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ハーレム100 作者:松宮星

幻想世界

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大海原での邂逅   【フェドラ】(※※)

 オレは、溺れていた。

 高い波に呑まれ、浮かんでは沈み、沈んでは浮かびを繰り返していた。

 押し寄せる波の力でもみくちゃにされ、まともに息がつげない。

 喉に流れこんでくる水が、しょっぱい。
 水がしみて、目が痛い。

 海水だ。

 嵐の海を、オレは漂っているんだ。


 この世界に転移した瞬間、オレは宙に放り出された。
 運の悪いことに、切り立った崖の先端にオレは降り立ってしまったのだ。
 そして、そのままバランスを崩し、崖下へと落ちかけ……

『お兄さまッ!』
 仲間の中で、いち早く動いたのはジョゼだ。悲鳴をあげ、手を差し伸べてくれた。

 オレは、ジョゼへと手を伸ばした。届く距離だったんだが……
 その時、オレはデッカイ革袋を抱えていた。『ルネ でらっくす』。ルネさんの発明品がぎっしりつまった袋……餞別(せんべつ)にもらったんだ。
 手を伸ばすつもりが、その袋をジョゼに投げつけてしまい……
 そのまんま、オレは荒れた海へと落下してしまった。


 オレの顔面を、波が容赦なくあらう。

 荒れた海をどれぐらいさまよっているんだろう……
 痛くて苦しかったはずなのに……

 だんだん何だか、わからなくなってきた……
 水の冷たさすら、もう感じない……

 オレは、このまま死ぬのだろうか……?

『あなた、死ぬわよ』
 イザベルさんの予言が、心に甦る。
『水晶が私にそう告げたの。このままではあなた、早ければ三日後に死亡する』
 的中じゃん。
 今日は、ぴったり三日後だ……

 魔王『カネコ アキノリ』を倒さないまま、オレが死んだら……

 オレの世界の男は皆殺しにされ、女達は奴隷ハーレムに入れられてしまう……

 嫌だ……

 けど、今のオレは、荒れ狂う波に翻弄されるだけだ。
 もう、抗う力がない……

 意識が、闇に沈みかける。
 にじんだオレの目に、誰かが見えた。
 波間から顔を出し、オレへと、どんどん近づいて来ている。
 オレの大事な女性(ヒト)だ……そう思った。
 思いたかった……
 幻だろうけど……
 オレは弱々しく笑みを浮かべ、その名を口にし……
 そのまま意識を失った……



 ごくっと、喉が動いた……

 何かを、飲み込んだんだ……

 体が、あたたかくなる。
 しばらくしたら、目が開いた。

 オレのすぐそばに……信じられないほど美しい顔があった。
 オレを見下ろしている。

 どこまでも澄んだ、コバルトブルーの瞳が、まっすぐにオレを見つめている。
 美しく儚げな顔。だが、その肌は青みがかった白で、軽いウェーブがかかった長い髪も瞳と同じコバルトブルーなのだ。
 人間じゃない……
 幻想世界の魔法生物なのだ……

 オレの心臓が、ドクンと鳴った。

 どことなく哀しそうだった顔が、ほころぶ。
 目覚めたオレを喜んでくれているのだろうか、柔らかな笑みだ……

 とても綺麗だった……


 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……


 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。

《あと八十八〜 おっけぇ?》
 と、内側から神様の声がした。


 やっちゃった……
 けど、しょうがない。ときめくに決まってるよ、こんなに綺麗なんだもん。
 この娘が、溺れてたオレを助けてくれたのかな?
「ありがとう……」
 肺と喉が痛んだ。が、声はどうにかしぼり出せた。
「ここは何処です……? あなたは……?」

 綺麗な女の子は、淡く微笑んだままだ。

「オレはジャン……あなたが、助けてくれたんですか?」

 青白い肌の美少女は、ただ、オレを見つめている。
 言葉が通じていない?
 変だな。
『勇者の書』の勇者達は、異世界の住人と会話していた。
 勇者一行には、神様からパーティー特典として自動翻訳機能がプレゼントされてるはずなんだが。

 ここは何処だ……?

 キョロキョロと辺りに視線を動かし……
 オレの目は、彼女に釘付けとなった。

 ここは、薄暗い岩場だ! 多分、洞窟の中! 岩にくっついたコケが淡く発光してるんで、明るいけど!
 きっと、入江の洞窟だ! 波の音がする! 彼女のすぐ側まで水がきている!
 でもって、オレと彼女しかいない! 二人っきりだ!
 二人っきりなんだ……

 どっきん、どっきんとオレの心臓が暴れる。

 彼女は……
 何も着ていなかった……

 彼女の肌を隠すのは、水に濡れた長い髪だけだった。
 その長い長い髪が不思議な色に輝き、どこまでもどこまでも伸びている。

 あぁ……

 髪が……

 邪魔。
 やわらかそうな、魅力的な二つの膨らみを、髪が半ば以上、隠してる。濡れてるから、はりついているし。

 見えない……
 くぅぅ、せっかくのナマ胸が……

 オレの目は胸以外のところも、見ている。
 彼女の腰から下も、むろん、視界に入ってはいる。

 尾や(ひれ)があるそれは、まるで魚のような形だ。
 鱗は、髪の毛と瞳と同じ色だ。コバルトブルー。

 人魚、だったのか……
 だが、少しもグロテスクに感じない。
 伸びやかな下半身は、彼女の不思議な魅力を際立たせていて、美しい。

 そして、何より……

 何も着ていない上半身がステキすぎて……

 長いよ、髪。
 尾っぽまであるよ、髪。
 邪魔だよ、髪。

 幻想世界に人魚か……
 ちょっとだけ、違和感。
 歴代勇者が出会った住人にも、仲間にした者にも、人魚はいなかった。
 けど、彼女は、こうしてオレの前に居る。
 この幻想世界で、海を旅した勇者は居ない。たまたま、出会ってなかったんだな。

 綺麗だなあ……

 彼女の視線が、オレの顔に向けられていない事に気づいた。
 オレの胸元を、ジッと見つめている。

 何を見てるんだろう?
 手を伸ばし、触れてみると、そこには……
 コーラル(珊瑚)のペンダントがあった。

 盗難防止用に、二重・三重に衣服にくくりつけたそれは、嵐の海の中で揉みくちゃにされたのに、外れなかったんだ。

『海の宝石と呼ばれる珊瑚は、災いからあなたを守り、運気をアップさせます。身につけていれば、あなたの寿命が延びるでしょう』
 イザベルさんの言葉を思い出した。
 そうか……
 ありがとう、イザベルさん……オレ、死ななかったよ。イザベルさんのくれた珊瑚の護符つきペンダントのおかげだ……

 オレがぎゅっとそれを握りしめると、人魚ちゃんがグッと体を近づけてきた。
 オレの手を凝視して。

 手を開き、握りしめていたものを離すと、彼女はスッと身を引いた。
 珊瑚のペンダントを、ジーッと見つめたまま。

 何となく、オレにもわかった。

「これ、欲しいの?」
 人魚ちゃんは、珊瑚のペンダントから目を離さない。

 人魚でも、女の子。
 アクセサリーが、好きなんだろう。
 嵐の海からオレを救ってくれたのは、多分、おそらく間違いなく、人魚のこの子だ。

 体を起こし、濡れた上着を、どうにかはがした。べったりとしてて、脱ぎにくかったけど。肌が塩でざらざらしてる。
 ちょっと手こずったけど、縫いとりや鎖を外し、ペンダントを取った。
 効き目ばっちりの護符を手放すのは、かなり不安だ。
 けど、オレ、これぐらいしか、彼女にお礼できないし。

「助けてくれて、ありがとう」
 オレは掌の上にそれをのせ、彼女へと差し出した。

 人魚ちゃんの儚げな美貌に、明るい笑みが浮かぶ。
 とても嬉しそうだ。

 人魚ちゃんはオレの掌へと右手を伸ばし……

 掌の上のモノを、すごい勢いで横にはじき飛ばした。

 へ?

 ポッチャンと音がした。
 ペンダントは、海の中に落ちたんだ。

 人魚ちゃんが、妖しく微笑む。
 両手を広げて、オレへと抱きついてくる。
 ぎゅうぅぅ……と。
 胸が、あぁぁ、ナマ胸が!

 積極的……
 オレ、上半身、裸なのに……

 濃い海の匂いがする……
 人魚ちゃんが、なまめかしい舌をのぞかせる。
 顔をどんどん近づけて来る。

 あぁぁ……
 オレ、初めてなんです……

 優しくしてください……

 もう間もなく、彼女の唇がオレに触れる……
 そこまで近づいた時!

 洞窟が揺れた。
 人魚ちゃんが驚いた様子で、周囲を見回す。
 オレは、彼女の肩をぎゅっと抱きしめた。

 地震?

 揺れは次第に早く大きくなり……
 オレらのすぐ側の岩を突き破り、ぶっとい蛇のようなモノが飛び込んできた!

 何だ? と、思う間すらなかった。
 激しい音をたて洞窟が崩れ出し……
 凄まじい衝撃と共に、全てが闇に包まれたからだ。


 今度こそ、駄目か……
 やっぱ、今日、死ぬのか……
 オレの意識は薄れていった……



暁ヲ統ベル(エターナル・)女王(マリー・)ノ聖慈掌(セインツ)捌式(ゼロエイト)!」
 その意味不明な呪文は……

「ジャンお兄さま!」
 抱きついてきたのは……

「バカね!……本当にバカ……」
 泣きながら毒づいているのは……

 目を開ける前から、誰がそばにいるのかはわかっていた。

 眩しいほどの、明るい陽光を感じた。
 静かな波の音が聞こえる。
「目覚めたな」
 お師匠様の声だ……

 オレは浜辺に寝っころがっていた。ジョゼはオレの胸に顔を埋め、小さく身を震わせていた。

「ジョゼ、すっごく心配してたんだから! あんたが死ぬんじゃないかって、ずっと泣いてたんだから!」
 そう叫んだサラも、目が真っ赤だった。急いで涙をふきとったんだろう。

「もう、大丈夫、です〜 勇者様〜」
 マリーちゃんが、ほわほわな声で言う。
「陥没した、頭部も〜 折れた、手足も〜 いろいろ、潰れたり、はみ出ていた、おなかも〜 ぜんぶ、きれいに、もとどおりに、なりましたから〜」
 うっわ……オレ、かなりヤバかったわけ……?

「マリーとパメラに感謝するのだな、もう少しでおまえは死ぬところだったのだ」
 マリーとパメラ?
 マリーちゃんは、オレを癒してくれた。パメラさんは?
 オレは上半身を起こし、佇んでいるお師匠様へと目をやった。
 お師匠様はオレではなく、海を見ていた。その視線の先を、オレも追った。

 波打ち際に、ドラゴンのきぐるみの人が居る。
 海に向かって、もふもふの両手を大きく動かしている。

 海には、タコがいた。
 デカい。ひたすら、デカい。
 小さな丘ほどもあろうかって巨大タコが、浅瀬で、うにょうにょと足をいっぱい動かしている。足の一本一本が大蛇のようで、パメラさんよりずっと大きい。
「パメラが、クラーケンを使役して、海に落ちたおまえを助け出した。間一髪だった」

 間一髪……?

 オレは、ハッとした。
 タコの巨大な足の一本が、絡め取っているモノに気づいたからだ。
挿絵(By みてみん)
「人魚ちゃん!」
 頑張ったが、起きあがれなかった。ジョゼにぎゅ〜と抱きつかれてるんで。手足をバタつかせる事ぐらいしかできない。
 胸から下にタコの触手が絡みつき、人魚ちゃんは身動きがとれなくなっている。ぐったりしている。

「パメラさん、ひどい事しないでくれ! その子は、命の恩人なんだ!」 

 辺りが、シーンとする。
 ザザーンと波の音だけが、響く。

「なにが、人魚ちゃんよ!」
 サラが、ポカリとオレの頭を殴る。

「よく見なさい、人魚ちゃんを!」

 よく見ろって……
 触手に絡まれて、苦悶の表情を浮かべる人魚ちゃん……
 これって、ちょっと……
 いや、かなり……
 エッチ?

「にやけるな、バカ!」
 サラが、更にパコーンとオレを殴る。
 痛ぇよ!

「口を見なさいよ!」

 人魚ちゃんの口?
 遠くて、よく見えない。

「パメラ、人魚をジャンに近づけてくれ」
 お師匠様の指示通りに、パメラさんがクラーケンを動かす。
 派手な水音をたてながら、クラーケンが七本の触手で歩いてくる。オレへと近寄り、人魚ちゃんを捕まえたままの触手をオレに向かって伸ばしてきた。

 クラーケンに捕まっている人魚ちゃんは、苦しそうだ。
 胸から下が拘束されてるんだもんな。
 あえぐその口から……
 ギザギザの歯並びが見えた。
 サメとかシャチの歯みたいだ。
 尖ってて、ぶすりとつきささりそうな……
 バリバリと骨まで噛み砕きそうな……
 丈夫そうな歯だった。

 あれ……?

 お師匠様が、淡々と説明をする。
「幻想世界の人魚は知性が低い。会話すら成り立たない。人よりも魚に近い存在だ。幻想世界においても、人魚の生態は謎に包まれている」

 魚なの……?

「だが、海の男達によって、その正体の一端は明らかとなっている」

 こんなに綺麗なのに、魚だなんて……

「人魚は食人魚だ。海に落ちた人間を食べる」

 へ?

「正しく言えば、肉食魚か。エルフも、獣人も、馬も、牛も、食す」

 え……?

「だが、特殊な習性がある。『海のもの』にだけは手を出さない。その為、この世界の船乗りは、海のものを必ず護符として身につけている。貝殻や真珠、魚の骨、珊瑚などを、な」

 オレは、人魚ちゃんを見つめた。
 どこからどう見ても、美人な女の子だ。
 口の中さえ見なきゃ、だけど。 

 珊瑚のペンダントを外したオレを見て、人魚ちゃんはすっごく嬉しそうだった。
 オレに抱きついてきた。

 それは、つまり……
 オレに惚れたからじゃなくって……
 食欲で……?

 あぁぁぁ……





 肉食魚だろーが何だろーが、萌えちゃったからには仲間だ。

 人間風に発音すると、人魚は『フェドラ』って名前なんだそうだ。パメラさんが教えてくれた。
 呼ばれたら来るようにと、パメラさんは人魚に命令を与え、解放した。
 クラーケンも、人魚も、海へと帰って行った。

「……あんたなんか、肉食魚に喰われちゃえ」
 と、サラはプリプリしてる。鼻の頭を真っ赤にして、泣きそうな顔でそっぽを向きながら。
 ジョゼも、オレに抱きついたまま離れない。
 悪かったよ……
 心配かけて……ごめん……


 魔王が目覚めるのは、九十三日後だ。
 幻想世界は、予想よりも物騒な所だった。
 オレ、無事に仲間を集められるかなあ。


* * * * *


『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き

●女性プロフィール(№012)

名前 フェドラ
所属世界   幻想世界
種族     人魚
職業     人魚? 人食い?
特徴     肉食魚なんだけど、美人、上半身はヒト。
       んでもって服は着ていない。
       髪が……あぁ、髪の毛が邪魔で……
戦闘方法   噛みつく?
年齢     パメラさんの見立てでは、二才魚ぐらい。
容姿     髪と瞳の色はコバルトブルー。
       歯はシャチっぽくて、尖ってる。
口癖     ―――
好きなもの  お肉
嫌いなもの  おあずけ  
勇者に一言 『おいしそう(パメラさんの訳)』
挿絵(By みてみん)
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