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ハーレム100 作者:松宮星

決戦(Ⅲ)

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裏 冒険世界 その2

 和平交渉の際に、光の国とエグリゴーリ国は魔王戦の攻撃順番を決めていた。

「我が国の者が先に全員攻撃を終え、その後、エグリゴーリの者を戦わせます」
 バケツみたいに盛り上がった髪の毛の王妃様が、オレに説明をする。
「勇者様は、我が娘アンジェリーヌ姫の婚約者、次期国王にも等しい方です。勇者様の栄えある戦いの場で、我が国が遅れをとるなどありえませんもの」

「光の国からのたってのご希望に、エグリゴーリ国としては異存はございません」
 そう言ったのは、コウモリの仮面をつけたモードのお母さんだ。暗黒神官長のシモーヌは戦犯扱いで、実権から遠ざけられている。明日には魔界に追放だし。暗黒神殿のトップの座はモードのお母さんに移ったようだ。
《メリザンドですよ、ご主人様》
 オレと同化しているサブレが、こっそり教えてくれる。
 あ〜、そーそー、メリザンドって名前だった。結界師だったよな、たしか。

「まずは私、それからアンジェリーヌ、神聖騎士のジュリエット、侍女のロザリー。エグリゴーリの者も、身分の順に……」
 高貴な順に攻撃するようだ。

「セレスティーヌ様。恐れ入りますが、皆さま方がどのような攻撃をなさるのかお教えいただけませんか?」
 セリアの問い。
 王妃様が学者ではなく、オレへに視線を向ける。
「彼女はオレの軍師。魔王戦の指揮をとってもらっています。ご協力お願いいたします」

 色っぽい王妃様が、光の国の攻撃について説明する。
 メリザンドも、エグリゴーリ国の者の攻撃を説明する。

 あっけにとられる。

 明らかに、攻撃順番がおかしい。
 入れ替えるべき。

 セリアがチラリとオレを見る。オレもセリアへと視線を返した。

 王妃様は、国の面子(めんつ)に重きを置いているし、身分の上下にも拘っている。
 ダメージを伸ばす為に攻撃順番を変えてください、って頼んでも聞き入れてくださるかどうか。

 オレは娘の婿。オレからの意見なら耳を傾けてくれそうではある。
 けど、何て説得しよう?
 理屈を説いても、駄目なような。
 エグリゴーリの者に一番手を譲ってください、王妃様は侍女さんの後に攻撃してくださいって……どう頼めばいい?

「あの〜 ちょっと、よろしい、でしょうか」
 のんびりとした声が響く。
「攻撃順番〜 変更して、いただけませんか〜?」
 マリーちゃん?
 のほほん聖女様は、ほわほわ笑顔だ。臆すことなく、王妃様に話しかけている。

「さきほど〜 託宣が、あったの、です〜」
 へ?
「『俺の内なる霊魂がマッハで託宣を言い渡す』と、おっしゃる方が、降りられて、攻撃順番の変更を、告げられたのです〜」
『マッハな方』がさっき降臨? マリーちゃん、邪悪を退ける結界布の上にず〜っと居るのに?

「『内なる魂がマッハ』……? では……」
 王妃様が口元に手をあてる。
「もしや、タイロン様にたまに降りてこられる、あの神様ですの……?」
「はい〜」
 マリーちゃんが、にっこりと微笑む。

「あのお方がお告げを……。でしたら、仕方ございませんわね」
 あっさりと、王妃様が攻撃順番の変更を承諾してくださる。
 裏冒険世界は、『マッハな方』のアルバイト先の一つ。たま〜にタイロン国王に憑依して邪悪を祓っているのだとか。王宮で『マッハな方』を降ろしたマリーちゃんは、国王同様に神聖な方として、裏冒険世界で尊敬を集めてたんだっけ。
「どのような順番にしますの?」
「それは〜」
 マリーちゃんが、ほんわかした視線をオレへと向ける。
「勇者さまに告げよ、という託宣なので〜 勇者さまに、お伝えし、勇者さまから、語って、いただきます〜」

 順番の変更はオレに任せるってことか!
 セリアが移動し、すれちがいざまに攻撃順をオレに囁く。
 うん! オレもその順番がいいと思ってた!

 助かった! ありがとう、マリーちゃん!


 お礼を言いに行ったオレに、マリーちゃんがこっそり囁く。
「聖職者は、嘘をついては、いけないのです〜 でも、お困りの方に、手を、差し伸べないのは、もっといけない、ことなのです〜」
「攻撃順番がおかしい事は、私もエグリゴーリの者もわかっていました。しかし、立場上、ご意見できず聖女様に頼った次第です」
 マリーちゃんと同じ結界布の上に立つ、神聖騎士のジュリエットさんが『すみません』とオレに頭を下げる。託宣うんぬんの嘘をつくよう、ジュリエットさんがマリーちゃんに頼んだのか。
 すみませんだなんて、そんな! ありがとうございます、ジュリエットさん!





 てなわけで、裏冒険世界の一番手は結界師のメリザンドになった。

 蝙蝠のマスク、全身マントの妖しい姿。
 結界師が呪文を唱えると、魔王の周囲に黒い闇が生まれた。
 内に包むものを腐敗させる、腐食の結界なのだそうだ。
 結界に包まれる時間が長くなればなるほど腐敗は進み、ダメージも大きくなる。

 だが、王妃様の戦闘プランではメリザンドの順番は最後から三番目だった。与ダメを伸ばす為には、トップでやってもらわないと。


 つづいて、侍女のロザリーさんの番。
 ロザリーさんが二番手になったのは、選択した武器のせい。使用時間が長いほど、ダメージが伸びる武器なのだ。

『勇者様の為にお役に立てる武器を、全員分見たてていただけますこと?』と王妃様がシャルルに頼んだらしい。
 で、シャルルの野郎が、王妃様達でも使用可能でうまくいけば大ダメージの武器をルネさんの発明品から選んだわけなのだが……

 シャルルから、全員に耳栓が配られる。
 むろん、ロザリーさんも両耳につけている。

 アタッカー位置に移動したロザリーさんは、泣きそうな顔だ。
 使用したくないのだけれども、王妃様からの命令には逆らえない。
 覚悟を決め、お姫様付きの侍女は腕輪を左手にはめた。

 むぅ……

 耳栓をしてるのに、微かに聞こえるような。

 冷たい汗が流れる……

 ロザリーさんが使用したのは、『悪霊から守るくん 改・改・改』。聖なる歌声で邪悪にダメージを与える腕輪。装備するだけで、讃美歌が流れるのだ。
 裏冒険世界や裏ジパング界でオレが使用した『悪霊から守るくん 改・改』は自爆してしまった。
 ので、新たに改・改・改が作られたらしい。
 マリーちゃんの歌声はそのままに! 腕からの着脱がスイッチ一つに変更! だそうだ。

 耳栓をしていても、マリーちゃんの素晴らしすぎる歌声が微かに耳に……

 アタッカー位置で、ロザリーさんが気絶している。

 使用者の意識を奪う歌声が、玉座の間に響き渡る。
 耳にした者を否応なく天国へと誘う歌声なのだ……


 精霊達には、音声遮断用コンテナが用意されていた。
 サブレにも入る? って聞いたんだ。が、
《ギリギリまでご主人様と同化してます》
 てな返事。
《あの歌声は、精霊の存在基盤を揺るがします……ずっと聞いていれば、個を保てず四散するでしょう……。気が遠くなるような苦痛の中、少しづつ、私がかすれ、消えてゆくなんて……あああ、ス・テ・キ。想像するだけで、うっとりします……》
 ヤバくなる前に、絶対避難しろよ……


 耳栓をした王妃様が、魔王をご覧になる。
 不快そうに眉をひそめながらも、王妃様は王族としてご挨拶をなさったようだ。耳栓をしてるんで、口元から察した。
「ごきげんよう、魔王。私からの贈り物です。どうぞ、おたべになって」

 王妃様が口を閉じられた瞬間!

 王妃様の足元まで自動走行していた機械……お皿型なのだが、そこからケーキそっくりな爆弾が射出される。

 ご使用の発明品は『おたべになって ちゃん』だ。

 王妃様の武器がコレになったのは、ルネさんが一押ししたからだ。魔王戦で是非デビューさせて欲しい! 発明家の勘が、これこそ最強の武器と告げているのだとか何だとか。
『ちょっとした事故(アクシデント)が続いて、残念ながら今までの発明品はパッとしませんでした。でも、今度こそ大丈夫! エスエフ界から持ち込んだ装置やらエネルギー弾をですね、とにかく詰め合わせて、美味しそうなケーキにしてみました! 美女からのプレゼントが爆発するんですよ! 素晴らしくえげつない武器です!』

 ホールケーキが宙を舞う。

 弧を描き……

 魔王を狙っていたはずが、何故か……
 ぐんぐんと、オレらに近寄って来た。

「へ?」

 頭上で、ケーキが爆発する。

 閃光。

 広がる爆煙。

 凄まじい衝撃波がオレらを襲った。
 床に倒れながら見た。オレらの周囲を覆っている半透明なジェル状のバイオロイドの体が、形が変わるほど激しく振動している。
《ポチちゃん、がんばって!》
 白い幽霊のニーナが叫ぶ。

『仲間や敵の、攻撃値と残りHPを見る』勇者(アイ)が、『おたべになって ちゃん』がポチ2号にもたらした攻撃値をとらえる。

「え?」

 1301万7469……

 1301万7469……?

 1301万7469ぅぅぅ!

 嘘ぉ〜ん!

 凄い攻撃力だ『おたべになって ちゃん』!

 そんな凄い発明を、なんでオレらの頭上で爆発させちゃうんだよ、ルネさん!

 魔王に当たっていれば……
 防御力が高いから1301万は無理だったかも。でも、1000万ぐらいはいった……よね?

「なんてことでしょう! かつてない大爆発だったのに! 標的からずいぶんそれてしまって……」
 ロボットアーマーの人が、機械の手で頭を抱えている。
「『おたべになって ちゃん』は今朝完成したばかりのフレッシュな発明品! 爆弾もさっきの一発きりなのに!」

 ガーン!

 照準調整がメチャクチャでも、隣接して撃てばいいと思ったんだが……一発しか無かったのか。

「なんで、まともに動くモノを作れなかったんでしょう……。私の馬鹿! 馬鹿! 馬鹿!」
 ルネさん……
 いいよ、もう……
 すっげぇ残念だけど、頑張って発明してくれたんだし、それだけで、オレは……
「ビッグな発明品で魔王を粉砕する予定が〜 発明品の優秀さを広め、スポンサーがっぼりの、私の華麗な野望が〜」
「………」
 な〜んだ。
 そんな理由で、残念がっているのか……

 あああああ……

 疲れた……

 起き上る気力もわかない……

 力なく倒れるオレを、サラが蹴飛ばす。
「動け! 魔王戦は、まだ終わってないのよ!」

 仕方なくオレは、起き上った。

 爆煙が消え、ポチ2号も通常障壁状態に戻っている。


 オレを見て、お姫様がにっこり微笑む。
 何かしゃべりだしたが、声が小さい。耳栓のせいで、よく聞こえない。
 そう思ったら、急に聞こえた。サブレが、お姫様の言葉をオレの頭に直接伝えてくれたようだ。

「勇者様からいただいた贈り物で、私、頑張りますわね」
 そう言って、お姫様は小さな胸にカードをそっと押しあてた。

 お姫様の武器だけは、シャルルではなく、オレが選んだ。
『勇者様。私にどれが似合うかしら?』と、アクセサリーみたててと頼むように、お姫様が可愛らしく微笑んだからだ。

 なので、選んでさしあげた。
 光の国のお姫様なのだ、光の精霊カードがぴったりだと。

 ごめんよ、ルネさん。キミの発明品を選んであげなくて……
 だけど、オレ、自分の選択は間違ってなかったと思う!

 英雄世界のマドカさんが残した精霊カードには、風来戦士マサタ=カーンことサクライ マサタカさんの精霊の力が封じられている。
 お姫様が光の精霊カードをかざすと、カードはまばゆく発光し……
 浄化の光がカネコを包んだ。

 6万6666ダメージ。

 意外とダメージが出た。マドカさんの時より、ダメがデカい。

 アタッカー位置から優雅にさがるお姫様が、笑顔をオレに向ける。私の活躍を見て下さいましたよね? と問いかけるように。
 とても愛らしい……


「いっけぇー ミツカイさま」
 チビッコ暗黒神官が魔王を指さし、紫の獣が突進した。

 12万1637ダメージ。

 うん……
 まあ、そんなものだよな。
 モードが連れて来た御使いは、ネコぐらいの大きさ。
 王宮を襲った小山サイズのヤツだったら、もっともっと強かったんだろうが……手荷物扱いで運びこめない。

 鼻は蛇みたいに長いわ、耳はデカいわ、紫だわで、御使いはぜんぜんかわいくない。しかし、モードは御使いを抱っこして、『よく、がんばった。えらい、えらい』と撫で撫でしている。愛情をこめて育てているのだ。
 一応、さっき王妃様に頼んでおいた。エグリゴーリ国の武装解除の一環で、御使いは処分対象となっている。が、モードにとっては大事な友達。飼育を許してあげて欲しいと。
 それに対し王妃様は『勇者様のご希望は全て、タイロン様にお伝えしますわ』と鷹揚に約束してくださった。

 友達がいなくなっちゃ、寂しいもんな。
 御使いを抱っこしたモードが、パメラさんのもとへと走ってゆく。獣使いとモンスター使いで、仲良くなったようだ。


 マリーちゃんに頭を下げてから、凛々しい神聖騎士は光の結界布の外に出て……

 高笑いを始めた。
 顔つきが凶悪になるし所作が乱暴になるから、憑かれたのがすぐにわかる。

『マッハな方』に憑依された神聖騎士が、大声で叫ぶ。
 耳栓をしてるけど、何を言ってるかだいたいわかる。
「仕切り直しだ、クズ魔王よ! 内なる俺の霊魂は、既にマッハで、きさまに罪を言い渡した!」

 魔王へと駆け寄り、光り輝くジュリエットさんが、右の親指をビシッと突き立てる。
「有罪! 浄霊する!」
 ジュリエットさんが、手首をゆっくりひねって親指を下に向ける。

「その死をもって、己が罪業を償え・・・終焉ノ(グッバイ・)滅ビヲ(イービル・)迎エシ神覇ノ(ブレイク・)贖焔(バーン)!」

 神聖騎士の体から光が一気にふくれ上がり、どデカい白光の玉と化してゆく。
 まばゆい光の輝きが魔王へと迫っていった……

 だが、しかし……

 目を疑ってしまった。

「44万4444ダメージ……?」
 低ぅぅぅぅ!
『マッハな方』の攻撃なのに!

「やはり、この器とは相性が悪い・・・」
 アタッカー位置で、『マッハな方』がっくりと膝をつく。体に力が入らないようだ。
「俺の輝きを受け入れきれぬとは・・・実に、まったくもって、どこまでも役立たずな女だ。邪悪を粛清することこそが、俺の存在理由だというのに・・・」
 チッ! と舌打ちをし、『マッハな方』があぐらをかく。その場に座り込んだまま、胸元から取り出したものを口にくわえ、魔法で火を点ける。
 煙草だ。
『マッハな方』は、ヘビースモーカーだ。マリーちゃんに憑依している時は、絶対に吸わないが。起床、睡眠前、食後、仕事の後は吸わないと落ち着かないのだとかなんだとか。
 ジュリエットさんが、『マッハな方』の為に煙草を用意しといたんだな。
 ゆっくりスーッと吸いこみ、ふは〜と煙を吐く。綺麗な神聖騎士のおねえさんなのに、オヤジくさい。


 喫煙中の『マッハな方』の横で、シモーヌが召喚の準備を始める。
 黒い床の上に白いチョークで、綺麗な円を描く。器具なし(フリーハンド)なのに、歪みがまったくない。器用だ。

 円は三重。それに、星型やら古代語やら複雑な呪模様を迷いなく書き込んでゆく。
 描くのが速い。
 あっという間に、魔法陣が完成する。

「古えよりおわす暗黒神よ。月の支配者。霊魂の看守。人の救い手。邪視の始祖。全てを愛し、全てを滅ぼす、魔の鍵よ。昏き魔界の底より、現れたまえ」
 床が揺れる。
 チョークで描かれた魔法陣から、黒い光の渦が生まれる。

 シモーヌが聞き取れない呪文を口にする。たぶん、古代語なんだろう。
 実に召喚士っぽい。
 魔法陣の周囲に塩を撒くようにパッパと、レースの指人形を撒いてるのはナニだけど。ウサギにリスにクマにわんこににゃんこ。ラブリーだ。

「千の月の輝きよりも、あまたの星よりも、お美しい方よ。この身をどうぞお受け取りください。暗黒神様と我の敵に、死を。偉大なる鎌で全てを無に帰したまえ」

 空気が揺れ、シモーヌの魔法陣から召喚されたものが姿を見せる。
 神々しいほどに眩しい光……光の中に、いかめしい大鎌を持った天使がいる。
 翼の数は六枚。二枚で顔を覆い、二枚で胴体を覆い、二枚で下半身を隠している。

 シモーヌが信仰する暗黒神……死神サリーだ。

《我が敵に死を……》

 水色の髪と白い翼をぶわっと広げ、サリーが舞い上がる。

 背の二枚の翼で飛翔し、サリーは魔王カネコへと三日月のような鎌を振り下ろした。
 鋭い鎌が魔王を斬り裂く。

 100万ダメージ。

 100万きっかり……

 あ?

 あれぇ……? 

 お子様サイズに変身して舞い戻って来たサリーが、
《シモーヌちゃん、ごほうびちょーだい》
 と、ラブラブな恋人とチュッチュを始める。

 オレは二人の間に割って入った。

「なんで100万ダメ? おまえ、さっきは200万以上、出してたじゃん! 手ぇ抜いたな?」

 サリーがムッと顔をしかめる。
《シツレーな! 全力コーゲキしたぞ!》

 シモーヌが恐縮した顔で叫ぶ。耳栓をしていても、オレが何を怒っているのかはわかっているようだ。
「すみません、勇者殿。今、暗黒神様は私に召喚されておられます。真の御姿ではありません。攻撃値が低かったのでしたら、術師の私のせい。私が未熟な為に、真の御姿からほど遠い暗黒神様しか召喚できなかったのです」
……そういうことなのか……
「わかりました。失礼な事を言ってすみませんでした」

 くぅぅぅ……
……サリーが来るから200万確定と思っていたのに……

《えへへ。あえてうれしーなー マッハくん、どーしてさっきこなかったの? ノーラちゃん、がっかりしてたよー》
 煙草を吸う『マッハな方』に、サリーが親しげに話しかける。
《ねーねー こんど、あそびにいっていい? どこのセカイにすんでるのー? おしえてー》
『マッハな方』はフンと荒い息を吐き、紫煙をくゆらせながら、
「来たければ、勝手に来い。浄化してやる」と答えていた。

 堕天は浄化できないって、前に言ってませんでしたっけ?





 お姫様がせつなそうに、オレを見つめて微笑む。別れを惜しんでいるのだ。けれども、王族の威厳を損なわぬよう、しゃきっと立っている。涙を浮かべないようにしている……
「勇者様、ごきげんよう。次にお会いできる日まで、神に祈りを捧げ、清廉な日々を送っておりますわ」


「裏冒険世界の伴侶たちよ、感謝する」

 魔法絹布の右から九番目――裏冒険世界の魔法陣から輝きが生まれる。
 魔法陣から上向きに、渦巻く光があがる。

 しまった。
 侍女さんから、『悪霊から守るくん 改・改・改』を外すのを忘れてた。
 改・改・改ごと、侍女さんが魔法陣に吸い込まれてゆく。
 あ〜あ……
 ま、いいか。
 スイッチ一つで外せるんだし。

 オレだけを熱く見つめるお姫様、煙草を吸っている神聖騎士、パメラさんに手を振るチビッコ暗黒神官、サリーの恋人達が、まばゆい輝きの中に吸い込まれてゆく。

 マリーちゃんの歌声が消えたので、みんなで耳栓を外した。

 セリアに、各伴侶のダメージ値や、魔王の残りHPを伝えた。メリザンドの腐食の結界と『悪霊から守るくん 改・改・改』の削り値の合計も伝えた。

「裏冒険世界7人の伴侶の総合ダメージは235万6747、魔王へのダメージの累計は、7030万4843となりました」
 セリアが、備忘録に現状を記す。

「行動を終えた仲間は78人。7030万4843から7800万を引いて……借金は769万5157になったわ」
 メモ帳に筆算をしたサラが、溜息をつく。

 借金は769万……

 増えたのはわかっていた。
 でも、実際の数字を知ると、インパクトがある。

「まともなダメ出したの、最後のねーちゃんだけじゃん。英雄世界なみに外れの世界だったな」と、リーズ。
「もっとマシな世界に導いてやりゃ良かったのに。本物の占い師なんだろ?」
「裏冒険世界へ行くことが、最善だったのよ。他の道を選んでいたら、勇者さまの未来は必ず今日で終わっていたわ」と、イザベルさん。
「あの時、アンジェリーヌ姫の召喚に応えていなければ、十二の世界を巡れなかった。託宣を叶えられず、勇者様は破滅していたという事ですね」
 今、しゃべったのはセリア……だな。

「お兄さま!」
 オレは、ふらついたらしい。
 義妹が手を差し伸べてくれて、初めて気づいた。

「すまない……大丈夫だ」
 義妹の手を、断った。
 女の子に支えられる勇者なんて、みっともない。

 動揺するな。

 イザベルさんのおかげで、オレは十二の世界を巡る託宣を叶えられた。
 裏冒険世界に七日留まったのだって、自分で決めた事。すぐに還る事もできたのに、『この世界を救ってくれ』と頼まれてオレは自らの意志で残った。
 攻撃に不向きな女性にキュンキュンし続けて、伴侶にしちゃったのも馬鹿なオレだ。
 みんなで工夫して、攻撃順番を入れ替えて最大の攻撃をしてもらった。やれるだけのことはやった。ルネさんの発明品は当たらなかったが……

 誰も悪くない。
 誰も責めちゃいけない。

 オレが全て悪いんだ。

「………」

 いや、待て。

 やっぱ、オレだけのせいじゃない。
 借金まみれなのは、クソ馬鹿女神のせいだった。
 あのきゃぴりんが、強い伴侶達のダメージを減らしてなきゃ、黒字。
 どころか、もう1億終わってたかも。

 くっそぉ〜

 負けてたまるか。

 オレはカネコを睨んだ。

 魔王の残りHPは、2969万5157だ。


 究極魔法の存在が、頭の中をやけに占める。

 だが、諦めたら終わりだ。
 自分の番が回ってくるまで、オレにできる事は何もない。

 ならば、最後まで信じるだけだ。
 オレが萌えた伴侶達は、魔王に大ダメージを与えてくれると。

 ナディン並に強い方がいれば、与ダメは300万!
 魔界の王クラスなら、600万!
 ルネさんの発明が大当たりなら、1000万以上!

 きっと、どうにかなる!
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