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ハーレム100 作者:松宮星

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機械神への祈りの巻 【エスエフ界】

 ダーツの矢は、エスエフ界に当たりました!

※この章の各話は、それぞれ独立した話です。共通の設定がある場合もありますが、ストーリーには繋がりはありません。
 こんにちは、シャフィール。お元気ですか?

 フェロモン強化による影響実験ですが、ついに成功しました。
 私室で飼い始めたマウスの三代目が、すべて無性で産まれたのです。
 形状的にも遺伝子的にも牝です。でも、卵巣が退化していて生殖能力はありません。採餌・睡眠・防衛といった生命維持の活動しかしません。
 私の思考を読む、微弱なテレパシー能力を有しています。あらゆる命令に従います。
 私の、はじめての私兵です。

 正体を隠している現状では露骨にフェロモンを高められないので、小動物の成体を無性化させる事もまだ出来ていません。
 しかし、焦りは禁物。徐々にフェロモンを高め、影響力を測っていきたいと思います。

 性的魅力の方は、順調です。
 テラ星系人の血が多く混じってしまった私には、さほど異性を惹きつける力がありませんでした。
 けれども、あなたの導きを受け、すっかり生まれかわりました。面白いほどに男が釣れるのです。
 何処へ行っても、私は男性の注目の(まと)
 目を合わせて微笑んであげるだけで、皆、私の虜となります。赤面する者、言い寄って来る者、その場では何も言えず後でメールしてくる者……
『君こそ、僕の妖精ちゃんだ……』だの『スウィート・ベイビィ。負けたぜ、俺はキミにノックダウン、フォーリン・ラヴだ。キミのセクシーさに乾杯』とか……笑ってしまうでしょ?
 パートナー申込も後を絶ちません。

 もちろん、テラ星系人などをパートナーにはしません。
 胎生の私達が出産できる子供は常に一人ですもの。
 交配の相手は、慎重に選びます。


              宇宙新世紀〇二八七年 ナターリヤ


* * * * * *


 エスエフ界に流されてから、一カ月が過ぎた。
 体のラインがはっきり出るフィットスーツは苦手なんで、前の格好のまんまだ。でも、だいぶこっちの世界に馴染んだと思う。

 バビロンに転移できたのは、幸運だった。
 エスエフ界は、ものすごく広いらしい。ドームやらスペースコロニーやら移民星やらがいっぱいあって、何百億って人が分散して暮らしているのだとか。


『神様達の争いに巻き込まれ、ルーレットダーツでエスエフ界に流されました』と、転移の事情を説明したんだが、エスエフ界の人達にはピンとこなかったようだ。
 ユーリアさんは両腕を組み、しばらくうなっていた。ルネさんの親友のロボットの専門家は、こう聞いてきた。
『話が見えてきたわ……ユーシャさんは侵略者(まおう)を倒した。けれども、その功績が華々しすぎた為に、他の惑星(かみがみ)は脅威を感じ、あなたの強制移民を望んだ。あなたの(せかい)最高権力者(めがみ)は、ユーシャさんの追放を余儀なくされ、ランダムな超能力恒星間航行技術(ルーレット・ダーツ)を発動させ……あなたは私達のもとへ送られたのね?』
 何を言ってるんだかよくわからなかったが、何となく合ってそうだから頷いておいた。

 バビロンのみんなは、とてもあたたかくオレを迎えてくれた。
『元気だせよ。どこの世界でも突出した存在ってのは、迫害されるんだよな』と、エスパーのラリサさん。
『追放されようとも、あなたが(せかい)を救った事実に変わりはない』と、サイボーグのジリヤさん。
『任せて! 宇宙人のあなたを、連邦には内緒で受け入れるわ! あなたがどんな能力者でも、私達は迫害しない! 絶対、追放しないわ!』と、ユーリアさん。
 ユーリアさんの双子の妹のタチアナさんは、無言でオレの匂いを嗅いでいた。土の精霊サブレを同化させていたオレは、生物科学の専門家に興味と好意を抱かせた……らしい。

『追放はお気の毒ですけれども、ご無事でよろしかったですわ。私、魔王戦で発明家の方の武器を壊してしまったでしょ? 心配でしたのよ』
 ナターリヤさんは、あの時はごめんなさいと謝った。
 ユーリヤさん四姉妹はみんな、美人で魅力的。
 末っ子のナターリヤさんは、十五歳ぐらいに見える。エスエフ界の人間は不老処置を受けて若さを保ってるんで、本当はオレより年上なんだけど。
 華奢なその体や美しい顔に、保護欲をかきたてられるというか……
 特にオッドアイが素晴らしい。お姉さん達と一緒でナターリヤさんも、右が紫、左が金のオッドアイだ。改めて見ると、ナターリヤさんの金の瞳はとても美しく輝いていて……吸いこまれそうだった。
『この通り、どうにか生き延びましたよ』
 オレはナターリヤさんに微笑みかけた。
『あの時は、ナターリヤさんが怪我をしなくて本当に良かったです』
 こんな綺麗でかわいい人を傷つけちゃいけない……傷ついた姿は見たくない……。あ〜 いやいやいや、不細工なら怪我をさせてもいいって事じゃないけど!
 ナターリヤさんがクスッと笑った。
『お優しいのね。それに、あなた、素敵だわ。チュド〜ンなさらなくって良かった。これからは、ぜひ親しくしてくださいね』
 喜んでと、二つ返事をした。

 後になってから、『あれ?』と思った。『チュド〜ン』のこと、エスエフ界の人達に漏らしてたっけ? と。
 口にした覚えはなかったが、エスパーのラリサさんはオレの心が読めるし、それで知ったのかもしれない……そう思った。



 バビロンの人達の好意に甘える形で、オレはエスエフ界で暮らし始めた。

 イヴは、正式にオレのメイドロイドとなった。
 ダン&バリーは、チコを貸してくれた。部屋の中に、かわいい尻尾のリスがいて、ちょこまか走り回って、ビスケットをねだってくるのだ……非常に癒される。
 カウンセラーさんが定期的に訪問してくるし、ユーリアさん達もかわるがわる顔を見せてくれるので寂しいなんて事はなかった。

 あれこれと、オレは忙しかった。

 やんなきゃいけない事の筆頭は、勉強だった。
 オレの無学さは、就学前のお子様レベルだと思う。
 何処でどんな事ができるのか、どんな事をしたら危険なのか、機械には何ができて何ができないのか、この世界の常識などを、イヴから教わっている。

 仕事もしている。
 国際交流だ。
 日によって、バビロン側の人間は変わる。社会学・建築学・医学・福祉・生物学・環境学・民俗学・美術……いろんなジャンルの専門家からの質問に、可能な限り答えるのだ。精霊達に代わりに答えてもらう事もけっこうある。

 バビロンには、オレの故郷の映像がある。
 三十日分、720時間にもわたる長時間の記録だ。研究員達は事前にその内容をチェックし、オレと共に再生映像を見てあれこれと質問してくるのだ。

 映像は、ポチ2号の記憶だ。
 バイオロイドのポチ2号には、二つの役目があった。
 一つが、ニーナと一緒にバリアを張る事。
 二つ目は、オレらの世界の情報を収集する事。ポチ2号の見聞した情報は、魔王戦の間に回収された。タチアナさんのポチに、2号の記憶がテレパシーで転写されたのだそうだ。

 立体映像装置を通して再生されるポチ2号の記憶……

 見てるだけで、せつなくなる。
 ポチ2号は、ニーナと共にオレの世界を見て回った。オランジュ邸、街の中、郊外、畑、草原、川……懐かしい景色、オレも見たことがない場所……
 そして、ポチの記憶の中で仲間達が動いてしゃべっているのだ……ニーナやアンヌばあさん、ジョゼ、サラ、セリア、イザベルさん、マリーちゃん、パメラさん、カトリーヌ、アナベラ、リーズ、ルネさん……

 ポチがオレらの世界に移った当日の記録には、お師匠様の姿もあった。
 白銀の髪と白銀のローブを靡かせ、オレらに指示を出すお師匠様。
 カトリーヌの推薦するシャーマン戦士ニノンと会う事となり……オレをかばってニノンに刺され……お師匠様は石化し……

 その後のオレの狂態も含めたあの日の出来事には、ユーリアさん達は触れないでいてくれた。
 そして、ポチ2号の記憶の複写をそっと渡してくれた。

 イヴに機械の操作を教わって、オレは自室でもポチ2号の記憶をよく見ている。
 二度と戻れぬ故郷や会えぬ人達の映像を見ると、しんみりしてしまう……


 転移してすぐの頃、ユーリアさんが慰めてくれた。
『大丈夫よ、ユーシャさん。あなたの(せかい)とはいずれ国交が結ばれるもの! そう遠くない未来に、ケンジャさんはこっちへ来られるわよ!』
 ユーリアさんは、とことん前向きだった。
『それに、ポチ2号の返却の約束もある! お国が落ち着いたら、ケンジャさんは再訪問なさるはずよ! 三年以内に、再会できるわ!』
 ポチの培養液は三年分しかなかった。切れる前に、お師匠様はバビロンに来ようとするだろう。
 三年以内に、会えるかもしれない……
 それは、心の支えとなった。
 エスエフ界で頑張っていこうという気力にもなっている。





「お久しぶり、ユーシャさん。本日はよろしくお願いしますわ」
 握手を求められたので、応えた。
 すげぇドキドキしている。

 今日の仕事相手は、ナターリヤさんだ。
 宇宙人や幽霊を愛して研究をしていた彼女は、ず〜っと一族の変わり種扱いだった。

 けれども今では、バビロンにとって重要な存在になってる。シャフィロス星の女王様とお友達だからだ。シャフィロス顧問という役職につき、シャフィロスとバビロンの亜空間通路を慌しく行き来している。
『正義の国』のキャロラインも、ナターリヤさんの下で働いているらしい。


 ポチの映像について解説する前に、オレとジョゼの子供を見に行く事になった。

 バビロンには、オレらの体の一部から作りだされた子供が十五人も居る。クローンやキメラというのだそうだ。子供達は、あと二カ月は機械から出られない。けど、もう目は開いている。オレは、毎日、決まった時間に顔を見に行っている。
「あなた方の子供に、シャフィールはご興味を持っていらっしゃるの」
「なぜです?」
「細胞摘出時、レイは義妹さんに憑依していたでしょう? ご先祖様と縁のある子供達ですもの。その成長に関心をお持ちなのです」
 ああ、なるほど。
 マーイさんとエクレールを憑依させてたオレ、レイが憑いていたジョゼ。その匂いにタチアナさんは惹かれ、子供を作った。
 女王様にとってジョゼの子供は、先祖の気が混じった子供だから……えっと、何だろ?
《だいぶ違うけど、異母兄弟でいいんじゃない? わかりやすいから》と、アウラさんが言った。

 今日のオレは、アウラさんとティーナを憑依させている。
 バルバラさんの所へ遊びに行っているエクレールを除き、他のメンバーは帰郷中だ。
 精霊は決して死なないが、個を保つ為に物質を補う必要がある。ティーナならば炎系、アウラさんなら風系物質を吸収しないといけない。
 けれども、バビロンは精霊の存在基盤となる物質が乏しいのだそうだ。人工ドーム都市のせいなのか、その外のテラが死の星なのがいけないのはわからないが……。精霊達には交替で、精霊界に還ってもらっている。


 バイオロイド研究室へ行くと、保育室まで案内します! と、ナターリヤさんめあての野郎どもが群がってきた。ダンやバリーも居る。
……オレ、毎日、子供に会いに来てるんだぞ。案内なんかいらねーよ。
 ナターリヤさんは申し出をやんわりと断り、とても可愛らしく微笑んだ。
「それでは、失礼いたします。みなさま、ごきげんよう」
 野郎どもは、ポワ〜ンとまぬけ(ヅラ)
 ナターリヤさんは、モテモテだ。
 まあ、わかる。綺麗だもんな。一緒にいると、オレもソワソワしてくる。

《でも、その子、おかしいわ》
 ティーナは、どことなく不機嫌そうだった。
《頭の中が真っ白。何、考えてるんだかさっぱりわからない。わたし達の匂いを嗅いだ、バイオロイド科学者にそっくり。気持ち悪い》
 気持ち悪いは、いくらなんでも言いすぎだぞ。


 ナターリヤさんと、第七保育室に行った。
 イヴは廊下で待機させたし、研究員は居ない。二人っきりだ。

 子供達は、整然と並んだ密閉型成長カプセルの中。中身は見えない。ずら〜と並んだそれは、金属のオブジェのようだ。
 通信機を使って別室の担当研究員に頼み、十五個のカプセルの窓を開けてもらった。
 いつもは顔のところだけをオープンしてもらうんだが、今日はナターリヤさんがいるから特別だ、全身が見えるようにしてもらった。
 大きな機械の中のやや上よりに、ちっちゃな赤ちゃんが居る。1カプセルに一人。大人サイズのカプセルの中に入れられてるんで、下がすげぇ余っている。

 子供達は、たいてい寝てる。が、たまに目を開けている事がある。目が合って、笑う事もある。
 残念ながら、今日は全員寝ているようだが。

 もう新生児じゃない。もっとしっかりしてる。産まれて数カ月ぐらいの赤ん坊サイズ。
 赤ん坊達の頭や体にはいっぱい管が刺さっている。
 ちっちゃいのに、かわいそうだ。痛そうで、見てるとつらくなる。早く機械から出られるといいんだが。

 視線を感じた。
 オレの横に立っていたナターリヤさんが、オレを見ている。クスッと楽しそうに笑う。
「健康優良、教育プログラムも順調……成長過程に問題ありませんのよ? ご心配なさる事はありませんわ。あと二カ月もしたら、五才児くらいの大きさでカプセルから出てきますわよ」
 ナターリヤさんは、さっきまで成長カプセルと自分の左の掌を交互に見ていた。掌の上に情報を立体投影していたようだ。子供達の成長データを見ていたのだろう。

「やさしいパパですわね……あなた達、愛されていますわ。良かったですわね」
 ナターリヤさんが、カプセルの中の赤ちゃん達へと声をかける。
 慈母のような笑みを浮かべて。

 肩のあたりでやわらかくカールしている銀髪、とても綺麗な顔立ちなのだが、何というか……押しつけがましくない? 派手すぎない? 潤い?……ホッとするような愛らしさがある美貌だ。
 白銀色のフィットスーツの下の体も、やや控えめ。華奢だ。
 そして、美しいオッドアイ……

 オレのハートはキュンキュンと鳴った……

「データから判断すると、平凡……傑出した能力はなさそうに見える……」
 ナターリヤさんは嬉しそうな顔だ。
「普通の子供として生きられそうですわね」

「あ〜 でも、その子達、鬼ですよ。アウラさん達が言ってました」
 オレの言葉に、ナターリヤさんが首を傾げる。
「鬼?」
「人間と精霊の子供です。人間と精霊の気が交じり合って産まれた子だから、性質的に鬼なんだそうです」

「鬼……」
 ナターリヤさんが口元に手をあてる。

 精霊の子孫はみんな、鬼だ。ヨリミツやハルナさん、エグリゴーリ国の神官達、それにサラも鬼らしい。
「ほとんどの鬼は、人としての特徴のが強い。精霊の能力に目覚めないまま亡くなっちゃうそうです。けど、たまに人間と精霊の良いところだけが結びついて、精霊と同等以上の存在が生まれるんだとか」
 シュテンやイバラギがそうだもんな。

 オレの唇に、そっと触れるものがあった。
 ドキン! とした。
 ナターリヤさんの右の人さし指が、オレの唇に触れている……しゃべり過ぎる口に、黙っていなさいと言うかのように。
《不確かなことは、おっしゃらないで。潜在的エスパーと判断されたら、この子達、頭の中をいじられてしまいますのよ。ご自分の子供を苦しめたいのですの?》
 思念が、するりと入りこんできた。
 ナターリヤさんの思考なのか……?
 やっぱ、この女性(ヒト)、エスパーなのか?

 ナターリヤさんが微笑む。とても妖しく美しく……
 爽やかな甘い香りがした……

《その話はまた今度……二人っきりの時に》

 二人っきり?

 心臓がドキドキした……

「お子さま達の成長データは充分とれました。そろそろお部屋に参りましょう、ユーシャさん。私、精霊達にインタビューしたいのですの」
 ナターリヤさんの指が離れてしまった……

「インタビュー……?」
 声がうわずっているぞ、オレ。

「ユーシャさんは、超能力恒星間航行技術を失ってしまいましたわよね……でも、しもべの精霊はどうです?」
 ナターリヤさんが微笑む。
 あどけない少女のような笑み。それでいて、吸い付くようなきめの細かい肌、長い睫毛、妖艶な金の瞳がたまらなく色っぽくって……
「しもべの力で、生まれ故郷へ帰ったり、精霊界へ行ったりできませんの?」

 ドキドキが激しくなる。
「無理です……精霊は次元通路関係は弱いから……精霊界に還る事はできますが、それ以外の世界には自力で渡れませんし、人間を連れて行く事もできません……」
 だから、別世界に移動できる精霊支配者のしもべになるわけで。

「そう……残念ですわ」
 しょんぼりした声を耳にした途端、胸が痛んだ。ナターリヤさんを悲しませるなんて……罪を犯したような気分。

「でも……お話してみたい。シャフィールも、精霊との対話を望んでいらっしゃいます。ご父祖様に連なるもの達ですもの……ご興味がおありなのです」

 くらくらと目まいを感じた。

 体の内のアウラさんとティーナの声が、ひどく遠く感じた。
 性的魅了……シャフィロスの女王……同等……素敵な方……欲しい……
 思考の断片だけが拾えるんだが、意味をなさない。
 頭がボーッとしてきた……

「ねぇ……少しでいいの……私に精霊を貸してくださいませんこと? インタビューしたいの……私、精霊と仲良くなりたい……」

 両手がふらふらとあがる。
 ナターリヤさんを抱きしめようとして……

 何か……

 前にも……

 こんなことあったような……

 でも、どうでもいい。ナターリヤさんを抱きしめたい……

 オレはナターリヤさんだけを見つめ、更に近づこうとした。

 しかし、その時……

 ピンポンパンポンと、大音量のチャイムが響き渡った。

――ヘイ、ブラザー! 部長がお呼びだぜ! おまえさんのベイビィ達のことで重要なお知らせがあるんだそうだ! すぐに部長のオフィスに向かってくれ――

 ダミ声の放送音声が、頭を揺さぶった。バイオロイドチームのバリーだ。オレを『ブラザー』なんて呼ぶのは、太っちょのあいつだけだ。

――ヘイ、ブラザー! ニヤケ(ヅラ)晒してる暇があったら、早く部長のオフィスに行け! 部長がお待ちかねだ!――
 あの野郎……監視カメラで見てるな。
 オレとナターリヤさんがいい雰囲気だったから、タチアナさんからの連絡にかこつけて、館内放送で邪魔しやがって……

《おにーさん、福の神の手毬に触って……》
 アウラさんの声が聞こえた。

 その声に従い、左の二の腕をつかむと……妙に頭がスッキリした。
 モヤが晴れたような。

 オレの内のアウラさんが、フーッと溜息をつく。
《あたしもティーナもメロメロになりかけてたの。その子、異常よ。魅了能力があるわ。話す時は、福の神の守護結界に頼って》

 ナターリヤさんに魅了能力?
 左腕に巻いた赤い布をぎゅっと握り、オレは少し後ずさった。

「すみません。呼び出しなんで行きますね」

 ナターリヤさんは眉をひそめ、微かに目を細めた。
「……すごいですわね。私から離れて、タチアナおねえさまのもとへ行けるだなんて……」
 え?
「いや、今、放送が……」

「素晴らしい意志の強さ。私、ますますあなたに興味を持ちましたわ」
 興味……
 オレはごくっとツバを呑みこんだ。

「ふふふ。ケンジャさんがいらっしゃってからが勝負と思っていましたけれども……あなたでもいいかも。充分魅力的……」

 ん?
 お師匠様が来たら勝負?

「お師匠様のこと、聞いてませんか? 来ないかもしれないって、ユーリアさんには伝えたんですが……」

「え? 来ない?」
 ナターリヤさんが目をしばたたかせる。
「三年以内に、ポチ2号の返却にいらっしゃるのでしょ?」

「ええ。お師匠様なら、そう望むでしょう。でも、来られないかもしれないんです」

 前に、お師匠様は言っていたのだ。
『(同じ世界に)来る事はできる。しかし、同じ場所に転移するとは限らない。出現箇所は、神がお決めになる事だ』と。
 エスエフ界はものすごく広い。この星に出現するかすらわからないんだ。果てに転移させられたら、バビロンまで辿りつけないだろう。

 この世界の神様は、機械神様だ。
 何を考えてるかわかんないというか……何を言ってるんだかわかんない神様だった。意思の疎通が可能なのかすら不明。
 しかし、お師匠様と再会できるかどうかは機械神様のお心次第なわけで……
 毎日、機械神様には祈りを捧げてる。この世界の役に立てばご機嫌がよろしくなるはずなんで、積極的にやれる事はやっている。

『心より神仏を信仰し、神意に叶った者のみが、加護を受けられるのです。誰よりも真剣に祈れば、望みは叶うのです』
 ヨリミツの教え通りに、オレは頑張っている。

「ケンジャさんはいらっしゃらないかもしれないだなんて……そんな……」
 ナターリヤさんの声が震えている。
 せつなそうに、オッドアイの瞳が細められる。

 ドキン! とした。
 うちひしがれたようなその姿を見ると、胸が痛くなる……

「私にはもう……あなたしか居ないのかも……」
 少しうるんだ金の瞳が綺麗だ……

 アネコ様の守護結界に触れているのに、ナターリヤさんから目をそらせない。
 ナターリヤさんだけを見つめていたい……

 そんな気持ちになりかけたのだが……

――ヘイ、ブラザー!――
 耳が馬鹿になりそうな音声が部屋中に響き渡った。
 監視カメラがある位置を睨んだ。
 行くよ、行きゃいいんだろ!

「すみません、また、あとで」
 それだけ言って部屋を飛び出した。

 ナターリヤさんから距離をとると、冷静さが戻ってくる。

 存在するだけで相手を魅了するなんて、まるでシャフィロスの女王様だ。

 魔王戦での女王様を思い出した。
『MY ステージ君』の端に腰かけてカネコを見上げていた姿は、何というか……ものさびしげだった。
 シャフィロス星で知性を有す存在は女王様だけ、魅了の力を持って生まれた為に他の存在とは不用意に交われない。
 孤独な方だった。

 文明の形態が違うんだ。外からとやかく言うべきじゃないが……オレの目には、女王様は幸せそうには見えなかった。

 ナターリヤさんが女王様のようになってなければいい……
 そう思った。


* * * * * *


 蜂類型宇宙人シャフィール及ビ ソノ亜種ナターリヤ 精霊界ノ精霊トノ交配ヲ断念。

 理由:現状、勇者ジャン方式デノ 精霊界ヘノ転移ガ不可能ナ為。
   (『勇者ノ書』及ビ魔法絹布ガ入手デキズ、代替物ガ発見デキナイ)。
    精霊界転移能力ヲ有スル賢者シルヴィノ捕獲モ、現状困難。

 新ターゲット:勇者ジャン所有ノ精霊
        或イハ精霊憑依状態ノ勇者ジャン(劣化版精霊ニ該当)。

 宇宙連邦トノ戦争ヲ想定シ、戦闘種ノ育成ヲ計画。
 新ターゲットト交配シ、『鬼』即チ潜在的エスパーヲ増産スル予定。
 シャフィロス労働者階級ハ 女王ノ意志デ 億ニマデ分裂ガ可能デアリ、瞬時ニ成人体ニマデ促成ガ可能。軍隊ノ準備ハ 容易デアル。

 シカシ、精霊ノ交配参加ニハ 主人(ジャン)ノ許可ガ必要。
 勇者ジャンノ非協力デ 戦闘種増加ハ遅延デキル。
 又、勇者ジャンノ 非論理的ナ複雑怪奇ナ感情【同情】ト【愛】ハ、ナターリヤニ テラ星系人的感情ヲ再取得サセ、シャフィロス星人化ヲ断念サセル可能性モアリ。

 勇者ジャンハ、戦争回避ノ 一要因(ファクター)足リウル。

 種ノ進化コソ (シュ)ノ望ミ。退化ノ危険ヲ内包スル宇宙戦争回避ニ務メル。

 精霊憑依状態ノ人間ノ遺伝子ハ、テラ星系人ノ進化要因トシテモ利用可能。
 現在、百万人ニ一人ノ出生率デアル 新人類エスパーノ 出生ヲ促セル。

 勇者ジャンハ 貴重種。監視・管理対象ニ加エル。
 上位能力者デアル私ノ存在ハ、誰ニモ感知サレマイ。
 ソノ後ノ経過ハ、追ッテ。


               主ノ(シモベ) タチアナ。
【機械神への祈りの巻 完】

+ + + + + + + + 

「ブラザー、最近モテモテじゃねえか。ナターリヤちゃんと部長が、おまえをめぐって火花を散らしてるんだって?」
「タチアナさんは、精霊の匂いを嗅いでいるだけよ、たぶん」
「両手に花! その上、『正義の国』のビキニ娘もおまえにぞっこんだよな?」
「それは、オレが異世界人(宇宙人)だからで」
「しかも、部屋に専属メイド! 万能型メイドロイド、イヴ! マニアも納得のカスタム・メイドだぞ。幾らするかわかってるのか?」
「さあ……」
「ナマの美女三人に、超高級メイドロイド! ちくしょう! リア充め! てめーなんか、もうブラザーじゃねえ! チコを返せ!」
「ああああ! 連れてかないで、オレのもふもふ……」

 ラリサもユーリアもジャンに好意を持ってるし、はためから見れば女の子に囲まれたリア充状態。

 ナターリヤがテラ星系支配に本腰を入れるか、人としての生を選ぶかはジャン次第。
 平和的にテラ星系とシャフィロスの種の進化を手伝えれば、機械神からご褒美がある……かも。

+ + + + + + + + 

 次回は、魔界に流されての話。光の勇者を、魔界が歓迎してくれるはずもなく……
 8月11日(日)更新予定です。
+注意+
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