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ハーレム100 作者:松宮星

決戦(Ⅲ)

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裏 ジパング界 その1

 裏ジパングは、一言で言うならお伽噺の国。

 八百万(やおよろず)の神様が居ると言われている。が、実際は、八百万よりももっと多く神様が居る。
 でもって、神ではないが魂的なものもいっぱい居る。妖怪やら霊魂やら変化(へんげ)やら……

 ほとんどの神霊は神秘を見通す目がなきゃ見えない。けど、中には『人間が見える姿になれる』ものも居る。
 何で見えるのと見えないのがいるのか、セリアが説明してくれた。
 だが、いつものことだが、セリアの説明は難しすぎる。よくわかんなかった。
 その存在が人間とどう関わるかによって見えたり見えなかったりする……ってことらしい。





「裏ジパング界の伴侶達よ」

 オレの呼びかけに応え、魔法絹布の右から十番目――てか、左端から二番目だな――裏ジパング界の魔法陣から輝きが生まれる。
 魔法陣から上空に向かい、光が広がる。
 まるで光の柱ができたかのようだ。

 まばゆい光の中から、小さなアネコ様が現れる。
 おかっぱの黒髪の、赤い着物の幼女……のように見える。
 けれども、アネコ様は位の高い、偉い神様なのだ。福の神だ。

《じゃん》
 オレを見上げ、アネコ様がにっこり笑う。
 やっぱ、笑うと可愛いや。向こうじゃずーっと不機嫌そうなお顔をなさってたけど、目が大きくてほっぺがプニプニなんだもん。絶対、笑顔のが似合う。
《たっしゃ、か?》

「はい。アネコ様」
 オレは頷き、左腕の赤い布にそっと手を触れた。
「アネコ様からいただいた手毬のおかげで、オレ、強くなれましたよ。ありがとうございます」
 赤い布は、アネコ様の手毬が変化したもの。アネコ様の心が詰まっている。邪悪へのダメージを増加してくれ、守護結界を張ってくれと、攻守に渡りオレを助けてくれている。

《ひゃくにんの なかまは そろったのだな?》
 う。
「いいえ……。あと一人です。でも、大丈夫です。セリアさんがどうにかしてくれますから」
《ふぅん》

 アネコ様の澄んだ瞳が、オレを見つめる。
 ジーッと。
 無垢な瞳に、何もかも見透かされてしまいそうだ。
 魔王の残りHPは2969万5157で、残っている伴侶は22人。
 オレを含めた23人で、魔王のHPを削りきらなきゃいけない。

 究極魔法のことを、ついつい意識してしまう。

 伴侶達が頑張ってくれるはず! 大ダメージを出してくれる! 伴侶達を信じる! ……そう自分を奮い立たせても、不安と恐怖が消えない。
 一時間後には……オレは、もうこの世に居ないかもしれないのだ。

 アネコ様が何か言いたげに、オレを見つめ続ける。
 そこへ……
「アネコ様、先日はたいへんお世話になりました」
「ありがとう、ございました……」
「この仔が、ドラちゃんです。あの卵から産まれました。かわいくて、とても優しい仔です」
「ジャンの左手のこと聞きました。アネコ様、ありがとうございました」
 一緒にジパング界へ行った、セリア、ジョゼ、パメラさん、サラが、子供の神様に挨拶にやってきた。
 ホッとした。
 あのままアネコ様に見つめられていたら、オレ、言っちゃいけない事を口走ってたかも。

 四人がアネコ様を囲み、ちょっと離れた所からカトリーヌが会釈をする。
 けれども……
 カトリーヌが頭を下げた向きは微妙にズレてるし、セリアはアネコ様を見ていない。
 二人とも、オレの顔の向きからだいたいこのへんに居るだろうと察して挨拶しただけなのだ。

 アネコ様は、子供にしか見えない神様。
 大人でアネコ様を見ることができるのは、ごく一部の人間だけ。
 精霊を憑依させているサラやジョゼ、無垢なパメラさん、あとは聖女のマリーちゃんぐらいだろう、アネコ様と話せる大人は。

「うわぁ〜 かわいい神さまだねー ちっちゃな、女の子だー」
 あれ? 今の声、アナベラ? アネコ様が見えるのか、バカだか……いやいやいやいや! 心が美しいからだな!
「へ? おまえ、見えるのかよ? どこにいんの、そのかみさま?」
 あれ? 今の声、リーズ……だよな。子供のくせに、見えねーのか、おまえは!

 オレがアネコ様と話せるのは、サブレのおかげ。
 サブレが感覚を共有してくれなきゃ、オレにはアネコ様のお姿が見えないし、そのお声も聞こえない。
 アネコ様は、大人になって自分のことを忘れてしまう友人達をずーっと見てきたんだ。
 オレとの再会を楽しみになさっていたのにオレがアネコ様に気づけなくなっているなんて、ひどすぎる。きっと、お寂しい思いをさせてしまったろう。
 逝く事になったら、心残りになったろう。

 サブレに感謝した。


大主人(おおあるじ)様》
 魔法陣から声をかけられた。
 オレをそう呼ぶ伴侶は一人しかいない。
 そちらへと顔を向け……オレは硬直した。

「カグ……ラ……さん?」
 カーッと顔が熱を帯びる。

「なに、その格好!」
《大主人様のお言葉通り、装いを減らしてみただけにありんす》
 妖艶に微笑み、カグラがオレの頬をとる。

 オレのハートはキュンキュンと鳴った!
 鳴り響いた!

 確かに言った!
 装いを減らした方がいいんじゃないかって!

 初めて会った時、蜘蛛の妖怪カグラは美しい人形のように見えた。
 白塗りの顔に紅を差して眉を描いたお化粧は、つくりものめいていたし……櫛やら(かんざし)をいっぱい挿して飾り立てた髪も、ぶ厚い着物も、でかい前帯も……重たそうで、歩きづらそうだった。
 苦界の女の装いなのだそうだ。
 ずっとそんな姿で居るのは辛いんじゃないかなあ、と思った。
 だから、言ったんだ。
『ノーメイクでも、髪を背に垂らしても、もっと薄手の着物でも、魅力的だと思う。カグラさん、美人だし』って。

 次に会った時には、装いがだいぶ減っていた。
 着物は非常に薄手に、帯は小さく、簪の数もずいぶん減って、お化粧も少し薄くなってた。頭も体もずいぶん軽そうになった。
 似合わないでしょうか? と、恥じらって袖で顔を隠している仕草がセクシーだった。
『前のもいいけど、今の装いの方が好きだ』と伝えると、カグラは嬉しそうに微笑んだ。実にかわいかった。

 あの格好で、充分魅力的だったのに。

 なのに……

 どうしてこうなっちゃったわけ?

《わっちゃ、大主人様に調伏された身にありんす。魔王との戦こそ、大主人様の大一番。大主人様を奮い立たせるが、家来の務めにござんしょう?》
 オレの為なのか、その格好!
 髪は結いあげていない。それはいい。背に垂らした長い黒髪は、夜の河のようだ。自由に流れている。
 だけど、薄着すぎる。
 薄紅色の着物一枚なのだ。
 体のラインがわかっちゃうほど薄い。着物の下に、ほっそりとした肩、なよやかな腰、ムンムンする太ももがあって……
 その上……前をちゃんと合わせていないんだ! 白い二つの大きな山が着物の間から、チラリと。

 大きそう。若々しい張りがあって、ぷるるるんって感じ。
 吸いこまれそうなほど、魅惑的だ……

《わっちなんぞ、見目でしか大主人様にお仕えできんせん。ささ、とくとご覧なさんし。『ちちやしりを出した』姿がお好きなのでありんしたなあ、ここを、こうして……》
 カグラがオレの手をそっとつかむ。
 ぐいっと胸元へとひっぱる。
《こうすれば、もっとしゃんと……》

 手をふりほどき、オレは目をつぶって顔をそむけた。

《アレ。お気に召しませんかェ?》
「キュンキュンしたよ!」
 でも、今は魔王戦の真っただ中! 魔王と仲間から注目されているんだ、カグラを脱がすとかありえない!
「けど! 前のが好きだ! 会う度に布が減っちゃ、マズイだろ。次に会ったら、裸になっちゃうじゃないか!」

 カグラが、ホホホと華やかな声で笑う。
《次がござんすのかェ、嬉しゅうありんす》

 白粉の香りが、グッと近づく。カグラが顔を近づけてきたんだ。
《大主人様。わっちの簪は、いかがなさんした?》
 カグラの簪?
 そいや、オレ、カグラから簪を貰ってたんだっけ。いつでも呼び出してください、って。

……えっと……

 何処にやったっけ……?

 荷物入れに入れたまんま旅をしてたから……

 うん!
 多分、そのまま!
 賢者の館に、『勇者の書』を運ぶのにあの袋を使ったんだから……
「あるよ! 今日も持ってる!」

《ほんだすかェ》
 頬が痛い。つねられたみたいだ。
《ぬしゃ、わっちのことなぞ、お忘れかと心配でありんした。ご用の時は(かんざし)を手に、わっちの名をお呼びなんし。すぐに馳せ参じますェ。そうお伝えしたのに、》
 更にほっぺたを、ぎゅ〜っとされる。
《おかみの神様のお山での大事の折、わっちにお声をかけてくださらなかった。大きな戦であったと、大天狗様より伺いぃんした。わっちは大妖怪。戦場(いくさば)こそ、お役に立てるものを……》

 目を開けると、美女が目の前に居た。拗ねた顔で、オレを睨んでいる。
「ごめん……オレ、あん時、いろいろいっぱいっぱいだったんだ。カグラさんの言う通りだ、魔との戦いに駆けつけてもらえば良かった。したら、あの戦い、もっと楽になったよな。オレがバカだった」

 カグラが満足そうに微笑み、オレから離れる。
 格好が変わった。
 二度目に会った時の格好だ。着物と簪も美しく、それでいて重たすぎない感じ。
 エッチな格好で現れたのって、もしかして……拗ねてたから?
《わっちの簪、お忘れなさんせんよう……》
……わかりました。女の人からの贈り物はすべて、大事にします。


 カグラは離れた。が、周囲がざわざわしている。
 なんか、また、誤解されてるような……

 息がつまるような雰囲気の中、魔法陣のまばゆい光から、ピョンと黄色いモノが飛び出した。
 ちっちゃな、もふもふだった。
 ピンと立った耳は先っぽだけ黒くって、ふかふかの毛は赤っぽい金。猫みたいな目は、金色でくりくりしている。

 こ、こ、これは!

 オレのハートは、キュンキュンと鳴った!

 かわいいッ!

 ちょ〜 かわいいッ!

 見ただけで、ホワ〜って微笑んじゃう!

「ニビィちゃん!」
 笑顔のパメラさんが、こぎつね妖怪に駆け寄り、ぎゅ〜っと抱きしめる。
「会いたかったわ!」
 でもって、スリスリと頬ずりをする。
「かわいい! かわいい! かわいい!」

 うん! かわいい! ぬいぐるみみたい!

 一気に周囲は、ほんわかムード。
 サラもジョゼもニーナも、ニビィに一直線。
 マリーちゃんは、結界布の上でソワソワしている。布の上から動けないもんな。けど、抱っこしたいんだよね? わかるよ!

《みなみなさマ、おひさしぶりニ、ございますゥ》
 ニビィのつぶらな瞳が、オレらを見渡す。

 胸がドキドキするぅ〜

「元気だったか、ニビィ?」
「蜘蛛さんと仲良くやってるの、ニビィちゃん?」
「今は一人じゃないのよね、ニビィちゃん……?」
《だっこ! だっこさせて!》

《みなみなさマ、ちがうのですゥ〜 わたいハ、ニビィではないのですゥ》

 へ?

 パメラさんの腕からポーンと飛びおりたこぎつねが、オレたちにお尻を向ける。ふさふさのフカフカのモコモコ。ラブリーな尻尾が揺れる。

「おおおおお!」

 尻尾が三本ある!

《サンビィになりましてございますゥ〜》
 お尻ふりふり。ニビィ……じゃない、二尾から三尾になったから、サンビィだ! サンビィが、嬉しそうに尻尾を振る。

《みなみなさまノ、おかげにございますゥ。おなかガ、くちましテ、ポカポカでしたのですゥ。きがつけバ、しっぽガ、ふえておりましたのですゥ》
 感謝感謝でございますゥ、とペコリとサンビィが頭を下げる。
 おめでとうと祝福した。
 行方不明になっているサンビィのお母さんは、『九尾の狐』。尻尾が増えたってことは、ちょっぴり大人になったってことなんだと思う。

 はにかんで照れるサンビィを、みんなが抱っこする。パメラさん達の腕の中で、サンビィは安心しきったかのように体を丸めていた。


 ずしん! ずずん! と、足音を響かせ、魔法陣からデカいものが現れる。
 見上げるほどの、真っ黒な巨人だ。
 ぎょろっとした目玉が、三つもある。額に第三の目があるのだ。
 人を丸呑みできそうな口から、べろんと垂れた長い舌、いかめしい体、長い爪のあるごつごつした手。

 いかにもおそろしげなバケモノだ……

 バケモノはオレに対してニヤリと笑い、
《こなたさま》
 デカイ体を折り曲げて、丁寧に頭を下げたのだった。
《シヅにございます。報恩の為、修行を積んでまいりました》

 シヅ……さん?
 恩返しに来た花嫁さん……?
 タヌキの……?

 真っ黒な巨人を見上げた。
 ニタリと巨人が笑っている。もしかしたら、にっこりと笑ってるのかもしれないが……

「その姿は変化(へんげ)?」
……だよね?

《あい。三つ目の大入道にございます。アワの国の偉いお方より教わってまいりました、我が一族に伝わる由緒正しい変化にございます》
 伝統の変身技なのか。
 不気味な黒い巨人が、かわいらしい女の子声でしゃべるのはかなりナニだけど。
《こなたさまのご恩に報いる為、今日は精一杯戦わせていただきます》
 大入道が綺麗な所作で、オレにお辞儀をする。

 シヅはカグラの網から自力で逃げられなかったモノ。
 今もおそろしげな外見のくせに、カグラに対しこそこそしているし。
 間違いなく、弱い。魔王への大ダメージは無理だ。
 でも、頑張っている姿はいじらしい。気持ちが嬉しい。


 魔法陣から、しゃんしゃんしゃんと鈴の音が聞こえた。

 来た……

 オレは背筋を伸ばした。

 光の中から、ボンキュッボンの美少女が現れる。
 アネコ様の妹のオトメさんだ。

 あまり似てない姉妹だ。
 アネコ様は童女だけど、オトメさんは十七、八の女性に見えるし。
 着物は、ごてごてフリフリなワンピースのようだ。首から肩にかけてが露出しているし裾がやたら短いんで、ボーン! な胸のふくらみも、バイーン! なお尻も見えちゃいそう。
 ボリューム感たっぷりに茶髪を結いあげ、巨大な真っ赤な花やらジャラジャラの飾り玉をつけている。キラキラしてる。
 目元ぱっちりで、まつ毛がびんびんで、口紅が濃い。お化粧がド派手だ。

「このまえは、すみませんでした。オトメ様」
『さん』付けじゃなく、ちゃんと『様』付けした。姉妹神のお姉さんだけを『様』付けした事で、えらく怒られたから。
「今日はよろしくお願いします」

 お化粧顔を大きく歪ませ、オトメさんがオレをギギンッ! と睨む。すげぇ、こわい。三白眼みたいになってる……その目つきだけは、怒った時のお姉さんそっくりだ……
《でらウザスってかんぢ〜 マジ きもい。 ぁたしの そばに くンな ってゆったじゃーん。 ガキ》

 うは……

 嫌われたな……オレ。

 オトメさんは、誰からも見える神様。
 みな、遠巻きにオトメさんを見ている。
 オトメさんは、福の神の対となる貧乏神。禍をもたらす神様だ。オトメさんにブッチュ〜されたオレは、裏ジパング界で七日も寝こけるはめになった。
 安易に近づいちゃ、マズイ神様だってのはわかるが……
 アネコ様がジョゼ達に慕われ、サンビィがパメラさん達に愛されているのに……こう思っては失礼なんだろうけど、お気の毒な方だ。

 丁寧にお辞儀をするカグラにぞんざいに手を振り返し、オトメさんはお尻をふりふりオレらから離れて行った。

 と、そこへ……
「はじめまして、蝶のように華麗でお美しい方。あなたの奔放なお美しさに、私の心は魅了されてしまったようです」
 金髪巻き毛男が接近する。
「お一人で、どちらへいらっしゃるのです? よろしければ、この私がエスコートいたしましょう。無粋な網が、あなたを捕らえたりしないように……。さ、お手をどうぞ」
 おまえ……知ってるよな、オトメさんが貧乏神だって。
 なのに、ナンパか! ちょっと見直したぞ、シャルル! 一人で寂しそうな女の人には、声をかける。正しいナンパ道だな!
 だが、オトメさんはシッシッと邪険に手で払い、声をかけられても返事すらしない。
 しばらく粘ったものの、シャルルは気障ったらしく挨拶を残してひき下がった。
「振られてしまいましたわね、お兄様」
 シャルロットちゃんが、コロコロと笑う。だが、シャルルの野郎は気にした風もなく、ふぁさっと髪を掻き上げる。
「そういう事もある。仕方が無いさ。麗しい方が、いつもご機嫌まで麗しいとは限らないのだからね」

 う。

 うぉぉ〜

 キモ! キモ! キモ!

 やっぱ、見直したの、無し! 台詞がいちいち気持ち悪いんだよ、おまえは!


 魔法陣から、ゴーッと風が吹き……
 竜巻にのって、天狗が現れる。

《わしが黒羽じゃ! とくと見よ!》

 背中に黒い羽、山伏(やまぶし)姿。
 男の格好をしてるのに、顔立ちは優しげで、猛烈に豊かな爆乳なのだ。実にアンバランス。
 色っぽくって豪快な天狗は、右手に身長ほどもあるデカイ大団扇を持ち、左手に瓢箪(ひょうたん)を持っていた。
 瓢箪ってのは、あっちの水筒だ。見た事がある。
 瓢箪の口を口元に運んでグビグビと飲み、ぷは〜と熱い息を吐く。中身は酒だな。酔っ払った天狗は、ほんのりと顔を赤く染めている。

「駆けつけてくだすって、ありがとうございます。クロバさん」
 オレは挨拶に向かった。セリアもやって来た。が、クロバさんも普通の人間には見えない神様、セリアが見当違いの方角に頭を下げる。

 けれども、酔っ払い天狗は、そんな事では気を悪くしない。にこやかに笑っている。
《なんの! わしゃ、穢れは好かん。わしの団扇で、魔王なぞ吹き飛ばしてくれるわ》

 クロバさんの瓢箪を持った手を、オレへとつきつける。
 でもって、ニコニコ笑ってる。

 飲めってこと……なのか?

 ためらいながらも、瓢箪を見る。白い糸のようなものが絡まりついている。
 更によく見ると、それは……
 細い白蛇のように見えた。

《よその国の勇者よ》
 女性の声が聞こえた。
(われ)の娘の為、我の力を貸そう》
 蛇に似てるが、蛇じゃない。足があるし、角も髭もある。ドラちゃん、そっくりだ。
「おかみの神様!」
 オレは慌てて頭を下げた。
 おかみの神様は、古えの時代から、裏ジパング界に居る偉い水神様だ。ドラちゃんの卵を産み直してくださった方だ。ドラちゃんのお母さんだ。
 いや、待てよ、ドラちゃんの卵はもともとオレらの世界にあったんだ。義理の母親か? あ〜 でも、産み直したんだよな、じゃ、実の母? むぅ……

 パメラさんとドラちゃんが、クロバさんと一緒に居るおかみの神様のもとへとやって来る。
 ドラちゃんが瓢箪にくっついているオカミノカミに、口づけするように顔を近づける。
 パメラさんも、満面の笑顔だ。


 ぐるんと、視界が変わった。
 サブレが見せているのか?

 魔王のそばのアタッカー位置が見える。貧乏神は、そこに一人でいた。オレらから遠く離れた場所で、一人、魔王を見上げていた。

 そんなオトメさんを、アネコ様は静かに見つめていた。ちょっとむっつりとしたようなお顔で。

 オレの視線に気づいたのか、子供の神様がオレを見る。
《あれは わがままで ぐうたらで はでずきの どうしようもない いもうと だ。 だが やさしい やつだ。 おれの のぞみを しっている》
 アネコ様の口元が、かすかにほころぶ。
《いや ちがう。 おまえが ばか だから だな。 おまえの ことばが あれの こころを うごかした。 おまえの ために あれは ちからを ふるう き だ》

 へ?

 オレなんか言いましたっけ?

 オトメさんは、ぷるんぷるんとお尻を振りながら魔王へと近づいて行った……
+注意+
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