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ハーレム100 作者:松宮星

決戦(Ⅰ)

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英雄世界 その2

 サッちゃんが、スポットライトのやわらかな光に包まれる。
 ステージの上で、サッちゃんはゴキゲンだ。マイクを握りしめ、ニコニコ笑っている。

「こんにちはー」
 サッちゃんがご挨拶をして、ぺこりと頭を下げる。
 パチパチパチって拍手がわきおこる。『MY ステージ君』の音響効果だ。マイクを持った者が何か言った後、何種類かの拍手喝采・劇的な効果音がランダムに選択されステージから流れる仕組みなのだ。
 ニーナやソワ達も『MY ステージ君』に合わせ、拍手を送る。
 オレも拍手した。
 サッちゃんは舞台の上から魔王に向かってしゃべっている。オレの位置じゃ、本当は背中しか見えない。
 だが、はずむようなちっちゃな体はもちろん、大きなおめめ、ふっくらほっぺ、元気なお口までも見ることができた。
 サブレのおかげだ。サッちゃんの晴れ姿を見たい! って思うオレの為に、回りこんだ視点映像を脳に送ってくれてるのだ。
 ありがとう、サブレ! 特等席から、舞台を見てるみたい!

 ルネさんの発明品『MYステージ君』は、言霊効果アップ・フィールド発生装置だ。
 組み立て式ステージ、自動追尾スポットライト、マイクの三点セットてな、ナニな見た目だが。
 舞台の上でスポットライトを浴びれば、注目されやすい。注目されれば言霊効果はアップするし、ステージ上に魔法補助フィールド発生魔法陣がある。マイクを持ってしゃべると、本当に言霊効果があがるらしい。


 英雄世界の伴侶達は、アタッカーと言霊チームに別れて魔王に敵対行動をとる。

 アタッカーのうち、ヤチヨさんと看護婦さんが霊力で攻撃。マドカさん、カガリさん、アオイさん、ルナさん、婦警さん、ランランさんが、ルネさんの武器を使う事になった。

 で、残りのメンバーが言霊チーム。言霊使い師、カネコの知り合い、幼児だ。
 ユナ先輩が張った力場から、言霊チームは『魔王に話しかける』。
 思いやり、無垢な言葉、悪口なんかは、相手の魂を揺さぶる呪となる。しゃべり続け、相手に呪を与え続けることで、言葉の呪は威力を増していく。
 けれども、オレの伴侶はそれぞれ一回しか攻撃できない。攻撃に該当するのはその人の一言だけ、あとはノー・ダメ。
 たった一言では、ユナ先輩でも100万ものダメージは無理だし、言霊素人はなおさら無理だ。
 開始前、自分達はたいしたダメージを出せないだろうって、先輩は言った。
 でも、アタッカー達の攻撃が終わるまで言霊チームはしゃべり続けたい、カネコに言霊を投げ続ける事に意味があるから、とも。

 九十七代目の希望を、百一代目勇者として受け入れた。
 言霊チームは、カネコの知り合いと幼児たち。もともと、攻撃してもらうのはナニだから、戦闘補助でもしてもらおうと思ってたメンバーだし。

『MYステージ君』の設置をやったコズエさんも、カネコへの話しかけに参加する。既に敵対行為を終えているんで、いくらしゃべってもノー・ダメだが、カネコの知り合いなんで。


『MYステージ君』には、今、三人の伴侶達が昇っている。

 一人は、中央でスポットライトを浴びてるサッちゃん。言霊チームの一番手だ。

 二人目は、ユナ先輩。
 ステージの左端……魔法陣のない位置に立って、『MYステージ君』にあわせ、言霊使い師の力場を張っている。
 先輩のつくった力場は、先輩が何か『一言』を言うまでは解けない。
 その性質を利用して、仲間の言霊が強力になるようにサポートしているんだ。
 手で印を組み目を閉じているユナ先輩は、いつになく真面目な顔をしている。
 他の仲間の攻撃が全て終了したら、先輩が『一言』を言って、英雄世界のみんなは帰還する。そういう予定。

 三人目は、アタッカー・チームのカガリさんだ。
 ステージの右側にいるカガリさんは、『悪霊あっちいけ棒 改・改』で魔王を照らしている。
『悪霊あっちいけ棒 改・改』の先端には、聖教会で清めた水晶がついている。聖なる水晶を通す灯りは、邪悪にはダメージとなる。
 戦闘素人でも取り扱いは簡単。だが、光をあて続けねば、ダメージは伸びない。一回でもライトが魔王からそれたら終わり。攻撃終了になってしまう。
 改・改を持った右手を、カガリさんは左手で支えている。少しでも長くライトをあて続けようとしてくれてる。いい人だ。


「さくらぐみ、ももせ さつき です」
 毛むくじゃらの魔王が相手だってのに、ぜんぜん怯えていない。サッちゃんは無邪気に笑っている。
「サッちゃんってよんでね」

 またもや、ずっきゅん! と何かが心に突き刺さった。

 サッちゃん、か、か、か……かわいいッ!

「サッちゃんね、ブランコすきなの。たちこぎ、だーいすき。おにーちゃんは?」
 舌ったらずの声がキュート……
「びゅんびゅんして、ぽーんするの、すき。おにーちゃんは、なにがすき?」
 きらきらの笑顔も、マイクを持ってるちっちゃなおてても、すてき! ふにふにって感じ! かわいい!

 視線を感じる。
 オレを見ているのは……ジョゼとサラ、マドカさんと婦警さんだ。
「あんた、頬がゆるみまくりよ」
 サラの声が冷たい……
「勇者さまは、子供が本当にお好きですね……」
 マドカさんの眼差しが、凍てつくようだ……

 いや、でも!

 かわいいものは、かわいい!

 小さきものは、みなかわいいんだ!
 キミ達だって、子犬や子ネコを無条件に可愛いと思うよな? 保護欲をかきたてられて、キュンキュンしちゃうだろ? 一緒だよ!
 子供の笑顔を見て癒されるのは、普通だろ、ふつーう!

 なんで、おにーちゃんから視線をそらすんだ、ジョゼ!


「どーして、おへんじしないの?」
 サッちゃんの怒った声が響く。ずーっと話しかけてるのに、カネコが無反応なのに怒ったようだ。プ〜と頬を膨らませる。

「おくちがあるでしょ? おはなしできるのに、だんまりなんて、へん。おにーちゃん、おかしいよ」

 ズキン! と、言霊の矢がカネコの胸を貫く。
 5000ダメージ。
 幼児の無垢な一言が、つき合い下手のカネコにはダメージとなったようだ。


 プンプン怒ったサッちゃんは、コズエさんにあやされて舞台から降りた。
 続いて舞台にあがったのは、音楽の先生だった。
 言霊チームの二人目。
 マイクを持った先生に、スポットライトがあたる。

「榊原です。金子君、ずっと異世界でひきこもっていたから知らないでしょうけれども、あなた、進級できたのよ。3−Aよ」
 澄んだ声だ。音楽の先生だからか。
 先生は真面目な顔で、魔王化した生徒を見つめている。
「卒業を待たずに学校を離れてゆく生徒達を何人も見送ってきました。高校は義務教育ではありません。不登校も、本人の意思なら仕方がないとは思います。高校以外の道に生きがいを見つけたのなら、いいんです。でも、そうではないのでしょう? もう一度、将来を考えてみて。あなた、魔王のままで本当にいいの? せっかく入学した高校を、せめて卒業してみない?」
 更生して高校に復帰なさい、と先生がカネコを説得する。
「二年時の進路希望は、T大だったわね? 合格判定八十%。あなたは努力家だもの。授業の遅れも、きっと取り戻せる。魔王になったからって、それで終わりじゃないわ。あなたに復学の意志があるなら、先生、手伝う。どんなあなたでも受け入れるわ」

 えっと……
 こういうキャラだったのか……
 次元穴に憑依されたヤバい姿しか知らなかった。が、魔王に復学しろとか、ちょっとズレてる……

 天然先生?

「それに、よく考えて。あなた、このままだと……」
 そこで先生が一呼吸を置く。ダラララ〜ンと『MYステージ君』から効果音が流れる。
「最終学歴、高校中退よ。中卒の魔王でいいの? 中卒魔王に成りたかったんだって、胸をはって言える?」

 ズキン! と、言霊の矢がカネコの胸を貫く。
 8000ダメージ。
 さっきよりダメが大きい。
 カネコ的には言われたくない言葉だったようだ。


 シオリさんが舞台に昇る。
「ごめんなさい、アキノリ君。あなたの真剣な気持ちを、きちんと受け止めないで。私、最低だった」
 スポットライトが、シオリさんを照らす。長い黒髪にセーラー服。清楚な美少女だ。
「あなたが消えてから、ずっと後悔したわ。ちゃんと答えなきゃいけなかったって」
 変わり果てた幼馴染を見つめる顔は、実にせつなそうだ。

「好きよ、アキノリ君。あなたを失いたくない……」
 微かに笑みをつくる口元が寂しげで、綺麗で……
 ドキンとした。
 ニノンによく似ている……

「大切な幼馴染だもの」

 ズキ――ン! と、言霊の矢がカネコの胸を貫く。
 3万ダメージ。
 公衆の面前で『ごめんなさい』か! きつぅ……

「あなたの為を思っての嘘でも、言わない。偽りの言葉はあなたに届かないと、ユナさんに注意されたの。だから、これが正直な気持ち。幼馴染として、あなたが好きなの」
 そんな繰り返して言わなくても……
 玉座に座ったまま、カネコは微動だにしない。けど、さっきダメが出てたし……今も言葉の矢がグサッ! グサッ! と刺さってるんだろう。ちょっと同情。

「でも……幼馴染では駄目? 心配しちゃいけない? 迷惑かしら?」
 シオリさんが静かに瞼を閉じる。きらめく涙が、こぼれ落ちる。
「帰って来て、アキノリ君……おば様、すごく心配しているのよ。私も、あなたがいないと寂しいわ」

 シオリさんの親友が、『MYステージ君』に駆け昇る。
 マイクを友人から奪い、息を大きく吸い込み、思いっきり叫ぶ。
「金子のバカッ!」
 キーン! とハウリング音が響く。
「キミみたいなジコチューのナル、大キライ! ウザすぎ! 詩織につきまとうな、消えろって、いっつも思ってたさ!」
 コズエさんが、キッ! と魔王を睨む。
「けど、ほんとーに消えるとか、バカだよ! ボクだって、死ねとまでは思ってなかったんだから!」
 コズエさんがマイクを握りしめる。
「帰って来いよ、金子。詩織、本気で心配してるんだぞ。キミみたいなキモ男を心から心配してるんだ。幼馴染だっていいじゃん。やなら、帰っていい男になれよ。詩織のハートをゲットできるだけのさ。99%無理だと思うけど」


 開戦前、ユナ先輩は『金子くんを救いたいから、詩織さん達にずっと話しかけてもらう』と言った。
『思いやりのこもった言葉は、武器にも救済にも浄化にもなる。詩織さん達が情をこめて話しかければ、人間『カネコ アキノリ』の心が蘇るかもしれない。キミが魔王を倒した後、魔王は消える。でも、魔王と異質な存在となったものは? 人間『カネコ アキノリ』なら、救える気しない? 救えると信じて、詩織さん達にはずーっと話しかけてもらう』

 言霊使い師の基本は『信じること』。
 信じなきゃ、言葉に呪はこもらない。疑いを抱けば、呪は弱くなる。

 正直、オレは……魔王化したカネコが救えるとは思えない。
 オレは何度も『マッハな方』の浄化を見た。邪悪に堕ちた魂は綺麗さっぱり消し去られる。堕落したものに『神の慈悲はない』のだ。

 けれども、信じなきゃ、救済の可能性すら生まれないわけで。
 カネコを救おうとするシオリさん達を、応援する。オレがカネコにしてやれる事は、それぐらいだ。



 てか、カネコを救ううんぬんの前に、オレを救ってもらわないとマズそう。チュド〜ンまっしぐらな状況なのだ。

 アタッカー・チームが動いてはいたが、魔王のHPはさほど減っていない。

 いや! いいんだ! 英雄世界のみんなの攻撃はゼロと仮定してるし!
 他の世界で取り返せば!

 だけど……

 ルネさんの発明品が素晴らしすぎて、めまいがしている。


 まず、武器選びに時間がかかる。
『めがとんパンチ』は、振りあげて振り下ろすだけのハンマー型武器。魔王にメガトン級のダメージを与えられる。しかし、重量は成人男性なみ。ふつうの人間じゃ持ちあがらない。
『ドリルなパンチくん』は、片腕にドリルを装着する。固い岩盤も瞬時に貫通の破壊力。しかし、衝撃吸収装置が未開発な為、使用すると骨がイカレルという……
『魔王コロリ』は、聖なる香りを噴射するスプレー。聖教会の香や蜜蝋に、邪悪を退けるとされる古今東西のあらゆる植物のエキスがブレンドされていて……噴射した人間もたえなる香りに包まれる。目鼻がバカになり、皮膚が爛れるレベルの香りだそうだ。
 炎・風・氷の精霊の力を封じた『メラメラくん』『ビュービューくん』『カチコチくん』も、使用者が巻き添えになって死亡するレベル。

 半分寝ぼけてるルネさんやエクレールの薦めのままに使用してたら、英雄世界の伴侶達は大怪我だった。解説者(シャルル)がいて良かった。

 頑張って発明してくれたのはわかる! でも、一般人が使用できない武器をつくって、どうするんだよ、ルネさん……


 武器が決まった後も、問題ありありだった。

 婦警さんは、ルネさんの熱い希望で『ちょっぴり ひかる君』を使用した。『最終兵器ひかる君』のパワーダウン版。他の武器に比べると照準調整が難しく、火器の扱いに慣れた婦警さんでなきゃ使いこなせないって理由で。
 けれども、引き金をひけども、銃口から何も出ず……不発。敵対行為をしちゃったんで、婦警さんの行動は終了。0ダメ。

 アオイさんは、『爆弾マーチくん』を使用した。歩く楽団人形達が実は爆弾という、エゲツナイ武器だ。
 けれども、お人形達はまっすぐに行進できず……魔王からかけ離れた壁につっこんで爆発。魔王へのダメは0だった。

 頑張って発明してくれたのはわかる! でも、正常動作するかテストしてから持ちこんでよ、ルネさん……


 今のところ、まともに動いたのは二つ。
 ルナさん専用武器『メイドの土産』。お盆型の機械から、『愛情いっぱいおしぼり』が射出され、熱いのが魔王の顔に命中。11万1890ダメ。英雄世界メンバーで初めての10万越え!
 ランランさんは、『ポチンとな君』を使用した。掌サイズの機械にボタンだけがある。それを押すと、別の機械からリモコン爆弾が射出。何と29万7355ダメが出た!

『メイドの土産』も『ポチンとな君』もそこそこダメがでたものの、使い捨てタイプ。一回しか使えない。


 マドカさんは、困ったようにルネさんの発明品を見ていた。スカが多すぎるせいで、どれもこれも失敗作に見える。
「あの……実は、正孝さんからこれを預かってきていて……」
 マドカさんがフリル・エプロンのポケットから取り出したのは、タロットカードもどき。赤、青、黄、等々それぞれ別の色に塗られている。
「精霊カードです」
 む?
「正孝さんが、精霊の力をカードに封じてくれたんです。八大精霊分、八種類あります」
 おお!
「でも、弱いみたい」
 あら。
「アイテムに封じられる力は小さいし、アタシみたいな素人が使うと更に威力が下がるんだそうです。武器がなかった時の保険として持ってきただけなんですが……」
 マドカさんが小首をかしげる。そういうしぐさをすると、あどけない。十三、四に見える。
「使ってもいいですか……?」
 マドカさんは、大きな胸を揺らし、小さく震えている。
「ダーリ……正孝さんと一緒ならこわいものなんかないし……フラフラまどわないで還れそうだから……」

「もちろんいいですよ、旦那さんのカードを使ってください」
「ありがとう……勇者さま」
 マドカさんが、頬をほのかに染め、カードをそっと胸にあてた。仕草や表情から、旦那さんへの愛がビンビンに伝わってくる。

 カーンさんが十二の異世界で恋人をつくってるって、知ってるのだろうか?
 気にはなるが、軽々しく口出ししていい事じゃない。裏英雄世界のアベンジャーのりこさんと鉢合わせたら、かよわいマドカさんを全面的に守るつもりだが……

 マドカさんは、風精霊のカードを使った。
「魔王への刃となってください」
 かざしたカードから魔王への竜巻が生まれ、カードは塵となって消えた。
 3万3333ダメージ。

 マドカさんは未使用の炎・水・土・氷・雷・光・闇のカードを、オレへと手渡した。
 良かったら使ってください、他の方が使えばもう少しダメージが伸びるはずですから、と。
 100万にほど遠いダメージしか出せなかったんで、マドカさんの表情は暗い。

 状況は、どんどん悪くなっている。
 だけど! 攻撃向きじゃない女性を伴侶にしちゃったのは、オレだし! マドカさん達が悪いわけじゃない!

 唇を噛みしめるセリアや、苦々しい顔をしているサラの背中をバン! と叩いておいた。
 ダメージ・ゼロと仮定した世界で、小さいなりにもダメが出てるんだ。逆に喜ぶべき!

「勇者様、少しよろしいかしら?」
 光の結界布の上から、楚々とした美女がオレに話しかけてくる。
「私の助言、覚えていらっしゃる?」

 ヤチヨさんは霊能者だ。
『マッハな方』をはじめさまざまな神聖なものが降ろせ、いろんな事を視ることができる。人の未来すらも。

『魔王戦が終わるまで、最愛の方を選ぶのはお控えなさいませ。全ての伴侶に平等に。ジャン様が常にその姿勢でいらっしゃれば、伴侶達もジャン様に応えてくださるでしょう』

 ヨリミツやアンジェリーヌ姫達の誘いを、オレは断った。うふふ体験したくなかったといえば嘘になる。けど、応じてたら『全ての伴侶に平等に』できなくなっていた。
「ヤチヨさんの助言に従ったからこそ、オレは何とかやってこられました。本当にありがとうございました」

「あら」
 ヤチヨさんが口元に手をあてて、ホホホと笑った。
「まだ早いですわ。魔王戦は終わっていませんことよ」
 いや、まあ、そうですが。

 ヤチヨさんが遠くをジッと見つめる。つられて、オレもそちらを見た。

 掌を合わせる看護婦さんの体から光の玉が次々に現れ、魔王へと飛んでいく。
 サブレの目が、それらが人の魂だとオレに教える。
 先頭を切って走ってゆくのは、小さな男の子だ。正義の味方がプリントされたシャツを着て半ズボンをはいていた。おもちゃの剣を片手に、大はしゃぎで走っている。
 あの子は見た事がある……看護婦さんに憑いていた子だ。大怪我で亡くなった子。痛いと泣き続けていたあの子をニーナが癒してあげて、霊体の傷が塞がったんだ。
 あの子は……
「マモルくんですわ」
 人の心まで視える、和服美人が教えてくれる。
「魔王に挑んでいる方全てが、勇者様の伴侶のニーナ様に救われた方達ですの。魔王戦に臨むニーナ様の為、そして自分達を受け入れてくれた伊東さんの為、最後に善行をなしてそれから昇天したいと望まれたのですわ」

 魔王にぶつかり、光ははじけてゆく……

「消滅しているのではありません。逝くべき世界に旅立っているだけですわ」

 マリーちゃんもニーナも、祈りのポーズをとっていた。
「ばいばーい。マモルおにーちゃん」サッちゃんが宙へと手を振る。マモル君の昇天が、無垢な目には見えているのか……
 オレも手を合わせた。

 魂のきらめきは、やがて、ひっそりと消える。
 看護婦さんに憑いていた魂は、全てこの地から去ったのだ。
 13万0794ダメージ……
「ありがとう、みなさん〜 どうぞ、安らかに……」
 看護婦さんが何もない空を見つめ、静かに微笑む。少し寂しげな表情で。


「勇者様、全ての決着がつくまで、私の助言を忘れないでくださいましね」
 ヤチヨさんが、マリーちゃんへと会釈をする。別れの意味をこめて。
「それから、ご自分の託宣……。そちらも、お心によくお刻みになって」
「え?」
 ヤチヨさんは、パメラさんとよりそっているカトリーヌへと優しく微笑みかけ……

 そして、居なくなった。

 つーか、憑かれた。
 光の結界布の外に出たので。

 ヤチヨさんが高笑いをする。
「仕切り直しだ、クズ魔王よ! 内なる俺の霊魂は、既にマッハで、きさまに罪を言い渡した!」

 着物の裾が乱れるのも気にせず、ヤチヨさんは魔王へと走ってゆく。
 光り輝くヤチヨさんが立ち止り、右の親指をビシッと突き立てる。
「有罪! 浄霊する!」
 ヤチヨさんが、手首をゆっくりひねって親指を下に向ける。

「その死をもって、己が罪業を償え・・・終焉ノ(グッバイ・)滅ビヲ(イービル・)迎エシ神覇ノ(ブレイク・)贖焔(バーン)!」

 77万7777ダメージ。
 魔王が相手じゃ『マッハな方』でも、一撃では祓いきれないのか……


 ヤチヨさんの攻撃が終わったのを見て、ユナ先輩が動く。
 魔王への『一言』を言う為に。
 シオリさん達からマイクを受け取り、先輩は魔王をしばらく見つめた。
 そして、クスッと鼻で笑って、嘲るようにつぶやいたのだ。

 刃そのものの言葉を……

 55万3102ダメージ。

 攻撃の余波をくらい、オレばかりかシャルルまで、がくっとうなだれる。
 ひどすぎ……
 男なら誰しも、女性から絶対言われたくない一言だ……
 シオリさん達が魔王に人の心を蘇らせてても、今の『一言』でカネコは自閉症モードに入ったかも……
 言霊攻撃恐るべし……





「英雄世界の伴侶たちよ、感謝する」

 魔法絹布の右から三番目――英雄世界の魔法陣から輝きが生まれる。
 魔法陣から上向きに、渦巻く光があがる。

 まばゆい輝きの中に、みなが吸い込まれゆく。
 浄化し足りない『マッハな方』も、心配そうにカネコを見つめるシオリさんも、オレに手を振るマドカさんも、光に消える。

「英雄世界13人の伴侶の総合ダメージは195万9251、魔王へのダメージの累計は、2624万3019となりました」
 セリアが、備忘録に現状を記す。

「行動を終えた仲間は36人。2624万3019から3600万を引いて……借金は975万6981ね」
 メモ帳に筆算をしたサラが、重苦しい溜息をつく。

 精霊界でできた貯金は、あっという間に消えてしまった。

 でも、いい!
 13人で195万だけど、0だと思ってたわけだし!
 次の世界に期待する!

 魔王の残りHPは、7375万6981だ。
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