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ハーレム100 作者:松宮星

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勇者ジャスティス  【裏 英雄世界】

 ダーツの矢は、裏英雄世界に当たりました!

※この章の各話は、それぞれ独立した話です。共通の設定がある場合もありますが、ストーリーには繋がりはありません。
「だから、言ったのに……女神を信用するな、退路は確保しておくように、って」
 オレを見て、マサタ=カーンさんが溜息をつく。
 オレもカーンさんを見て、大きく溜息をついた。

 仲間もオレも魔王すらも死なせずに、オレは勇者世界に平和をもたらした。
 無血勝利だ。
 成し遂げたのはオレが初めてだと、女神様は絶賛した。

 なのに、女神様はオレにダーツの矢を渡してきたんだ。

 よその世界の神々がキミを欲しがっている、何もしないとご機嫌を損ねちゃう、勇者世界残留か転移かキミの手で決めてと。
 運命のルーレットダーツボードは、二十四分割されていた。
 どの未来になるのかは、二十四分の一の確率。
 ダーツの半分の目は勇者世界に残留だったし、オレの自由意思で未来を選べる目もあった。

 けれども、オレの放ったダーツは裏英雄世界に当たってしまい……

 異世界追放だ。

 やっぱり、オレの運気は最低なんだろう。

「いやいやいや、そうでもないよ。魔界や精霊界に飛ばされなくて良かった。ついでに言うと、イカレ天使の世界でなくて良かった。あいつ、男にも天使コスプレをさせるからなあ……」
 敵にとどめをさせない呪いをかけられたとかで、カーンさんは死神王サリーを嫌いぬいている。
 まあ、確かに、男がスケスケのミニドレスを着るのはかなりナニ。つーか、犯罪。
 下には下の未来があったわけだ。
 こっちに転移してすぐにカーンさん達と合流できたし、ツキがないわけじゃない。

 けど、ただ、ただ、むなしかった。

「勇者世界は、他世界の支援で成り立っている。勇者やその仲間となる人間をもらったり、異世界で勇者を修行させたり。あの世界の女神様は、協力世界の神々に対してかなり下手(したで)……たいがいの我がままは聞き入れてしまうんだよ」
 自分にデメリットがなければ……と、忌々しそうにカーンさんが言う。
「魔王戦の後、僕は罠にはまった。『最速で魔王を倒したキミには、ご褒美をもういっこ! 何でも願いを二つ叶えよう』と言われて、乗ってしまったのが運のつき。二つ目のご褒美のお返しに、ちょっとだけバイトをしてくれって押し切られてね」
「バイト?」
「正義の味方のバイトだ。『だいじょーぶ。キミの実力なら、数日から数年できっと事件は解決できるー 気にせず、ばんばんトリップしておいで〜』と……」
 カーンさんが、特大の溜息をつく。
「ようするに……魔王戦で大活躍をした僕を協力世界の方々が欲しがったんだ。だが、僕は一人しか居ないんで、レンタルって形で貸し出す事にしたんだろう」
 おかげで十七の年から勇者世界も含め十二の世界にトリップだ、と苦々しい口調でカーンさんが言う。
 カーンさんがトリップ体質になったのは、きゃぴりん女神のせいだったのか。
「君の世界の女神は、勇者や賢者を愛している。だが、世界維持こそが最優先。世界の為なら、人間を無慈悲に使い捨てられる方だ。だから言ったんだよ、信用するな、と」

 聞いてみた。
「ご褒美もらったってことは、勇者だったんですか?」
「あれ? 言ってなかったっけ? 僕は七代目だよ」
 七代目か……。女神様の過去の再現で見た。女の子に囲まれた、やたら顔のいい学ラン勇者だったよな。
 千八百年ぐらい前の勇者だが、英雄世界は時の流れが違う。高校生がおっさんになるぐらいしか、時が流れていないようだ。
「じゃ、『ヤマダ ホーリーナイト』先輩?」
「そうだけど……その名前では呼ばないでくれ。嫌だったんで改名したんだ」
 ふーん。
『ヤマダ ホーリーナイト』は嫌だけど、『マサタ=カーン』はいいのか。

 異世界で知り合った人が、過去の大先輩だったのだ。
 衝撃の事実を知ったはずなのに、オレはやけに冷静だった。
 というか、驚く気力すらわかない。

「この世界の創造神は、正義の味方が大好きだ。住むには悪くないよ。僕も年に何回か転移して来るし、みどり達も居る。ちょっと……いや、かなりこき使われるだろうけど、生活に不自由はないはずだ」
 カーンさんが、オレを慰めてくれる。
 いい人だ。
 優しい言葉をかけてくれる気持ちはありがたかったが、胸にポッカリ穴が開いたようだ。

 オレは……
 賢者となって、お師匠様を勇退させたかった。
 ジョゼやサラやみんなの居る世界で、ずっと一緒に生きていきたかった。

 もはやかなわぬ夢となってしまったが……

 異世界転移の魔法陣は記憶しているし、その呪文も覚えている。
 けれども、『勇者の書』が無く、魔法絹布も無しじゃ、異界への扉は開けない。オレには魔力が無いのだ。
 それに……そもそも、故郷の扉を開く魔法陣なんて知らない。知っているのは、十一の異世界への魔法陣のみ。冒険した後も、その魔法陣を通して還っていただけ。もといた場所に戻っていただけなのだ。

 この世界に持って来られたのは、魔王戦で身に着けていたものと、荷物入れ。
 それだけだ。
 荷物入れは、伴侶探しの旅で、愛用していたもの。身一つで放りだすのはさすがに憐れと思ったのだろう、女神様が送ってくれたのだ。
 中身は、宝石袋、筆記用具、異世界で得たアイテム等々。
 なにより有り難かったのは、炎の精霊との契約の証のボウタイチョーカーが入っていた事だ。

 だが、アクアマリンの仮面はなかった。マーイさんと共に勇者世界にあるのだろう。
 オレの髪の毛が入った守り袋と結びついているマーイさんは、勇者世界に留まっているはず。

 契約が終わったんで、光のルーチェさんは光界に還ったし……

 オレの精霊は、炎、風、土、氷、雷、闇の六体となった。


 ティーナには、定期的に炎界に還ってもらう事にした。
 ティーナと同じ炎から生まれたアナムは、サラのしもべだ。オレもサラも異世界へ行く力はないが、二人のしもべは同じ世界へ行ける。連絡をとりたいとサラが願えば、必ずアナムを炎界に送るはず……

 そう思ったんだが、一向に連絡がとれない。
《アナムが居ないの……里帰りで戻ったって話も聞かないわ》
 炎界から戻る度、ティーナは不安そうな顔を見せる。

 炎界にアナムが現れないまま、日々は過ぎて行った。





 裏英雄世界に転移したオレは、ジャスティス戦隊の一員となった。

 改造マニアの悪の組織 NEOワルイーゾ。
 歴史改竄をもくろむ未来人 未来教会。
 人間に悪夢を植えつける 闇妖精。
 自爆霊を操り日本政府転覆をたくらむ、ARK―RYO(アクリョー)

 トーキョー・シティーを騒がす四つの悪と戦う、正義のヒーローとなったのだ。


 今日の舞台は、どっかの採石場。山の中。周囲に建物のない広い場所なんで、大騒ぎしても平気。迷惑がかからない。

『ジャスティス戦隊が来てくれたぞー!』『かっこいいー!』と囚われの子供たちは大興奮。
 オレらに向かって手を振るいたいけなお子様の中には、イガラシ ヒトミちゃんも居る。又、人質にされたのか……

「どんな悪だか知らないけれど、花園を荒らす奴は許さない! ゆめみのアイリが華やかに退治しちゃうわ!」
 悪と対峙した時のお約束。正義の味方の名乗りは、ピンクことアイリちゃんから始まる。
 巫女のユリカさんは今日は学校、カーンさんは英雄世界に還った。ので、本日のメンバーは四人。
 次の名乗りはリーダーだ。
「ワルイーゾに改造された機械の体! しかし、心までは改造されていないわ! 正義の戦士ミラクルみどり! 世界の平和は私が守る!」
 その次は全身ゴールドタイツの怪しい人の番。
《正しい歴史を守る為、みんなの笑顔を守る為、光の彼方から私は来た! 未来警察ゴールド! 悪は、決して見逃さん!》
 ゴールドさんも決めポーズをとる。

 次は、オレの番だ。
「君の笑顔を守る為、オレは戦う今日もまた……天から舞い降りし、女神の寵児! 愛の戦士、勇者ジャン! ただいま見参ッ!」
 うぉぉぉ! ハズイ、ハズイ、ハズイ!
 このこっぱずかしい名乗りを考えたのは、オレじゃない。ミドリさん達だ。百人の伴侶を持ってたオレにふさわしい名乗りを考えてあ・げ・ると、無理やり……うがぁ〜
 勇者マントに、光のサークレット、勇者の剣。格好は今まで通りだが、黒いマスクを目元に追加して素顔を隠す事にした。
 サブレがマスク役をやりたがったが、任せたらお笑いマスクにされかねない。マスク役はソワに頼んでいる。

 オレの名乗りが終わったので、
「ジャスティス戦隊参上!」
 全員で決めポーズをとった。演出用に事前に置いておいた四色花火が、オレらのバックでばっちりのタイミングで爆発する。


「おのれ、ジャスティス戦隊め」
 名乗りが終わるまで待っててくれた、アベンジャーさんとその配下の怪人。
 待ってましたとばかりに戦闘をしかけてくる。

「アウラさん、サブレ、グラキエス様、エクレール、ソワ」
 オレは五体の精霊に指示を与えた。
 アウラさんは障壁役、サブレはオレと同化、ソワはいざって時の回復役、残りのメンバーはアタッカーだ。精霊を使役するオレは、わりと強い。味方も守れる。雑魚クラスはあっという間に蹴散らせる。

「ナイスだわ、ブラック!」
 リーダーが誉めてくれる。仮面が黒いので、オレはブラック役に決めたらしい。

 怪人を倒したオレを、アベンジャー ノリコがキッ! と睨む。
 野牛の角の飾りのついた兜、背にはマント、肩や腕や脚にはメカメカしいプロテクター、膝上までのロングブーツ。
 悪の女幹部は、胸元が深く開いた黒のボディースーツ姿。V字に開いたそこからは、大きな山の谷間はもちろん、おへそまで見えている。エッチだ。
「この恩知らずの最低男め! 約束を破ったばかりか、邪魔ばかりしおって……貴様など、マサタ=カーンなみのクズだ!」
 魔王戦の後、マサタ=カーンさんの世界に案内すると……オレはノリコに約束させられていた。はっきりとおっけぇしたわけじゃないが、一応そういう事になっていた。
「すみません、アベンジャーさん。でも、わざとじゃないんです。この前も、説明しましたよね? オレはもう異世界へ跳ぶ力を失ってしまったんです。自分の生まれ故郷にすら、還る(すべ)が無いんです」
「問答無用!」
 カーンさんの(もと)カノが、アベンジャー・ミサイルを発射してくる。が、アウラさんの風の結界があるから、オレも仲間もノー・ダメだった。
 女幹部が、悔しそうに歯をキリキリと鳴らす。

「覚えていろ、勇者ジャンめ! 次に会う時が、貴様の最期だ!」
 さんざんオレを罵倒してから、NEOワルイーゾの女幹部は退場していった。

「おつかれー」
 お花の国のプリンセス、アイリちゃんが甘えるようにオレの腕をとる。
「このあと、暇〜? 闇妖精探し、手伝ってくれないッ?」
 ナニな格好だけどラブリー。魔法少女に、オレは頷きを返した。

 精霊支配者のオレは、重宝されている。
 精霊は、移動魔法が使える。人間とは全く異なる方法で探索活動ができる。いざとなったら、姿も消せる。
 戦闘・探索・隠密活動・防御・怪我人治療。何でもござれなのだ。

 リーダーのミドリさんも、臨時メンバーのアイリちゃん、ゴールドさん、ユリカさん、索敵担当のシルバーも、みな、良い人だ。仲良くやってる。

 正義の味方は、ガキの頃の憧れの仕事(ジョブ)なわけだし。

 今の生活に不満はない。

 不満などあるはずもないんだが……





「なるほど。還りたいのだな」
 突然かけられた声に、ハッとした。

 童顔だけど濃い化粧の人が、オレの顔を覗きこんでいる。
 ハッとした。
 アベンジャー ノリコだ!

 戦闘態勢を取ろうとした。が、できなかった。
 オレは硬いベッドの上に転がされ、大の字型に手足を拘束されて繋がれていた。
 頭に違和感がある。帽子型の変な機械をはめられているのだ。

「アウラさん、サブレ、グラキエス様、エクレール、ソワ!」
 精霊達を呼んだ。が、現れない。答えすら返してくれない。

「無駄だ。貴様のしもべは来ない」
 黒革の手袋で覆われた指が示した先を見た。頭はほとんど動かせない。が、かろうじてそれは見えた。
 半透明なカプセルがあり、オレの剣やサークレットや装身具が内に収納されている、精霊達との契約の証も、カプセルの中だ。
「貴様が眠っている間に外させてもらった。アレは、私の発明品『アベンジャー・保護カプセル』。外界からの刺激を全て遮断し、内側のモノを保護する。中には声も届かん。契約の証に声が届かねば、しもべ達には命令できんだろ?」
 カーンさんの(もと)カノだけあって、精霊との契約について正しい知識があるようだ。

「オレに何をした……?」

「まだ何も。街でふらふらしていた貴様を見かけたので、『アベンジャー・睡眠ガス』で眠らせて誘拐し、私の改造ルームに運び込んだだけだ」

 改造?

 オレは慌てて起き上ろうとした。が、頭と手足が拘束されているので、まったく動けない。
「怪人に改造する気か?」
「いいや」
 悪の女幹部が、かぶりを振る。

「約束を破る最低男なぞ、怪人にせん」
 む?
「人類皆怪人……人間よりも長寿、剛健、有能、美麗、芸術的な怪人に改造してやるのは祝福なのだ。おまえなぞ、絶対に怪人に加えてやらん」
 そうと聞いて安心したんだが……
「貴様の体内に爆弾を埋め込む予定だった」
 へ?
「ジャスティス戦隊のアジトで、爆発してもらおうと思ってな」
 ちょっ!

「だが、気が変わった」
 ノリコの大きな瞳が、ジッとオレを見つめる。
「睡眠ガスの副作用で、目覚めかけている間、ベラベラと口が軽くなる。こちらから話しかければ、何でも答える。まあ、自白剤を投与された状態に近い。おまえはいろんな事を語ってくれた。マサタ=カーンとの関係も、この世界に流された事情も、無念の思いも……」
 オレを見つめるノリコの顔には、怒り以外の感情があった。

「故郷に還りたいのだろ?」
「還りたい」
 オレは正直に答えた。

「だが、還れぬと思っているな?」
「ああ……」
 オレは正直に答えた。

「カーンさんの故郷の英雄世界と裏英雄世界は、時間が同期している。何の障害もなく、カーンさんは両世界を行き来できる。けれども、オレの世界は……」
 オレは顔をしかめた。睡眠ガスの副作用だろうか、胸の内を隠そうという気にすらならない。
「時の流れが違う。オレ達の世界で千八百年の時が流れても、こっちでは十数年しか経たない。オレがこっちに来て一カ月以上が経った……あっちではもう何十年? 何百年の時が流れたはず……」

 以前の滞在では、時間は同期していた。しかし、あの時、オレは勇者世界の人間だった。この世界の創造神の持ちモノとなった今では、事情が違う。時間同期の恩恵があるとは思えない。

 ティーナがアナムと出会えない理由も、それだと思う。主人がそれぞれ別の時間に囚われたせいで、二体の精霊は違う時を生きているのだ……

 ジョゼもサラもみんなも、もう亡くなっている気がする。

 お師匠様は?
 まだ不老不死の賢者のままか?
 それとも、オレの後輩勇者によって、時の檻から解放されたのか? ただの人間に戻って、子供を産み、育て、年老いて亡くなったのだろうか?

「誰一人知人が居なくても、還りたいか?」
「還りたい……」
 考える前に、思いが口にのぼっていた。
「あの世界で生きて……死にたい」

「還ろうとすれば死ぬかもしれん。それでも、還りたいか?」
「ああ……」
 オレは瞼を閉じた。故郷のみんなが心に浮かんだ……
「還りたい……」

「ならば、死なせてやろう」
 頭と手足が楽になる。拘束が解けたのだ。
 リモコンを放り捨て、悪の組織の女幹部がバサーッとマントを翻して歩き出す。
「ついて来い、勇者。私の発明品を見せてやる」



 案内されたのは大型武器の格納庫。悪の組織らしいデザインの大砲やら乗り物に混じってそれがあるのは、何とも珍奇だった。

 オレの目の前にあるのは……
 一言で言うのなら、門だ。
 デザインはシンプルで、二本の柱の上に水平に二本の棒を渡しているだけ。金属製だ。
「先に断っておく、これは失敗作だ」
 そう前置きした上で、悪の女幹部は言った。
「『アベンジャー・鳥居』。これをくぐった者に則し、異世界を同位化する装置だ。構成物質・精神・記憶等からその者の所属世界を予測し、最も確率の高い世界へ転送する。平行世界を繋ぐ転送装置と思ってくれていい」
 む?
 オレが理解してないとわかったのだろう、ノリコは簡単な言葉に説明を切り替えた。

「これをくぐれば、貴様は故郷へ還れるかもしれん」

 え?

「だが、還れんかもしれん。この機械はあらゆる情報からおまえの故郷を予想し、最も確率の高い世界に送るだけ。水の精霊と共におまえの体の一部がある勇者世界に送られる確率が高いと推測できるが……故郷ではない別世界に転送される可能性も否定できない」

 オレは(そび)える門を見上げた。

「しかも、一方通行だ。送るはいいが、引き取る事はできん。これをくぐってしまえば、おまえはもうこの世界に還る事すらできなくなる」

「でも、異世界に送る事はできるんですね?」
 ノリコが頷く。
「発信機を装備させ、有人・無人実験を繰り返した。目的世界への転移は確認できている。しかし、音声はおろかそれ以外の全ての情報が全く受信できん。どのような形で異世界に送られているのかわからん」
 ノリコの口元に、フッと笑みが浮かぶ。
「転送者は、異世界転移の衝撃で死亡しているかもしれん。無事かどうかすら、こちらからはわからんのだ」

 オレは拳をにぎりしめた。
 体が震えている……

「『アベンジャー・鳥居』は失敗作なのだ」
 同じ言葉を繰り返し、悪の女幹部が冷たく微笑む。それでも使うか? と。

 ジャスティス戦隊のみんなを、思い出した。
 ミドリさん、アイリちゃん、ユリカさん、ゴールドさん、シルバー、マサタ=カーンさん。
 オレをあたたかく迎えてくれた正義の味方達。
 みんなには感謝している。

 しかし……

「この機会(チャンス)を捨てて生きても、後悔するだけだ。還れる可能性が1%でもあるのなら、それに賭けたい。『アベンジャー・鳥居』を貸してくれ」

 悪の女幹部が笑う。
 お化粧が濃すぎる顔なんでちょっと不似合いだが、にっこりと……とても可愛らしく微笑んだのだ。
「よく言った。それでこそ男だ」

 天井から、小型エレベーターのようなものが降りて来る。『アベンジャー・保護カプセル』がのっかっている。オレの手前でカプセルがカパッと音をたてて開く。
「危険な旅となる。装備は整えろ」
 勇者の剣や精霊との契約の証を返した上で、これもあれも持って行けとノリコが保護フィールドやら医療キットなどをポンポン渡してくれる。

「どうして、ここまでしてくれるんです?」
 ジャスティス戦隊の一員だったオレは敵なのに。

「『アベンジャー・鳥居』を使いたくないとごねたら、当初の予定通り人間爆弾にするつもりだった」
 う。
「だが、貴様は還ると言った。死の危険があろうとも、誰一人知人が居なくても、還りたいと」
 ノリコが笑う。とても楽しそうに。
「馬鹿は嫌いではない。だから、助ける。それだけだ」

 カーンさんを殺そうと逆上している姿しか知らなかったが……
 カーンさんがこの女性(ヒト)が好きな理由がわかったような。
 童顔で巨乳ってだけじゃない。いかしている。魅力的だ。それに……優しい女性だ。

 オレのハートはキュンキュンと鳴った……

「無事、所属世界に還れたら、現賢者とやらに頼んで礼に来い。魔王戦での約束通り、私をマサタ=カーンの世界に送れ。二、三時間、長くとも半日はかからん用事なのだ。それぐらいは、賢者を働かせろ」


 ティーナも精霊界から呼び戻し、相談した。
 たぶん、危険な転移となる。オレを庇おうとすれば、全員四散するかもしれない。望むなら、今、契約を解除すると。
《馬鹿なこと聞かないで。いっしょに行くに決まってるでしょ? アナムがどうなったか、わたしだって知りたいの》
《おにーさんを守って四散しても、あたしたちは時が経てば復活する。精霊界に還れるわけ。気にしなくていいわよぉん〜》
《私はご主人様の奴隷ですから……いかなる時もお側に……》
《あたしも、行きたい。ニーナのお墓にいっしょに行こうって約束したよね、ジャン?》
《いくいく〜 ここで別れたら、キミの行く末が気になってやきもきしちゃうもん。それに、ルネがどんだけ有名になったか、あっちで知りたいんだ〜》
(わたくし)、迷子の犬を見捨てるほど無慈悲ではありませんことよ》
 胸がいっぱいになった。
 精霊達に、深く感謝した……


 機械を起動しながら、ノリコが尋ねてきた。
「勇者は魔王を倒すと神から褒美がもらえると、さっきおまえは言った。一つ目は魔王であった人間を救う為に使ったそうだが、二つ目はどうした?」

 そんな事まで、オレはしゃべったのか。
 苦笑いが漏れた。
「二つ目は……」

 オレが答えると、ノリコは目を丸めた。
「そんな事を頼んだのか……」
 馬鹿だなと言いかけた言葉を飲み込み、ノリコはオレへと微笑みかけた。

「準備は整った。鳥居をくぐれ。行くべき世界へ行けるだろう」

 門の内側が、プワンと光り出す。
 上部から床にかけて、光のシャワーが流れている……そんな感じだ。

 オレは、ゆっくりと『アベンジャー・鳥居』を目指した。


 女神様には、お師匠様を早く勇退させて欲しいと頼んだ。
 賢者を継ぐ気まんまんの奴を次の勇者に認定し、そいつがちゅど〜んしちゃったらその次も賢者になりたい奴にして……
 可能な限り早く引退できるようにしてくれ……

 そう頼んだのだ。

 勇者世界と裏英雄世界の時間のズレは、承知していた。

 だが、オレが裏英雄世界に流されたせいで、お師匠様は賢者をやめられなくなった。
 少しでも早く引退して、幸せになって欲しかったのだ。


 あっちで何百年も時が流れてしまったのなら、賢者はお師匠様ではない。オレの後輩の誰かだろう……


 鳥居をくぐると、全てがぼやけだした。
 目に見えるものも、耳に聞こえるものも。
 転送の光に包まれたようだ。


「所属世界に還れる事を祈ってやる。さらばだ、勇者よ」

 最後に耳にしたのは、悪の女幹部の声だった……







【勇者ジャスティス アベンジャーのりこEND 完】

+ + + + + + + + 

 裏英雄世界ENDは、
 1.アイリとラブコメ!
 2.マサタ=カーンへのみどりの愛のディープさにちょっとタジタジ。
 3.五十嵐ひとみちゃんのジャスティス戦隊一日入隊記。
 4.皇ゆりかというかあのお方とのデート。
 5.ログイン人数激減で暇になったゲームマスターのもくろみ。
 などもあったのですが、結局、ダークなエンディングを書いてしまいました。

 お師匠様もジョゼもサラもいないであろう世界に、命をかけて還る……描きたかったエンディングの一つです。エンディング編のしょっぱなから暗い話で、すみませんでした。
 勇者世界に行き着ければ、マーイが迎えてくれ、ジャンが消えた後のことを語ってくれるでしょう。

+ + + + + + + + 

 次回は、裏ジパング界に流されての話。明るい話です。
 8月2日(金)更新予定です。
+注意+
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