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ハーレム100 作者:松宮星

決戦(Ⅰ)

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幻想世界 その2 (※)

 一番最初に動いたのは、森の女神エレン様だった。
 小さな鉢植えに宿ったエレン様から、光の玉が生まれる。鈍く光る珠は、掌サイズ。次々に生まれる光に囲まれ、小さなエレン様がまぶしく輝く。
《お行きなさい、私の子供達よ。あの男に一期の夢を》
 エレン様の指す方向へと、光はふよふよと宙を漂う。
 ゆっくりと飛ぶそれは、やがて魔王『カネコ アキノリ』へと達し、毛むくじゃらの魔王の内へとゆっくりと沈んでいった。

 松明にそっくりな、カネコの双眸。
 その火力が弱まる。
 人間でいえば、目を半ば閉じたってところだ。

 おもむろに、カネコの右腕があがる。

 魔王が動いた?

 オレ達全員が攻撃しなきゃ、魔王の番が回るはずがないのに!
『先制攻撃の法』が破れたのか?

 ざわめきが起き、周囲の者が後ずさる。

 皆の注目を浴びながら、カネコは鋭い爪のある拳を握り、人間よりも大きな右腕を振りあげ……

 振り下ろした。

 自分の頭へと。

 10万ダメージ。
 魔王の残HP9990万……

 て!
 カネコが自分の頭を殴った?

《妖精たちの悪戯です》
 森の女神様が口元に手をあてて笑う。
《妖精たちは、とても陽気で遊び好きなのです。気に入った旅人を一晩中踊り狂わせたり、幻影を見せて白髪の老人になるまで夢の世界へ誘ったり、とり憑いて正気を失わせるなんて、おちゃめをよくやるのですよ》
 う。
 それって、おちゃめなんですか……?
 こ、怖い存在なんですね、妖精って……

《妖精たちに頼んで、魔王を魅了状態にしました。私達が何かしらの働きかけをするごとに、魔王は私達と間違えて自らを攻撃します》
 おお!
《一回あたりのダメージ値は、1億の1000分の1。微々たるものですが、許してくださいね》
 とんでもない!
 ありがとうございます、エレン様! 妖精さんたち!


 次に前に進み出たのは、小人のモーリンちゃんだった。
「小人さんの助け」
 とんがり帽子のピンクな小人さんはそう言うと、突然、踊り出した。

 カッカッカッ、カカカン! カツカツ! と靴底で床を踏み鳴らす音がする。
 腕は両側にだらりと垂らし、足も高く上げない。けど、ステップは激しく、爪先やヒールで立てる音が小気味よい。
 楽しそうで、勢いがある。

 モーリンちゃんが踊り終えた時に、オレは拍手をした。
 ジョゼも拍手していた。あとお貴族様とか数人も。

 カネコが自分の頭を叩く。
 10万ダメージ。
 魔王の残HP9980万。

 えっと、今の10万は『妖精たちの悪戯』だ。仲間が敵対行動をとると、カネコが自分を殴って、必ず10万ダメを出してくれるのか。

 あれ?

 モーリンちゃんの『小人さんの助け』は何だったんだ?
 攻撃?
 でも、0ダメージだったし……
……支援魔法なのか?

 汗をふきふき、モーリンちゃんが下がる。


「行くがよい、人魚よ。そなたの出番じゃ」
 アシュリン様にうながされ、人魚ちゃんがぴちぴちと床を跳ねてゆく。
 ああいう動きは、魚っぽい……

 ネコ獣人のミーをチラッと見てみた。
 ミーは興奮状態だった。ハッハッハと荒い息を吐きながら、人魚ちゃんを凝視している。口からはよだれを垂らしながら。

 人魚は、幻想世界じゃ三大珍味。その匂いは、肉食獣にはたまらない芳香、食欲をかきたて理性を失わせるレベルなのだそうだ。

 ミー同様、ピアさんもヨダレを垂らしている。雑食のピアさんは、お魚もお肉も大好きなのだ。

 魔王の間のみんなが、人魚ちゃんに注目する。
 何とも言えぬ緊張感が漂っている。

 ごくっとツバを飲み込んだのは、狼王キーラーちゃんだ。キーラーちゃんも肉食だもんなー

「カーッ。たまんねえなあ、アレを炙って酒をきゅっといきてぇもんだ」
 今の声……ケリーさんだよな。
「声が大きいですよ」と、友人のクロエさんがたしなめる。クロエさんは人馬だから、草食……? いや、でも、馬なのは下半身だけだし……

 ようやくカネコのもとへ行き着いた人魚ちゃんが、腕を使ってジャンプし、カネコの毛むくじゃらな下脚へと飛びかかり……

 そして、ガブッ! と。

 バクッ、クチャクチャ、ベシャベシャ、モグモグモグと!

 魔王のHPが徐々に減ってゆく。

 そうだった。
 幻想世界の人魚は、見かけこそ可愛いが……食人魚だ。正しくは肉食魚。海に落ちた人間も、エルフも、獣人も、馬も牛も、食べる。
 かわいらしい口の中にあるのは、サメかシャチみたいなギザギザで尖った歯なんだ。

 幸いなことに距離が開いているから、スプラッターなお食事光景はさほど生々しくない。血が飛び散ってるようにも見えないし。魔王だから、血はもう無いのか?

 人魚ちゃんがカネコから口を離し、ふーっと満足そうに息を吐く。
 食事が終わったんだ。

『妖精たちの悪戯』でカネコが自分を殴る。10万ダメ。

 更に……
 カネコの体が揺れて10万ダメが追加……

「かわいい!」
 と、叫んだのは、獣使いの人とジョゼ。ニーナやマリーちゃんも喜んでるっぽい?

 何が起きたんだ?

《小人の攻撃です》
 教えてくれたのは、水の精霊のマーイさんだ。
《『小人さんの助け』とは、先祖の霊を呼び出す召喚魔法のようです》
 マーイさんはカネコの方を向いている。
《今、魔王の周囲には召喚された小人の霊が1000体います。小人達が一斉に魔王に殴りかかり、10万ダメージを出したのです》
 なにぃ!
 オレは目をこらした。
 ちっちゃな小人さんが千人? 全部が女の子じゃないだろーけど! ヒゲもじゃのおっさんとかもいるだろうけど! それでも、わらわらと動く姿はめちゃくちゃかわいいはずだ! みんな、とんがり帽子だろうし!
《……見えないと思います、ご主人様》
 言いにくそうに、マーイさんが言葉を続ける。
《霊体ですから……ご主人様には今、精霊が憑いていませんから……神秘を見通す目をお持ちではないので……》
 がーん!
《『小人さんの助け』は、攻撃付加ダメージのようです。『妖精たちの悪戯』は仲間の順番が回るごとに、『小人さんの助け』は仲間が攻撃するごとに、それぞれ10万ダメージを魔王に与えるようです》
 仲間が攻撃する度に20万ダメージ追加ですよ、とマーイさんがオレを元気づける。良かったですね、と。
 うん、良かった……
 けど……
 見たかったなあ、千人の小人さん……

「落ち込むな!」
 サラに後頭部をこずかれた。
「勇者(アイ)は、あんたにしかないのよ。教えて。今、どれだけダメージが出たの? 魔王の残りHPは幾つ?」
 サラは魔術師の杖を左腕と体の間にはさむように抱え、携帯ペンと手帳を持っていた。

「人魚ちゃんのダメージ、数えてなかった」
「バカ!」
 ペンを持った手で、サラがオレを殴る。
「総ダメで1億ださなきゃ終わりなのよ! ダメージ値と魔王の残りHPには、常に注意を払え!」

「サラさん、勇者様を責めるのはおやめください」
 ぶ厚い備忘録を抱えた学者様が、助け舟を出してくれる。
「責めるだけ無駄です。勇者様は大らかなお方で、些事には拘られませんから。データ収集でしたら、適任者を頼るべきです」
 そう言ってセリアは、グラキエス様から人魚ちゃんが与えたダメージ値を聞きだし、備忘録に書き込んでゆく……
「そうか……ジャンが覚えられなかった数値も、精霊なら記憶の中から引き上げ(サルベージ)できるものね。質問相手は、ジャンじゃなくって精霊か」
 サラは、自分の内に宿らせた炎の精霊アナムから数値を聞きだしメモに記してゆく。
 なんか……ちょっと寂しい。
「人魚のダメージ値は……3521? え? 本当? それだけ? 思ったより……いえ、言ってもしょうがない。追加ダメは20万……」 

 ぴちぴちと跳ねながら戻って来た人魚を、ドラゴンの女王様が笑顔で迎えられる。
「ご苦労であったな、人魚よ。(わらわ)の側に居るがよい。妾の庇護下にあれば安全じゃ。手を出す無礼者は居るまいて」
 アシュリン様は、小さきものを愛する慈悲深い女王様だ。人魚に対しても、にこやかで優しそうだ。
 けど、人魚ちゃんはちょっぴり後ずさってる。
「いかがした、人魚? さ、さ、妾のもとへ参れ。守ってやるぞ」
 アシュリン様……お口からツツーと垂れているものがあります。
 ドラゴンも肉食でしたよね……


「次は、あっしらの番ですね」
 シロさん、ミー、ピアさんが進み出る。

「魔王さんに怨みはござんせんが、渡世の義理で勇者の兄さんに助太刀いたしやす。お覚悟なさってくだせえ」
 姉貴分のシロさんが、三人の中の一番手のようだ。
 すらりと刀を抜く。
 シロさんは、小さい。背はオレの膝ぐらいまでしかない。耳を合わせても、腿の途中までだ。
 そんな小さなウサさんが、ぴょんと跳びはね、駆け出す。
 魔王に向かって。

 ふわふわの白ウサギの体の輪郭が、ブレる。
 その姿がぐんぐんと大きくなってゆき、毛の部分が小さくなってゆく……

 こ、こ、こ、これは!
 もしや、人型変身(メタモルフォーゼ)
 体毛が薄くなって、耳と尻尾はそのまんまで、後は人間そっくり!
 シロさん曰く、『丸だし』姿!

 ウサ耳娘!
 んでもって、すっぽんぽん!

 オレのハートはキュンキュンキュンキュンと鳴った!
 鳴り響いた!

 バッ! と、布が宙を舞う。
 シロさんが道中合羽を脱ぎ捨てたのだ。

 あれに視界をふさがれたら終わりだ!
 くらうまいとオレは華麗に避け……
 道中合羽は、シャルルの顔面にはりついた。

 わははは!
 己が不幸を呪うがいい、シャルル!
 幻想世界じゃ見損ねたけど、今度こそオレは! シロさんの人型を見る!

 だが、突然、オレの視界は何かに覆われてしまった。
 ぴったりと張り付くそれが取れない!
 邪魔なものをはがそうと、必死に格闘した。

「おおおお!」
 周囲から歓声があがる。
挿絵(By みてみん)
 オレは、どうにか顔にくっついていたものをひきはがした。
 草で編まれた帽子……三度笠だ、シロさんが背負ってた奴。道中合羽と一緒に外したのか……

「兄さん、お役にたてず、申し訳ござんせん」
 オレの前には……

 長い耳、つぶらな赤い瞳、ヒクヒク動く鼻。見事な白毛のウサさんが、後ろ足で立っていた。
 刀を右手に持った、凶悪なほどに可愛らしい姿で。
「自分でもわかりやす。100万からほど遠いダメージでございましたでしょう? お恥ずかしい限りにござんす」

 シロさん……

 オレは床につっぷした。

 又、見損ねたよ、オレ……

「だから、落ち込むな! 魔王を見ろ!」
 サラがオレを殴る。
「魔王の残りHPは?」
 重い頭を動かし、魔王へと視線を向けた。
「9880万1753……」

「てことは……追加ダメが20万だから……シロさんの攻撃は59万4726ね」
 計算の速いサラが、ふむふむと納得する。

 シロさんに、オレは三度笠を返し、シャルルは道中合羽を返した……

 うぅぅぅ……

「ウサギのねーちゃん、化けて攻撃してるじゃん。2アクションにならないの?」
 リーズの疑問に、ドラゴンの女王様が答える、
「いいや、ならぬ。歩くこと、瞬きすること、呼吸することなどは、敵対カウントにならぬであろう? 我等にとって変身とは、さような事と変わりないのだ」


 オレの横を風が駆け抜ける。
 しなやかで、すばやく動く、美しい生き物。
 かろやかに宙を舞い、それが鋭い爪で魔王に挑みかかった。
 57万1255ダメージ。追加ダメ20万。
 ひらりと黒い床に降り立ち、戻って来る。
 濡れたような体毛の大型の豹は……
 オレとシロさんのそばを駆けぬけてゆき、パメラさんのもとへと。
「マスター、ミーの活躍、見てくれたか、にゃー?」
 獣使いにすり寄り、ゴロゴロと喉を鳴らす。
 頭を撫でられて、ミーはご満悦だ。
 いつの間に、豹になったんだ?
 ああ……視界がふさがっている間か……
『大型化したら、服、破けるにゃー ミー、すっぽんぽんだにゃー』って言ってたよな……こっちも見損ねたのか、オレ……


 ピアさんが短い前足をあげ、かわいらしい『がおー』ポーズをとる。
 ちっちゃなクマさんの体は、ぐぐぐぐ〜んと伸びてゆき……
 オレ達の倍はある、デッカい大熊となった。

 クマ獣人は、のっしのっしと二足で歩き、丸太のように太い手を振りあげ、鋭い爪を閃かせ、振り下ろした。

 おお!
 103万9077! 追加ダメ20万!

 100万超え!
 さすが森一番のクマ娘!

 ぬいぐまサイズに縮んだクマさんが、トボトボと帰って来る。
「よくやった、上出来だったぞ、ピア」
「ありがとー」
 シロさんに笑みで応えながらも、ピアさんは元気がない。
「おなかペコペコ……」
 大きくなって暴れたせいか、空腹を覚えたようだ。アシュリン様の側の人魚ちゃんを、熱い視線で見つめている……

「少し我慢なさい、クマちゃん。還ったら、花エルフ印の最高級の蜂蜜をご馳走してあげるわ」
 エルフのイーファさんが、ピアさんの頭をポンポンと叩く。
「ハチミツ!」
 途端、ピアさんが元気になる。お口から大量によだれを垂らしながらだけど。


「そこの魔王」
 エルフらしく、美形、とんがり耳、高慢なイーファさん。
 びしっと魔王を指さす。
「我がしもべ、ハニー・ビー達の口づけを授けるわ。偉大なる花エルフ一族の前にひれ伏すがいい」

 一瞬で、イーファさんの前に黒いカーテンができる。
 ブンブンうなり声が、うるさいほどに響く。
 周囲の空気を黒く染めるほどの……大量の蜜蜂が現れたのだ。

 黒い雲のような塊は、うごうごと蠢きながら魔王へと押し寄せて行った。

「蜜蜂は一度刺して死ぬ、はかない命。でも、私のハニー・ビーちゃん達は、そんじょそこらの蜜蜂とは違うわ。大自然の護り手であるエルフの護衛ですもの。我が敵を無限に刺し続けるのよ」
 オホホホと高笑いをするイーファさん。

 蜜蜂達は、うわんうわん魔王を取り囲んだ。
 が、しばらくすると、そのうちの一匹が主人のもとへ戻ってきた。
「どうしたの、ハニーハニー295万4321号? え? 魔王の皮膚が固い? これ以上やると針が折れそう……?」
 イーファさんの顔が青ざめる。
「撤退! かわいいあなた達を、異世界の魔王との戦いなんかで失えないわ! しょせん他人事だもの! 私達が無理する必要はないわ!」
 うわぁ……
 その通りなんですけど……
 あいかわらず、本音を大きい声で言うんですね……

 それでも、蜜蜂達は大健闘だ。
 83万2014ダメ。追加ダメ20万。


「いくぜ!」
 ドワーフのケリーさんが、魔王へと戦斧を閃かす。
 85万9350ダメ。追加で20万。

 つづいて……
 けたたましいエンジン音と共に、クロエさんが魔王へと突進した。
『かっとび君』は多分、最高速度設定。馬の五倍の速さだ。
「おおおお! メカと人馬が一体化しています! まるで黒い稲妻ですね!」と、喜んだのはロボットアーマーの人。

「うひぃぃぃ!」
 奇声をあげ、人馬のクロエさんがランスを前へと突き出した。

 穂先が魔王に、突き刺さる。

 98万6435。追加ダメ20万。

 派手な崩壊音。
 そして、
「どひぃぃ!」
 クロエさんの金切り声があがり、
「いやぁぁぁ!」
 声はそのまま遠ざかっていった。

「………」

 えっと……

 クロエさんの姿はどこにもない。

 魔王の腹をぶち抜き、玉座を壊し、玉座の間の壁に大穴をあけて、何処かへ行ってしまったのだ……
 魔王の生々しい傷、壊れた椅子や壁が、一瞬で治る。
 魔王にも城にも、再生能力があるのか。

「何処まで行く気なんだよ、困った奴だぜ」
 親友のケリーさんが、ガハハと笑う。
「……又、止まれないんじゃ?」
 オレの問いに、それはないとケリーさんが片手を振り、胸元から吊るしたリモコンを取り出した。
「リモコンの複製を作って、あいつも持ってるんだ。止まろうと思や、いつでもボタン一つで……」
 ケリーさんが、口を開けたまま黙る。
 オレも、言うべき言葉を見つけられない。

 ケリーさんの視線の先に……
 床の上に、ケリーさんのとそっくりのリモコンが落ちていた。

「やべえ! リモコンを落としちまったのか! 地の果てまで、かっ飛んで行っちまうぞ!」

「それはありません」
 セリアが断言する。
「魔王城の外壁は、外部からの侵入を拒む鉄壁の防御を誇ります。あらゆる物理・魔法攻撃を無効とする強度なのです。いかに順調に突進しようとも、クロエさんは外壁より先には進めません」

「それに、我等は勇者殿に召喚されし身じゃ。この世界に留まれる時間は、勇者殿のお気持ち次第。遠く離れていても、送還の力が働けば魔法陣に引き寄せられるであろう」
 ケリーさんがホッと安堵の息を漏らす。
「んじゃ、帰還の時にゃ、あいつも側に来るわけですね。そん時、あのメカの停止ボタンを連打すりゃあ暴走も止まるわけだ」
 それまでクロエさんは、かっとび続けるか、外壁の壁にはじかれまくっているかか……


 キーラーちゃんが、かわいい外見に似合わぬ低いうなり声をあげ、よく響く声で天に向かって叫んだ。
 遠吠えだ。
 ぐぐぐぐ〜んと体は大きくなってゆき、体中に蒼毛が広がり……
 キーラーちゃんは、デカい蒼狼となった。
 ひときわ大きな声で吠え、狼王は跳躍した。
 まるで体当たりをするかのように魔王にぶつかり、鋭い牙で襲いかかる。

 102万3847。追加ダメ20万。

「エポナでのことは、許せないけど」
 少女に戻ったキーラーちゃんが、オレやマリーちゃんをジロッと睨む。
「受けた恩は、ちゃんと返すわ。あたしは、狼王だもん」


 地響き……じゃねーや、床響き? ズシンズシンと音をたてながら歩き、ゾゾが魔王へと近寄る。
 その後ろ姿も美しい。岩石だから、ぷるんぷるんとお尻は揺れないが。
 ゾゾが魔王へとパンチを繰り出す。

 117万8943。追加ダメ20万。


 ゾゾが下がり、黒衣の女性が進み出る。
 オレ達から距離をとってから、その姿は一瞬で別のものに変わる。

 ひたすらデカい。
 黒い山のようだ。
 うねうねする尻尾は、まるでヒュドラの頭だ。デカい。
 黒い鱗に覆われた体も、太い後ろ脚も、圧倒的な大きさ。
 視界が阻まれ、前の方がよく見えない。
 四肢で歩くそれは、大きすぎる。
 それが、蝙蝠を思わせる背の二枚の翼をパッ! と広げた時だった。
 強烈な火焔が、魔王を包んだのは。

 ドラゴンブレスか!

 アシュリン様のお口から生まれる炎が、カネコを燃やす。

 ダメージ値がはねあがってゆく。
 100万を軽く突破して200万へ、更にダメージ値は伸びてゆく。

 しかし……

 300万を越えた途端、ピタッと止まってしまったのだ、数値の上昇が。

 アシュリン様の炎は尚も、カネコを包んでいる。
 けれども、ダメージ値は変わらず、カネコのHPも減らない。

 なんで……?

 アシュリン様の炎がやむ。

 勇者眼が、追加ダメージ20万を検知する。
 エレン様とモーリンちゃんの追加効果はちゃんと付加されたようだ。
 けれども、どうして……アシュリン様の攻撃は途中からノー・ダメージとなってしまったんだ?

 巨大な黒いドラゴンは消え、黒衣の女性が現れる。

 この世界の者も幻想世界の者も、ドラゴンの勇姿に感動し、アシュリン様を称えた。

 だが、オレらのもとへ歩み戻るドラゴンの女王様は、その美しいお顔を歪めておられた。激しい怒りを抑えるかのように。

「勇者殿」
 アシュリン様の金の瞳が、オレを見つめる。
「妾の攻撃は、半ばより通じなくなった」

 ああ……

「はい。勇者眼で見ました。ダメージは300万で止まりましたね」
「その先の攻撃は、無効とされたのだ、この世界にな」

「どういうことですか?」
「今、我等は我等の世界の我等ではない。この世界に具現する時に、力の制限を加えられたのだ」

 力を制限された?

「この世界では、ドラゴンの一撃は300万が限界なのであろう」
 アシュリン様が眉をしかめる。
「召喚されたものは、召喚主とその世界の決まりごとによって再構築されて現れる。世界基準を乱す強大なものは、弱体化されるということだ」

 えぇぇ?

「んじゃ、ものすごく強い伴侶は、弱くされるってことですか?」
「必ずしもそうとは言えぬ。が、その可能性は高い」

『女神を信用するな。退路は確保しておくように』
 裏英雄世界の風来戦士の助言が、頭に蘇る。
 この事だったのか……?
 強い伴侶を得れば勝てるとか言っときながら、勝手に弱体化するとか……ひどすぎる。

「かような世界では、実力通りの働きなどできぬ……フォーサイスも、命を懸けねばシルヴィを守りきれなかったのであろう」
 この世界で果てた息子に思いをはせているのであろう、アシュリン様はどこか悲しそうに怒っている。

「けれども、弱体化されるのは異世界の者だけ」
 アシュリン様の金の瞳が、オレを見つめる。
「そなたとこの世界のそなたの仲間は、自ら手に入れた力をそのまま振るえる。諦めるな。諦めては全てが終わる。不屈の意志をもって進め。必ずや道は開けるであろう」





「幻想世界の伴侶たちよ、感謝する」

 魔法絹布の一番端――幻想世界の魔法陣から輝きが生まれる。
 魔法陣から上向きに、渦巻く光があがる。

 まばゆい輝きの中に、みなが吸い込まれゆく。
 オレに手を振ってくれる者、パメラさんに最後まで抱きついている奴、でっかいゾゾ、そして、猛スピードで後ろ向きにひっぱられてきたクロエさん。

 皆を中に受け入れ、光が消える。

「幻想世界12人の伴侶の総合ダメージは1228万3768でした」
 セリアが静かに、現状を伝える。

 魔王の双眸が、開いている。エレン様が還ったので、『妖精たちの悪戯』は解けたようだ。
 魔王は変わらぬ姿で座っている。
 ドラゴンの炎に焼かれたくせに、黒い体毛は焦げてすらいない。外傷もない。玉座も壊れていない。

 だが、HPは減っている。

 魔王の残りHPは、8771万6232だ。
+注意+
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