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ハーレム100 作者:松宮星

さらば愛しき世界よ

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勇者として

 呼ばれたような気がした……

 懐かしい、優しい声に。

 声に惹かれるまま、顔をあげる。
 何もない。
 誰もいない。
 周囲は真っ暗だった。

 オレは一人、闇の中にたたずんでいた。
 オレの内にいたはずの、サブレの気配もない。引き剥がされたのか。

 そんな馬鹿な、と思う。

 魔王戦のクライマックスだったはず。
 魔王カネコ アキノリの一部になっていたヴェラを最後の仲間に加えて……
 百人目達成おめでとーってな、女神様の声を聞いて……
 それから、オレは勇者として……

 勇者として……

「………」

 何かした……?

 思い出せない。

 む?

 光が差す。
 闇を祓う、あたたかで、清らかな光。

 光の中に、美しい女性が居た。
 いや、その人こそが光なのだ。
 月光のように、清かに淡く輝いている。

 息をのんだ。

 さらさらと流れる月光の輝きのような髪、髪と同じ色のローブ。
 一見、冷ややかな美貌と見える。整いすぎている顔に、表情が無いからだ。
 けれども、オレは知っている。
 大切な人(フォーサイス)を失ってしまった為に、気持ちを外に出せなくなっただけで……本当は豊かな感情を持った心優しい女性なんだって。

 そのすみれ色の瞳が、オレを見つめる。

 我、知らず、オレは走り出していた。

「お師匠様!」
 何よりも大切な女性(ヒト)を目指して。

 お師匠様が瞳を細め、口元をかすかに開く。どんな時も、お師匠様はほとんど顔の筋肉を動かさない。悲しくても嬉しくても、無表情なのだ。
 だけど、あの顔は……
 喜んでいる時の顔だ!
 オレにはわかる! 十年間、一緒に暮らしたんだ! お師匠様の微妙な表情の違いを読み取れる!

 微笑んでいるかのようなその顔は……
 オレの目の前で……
 壊れた。
 跡形もなく、無残に……

 がくっと、体から力が抜けた。

 それが、笑う。
 明るく、軽く、脳天気に。
 顔中をきゃぴりんとさせて。
 でもって、手に持ったクラッカーをパーンっと破裂させたのだ。

《おめでとぉぉぉ! ついにやったね、ジャン君! キミはやればできる子だと、信じていたわよぉ》
 パンパカパ〜ンとファンファーレが鳴り響き、何処からともなく紙吹雪が舞って来た。

 お師匠様かと思ったのに……きゃぴりん女神だったとは……

 オレのときめきを返せ……

 お師匠様の姿をしたきゃぴりんが、明るい子供じみたニコニコ顔で、おめでとーっとオレを叩きまくる。幻じゃなく実体があるみたいだ。バンバン! と、叩かれると、ちょっと痛い。

 てか……
「あんた、何しに来たんです?」
 魔王戦のクライマックスだったのに。ンな異空間に、オレを呼んで。

《もっちろん、お待ちかねの、お約束のアレの為!》
 ヒュ〜ドンドンドンと笛太鼓の音がし、パフパフってラッパの音までする。
《ゲーム・クリアーのご褒美! 女神の何でも答えちゃおう&叶えちゃおうコーナー開催〜 質問回数、無制限! 心ゆくまでなんでも質問していいわよぉ〜 おっけぇ?》
 拍手喝采まで聞こえる。演出音、凝り過ぎ。

「まだ魔王戦が終わってないのに、ご褒美がもらえるんですか?」
 オレの問いに、女神様がきょとんと目を丸める。

《ジャン君、魔王を倒したじゃん》

 へ?

 いつ?

 お師匠様の姿のものが、顔を近づけて来る。中身はアレでも、顔はとても綺麗だ。

《……ふーむ。どうやら、記憶の一部がぶっとんじゃったみたいね。死んだショックで》

「死んだんですか……オレ」

 そうか……

 まあ、当然か。

 魔王のHPは900万と……
 900万と幾つだっけ。
 今まであいつのHPは、その都度、勇者(アイ)で見てたから覚えてねーや。900万と6000ぐらい、あったよな。
 ヴェラとオレの二人で残りHPを削るとなると、どうしたってなあ……究極魔法に頼るしかないわけで。

 笑みが漏れた。

『さらば、愛しき世界よ』

 お師匠様。
 ジョゼ。
 サラ。

 それに、みんなの顔が心に浮かんだ。
 ダメダメな勇者を支えてくれた仲間達。
 マリーちゃん。
 セリア。
 イザベルさん。
 アナベラとリーズ。
 パメラさんとカトリーヌ。
 あとルネさん。

 ニーナは、もう逝ったのだろうか。

 皆が愛しい……

 オレは勇者として、世界を守る礎になったんだ。
 皆が幸せに笑って暮らせる世界が残せたのなら、いい。
 満足だ。

 けど、オレがちゅど〜んしたなら、精霊達は……マーイさんとサブレを除き、精霊界に強制送還されたろう。
 オレと同化していた土の精霊は、自爆魔法に巻き込まれ四散したはず。
 すまない……心の中で、サブレに謝った。

「オレ、笑って逝きました?」

《うん。笑えた》
 む?
 会話が噛み合ってない。

「何があったんです……?」

 キャピリン女神が、満面の笑顔で笑う。
《何でも答えちゃお〜 コーナー。その1。ジャン君の死にざま〜 キミの疑問を解消する為に、ちょっぴり時間をプレイバ〜ック!》


* * * * * *


 黒い闇の中に、映像が浮かび上がる。
 マドカさん()の大型テレビぐらいか。
《記憶の再現〜 ジャン君が見たとおりの映像だよ。おっけぇ?》
 オレが見聞きしたものが、再現されているようだ。



 玉座から立ち上がり、カネコが吠えている。
 巨大な口を開き、恐ろしげな牙とトカゲのような真っ赤な舌をのぞかせて。

 獣の声で、カネコが鳴く。

 ビリビリと空気が揺れる。

 長い爪が己の胸をかきむしろうとする。
 けれども、届かない。
 まばゆい輝きが、邪悪な爪を拒んでいるのだ。

 カネコの胸から上半身だけを現している女性が、白く美しく輝いている。
 どんどん輝きが明るくなってゆく。
 女性は笑っていた。寂しげだった顔に、満ち足りた穏やかな笑みが刻まれている。
 魔王の指の下になっているのに、顔が見える……? 同化していたサブレが精霊の視点で見せてくれたんだな。

 女性の唇が動く。
『ありがとう』。
 唇は、確かにそう言った。

 彼女は幸せそうに微笑み……

 強烈な光が、カネコの胸から広がった。
 神々しく厳かな光に、カネコは飲みこまれていった。

 何もかもが光に消え……

 そして、カネコは復活する。
 魔王は、変わらぬ姿で座っている。
 どんな攻撃をくらおうが、カネコの外見は変わらない。ドラゴンの炎で焼かれようが、粉々になろうが、浄化の光で祓われきろうが、傷ついた外見はたちどころに治る。玉座も壊れない。

 しかし、HPは減る。

 魔王の残りHPは……1だ。

 たったの1。

 魔王の内側から広がった浄化の光は、999万9999ダメージをカネコに与えた。

 魔王の残りHP以上の大ダメージ。
 けれども、HPを削りきれず、1だけが残った。
 伴侶100人と勇者1人。101人で魔王を倒すという、オレの託宣のせいだろう。

 思い出した。
 オレはあの時、ほんのちょっとだが心が軽くなった。

『女神を信用するな』
《闇雲に神を信奉するなんざ、ただのマヌケさ》
 マサタ=カーンさんやベティさんの言葉に、オレは揺れた。託宣を叶えなくても魔王を倒せるのかもしれない、と。
 そうだとしても……うまくいくかどうかを、この世界の未来を賭けて試すなど嫌だった。いざとなったら、究極魔法で死のう……そう思ってきた。
 だが、死ななくても良かったのに死ぬとなれば悔しい。ましてや、信頼できぬ神に踊らされての死だなんて……と。

 託宣通りでなければ魔王は倒せないとわかって、嬉しかった。
 胸の中でわだかまっていた疑問と女神様への不信が、ほんの少し溶けてゆくのを感じた。

 そして、魔王の残りHPは1……

 オレは究極魔法を唱えなくていいのだ……

 胸が熱くなり、鼻がツーンとした。
 嬉しくって、めちゃくちゃに叫んで走り回りたい気分だった。

 カネコの胸から上半身だけを見せているヴェラ。
 魔王の一部となりながらも、彼女は凛と顔をあげている。
 迷いのない瞳で、オレを真っ直ぐに見つめている。

 勇者のとどめを待っているのだ。

 オレは、ヴェラに頷きを返した。

 魔王『カネコ アキノリ』は倒す。
 しかし、憎しみでは殺さない。
 滅ぼそうなどとは思わない。
 救えると信じて戦う。
 そう決めたのだ。

 オレは、愛で戦う勇者なのだ。

「カネコ!」
 魔王となる前の男の名を叫び、走った。

 勇者の剣は抜かない。
 オレが伴侶の女性に誠実であれば相手も気持ちを返してくれ、その思いが剣の力となる。
 魔王の一部であるヴェラは、オレの伴侶となった。大切な伴侶に刃を向けてはいけない。裏冒険世界でリーズに刃を向けた時のように、剣に叱られてしまうだろう。

 剣ではなく、拳を使う。
 わかり合うには、それが一番だ。

 気分が高揚し、体がやけに軽かった。
 跳躍力が半端ない。
 楽々と魔王の膝の上に昇った。

 勇者の馬鹿力(ばかぢから)状態になっているんだ……そう気づいた。

「おまえ、馬鹿だろ?」
 オレはカネコを睨んだ。
「奴隷ハーレムとか、好きな子を無理やり同化しちまうとか、そんなの、本気で望んでるわけじゃないよな?」
 右の拳を握りしめた。
「オレがおまえの立場だったら、耐えられない……強大な力で他人を無理やり隷属させたって、むなしいだけだ。誰からも愛されず、憎まれ疎まれ恐れられるだけの魔王なんて、オレは嫌だ」
 腕を引く。
 タチバナ シオリさん。コズエさん。音楽の先生。
 英雄世界のカネコの縁者を、心に思い浮かべた。

「シオリさんは、本気でおまえを心配してた。幼馴染でもいいじゃないか! 嫌なら、変われ! おまえから歩み寄れ! 独りよがりな愛を押しつけるんじゃなく、シオリさんを喜ばせてやれよ!」
 跳躍した。
 予想よりも、高く飛びあがってしまった。勇者の馬鹿力でフィーバー状態になってるからか。
 頭のてっぺんや額も狙えそうだが、頬を殴るべきだ。
 腰をひねって体重をのせ、オレは落下しながらカネコの左の頬を狙い……

 思いっきり殴った。

 黒い毛が固い。肌に突き刺さる。だが、構わず拳を突き進めた。

「目を覚ませ、カネコっ!」

 1283ダメージ。

 剣じゃなく拳なのに、意外とダメが出た。

 フィーバー状態の恩恵だな。ヒーロースプレーもかけてるし。
 そう思った瞬間……

 ふわっと体が沈み……


* * * * * *


 オレの記憶を見ても、結局、何で死んだのかわかんなかった。

 文句を言ったら、女神様が別の人間の視点を見せてくれた。

 ちょっと引いた映像だ。
 この視界の主は、少し離れた位置からオレを見ているんだ。

 魔王へと一直線に走って行くオレ。
 背のマントがたなびく。
 カネコを怒鳴って、ジャンプして、拳をふるうオレ。
 勇者っぽいじゃん。
 格好いいぞ、オレ。

 しかし、オレが魔王をぶん殴った瞬間だった。
 唐突に、全てが消えてしまったのだ。
 魔王も、玉座も、魔王城も。
 フッと。
 霧が晴れるかのように。

 魔王カネコアキノリの残りHPが無くなったからだろう。
 オレに殴られた姿のまま、カネコは空に飲み込まれ、塵となって消え失せてしまったのだ。

 いきなりカネコが消えたもんだから、オレはバランスを崩した。
 思いっきりカネコを殴ってたから、体は前のめり。
 んで、顔から落っこって行って……

 ぐしゃ。

 落下死……?

『ジャン!』
『お兄さま!』
『勇者様!』
 あっちこっちから、悲鳴があがる。
 映像が揺らぐ。
 走っているのだ。この視界の主が、オレの元へと。

 オレがうつぶせに倒れているのは、魔王城の黒い床ではない。
 ごつごつとした地面。
 荒れた土と岩が何処までも続く寂しい場所。
 荒野だ。
 魔王の死と共に、魔王城の魔法も解けたのだ。

 視界の端、遠くに軍勢が見える。
 魔王城の周囲を固めていた王国軍だ。魔王城の消滅は、勇者の勝利の証。その勝利の報告を聞く為に、彼等も間もなく駆けつけて来るだろう。

 そして、見るのだ。
 魔王を倒した後に、落下死した勇者を。

「うわぁぁ……」
 オレは両手で顔を覆い、しゃがんだ。
 恥ずかしいやら、悔しいやら、情けないやらで、顔から火を噴きそうだ。

 二階よりちょっと高い所から落ちたようなもんだろ。
 それで死ぬとか……
 運が悪すぎる。

 あああああ。
 馬鹿、馬鹿、馬鹿。
 オレの馬鹿!

 残りHPは、たったの1だったのに!
 何処を殴っても、1ダメぐらい出せたろうに!

 顔を殴りに行って、落下死とか!
 馬鹿すぎ!
 てか、無駄死に!


 ほ〜んと馬鹿だよねぇと、女神様がお腹を抱えてキャハハと大笑いをする。
《勇者の馬鹿力になったせいでさー 土の精霊は、キミから弾きだされちゃったのー 防御力の高い土の精霊が憑依してたら、ノーダメだったのにねー いやいや、もう笑かしてくれたー 顔を殴りに行かなきゃねぇ》
 声はお師匠様にそっくりだが、実に耳障りだ……
《な〜んで、顔を殴りに行ったの〜?》
「……目を覚まして欲しかったからです。男と男は拳で語り合って、友情に目覚めるんですよ」
《魔王と友情ぉ?》
 女神様が大爆笑する。
 っくそぉ……

「……神様、質問です。今のオレは魂だけの存在なんですか?」
《ん〜 まあ、そんなもん。だいたい合ってる〜》
 だいたいかよ。

「……もひとつ、質問です。今、お師匠様の体を使って、オレと話してるんですか?」
《ンな、わけ、ない、ない。シルヴィちゃんは、石化中〜 あの体を使えるわけないじゃーん》
「……んじゃ、今のその姿は、何なんでしょう?」
《人と交わる為の、かりそめの器だよ。神霊専用憑依体。ぶっちゃけ、生きているお人形》
「……そのお人形が、なんでお師匠様そっくりなんです?」
《も・ち・ろ・ん、サービス》
 お師匠様のそっくりさんが、うっふ〜んって感じに腰をひねり、胸をつきだすようにポーズをとる。
《ご褒美タイムだもん。どうせなら、大好きなものと話したいでしょ? ほら、ほ〜ら、お師匠様だよ〜ん。会えて嬉しいだろ?》
 中身、あんたじゃん。

《この異空間には、女神とキミは二人っきり……。いいよ、ジャン君、少しなら、この体を好きにしても……。今はご褒美タイムだもんね。何をしても、許してあ・げ・る》
 神様がニヤニヤ笑っている。
 お師匠様の姿の者に不埒な真似などできるはずがないと、たかをくくっているのだ。

「……では、お言葉に甘えて」
《へ?》
 本気? って、女神様が目を丸め、両腕で自分の体を抱きしめる。
《ヘタレなキミが、この体に何をする気?》
「もちろん、ナニです」
 女神様に微笑みかけ、オレは歩み寄った。
 お師匠様そっくりの美貌が戸惑っている。せわしなく瞬きをしている。
 笑顔のままに、唇と唇が触れ合いそうなほど顔を近づけ……
 相手の油断を誘ってから、その口に両の人さし指をつっこみ左右にひっぱってやった。

 女神様はバタバタと暴れた。が、むろん、離す気はない。
《なにしゅるんひゃよ!》
「あんたには、いろいろと言いたい事があるんです!」
 その肉体がお師匠様のものじゃないとわかった以上、手加減無用。遠慮なくひっぱって、オレは女神様の口を左右に広げてやった。

「何で、強い伴侶の攻撃値をカットしたんです? アシュリン様や魔界の王達が、まともに攻撃できてたら魔王戦はあっという間に終わってましたよ! メテオストームとかピッカリ拳とか、余計なことばっか教えて! あんたのせいで、どんだけ迷惑を被ったか!」
 女神様を、無条件に信じてたわけじゃない。
 女神様は情報はくれる。けど、表現をボカして大事なことをあえて教えなかったりする。
 性格が悪いから!

 その上、勇者と魔王の戦いをゲームとか言ってたし、お師匠様の石化を治せるのに治してくれなかった。

 一時期は、ぶっ殺してやりたいとまで思った相手だが……
 相手にも言い分はあるだろうし、一時の感情でそこまでやるべきじゃない。
 つーか、そもそもオレでは女神様をどうこうできる実力はない。
 ささやかな復讐を果たした事で、ちょっとだけ気持ちを落ち着けた。

《まったく、もう! キミは……思いもかけぬ行動ばっかりとるんだから》
 女神様が両のほっぺたを押さえながら、ジト目でオレを見る。
《全知全能の女神に、こ〜んな無礼を働いて〜 神罰が下るぞ〜 ジャン君》
 なに言ってやがる。
「何をしてもいいって言ったじゃないですか」
 言ったけど〜 だからってあんまりだ、神族に対する敬意は無いのか、不信心者め、とブツブツつぶやく。
 うるさい。
「オレは、死にました。後は昇天するだけです。もう何も怖くありません」

 女神様が、右の人さし指で闇を指す。
 その指し示され先には、闇の窓がぽっかりと開き、現実を切り取った映像が映しだされていた。

 動かぬオレを、仲間達が囲んでいる。

 ジョゼが、祈るように手を合わせている。泣いている。けれども、大きく目を見開き、真っ直ぐにオレを見つめている。瞳を凝らしている。何ごとからも目をそらさないように。
 ジョゼの背を優しくさすってあげているのは、イザベルさんか。

暁ヲ統ベル(エターナル・)女王(マリー・)ノ聖慈掌(セインツ)玖式(ゼロナイン)!』
 目がくらむほどにまばゆく、聖女様が輝く。
 やわらかでおだやかな光が周囲に広がってゆく……

《マリーちゃんの玖式は、最高の治癒魔法〜 死んだばっかのホカホカの死体にも効果あり〜 だけど、魔力を凝縮するのにちょ〜時間がかかるわけ〜 本当なら、効果発動前にキミは完全にぽっくりいってたんだけど〜》
 神様が映像を指さす。

 セリアが変な踊りをしている……じゃない、治癒の技法だ。真剣な顔で、学者はさまざまな所作をしている。
 魔法を唱える声が、調和(ハーモニー)となっている。シャルロットちゃん、マルティーヌ先生、シャルルが治癒の魔法を唱和しているんだ。

 オレの手を握っているのは、ニーナだ。白い幽霊のニーナが心霊治療をしてくれている。

 がんばれって、声がかかる。リーズ、アナベラ、カトリーヌ、パメラさん、ルネさんだ。

 そして……必死に初級治癒魔法を唱える声が聞こえた。
 サラの声だ。
 だが、姿が見えない。
 初級治癒魔法じゃ、切り傷を治す程度の効果しかない。なのに、ずっと何度も何度も唱えているのだ。動かぬオレを見つめて……
 ああ、そうかと気づく。
 この視界の主はサラだ。涙でにじんだ目元をぬぐい、懸命に初級治癒魔法を唱えている。

《魔法で肉体を生かし、呼びかけて魂をひきとめて……。ジャン君、キミは愛されているねえ。キミの仲間達に、大感謝だね》


 地面の上にうつぶせになっている、オレの体。その背が、ピクリと動いた。


 そこで、映像は消えた。

 お師匠様の姿の女神様が手を一振りして、消してしまったのだ。

《こうして、ジャン君は生き返りました〜 めでたしめでたし〜 復活した肉体をここに運び込んで、外界の時間は凍結したのさ〜 た〜ぷりとキミと話したかったから〜》

 女神様が笑う。
 実に、らしくない顔で。
 きゃぴきゃぴ軽い女神様は……別人のようだ。いや、よその世界の本物の女神様のようだ。
 厳かに冷たく、絶対者の顔で笑っている。


《勇者が魔王を倒した今、タブーは消えたもの。今ならば、キミが知りたかった事を、教えてあげられるわよぉ~ 嬉しいでしょ? ……おっけぇ?》
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