服装も珍奇。しかし、振る舞いは卑しからず、異界の貴人の子と思われます。

不思議な事に、我が国の文字をしたためた手紙を持っておりました。
私の見た手紙には貴人の御名が連ねられており、その方々のもとへ子供を連れて行って欲しいとありました。
けれども都は遠く、高貴な方々とお話する(すべ)など、愚生には見当もつきませぬ。

書にはマリー様の御名も記されておりましたゆえ、不躾ながら街の聖教会を頼った次第であります。

聖女様の縁者同然と、失礼なきようお預かりしております。が、意志の疎通が難しく、村民ともども難儀をしております。

ご光来くださる事を、お待ちもうしあげております。


* * * * * *


●一通目 この手紙を手にされた方へ。

 この子を、オランジュ伯爵家のジョゼフィーヌ様のもとへ連れて行っていただけませんか?
 聖修道院の聖女マリー様、ボーヴォワール伯爵家セリア様、ポワエルデュー侯爵家のシャルル様かシャルロット様のもとでも構いません。

 百一代目勇者ジャンに連なる者と連絡をとってくださるだけでも助かります。
 ルロワ商会の娘サラさん、国一番の占い師だったイザベルさん、発明家のルネさんが連絡をとりやすいかと思います。

 異界人なので、この国の言葉は話せません。モモカといいます。
 お手数をお掛けして申し訳ございませんが、どうかよろしくお願いいたします。

                 モモカの父より


* * * * * *


●二通目 勇者ジャンの仲間だった方達へ

 この手紙は、オレの仲間だった誰かのもとに届いていると思う。

 百一代目勇者ジャンです。

 突然のことで申し訳ないが、オレの娘モモカが君のもとに居ると、お師匠様か次代の方に知らせて欲しい。

 オレの娘である証として、光のサークレットとリーズの耳飾りを持たせた。
 皆ならば、見覚えがあると思う。
 サークレットはオレが頭に装備してたヤツ、冒険世界の魔神ナディンから貰った神聖防具だ。
 リーズの耳飾りは、大物相手にクリティカルが出やすくなる『魔王戦お役立ちアイテム』だった。リーズ、返しそびれていて、すまなかった。遅くなったが、返却する。

 水の精霊のマーイさんは、まだそちらに居るのだろうか? もしも、留まってくれているのなら、彼女にもモモカを引き合わせてやってくれ。モモカの護衛を頼みたい。

 オレの自動翻訳機能は未だに健在だが、仲間はどうなのだろうか?
 有効だったら、たいへん有り難い。
 モモカは、ジパング界の人間だ。言葉が通じない世界で困っていると思う。助けてやってくれ。頼む。

 神様達の争いに巻き込まれ、オレはジパング界に流された。
 ジパング界に流されてからの事、モモカが転移した理由は、別の手紙に書いた。
 オレに関わりがあった者達へと、賢者宛ての手紙だ。みなを集めて、一緒に読んでもらえると嬉しい。

 すまないが、今はモモカを連れて来た者に謝礼を払ってくれ。モモカに宝石袋を持たせている。その中から適当と思われる分だけ、謝礼として渡して欲しい。


                百一代目勇者ジャンより


* * * * * *


●三通目 お師匠様、そして仲間達へ


 ジャンです。

 何も告げられないままジパング界に転移した事を、ずっと心苦しく思っていました。

 手紙という形とはいえ謝罪できる機会に恵まれ、少しですが胸のつかえがとれました。

 お師匠様、跡を継げずすみませんでした。
 ジョゼ、サラ、みんな。共に生きると誓った言葉を果たせずすまなかった。

 何故、そうなったかの詳しい経緯は書けません。
 この手紙には、女神様の検閲が入りますので。
 公開禁止事項に関する事は、書いても消去されているはずです。
 試しに、悪口を書いてみます。
 女神様の    。  、   、    。あんたの   、オレは     て、    なんだ。    女神、   。
 悪口は、全て消えてるでしょう?

 ジパング界に流されたのは不本意でしたが、オレの行動が招いた転移でもあります。
 思慮が足りなかったこと、力が及ばなかったこと、見通しが甘かったこと。過去の行動を悔やみ、皆に申し訳なく思うばかりです。

 そちらでは、魔王戦からどれくらいの月日が流れたのでしょうか?
 昨晩、久々に女神様にお会いしたんですが、あいかわらず    な方で、そちらの事をあまり詳しく教えてくれませんでした。
 お師匠様がまだ賢者である事、オレの仲間達が全員存命だという事は聞けましたが。

 オレの方は、ジパング界で十年と一カ月過ごしています。

 お師匠様はご記憶かと思いますが、ジパング界のカガミ家には異世界人を召喚する法や異世界転移の法が伝わっています。
 勇者世界に渡る法はなかったものの、初代『カガミ マサタカ』の書きつけやオレの記憶等を研究し、十三代目カガミ マサタカさんが道を開いてくれました。

 けれども、転移の法は成っても、オレは出界できませんでした。

 後になってからわかったのですが、シュテンもオレと同様の状態にあります。
 魔王戦には参戦できていたので、まったく出界できないわけではありません。しかし、カガミ家に伝わる法、つまりこの世界の魔法での転移は許されないのです。

 前に女神様から聞いた事があります。
 移住希望者は基本的には受け入れてるけれども、所属世界の神がダメだと言ったらダメだと。

 オレもシュテンも、ジパング界の神様から出界を禁じられているようです。
 この世界の神様が、オレらに何かをさせたいのでしょう。その役どころを終えない限り、或いは生涯、出界はできないのです。

 シュテンの使命は、今のところ、さっぱりわかりません。

 しかし、オレの方はほぼ見当がつきました。
 公開禁止事項に関する事なので、これもお伝えできません。

 が、そういったわけで、オレはジパング界に骨を埋める覚悟をかため、ミナモト ヨリミツの夫となりました。

 モモカは、ヨリミツとの間の子です。
 あともう一人、下に男の子が居ます。

 夫婦仲は円満です。

 異世界人のオレの風貌は、ジパング人には異形に見えるはず。
 でもって、所領はない、財産もない、手下(てか)の軍勢もない。武人としての技量はヨリミツの方が格段に上。いい所なしの夫です。
 しかし、家宝の刀に認められた男子を夫とする……そう神仏に誓いをたてていたヨリミツには、『オニキリ』が使えるオレがとびっきりいい男に見えるらしいです。
『武士の中の武士』と思いこんでいて、一途にオレを慕い、事あるごとに夫であるオレを立ててくれます。

 オレは、都から少し離れたヨリミツの荘園の別邸で暮らしています。
 オオエ山でシュテンを討伐した後に一泊した、あの屋敷です。
 お姑さまとなったハルナさんと同居して、子供達を育てています。

 武士の暮らしにも、馴染みました。
 ミナモト家先祖を祀った神社に詣で、武術の鍛錬を積み、農地や農民を管理するだけじゃなく自ら(くわ)を持ち働く。堤や道路の工事の指示やら、もめごとの調停やら、あれこれと仕事はつきません。

 侍大将としてキョウの都で暮らすヨリミツとは、別居生活です。でも、精霊達が移動魔法を使えるので不自由はありません。会いたい時には、いつでも会っています。


 転移した翌年、天子様から征鬼将軍という官位をいただきました。
『妖鬼が再び跋扈した時には、討伐に向かい、鬼を鎮めよ』とのお言葉も。
 征鬼将軍というのは、オレの為に新たにつくられた特別な官職でした。
 実務なし、報酬なし、配下なし。
 妖鬼シュテンを討伐した功績を称えただけの名誉官位です。

 それでも、ヨリミツは我が事のように喜び、『ふさわしき役目にござります』と、微笑んでくれました。
 任官は、たぶんヨリミツのはからいです。
 こちらの人間は、名誉を重んじます。天子様から直接お言葉をかけていただくだけでも栄誉、お役目をいただくなど身に余る幸せと考えるのです。
 武士身分すらないオレが肩身の狭い思いをしないよう、官位を賜れるよう働きかけてくれたのでしょう。
 その気持ちが嬉しいので、征鬼将軍としても真面目に働いています。
 鬼が現れなきゃ仕事がないし、仕事にかかる費用は自腹、騒ぎを鎮めたところで朝廷の偉い人から『よくやった』とお褒めの言葉が貰えるぐらいなのですが。

 精霊を使って各地の噂を収集し、カガミ マサタカさんと協力して鬼騒動を鎮めています。護衛兼侍女の女忍者カエデも、よく働いてくれてます。
 オオエ山を追われた妖鬼シュテンの残党が、村を襲った、寺を焼き討ちにした、貴族邸で盗みをした、船を沈めた、美男美女をさらった……。中には、シュテンに遭った、殺されかけたなんて噂までありました。
 不可解な事が起きると、こちらの人間は何もかも鬼の仕業だと考えます。
 調べてみれば、鬼をかたる盗賊の仕業やら、単なる火事、ただの天災がほとんど。時には盗賊退治みたいな荒事もしますが、噂を鎮めるのが主な仕事となっています。

 あっちこっちで騒ぎを鎮めてきた為、征鬼将軍の評判は上々となっています。
 鬼がらみの悩みを抱えた者から相談をもちかけられる事も多くなりました。
 侍大将の夫としての面目は、保てているのではないかと思います。

 死んだ事になっている鬼の大将シュテンは、配下の者達を引き連れ、都より遥か遠い南の島に移住しました。
 お姑さまのハルナさんに連れられて、オレも何度か訪問しています。むろん、ヨリミツには内緒で。
 青い空に白い雲。白い砂浜に、空とマッチする綺麗な青い海。風に揺れる豊かな森……鬼ケ島という名前に反した、実にのどかで美しい南の楽園です。
 鬼達は、そこでの生活に満足し、のんびりと暮らしています。
 都そばまでわざわざやって来て、いらぬ騒動を起こす事などしません。

 けれども、騒動の中には本当に鬼が関わっている事件もありました。
 シュテンの配下ではない、鬼が居たのです。
 精霊の子孫は、みな鬼です。ほとんどの鬼は、人としての特徴の方が強く、人に混じって暮らせます。鬼である自覚もありません。しかし、たまに人間を越えた存在が生まれてしまう。見た目が奇異であったり、霊力や魔力が異常に高かったり。
 鬼の能力に目覚めて悪さをする者、無自覚に魔法を使う者、虐待されている者、さまざまでした。が、鬼は見つけ次第、保護しています。
 能力を封じて人の間で暮らさせるか、カガミ家に預けるか、処刑したと偽って鬼の大将のもとへ送るか、マサタカさんと話して決めています。


 十一代目カガミ マサタカだったハルナさん。
 その娘のヨリミツ。
 オレとの間に産まれた二人の子供。
 皆、鬼です。

 ヨリミツは跳躍力と闘気こそ尋常ではありません。が、それ以外は人と変わらず、鬼である自覚もなく生きています。下の子も、ヨリミツ同様、鬼の血が薄いのだそうです。

 しかし、モモカは、困った事に先祖返りをしているのだそうです。
 霊力も魔力も強く、お姑さまやマサタカさんが何度となく封印をかけ直しているのに、その呪を無意識に払ってしまうのだそうです。
 精霊と同等かそれ以上の能力がある……シュテンやイバラギと同様に、強大な鬼なのです。

 マサタカさんは、モモカこそ十四代目カガミ マサタカにふさわしいと考えていました。修行を積めば、初代『カガミ マサタカ』にも劣らぬ優秀な神官になるだろうと。
 お姑さまのハルナさんは、モモカはシュテンに預けるべきだと考えていました。人に混じって暮らすには、あまりも異能すぎると。

 オレは、そのどちらにも賛成しかねていました。
 いずれの道に進ませるにしても、『侍大将の第一子』である事が障害(ネック)となります。
 モモカは死亡したと工作し、別人としなければいけません。

 又、鬼を朝敵と思い込んでいるヨリミツには、真実を教えられません。
 最愛の娘が鬼だと知れば、ヨリミツは短慮に走るでしょうから。娘を憐れに思うあまり、無理心中しかねない。

 精霊としての血が濃いのだとしても、モモカは子供です。
 異能を理由に家族から遠ざけられたと知れば、傷つくでしょう。ましてや、母親と二度と会えない境遇になどしたくありません。

 けれども、成長していくにつれ力は強大となり、侍大将の娘として人前に立つ義務が生まれるのです。
 手元で育て続ければ、いつかは鬼である事が隠せなくなる。


 昨晩、女神様に亜空間に招かれてモモカが『第一候補』である事を聞かされた事で、ようやくオレの心も決まりました。

 最悪の結末を迎えぬ為に、娘を親元から旅立たせるべきだと。


 百三代目勇者として、モモカを勇者世界に送ります。


 百二代目勇者の方の事は、まったく知りません。名前も性別も。    な女神様が、教えてくれなかったので。
 オレが知っているのは、間もなく百二代目の魔王戦となる事と、百二代目が勇者としての任を終えた時にモモカがそちらへ転移する事だけです。
 無事に魔王戦を終え、誰一人犠牲が出ていなければいい……心からそう思っています。


 お師匠様、みんな。
 モモカのことを、よろしくお願いします。力となってやってください。

 勇者システムは、マーイさんとお師匠様が中心となって改革してくれた事と信じています。
 賢者以外の者も勇者の教育に協力できるようになり、見習い勇者は賢者の館の外へも出られるようになった……そんな形に変わっていれば嬉しい。そうなら、賢者と共にみなにモモカを育ててもらえる。

 オレの故郷を救ってくれと願うと、誇らしげに頷いた子です。良い勇者となろうと必死に頑張るでしょう。

 侍の子として武芸を習い、お姑さまからはカガミ家の巫術の基礎を教えられています。
 ですが、まだまだです。
 どうか鍛えてやってください。

 きちんと修行を積めば、三十九代目勇者カガミ マサタカ並に強くなれるのだそうです。
 ご先祖様そっくりで、精霊に好かれやすい体質でもあります。オレの精霊達もマサタカさんの精霊も、モモカに懐きまくっていました。精霊界に行けば物凄い人気になる予感がします。
 モモカは七つ。魔王が現れるのは、勇者が十五を過ぎてから。少なくとも、あと八年は修行を積めます。どうぞよろしくお願いします。


 勇者の役目を果たした後は、モモカの自由です。
 ジパング界に還って来てくれれば、オレとしてはたいへん嬉しい。
 強力な鬼として覚醒していたとしても、大丈夫。異世界に渡り修行を積んだ為、異能となったのだと言えばいいのだから。
 ヨリミツのもとに戻りミナモト家の人間として生きる事も、鬼として生きる事も、『カガミ マサタカ』を継ぐ事も可能。
 もちろん、賢者を継いで勇者世界に残るという選択肢もあります。

 何処でだろうとも、幸せに生きて欲しい……オレの望みはそれだけです。


 女神様と別れてから、父さんやベルナ母さんの事を何度となく思い出します。

 お師匠様に見出された時、オレは八才でした。
 勇者は使命の時を迎えるまで、山の中の賢者の館から出られない、外の世界の誰とも会っちゃいけない、手紙のやりとりすら許されない……
 そうと知っていて、明るく笑おうとし、『勇者』となるのは栄誉であると教え、オレを力づけてくれた両親……

 二人がどんな気持ちだったか、今ならばわかります。

 数奇な運命にある子供を、手助けできない身がもどかしい。

 お師匠様、マーイさん、ジョゼ、サラ、マリーさん、セリアさん、イザベルさん、アナベラ、リーズ、カトリーヌ、パメラさん、ルネさん、アンヌ様、シャルロットさん、それとシャルル。
 モモカの事を、どうかよろしくお願いします。

 慣れ親しんだ世界から異世界に流されるのは、辛い事です。
 しかし、お師匠様や皆の事は、オレがよく知っています。皆が居る世界ならば、安心です。モモカが不幸になる事はない。

 どうか、娘を見守ってやってください。お願いします。


                モモカの父 ジャンより


追記:『新賢者様へ』と宛名書きをした手紙を、モモカに持たせてあります。お師匠様が既に勇退し、百二代目が賢者となられている時には、そちらを現賢者様にお渡ししてください。


* * * * * *






 庭でヨリミツとよりそい、二人で月を見上げた。
 今日は、観月の宴の日。天子様や貴族は、月を直接見ない。池の水面や(さかずき)に映る月を愛で、歌を歌って楽しむ。宗教的な意味があるのか、雅な心からかはわからない。が、こっちの人間はそうやって月を観る。

 けれども、ヨリミツはオレと共に顔をあげ、満月を直接見ていた。

「立派にお役目を務めておるであろうか……」
 ヨリミツがポツリとつぶやく。
 娘は神隠しにあい、勇者となるべく、父親の出身世界に渡った……その事実を、ヨリミツは自分なりに理解している。人の力では渡る事ができない美しい世界……月に娘は居るのだと思いこんでいるのだ。
 その間違いを指摘する気はなかった。祈りの対象は、目に見える方がわかりやすい。
 夜空を見上げれば、そこに美しい月はある。満ち欠け形を変えながらも淡い光で闇を照らす慈悲深い月が、娘を失った母親の寂しさを慰めてくれると思う。

「モモカはしっかりしてるから、大丈夫だよ」
 自動翻訳機能は、いつから有効になるのだろうか? 賢者に、この者こそ『勇者』と認められてから? それとも、魔王が現れて、勇者見習いを終えてからか?
 まだ言葉が通じないのだとしても、賢者やマーイさんとは話せてるはずだし、魔法でなら会話は可能だ。
 それに、モモカはオレに似ず、賢い。頑張って、向こうの言葉を覚えそうだ。

「勇者様が果たせなくなったお役目を、代わりに果たすとは……ほんに孝行者。良き娘じゃ」
 ヨリミツが月に向かって、手を合わせる。
 信心深いヨリミツは、月に、ご先祖様に、神仏に、日に何度も祈りを捧げる。娘の活躍と無事を祈っているのだ。
 こんだけ熱心なんだ。ジパング界の武神や月の神が、気にかけてくれるはず。モモカが優れた勇者になれるよう、きゃぴりん女神にああしろこうしろと要求をつきつけているに違いない。


 先日、シュテンと交わした会話を思い出した。
『おまえの娘は、いずれこっちに還ってくるよ』
 鬼の大将は赤い髪を掻き、ニヤニヤしていた。妙に楽しそうだった。
『おまえの娘っこを初めて見た時、何とも言えぬ嫌ぁな気分となった。俺ぁ、あんま、先のことは見えない性質(たち)なんだが……あの娘は、いずれ俺の運命に関わってくる……俺を滅ぼすものなのかもしれん』
 不吉な予言をしながらも、鬼の大将は陽気にゲラゲラと笑った。
『鬼ケ島で、桃娘が鬼退治か。初代カガミ マサタカ並に強いんだろ? どれぐらいつぇぇのか、楽しみだ。安心しな、どうせ俺が負けるよ。あいつに花道を与える為に、俺ぁ、この世界に縛られてる……そんな気がするんだ』


 この世界の神がオレに望んだ事は、ヨリミツの夫となる事……
 それだけだと思っていた。

 けれども、もしかしたら、モモカを勇者世界に送る事も使命の一つだったのではないか?
 神は、鬼の申し子であるモモカをふさわしい修行場に送りたかったのかもしれない。


 月光に照らされ、ヨリミツが真摯に祈っている。
 ふと、昔を思い出した。





 ジパング界に流されたオレは、ヨリミツのもとに転移した。

 オレが故郷を追われたのは、ヨリミツがそう望んだからだ。
『勇者様を夫としたい』と熱心に祈ったヨリミツの思いが天意に叶い、武神がオレの転移をきゃぴりん女神に迫ったわけで……
 武神がそう望むのなら自分も! と裏冒険世界の光の神やら、他の神ものっかって、ルーレットダーツなんてふざけたものでオレは未来を決めなきゃいけなくなった。
 ヨリミツへの怒りがなかったわけではない。

 しかし……

 白装束のヨリミツは井戸の側に座り、手を合わせて経を唱えていた。魔王打倒だの必勝がどうのとか言って。
 魔王戦で自分の役目を終えて還ってからずっと……庭で井戸水を浴び、神仏にオレの勝利を祈願してくれていたのだ。
 声をかけると、一心不乱に祈りを捧げていた彼女は顔をあげた。
 全てが美しかった。
 濡れそぼった黒の長髪、白い衣装は肌にはりついて濡れ透けていて、なよやかな体の線がはっきりと見えた。
 そして、何よりも美しいのはその表情だった。
 ヨリミツは切れ長の瞳を大きく見開き……瞬きすら惜しむかのようにオレを見て……そして、微笑んだのだ。
 とても嬉しそうに。
 頬を染め、きらめく涙を流し、口元をほころばせて。
 凛々しい顔立ちのヨリミツは美男子に見えるのだが……オレの目にはとても可愛らしく、いじらしい女性に映った。

 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……

 ヨリミツの思いに応えなきゃ、男じゃない。
 抱きついて来たヨリミツを受け止め、冷えきった体を優しく抱きしめた。





 ヨリミツを抱きしめたあの時から、オレの運命は決まっていたのだ。
 武神に転移の法を邪魔されなくとも、ヨリミツを捨てて故郷に還る事などできなかったろう。

 神に運命を左右されただけじゃない。自分の意志でも未来を選んできたのだ。

 モモカを勇者世界に送った事を、後悔してはいない。

 お師匠様やみんなが育ててくれるのだ、心優しい勇者となるはず。

 しかし、モモカが還って来て、シュテンの予言通りの事が起きるのなら……

 オレは……

 勇者として、鬼を滅ぼすものと対峙するだろう。

 それすらも、武神の計画(シナリオ)通りだとしても構わない。
 オレはオレの正義を貫くだけだ。


 澄んだ空気に映え、満ちた月が明るく美しい。

 ヨリミツを抱き寄せ、共に月を見上げた。
 勇者世界で生きている娘に思いをはせながら。
【鬼を平らげし勇者 完】

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 ジャン本人は還れず、娘だけが勇者世界へ。ジャンの血を引く子供を愛しく思い、モモカを育てるお師匠様やジョゼやサラ。個人的には萌えるシチュエーションです。

 モモカは、ヨリミツ似。男前で、思いこみが激しく、カッとなると口よりも先に手が出るタイプ。
 母親の影響で、ジャンを最高の男性だと思いこんでもいます。お父さんっ子です。

 シュテンは、強い奴と戦うのが大好きなバトルマニア。刹那主義者でもあります。敗北する瞬間まで全力で戦えれば満足なので、モモカとの勝負を楽しみにしています。
 シュテンを恋慕うイバラギは、何としても主人を守ろうとします。あれこれと策を巡らせ、ジャンとも手を結び、二人の対決を阻止しようとします。しかし、主人に工作がバレて『余計なことすんじゃねえ!』と金棒でぶっ叩かれるのが落ちでしょう……

 帰化したジャンは、漢字表記すると……『慈庵』になりそうな。武士っぽくないですね。

+ + + + + + + + 

 次回は、英雄世界に流されての話。もと魔王と共に英雄世界に転移したジャンを、大先輩達はあたたかく迎えます。
 8月19日(月)更新予定です。
+注意+
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