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ハーレム100 作者:松宮星

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女神の慈悲     【天界】

 ダーツの矢は、天界に当たりました!

※この章の各話は、それぞれ独立した話です。共通の設定がある場合もありますが、ストーリーには繋がりはありません。
《天界にようこそ。勇者ジャンよ》
 神々しい光に照らされる老人。純白のローブをまとい、杖を持っている。
 真っ白な髪も髭も、豊かで長い。
 柔和な笑みをたたえているが、神ならではの近寄りがたい威厳も漂っている。

 天界の神族・天使族・神獣族には、実体がない。霊的な存在だから、血肉が無いのだとか。
 天界に行った人間は、神様達を見る事はできる。
 だが、それは真実の姿ではない。勝手に想像して、見たつもりになっているだけ。
 天界で一番偉い神様だ……そう聞いてオレは白髪白髭の老人をイメージし、その通りの姿で天界神はオレの前に現れたのだ。

《魔王を倒した聖なる勇者を歓迎するぞ》

 そして……
 嫌になるぐらいデカい。
 けっこう距離が開いているのに、天を見上げるように顔をあげなきゃ、頭が見えないんだ。
 英雄世界のビル並。幻想世界のゾゾよりデカい。
 というか……魔界の王と同じくらいデカいんじゃないか? 魔界の王をライバル視してるみたいだし、対抗してるのかも。
 キラキラと輝く白い霧がたちこめた、やたら広くって何もないこの場所にしても……魔界の王の自室に似ているような。

《過去、天界への入界を許された、幸福な人間は居た》
 天界で修行した二十四代目勇者がそうだよな。
《しかし、永住が許された者は、そちが初めてじゃ。心するがよい》
 と、言われてもなあ……オレが永住を希望したわけじゃないし。
 神様達が争ったせいで、未来をルーレットダーツで決めなきゃいけなくなって、ダーツの矢は天界に刺さってしまった……それだけだ。亡くなってからならともかく、生きているうちに天界に来ても有り難くない。

《さて、そちの今後じゃが……》
 天界神様がオレを見下ろし、そこで口を閉ざす。

《むぅ……》
 オレをジーッと見つめる。
 神様ならではの力で、人間の目に見えぬものを含め、ありとあらゆる情報をゲットしてるっぽい。

《むむむむぅ……》
 天界神様がうなる。

 パタパタと翼をはためかせ、天使が数体、やって来る。
 頭上に光輪、背に白い翼、さらさらの黄金の髪、透き通るような白い肌に薄絹の衣装。清らかな美貌の天使達だ。
 しかし、全員、同じ顔、同じボンキュッボンな挑発的な体型。んでもって、耳の先はエルフみたいにピンと尖っている。
 ガブルエルちゃんのそっくりさんばっか……いや、本人も居る。
 ガブルエルちゃんだけは他の天使と違い、頭の上にかわいらしい犬耳まである。『ガブッとエル』な名前からのイメージでくっついているのだ。

 天界神様が天使達と、ひそひそ話を始める。多分、内緒話のつもりなんだろうけれど、お声がデカいので丸聞こえ。
 住居がどうの、役目がどうの……
 ステータスが低すぎる、これでよく魔王を討伐できたものだ……
 魔族と戦う軍勢に加えても即死だのう……
 天界勇者として異世界に派遣するわけにもいかん。このパラメーターで天界勇者を名乗られては、天界の恥……
 門番にしてはどうか?……え〜 だめですよぉ〜 低ステータスの者どもに天界に侵入されてしまいますぅ〜……
 じゃが、招いた者を無職でブラブラさせていては外聞が悪いぞ……魔界の王に嘲笑われてしまう……

……要らないんなら、勇者争奪戦に参加しないでくださいよ。
 オレだって、天界に来たかったわけじゃないんですから。

「天界神様、よろしければ、オレの身柄は出身世界の女神様に預けてくださいませんか? 慣れ親しんだあのお方のお側の方が、オレも心やすいですし」
 天界神様の顔がパーッと輝く。
《うむ。あいわかった。そちの希望通りにいたそう》
 あからさまにホッとした顔をしやがった。やっかいばらいできて助かったー って感じ。
 このじいさんを喜ばせるのはしゃくだが、邪魔者扱いされ、ろくでもない仕事を押しつけられてはかなわない。
 きゃぴりん女神の下に居た方が、遥かにマシだ。





 天使ちゃん達に案内された先は、まぶしい光にあふれた空間だった。足元がふかふかなやわらかな雲で覆われている。
 人がポツンと居るだけで、それ以外は何もない場所。

 そこに居たのは、お師匠様だった。
 腰までの白銀の髪に白銀のローブ姿。見慣れた綺麗な顔、懐かしいすみれ色の瞳……
 女神様(イコール)お師匠様なイメージがオレの頭の中に定着してるんで、お師匠様の姿で女神様はオレの前に現れたのだろう。

 慈愛あふれる顔で、天使ちゃん達をねぎらう女神様。
 お師匠様じゃない……そうとわかっていても、その顔で優しく微笑まれると、胸がキュンキュンする。

 しかし……
 案内役の天使ちゃん達が帰った後、女神様はけだるそうに髪の毛をかき、これみよがしに溜息をついたのだった。
《なんで来るんだよ、ジャン君。キミとは縁が切れたのに。またお世話してくれとか、めんどくさいなーもう》

 知っていたよ、こういうお方だってのは……

 女神様は、
《うるおい空間にキミが居るんじゃ、興ざめだ》
 などとブツブツ文句を言いやがる。

 天界はSランクの神様達の交流場所。
 神様の修行場、神様用宿泊・温泉・レジャー施設、サロン、図書館、裁判所、神聖アイテム製造工房、天使の職安等があるのだそうだ。
 裏冒険世界の光の神は、天界企画の旅行ツアーによく参加しているようだし……きゃぴりんも天界に遊び(レジャー)に来ているのか。

《ま、天界神様の頼みだし……しょうがないか。女神のプライベートルームに置いてやるよ》
「プライベートルーム?」
《そ。ここは、天界における女神の私室……人間界で言うと、高級ホテルのスイートルームをキープしてるようなもの》
 ンな説明を聞いても、イメージがわかない。
《キミの義妹のおうちの部屋を、女神にふさわしく、更にエレガントで豪華絢爛にした感じ。んでもって、天使のメイドちゃん付き。ホスピタリティにあふれるお部屋さ》

 イメージがわいた為か、周囲が一変する。
 室内になった。
 オランジュ邸でオレが使っていた部屋に似ている。だが、それよりもずっと広い。
 もっとエレガントで豪華にって言われたんで、家具がゴージャスになり、壁が金箔で装飾され、カーテンがビラビラのレース製になっている……オレの想像力なんて、こんなもの。
 そんでもって、部屋の隅に……メイドさんが三人ほど……
 天使だ。頭に光輪、背中に翼がある。顔はガブルエルちゃんにそっくり。
 だが、衣装は英雄世界のルナさんのメイド服だ。裾がふわっと横に広がったミニのメイド服、白いカチューシャ、白いフリルエプロン、そして……目にまぶしい白のレースつきニーハイソックス。
 にこやかに微笑む天使ちゃん達は、とても愛らしくって…… 

 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……

《まったくキミは……。女の子と見れば、すぐにそれだ》
 お師匠様のそっくりさんが、オレの頬をつねる。
《メイドさんは、天界神様からの借り物だからね。つまんじゃ、ダメだぞ。おっけぇ?》
「やだなあ。しませんよ、そんなことは……」

《ルールを決める》
 女神様がフンと息を吐き、右の指を一本立てた。
《その一、この部屋にキミを置いてあげる。好きに使っていい。三食のメンドーもみたげる。ただし、メイドさんには手を出さないこと》
 いや、だから、出しませんって。

 二本目の指が立つ。
《その二、勝手に外出しない。天界の構造は複雑だ。人間の目には見えぬものがいっぱいあるし、空間はねじれてる。場所ごとに禁忌が設定されてたりもするしね。出かける時は、女神といっしょだ。おっけぇ?》
「おっけぇです」

 そして、三本目の指が。
《その三、所属世界について質問しないこと。以上だ》
 う。

「ジョゼ達がどうなったか、聞いちゃいけないんですか?」
《うん》
 女神様が頷く。
《キミはもう、もとの世界に還れないんだ。余計なことは知らない方がいい》
「だけど、オレ、色んなことを放りだしたまんま流されちゃったし……心配というか」

《……百二代目勇者はギャンブル好きのヤクザな男。でもって、どーしよーもないスケベで、シルヴィちゃんにセクハラをしている》
 何だってぇ!
《嘘だけど》
 女神様がニッと笑う。
《嘘に決まってるだろ? キミがこっちに来て数時間だ。まだ魔王戦当日。シルヴィちゃんの石化は解けてないよ》
 嘘か……良かった……
《でも、そんなことを聞いたら、心中穏やかじゃないだろ? 助けに行きたいとか思っちゃうでしょ? 天界神様の許可がなきゃ、下界に行けないのに》
 唇を噛みしめた。
《知らない方がいいんだ。キミはもうあの世界には、関与できない。死んだも同然の人間なんだから》

 死んだも同然……

「……じゃ、せめてこれだけは教えてください。オレの天界行き、みんなにはどういう風に伝わっているんです?」
 オレは拳を握りしめた。
「お師匠様の跡を継いで賢者になるって、ずっと言っていたんです。その言葉を翻して、他世界に転移しちゃうなんて……」
 最低だと思う。

《マリーちゃんに憑依して、おおまかなことは伝えたよ。神々の争い(トラブル)に巻き込まれ、別世界に転移せざるをえなくなったってね。どの世界に流れたかは、教えなかったけれども》
「そうですか……」
《ご褒美を使って魔王を人間として生き返らせたことや、仲間達への感謝の気持ちも伝えといた。跡を継げなくなって申し訳ないと、シルヴィちゃんへの伝言も託したよ》
「……わかりました」
 なら、いい。
 それならいいんだ……

 オレはうつむいた。
 お師匠様そっくりな女神様を、今はまともに見られそうもなかったので……





 そんなわけで、天界でオレの第二の人生が始まった。

 女神様と天使ちゃん達に囲まれたウハウハ人生……
 てなわけもなく……
 暇をもてあます日々を送っている。

 そもそも、女神様は天界にあんまり来ない。
 たまに昼寝に来る程度。
 でなきゃ、来た途端、誰それ神と約束だー とあたふたと出かけて行く。《遅刻する〜》とバタバタしてるからオレと口をきく暇もなし。
 まだ一回も部屋の外に連れて行ってもらってない……完全ひきこもり生活だ。

 天使ちゃんは、超一流メイドだ。
 何も言わなくても、食事も風呂も欲しいタイミングに準備してくれる。ベッドメイクも完璧。こちらの思考を読んで、先んじてあれこれやってくれる模様。
 メイド服でせっせと働く姿は、眼福……ではあるけれども……
……動く人形のような?
 いつも、ニコニコ。話しかければ、《キャハッ♪》っと明るく笑ってくれる。でも、相槌ばっか。
 更に言うと、あんまり動かない。仕事が終わると、部屋の隅に行ってしまう。そこで、新たな命令が下るまで、三人並んで待機するのだ。
 何というか……魂が感じられない。
 アンドロイドのイヴよりも、もっと非人間的というか……面白味がないのだ。

 自然、オレはPC(パソコン)に向かう事が多くなっている。
 書き物机の上に、PCがある。エスエフ界の情報用モニターというか、裏英雄世界のジャスティス戦隊『指令室』のメカもどきというか……そんな感じ。
 触れる事で情報を引き出し、或いは入力できる仕掛け……そう聞いてオレがPCをイメージしたせいでこんな外見になったのだ。

 PCには、女神様の所属世界のありとあらゆる情報がつまっているらしい。最新情報も絶えず入ってきているのだとか。
 しかし、ほとんどの情報には、(ロック)がかかっている。
 オレが閲覧できるのは、女神様が見せてもいいかなーと思った、さほど重要ではない情報だけなのだ。

 たとえば、本。
 代々の『勇者の書』の写し、ちまたに伝わる勇者伝説。
 歴史書、武術書、魔導書、学術書、文芸書、医術書等々(などなど)……
 お堅い本もいっぱいあるが、ガキ向きの本もある。昔、読んだ絵本とかすげぇ懐かしかったし、娯楽本や低俗誌、ちょっぴりイケナイ本なんかもあったりして……けっこう楽しい。暇つぶしには最適。

 それから、シミュレーション映像。
『気象』『天体活動』『天変地異』『地殻変動』『生態系』等の管理ページで、今後、数百年の予定(スケジュール)が見られたりする。
 予定を書きかえる権限は無いんで、ただ見るだけだ。
 女神様は《気づいたことあったら、コメント書いといてー 直すからー》と言っていたが、無理だ。何をどう直せばいいのかなんて、オレにわかるわけがない。

 あと、動画。閲覧禁止のものばかりだが、オレが見られるものもそこそこある。
 大劇場での芝居、剣の御前試合、収穫祭り、市場の賑わい、大漁を祝う漁村……面白い映像はいっぱいだ。
 都市の変遷、魔法炉の構造の改良、ナマコの一生……わけわかんない映像も多いが。

 ついでに言うと、『祈り』も見られる。
 女神様への信者の祈りが、棒グラフとなって表示される。
 信仰心の高さ・真摯さ・心の美しさ・祈りの頻度なんかが数字になってその合計値が、棒となっている。棒が高いものから順に並んでいるのだ。
 画面上の棒グラフに触れると、祈りの思いが伝わってくる。
 女神様は『祈り』を見て、どれを聞き届けるか決めているのだとか。
 けれども、何千ページもあるんで、女神様はほぼトップページしか見ない。たま〜に気まぐれを起こして、下位ページも見に行ってはいるようだが。

『心より神仏を信仰し、神意に叶った者のみが、加護を受けられるのです。誰よりも真剣に祈れば、望みは叶うのです』
 ジパング界の侍大将の言葉を思い出した。

《下位ページに、おもしろそーなのあったら、マーキングしといて。後で見るかもしんないからー》
 全然あてにされてない依頼だったが、暇なんで、時々、拾い見をしていた。
 個人情報保護の為、名前は伏せられている。何処の誰の祈りだかはわかんないが、神様へのお願いなんてたいして種類はない。
 平和への祈り、合格祈願、学業成就、商売繁盛、縁結び、子宝祈願、安産祈願、長寿、病気治癒、厄除け、厄払い、招福、開運……
 自分が幸福になりたいか、愛する者を幸せにしたくて、祈るんだ。
 みな、一緒だ。


 ある日、オレは……
 何千何万という祈りの中から、それを見つけた。

『お兄さま、どうぞご無事で。異世界で、どうかお幸せになってください……(王都在住 Jさん)』
 名前が伏せられていても、誰の祈りかわかった……

 他にも見つけた。注意して探せば、見つかるものだ。

『●●●のバカバカバカ。フラフラしてるから巻き込まれるのよ。バカでエッチで流されやすくって、本当、ダメな奴……死なないでよ……(王都在住 Sさん)』

『●●様、あなた様の事を私は生涯忘れません。あなたこそ、強く、賢く、正義感に満ち、道徳的で、悪を憎んで人を憎まない、美しくも頼もしい●●の中の●●でした……異世界でもご活躍ください……(王都在住 Cさん)』

『異世界でもがんばってねー おなかすかせちゃ ダメだよー(旅の途中 Aさん)』

『オレのイヤリングを返せ。返しに戻って来い、バーカ。(旅の途中 Lさん)』

『●●●よ、おまえならば、正しい光の道を進める。己の運命を受け入れ、自分らしく生きよ。(××の館在住 Sさん)』

 目から涙があふれてきた……

 みんなの祈りをマーキングし、何度も何度も見返した。

 もしや……と、思い、トップページを見た。
 必要ないと思って今まで見なかったページだが、1位の祈りは……
『●●さまに、神の、ご加護が、あります、ように〜(旅の途中 Mさん)』だった……

 他のみんなの思いも、何処かにあるのかも……
 いや、ルネさんはオレの為には祈らないか……祈る時間があったら発明してそうだ……魔王戦の後、少しは名が売れたのだろうか?


 しんみりしていたオレに、天使ちゃんが声をかけてきた。
《ジャン様に、お客様なので〜す。キャハッ♪》

 きゃぴりん女神様にではなく、オレに客?

《輪廻世界の戦の女神様で〜す。お会いになられますか〜? 会っといた方がいいと思いますよ〜 ご機嫌損ねると、プチンとぶっ潰されかねませんよ〜♪ キャハッ♪》


 女神様のプライベートルームの外は、白い雲と光の世界。
 そこに、黒髪の優美な美女が居た。
 眉こそ濃いが、外見はたおやかで、戦の女神っぽくない。
 だが、腕は十本ある。普通の人間と同じ箇所に二本、背中から左右に四本づつ八本の腕がはえている。
 輪廻世界の戦の女神ドゥルガー様だ。

 ドゥルガー様は、騎乗獣ドゥンに乗っていらっしゃった。
 白髪で白い肌の、美人に見える。危ない水着姿だ。四つん這いになって、その背にドゥルガー様をのせている。
 すごいエッチなんだが、体よりも顔にキュンキュンきた。パメラさんにそっくりなドゥンを見ていると、なんか……

 ドゥルガー様は、オレを見て微かに眉をしかめられた。
《おまえの噂を聞いて来た。天界の永住権を得たそうだな》
 開口一発のお言葉が、それ。

 オレをジロジロとご覧になる戦の女神様。
 どうぞおあがりください〜 との天使ちゃんの誘いを、長居する気はないとスパーンとお断りになる。
《一つだけ聞きたい》
 ドゥルガー様の視線が、恐ろしげ。睨むようにオレをご覧になっている。

《元の世界に還りたいか?》

 その問いには、素直に答えた。

「還りたいです」

《そうか》
 ドゥルガー様が鷹揚に頷く。
《わかった》
 んで、背を向けて歩き出してしまう。もう用事は済んだと言わんばかりに。

「ちょっとお待ちを!」
 さすがにこのままお帰りいただくわけには。
「なんで、その質問をしにいらしたのですか?」

 戦の女神が騎乗獣に命じ、向きを変える。オレと向かい合う。
《   から聞いていないのか? 貴様が天界で飼い殺しにされている現状が、神々の中のごく一部で問題となっている》
「え?」
《無為に遊ばせておくぐらいなら天界勇者として自分の世界に派遣してくれと、ジパング界の武神と裏冒険世界の光の神が天界神に願い出ているのだ》
「えぇっ?」
《天界からのレンタル勇者だ。短期となるか長期となるか完全移籍になるかは、天界神のお心次第だ》
「はぁ……」
 まあ、女神様の部屋でゴロゴロしてるよりは、よそへ行った方がマシだよな。

《私もおまえが欲しいと願い出る》
 へ?
《おかしくはあるまい? 私はおまえの伴侶だったのだ。縁の深さでは、武神や光の神を上回る。おまえの未来に口出しする権利はあるはずだ》
「そうですね……」
 けど、ドゥルガー様がオレを欲しがるとは意外だった。
 嫌われてはいないと思う。
 でも、あんま眼中に入れてもらえなかったよな。ドゥルガー様の関心は、オレの伴侶の一人……イザベルさんにだけ向けられていた。

《おまえを勇者世界に派遣するよう、希望する》

 耳を疑ってしまった。

《おまえは、真実を見抜けぬ愚者だ。アスラの王は、決して清きものでも正しきものでもない。……だが、王ではある。邪気なく慕うものを無下にはすまい》

 ドゥルガー様は、静かに微笑んでいらっしゃる……
《おまえほど、アスラの王の監視役兼軟化役に適した人間はいない。おまえが側に居れば、あれは人の生を逸脱せず、人のまま死ぬだろう。輪廻世界の為に、勇者世界へのおまえの派遣を希望する》

「ありがとうございます……」
 十本の手を持つ女神様に、オレは深々と頭を下げた。

《礼などいらん。私は私の為におまえの帰還を希望するだけだ。それに、帰還は手放しには喜べぬぞ。勇者世界には、勇者は一人しか置けぬそうだ。還るとなると、貴様、勇者ではなくなる。勇者として得た力を失うだろう》
 オレはかぶりを振った。
 そんなものは要らない。
 還れるんなら……
 つーか、オレの能力なんて、百人伴侶強制仲間枠入りを除けば、勇者眼と勇者の馬鹿力(ばかぢから)と自動翻訳機能ぐらいだ。無くなっても、困らない。自動翻訳機能だけはちょっと残念だが、異世界に行く事がなければ無意味な能力だし。

《おまえはおまえでなくなるかもしれない……記憶を消去する、転生させ赤子とする、別の生き物とする……どのような形で送られるかは、天界神と   次第だ》
 それでも還りたいのだろ? の問いに頷きを返した。

 還りたい、と。

 それに、必ずペナルティーがあるとも限らない。
 今のオレがそのまんま、みんなのもとへ還れるかもしれないんだ。
 還るに決まっている。

《あいかわらず、おめでたい男だ》
 ドゥルガー様が、楽しそうに笑われた。

《おそらくは、武神と光の神と私の三つ巴だ。私が勝つ事を祈っておれ》
 どうやって決めるのですか? と、聞くとドゥルガー様はそれも天界神のお心次第だとおっしゃった。
 神様同士が戦闘(バトル)するか、弁舌で決めるか、裁判所を通すか、アミダくじになるか、ルーレットダーツになるか……

 ルーレットダーツだけは、勘弁して欲しい。
 又、望まぬ目に刺さる気がする……

《私は戦の女神だ。いかなる勝負となろうとも、持てる力の限りをつくして戦う。一歩も引かぬ。武神や光の神の好きにはさせぬ》
 おおおお! 頼もしい!

 オレは、輪廻世界の戦の女神様に対し膝をついた。
 慈悲深いドゥルガー様のおかげで、未来に希望の光が差した……そんな気がした。
【女神の慈悲 完】

+ + + + + + + + 

《なになに、敗者復活戦? ずっるーい! あたしも参加する!》(英雄世界 日の女神)
《ジャン? 誰だっけ?……勇者? もらう、もらう! 正義の味方は誰でも大歓迎ッ!》(裏英雄世界 創造神)
《あれは、ええ子じゃ。みな好いておる。置いてやってもええよ》(裏ジパング界 長老神)
《来る者拒まず》(冒険世界 主神)
《ピーガガガ、ピーガガガ、ピー》(エスエフ界 機械神)
《誇り高き精霊が敗北を喫したままでいられようか? 今度こそ、勇者を我が手に》(精霊界 創造神)
《ここは平和的に、アミダで……》(幻想世界 調和神)

 勇者世界に還れる確率は十分の一となりそうです……頑張れ、ジャン!

+ + + + + + + + 

 次回は、ジパング界に流されての話。ジャンを心から慕う侍大将と……
 8月17日(土)更新予定です。
+注意+
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