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ハーレム100 作者:松宮星

決戦(Ⅱ)

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魔界 その2

《王からのお言葉です。勇者との出逢いの(えにし)に基づき攻撃せよと、おっしゃっておられます》
 色っぽい淫魔は、魔界の王の秘書でもある。
 胸の谷間に王の分身をはさんだサキュバスは、今は王の代弁者だ。非常に誇らしそうだ。魅了したシャルルを召使いよろしく、側に侍らせているし。

 魔界の生き物に仲間意識などない。己か己の仕える存在をナンバー1と信じ、闇の世界の覇権を巡り対立している。
 だから、格づけにも異常にこだわる。理由もなく他者の下に置かれるなど、絶対に許さない。上の奴を殺してでも、自分が上に立とうとする輩ばかりだ。
 オレと出逢った順に攻撃順番を決めてもらえて、良かった。もめずに済んだ。


 てなわけで……
 魔界の一番手は、スライムとなった。

 召喚されてからずーっとぐにゅぐにゅ蠢きながら移動してスライムは、カネコの側まで行き着いていた。

 多くの世界でスライムは、冒険初心者向けモンスターとされる。
 物理耐性が高く剣や拳が効きにくいものの、HPが少ないんで力押しが可能。その上、液体生物なんで、魔法で蒸発・凍結させやすい。退治しやすいんだ。
 とはいえ、スライムは、獲物を内部に取り込み酸で溶かして吸収するモンスター。獲物をドロドロに溶かして喰っちまうって、エグイ特徴も持ってたりする。
 スライムが大量に湧いて津波のように押しかければ、なかなかの脅威。鎧も剣も何もかも溶かされちまうし。スライム津波が通った後には、ペンペン草一本残らないという伝承もある。

 だが、しかし……
 ザコのスライムが一匹でやれる事はたかがしれていて……

 スライムが魔王カネコを取り込む。けれども、巨大な魔王の全身を飲みこめるはずもなく、飲みこんだのはカネコの左足の足首からちょいと先までだ。
 蹄のある魔王が、片足だけゼリー状の靴を履いた感じ。
 そのまま、しばらくぐちゅぐちゅと蠢き、満足したのかスライムは魔王から離れて行った。

 ダメージは100……

 予想通りの結果。でも、やっぱり、せつない……

 オレはがっくりと肩を落とした。

「多くの世界のスライムは、捕食したものを数日、或いは数週間かけて吸収します。一度に消化できる量はさほど多くないのです。多分、精一杯の攻撃だったのではないかと……」
 オレからダメージ値を聞いたセリアが、慰めてくれる。

 そうだ、スライムが悪いわけじゃない。持てる力の限りを尽くして戦ってくれたんだから。
 悪いのは、スライムを伴侶にした奴だ……
 ちくしょー 十才のオレの馬鹿!


 つづいて、カネコに向かっていったのは『ゾンビのおねーさん』。
 ベティさんの部下のゾンビだ。
 ゾンビも、多くの世界で初心者向けモンスターとされる。
 神聖魔法や炎系魔法の耐性が、むちゃくちゃ低い、つーか、ほぼゼロだからだ。初心者の僧侶&魔法使いにとっては、経験値稼ぎの格好の敵なのだ。

 ゾンビの攻撃は、『噛みつき』が基本。人を襲って、状態異常にしたり、喰い殺したりする。
 ゾンビの一番恐ろしい点は、喰い殺された人間までゾンビ化すること。

 だが、しかし……
 ゾンビが脅威となるのは大量発生した時ぐらいだ。ザコのゾンビ一匹でやれる事はたかがしれていて……

 ゾンビが魔王カネコの左足に噛みつく。
 サブレが目を貸してくれてるから、人魚ちゃんの時よりもはっきりとスプラッターなお食事光景が見える。
 魔王化したカネコには血は流れていないもよう。だけど、毛深い体の下には黒い肌があり、変色した肉もあって……
 生肉がぐちゃぐちゃべしゃべしゃになっていく様は、目に楽しいものではない。

 ゾンビがカネコから口を離し、フラフラと離れてゆく。
 食事が終わったんだ。

 ダメージは……4989?

 意外とデカい! 人魚ちゃんよりダメが出たんじゃないの?

「行動を終えた仲間は47人。4003万3511から4700万を引いて……借金は696万6489になったわね」
 サラの独り言が、しっかりと耳に届いた。
 一時期497万にまで減った借金は、順調に増加中。
 けど、いいんだよ、スライムとゾンビが弱いのはわかってたから。


 こっからが、本番!
 魔界貴族の登場だ!

《んじゃ、まあ、ちょっくら遊んでやろうかねえ》
 オレの頭の上で、死霊王がフヒヒと笑う。

 ベティさんを頭の上にのっけて、アタッカー位置まで移動した。
 控えメンバーの場所とアタッカーの戦闘場位置との間には、目に見えない壁がある。結界役のポチの体だ。攻撃余波が仲間に届かないよう、防御壁の役割を果たしているのだ。

 英雄世界のコズエさんが設置した『MY ステージ君』を避け、カネコを目指す。
 近づけば近づくほど、カネコの姿が大きくなる。魔王は人間の五倍の大きさ。オレの背は、玉座に座るカネコの膝までしかないはずだ。
《そいやさ、気になってたんだけど》
 オレの頭の上からベティさんが、のんびりと問う。
《あんたの大好きな、おちちょー様はどーしたんだい?》
 う。
《あの女は不死だ。死んだんじゃないだろ? あんたの大一番にどーしていないわけ?》

「オレを庇って、石化した。だから、この場にいない」
 伴侶達にお師匠様の事を聞かれるのは、これで三回目。口にするのはつらいけど、いい加減、オレも説明するのに慣れた。
「だが、明日には石化が解ける。お師匠様が幸せな目覚めを迎えられるよう、魔王をきっちりぶっ倒しておきたいんだ」

《おちちょー様の為か。師匠が師匠なら、弟子も弟子だ。二人して、神にいいように使われやがって》
 ベティさんがオレの頭の上から、オレらを嘲笑う。
《誰に石化されたんだか知らないけど、創造神なら解けるはずだ》
「らしいな」
《けど、解いてくれないんだよね? わかるよ、神ってそーいうもんだ》
 グヒヒヒとベティさんが笑う。
《闇雲に神を信奉するなんざ、ただのマヌケさ。気まぐれで利己主義で残酷なのは、神も魔と一緒だ。神は、あんたら人間の為には生きない。自分の為に世界をつくり、自分の為にあんたに魔王を討伐させようとしているのさ》
「うちの女神様が腹黒なのは知ってるよ。けど、オレが魔王を倒さなきゃ、この世界は滅びる。オレは大切な人達を守る為に戦いたいんだ」
《だーかーらー それも、あんたの女神の御託だろ? 勇者が魔王を倒せないと世界は滅びる……本当にそうなのかどうかは、あんたが負けてみなきゃわからないよ》
 シュルシュルとベティさんの髪の毛がほどけてゆく。
《助けが必要になったら呼びな。あんたを神に盗られるなんざ、忌々しい。あいつらにやるぐらいなら、あたしが貰うよ》
「どういうことだ?」
 尋ねたが、ベティさんはヒヒヒと笑うだけだ。それ以上の事を語る気はないようだ。

《さぁてと……。踊ってみるかい、魔王の坊や?》
 オレの頭を離れたベティさんが、高く舞い上がってゆく。
 魔王の顔の高みまで上がったベティさんが、ボワンと煙を放つ。濃い紫というか緑というか灰色というか……濁った毒々しい色の煙だ。

 煙に包まれた魔王の体が、雨に濡れたかのように湿り、全身を覆う針のような毛が垂れさがり……
 カネコは、頭部から徐々に崩れていった。
 腐敗して、ドロドロに溶けているのだ。
 エグイ姿のはずなんだが、血や体液がないせいか、さほど生理的嫌悪感が湧かない。匂いが届かないせいもあるか。
 頭から大量の泥を浴び、やわらかな泥が重力のままに下へ下へと落ちていっているようにすら見える。

 腐りゆくカネコの中に……
 腐らないものもあった。

 カネコのちょうど胸の辺り。
 ドロドロと溶けてゆくカネコの肉にまみれながらも、それは清浄だった。力なく垂れる黒髪、日に焼けていない白い肌……カネコの胸から生えているものは人の姿を保っていた。

「ヴェラ……さん?」

 ズシャッとカネコの肉体が床へと崩れ落ちる。が、瞬く間に、玉座に魔王が復活する。全身が針状の毛で覆われ、双眸は松明のように燃え、悪魔の角、悪魔の翼、悪魔の爪と蹄を持っている。腐敗の術をかけられる前と、同じ姿だ。

 49万8946ダメージ。

 ベティさんが舌打ちをしながら、オレの頭へと戻って来る。
《っくそ。あのクサレ僧侶め! あいつに体を吹き飛ばされたせいで、ろくな力が使えやしない! いいかい、本当のあたしは、この何倍も強いんだからね! 勘違いすんじゃないよ!》
 オレの頭の上で、ベティさんが暴れる。悔しくてたまらないのはわかるが、オレの首を絞めないで欲しい。
 しかし……
 そうなのか……
 ベティさんの与ダメが低かったのは『マッハな方』のせいなのか……


 蛇身王とすれ違った。
 エドナは、カネコに負けず劣らず大きい。全裸の人間の女性の上半身と、巨大な蛇身を持つエドナはカネコを見つめ心の叫びを口にした。

《おなか、ちゅいた〜!》
 舌ったらずの声で叫んで、エドナは魔王へと突進した。
 緑に輝く蛇身で魔王に絡まりつき、愛らしい顔を魔王へと近づける。まるで口づけするかのように。

 エドナの赤い唇が、大きく開く。
 上顎にも下顎にも、鋭い牙だらけだ。
 くわっと開かれた口が、どんどん大きくなってゆく。
 人間の口の限界はとうに超えている。下顎が外れ、尚も開かれてゆく。

 そして……

 あんまりな光景が広がったのであった。

 茫然とたたずむオレの背後から、やけに冷静な学者様の声が聞こえた。
「擬態ですね。あの上半身は獲物をおびき寄せる為のカモフラージュなのでしょう」
「ああいう仔は、たまに居るわ。捕食者から隠れるためとか、獲物を捕えるために、他の生き物の姿を真似ているの」と、獣使いさんまで解説してくれる。

 いや、そういう生き物が居るのは知ってるけど。
 だけど、下半身が蛇、上半身が裸な美女だと思ってたのに……
 肌を裂いて下顎がどこまでも広がってゆき上半身全部が口になっちゃうなんて、あんまりだ……

 人間だった部位を口としたエドナが、魔王を頭からバキバキと呑みこんでゆく……
 自分とほぼ同じ身長の魔王でも、喰えちゃうのか……さすが蛇型魔族。
 玉座ごとカネコを呑みこみ、エドナの蛇身が膨れ上がる。
 だが、足まで呑みこんだ途端、もとの場所にカネコと玉座が復活し、エドナの腹の膨らみも消える。

 79万7999ダメージ。

《おいちかった〜》
 満足って顔で、エドナが下がって来る。頭部は人型に戻っている。愛らしい擬態が復活している。髪の毛の下の胸がぷりんぷりん動いていたが、心は踊らなかった。


《ようやく出番か……》
 吸血鬼王ノーラが走り出し、バッ! とマントを広げる。
 サブレが俯瞰視点で、魔王とノーラを見つめる。その角度だと、見たいところがよく見えない。
 とはいえ、サブレの目を借りないと、ノーラの後ろ姿しか見えんし。風にたなびく黒髪とマントだけ見ても……
《美学の欠片もなき醜き魔王よ。美しいこの私が切り裂いてくれよう!》
 背のマントが蝙蝠の翼となる。
 おおおおお!
 今、チラッと中が見えたぞ!
 飛翔した吸血鬼王が右の爪を振るう。
 カネコの左肩から腹にかけてが、ざっくりと切り裂かれる。
 勇者(アイ)が吸血鬼の攻撃数値を捉える。
 166万6666ダメージ。
 魔王をドロドロに溶かしたベティさんや、丸呑みしたエドナの方が、見た目は強そうだった。が、魔王に与えたダメージは圧倒的にノーラの方が高い。
 攻撃後、ノーラは変身。蝙蝠になって、オレらの元へと戻って来る……この前もそうだったよな。せっかくの裸マントなのに。サービス精神に欠けるぞ、こいつ。


《ユーシャくん、このまえは、ありがとねー おかげであたしの国、だいぶ立ち直ったよー》
 でっかい鎌を持ったチビッ子天使が、パタパタと宙を飛んでいる。
「オレは何もやってないよ。てか、おまえが魔界にひきこもってるから、シモーヌさんが連絡つかなくて困ってただけだし」
《えへへ、ごめんねー》
「おまえの国、飢饉だったんだぞ。もうちょっと自分の支配世界を大事にしろよ。信奉者を幸せにしてこそ、支配神、あ〜、じゃない、暗黒支配神を名乗れると思うんだ」
《うん。そーだよね。これからはちょくちょくカオ出すようにするよ》
「それがいい。そうしろよ」
 と、オレが言ったら、頭の上のベティさんが爆笑を始めた。《やっぱ、おにーちゃん、最高! 馬鹿すぎ!》とか喜んでる。む? 何が馬鹿なんだ?
 頭の上でゲヒヒと笑い転げるベティさんはほっといて、死神王に尋ねてみた。
「……シモーヌさんとは仲良くやってる?」
《もっちろん! 毎日、ラブラブチュッチュ♪》
 サリーが嬉しそうに笑う。
《マオウ戦の後、魔界のおうちにシモーヌちゃんをむかえるんだー 楽しみー》

 水色の髪と白い翼が、ぶわっと宙に広がり、サリーの姿が変化する。
 オレより背が高くなった。等身が伸びると、翼も六枚に増える。二枚で顔を覆い、二枚で下半身を隠している。体は隠してないんで、スケスケのミニドレスと下着が丸見えだ。ほどよく膨らんだ胸がキュンキュンもの。
《恩に報いる為、本気でいきましょう》
 背の二枚の翼で飛翔し、サリーは遥か高みへと舞い上がり、三日月のような鎌を振り下ろした。
 その攻撃の一瞬だけ、顔と足を覆っていた翼も開かれる。
 201万2012ダメージ!
 さすが、死神王!
 攻撃を終えた途端、サリーはいつものチビッ子に戻った。
 ノーラのマントの中もそうだが、等身の伸びたサリーの素顔も、オレにとっては謎。
 美しい謎を抱えて、魔族ってのは人間を惹きつけるのかねえ。


 ラモーナが、蝙蝠の翼を広げる。
《あたくしの相手を務めるには、ちょっと坊やすぎね。でも、今日は特別よ。サービスしてあげる……ラモーナの口づけに酔いなさい》
 魔界の王の眼前まで飛んで行った淫魔が、毛むくじゃらの魔王にたっぷんたっぷんの胸を押しつけ、むちゅ〜っと熱く接吻する。

 吸精だ。

 ちゅうちゅう、くちゅくちゅ、むちゅむちゅ、ちゅるちゅる、音が響く。

 音を聞いてるだけで、ドキドキしてくる……

 84万8484ダメージ。

《青臭い……》
 唇を離したラモーナが、クスクス笑う。
《でも、美味しかったわぁ。ありがと》
 触れるだけの軽いキスであっても、仕草がいやらしい。

《可愛い坊やに、素敵なものをあ・げ・る》
 胸の谷間に挟んでいたものをラモーナは天へ向かって投げ、魔王に背を向けた。
《偉大なる我が王の御力。その力の前に己が無力さを噛みしめるがいいわ》
 オホホホと笑いながら、ラモーナはポチ2号の結界の中に戻る。
 そのすぐ後に……

 光と音が頭上で爆発した。

 太陽が降りて来たのかと思うほどのまばゆい光。まぶしすぎて、目がチカチカする。サブレの目を借りているというのに。
 頭の中に、ゴォォォォーンって感じに荘厳な音楽が鳴り響く。ボリューム大きすぎるのだ。頭が割れそうなほどの大音量が、オレの体を揺さぶる。

 ラモーナ達魔族が不快そうに頭を抱え、人間は光と音の攻撃になす術もなく体を小さくする。

《ニーナちゃん!》
 ソワが懸命に白い幽霊を庇っている姿が見えた。
 オレじゃない、サブレが見てるんだ。
 浄化の光で白い幽霊が消えないよう、自分の体の中にニーナを取り込んでいる。
 光のルーチェさんが、二人を包み込むように守護結界を張った。降り注ぐ煌めく光の雨を、光の結界で防いでいるのだ。

 凄まじいまでの神聖攻撃。
 だが、オレらに降りかかっているのは、攻撃余波にすぎなかった。

 光の洪水に飲まれ、魔王カネコは消滅していた……





《偉大なる我が王の攻撃を受けながら、復活? ありえませんわ! 分身だとて、我が王の100分の一のお強さ。あの程度の魔王、再生不可能なほど切り刻まれて当然ですのに!》
 変わらぬ姿で玉座に座るカネコを見て、淫魔がキーッ! と怒る。その手が持っているのは、一枚の白い羽根。攻撃を終えた魔界の王の分身は、羽根と化してしまったのだ。
《しかも、王の攻撃がたったの600万ダメージ? 少なく見積もっても、2000万ダメージは与えたはずですわ!》

 又しても、攻撃上限がかかったのか……

《楽勝で勝たせたくないんだろーよ、あんたの所の女神ちゃまは》
 ヒヒヒと頭上から笑い声が聞こえる。
《よ〜く考えてから、行動しな。神なんざの為に、命をかけたら馬鹿をみるよ》



「魔界の伴侶たちよ、感謝する」

 魔法絹布の右から六番目――魔界の魔法陣から輝きが生まれる。
 魔法陣から上向きに、渦巻く光があがる。

 まばゆい輝きの中に、みなが吸い込まれゆく。
 スライムもゾンビも、イヒヒと笑う生首も、でっかいラミアも、吸血鬼と淫魔も、堕天使達も、光に消える。


「魔界8人の伴侶の総合ダメージは1182万9196、魔王へのダメージの累計は、5185万7618となりました」
 セリアが、備忘録に現状を記す。

「行動を終えた仲間は53人。5185万7618から5300万を引いて……借金は114万2382。あと、もうちょっとで黒字……」
 メモ帳に筆算をしたサラが、フーッと息を吐く。


 魔王の残りHPは、4814万2382。
 半分を切った。

 これでもう……魔王に負ける事はない。
 オレがチュド〜ンすりゃ、4999万9999ダメージだ。削りきれる。

 ただ、気がかりなのは、100人目がいない事。
 100人の伴侶が揃わなきゃ魔王は倒せない……女神様は託宣でそう言っていた。

《闇雲に神を信奉するなんざ、ただのマヌケさ》
『女神を信用するな』

 ベティさんやマサタ=カーンさんの声が、頭の中に響く。

 女神様への不信はある。
 だが、それでも、オレは……勇者として、託宣通りに魔王を倒す。託宣通りじゃなくとも魔王を倒せるのかもしれないが、そうだとしても……うまくいくかどうかを、この世界の未来を賭けて試すなど嫌だ。

 100人目は、セリアがどうにかしてくれる。シャルロットちゃんやマルティーヌ先生をジョブ変えする方法があるって言ってるんだから。

「お兄さま……」
 ふと見ると、シャルルを介抱していたはずの義妹が側に居た。
 魔界の王の浄化の光のおかげで魅了は解けたものの、シャルルの野郎はひどい頭痛になっていた。ジョゼは、水筒の水で濡らしたハンカチを渡したりしていたんだが。

「髪の毛が……」
 ジョゼの白い指が、オレの首に絡みついていたものを取ってくれる。金に輝く髪が一房……ベティさんの髪の毛だ。

 ベティさんの声が、頭の中に蘇る。
《助けが必要になったら呼びな。あんたを神に盗られるなんざ、忌々しい。あいつらにやるぐらいなら、あたしが貰うよ》

 この髪の毛を使えば、ベティさんを召喚できるのだろうか……?

 ベティさんの髪を、オレはハンカチにくるんでポケットにしまった。


 魔界に行く前に、セリアは繰り返し言った。
 魔族を仲間に加えても心を許すな、光の教えを常に守れ、と。
 悪魔と契約を結べば、悲惨な最後を迎える。決して悪魔に誘惑されてはいけない、とも言っていた……

 ベティさんに助けを求める気はない。

 だが、ベティさんの髪を捨てる覚悟もない。

 オレは、女神様への不信を捨てられないのだ。
+注意+
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