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ハーレム100 作者:松宮星

さらば愛しき世界よ

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雷神無双神鳴り拳

 オレを見つめ、義妹が淡く微笑む。
「約束しましたよね……いっしょに賢者さまのお目覚めを迎えましょうって……」
 格闘家なのに、ジョゼは儚げだ。
 線が細くって、かよわそうで……白いドレスに包まれた体は小柄だ。

 父さんとベルナ母さんが再婚してジョゼが義妹となった日からずっと、守ってあげなきゃと思ってきた。
 ベルナ母さんとしか話ができず、全てに怯え、小さく震えていた義妹……ジョゼは心の病気にかかっていた。
 本当のお父さんが亡くなってからいろいろと怖い目に合ったせいだと、聞いている。

 最初は話しかけても、ベルナ母さんの後ろに隠れてばかりだった。
 それが、少しづつ心を開いてくれて……
 返事をしてくれるようになり、笑みをみせるようになり、オレの後を追っかけてくるようになり……嬉しかった。

 けれども、病が治ったわけじゃなかった。
 ジョゼは家族とサラ以外の人間を怖がり続け、オレと一緒じゃなきゃ外へ出られなかった。

 そんなジョゼを置いて、見習い勇者になったのだ。勇者修行中、心配だった。サラがついてくれてるから、きっと大丈夫だろうと思ったが……

 オレの名を呼んで泣いている義妹の夢を何度も見た……

 オレと一緒に遊びたくって、髪を短くし、男の格好をしていたジョゼ。オレにとって、ジョゼは放っておけない義弟(おとうと)のようなものだった。

 なのに、十年後に再会した時、ジョゼは伯爵家の令嬢だった。お姫様みたいに綺麗になっていた。
 内気なのはあいからわず。でも、旅をするうちに、ジョゼは変わった。仲間達と馴染んだのだ。年長者としてニーナを守ろうとし、マリーちゃんに悩みを聞いてもらい……
……レイをしもべとしてから、積極的にあれこれやるようになった。
 小鳥の姿の精霊を肩にとまらせ、よく話をしていた。
 仲睦まじい姿に、オレは嫉妬したりしたけど。

 そして、オレがお師匠様を失ってからは、更に強くなった。情緒不安定だったオレに寄り添い、まるでベルナ母さんみたいに優しくオレを包み込もうとしてくれたのだ。

「お兄さまが大切な方に再会できるように……」
 ジョゼが、ほわっと微笑む。
「ジョゼは戦います……お兄さまをお守りします……」
 大人びた声でジョゼが言う……

 ジョゼが小首を傾げ、自分の胸にそっと手を当てた。
「お兄さま……あの……レイちゃんが」
 ん?
「お兄さまとシャルル様に、お話があるのだそうです……代わりますね」

 義妹の顔がスッと変わる。
 愛らしいジョゼから、高慢なレイへ、と。
 同化している雷の精霊に、体の支配を譲ったのだ。
 レイが表に出ている時のジョゼは、別人だ。表情からして違う。何となく、冷静冷徹な時のセリアに似ている。ツーンと澄ましてるところも。

《勇者よ。繰り返し伝えてきた事ではある。だが、あえて言おう》
 小鳥の時のレイは、幼女声だ。けど、今はジョゼの体を使っているので、ジョゼの声でしゃべっている。
《吾輩は、貴様が好かん》
 む。
 改めて言われなくても、知ってるよ。義兄ってだけで、ジョゼに好かれてるのが気にくわないんだろ?

《低俗で低能で無能。鈍感。貴様なぞ、我が主人(あるじ)の視界の端にもふさわしくない。目の穢れである》
「そうかよ……」
《しかし、吾輩の望みは愛する方の幸福である。貴様と共に生きる事こそ、主人の望み。主人が幸福な未来を手にできるのであらば、いかような事とて吾輩は厭いはせぬ》
「え?」
《全ては主人の為なのである》

 口の端だけを歪めて笑い、レイはお貴族様へと視線を向けた。
《助平男》
 名指しされた者は、微かに眉をしかめる。
《矜持を持つ貴族として生きるのであらば、いかなる時も信念を貫け。淑女の憂いを見逃すでないぞ》
「お言葉はお心に刻みましょう」とキザ男は答え、やけに恭しくレイにお辞儀をした。

「小鳥の姿の君にはさんざんつつかれたが、それも愛ゆえ、ジョゼフィーヌ様の為のこと……微塵も怨んではいないよ」
 フンと息を吐くレイに、お貴族様が爽やかに笑いかける。
「次の機会があるのなら、人間の姿の君と会いたいものだ。あああ、もちろん女性で頼むよ。男には興味がないのでね」
《精霊まで口説くのか。どこまでも、節操のない男である》
「精霊には性別が無い。女性でもある。私には、君も崇拝対象だよ。君の孤高の魂は、実に美しい……」
《聞くに耐えぬ。やはり、虫唾が走る男である》
 肩にかかった髪を払い、レイは歩き出した。アタッカー位置へ、と。

「次の機会があるのなら……って、どういうことだ?」
「言葉通りだよ、ジャン君」
 シャルルは金の髪を、ふぁさっと掻き上げた。
「ジョゼフィーヌ様の精霊は、おそらく四散する」

 え?

「何で、レイが四散?」

「勇者様。雷神無双神鳴(かみな)りピッカリ拳のことを、どれほどご存じなのですか?」
 横から質問してきた学者に、まったく知らないと答えた。ネーミングセンスの悪い技だなあ、としか思ってなかったし。
「……雷神無双神鳴り拳は、雷精霊を所有する一流の格闘家のみが使用できる拳法です。雷精霊と同化する事で、敏捷性を更に高め、雷撃を拳にのせるのです。精霊との同調(シンクロ)率が向上すればするほど、優れた身体能力となり攻撃力がはね上がるのです」
 魔界の王戦で、ジョゼは雷神なんちゃら拳を使った。あの時は、まだ拳法の習得途中だったし、足場が悪かった。ジョゼが出したダメは、60万くらいだった。
「雷神無双神鳴り拳の奥義中の奥義が、ピッカリ拳なのです。雷の精霊の力を拳に集め、闘気(とうき)と共に敵に向け放出する技です。奥義拳の威力は、精霊支配者の技量に関わります。どれほどの己の力を注ぐかは、精霊が判断しますので。つまり、」
 セリアが、メガネのフレームを押し上げる。
「雷精霊から真に慕われた格闘家のみが、最高威力の奥義を使えるのです。ジョゼフィーヌさんの精霊は、己の全てを主人の拳に捧げ、四散を厭わず敵に激突する覚悟なのです」

 なんだって!

「そんなこと、ジョゼが許すわけない! レイをお友だちと思ってるんだ!」
「むろんジョゼフィーヌ様は反対しただろう、お優しい方だから……。しかしね、ジャン君、今、君は非常によろしくない状況にある」
 お貴族様が両腕を組む。
「君の危機にのみ、奥義の真の力を発動する……二人の間で、そう決まっていたのだろう」

「だけど……」
 精霊は恒常不変の存在。四散しても死ぬわけじゃない。自我を保つ為に必要な物質を吸収し、数時間から数日で復活できる。
 それでも、四散すれば、精霊といえども相応の苦痛を感じる。
 それに……
 持てる力の全てを攻撃に用いては、いけない。
 マーイさんがオレの為にやろうとしていた事だ。
 己の存在基盤さえも失ってしまっては、個を再構築するのに時間がかかる。早くて三年、もっとも時間がかかる場合には五十年、復活まで時を要すると言っていた。
 その上、ちゃんと復活できるかわからない。別の存在になってしまうかもしれないんだ。
 おまえ……絶対、そういう重要なこと、ジョゼに話してないだろ? ジョゼの幸福が第一で、ジョゼを守る為には手段を選ばないから。

 エスエフ界で見たレイの記憶を思い出す。
 遥か昔、レイはシャフィロス星の女王のしもべだった。
 相思相愛の仲だったが、女王様は亡くなり……
 何百年も時が流れてから、レイはジョゼと出逢った。ジョゼは女王様に似ている。髪や目どころか肌の色も違うけど、雰囲気がよく似ているんだ。控え目に微笑む顔とか、儚そうなところとか……
 レイは、ジョゼを幸せにしたいと願っている。
 レイの目から見ても幸福だとわかる未来を手に入れて欲しいのだ。

 愛する女王にできなかった事を、ジョゼでかなえたくて……

 その気持ちは……わからなくもない。

 だけど!
 四散すんじゃねーよ!
 おまえ、言ってたじゃん。《魔王戦で死した後の事など思い煩うでない。主人がその死から立ち直れる日まで吾輩が側でお慰めする》って。
 オレ、究極魔法で死ぬかもしれないんだぞ。ジョゼを放っておいていいのかよ!

《慰め役は自分じゃなくていいって……侯爵家嫡男に任せるって》
 同族のエクレールが、レイの考えをオレに伝える。
《……自分が四散すれば、お優しい主人は責任を感じる。義兄の死のショックにうちひしがれようとも、自分が復活するまでは自殺など考えまい……だって》

「バッ……」
 思わず声に出して言ってしまった。
「馬鹿じゃねーの!」

 オレのこと愚かだって、さんざん悪口を言ってくれたけど!
 おまえのが、よっぽど愚かじゃん!

「レイ!」
 義妹の背に向かって叫んだ。

「手ぇ、抜け!」
 立ち止り、義妹が振り返る。
 穏やかな顔だ。レイか? ジョゼか?
「おまえがどんなに頑張ろうが、どうせ攻撃上限がかかる! 無茶しても、無駄になるだけだ! 普通に攻撃してくれ!」

《魔王のHPが1000万以上もあるという今、他人の心配か。まったくもって、嫌になるほどお気楽な男である》
 ジョゼが、静かな顔で笑う。
《ドラゴンの女王の言葉を忘れたか? 弱体化されるのは異世界の者だけ。この世界の者は、自ら手に入れた力をそのまま振るえるはず》
「ジョゼはそうでも! おまえには能力制限がかかってるだろうが!」
《みくびるな。吾輩は雷の精霊。常に進化を続ける存在である。問題を克服する策は既に講じてある》

 え?

 そうなの?

《主人と吾輩の活躍を、そこで見ておれ》

 スッと表情が変わる。
 ジョゼが、オレを見てほわっと微笑む。
「……いきます」

 魔王へと顔を向け、両足を開き、ジョゼは腰を落とした。
 その体から紫の気がふくれてゆく。同化している雷の精霊レイの気だ。
 呼吸を整え、ジョゼは自分の闘気を高め続け……

 キッ! と前方を見すえ走り出した。

 稲妻のように。

 黒い床を蹴り、一瞬でジョゼは魔王の膝の上に移動していた。

 膨大にふくれあがっていた紫の気が、みるみる集束する。ジョゼの右手へと。

 くるっと軽やかに腰をひねらせ、踊るような美しい所作でジョゼが右の拳を突き出す。

 雷の衝撃波が、魔王を貫通した。
 魔王の腹部に、どデカイ穴があく。

 けれども……

 200万ダメージだ……

 雷の精霊が己の存在基盤すら捧げて主人に力を貸して……それで、たったの200万?

「・・・散ったな」
『マッハな方』憑きのマリーちゃんが、あっさりと言う。
「こうも全く、完璧に、潔く散っては、復活は容易ではなかろう」

 同族の四散に、いつもは陽気なエクレールがしょぼんとうなだれる。 

 嘘つき、め。
『問題を克服する策は既に講じてある』だなんて、嘘じゃないか。
 うまくいけば上限がかからず1000万級の技となる。だから、無策のまま、無茶を承知で実行しちまったんだろ?

 忘れてた……レイはジョゼの為と思えば何でもするんだった。
 嘘だって、平気でつくんだ。

 無駄な無茶しやがって、バーカ!
 200万じゃ足りねーんだよ!
 おまえが全てを犠牲にしてくれたのに、オレは……

 究極魔法を使って逝って……おまえのジョゼを泣かせるかもしれないんだ。


 義妹が自分の体を抱きしめて、うつむいている。
 泣いているのだろうか?
 そう思ったら、視点が変わった。
 サブレが精霊の視覚で、別の角度から義妹を見てくれたのだ。

 ジョゼは……微笑んでいた。
 力なく、弱くだが、確かに微笑んでいた。

「ありがとう、レイちゃん……」
 ジョゼが自分の体を抱きしめる。
 さっきまでレイが宿っていた体を、愛しそうに……
 衣服の下の、アメジストのペンダントに触れながら……

「あなたが帰って来る日を待つわね、ずっと……」
 静かに、ジョゼが瞳を伏せる。
「寂しくても……泣かないわ……私、強くなるって……あなたと約束したんですもの……」

 ジョゼの頬を、きらめくものが伝う。

 涙を隠すように、義妹はうつむき続けた。


 魔王の残りHPは、900万と6519だ…… 
+注意+
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