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ハーレム100 作者:松宮星

さらば愛しき世界よ

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運命の時      【?】(※※)

「バカバカバカバカ!」
 オレの胸倉をつかみ、サラが揺さぶる。
「何って事してくれたのよ! アタシが魔王を倒すはずだったのに!」
 目から大粒の涙を流して。
「メテオストームで……アタシが削りきろうと思ったのに……」

 今度は、グーパンチだ。
 サラがオレを殴る。力がこもってない。ガキみたいに、ただポカポカと殴る。
「どうするのよ、ジャン……1000万近くのHPが残ってるのよ……あんた……もう、自爆……」

 その先の言葉を飲み込み、サラがオレを殴る。
 鼻の頭を真っ赤にして、泣きながら。

「魔王はオレが倒すよ」
 殴られながら、オレはサラに笑いかけた。

「昔、誓っただろ? オレは勇者になって、絶対にこの世界やジョゼを……それにサラ、おまえを守ってやるって」

「ジャン……」

「女の子に守られるなんて、みっともない。オレは勇者になったんだ。最期まで勇者でいさせてくれ」

 サラがかぶりを振って、すごい目つきでオレを睨む。
 逝くなんて許さない。死んだら、ぶん殴ってやると怒鳴りたそうだ。

「魔法は覚えられなかったし、腕力もさほどない。弱っちいダメダメな勇者にしかなれなかったけど、オレなりには頑張った。……お守りがあったからさ」

 胸ポケットに手をのばした。
 そこにはオレの宝物がある。『撮れルンです君』でつくった大切な絵。みんなと一緒にいるオレ、石化したお師匠様……
 もう一つ入っている。まごころのこもった贈り物だ。エスエフ界から還った時に賢者の館から持って来た、オレの心の支えだ。

 取り出したものを、サラに見せた。
「それ……」
 サラが緑の瞳を大きく見開いた。

 だいぶ黄ばんでしまったけれど、貰った時は白かったんだ。
 サラの髪を飾っていたリボンだ。

 賢者の館へ旅立つオレに、サラは三つ編みの白いリボンを解いて贈ってくれた。
『お守りだ』と言って。
 十年前のことだ……

 サラの瞳から、涙がこぼれる。
「ずっと持ってたの、それ……?」
「ああ。おまえのリボンだもん、持ってるだけで強くなれるんだよな?」
 勇者修行中、寂しい時にこのリボンを眺めた。サラやジョゼを思い出し、お師匠様に隠れてこっそり泣いた。

「勇者だから、魔王を倒せるぐらいには強くなったよ。後は、オレに任せてくれ」
「ジャン……」
「オレは勇者なんだよ、サラ」
 サラへと握った拳を見せた。
「この世界はオレが守る」

「似合わないセリフ言うんじゃないわよ、馬鹿……」

 別のポケットから出したハンカチで、サラの顔をふいてやった。
 サラは大人しくしてたが、手を引こうとしたら「それ、ちょうだい」とオレの手からハンカチを奪った。もう涙は流していないのに。

「これさ、巻いてくれない?」
 オレは白いリボンをサラに渡し、右の二の腕を向けた。

「アタシのリボンを?」
 サラがクスリと笑う。
「左腕の赤い布は、アネコ様の手毬よ。神聖防具でしょ? 利き腕に、ただのリボンを巻くの? やだ、みっともない……これ、黄ばんじゃってるじゃない……シミも……」

「ごめん。ほとんど洗ってない」
「え〜」
「オレがマメに洗濯すると思うのか?」
「……思わない」

「離れて暮らしてた年月分だけ、色が変わったわけだし。気にしないよ、オレは」
「まあ……あんたは、そうでしょうね」
「これがありゃ、オレは強くなれるんだ。頼む、サラ。腕に巻いてくれ」

「バーカ」
 サラがオレの腕にリボンを巻いてくれる。まだ鼻の頭が赤い。

 魔王戦の間は、装備の変更は厳禁だ。装備変更自体が自己強化の攻撃アクションにカウントされかねないんで。
 だけど、このリボンは本当にただのリボンだ。
 巻いてもらって、何の問題もない。 

 死ぬとなったら取り乱すんじゃないかって、不安だった。
 泣きわめいて、みんなを罵倒して、『お前達のせいで、オレは死ななきゃいけないんだ』って責めちまうんじゃないかって。

 だけど、アネコ様はそうはならないと、おっしゃった。
《おまえは わらって ゆくだろう。ばか だから》と。

 本当に、そうだ。
 今なら、笑って逝けそうだ。
 サラの死を見届けるより、ずっといい。

 でも、きゃぴりんは許せん。
 強い仲間の攻撃ダメをカットしやがるわ、サラにメテオストームを教えるわ、ジョゼにピッカリ拳を教えるわ……
 ぶん殴りたい……

「はい。おっけーよ」
 サラがオレの肩を叩く。
「ちょっとはいい男になったんじゃない?」

「サラさん……」
 背後からかかった声に、サラがビクッと身をすくませ振り返る。
 目にいっぱい涙をためたジョゼが、サラの後ろに立っていた。クスンクスンと嗚咽しながら。
「ひどいです……サラさん、私に内緒で……メテオストームなんて……。サラさんまで、居なくなったら、私……」
「ああああ! ごめん! ジョゼ! ごめんなさい!」
 ジョゼを慌てて抱きしめ、サラは何度も謝った。
「死んでは嫌です……サラさんも……お兄さまも……誰も……」
 堰を切ったように、ジョゼが声をあげて泣く。
 サラに抱きついて、子供のように。
 ずっと我慢して内に秘めていた思いを吐き出しているんだ。

 オレだって死にたくはないが……

 オレは玉座に座るカネコを見上げた。
 全身が黒い毛だらけの魔王。
 玉座に座ったまま、カネコは動かない。何も言わない。
 松明のような二つの双眸で、オレ達を見下ろしているだけだ。
「おまえも死にたくないだろうな……」
 話しかけたが、やはり答えは返らなかった。
 魔王の残りHPは、900万6501だ。

 サラの周りを、みんなが囲んでいる。ニーナや精霊達、アナベラやリーズ、イザベルさん、パメラさん。ルネさんも居るか。みんな、無事を喜んでいる。

「それで・・どうするのだ、マリーの下僕よ?」
 マリーちゃんに宿った『マッハな方』が、ジロリとオレを睨む。

「倒せるのか、魔王を?」
「倒しますよ、勇者ですから」

「そうか・・ならば、任せよう」
 両腕を組み、『マッハな方』が顎をしゃくる。
「きさまが魔王を倒し損ねれば、魔王の攻撃(ターン)。魔王に滅ぼされるくらいならば、この俺が聖気(オーラ)を120%解放し、魔王ともどもこの世界を綺麗さっぱり完璧に浄化してくれる」
 げ。
「俺だとて、マリーの育った世界を消し去るのは忍びない。だが、邪悪によって滅びる世界など、二度と金輪際もう決して絶対にあってはならぬのだ。この世界を残したくば、しっかり働け、勇者」

 さっさと戦え、と『マッハな方』が促す。
 けど、まだだ。
「待ってください。まだ百人目が攻撃していません。てか、百人目を仲間にしないと託宣がかなわないんです」

 オレは周囲を見渡した。
 百人目は、シャルロットちゃんかマルティーヌ先生。
 二人のどちらかを特殊ジョブに変えて百人目にしてみせると、セリアは言っていたが……

「あ?」
 オレは両目をこすった。

 もう一回、こすった。

 更にもう一回……

 だが、その幻は消えなかった。

 シャルロットちゃんを見て、オレのハートは、キュンキュン! と、鳴った!
 か、かわいい……

 マルティーヌ先生を見て、オレのハートはキュンキュンキュンキュン! と、鳴り響いた!
 す、すげぇ……

 キュンキュンに差があるのは、マルティーヌ先生の方が魅力的とか、そーいうわけではなく……
 インパクトの差。
 先生の美しさがグレードアップする衣装というか何というか……エッチすぎ……

「何なんですか、お二人とも! その格好は?」
 大声をあげてしまった。
 さっきまでなかった変な空間(スペース)ができていて、あまりにもあんまりな格好のシャルロットちゃんとマルティーヌ先生がその前に……

「おや、知らないのかね、ジャン君?」
 お貴族様が、やれやれというように頭を振る。
「十年もの間、賢者の館から一歩も出ずに育ったとはいえ、浮世離れしすぎだ。あの格好は、」

「知ってるよ! 知ってるに決まってるだろ! けど、何で、今、」

「勇者様、こちらへ」
 厳かな声がした。
 セリアだ。

 ナニな空間のまん真ん中に、セリアは居た。ぶ厚い備忘録の代わりに、聖教会の聖書を手に持って。
 セリアの前には、白い衣装に身を包んだシャルロットちゃん達が居る……

「萌えのお心のままに、愛する方をお選びください」

 オレの背を、お貴族様が押す。
 よろけてオレは、愛らしいシャルロットちゃんと、セクシーな先生に、三歩ほど近寄っていた。

「《汝の愛が、魔王を滅ぼすであろう。愛しき伴侶を百人、十二の世界を巡り集めよ。各々が振るえる剣は一度。異なる生き方の者のみを求めるべし》」
 セリアは、まるで礼拝の時の司祭さまみたいだ。
「勇者様の託宣を私なりに研究しました。神からの託宣には、表面の言葉以外に二重三重の別の意味がこめられている場合があります。裏の裏の意味を読み取り、裏の託宣に従わねば、魔王を討伐できないのです。勇者様の託宣は、一見、単純明快な内容に思われます。しかし……」
 セリアのメガネがキラリと光る。

「《汝の愛が、魔王を滅ぼすであろう》。問題となるのは、この一文です。魔王にとどめをさせるのは、『愛』だけ。おそらくは、『真の愛』でなければいけないのです」
 真の愛?
「真の愛を得た勇者様か、勇者様から真に愛された女性だけが、魔王にとどめをさせるのだろうと解釈いたしました」
 セリアは、穏やかに微笑んでいる……
「百人目が容易に増やせなかった理由も、勇者様に『真の愛』がなかったから。他の九十九人の仲間への萌えと同程度の思いしかなかった……だから、百人目を増やせなかったのだと推測しました」

 超不機嫌って顔のカトリーヌが近づいて来て、オレに向けて丸まっていた紙を開いて見せた。

 結婚誓約書だ……

「さあ、勇者様、お選びください。シャルロットにいたしますか? それとも、マルティーヌさん? 全ては魔王を倒す為……特殊ジョブ『真の伴侶』にジョブ変更をする者をお決めください」

 はあ?

「結婚は私が司ります」
 そう言ってから、『マッハな方』へとチラリと顔を向ける。
「ご本職の方をさしおいて申し訳ありませんが、ご許可願えますか?」

「こんな茶番は認めん!」
 ぎぎん! と、尼僧姿の『マッハな方』がオレを睨む。
「きさま、くるくるパーマとM女から真の伴侶を選ぶのか? マリーよりも、他の女を愛するというのか?」
 え?
「百人の伴侶と戦う勇者なのであろう? 一人をえこひいきするなど、言語道断! 結婚なぞ、俺が認めん!」

 バン! と音が響く。
 セリアが手に持っていた聖書で、壇のどっかをぶっ叩いたようだ。
「部外者の方は、お控えください! 勇者様が百人目を選ばねば、この世界は滅びるのです! 世界の存亡がかかってるのです! 邪魔しないでください!」 
『マッハな方』はそれでも『認めん!』と叫び、セリアは聖なる書を乱暴に扱ってしまった事にあたふたしてから(めん)のようにはりついた笑みを浮かべた。
「さ、勇者様。お選びください。シャルロット? それとも、マルティーヌさん?」

 選べって、言われても……

 セリアは、祭壇もどきの前に居る。
 ルネさんの、『どこでも祭壇』だ。一見、厳か且つ絢爛に装飾された祭壇に見える。が、ベニヤ板にスプレーでコーティングしただけのものだ。見た事がある。

 セリアの手前の二人は、純白の衣装に身を包み、花嫁のベールをして、ブーケを持っている。

 シャルロットちゃんのドレス、今日は白だなあと思っていたが……花嫁衣装だったのか。

 シャルロットちゃんは、ものすごい美少女だ。
 金の縦ロールの髪型もゴージャス。雪のように白い肌、愛らしい瞳、可愛らしい唇。
 純白の白いドレスがよく似合う。
 ベールに隠れてるから表情はよく見えないが、にっこりと微笑んでいるんだろう。
 まるで、可憐なお人形さんだ。

 マルティーヌ先生は、美人だ。オレは、つい体の方ばかり見ちゃうけど。
 今朝の先生のご衣装は、銀のワイヤーのような下着と犬の首輪と魔力のこもったアクセサリー。豪奢な首飾りやら腕輪やらボディピアスやらが、美しい肢体をより輝かせていた。
 魔術師の帽子とローブを取った先生の今のお姿は……ものすごくドキドキもの。
 レースビラビラの紐ビキニの下だけをはいている。花嫁を意識したのか、色は白。その上は宝石だけの衣装で……白レースの首輪をつけていて……でもって花嫁のベール。いけない捧げものというか、生贄というか、危ないペットというか……
 カトリーヌに手で促され、先生が仕方なさそうにくるりと後ろを向く。
 おおおお!
 オレのハートはキュンキュン! と鳴った。
 Tバック!
 生地がほとんどないから、ぷるるんなお尻がほぼ丸見え!
 でもって、白いバタフライが! 尾てい骨のちょうど上あたりに、腰と股の紐をつないで、白レースの蝶柄ができている! 素晴らしいアクセント!
 この衣装も、カトリーヌの見立てか? いやあ、いい趣味してるなあ……

 あ〜
 いやいやいや。だからって、先生のが魅力的ってわけではない! シャルロットちゃんも素敵!

 だけど……
 真の伴侶……?
 二人のうちのどちらかを……?

挿絵(By みてみん)

 オレは周囲を見渡した。

 みんなが、オレに注目している。

 鼻の頭を赤くしたサラ。
 サラに抱きつき、まだ嗚咽しているジョゼ。

 ピンクのクマさん達を抱っこしたニーナ。
 ソワも、他の精霊達も静かだ。オレの選択を待っている。

 うふふと笑っているイザベルさん。

 関心なさそうにそっぽを向きながらも、目の端では見ているリーズ。
 無邪気に、ニコニコ笑っているアナベラ。

 オレを、ただ見つめているパメラさん。
 寝てるんだか起きてるんだかわかんないルネさん。

 ギン! とオレを睨む『マッハな方』。

 爽やかにオレに笑いかけるシャルル。
「ハハハ。君は平民だが、勇者だ。我が妹シャルロットを娶るのに、かろうじて合格だ。ジャン君、君に義兄上(あにうえ)様と呼ぶ権利を特別に与えてあげよう」
 ふざけんな、バーカ! 死んだって言うかっ!

 聖職者のような顔のセリア。
 結婚誓約書をオレに見せるカトリーヌ。

 もう一度、花嫁のベールに包まれた二人を見つめた。

 オレは、後一人、仲間を増やさないといけない。
 けれども、二人のどちらかを真の伴侶に選ぶとなると……
 それは……


『勇者様、全ての決着がつくまで、私の助言を忘れないでくださいましね』
 英雄世界の霊能者ヤチヨさんの言葉が、心に蘇った。
『それから、ご自分の託宣……。そちらも、お心によくお刻みになって』

 そうだ……
 ヤチヨさんは言っていたじゃないか。
 勇者に対してではなく……一人の青年ジャンに対し助言すると言って……

『魔王戦が終わるまで、最愛の方を選ぶのはお控えなさいませ。全ての伴侶に平等に。ジャン様が常にその姿勢でいらっしゃれば、伴侶達もジャン様に応えてくださるでしょう』

 魔王戦は、まだ終わっていない。
 オレは全ての伴侶に平等にしなきゃいけないんだ。


 オレの託宣は……《汝の愛が、魔王を滅ぼすであろう。愛しき伴侶を百人、十二の世界を巡り集めよ。各々が振るえる剣は一度。異なる生き方の者のみを求めるべし》

 ずっと気になっていた事がある。
《汝の愛が、魔王を滅ぼすであろう》。
『滅ぼす』ではなく、『滅ぼすであろう』って推量になっているところ。
 オレの愛は、『魔王を滅ぼす』かもしれない。
 けれども、『魔王を滅ぼさない』かもしれないのだ。


 オレは、あらためて周囲を見た。
 仲間達を、魔王城の玉座の広間を見渡し……
 覚悟を決めた。

「シャルロットさん、マルティーヌ先生……お二人は、とても魅力的だと思います。しかし、」
 二人へと頭を下げた。
「すみません。お二人を真の伴侶には選べません」

 周囲がざわめく。

「いけません、勇者様」
 セリアが叫ぶ。
「託宣を叶えなくては、魔王を倒せないのです。このような形での結婚は不本意でしょうが、魔王を倒す為には真の愛がなくては」
「違うよ、セリアさん。愛ってのは、恋愛に限らないんだ」
 もの知りのセリアに『教える』なんて、滅多にない事だ。少しだけ、楽しい気分になる。
「家族の情、友情、好意、いたわり……何でもいいんだ。オレが伴侶の女性に誠実であれば、相手も気持ちを返してくれるのさ」
 といっても、アシュリン様の受け売りだけとな。

「百人目と真の伴侶は別だよ。本当に好きな子には、魔王戦の後にプロポーズする」
 オレは瞼を閉じた。
 オレが一番好きな女性(ヒト)はたぶん……

 ゆっくりと目を開け、オレは言葉を続けた。
「今はこの世界を救う事だけを考えたい……てか、考えられない。真の伴侶を決めるのは、魔王戦の後。じっくり自分の気持ちに向き合ってからだ」

「しかし、百人目が、」
「それは大丈夫」
 オレはバン! と胸を叩いた。
「任せてくれ」

 みんなに手を振って、オレは歩き始めた。

 正直、自信はない。
 だけど、大丈夫だ……オレには『その道のエキスパート』から貰った極意書がある。

 カネコと対峙し、歩みを止めた。
 全身が毛とも針ともつかぬ黒いもので覆われた、魔王『カネコ アキノリ』は玉座に座っている。
 松明のような眼でオレを見下ろす魔王は、巨大だ。オレの背は、魔王の膝ぐらいまでしかない。

 オレは極意書を開いた。
 この書がオレを勝利に導いてくれるはず!

 極意書をザッと見てから、オレは言葉をつむぎ始めた。

「やあ。お互い、大ピンチだよな」
 気さくに、マイルドに、笑みをみせて。

「あらためて、名乗るよ。百一代目勇者、ジャンだ」
 勇者である事に誇りを持つ。しかし、鼻にかけない。

「素敵な黒髪だね。とても綺麗だよ」
 相手の良いところを見つける。欠点は目をつぶる。
 えっと、えっと……良いところ……他に誉めるところは……

「キミの声が聞きたいな、きっと素敵な声なんだろうね」
 ひたすら誉める……と言ってもなあ、ほとんど見えないし。

『ちょっぴり太めの子でも、お鼻の低い子でも、どこかしらに愛らしいところがあるの』
 ナンパ道の師匠(カトリーヌ)の声が、頭に木霊する。
 そうだ探さなくては、誉めるところを……
『普段はボーッとしてる子も、大好きな人の前じゃキラキラするわ。その子を美しくできるかはナンパする人間次第』
 誉めるんだ。
 美しい姿を見せてもらえねば、オレはキュンキュンできない。

「キミと会うのは初めてだけど、初めてな気がしないよ。魔王になっても、キミの魅力は変わらない。笑顔を見せてくれ」

 無反応。

 聞いているのか? 聞こえてないのか?

 落ち着け、オレ。
 めげない。深刻にならない。軽く。

 相手のハートをキャッチする言葉で攻めるんだ。

「ニノンはオレ達と一緒にいる」
 ぴくっと、魔王『カネコ アキノリ』が動く。
 やはり、この話題か! 軽いノリじゃいけなくなるが、一番、関心がある話題だもんな。

「愛するキミを失いたくなくて、オレのもとへやって来て……オレではなく、賢者のお師匠様を石化したんだ。オレの何よりも大切な(ヒト)は、北に伝わる秘術中の秘術……『守りの石化』で石になっている」
 長い黒髪を揺らし、魔王『カネコ アキノリ』のうなだれていた頭があがった。
 その瞳は、おそらく初めて、オレを見つめた。
 魔王を倒す運命にある、勇者を。

「ごめん。あん時、オレはカッとした。ニノンを殺そうとした。けど、彼女は生きている。仲間達が止めてくれたんだ。一時の感情でそんな事しちゃいけない。後で、絶対後悔するって」
 オレは、魔王『カネコ アキノリ』に微笑みかけた。

「ニノンを殺さなくて良かった……と、今、心から思っているよ。キミはまだ生きている。魔王にとりこまれ、その一部となっても、キミの魂は清らかだとオレは信じている」
 魔王『カネコ アキノリ』の胸から上半身だけを現している女性。
 ニノンの双子の姉、ヴェラ。
「オレはキミを滅ぼさない。キミとニノンを会わせてあげたいんだ」

 彼女が、オレを見る。
 オレも、彼女を見つめた。

 髪の長さは違うけれど、ニノンにそっくりだ。
 少し物憂げな瞳、微かに笑みをつくる寂しげな口元……
 薄幸の美女って感じ……
 綺麗だし……

 服を着てなかった!
 溶けたのかもな!
 長い黒髪に隠れてはいるものの、その下にはやわらかそうな生胸(なまむね)が……
 ぷるんと……


 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……


 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。

《パンパカパ〜ン 百人達成〜 おめでと〜 おっけぇ?》
 と、内側から神様の声がした。


* * * * *


『勇者の書 101――ジャン』
(今、手元にあったらこう書いただろう)

●女性プロフィール(№100)

名前     ヴェラ
所属世界   勇者世界
種族     人間
職業     魔王(の一部)
特徴     ニノンの双子の姉。シャーマン呪術医。
       北の村の村長の娘。二十八代目の子孫。
       魔王化しかけてたカネコに抱きつかれ、
       カネコにとりこまれる。
戦闘方法   シャーマン的な何か
年齢     ニノンとおない年
容姿     黒の長髪。癖のない直毛で、前髪を
       カチューシャで留めていたようだ。
       今はつけていない。衣服ともども溶けたのかも。
       タチバナ シオリさんに似ている。美人。
       魔王の胸のあたりから上半身だけ現れている。
口癖     不明。
好きなもの  双子の妹。
嫌いなもの  カネコ アキノリ。
勇者に一言  今のところ無し。
挿絵(By みてみん)
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