挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ハーレム100 作者:松宮星

流されて

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

203/224

ナディンの日記   【冒険世界】

 ダーツの矢は、冒険世界に当たりました!

※この章の各話は、それぞれ独立した話です。共通の設定がある場合もありますが、ストーリーには繋がりはありません。
○月×日
 魔王戦の後、勇者くんがあたしの世界に流されてきた。
 ほんと、もぉ〜 びっくり。

 勇者くんは、とっても素敵な男の子。
 真面目で、キュートで、ナイーブで、かよわくって……
 だけど、勇者で、自分の世界を救おうと一生懸命だった。

 それに、すっごく優しい。
 あたしを伴侶にしてくれて……本当の姿を知っているのに、ずっと女の子として扱ってくれた。
 あたしのことを気持ち悪がらないで、微笑みかけてくれた……

 勇者くんと同じ世界で暮らせるなんて、夢みたい!

 でも……勇者くんにとっては、災難なのよね。
 生まれた世界で賢者になって、聖女ちゃん達と暮らしたかったのですもの。
 パパや他の神さまが争ったせいで生まれた世界にいられなくなっただなんて、かわいそう……

 パパのせいでごめんなさい、て謝ったら『ナディンが気に病むことじゃないよ。心配してくれて、ありがとう』って微笑みかけてくれて……

 あああああ、勇者くん! 本当、素敵!

 おねえさまのお城に、勇者くんを案内した。
 とっても疲れていたみたいで、勇者くんは食事もしないで眠ってしまった。

 勇者くん……はやく元気になって……


○月×日
 おねえさまと相談して、三つのお願いの旅はしばらくお休みにする事にした。
 まずは、勇者くんよ! 元気づけてあげなきゃ!


○月×日
 美味しいものを食べて、美女に囲まれれば、ウハウハよね!

 勇者くんとおねえさまと三人で、桃桃酒家に遊びに行った。
 ユンユンちゃんを抱っこして、勇者くんは、楽しそうだった。
 でも、それなりに、なのよね。

 目はどこか遠くを見ていた……


○月×日
 元気づけるなら、サプライズ・パーティ!
 歌って踊れば、つらい事なんか忘れちゃうわ!

 勇者くんとおねえさまと三人で、ソニアの国へ遊びに行った。
 眷族と一緒にカルナヴァルの予行練習をしていたソニアは、あたし達を歓迎してくれた。
 勇者くんのだ〜い好きな半裸の美女ばっかりだし! ルンルンよね!
 陽気でエキサイティングな音楽にのって、みんなで情熱のダンスを踊った。
 勇者くんも楽しそう……だと思ったんだけど、踊りの途中で気絶してしまった。

 ごめんなさい、勇者くん。うっかりしてたわ。人間の肉体って丈夫じゃなかったのよね……たった半日でも、炎天下で、休みなし、給水なしで、踊らせてはいけなかったのよね……次は気をつけるわ。


○月×日
 綺麗な景色の中でのんびり観光をすれば、元気がでるかも!

 勇者くんとおねえさまと三人で、ヘレーン叔母さまの地下王国へ遊びに行った。

 叔母さまは、勇者くんの身の上に同情して『なんだったら、私の国に来る?』と誘っていた。でも、勇者くんはあまり乗り気じゃない感じ。『お心づかい、感謝します』とは言っていたけれども。

 陸海空の恐竜達に乗って、叔母さまの地下王国を遊覧した。

 勇者くんは心ここにあらずって感じに、ボーッとしていた。
 恐竜の森ばかりを見ていた。


○月×日
 勇者くんが、お部屋に籠っている。
 ルルの国へ狩りに行きましょて誘ったのに、又にするって……。
 おねえさまのお友達の所は? 雪と氷の女王さまのお城はどうかしら? お出かけの気分じゃないなら、出張サービスは? NINJAショーでも呼ぶ? って聞いてみたんだけど……
『今日はゆっくりしていたい』って……

 どうしちゃったのかしら……

 気分がのらないだけ?
 それとも、疲れちゃった? あたしが連れまわしたから?
 もしかして……考えたくないけど……もしかすると……うっとーしかった? 
 あたしってば、調子に乗ってよけいなことしてた?

 おろおろしてたら、おねえさまがカラクリ部屋まで連れて行ってくださった。
 勇者くんのお部屋が、あらゆる角度から覗けるだなんて……すごい! 便利だわ! さすが、おねえさま、いつでも頼りになるわ!

 勇者くんは、ベッドに座って写真を見ていた。
 いちばん見てたのは、恐竜の森を背景に義妹ちゃんや幼馴染ちゃんと撮った写真。叔母さまの国へ行ったから、思いだしちゃったのね……
 写真の中には、魔王戦で見かけた子がいっぱい居た。
 おねえさまのご主人のアスラの王さま、メガネのおすましさん、真っ白な幽霊ちゃん、ロボットちゃん……もっともっと居た。
 その子達と過ごした時間を思い出しているのだろう、勇者くんはしょんぼりしていた。

 勇者くんは、大事な人達と引き裂かれたのだ。
 心にぽっかりと穴が開いたようなもの……
 寂しいんだわ……

 あたしなんかじゃ……
 本当は醜くてみっともないあたしじゃ……
 勇者くんの寂しさを埋めてあげることなんかできないかも……

 落ち込んでいたら、おねえさまに叱られた。
「貴様が落ち込んでどうする? 旦那様をお慰めし、楽しい時間を過ごしていただく。それが、ハーレムの女のなすべき事であろうが」
 目から鱗が落ちる感じ。
 そーよ、今は勇者くんよ!
 勇者くんを元気にしてあげないと!

 おねえさまは、アスラの秘儀を用いるとおっしゃた。
 その気がないものさえ、元気にしちゃう技を星の数ほどご存じだなんて……さすが、おねえさま! 頼もしいわ!

 あたしにも手伝えとおっしゃったから、頷いた。
 あたしにできることなら、何でもする。
 勇者くんの為なら、命だってあげちゃう。勇者くんは、あたしの大事な男性(ヒト)だもの!


○月×日
 まだ夢を見てるみたい……

 あたしと勇者くんが……

 あんなことや、こんなことを……

 あああああ! いやん、もう! 嬉しいけど、恥ずかしい! 昨晩のことを思い出すと、顔から火を噴きそう!

 アスラの秘儀ってすごいわ。勇者くん、ちゃんと元気になったし。
 おねえさまと三人で仲良く……とっても素敵な時間だった……


○月×日
 まだ夢の中……


○月×日
 感激。

 涙が止まらない。

 勇者くんから、キッスしてくれたぁぁぁ!

 もう顔を洗わない! って言ったら、笑われてしまった。
「これからいっぱいしてやるから、ちゃんと毎日顔を洗えよ」だなんて、幻聴かと思ったわ……

 幸せすぎて、怖い。
 ドキドキしながら聞いた、気持ち悪くないって?
 勇者くんはノーマルな男の子だから……おねえさまとはともかく……あたしとああなったのは、本当は嫌なはず……

「今更こだわったって、しょうがないというか……まあ、本当の姿が何であれ、ナディンはナディンだし。心はオレを慕ってくれるかわいい女の子なんだ。大切にするよ」

 嬉しい! 嬉しい! 嬉しい!

 もうこのまま死んじゃってもいい…… 


○月×日
 おねえさまと秘密の特訓を始めた。

「ウジウジウダウダしてばかりいるオカマなど、実に醜い。旦那様がお優しくお心の広いお方だからといって、甘えてはいかん。旦那様に貴様がうとまれぬよう、劣等感の強さを克服させてやる」

 ありがとう、おねえさま……いつも、ドジでノロマで馬鹿なあたしを助けてくださって……

 おねえさまのご命令に従って、変化(へんげ)を解いた。
 (もと)の姿となったあたしを、おねえさまが可愛がってくださる。
 禿げ頭も、髭だらけの顔も、濃い眉も、ぎょろりとした目も、ムキムキの毛深い体も……ぜぇんぶ、素敵だ、かわいいって誉めてくださって……

 気持ち良かった……

 おねえさまのおかげで、大嫌いだった自分がほんのちょっと好きになれたような……。


○月×日
 勇者くんが勧めてくれたので、三つのお願いの旅を再開した。

 しばらくお休みしてたから、今日はリハビリ。
 かなえたお願いも少なめの、72。残りは、6648だわ。

 一万の願いごとを叶えてランプから解き放たれたら、あたし……
 勇者くんとおねえさまの為に生きたい……
 お二人を幸せにしたいわ……


○月×日
 おねえさまが、御病気になってお部屋に籠ってしまった。

 かなり重い御病気なのでは……?
 心配で心配で、たまらない。
 でも、お見舞いに行っても、追い返されてしまう。お部屋に入れてくださらないのだ。
「側をうろつくな、ハゲ。貴様なぞが居ても何の役にも立たん。三つの願いを叶える旅にでも出ておれ」
 お具合が悪いのに、あたしのことを心配してくださって……おねえさまは本当にお優しいわ……

 勇者くんに手伝ってもらって、三つのお願いを進めた。
 でも、集中できない。

 勇者くんがあたしを抱いて、背中をポンポンと撫でてくれた。

 涙があふれてきた。
 おねえさまにもしもの事があったら……あたし、死んじゃう。

 おねえさまがいてくださったから、勇者くん達が自分の世界へ還っちゃった時も耐えられた。
 おねえさまのご活躍で一万のお願いは順調に減ったけれども……それよりも何よりも、ずっと一緒に居てくださる事が嬉しかった。
『貴様を永遠に私の剣にしてやる』……そうおっしゃってくださったのに……死んでは嫌……
 おねえさまがいらっしゃらない生活なんて、もう考えられない……

 泣いちゃ、ダメ。
 あたしがメソメソしてどうするの?
 弱ったおねえさまをお支えして、守ってさしあげなきゃ。
 ご恩返しをするのなら、今よ。しゃきっとするのよ、あたし。

「いいよ、泣いちまえ。今は、オレと二人っきりだろ。ドロテアの前じゃ泣けないだ。今のうちにつらい気持ちを吐き出しておけよ。聞いてやるからさ」
 どうして、そんなに優しいのよ、勇者くん……

 勇者くんの腕の中で、あたしは泣いた。

 今日だけは、勇者くんの優しさに甘えさせてもらった。


○月×日
「おめでとう、ドロテア、ナディン」
 勇者くんの言葉に、ただ、ただ、ぼーぜん。

 ようやくご許可がいただけて、おねえさまにお部屋に入れたと思ったら……
 ベッドの上のおねえさまのお体に、小さな生き物がまとわりついていた。
 小蛇。
 コブラの赤ちゃんだ。
 全部で四十二匹。
 野生の蛇ではない。神格の光をまとっているから、神族。

 この子たちはすべて、おねえさまとあたしの子ども……らしい。
 秘密特訓で頑張った時に、できてしまったのだそうだ。
 一回の出産で、おねえさまは四十二の卵を産み、お部屋の中で抱卵なさって孵化させたのだ。

「嬉しくないのか? この私が貴様なぞの子供を産んでやったのに」

 思いっきり、かぶりを振った。

 無理やり結婚させられそうになって、あたしは主神のパパに逆らった。
 パパとの戦に敗れて、魔神に堕とされちゃったけれど、しょうがないと思ってきた。
 体は男でも、心は乙女なんですもの。女の人と結婚なんて無理だもの!

 あたしが誰かのパパになる日なんて、一生こないと思っていた。

 なのに……
 四十二人もいっぺんに……
 子供たちは、おねえさまにそっくり……
 たまらなくラブリーだった……

 抱っこして、頬ずりして、キスしまくって……
 噛みつかれてしまった。しつこい男は嫌いって……ベビィちゃん達ったら、おねえさま似ね。クールでステキ!


○月×日
 勇者くんとおねえさまと子供たちとみんなで、ヘレーン叔母さまの地下王国へご挨拶に行った。

《おめでとう、ナディンちゃん》
 叔母さまは、あたしに子供ができたことを祝福してくださった。
《嫁と子供と愛人まで抱えちゃって、すっかり一人前〜 兄さんも、あなたのことを見直すわよぉ〜》
 慌てて否定した。
 おねえさまはお嫁さんではないし、勇者くんも愛人じゃない。
 というか〜 勇者くんがメイン。勇者くんのハーレムの中にあたしとおねえさまは加えていただいているというか〜

 叔母さまは、首を傾げられた。
《ん〜 ナディンちゃんが幸せなら、私は結婚の形態には拘らないわぁ〜 でも、兄さんは気にすると思うの。自分の息子が男の愛人じゃ、絶対、猛反対。仲を引き裂くと思うわ〜》

「なら、オレが出てくよ。オレが居るせいで、ややこしくなっちゃ悪い。ナディンとドロテアは夫婦になったんだ、幸せになってもらいたい」
 そんな! 勇者くんが出てくだなんて! お金もお家もないのに! かよわくって、ちっちゃくって、すぐに死んじゃう人間なのに!

 絶対ダメ! って反対したら、勇者くんはやれやれって感じに溜息をついた。
「神族から見りゃ、人間なんてちっぽけだもんな。心配だってのも、わかる。けど、オレ、自分の世界を救った勇者なんだぜ? 十八歳の健康な男、しかも精霊つきだ。一人でも生きていけるよ」
 でもでもでも……
「いや……一人でってのは間違いだな」
 勇者くんが、あたしとおねえさまを見つめる。
「支えてくれる仲間が同じ世界に居るから、頑張れるんだ。たまに落ち込む事はあるかもしれないが、大丈夫だ……オレは自分らしく生きていける」
 勇者くんが笑う。とても優しい笑顔で……

「今日まで面倒をみてくれて、ありがとう。二人には心から感謝している。何というか……めちゃくちゃなやり方だったけどさ、元気づけたいってまごころはしっかり伝わったよ。この世界で頑張って生きていこうって気になった。本当にありがとう」
 勇者くん……

《ナディンちゃん。勇者くんは、自分の世界に還してあげたら?》
 叔母さまの言葉に耳を疑った……
《ん〜 このまえ、ドロテアちゃんに質問されたのよね。兄さんの力で、もとの世界に還った転移者っていないのかって》
 叔母さまが、にっこりと微笑む。
《それがね、調べてみたら、けっこー居たのよー この世界で大活躍した子とかー 異世界から転移希望者をいっぱい連れて来た子とかが、ご褒美で故郷に送り還されてたりするのー 取り上げられた名前や能力も返されてたわねー》
 勇者くんを、もとの世界に還す……?
 そうよ……
 還れるのなら、それが一番……
 義妹ちゃんや幼馴染ちゃんや聖女ちゃんや……お師匠さまのもとへ還れれば、幸せになれるんだもの……

《ジパング界の鬼ちゃんたちの移住話があるじゃない? あの子達が来たら、勇者くんの紹介だって兄さんには報告しましょうよ。一族郎党だから、数百人の移住でしょ? ポイント高いと思うの〜》

 おねえさまが、叔母さまに質問なさる。
「来るか来ぬかわからない鬼をあてにはできませぬ。ヘレーン様、異世界へ渡る手立てはご存じありませぬか? こう見えて旦那様は百人のおなごを伴侶としたモテ男、異世界に渡れば必ずや転移希望神を数多く見出せましょう。旦那様の為、どうかご助力ください」 

 おねえさまのおっしゃる通り。還る手立てがあるのなら、手伝ってあげなきゃ。
 旦那様を幸福にする……それがハーレムの女のなすべき役割だもの……

 しばらく考えてから、叔母さまはこうおっしゃった。
《勇者くんは、異世界に渡る魔法陣や呪文を知ってるのよね? 勇者の書や魔法絹布はないけど、この世界には魔法道具がいっぱいあるわ。その魔法を発動させられると思うの》
 じゃ、魔法陣で直接、勇者世界に還ればいいわ! そう提案したけど、勇者くんは困惑顔だった。
 勇者世界の魔法陣は知らないみたい。

 なら、勇者くんの知っているどっかの異世界へ行きましょ!
 転移希望神を探して、いっぱいとっつかまえるの! パパのご機嫌をとって、勇者世界に還してもらいましょ!
 異世界は危険だもの! ついてく! あたし、馬鹿だけど魔法をそこそこ使えるし、力だけは自慢よ! 腕力はパパよりあるもの! 勇者くんを守ってあげるわ!
 みんな、勇者くんの還りを待ってるだろうし……
 勇者くんだって還りたいんだもの……
 早い方がいいわ……

 すぐにすぐにすぐに!

 ふわっと……
 優しい腕に抱きしめられてしまった。
「ありがとう、ナディン」
 勇者くんが、あたしを抱きしめてくれている……
「故郷には還りたい。跡を継げなかった事をお師匠様に謝りたいし、ジョゼやサラ達にも会いたい。マーイさんを迎えに行きたいし、借りっぱなしのアイテムをリーズに還さなきゃ。向こうでやりたい事はいっぱいある」
 そうよね……
 勇者くんは、あっちの世界の人だもの……還してあげなきゃ……
 二度と会えなくてもいい……勇者くんが幸せになれるのなら……

「けど、一時帰宅でもいいや。何処に永住するかは、オレ一人じゃ決めないよ」

 え?

 勇者くんの手が、あたしの頬に触れる。
 涙を拭ってくれる。

「約束したろ? 大事にするって。ナディンを悲しませるような事はしない。ドロテアと三人で話して、未来はみんなで決めよう」
 あたしったら、いつの間にか泣いてたみたい。
 しかも、目から滝みたいな涙を流して。
 やだ。みっともない。

 わんわん泣くあたしを、勇者くんはずっと抱きしめてくれた。
「なりゆきとはいえ、本当の伴侶にしたんだ。きっちり責任はとる。それが男ってもんだ」
 勇者くんてば! もうもうもう! かわいいのに、格好いいんだから!

 ずっと側に居てってお願いしたら、勇者くんは頷いてくれた。

「ナディンとドロテアがそれでいいなら、いいよ。ナディンがご主人様で、オレが愛人って扱いでも構わない。他人からどう見られようが気にならない。みんなが幸せなのが一番だ」

 大らかで、優しくって、ピュア……
 勇者くんみたいな人間、他にはいないわ……
 勇者くんと出会えて、本当の伴侶の一人にしてもらえて、あたし、幸せ……

 愛しているわ……

 勇者くんと、おねえさまと、ベビィちゃんと、ずっと一緒に生きていけるだなんて、夢みたい……

 幸せすぎて、めまいがしそう……


* * * * * *


「馬鹿めが……」
 読めば読むほど、笑える。
 主神の息子は、世間知らずのお坊ちゃまだ。人がよすぎる。盲目的に私を信じすぎだ。

他人(ヒト)の日記を読むなよ。それ、ナディンのだろ?」
 旦那様がいらっしゃったので、花模様の日記帳は閉じた。
「盗んだのではありません。食堂のテーブルの上に、アレが放置していたのです」
「だからって、読むなよ。悪趣味だぞ」
 かなり本気で怒っておられるようだ。
 二度といたしません、と旦那様に謝罪した。

 このお方は、ただの人間だ。
 しかし、ドゥルガー様が夫として認めておられただけあって、人物だ。度量が広い。

 普通の人間ならば、ハゲ男を妻として遇そうとは思わぬ。
 だが、旦那様はできるのだ。
 深い関係となったからには、責任をとる……最初は、義務感だった。
 アレが喜ぶからと、毎日のように無理に笑顔をつくって、キスをされていた。夫となったからには誠実であろうとの努力だ。
 だが、そのうち、『まあ、いいや』と開き直られた。『ずっと変化してくれてるんだし、こだわるのも馬鹿だよな』と、真の姿には目をつむるようになられたのだ。
 そして、今では、まったく気にしていない。というか、気にならなくなったようだ。

……大らかな方だ。

 真の伴侶とした者を大切にし、大事にする……その信念をもって旦那様は生きていらっしゃる。
 私達の為に、故郷への帰還すら諦めてくださった。本当の伴侶となった者を捨てては還れない、不幸にはできない……と。
 転移神探しをした後、一時帰国だけをし、この世界に永住するおつもりなのだ。

 故郷に帰還なさりたいだろうに……。

 正直……私には旦那様のお心を測りきれぬ。

 事あるごとに旦那様は、『ナディンを幸せにしてやれ』とおっしゃる。

 魔王戦でお伝えしたゆえ、私の計画をご存じであろうに。
 強き同朋を産み増やし、ドゥルガー様の為に無敵軍勢をご用意する……
 現在の化身(けしん)がご存命の間には、おそらくは間に合わぬであろうが……ドゥルガー様と共に輪廻世界に進軍し、デーヴァどもを滅ぼすのだ。
 その為に、ナディンを夫の一人とした。
 アレを騙して関係をもったのも、異世界神の血を欲しただけのこと。
 色恋の感情など無い。
 そうとご存じなのに、『手ぇ出した以上、責任をとれ。大切にしてやれよ』などと真顔でおっしゃる。
 私の計画に巻き込まれた事にはご立腹だったが、それすらも許してくださっている。ほんに寛容なお方だ。


「本人に謝れよ」
 旦那様がお怒りなので、日記を手にナディンのもとへ向かった。

 子煩悩な魔神は、一日の大半を子供部屋で過ごす。
「日記が落ちていたぞ」
 声をかけると、体中に蛇身の子供を巻きつけたナディンが慌てて駆けて来た。
 いつもの変化姿だ。必要がない限り、真の姿には戻らない。旦那様の幼馴染に似た女の姿で通している。
 子らの相手をする間は、男に戻った方が楽だろうに。子供達はナディンを下僕と見下しておる。容赦なく締めつけて苦しめ、あれこれ無茶な要求を押しつけてからかっている。
 だが、この馬鹿は、それすらも喜ぶ。甘えられてると勘違いしているのだ。
 本当に馬鹿で、しょうがない……

《おねえさま……ご覧になった?》
 鼻の頭を赤く染め、もじもじしている。
 ハゲでヒゲなマッチョのくせに、実に女々しい。見ているとイライラする……
 謝るつもりだったが、その気は失せた。
「貴様の日記なぞに興味はない」
 そう言うと、ハゲはホッとした顔をした。が、ちょっと悲しそうでもあった。
『興味がない』と言われた事に傷ついておるのだ。まったくもって、面倒くさい男だ。

「子守りはもう良かろう? ついて来い、ハゲ。三つの願いをかなえに行くぞ。一万まで後たったの642だ。この私に任せろ、瞬く間に終わらせてやる」
《はい、おねえさま!》
 おねえさま、素敵! 格好いい! と賛辞しまくりながら、嬉しそうに私の後について来る。

 どうしようもない馬鹿だが、利用価値は高い。

 あまり無茶はさせるなと、子らには命じておこう。壊されてはたまらん。

 こやつは、私の剣。
 旦那様の為にも、デーヴァとの戦においても役に立つのだ。

 忠実な犬は、愛してやる。これが盲目的に私を慕うのならば、応えてやる……使ってやろう。
【ナディンの日記 完】

+ + + + + + + + 

 前にお師匠様が『ジャンに一夜限りの情事などできまい。一度、体を合わせたら深く思い入れ、その者を恋人とし、いずれは真の伴侶にしてしまうだろう』と予想した通りの未来。
 でも、ナディンは見た目は女の子で、ジャンを熱愛しているし……ドロテアは、イザベルへの忠誠心からジャンにも敬意を表して仕えているし……きっと、幸せ。

 アスラの野望をかなえる為、ドロテアはあれこれ画策しています。
 転移希望神探しの旅すらも自分の為。同朋と夫候補をこっそり探し、転移希望神を数多く集める事で主神の覚えをめでたくし奪われた名と力を取り戻そうとしていたりして。

 けれども、ナディンはまったく気づかないだろうし、気づいたところで『さすがおねえさま、策略家! 格好いい!』と絶賛しそう。

+ + + + + + + + 

 次回は、エスエフ界に流されての話。シャフィロス星女王と同じ能力に目覚めたナターリヤは、ジャンに……
 8月7日(水)更新予定です。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ