挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ハーレム100 作者:松宮星

さらば愛しき世界よ

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

196/224

何でも答えちゃおうコーナー

《勇者と魔王の戦いはゲームだと知って、このまえ、キミは怒ったよね〜 勇者と仲間達が命がけで戦ってるのを、娯楽で鑑賞してるのかって》
 女神様が、オレに顔を近づける。お師匠様そっくりの美貌が、アップで迫って来る。
《誤解、誤解〜 遊びじゃないわぁ。この世界の女神として、真剣に勇者と魔王の戦いを司ってきたのよぉ〜》
 そのすみれ色の瞳が、オレを映す。
《信じてくれる〜?》

 気持ちのままに答えた。
「そうであって欲しい……と思います。でなきゃ、魔王戦で亡くなった勇者や仲間達が浮かばれない」

《やっぱ、キミはいい子だねえ、ジャン君》
 少しオレから離れ、女神様が両手を広げる。

 急に周りが明るくなった。
 闇の世界が一変したのだ。

 オレの周囲、あっちこっちに映像が浮かんでいる。
 右にも左にも、後ろにも前にも、頭上にも足元にも。
 マドカさん家のテレビぐらいの画面が、いっぱいあるのだ。

 十や二十じゃない。

 幾つあるんだ?

 その画像の一つに目がとまった。
 オレが居る。
 ガキの頃のオレだ。
 裏庭だ……
 オレん家の裏庭じゃないか!
 ガキのオレが、サラと虫とりをしている。三つ編みのおさげ髪のサラがやけに可愛い。こぼれそうなほど大きな緑の瞳、ふっくらした頬、活発な笑み。ものすごい美少女だ。裾の短いアンダードレスも、よく似合っている。
 ジョゼも居る。木のブランコで遊んでる。オレの昔の服を着たジョゼは、髪の毛が短いから男の子みたいだ。ジョゼがほわっと微笑んでいる。楽しそうにブランコをこいでいる。

 陰が差す。
 ガキのオレが顔をあげる。何かを見上げるかのように。

『顔を見せてくれないか?』
 しっとりとした、やわらかな声がした。

 こ、こ、この声は!

 お師匠様!

 オレは画面にへばりついた。さらって感じに白銀の髪が、画面にこぼれてくる。
 白銀の髪が、ガキのオレの頬を撫でる。
 ちょっぴりくすぐったそうな表情をしたものの、ガキのオレは目をこらしている。すぐ側に迫ってきた女性から、目がそらせないのだ。

 これは……オレがお師匠様と初めて会った日の映像だ。

 慌てて、周囲を見渡した。

 子供の画像が多い。赤ん坊も居る。男の子も女の子も居て、中には異世界の格好の子も……この世界に迷い込んで還れなくなった子なのだろう。
 大人も居る。この世界に馴染まぬ格好をしている。エスエフ界、英雄世界、ジパング界……どの世界の衣装かわかる者もあれば、見た事もない奇抜な格好をしている者も居る。

《賢者の目を通してみた、勇者との出逢いのシーン〜 よ〜く見て。百人分あるぞ〜》
 え?
《初代勇者だけは、導く賢者がいなかったからねー 二代目から百一代目のキミまでの百人分だ。おっけぇ?》
 百人分?
 て、ことは!

 オレは、目を皿のようにして辺りを見回した。
 必死に見まわし……
 そして、見つけた。
 つーか、過去のオレの映像のすぐそばに、その映像はあった。

 画面の中に、楽しそうに笑う美幼女が居る。フワフワなレースのドレスにリボン、お人形を抱っこしている。
 すみれ色の愛らしい瞳。白銀の髪。
 面影がある!
 間違いない! お師匠様だ!
 あああああ、可愛い! 可愛い! 可愛い!

 オレのハートはキュンキュンキュンキュンと鳴った! 鳴り響いた!

『シルヴィ』と声をかけられて、女の子がニコーと笑って『はーい』とお返事をする。声まで可愛い!
 なるほど、わかったぞ。
 一つの画面に注目すると、映像に合った音声まで聞こえるんだな!

 ごつごつした大きな手が、ちっちゃなお師匠様を抱き抱える。
 お師匠様は、きょとんとした顔だ。
『だぁれ?』
『おまえの師だ。迎えに来たぞ、シルヴィよ。おまえは世界を救う勇者なのだ』

 画面が暗転し、別の映像に切り替わった。
 ドキッとした。
 ちっちゃなお師匠様が泣いている。顔中をしかめ、ポロポロと涙をこぼし、お口も大きく開けて、体中を震わせて、大泣きしている。
 衣装が違う。ふわふわのドレスじゃない。シャツにズボン。男の子みたいな格好だ。
 周囲も違う。何処だかわかる……賢者の館のホールだ。
 泣き続けるお師匠様。疲れた顔となっても、涙は止まらない。顔を赤く染めて、泣いている。
 何故、この視界の主は何もしない? 優しい言葉をかけないし、抱きしめもしない。こんなちっちゃな子が泣いているのに、放っておくなんてひどい。ただ見てるだけなんて……

《この頃にはもう、ピエリック君は心の病にかかっていたんだよ。賢者である事にも生き続ける事にも、疲れきってしまってね。シルヴィちゃんにとっては良い教育係ではなかったけれど、あまり責めないでやって欲しい。ほんとうは優しいいい子だったんだよ、ピエリック君も》

 ポンと肩を叩かれる。振り返ると、笑顔の女神様が居た。
《シルヴィちゃんが大好きなのは、よぉ〜く知っている。でも、他の子も見たげなよ。英雄世界からの転移者は、魔王と同時の転移だ。みんな、クライマックスまでたったの百日なんだ。おっけぇ?》


 神様が掌で指した先には、魔王の玉座の広間が映った映像が……ひぃ、ふぅ、みぃ……十五あって……

 お! ユナ先輩! 右の一番下にユナ先輩が居るぞ! 女学生スタイルじゃなくって、魔術師っぽい衣装を着て杖を持っている。言霊効果をあげる為だな。言霊で魔王と戦うユナ先輩を、仲間達が守っている。戦士と格闘家、僧侶に魔術師に学者だ。 

 あ、終わった。左上の勇者、もう魔王を倒してら。黒の学生服姿。学ランだ。その右手にあったまばゆく輝く光の剣が、一瞬で消える。精神波で作ってたっぽい。
《七代目勇者、山田神聖騎士(ホーリーナイト)くん。魔王討伐までの時間は、歴代最短〜 次点は三十九代目勇者カガミ マサタカくん〜 精霊ハーレムを持っていたあの子も早かった〜》
 へー
 この人が、七代目か。英雄世界から最初に転移して来た。
 PTメンバー、女ばっかだな。まあ、オレもそうなんだけど。キャーキャー歓声をあげて、女の子達が勇者に群がる。
 勇者が、キラッと歯を輝かせて爽やかに笑う。嫌になるくらい、二枚目。
 ん?
 この笑顔……どっかで見た事があるような?

 PTメンバーどころか、勇者まで美女な映像もある。三十三代目か。フリルエプロン装着勇者の。三十三代目、綺麗でかわいいなあ。若奥様なんだよな。

 剣や格闘で戦うオーソドックスな勇者も居れば、変わり種も居る。
 落書きを実体化させて戦わせているのは、四十九代目だ。ネコ耳っ娘や巫女やメイドばっかだ。絵が下手なのが、残念だが。
 魔王の腹に右の掌をずっとあてているのは、たぶん、癒しの手を持っていた十一代目。仲間が魔王を呪詛で拘束し、魔法障壁を張って勇者を守っている。

《……そろそろだね》
 女神様が指さした映像には、逞しい背中を見せる男が居た。
 格闘家なのだろう、防具はつけていない。てか、上半身が裸。わりと細身だけど、鍛えあげた肉体をアピールするかのように服を着ていない。下も半ズボンと靴だけだし。
《最後の大一番は自分のスタイルでいきたいって、あの格好をしたんだ。学者のイヴォンヌちゃんは『下品ですし、危険です。服と防具をつけて下さい』って猛反対したんだけどね……英雄世界のボクサーだったんだよ》
『おっちゃん、アキちゃん、ごめん! 俺、還れねえや! けど、許してくれ! ここで勝負を投げたら、俺の男がすたるってもんだ!』
 上半身裸の男が振り返る。若い。オレとおない年ぐらいだ。両手に包帯のような細長い布を巻いた男が、明るい笑みをみせて手を大きく振る。
『お師匠さまー レオン、サシャ、リュリュ、サンキューな! イヴォンヌちゃん、愛してるよー!』
 男が魔王へと向き直る。
『爆裂エイジ、これが最後の爆裂だ! さらば、愛しき世界よ!』

『さらば、愛しき世界よ!』
『さらば、愛しき』
『さらば』

 次々と、勇者達が究極魔法を唱える。癒しの手を使っていた十一代目も……。

 自分じゃ唱える度胸がないと、賢者に願って究極魔法を唱えてもらっているおっさんも居た。
『……この世界の礎となってくれ、勇者よ』
 賢者の声。つらそうなこの声は……お師匠様の師ピエリックか。

 燃える炎の塊となった勇者が魔王へと激突し、魔王ともども散ってゆく……

《英雄世界から転移した勇者は、十五人。そのうちの六人が、究極魔法で亡くなっている》

 女神様が、そっとオレの頬をぬぐう。
 気づかぬ間に、オレは……
 涙を流していたようだ。

 勇者と魔王が究極魔法で相討ちとなり、魔王城は消える。
 勇者を称える仲間も居れば、
『エイジ様……』と号泣し、その死を悼む者も居る。
 泣いているのは、『イヴォンヌちゃん』だ。
『やべえよ。アキちゃんより好きになっちまったかも……。駄目だ、駄目だ、駄目だ! 俺ぁ、もとの世界に還れたらアキちゃんにプロポーズすんだ! 男はこうと決めたことをひるがえさねえ! 男がすたる! けど……ああああ、イヴォンヌちゃん!』と、バクレツ エイジが『勇者の書』に書き残してた。
 バクレツ エイジは五十一代目だ。喧嘩っぱやくって、とことん軽くて、馬鹿で前向き。二十八・二十九代目の兄弟勇者とならんで、オレの好きな勇者だ。究極魔法で亡くなっていたのか……


 英雄世界の勇者達の映像が、全て消える。 
 それでも、まだ八十以上の映像がある。
 賢者に育てられる小さな子供、戦闘訓練をしている少年少女に大人。
 泣き、笑い、戸惑い、怒り、賢者と議論を戦わせ……勇者達が成長してゆく。

 ほとんどの勇者達は、賢者の館に居る。
 だが、中には見知らぬ部屋に居る者も居る。それどころか、草原で修行している子まで……
 賢者の館外で教育された勇者も居るのか?

 ガキの頃のオレが、バカみたいに笑っている。大好きなお師匠様に誉めてもらいたくて、いっしょうけんめいに剣術の稽古をしている。

 勇者時代のお師匠様の映像は……表情がなくなってきている。転んでも泣かないし、かわいい笑顔を浮かべることもない。賢者から与えられた課題を、淡々とこなしている。

 ちらほらと……賢者の館から外に出る勇者の映像が混じる。
 魔王が現れたのだ。
 勇者が十五才を過ぎてから老衰で死ぬまでの間に、世界に魔王が現れる。何歳で魔王戦となるかは、勇者ごとに異なるのだ。

 託宣を叶えるべく、仲間を増やし、旅を続ける勇者達。
 そして、魔王との決戦。

 究極魔法を唱える勇者は、思ったよりも多い。

「究極魔法で亡くなった勇者は、どれぐらい居るんですか?」
《四十二人》
「そんなに?」
 勇者は、オレを含め百一人。半分近くが、あの魔法で亡くなっているのか。
 この世界出身の勇者は二十九人しか居ないし、お師匠様のように生き延びている者も居る。けっこうな数の異世界人がこの世界を守って死んだわけだ。

「……よその世界の勇者は、なんで命を張ってくれたんでしょう?」
 五十一代目の、『イヴォンヌちゃん、愛してるよー!』って声が蘇る。生まれた世界同様、皆、オレ達の世界を愛してくれたのだろうか?

《正義を愛する子ばかりだったし……他人事じゃなかったからね》
 ん?
「どういう意味です?」

《この世界が魔王に滅ぼされたら、次のゲームの舞台はキミの所属世界になるよって……転移勇者達にはルールを教えてきたのさ》
「え?」
《この世界であれ何処であれ、勇者と魔王の戦い(ゲーム)は続く。これからも、おそらく……永久に……》 
 女神様が両手をかざす。

 勇者達の映像は消え、ゾッとするような光景が広がった。
 闇の中に、恐ろしい映像が浮かび上がっている。

 地震、地割れ、干ばつ、大津波、大洪水、噴火、猛吹雪、巨大隕石の落下、異常重力……
 なす術もなく死にゆく生き物たち。
 壊れゆく世界。

《ちょっとだけ、神の目を貸してあげよう。よく見てごらん》
 大災害が起きている世界で、何かが激しく動く。
 巨大で大きなものがぶつかり合い、互いを呑みこもうとしている。
 白くまばゆく輝く光と、暗く深く淀む闇。
 光と闇は、混じり合う事はない。相容れぬ存在を消去しようと荒ぶり、両者の戦いが天変地異を呼んでいるのだ。

《神魔の戦い。最後の戦い、最終戦争、終末の日、末世……呼び方はいろいろあるけど、まあ、ぶっちゃけ、神族と魔族の喧嘩〜 ぶち切れちゃった神魔が争って滅ぼした世界は、それこそ星の数ほどある〜》

 激しい閃光に包まれる世界。
 粉々に砕ける世界。
 無音で闇に吸いこまれてゆく世界。

 終末の世界が、何百……いや、何千とある。

《馬鹿馬鹿しいだろ?》
 映像が消え、周囲は闇となる。女神様は、いつも通りのニコニコ笑顔だ。

《主神レベルの神魔がぶつかり合えば、多くの世界がいとも簡単に滅び去る。何億年もかけて創造したものが、一回の喧嘩でパーだよ。果てしない破壊の末に、ようやくね……両者は気づいたんだ。争いの効率が悪すぎるって。んで、主神レベルの実力者は自ら戦う事を諦めて、この世界を創ったわけ〜》

 ジャジャーンっと音楽が鳴り響いた。
《ゲームの始まりさー おっけぇ?》

 女神様が左右の手をあげる。
 右の手から、真っ青な空と白い雲の映像が生まれる。どこまでもどこまでも続く空。あたたかな日差し。鳥になって、空を飛んでいるような感じだ。眼下に、雪の積もった山々が連なり、その先には緑の絨毯が広がる。穀物畑が現れ、街道が走り、やがて大きな街が現れ、きらめく大海原が……
 左の手から、真っ黒な空に雷鳴が轟く映像が生まれる。荒野に、金属とも岩とも骨ともつかぬもので出来た真っ黒な魔王城がある。城壁の内にも地面すらなく、黒光りする不思議なものが、中央に向かって傾斜してゆき、山のように高く盛り上がって巨大な城を形作っているのだ。

《神魔間の不満が募った時、一触即発状態の時、或いは双方からの希望があった時、ゲームの実施が決まる。神魔が戦う代わりに、神の庇護の下に生まれた勇者と、魔族が見出した魔王を戦わせるってわけ。おっけぇ?》
 二つの映像がぶつかり、魔王城の玉座の間の映像となる。
 サークレットにマントに剣。いかにもな勇者が、黒い翼と角を生やした美形魔王と戦っている。

「神魔の激突を回避する為に、勇者と魔王の戦いを司ってきたんですか? 他世界からの要求に応えて?」
《そーそー イベント主催&勇者側セコンド〜 託宣の内容はさー ゲーム開始前にゲーム参加者全員と協議の上、決めてんの》
 へー
《勇者の性格や置かれてる状況を吟味して決める事もある〜 けど、だいたいはその場のノリ〜 『男の夢はハーレム』『百人は欲しいよね』『んじゃ、次は異性の仲間百人の勇者で』みたいな〜 多数決で決めてる〜》
 ノリかよ!
《女神の仕事は〜 他には〜 勇者の成長を見守り、時には賢者に助言すること〜 ゲームのルールに違反しない形で、冒険を助けること〜 でもって、生き残った勇者にご褒美をあげて、今後の身の振りを考えてもらうこと〜 賢者になるか他世界に転移して生きるか、決めてもらうわけ〜》
 それは知っている。
《あ〜 重要なのを忘れてた〜 勇者見習いを認定すること〜 自分の世界からよさげな子を選ぶこともあるけど〜 ゲーム参加者の世界から貰うこともある〜 弱っちすぎる子にチート技をあげるのも、この時〜 ケースバイケース》

「魔王は、魔族が決めるってさっき言ってましたよね? 魔王の誕生に関しては女神様はノー・タッチです?」

《あっちは、ブラック女神の担当〜》
「ブラック女神? 魔族ですか?」
《う〜ん……まあ、そう。だいたい合ってる〜》
 また、だいたいかよ。
《この世界を創造した時に、生まれた双子? みたいな〜 神聖な女神と対になる邪悪な存在〜 まあ、魂はつながっているから、あっちがやってることわかるし〜 向こうにも、こっちのことバレバレ〜 あっちも、今、ご褒美タイム〜》
 は?
《ブラック女神は、魔族が送って来た子に、邪悪パワーを与えて、魔王化を助けるわけー でもって、魔王戦の後、魔王をやった子にご褒美を与える係ー》

「魔王にご褒美?」
《勇者にご褒美。魔王にもご褒美。平等だろ?》
 女神様がニヤリと笑う。
《魔王をやってもらうんだ、ご褒美はあげなきゃ。汚れ役だもん。魔王勝利の目は、ほぼ無いんだからね》
 え?

 女神様がオレの顔をジーッと見つめる。
《キミさ、歴代勇者と魔王の戦いを神魔の代理戦争とでも思ってる? 勝敗で、互いの言い分を通してるとでも?》
「違うんですか?」
《ンなわけ、ないない。このゲームの勝敗には、ほとんど意味がないもん》
「意味がない……?」
《だってさー 勇者には最初から究極魔法がある。チート魔法だ。勇者ならば誰でも、労せずして魔王のHPを半減できる。それどころか、究極魔法は賢者まで使えるんだ。託宣だって実現不可能なものは与えてこなかったし〜 よっぽどのヘマをしない限り、勇者は魔王に負けない。出来レースなんだよ》

「出来レース……?」

 頭が真っ白になる。

 この世界を守ろうと、この百日、十二の世界を旅して来た。いざとなったら、究極魔法で死のうと覚悟して。

 なのに、勇者と魔王の戦いは、出来レースだって?

 究極魔法で逝った勇者達を思い出す。
 愛するものを、世界を、正義を、信念を守って逝った勇者達……
 勇者を守る為に亡くなった仲間……フォーサイス達。

 女神様がオレを嘲るように笑う。

 オレは……拳を握りしめた。

《この世界はゲーム盤さ。魔王にここを滅ぼされたら、新たな盤を用意しなきゃいけなくなる。いろいろ面倒なんで、勇者が勝ちやすく設定されている。一応、勝敗も賭け対象だけど、魔王勝利は101分の0だもんね。メインの賭けとして、成り立たないんだ》
「賭け?」
《さまざまなものが、賭けの対象となってて〜 内容によって、獲得ポイントが違うわけ〜 ゲットしたポイントの高い神魔から順に、自分の主張を通せるから〜 みんな、けっこう必死。ゲーム開始前に募集を締め切る賭けもあるんで、このまえキミにはチート技をあげらんなかったわけ〜 おっけぇ?》
「どんな事が賭けの対象になるんです?」
《ん〜 勇者が勝利するまでの時間、双方の最大ダメージ値、仲間の数や種族やジョブ、死亡する仲間の数、究極魔法を使うか否か、唱えるのは勇者か賢者か……このへんがパターンかな〜 それに、代ごとに特殊な賭けがくっつくわけ〜 キミの場合は、魔王戦開始直前締切で……》
 お師匠様そっくりな女神様が、笑う。お師匠様ならば絶対に浮かべない、意地の悪い表情で。

《百人の伴侶のうち、誰を本命とするか……てのがあったね》

 カーッと顔が熱を帯びた。

《キミが誰を選ぶかは、けっこう重要〜 なかなかの高配当だから〜 誰も本命にしないってのに賭けてる神も居る。死亡した場合も、そうだからね〜 キミが全員を振っても、当選者は出るわけ〜 おっけぇ?》
 へらへらと女神様が笑う。

 死霊王ベティさんの言葉を思い出した。
《闇雲に神を信奉するなんざ、ただのマヌケさ。気まぐれで利己主義で残酷なのは、神も魔と一緒だ。神は、あんたら人間の為には生きない。自分の為に世界をつくり、自分の為にあんたに魔王を討伐させようとしているのさ》
『女神を信用するな』
 マサタ=カーンさんの声も蘇る。

《不満そうな顔だねえ、ジャン君。けど、キミだって神魔の最終戦争なんか望まないだろ? それとも、賭けをやめて欲しい? ま、滅びるったって余所の世界だもんねー 星々がいっぺんに百も千も消えても、キミは痛くもかゆくもないものねー その方がいい?》
 女神様が笑う。
《そうそう、教えてあげよう。キミのライバルの金子あきのり君が、何を願って魔王となったか。……皆殺しだよ。『俺を馬鹿にした奴等を、みんな殺してくれ。学校中の馬鹿どもと、詩織とヴェラだ。ズタズタに引き裂いて、ぶっ殺してくれ・・』。そー言ってた。そうだねぇ、ざっと三百人ぐらい殺せばいいのかな? 星々の消滅に比べれば、無いも同然の被害。平和的解決だ》
 まるで魔族のような冷酷な顔で、女神様が笑う。
《魔王役をこなしたご褒美は、あげなきゃいけない。闇に堕ちた子の歪んだ願いを、ブラック女神は聞き届ける。どんな願いでも、たった一つだけ魔王戦の後に叶えるのさ。おっけぇ?》
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ