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ハーレム100 作者:松宮星

決戦(Ⅱ)

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ジパング界 その2

「一番槍の名誉は、我が従姉カガミ マサタカに授ける」
 ミナモトの大将のお言葉に、「ありがたき幸せ」と巫女さんがかしこまって答える。

「二番手は、カエデだ。忍びの技にて、敵を消耗させよ」
「はいっ! お任せください!」 
 大将直々にお声をかけていただいた事に、くノ一が感激する。

「三番手は、イバラ()殿にお願いする。『オニキリ』にて魔王を斬っていただきたい」
 母親の友人だと思ってるから、イバラギに対しわりと丁寧だ。
「承知いたしました。かよわい女の身ではありますが、お力添えいたします」
『女の身』を強調して、イバラギが答える。男とバレて、婿候補にされたくないんだな。

「四番手は、シュテ子殿にお頼みしたい」
「俺が四番? へー トリじゃなくていいのか? 俺が暴れたら、ビビるぜ。後の奴が、存分に力が振るえなくなるかもな」
 聞き捨てならぬと言うように、ピクッとヨリミツが反応する。ミナモトの大将の自分こそが最も優秀な武人、と思っているのだ。
「それは、頼もしい。そなたの戦ぶり、大将として私もとくと見ておこう」
 挑発すんなよ、シュテン。おまえとイバラギとハルナさんは、鬼の姿で攻撃するんだろ? ヨリミツに見られちゃマズイんだろうが。

「母上には副将をお願いいたします」
「心得ました」
 四十代の外見の女性が頷く。武家の家刀自らしい、内掛け姿だ。剣で戦うとは思えない。カガミ家出身だし、巫術を使うのかな?

「最後に、ミナモトの大将の私が『ヒザマル』にて魔王を斬る」
 涼しげな顔立ちの侍がオレに尋ねる。
「よろしゅうございますか、勇者様?」

 よろしゅうも何も……

 オレは学者様へと視線を走らせた。
『カガミ マサタカ』の名前には反応してた。けど、セリアは不機嫌そうに顔をしかめてるだけで、口を開こうとしない。
 参謀役として口をはさむ気はないようだ。

 他の仲間も、無言でオレらを見守っている。

 オレはヨリミツへと向き直った。
「任せる」

 ヨリミツが微かに頬を染めて微笑む。ちょっとはにかんでるような……武人っぽくない笑い方だ。
「ご信頼いただき、嬉しゅうござります。我等の戦いを、とくとご覧ください」





 アタッカー位置には、英雄世界のコズエさんが設置してった『MYステージ君』がまだ残っている。

 マサタカさんは舞台を避けて、もっと魔王に近い所まで進み出て瞼を閉じた。
 ムニャムニャムニャと呪文を唱える。自動翻訳機能があるのに聞き取れない。ジパング界の者にすら理解不能な、巫女専用の言語と思われる。
「我が命に従い、現れ出でよ、輝ける存在(もの)カギロイ」
 巫女さんの求めに応じ、まばゆいばかりの光が空より生まれる。
 マサタカさんの光の精霊が、実体化したのだ。
 長い呪文の間に既に命令を伝えたのか、光の精霊は魔王へと真っ直ぐに進み、浄化の光を降り注ぐ。
 清らかな光が、邪悪に堕ちたものに痛みを与える。
 88万4791ダメージ。
 100万には届かなかったけど、さすが本職巫女さん。英雄世界の伴侶達とは違って、まともなダメージが出た。

 使命を終えた精霊が、巫女さんのもとへと戻って来る。
 人型じゃない。光の玉だ。そいや、あっちでマサタカさんが使ってた精霊達はまったく人型にならなかった。人型にはしないのか。
《カガミ マサタカは精霊達を厳しく管理しているのです。めったに人型にさせませんし、常に自分の監視下に置いています》
 オレの内にいる土の精霊が、教えてくれる。お友達感覚のオレらとは、全然違う関係ってわけか。
《はい。管理しないと、そこら中に鬼が……精霊の子供があふれてしまうのだとか》
 へ?
《あちらの精霊は、惚れっぽい方々ばかりなのです。今、光の精霊は主人にこう話しかけてます。『アタシの活躍見てくれたー? 惚れた? ねーねー そろそろやろーよ。アタシ、マサタカちゃんの赤ちゃんが欲しいなー えー 駄目なの? んじゃ、そこらの女ひっかけてもいい? この世界の女なら後腐れないでしょ? どれでもいいけど……あ〜 あの子がいいなあ。尼僧。禁欲の僧衣をはぎとるのって、背徳的で快感なんだよねー』》
……それ、本当に光の精霊?
 呼び出す度に精霊達から『そろそろ子作りしよーよ』と、マサタカさんはセクハラされてるらしい。気の毒に……
《どちらが主人やら……。そういう乱れた関係にも、ある種の趣がありますよね……》
 土の精霊が、オレの中で興奮する。言っとくけど、真似するなよ。オレは嫌だからな。

 セクハラ精霊をまとわりつかせながら、マサタカさんはアタッカー位置から下がっていった。


 代わりに進み出たのは、ヨリミツLOVEの女忍者だ。
 アタッカー位置に立ったカエデは、両手で印を組み、ぶつぶつと呪文を唱える。これも聞き取れない言語だ。

「分身の術!」

 一部から、おお! っと歓声があがる。
 オレとセリアとシャルルのことだが。

 忍者は、ジパング界や英雄世界他、三つの世界で存在が確認されている。
 超一流の諜報員で暗殺者。
 その上、ファンタスティックな忍術を使い、アメージングな体術で闇を駆け、風のように現れ風のように去ってゆく神秘的な存在なのだ。
 歴代勇者の間で、超人気ジョブ。世に伝わっている勇者物語でも、非常に格好良く描かれている。

 忍者の技の中でも、分身の術はまさに花形! 本当に分裂するわけじゃない。幻術&素早く動く体術で自分が何人も居るかのように見せかける、高等技なのだ。

 印を組んでたたずむカエデの背後から、次々にカエデが現れ、ピョンピョンと床を蹴り魔王へと斬りかかってゆく。
 二人、三人、四人、五人、六人……うぉ、十人越えてる!
「あぁぁ、何体分身ですか? 十二、十三……」
 セリアが身を乗り出す。速すぎて見えない! と。
 敵の目を惑わす為の技だから、動きは複雑で、一箇所に留まらない。交差するような動きが多いし、正確な数を数えるのは普通の人間には無理だ。
「これは凄い……八体が基本と記録にはあったのにその倍以上……」
 セリアの影響で勇者関係の本を読みまくったお貴族様も、初めて見る忍者の技に興奮を隠せないようだ。
「三十二分身だ」
 サブレの目を借りているオレがそう教えてやると、セリアとシャルルが更に盛り上がって喜ぶ。

 他の者も忍者の技に驚いてはいるようだが、熱くなりすぎてるオレらのせいでちょっと引き気味。

 三十二人のカエデが、次々に小刀で魔王を斬ってゆく。
 分身それぞれがダメージを出してる!
 すげぇ!
 一人あたり1万ダメージで32人だから……
 全部で……

 え?

……あれぇ?

「で、女忍者の与ダメージは幾つだったの?」
 筆記用具を持ったサラの質問に、オレは力なく答えた。
「32万……」
 1万×32人=32万だ。
 忍術はド派手だったものの、意外と総ダメージは低かった……

 いやいやいやいや! がんばって戦ってくれたんだ、不満に思っちゃ失礼だよな!


『オニキリ』を手にしたイバラギが、ゆらりと歩き出す。

 ハルナさんの目配せに、オレは頷きを返した。
「ヨリミツ」
 わざと背後から声をかけ、侍大将を振り返らせる。
「オニキリとヨリミツの刀は、ミナモト家に伝わる兄弟刀なんだよな? 何で刀が兄弟なんだ?」
「鍛えし刀匠が同じなのです。今はオニキリと名を変えた太刀は、もとはヒゲキリと申しました。髭すらも狙いたがわず斬れるという名刀で、私のヒザマルは……」
 自分の家の家宝のことをオレに語れるのが嬉しくてたまらないのだろう、ヨリミツが嬉々として兄弟刀について語る。

 ヨリミツの背の向こうで、女装した男が刀を抜く。
 一瞬で髪がまっ白となる。
 白髪鬼イバラギが、オレの伴侶の『オニキリ』を振るって魔王の足を斬る。

 57万9739ダメージ。

 クッ……100万ぐらい出ると思ったんだが……

《神聖武器は、振るい手を選びます。とりあえず使用を許してやるレベルの者に持たれても、武器は本気になりません。真の実力を引き出せるのは、武器に惚れられた者だけなのです》
 ルーチェさんの解説を聞き、納得する。
 つまり、『オニキリ』はイバラギに惚れなかったわけだ。
 納得はいったが……落ち込みが激しくなる。取り返すどころか、借金がどんどん増えている……


「いかがなさいました、勇者様?」
 侍大将が眉をしかめ、目を細めて、探るようにオレを見る。
「何か気がかりでも?」
 オレは、よっぽど情けない顔をしてたんだろう。

 鬼の棍棒をブンブンと振り回しながら、シュテンが魔王の前へと進んで行く。
 その姿をヨリミツの背の向こうに見ながら、オレは尋ねてみた。

「さっき、オレの勝利は決まっているって言ったよな?」
「はい」
「なんで、迷いなくそう信じられるんだ? 1000万近くのダメージが足りないんだ。これから先の人間全員が100万出してくれたって1億に届かないってのに、魔王に100万ものダメージを出せる人間はめったにいないんだぞ」

「信じねば、叶わぬからです」
 む?
「勇者様。神仏とて、全ての人間の願いを叶えるわけではありませぬ。幾千幾万の者のそれぞれの望みは、共に成り立たぬものもございますゆえ」
 それは、そうか……
 戦争してるA国とB国が両方勝利を祈ったところで、どっちかしか神様も勝たせてやれないわけだし。
「心より神仏を信仰し、神意に叶った者のみが、加護を受けられるのです。誰よりも真剣に祈れば、望みは叶うのです」
 ヨリミツが、オレへと微笑みかける。
「神仏に誓いを立て心より願ったからこそ、私は勇者様に出会えました。私こそが、この世で一番の果報者にございます」
 ヨリミツがオレへとしなだれかかってくる……

 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……

 な、な、なん、か、すげぇ可愛い……
 男にしか見えないし、威張りまくってるし、思い込みが激しいし、かなり宗教入ってるけど……
 でも、とても、いじらしい……

 ヨリミツの背を抱きしめたい! と、オレが思っている間に、シュテンは変身していた。
 髪が赤くなり天に向かって逆立つ。炎のようにゆらゆらと揺れている。
 筋肉隆々だった体が、一層大きく、一層逞しくなる。
 鬼そのものの異形となったシュテンが跳躍し、鉄鋲だらけの鬼の棍棒を魔王の頭上へと振り下ろした。

 ずしゃっと……頭部が陥没する。

 一瞬で治ったけど、ちょっとエグかった! 中身とか出たし!

 206万1574ダメージ!

 うぉ!

 200万越えだッ!

「良いお顔をなさっておられる」
 オレから少し離れ、侍大将がオレの顔を見つめている。
「シュテンが……あ、いや、シュテ子さんが200万以上のダメージを出したんだ」

「ほう……。大口を叩くだけのことはある」
 ヨリミツが振り返った時には、シュテンは黒髪の大柄美女姿に変化していた。
 ニヤニヤ笑いながら、オレ達に棍棒をブンブン振ってみせる。

「あやつの戦ぶりを見損ねたか……」
 残念そうに侍大将がつぶやく。

 目の端で見た。
 ハルナさんが、アタッカー位置へと向かい始めた。

 ヨリミツの気をそらさないと……

「ヨリミツ! こっち向いて! オレの目を見て!」
 素直なヨリミツが、言葉通りにする。
 後悔してます! って声をつくって、ヨリミツに謝罪した。
「すまない、オレのせいだな。オレが情けない事を言ってたから……」

「何をおっしゃいます、勇者様」
 ヨリミツが穏やかに微笑む。

「あやつの戦いを見損ねた事など、何ほどの事もございませぬ。勇者様に関わる事こそが、我が大事(だいじ)。勇者様のお顔に笑みが戻り、ほんに嬉しゅうございます」

 ズッキュン! と何かが突き刺さった。

 う。

 うぉぉ!

 オレのハートは、キュンキュンキュンキュンと鳴った!
 鳴り響いた!

 可愛いすぎだろ、ヨリミツ!
 萌え萌えな台詞、()で言いやがって!

 見つめ合うオレ達の向こうで、ハルナさんが戦闘を開始していた。
 土の精霊が脳に直接映像を送ってくれる。
 乙女の姿に戻ったハルナさんは、呪符を使った。
 紙で出来た人形(ひとがた)が見る見る大きくなり、宙に舞い上がったそれが魔王に抱きつく形で爆発する。

 64万2853ダメージ。

 ハルナさんの愛らしい顔に、苦いものが浮かぶ。
 嫁して巫術より遠退いた身ではこれ以上は望めぬか……と、低くつぶやいて。


「ヨリミツ、大将たるあなたの出番ですよ」
 母親にそう声をかけられ、凛々しいヨリミツの顔が一層凛々しくなる。

 呼吸を整え、目を閉じる。
 神仏に祈りを捧げているのか。

 目を開けたヨリミツは、オレとハルナさんに涼しげな笑みを見せた。
「参ります」

 赤の大鎧の侍が、ぴょーんと飛び跳ねる。
 軽やかに床を蹴り、ぴょんぴょん跳ねて魔王へと迫ってゆく。
 そのバッタみたいな姿を見てたら、何だか胸が更にキュンキュンしてきた。バッタみたいでも、かわいい……

「ヨリミツの気をそらしてくだすって、ありがとうございました」
 ハルナさんが礼を言う。
 気をそらしたというか……
 ただ話していただけで……
 オレの胸はキュンキュンしどうしだった。

『ヒザマル』を抜いたヨリミツが、魔王の体を使って更に高みへとあがり、魔王を袈裟斬りにする。

 129万6446ダメージ。

 会心の一撃だったのだろう。

 床に降り立った、ヨリミツが振り返る。満ち足りた笑みを浮かべて。

 胸がチクッと痛んだ。

 ヨリミツが、すげぇ可愛い。

 だが、オレは……
 この女性(ヒト)を選べない。

 オレは、お師匠様の跡を継いで賢者となるのだ。





「ご武運をお祈りし精進潔斎をして、再会の日をお待ちしております」
 けなげな女性に、オレは……待たなくていい、神意に叶う男が現れたら結婚してくれ、としか言えなかった。


「ジパング界の伴侶たちよ、感謝する」

 魔法絹布の右から四番目――ジパング界の魔法陣から輝きが生まれる。
 魔法陣から上向きに、渦巻く光があがる。

 まばゆい輝きの中に、みなが吸い込まれゆく。
 シュテンとその荷物、巫女さん、ハルナさん、くノ一、そして、ヨリミツが光に飲まれ消えていった。

 オレを拳を握りしめた。
『誰よりも真剣に祈れば、望みは叶うのです』
 ヨリミツの言葉が、頭の中に何度も響く。

 最後の最後までチュド〜ンな未来はこないと信じる……そう言ったくせに、オレはフラフラしすぎだ。
 ヨリミツのように真剣に、オレは未来を信じるべきだ。

 ボカリ! と頭を殴られる。
 幼馴染が、すぐ側に立っていた。

「……あんた、勇者なのよ。働きなさいよ」
 む?
「セリアさんの報告、聞いてた?」

「え、なに?」

 セリアが溜息をつき、メガネのフレームを持ち上げる。
「繰り返し、御報告します。ジパング界6人の伴侶の総合ダメージは578万5403、魔王へのダメージの累計は、3202万8422となりました」

「行動を終えた仲間は42人。3202万8422から4200万を引いて……借金は997万1578なのよ」
 メモ帳を見せつけ、サラがギン! とオレを睨む。
「借金、微妙に追加なのよ」
 そうなのか……シュテンなんか200万越えのダメージを出したんだが。

「ねえ、ジャン……アタシ、さっき、シュテンとけっこう話してたんだけど……」
「え?」
「……何を話してるのか、気にならなかった?」
 ジパング界で、サラはシュテンにさらわれた。
 シュテンを男だと思い込んでたオレは、手とり足とり可愛がられているって聞いた時は、カーッとなった。心配で心配でたまらなかったんだが……
 外見はアレだが、シュテンは女だったわけだし。
 さらったのも、サラが鬼の仲間だからだ。シュテン曰く、サラの遠いご先祖様には炎の精霊が居るんだそうで。シュテンは炎使いとしてのサラの才能に惚れ込み、自らサラに修行をつけた。
 それだけの事だった。

 シュテンは、サラの炎魔法の先生だ。話しこんでも、別にいいと思う。

 てか……

「サラがシュテンと話してたなんて、気づかなかった」

 そう言ったら、足を思いっきり踏まれてしまった。

「それはそうよね! あんた、ヨリミツさんとずーっと見つめ合ってたものね!」
 痛ぇよ!

 サラが鼻の頭を赤く染めて、プンスカ怒る。
「さっさと次の世界の伴侶を呼びなさいよ!」 

 ジョゼも、目に涙をためてオレをジーッと見ている。

 他のみんなも……何か、いつもと違う。

 何で?


 魔王の残りHPは、6797万1578だ。
+注意+
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