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ハーレム100 作者:松宮星

決戦(Ⅰ)

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英雄世界 その1

「英雄世界の伴侶達よ」

 オレの呼びかけに応え、魔法絹布の右から三番目――英雄世界の魔法陣から輝きが生まれる。
 魔法陣から上空に向かい、光が広がる。
 まるで光の柱ができたかのようだ。

 まばゆい輝きの中から、四人がほぼ同時に現れる。

 隣の背の高い女性に抱きついている、小柄な子。
 花柄のワンピースにピンクのフリルエプロン! 背が低いのに、胸は素敵に大きい!『勇者の書』で絶賛されてた『トランジスタグラマー』って体型!
 マドカさんだ。
 英雄世界に行ったオレ達の面倒をみてくれた、優しい女性。
 マサタ=カーンさんの奥さんだ。
 抱きついた相手の腕に顔を埋め、大きな胸を揺らし、小さく震えているマドカさん。異世界への転移が怖くてしょうがないんだろう。

 マドカさんに抱きつかれてるのはショートボブの、カッコイイ系の美人だ。背が高くてすらりとしている。
 白のブラウスに、水色のベストと膝上のスカート。
 マドカさんのお姉さんの、カガリさん。OLだ。
 カガリさんは胸よりも、お尻や太ももの方が素晴らしい。むっちりとしている。
 一見、生足のような美脚は薄手の布――伝説の『パンティストッキング』で覆われている。肌にフィットしてて、履いてるんだか履いてないんだかわかんないのがエッチ。
 カガリさんの表情もちょっと強張っている。非戦闘員が、魔王との戦闘に来たわけだから無理もない。

 だが、次に現れた女性は、浮き浮きわくわくって感じに興奮していた。
 機械を片手に、周囲を見回している。
 見た目は、ちょっとお嬢様っぽい。毛先にウェーブのかかった茶髪のロングヘアー、整った顔、レースのシャツ、ちょっぴりセクシーなタイトスカート。お化粧が濃いけど、全体的にかわいくて上品な感じ。
 オレを見つけ、エレガントな女性がにっこりと笑って手を振ってくる。
「はぁい、勇者さん。お久しぶり」
 女子大生のアオイさんだ。マドカさんとカガリさんの、従姉妹。趣味で創作活動をしている、素人作家さんでもある。
 オレも手を振り返した。
 アオイさんが手にしているのは、デジカメとかいう、映像記録機械。あいかわらず情報収集に熱心な人だ。

「勇者さま……?」
 マドカさんが顔をあげて、オレを見る。
 大きな黒い目、ふっくらとした頬、小さなかわいらしい唇。すごく愛らしい。童顔だ。
「お久しぶりです、マドカさん。英雄世界では、たいへんお世話になりました」
 勇者らしくきちんと挨拶をした。
 マドカさんは大きな目を更に見開き、さっきよりも大きくぶるぶると震え始める。頭に血がのぼってきたのか、ほっぺたがどんどん赤くなる。
「いえいえいえ! な、な、なんの、おかまい、も、できま、せんで……。えっと、あの……アタシじゃ、お役に立てないと思いますが……今日は精一杯がんばりますね」
「ありがとう」
 マドカさんの顔が、どんどん赤くなる。照れるなんて、奥ゆかしいなあ。
 旦那さんもそうだけど、いい人だ、マドカさんは。

「ただいま戻りました、ご主人さま」
 アオイさんの隣の女性が、綺麗な所作でお辞儀をする。
 アオイさん同様、映像記録機械を持っている。
 白いカチューシャ、ありえないほど短いフリフリの黒いドレス、白いフリルエプロン、目にまぶしい白のレースつきニーハイソックス。
 メイドのルナさんだ。正しくは、メイド喫茶ってお店のウェイトレスさん。アオイさんの友達で……何っていったっけ、コスプレイヤー? だったかな。
「ご主人さまと再会できて、瑠那のハートはキュンキュンしてます。ご主人さま、より勇者らしくおなりですね。そのサークレットも剣も、風格が漂っていて格好いいです。勇者なご主人さまは最高です」
 いやあ……照れるな。
 あいかわらずの萌えセリフ。男心をくすぐるんだよな、ルナさん。
「本日も、愛情をこめてご主人さまにご奉仕いたしますね。何なりとお言いつけください」

 映像記録機械を持った二人とマドカさん達姉妹を促し、魔法絹布の前からちょっと脇に行ってもらう。
「若奥様、お元気?」と、カトリーヌから声をかけられたマドカさんがお姉さんに更にしがみつく。逆毛をたてた子猫みたいだ。
 まあ、無理はない……女狩人には襲われたことあるし。


 次の仲間が光の中から現れた。
 ちっちゃな子と、その子と手をつないだ女性……お母さんか?

「こんにちはー」
 おかっぱの女の子は、オレ達に元気にご挨拶をした。水色のスモックにミニスカートな格好が、かわいい。
「さくらぐみ、ももせ さつき です」
 女の子は、大きな頭をペコリと下げて自己紹介した。『さくら組』ってのは、幼稚園のクラス名だ。
 お顔をあげて、女の子がニコーと笑う。
 天真爛漫というか……無邪気な笑顔だ。
「サッちゃんってよんでね」

 ずっきゅん! と何かが心に突き刺さった。

 オレのハートは、キュンキュンと鳴った!
 鳴り響いてしまった!

 サッちゃん、か、か、か……かわいいッ!
 すげぇ、かわいい!
 抱っこして、スリスリしたくなっちゃう!

「未成年者略取及び誘拐は犯罪ですからね」
 フラフラとサッちゃんに吸い寄せられていたオレに、冷たい突っ込みが入る。
「挨拶であっても、度がすぎるものは幼児には心的外傷となって残ります。私達の世界の常識から逸脱した行為は、絶対に許しませんよ」
 オレは声の主を見つめた。
 サッちゃんと手をつないでいるのは、きりりとした真面目そうな美人だ。肩先で切り揃った髪、ベージュのスーツ、すらりとした足。
 サッちゃんのお母さん……? にしては、どっかで見た事があるような……

 あ。

「もしかして、婦警さん?」
 女性がジロッとオレを睨む。
「原美咲です」
「やっぱ、そうでしたか!」
 伴侶の一人だったか!
 ちょこっとしか会ってないから、顔がうろ覚えだった。
 オレは婦警さんに、素朴な疑問をぶつけてみた。
「今日はミニスカポリスじゃないんですか?」
 ミサキさんの顔が、一層険しいものになる。聞いちゃいけない事だったのか?
「勤務時間外は、制服は着ません」
「もしかして、魔王戦の為に休みをとってくださったんですか?」
「職務中に数十分とはいえ、行方不明にはなれませんから」
 ミサキさんは、非常に不機嫌そうだ。
「無理させちゃってすみません」
 オレが萌えた相手は、強制的に仲間枠に入る。本人の意志に関わりはないし、取り消しも不可能なんだ。
 本当、すみません。

「サツキちゃんは幼稚園を抜け出して来ています」
 え?
「しかし、騒動にはなりません。櫻井正孝さんが、サツキちゃんの身代わりを園に置いていますので。精霊だそうです」
 そうか……
 マドカさんの旦那さん、マサタカさんことマサタ=カーンさんは、精霊支配者でもある。精霊ならサッちゃんそっくりに変身できる。入れ替わるのに、問題はないだろう。
 しかし、婦警さんの口からカーンさんの名前がでるわ、サッちゃんと手をつないでいるわ、ちょっとびっくりだ。
 英雄世界の伴侶達は、連絡をとりあって、親睦を深めたのかな?


《サッちゃん》
 走り寄って来たニーナに、ミサキさんはのけぞって驚き、サッちゃんは笑顔となった。
「しろいおねーちゃん」
 白い幽霊とサッちゃんは、手をとりあって喜んだ。
「ブランコ、じょうずになった?」
《ちょっとだけ》
「ちょっとなの? サッちゃん、たちこぎ おしえてあげるよ」
 サッちゃんの誘いに、昇天を決めているニーナは笑顔で答えた。
《こんどね。また会えたら、教えて》
「うん。ゆびきり、げんまんー」

《あたしのおともだち、紹介するね。ソワちゃんって言うの。あとねー ポチちゃんって子がいてねー》
「サッちゃんのおともだちも、もうすぐくるよー」
 手をつないで走り出した二人を、ミサキさんが止めようとする。オレは頭を下げ思いとどまってもらった。
「誘拐じゃありませんから。サッちゃんは、ちゃんともとの世界にお返しします」
 白い幽霊と幼稚園児に黒い精霊が、キャーキャー笑う。とても楽しそうだ。
「少しの間、子供たちを一緒に遊ばせてやってください」


 魔法陣の光の中から、長い黒髪をうなじで束ねたメガネのおねえさんが現れる。
 Tシャツの上に黒のジャケット、ズボンを履いている。ややぽっちゃりで、胸は豪華な大きさだ。
「感動ッ! これが、異世界魔王戦ファイナルステージなのねッ!」
 マンガ家のランランさんだ、アオイさんの友達の。ランランさんも撮影機械を持っている。
 ランランさんは辺りを映しまくり、
「あらぁ〜?」
 奇声をあげて走り始めた。
 オレの横を通り過ぎる。完璧に無視された。

 ランランさんが向かった先にはアオイさんとルナさんがいて、この世界の人間を撮影していた。
「なんなのぉ、セイちゃんッ! その美形、どなたぁ〜?」
 ペンネームはやめて! と叫んでから、アオイさんがほわ〜んとした顔で言う。
「シャルル様よ。侯爵家嫡男の」
「ああっ! 聞いた、聞いたわぁ〜! 勇者様の義妹の婚約者ってお方でしょぉ〜! いやぁん、オス●●様みたいっ! おフランス美形だわぁ!」
 その婚約は破棄になる、多分、近々。
 三人の異世界女性に囲まれた男は、実に爽やかそうな顔で笑いやがった。
「はじめまして、異世界のお美しいお嬢さん。ポワエルデュー侯爵家嫡男、シャルルです。本日は、みなさまをエスコートする為に参りました」
「エスコートぉ?」
「この方が、武器を紹介してくださるんですって!」
「あらぁ〜ん。やだ、もう、嬉しいッ! 」
 胸の前で両手を組み、ランランさんがうっとりとした顔でシャルルを見る。
「私、オス●●様の大ファンだったんですぅ〜 お会いできて、光栄ですわぁ〜」
「ハハハ。シャルルです」

 く……
 顔だけでモテやがって。
 やっぱムカつく、シャルル……

 三人がシャルルを撮りまくる。
 魔王戦を撮りに来たんじゃないのかよ?

「あの……お願いがございます、ご主人様」
 シャルルを撮影しながら、ルナさんがおねだりをする。
 ご主人様はオレじゃなかったの? うぅぅ……アオイさんやランランさんばかりか、オレのメイドさんまで奪いやがって……
「お召し物の裏地も拝見させてください」
 へ?
「そのご衣裳は、瑠那の世界の十八世紀ヨーロッパ上流貴族の男性スーツにそっくりなのです。アビ、ジレ、キュロットの、アビ・ア・ラ・フランセーズ! 実物を目にするのは初めてなのです! 全てが手縫い! 職人技! お針子さんのエレガントな技術をじっくり見たいのです!」
「て、いうかぁ〜、まさにベ●バ●よぉ〜」と、ランランさん。
「いやぁ。絡みが侯爵家嫡男だけなんて物足りないと思ってたけど、こんな超絶美形なら話は別! 庶民平凡×お貴族イケメン! 萌えるわ! あ〜 でも、平凡受けも捨てがたいし、いっそリバで!」と、アオイさん。
 三人は専門的用語をやたらと使う。自動翻訳機能が働いているのに、何を言ってるんだかさっぱりわかんない。

 シャルルの笑みが、苦笑となる。
 女の子三人に囲まれてるんだ、もっと嬉しそうな顔をしやがれ、スケベめ。

「女性に大人気でよろしいですわね、お兄様」
 シャルロットちゃんが、口元に手をそえてコロコロ笑う。
「ほんと、個性的で素敵な方達。お兄様にそっちのご趣味がおありだなんて、今、初めて知りましたわ」
「悪趣味だぞ、シャルロット……誤解とわかっているのに、からかうな」
「あら、違いましたの? では、どうしてお兄様は勇者様をいつもお気にかけていらっしゃるのかしら?」

「え? 勇者さんを気にかけてる?」
 凄い勢いでアオイさんが喰いつく。
 ランランさんは、キャーキャー黄色い声をあげている。
 ルナさんは、シャルロットちゃんのドレスも嘗めるように撮っている。

「………」

 あの三人は、あの兄妹に任せよう。


 つづいて、魔法陣の光から現れたのは二人。

 少しウェーブのかかったやわらかな髪、落ち着いた顔、やさしそうな目、愛らしい口元……
 キャミソールにショートズボンという私服姿。
 看護婦のタマキさんだ。

 そして、もう一人は……凛とした美人だ。
 綺麗に結い上げた黒髪、気品あふれる美貌。着物をきちんと着ていらっしゃるのに、何というかセクシー……
 着物は白というかベージュ? 地も模様も帯も、くすんだ色合い。ちょっぴり透けてるような……夏向けの薄手の着物なのかも。
 カンザキ ヤチヨさんだ。
 お茶の師範で『魔王戦が終わるまで、最愛の方を選ぶのはお控えなさいませ』とオレに助言してくださった霊能者だ。
 ヤチヨさんが、そこに居る……それだけで空気が変わる。しっとりした神秘的な光が広がるというか……

 オレのハートは キュンキュンと鳴った……

「奥様!」
 カトリーヌが駆け寄る。
 ヤチヨさんは艶っぽい笑みをたたえたまま、魔法陣の光から離れ……

 突然、高笑いを始めた。

「素晴らしい! さすがは、魔王城! 腐りきっている! ・・ククク、このような穢れた城、綺麗さっぱり、まったく、完璧に、完膚なきまでに、浄化してくれよう」

 あ。

 もう中身が違う。
『マッハな方』が降りて来ちゃった。
 まだヤチヨさんに挨拶してないのに。

 ヤチヨさんが、びしっ! とカネコアキノリを指さす。
「魔王に堕ちた醜きクズよ。妄執に囚われし愚か者よ。自ら堕落したきさまに、もはや神の慈悲は無い。内なる俺の霊魂が、マッハで、きさまの罪を言い渡す」
『マッハな方』は裾が乱れるのも気にせず、足を大きく開いている。着物でその格好は……かなりヤバい。
「有罪! 既に存在自体が、きさまの罪だ!」

「悪霊祓いをなさる時は、ワイルドなのですね……でも、そんな奥様も……。これはこれで……」
 女狩人がポッと頬を染める。
 いや、でも、中身は男だぞ? いいのか?

 右の親指をビシッと突き立てて、『マッハな方』はいつもの決めポーズをとろうとした。

 が、できなかった。

 炎と光の精霊が左右からがっしりと腕をとり、『マッハな方』を強制連行したからだ。
「ぬ? 勇者の精霊ども、なぜ邪魔をする?」
《段取り無視は、ダメ。英雄世界の人、まだ全員来てないのよ》と、ティーナ。
《あなたの浄化魔法は、憑依体次第では人間の限界を越える強力なものとなります。しかし、霊力をためる前のあなたは、脅威ではありません》と、ルーチェさん。

 二人は『マッハな方』を、マリーちゃんがたたずんでいる光の結界布の上に放りこんだ。
 布の上は光の守護に包まれている。魔王が放つ邪悪な気配が入りこんでくることもない。
 凶悪だったヤチヨさんの顔が急速に穏やかとなり……
 ヤチヨさんは乱れた着物前をササッと直し、しゃんと背筋を伸ばした。
「神崎八千代でございます」
「マリーと、申し、ます〜」
『マッハな方』の憑依体となれる二人が見つめ合い、微笑み合う。通じ合ってるっぽい。

「神崎先生〜 では、私はあちらへ〜」
 ヤチヨさんの大暴れがおさまったとみて、看護婦さんが会釈をして立ち去る。サッちゃんやニーナ達のいる方へと。
 サブレの目を通して見えた。看護婦さんの体には、いろんなものが憑いている。昇天する事ができない魂達だ。魔王戦にまで、ついてきちゃったのか。老人も居れば、子供も居る。シャツに半ズボンの男の子が、一番小さい。
 あれ?
 あの男の子、どっかで見たような?


 魔法陣から四人現れる。
 女子高生と先生だ。
 女子高生は、二人がセーラー服。一人はワイシャツにネクタイにミニスカ。夏用制服ってヤツか。
 先生は、メガネ美人で髪を結いあげてる。セリアと一緒だ。だが、体形は似てなさそう。先生は、胸もお尻もボリュームがあり、美脚。むんむんするほど色っぽい。白いブラウスとタイトなスカートってな真面目な格好をしてるのに。

 セーラー服の子は、ロングヘアーとショートヘアー。清楚系美少女と、健康的に日に焼けた体育会系のかわいい子だ。

 髪の長い子が、吸い寄せられるかのように、玉座の魔王を見つめる。
 透き通るような美貌を、せつなそうに曇らせて。

「アキノリくん……?」
 ゆっくりと少女が歩み始める。

「アキノリくんなんでしょ……?」
 玉座に座るものは、人の形をしてはいた。が、人であった時の面影はない。
 山羊のような角、尖った毛で覆われた毛むくじゃらな体、松明を思わせる両眼、蝙蝠の翼、鋭い爪に蹄。オレの五倍はデカい巨体だ。

「詩織よ。アキノリくん、私がわかる?」

 先制攻撃の法発動中でも、魔王には意識はある。オレ達のなす事を見聞きしている。敵対行為に該当しない会話なら、できるはずだ。
 だが、カネコは無反応だ。
 幼馴染のタチバナ シオリさんを、炎の双眸で見つめるだけだった。

「ごめんなさい……アキノリくん……」
 少女は口元を、そっと右手で覆う。澄んだ美しい瞳から、きらめくものをこぼしながら。

 ショートヘアーの子……シオリさんの親友のコズエさんも、泣きそうな顔だ。変わり果てた姿となったカネコと、その変身に心を痛める親友を、心配そうに見つめている。
 オレに気づいて、コズエさんが頭を下げる。だが、視線は親友へとすぐに戻った。
 心配で心配でしょうがないって感じ。

 その隣の大人の女性も、表情を強張らせている。
 シオリさん達の高校の先生だ。たしか、音楽教師。
 教え子が魔王になって目の前にいるわけだから、そりゃショックだろう。

 けど、一番辛いのは、幼馴染のシオリさんだ。
 告白したカネコを、シオリさんは振った。てか、告白自体を冗談と勘違いし、笑ってしまったのだそうだ。
 その直後に、カネコは次元穴に飲み込まれ、シオリさんの前から消えた。
 カネコの失踪を自分のせいだと悔やみ続け、オレの世界の魔王の名を聞かされ、シオリさんはずっと胸を痛めていたのだろう。

「私、あなたにひどい事を……」

「ストップ」
 ふらふらと、魔王へと歩いていたシオリさん。その肩が、後ろからつかまれる。
「謝罪はあたしの力場内で、って決めたよね?」
 シオリさんが肩越しに振り返り、自分の肩に手をかけている者を見つめた。
「ユナさん……」
「まごころは、人にとっては救い、邪悪にとっては痛み。幼馴染を人として救いたいんなら、言霊使い師に従ってちょーだい」

「すみません、私……つい……」
 うなだれるシオリさんに、その子は明るい笑みで接した。
「いいの、いいの。気持ちはわかる。あんなんなった幼馴染を見たら、理性ぶっとびだよねー わかるよー」
 セミロングの茶髪、濃い化粧、太ももが露わなミニスカートの制服。軽そうな外見のわりに、言ってることはまともだ。
「しかも、自分のせいでああなったと思いこんじゃってるわけだし。やばいよねー」

「いや、それは違います」
 慌ててオレは声をあげた。
「カネコはこっちの世界に来て一カ月ぐらいしてから、魔王化したんです。シオリさんのせいじゃなかったんです」

 シオリさん、コズエさん、音楽の先生、それからユナ先輩がオレを見る。
「おー ジャン君。おひさ〜」
「お久しぶりです、ユナ先輩」
 自分達が注目を浴びてるって気づき、ユナ先輩はこの世界の者達に手を振った。
「どうもー 矢崎ユナでーす。九十七代目でしたー」
 九十七代目と聞いて驚く者、多数。『あなたが、九十七代目様ですか!』と、セリアは感動に目をうるませた。
 ユナ先輩は、お師匠様が最初に育てた勇者。言霊使いの力で戦い、チュド〜ン無しに魔王を倒した凄い方だ。けど、約百年前の勇者なのに、まだ十五だか十六。オレより年下なのだ。
「勇者OB会の一員として、あっちでジャン君の伴侶たちのお世話役もやってましたー おおまかな作戦はリーダーと一緒に考えたけど、武器がない子がほとんどでーす。ご協力おねがいしまーす」
 おお!
 勇者OB会のリーダーは七代目勇者、ヤマダ ホーリーナイトさんだ。遥か大先輩まで、オレの魔王戦を応援してくれるとは!

「私のせいじゃない……?」
 戸惑うシオリさんに、カネコ魔王化の事情を説明した。
 けど、『シオリさんそっくりな子を一方的にリアカノ認定して、ガチ無理されたから魔王パワーに目覚めたようです』とは言えない。
 ヴェラの事は、ぼかして伝えた。

「ほらね! 言った通りでしょ。やっぱ、詩織のせいじゃなかったんだよ」
 コズエさんが笑顔となる。笑うと、リスというかネズミっぽい可愛い顔になる。

「でも……この世界にアキノリくんを追いやったのは私。私のせいでアキノリくんは……」
 シオリさんが、うつむく。憂いに満ちた表情で、床に目を落とす。
「も〜! 金子だってガキじゃないんだ、全部が全部、詩織が悪いわけないじゃん! 詩織、真面目すぎ! 優しいったって、ほとがあるよ!」

「ま、そういう人間の言葉ほど、呪として効くし。うまくいけば、魔王に人の心を蘇らせられるかも」
 ユナ先輩は辺りを見回し、オレへと視線を戻した。
「作戦の打ち合わせしよー オシショーさまは?」

 ズキンと胸が痛んだ。

 ここにいるのが当然の人が、今は居ない。
 ンなことは承知の上で、魔王戦に臨んだ。
 なのに、居ないんだって改めて意識すると……辛い。

 情けないほどに。


 お師匠様が石化した事を伝えると、ユナ先輩はひどく驚き、オレを励ましてくれた。『がんばれ、百一代目』と。
+注意+
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